Euro IA 2013 イベントレポート

こんにちわ。EIAチームの坂田です。

情報アーキテクチャを主題にしたカンファレンスは世界でも数えられる程しかなく、今回参加したEuroIAも数少ないその内の1つです。本場アメリカにて毎年春に開催されているIA Summitのローカル・イベント…では決してありません。

その理由と合わせて EuroIA の特徴を簡単にご紹介します。

Euro IA 2013

理由その1:テーマが設定されていない

運営母体の存在が大きいこともありますが、IA Summit ではその年のイベントのテーマが必ず設定されています。参考までに、本年度は「Collaborating with people outside of the discipline」、来年度は「The Path Ahead」となっています。EuroIA では会期中のテーマが存在しないため、IA Summit よりもバラエティに富んだテーマのプレゼンテーションを楽しむことができます。

理由その2:国際色が最も強い

ご存知のとおり、ヨーロッパには20以上の国、10以上の言語が存在します。EuroIA の参加者も約8割がヨーロッパ勢です。故に、現地の言葉ではコミュニケーション上に難があるため、第二言語である英語によってイベントは運営されています。言語における有利/不利がアメリカほど表面化しないため議論もとても活発です。

理由その3:「本場よりも良い」宣言

EuroIA にもイベント全体を統括している方がいらっしゃいます。FatDUXというデンマークに本拠地を置くエージェンシーの代表を務める Eric Reiss 氏です。IA Summit にも時折参加されていますが、もうすっかり参加しなくなった理由、それは「こっち(EuroIA)の方が楽しいから」だそうです。

Eric Reiss

FatDUXのEric Reiss


最後は半分冗談ですが昨年度の IA Summit に参加し、かつ本年度の IA Summit に参加してきた弊社メンバーの報告会を聞いて、各種プレゼンテーションのタイトルに目を通してみると似たようなセッション(かつアカデミックな内容)が重複している印象を受けました。内容に若干の差異はあるものの、マーケットが成熟しているからなのか、新しい示唆を得るためというよりも共感を得るためにコミュニティへの帰属意識から参加している方が増してきているようにも受けて取れます。それはそれで価値のあるものですし、決して批判はしませんが、一方のヨーロッパは情報アーキテクチャにおいては日本同様にまだ発展途上にあり、参加メンバーもはじめての方が多いため、特定の範囲に固着することなく議論の幅が年々保たれていると思います。

前置きが長くなってしまいましたが、スコットランドの首都エディンバラにて開催された、正に伝統と歴史と近代が調和した本年度の EuroIA で非常に興味深かったセッションを振り返りながら幾つかキーワードを取り上げたいと思います。

開催地となったエディンバラのシンボル、エディンバラ城

開催地となったエディンバラのシンボル、エディンバラ城


Big IA?Small IA?

情報アーキテクチャ(IA)界隈で昔からよく言及されているフレーズでもあります。直訳のとおりで、情報アーキテクチャにおける取り組みのスケールの大小のことを指しています。立場によって捉え方は様々ですが、デジタル・ガバナンス(組織改革)などを専門とするLisa Welchman 氏が冒頭のキーノートで会場に投げかけた設問でもあります。社会及び会社組織のコミュニケーションの在り方が見直されているが故に、我々はこれまで通りに目の前にあるスクリーンのことだけに因われず、スクリーンの裏にある「情報」との向き合い方を考えていくべきです。そしてそれは、インフォメーションアーキテクトという看板を背負っている方だけに限ったことではなく、全員がアーキテクトとしての思考性を持つべきなのではないでしょうか?という強いメッセージがとても印象的でした。

IA と言えば画面設計やサイトストラクチャ設計を思い浮かべる方が多いと思いますが、それこそスクリーン内に収まっているSmall IA として表現されることが多々あります。何を持ってBigなのかSmallなのか、という議論はさておき(事実この基準にも様々な論争が繰り広げられています)、Information Overload(情報過多)によって必要な情報が埋もれてしまい、本来の課題を特定したり理解することが困難になっている昨今に至っては、表面化している情報そのものについて更に考察していくべきだと思います。情報アーキテクチャにはまだまだ検討しなければいけないセオリーが沢山あります。IAI(Information Architecture Institute)の代表を務める Andrea Resmini 氏も、クロージングキーノートで「Reframe IA(IA のリフレーミング)」と何度も言及していました。

ハイパーテキストとインタラクション

これはウェブページです。」というサイトがあります。このサイトには裸なテキストしか書かれていません。ハイパーテキストが本来持つ情報伝達能力を再認識してもらうためにコンテンツオーナーが取り組んだ活動で、オシャレなデザインやモバイル環境に適したレスポンシブなレイアウトや CSS/JavaScript などのスクリプトは一切使われていませんが、十分に意味は理解できると思います。それでも、技術の進歩によって読みやすさを訴えた端末が増え、ブラウザの設定環境も独自でカスタマイズできるようになってきました。

EuroIA で紹介されていた事例の1つ「デジタルリーダビリティ」が正にこの課題意識についてアプローチしています。読者が電子書籍内の情報を認知するための構造パターンの理解からスタートし、情報を処理するためのナビゲーションやジェスチャーといった情報操作のパターンを抽出することで、物理的な書籍(情報)が電子化されたことで失った、または新たに得た情報伝達のための仕組みを紹介していました。情報を整理ないしは設計する上では対象の情報がどのようにインタラクトされるべきかを情報の特性やユーザの利用文脈を踏まえて行う必要があります。

プロジェクトマネジメントにも IA を

プロジェクト内で活発にやり取りされるコミュニケーションや成果物も一種の情報として捉えると、プロジェクトメンバー間のコミュニケーションデザインも情報アーキテクチャの観点から支援することができます。Namahnというベルギー大手のエージェントではクライアントを招いて行う共創を中長期に渡って続けていくために各種情報を可視化するだけではなく、上下前後の情報の関係性が理解できるようロジックも同時に固めていくそうです。例えば、プロジェクトを開始する前にプロジェクト全体におけるメンバーのコンテキストを設計してみたり、アイディアをトップダウン/ボトムアップ形式で整理してみたりなど、対象の情報と議論している内容の深さ/浅さの同期は取りやすいかもしれません。

余談ですが、Namahn のサイトを見てもお分かりいただけるとおり、クライアントを招いて利用されるプロジェクトルームはとても美しく、社員専用の図書館も完備しています。このような職場環境は日本企業ではなかなかお目にかかれないのでいつも憧れています。

クロスチャネルにおけるメタデータ設計

EuroIA には IA Summit でもスピーカーを努めた方がいらっしゃいます。インフォメーションアーキテクトとしてそれこそスクリーンの裏にあるメタなデータ設計の重要性をずっと説いてきたAdam Ungstand 氏のセッションでは、そもそものメタデータの特性を定義すると共にチャネル間の情報交換を容易にするための共通言語の設計方法を紹介しています。

メタデータのオントロジー。回りくどい言い方をすれば情報の元となるデータの情報設計とも呼ぶべきでしょうか。格納されているデータが何を意味するかを一定の規則に従って付加し、利用されている言葉の意味や表現方法を管理するための基盤を構築し、データ間のヒエラルキーを可視化しながらそれぞれのクラス名や構造に一貫性が保たれているかなどをまとめることによってシステムが効率よく情報を収集及び解釈できるようにする構想です。結果としてデータに意味性がインストールされ、チャネルを跨いだ情報の伝達やコミュニケーションが容易になります。我々は、再度セマンティックウェブの重要性を認識すべきなのかもしれません。

コミュニケーションデザイン

最後はコミュニケーションデザインの一環として空港の(音楽)リスニングエクスペリエンスの構想設計に情報アーキテクチャの考え方を取り入れた事例の紹介です。「Web情報アーキテクチャ」で提唱され、コンセントが得意するアプローチの1つに情報アーキテクチャの3つの円(コンテキスト、コンテンツ、ユーザ)という発想があります。それをリスニングエクスペリエンスに置き換えると公共スペース、音楽、リスナーという立場になります。次に各要素が備わっている実体としての属性(データ)を定義・整理することで、前述した情報の交換とサービスに関わるヒトとのコミュニケーションデザイン上の課題の特定と解決に繋げることができることを提案した非常に貴重なセッションだと思います。この3つの円は対象によって利用文脈を変えなければならないにせよ、様々なスケールで応用が効くのでお勧めです。

いかがでしたでしょうか?

坂田はヨーロッパも EuroIA も初だったので必ずしも毎回このような議論がなされているかは定かではありませんが、本場の IA Summit のようにマスコット的な大御所プレイヤーがあまりいないせいか雰囲気がとてもフラットでネットワーキングも盛んなため、とても居心地よく感じられました。EuroIA は本場アメリカの影響は多少なりとも受けているとは思いますが、本場は参加できなかったとしても EuroIA には必ず参加したいと思います!

P.S. EuroIA が開催されたエディンバラはプライベートとしても十分に楽しめます。旅の様子はコンセントのウェブマガジン「サストコ」内の「コンセント世界行脚」で公開されていますので、そちらもぜひお楽しみください。坂田もいつか旅行で訪れたいと思います。

発表資料

コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

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