IA塾に見るAD業務との共通点と合意形成のプロセス

コラム

2012.02.20

アートディレクターの檜野修一です。

先日、京都で開催したコンセント主催「IA塾 in 京都」に同行し運営を手伝ってきました。

私は雑誌のアートディレクション、いわゆるエディトリアルデザインを専門としています。業務中に「IA」という言葉が使われることはほぼありません。私にとっては、「IA塾 in 京都」のリハーサルとして社内でおこなわれたワークショップが初の「IA塾」体験でしたが、社内のリハーサル、京都でのIA塾ともに今回のワークショップは自身の業務に結びつけて素直に理解できる内容でした。

そこで今日は、今回ワークショップに参加して私なりに感じた共感や驚きについて書きたいと思います。

「IA塾 in 京都」はワークショップ型で行われ、全体で2時間半程度。IAについての座学から始まり、その後、4組各5名程度に分かれてグループワーク。そして、各組のプレゼンテーション、講評という流れでした。

グループワークのテーマは「京都旅行」。テーマについて「旅行する人物のプロフィール設定」「ペルソナを検討」「行動要素を想定」「旅行前後・当日のストーリーを想定」「旅行で使用したと考えられるデバイス・コンテンツのインターフェイスを検討」の5パートを各回に制限時間を設けておこないました。

冒頭で、今回のワークショップが自身の業務に結びつけて理解できる内容であったと述べました。多分それは、グループワークによるプロセスが、私が諸処の課題について日々思考する際のプロセスとよく似ていたためだと思います。

私が業務で書籍や雑誌のアートディレクションに取り組む際、その本に対して得られた種々の情報を元に「私の中」で読者を想定し、その読者が初めて商品を知る状況、購買のためにいかに行動を起こし、どの場所で購入を検討し購入するのか、そして文字を読み、情報を受け取り、利用し、読後には本はどのように扱われるのか(例えば、書架に保管される、ある期間を経て捨てられる。保管されるならどのような場所にどのような状況で、など。)といったことを複数パターン検討します。それらの要素を元に「私の中」でコンセプトを明確にし、判断の指針とすることで最適なデザインを提供することを心がけています。

本と読者とその行動を洗い出しパターンを見出す

今回のワークショップのプロセスは、普段のこのような思考プロセスと重複する部分が多々あると思いました。

もちろんこれはワークショップのごく一面に対しての共感です。ある側面では新鮮さや驚きがありました。特に今回のワークショップが、複数の参加者があるプロセスを経る事によって合意を形成できるのではないかという提案であった点に非常に新鮮さを感じました。

先に私の思考プロセスとワークショップでおこなわれたプロセスに重なる部分があると書きましたが、私の思考プロセスはあくまでも「私の中」で完結しており、これまで他人と共有する行為ではありませんでした。

多数の人々が関わる業務において合意形成がより正確になされる事が有益である事は明白でしょう。

私は現在のところウェブプロジェクトには携わっていないのであくまでも推測ですが、ウェブの制作現場では各専門分野が比較的明確に細分化され、またクライアントと制作者の立場が大きく異なるため共通認識が少ない環境が存在しうるのではないか、そのため前提としての合意形成が少ないがゆえに、合意形成の必要性に光が当たりやすいのではないかと思います。

例えば規模の大きい企業ウェブサイトともなると開発に関わる人員規模も非常に大きくなり、特別な努力なしには、必要とされるレベルの合意形成がなされることが非常に難しいと想像できます。また、企業側の担当者も関係部門が多岐にわたれば同じ企業内であってもあまり多くの共通認識を持っていないという前提もあるかもしれません。

それに対し、雑誌の制作現場では、比較的近い立場の人々が制作に関わるため、ある程度の「共通認識=暗黙の了解」を前提に動くことができます。そのため各人の中で思考したことを積極的に共有することが少なく、そのプロセスに目が向きにくいという状況があるのではないでしょうか。

制作の成果が本や雑誌といった具体的なモノに集約されるため、それを取り巻く環境がイメージしやすいという面もあるのかもしれません。また、制作の責任者(たとえば編集長)が得意な分野を展開することで読者の最大公約数として機能することができるので、編集長という一点に判断を集中させるプロセスを経て合意形成しているという面もあるでしょう。

雑誌においての暗黙の了解は制作の効率化を助けます。しかし一方では、理解が食い違った際にそのことに気づくことが難しい状況を生んでいる可能性もあります。

より確実な合意形成は利点は多々あれども害は無いはずです。そもそも合意形成は非常に難しく、多面的にとらえることが最善の選択であるということに異論はないと思います。

これまで暗黙の了解を元に動いていた分野は、ある意味では合意形成による恩恵を受けやすい状況にあるとも捉えられます。複数の参加者があるプロセスを経ることによってより精度の高い合意を形成する、それによって多くの発見や新たな価値を得る可能性が秘められているのではないでしょうか。