【レポート】デザイナーを目指す学生のみなさんにお伝えしたいこと〜女子美術大学様 授業〜

コラム

2013.08.02

デザイナー、アートディレクター、マネージャーの佐藤通洋です。

2013年6月26日(水)に、女子美術大学様の芸術学部アート・デザイン表現学科(メディア表現領域およびヒーリング表現領域)の3年次必須科目「プロジェクト&コラボレーション実習」の授業の一コマとして講演を行いました。

 

お伝えした内容と、そこにいたるまでの考えや背景をご紹介します。

 

■受講者の幅の広さに困惑

受講者のみなさんは、メディア表現領域の方々、そしてヒーリング表現領域の方々とのこと。一つの領域ではなく、しかもなかなか広い領域の学科でした。私も「メディア」がつく学部におりましたので、何となくメディア表現領域についてはイメージできましたが、はて? ヒーリング表現とは? と言うのが最初の疑問でした。どういった内容なのかをおうかがいしたところ、キャラクターデザイン、絵本、ぬいぐるみ、玩具、壁画などの作品制作や空間デザイン、ワークショップ、プロジェクトの体験を通して、ヒーリング(癒し)を目的としたアートとデザインの表現を追究していく領域ということでした。
内容はわかったものの、その領域の広さに、さて、どのような授業にすべきかと……。

 

■デザインの現場のリアルを、デザイナーの視点で伝えたい

始め、話す内容をどうするか、とても迷いました。
クロスメディア、クロスチャンネルでのコミュニケーションについての話や、私がこれまで手がけたキャラクターデザイン、キャラクターを軸にした企業コミュニケーション、はたまたデザインとイラストレーションの話等、何を話したら学生の皆さんのためになるだろうかと思いを巡らせました。

デザインは社会とともにあり、数年といったわずかな時の流れであっても、求められること、トレンドは変わります。
現在のコンセントで行っているデザイン、デザイン現場の実状について話すことが、今後のデザイナーに必要な「広い視野」を育てるきっかけになるだろうと思い、少し広い意味でのデザインについて話をすることにしました。

伝えたかったことをリストアップするとこうです。
・多様なデザインを実例で知ってもらう
・ライバルを知る
・求められるスキル
・チームで課題を解決する
・プロして働くスタートをどう作るか

 

■デザイナーが自分の好きな表現をすることはできるか

自分がそうだったのですが、学生のときは特に作り上げるものは概ね自己表現の延長だったりします。作るもののテーマ、時に課題といったりするものに対して、制作を重ねます。しかしながら、プロのデザイナーが行うことは、課題にそった表現を見つけることではなく、問題を発見し、解決することです。そのときの表現の選択が、グラフィックデザインだったり、キャラクターデザインだったり、インタラクションデザインだったりします。今大学で行っていることは、そういった表現の引き出し、解決のための手段を耕す訓練である、ということを認識して卒業までの時間を有意義にしてもらいたいと思いました。

そのためまず、私がデザインした仕事の多様性を見てもらいました。教育系のサービスサイト、音楽イベントサイト、アルコール飲料販促サイト、女性用化粧品のアジア向けサイト、個人アーティストサイト、ECサイト、ニュース・言論発表の7カ国語サイト、医療協会サイト郡、女性向け体調管理サイト、ファッションブランドサイト、各種コーポレートサイトなど、分野や表現に縛られない、課題解決を行うことをデザイン事例としてご紹介しました。

こういった課題解決の中で、学生の皆さんが磨いている、好きな表現が活かされる機会が訪れることは多くあります。しかしながら、課題解決という本質的な仕事をするにおいては、どういった表現が向いているかを、好き・嫌いにとらわれることなく、選択することが求められます。

 

■新しいライバル達の登場

コンセントを始め、今、デザインの現場にはこれまで少数派だったライバル達が勢力を強めています。それは、美大の中にいるとなかなかイメージしづらいことだと思いますが、「美大出身ではない」デザイナーです。

複雑化し続ける世の中の変化に合わせ、デザイナーに求められることも、本当に多様化しています。デザインという領域の拡張が日々行われ、そのフィールドの拡張と合わせて、活躍するデザイナー像も変わってきています。そこに登場しているのが、美大出身ではないデザイナーです。

彼ら・彼女らは、例えば経営、経済、社会学、統計学、心理学など、あらゆるバックボーンをもち、そこに必要な分のビジュアルデザインのスキルを身につけ、最前線で活躍しています。そういった現実を踏まえつつ、では我々美大出身のデザイナーは、何を強みとしていくことができるか?というのが、今現在のデザインの現場で起きている状況です。これはすなわち、これから就職活動をしていく女子美術大学の皆さんの(もしかすると)今はまだ見えざるライバルになってくることでしょう。

 

■必要なスキル

社会に求められるデザイナー像の変化、新しい強力なライバルの登場に対応しながら、この先に必要なスキルをどう捉え、どう身につけていくのか。学生だけではなく、もちろん現場の我々も考えなくてはいけない課題がそこにはあります。絶え間ない努力とそれを嗅ぎ分けるセンスを磨くことによって、我々個人個人がその答えを見つけていかないといけません。
そのための第一歩として、学生の皆さんには必要とされるスキルの手がかりをお伝えしました。

「発見」と「解決」両方ができるようになること。
そして、自らの持つスキルを抽象化し続け、できるかぎり全てに有用な、融通の効くスキルへと昇華させるイメージを持ち続けることです。

これまでのデザイナーが行ってきた、IllustratorやPhotoshop、Indesign等のツールを使った「デザイン」は、情報を的確に伝えるインターフェースを作るための「オペーレーション」として捉え直す必要があります。さらには、ウェブデザインやエディトリアルデザインといった、ユーザーが利用する最終状態を表す「デザイン」を、「アウトプット」として捉え直し、それらは全て「クリエイティブ」といった選択肢の一つとしていく、といった具合です。さらにそこに加えて、新しいライバル達と渡り合っていくための強みを作っていかなくてはなりません。
どれも一筋縄ではいかないことですが、遠くに見える目標に向かい、足もとの具体的な目標やイメージをもって活動をし続けることが大切です。

 

■どうして会社に入ってデザインするのか

自分自身のフリーランスとしての活動経験も踏まえ、会社やチームでのデザインが有用であることもお話しさせてもらいました。

デザインは、個人競技ではなく、団体競技として行う方が良いことがたくさんあります。
さまざまな課題に対応していくためには、広い視野、発見と解決の柔軟性が求められます。そして、複雑で大きな課題に取り組む時、やはり組織という選択肢の多さが求められることになります。

いろいろなバックボーンをもった、多彩な職能が集まったチームでのデザインは、本当に面白いものです。チームでのデザインにおいては、新しく登場しているライバル達も、とても心強い仲間です。

世の中のニーズにしなやかに応え続けるために、チームでのデザインはとても有効だと考えています。

 

■プロとして現場に入るために

授業に参加いただいた学生の皆さんは全員が大学3年生ということもあり、まだ就職活動はしておられません。そんな皆さんに、大学で磨き上げた自分をデザインの現場で活かしてもらうべく、採用時に見ているポートフォリオづくりのポイントを一つだけお伝えしました。

端的に言ってしまえば、「発見」「解決」はもちろんのこと、その「プロセス」をしっかりプレゼンテーションできているか、そういったところにデザインに取り組む姿勢やその人の考えがにじみ出てきます。
しっかりと意識して作ってくださいねとお伝えしました。

 

■講演をして感じたこと

学生の皆さんの専攻している領域に寄せるのではない、少し広い視点の話をすることについて、始めはとても心配していました。幸い、授業後のコメントでは、うれしい感想が多く寄せられ、伝わってほしかったところをしっかりと噛み締めてくれた多くの学生さんがいることを知り、ほっとしました。

デザインするという行為は、もしかするとこの先、その領域が広がりすぎて霧散していくかもしれません。そんな中で、我々がデザイナーとして価値を提供していくためには何をしていくべきかを、これからも考え、行動していこうと思います。

 

プロフィール
佐藤 通洋
株式会社コンセント アートディレクター

1981年 山形県生まれ。
東京造形大学造形学部デザイン学科メディア造形卒業。インターフェースデザインを専攻。メディアをまたいだコミュニケーションを学ぶ。大学の授業でコンセント代表取締役の長谷川敦士と出会う。秋田寛ゼミにてグラフィックデザイン、広告デザインを学びながら、在学中に広告制作会社でアルバイトを経験。DTPなどのデザインオペレーティング、撮影、スタッフィングの現場に入る。また、大学4年からウェブサイト構築、インターフェースデザイン、グラフィック・エディトリアルデザインのフリーランスワークをスタート。大学卒業後、2年間フリーランスデザイナーとして活動。

2006年、合併前の旧コンセントにデザイナーとして入社。アートディレクターとして、B to C、B to B、B to B to Cなど、ジャンルを問わず多くのウェブサイトのデザインや、アプリケーション・カーナビゲーションシステムなど様々なインターフェースデザインを担当。ユーザー、企業側の両方の視点を大切に、デザインを通して企業の問題解決を行う。

2013年からはプロダクト開発にも着手。これから先の時代で求められるウェブサイトを作るための、誰もが参加可能なウェブデザインキットを開発中。新たな領域に向けての価値提供のため、日々デザイン領域を広げている。