企業のグローバルWebガバナンスとEIA

IAについて学ぶ コラム

2015.03.03

※本コラムは、一般社団法人 日本BtoB広告協会発行の月刊『BtoB コミュニケーション』2015年1月号への寄稿原稿のオリジナルです。(執筆者:コンセント取締役/インフォメーションアーキテクト 山中 健一)


1.はじめに


B to B企業にとって、企業サイトは重要なコミュニケーションツールでありマーケティングツールである。特にグローバル進出をはかる企業にとって、いつでもどこでも見ることができるという特性をもつWebサイトがもつ価値は大きい。そしてその価値を最大限に活かせるWebサイトの構築・運用には、「Webガバナンス」が重要となる。
本稿では、グローバルという観点から、企業サイトの役割や価値を整理するとともに、Webガバナンスの必要性と気をつけるべき3つのポイント、実行するためのプロセスである「エンタープライズ情報アーキテクチャ(EIA)」について紹介する。

 


2.なぜ、グローバルWebガバナンスが必要か


■2-1.企業サイトの役割

まずは企業サイトの役割からみていこう。
マーケティングツールやブランディングのツールというのはもちろん、株主への情報提供や情報管理ポリシーの開示といったコーポレートコミュニケーションのためのツールであったりと、企業サイトが担っている役割は非常に大きく、企業方針や戦略と密接な関わりをもっている(図1)。なんらかの情報を得ようと期待してWebサイトを訪れる顧客や株主、社員、社員の家族などさまざまなステークホルダーに向けた情報を適切に扱い、企業の情報資産として活用するところが、企業サイトの特徴であると言える。

(図1:企業サイトに影響する要素)

 

■2-2.グローバルでの企業サイトの価値

では、グローバル視点においての企業 サイトの価値とはなんだろうか。
日本国内では有名企業であっても、海外では知られていないことも多く、前述した企業イメージや情報を伝える役割としてのWebサイトを整備しておくことは世界をマーケットとする企業にとって不可欠である。リアルな営業拠点を海外にもつことは時間やコストがかかるが、Webサイトは比較的短時間で立ち上げることができるため、企業の情報を発信し、リアルな打ち手が届いていない国や地域の人々にもアプローチできることが、グローバル視点で活動する企業にとってWebサイトの最大の価値と言える。そしてその価値は、企業サイトのもつ役割の中でも特に「ブランディング」「マーケティング」「サポート」という3要素において顕著になる。

 

[ブランディングにおける価値]

テレビのコマーシャルなどのマスメディアにも露出していない地域や国においては、聞いたことのない企業やその商品について、取引相手が情報を得る主な手段はWebサイトとなるのは想像に難くない。そういった地域においてはWebサイトが企業ブランドイメージとイコールとなり、企業にとってWebサイトは、自社ブランドを伝えるためのコミュニケーションツールとして、非常に重要な役割を果たす。

 

[マーケティングにおける価値]

Webサイトの特徴の1つである「すぐにコンタクトできる」点を活かすことで、リアルな営業拠点がない地域や国からも、意見や問い合わせをもらえる(当然、Webサイトを訪れてもらう布石が必要であるが)。
「資料がほしい」「デモンストレーションをしてほしい」といった、セールスにつながる問い合わせが得られると同時に、Webサイトから取得できるデータを解析・活用することで、その問い合わせがどの地域の人からで、何が必要とされているのか等を考察することが可能となり、商談にも活かすことができる。
また、営業拠点がある地域にとっても、Webサイトは営業の強いサポートツールとなる。Webサイトに情報が整備されていることで、企業への信頼につながり、サービスや商品の情報提供はもちろん、営業スタッフが顧客に説明したことの裏付けや伝えきれなかったことの補足など、営業フォローツールの1つとして果たせる役割は大きい。

 

[サポートにおける価値]

問い合わせが得やすいということは、マーケティング価値だけではなくカスタマーサポートにおける価値もある。営業拠点がない国や地域においても、本社などである程度の対応ができることはもちろん、問い合わせデータを集約・管理することで得られる利点は高い。逆にWebサイトが整備されておらず、問い合わせが即座にすることができない場合などは、容易に機会損失につながってしまうだろう。

 

このようにブランディング、マーケティング、サポートの3つの観点でみても、いつでもどこでも見たり問い合わせたりできるWebサイトは、グローバル展開を考える企業において時間や距離的な問題を解決でき、機会獲得にもつながる重要なツールであることは疑う余地がない。

 

■2-3. Webガバナンスの必要性

ほとんどの企業は、企業サイトの他にも、キャンペーンサイトや商品サイト、ECサイトなど複数のWebサイトを運営している。特にグローバル展開を進めている企業では、本国サイトもあればグローバルサイト、各ローカルサイトもあるといったように、大手企業では1,000以上のWebサイトを運用しているケースもあるだろう。複数サイトをもつ企業では、個別のWebサイトごとに運営担当者がいて、ユーザーに向けて日々情報を発信する。ユーザーは必要なときにWebサイトを訪れ企業の情報を受け取り、同時に企業イメージや商品イメージといったものを蓄積している。企業はWebサイトを訪れたユーザーの行動や問い合わせ等からさまざまなフィードバックを受け、運用・改善に活かしていく。こうした一連のサイクルの中で、多くのステークホルダーが関係し、Webサイトは成り立っている(図2)。

(図2:企業サイトに関係するコミュニケーション)

 

複数サイトを運営する場合には、個々のWebサイトの質だけではなく、企業が保有する全てのWebサイトを総体(Webサイト群)としてみて、一貫した企業イメージや情報を伝える必要がある。だが、個々のサイトごとにも異なった方針や役割があり、運営担当者もそれぞれに存在する状況下では、掲載する情報や伝え方を担当者や各部署の判断で行っており、企業としての一貫性が伝わってこないというケースは多くみられる(ここでの一貫性とは、見た目を完全に揃えるといったことではなく、企業総体としてのイメージが伝わっているか、という意味である)。
個別ではなく「総体」としての観点から一貫性のあるWebサイトを維持、運用していくためのルールづくりやインフラ整備、運営体制の構築などの統制をとっていく。これがWebガバナンスであり、特に複数サイトを保有し、多様なステークホルダーが関係する企業にとって重要なこととなる。

 

■2-4. Webガバナンス欠如による3つの損失

Webガバナンスを重視する背景には、その欠如による「運営コストの増加(重複投資)」「企業イメージの毀損(ブランド毀損)」「機会損失(期待値の低下)」という、主に3つの損失が起こる可能性への危惧がある(図3)。

(図3:Webガバナンス欠如によって起こる3つの損失)

 

[運営コストの増加(重複投資)]

多くの Webサイトを保有し、多数の担当者が関わっている場合、Webサイトごとにリソースが分散し、結果として同じような情報やコンテンツを制作しているケースもみられる。同じ企業であれば、基本的には同じ情報を同じように扱うべきであるところを、個別の担当者が個々の考えを反映することで、似て非なる情報が作成されることは時間やコストの無駄と言える。これは人だけではなく、機能やインフラ面においても同様だ。本来複数のWebサイトがあるということは、それだけ多くの有益なデータを保有していることになるが、たとえば個別サイトごとにしかデータの管理がなされていない場合、同じような分析をサイトごとに行っていたり、全体でデータのシェアがなされていないという状態では、せっかくのデータも活用することができず、機会損失につながる。
企業として統一した見解やルールで組織やインフラを整備する、といったWebガバナンスを行うことで、重複投資の回避や機会創出が可能になる。また、多くのWeb担当者はマーケティング担当や広報担当、宣伝担当などが兼任になっている場合も少なくなく、こうしたルールや組織などの整備により個々の判断が不要になる部分も多くなることで、本業に時間を使えるようになるというのも、効率化のメリットの1つとしてあるだろう。

 

[企業イメージの毀損(ブランド毀損)]

2つ目に挙げた「企業イメージの毀損(ブランド毀損)」の「イメージ」とは、デザインや動的振る舞いである「Look and Feel(ルック・アンド・フィール)」※1と、「掲載する情報」の2側面を指す。


※1 Look and Feel…グラフィカルユーザインタフェースにおける色、形状、レイアウト、書体のような要素を含むデザインの側面(ルック)と、ボタン、ボックス、メニューといった動的振る舞い(フィール)からなる(出典:Wikipedia)

 

Look and Feelという観点では、たとえばロゴの位置や大きさが異なっていたり、ロゴにキャッチコピーのような文章を独自に付けていたりなど、個々のWebサイトごとで独自デザインを展開することによる企業イメージの統一感の欠如がある。
一方の情報という観点においては、たとえば堅実なイメージをもつ企業であれば掲載情報からも堅実さを感じられることをユーザー側は無意識に期待するが、統制がとれていないと情報から企業イメージとは異なる印象を受け取ることもあり、場合によっては企業や商品の信頼性にも影響が出てしまうだろう。
情報をどのようなトーンアンドマナーで伝えていくのか、Webガバナンスの観点から決めていくことで統一した企業イメージを発信できる。

 

[機会損失(期待値の低下)]

関係するWebサイト同士で連携ができていなかったり、情報の伝え方の統制がとれていないと、ユーザーは求めている情報が得られず、ユーザーにとっても企業にとっても機会の損失が起こりうる。「情報を得たい」「問い合わせたい」といったように、ユーザーは何かしらの期待値をもってWebサイトを訪れるため、それが叶えられなければ期待値は下がり、他に類似サービスや商品を扱う競合があればそちらに流れてしまいかねないのである。
関係するWebサイト同士の連携がとれていない例を紹介しよう。アメリカ向けに英語のWebサイトをもつ企業があったとする。ところがアメリカには、英語が読めずスペイン語しかわからないといった人もいる。そうしたユーザーが同じ企業の南米向けのスペイン語で書かれているWebサイトにたどり着いた上で、「この商品について問い合わせしたい」と思い、「同じ企業のWebサイトだから大丈夫だろう…」と南米向けのスペイン語のサイトから問い合わせてみた、というケースがあったとする。しかしながらアメリカの英語サイトと南米のスペイン語のWebサイト間での連携がとれていなければ、この問い合わせは、おそらくうやむやにされてしまう。結果、カスタマーサポートが途切れてしまい、クレームや機会損失につながることもある。
こういった問題を回避するには、組織として関係するWebサイト間で連携をとるための体制を整備しておくことが重要になる。

 


3.グローバルWebガバナンス


実際にWebガバナンスを進めるにあたっては、筆者のこれまでのプロジェクト経験から、「グローバルサイトの在り方」「地域と言語」「運用体制・ガイドライン・CMS」の3つのポイントをおさえるべきだと考えている。

 

■3-1.グローバルサイトの在り方

[グローバルサイトとは?]

グローバルサイトとは、「全世界に向けた情報」を発信するためのWebサイトである。ゆえに、たとえば日本企業がグローバル進出にあたり英語サイトをつくらねばと、サイト設計もコンテンツも日本サイトそっくりそのままで、全て英語に翻訳しただけのWebサイトがグローバルサイトと呼べるか?というとそうではない。英語サイト=グローバルサイトではない、ということをまずは認識する必要がある。
グローバルサイトに掲載する情報は、グローバル展開におけるマーケティングやブランドコミュニケーション戦略をふまえた上で、「全世界に向けて発信すべき情報は何か」という観点で検討していくこととなる。たとえば、日本国内でしか販売していない商品情報を世界各国の人々が知りたいか、知りたいとしたら情報の粒度はどのくらいか、といったように。
以下、「グローバルサイトの役割」と「グローバルサイトと本社サイトの関係性」の2つの観点から、グローバルサイトの在り方をみていきたい。

 

[グローバルサイトの役割]

グローバルサイトには、「誘導」「訴求」「補完」の3つの役割がある(図4)。

(図4:グローバルサイトの役割)

 

「誘導」とは、各Webサイトへのゲートウェイやハブとしての役割のことである。グローバルサイトはWebサイト群のヒエラルキーでは上部に位置づけられ、適したWebサイトへと誘導する役割を担う。
2つ目は世界に向けて何を訴えたいのか、企業ブランディング、コーポレートコミュニケーションとしての「訴求」である。
最後の「補完」は、営業拠点やローカルサイトを展開していない国や地域のサポートとしての役割で、具体的には問い合わせ機能や製品情報の提供などとなる。
以上3つの役割をどのようなバランスでもたせるかにより、グローバルサイトの在り方は異なってくる。たとえば企業イメージの浸透を図りたいといった場合には「訴求」の役割を大きくもたせるグローバルサイトとして位置づけ、日本をはじめ各国サイトで訴求している商品情報等の上位概念となる情報 ——フィロソフィーや企業の歴史、R&D等 —— をメインに伝え、商品情報の要約のみ載せておき、詳細については各国サイトをみてもらうといった「誘導」の役割を必要に応じて入れておく、といった具合である。

 

[グローバルサイトと本社サイトの関係性]

グローバルサイトの役割や企業形態により、グローバルサイトと本社サイトとの関係性は、「グローバルサイト=本社サイト」であるか否かの2つに分かれる。グローバルサイトにてどのような情報を発信していくかを判断する際は、この関係性を考慮する必要がある(図5)。

(図5:グローバルサイトと本社サイトの関係性)

 

Apple社やMicrosoft社のように主にアメリカに本社があるグローバル企業などで、かつ製品情報に地域性がない場合は、本社サイトの情報をほぼそのままグローバルサイトで配信していることが多い。つまり「グローバルサイト=本社サイト」という関係性となる。
一方、各地域性をもたせたマーケティングとグローバルコミュニケーションを両立させる必要がある場合には、「グローバルサイト=本社サイト」ではない関係性となり、グローバルサイト用にコンテンツ作成やサイト設計を行い、情報発信していくことが必要になる。

 

■3-2.地域と言語
次にグローバルWebガバナンスにおける2つめのポイントである「地域と言語」についてみていく。

 

[地域]

地理学上での分け方の1つに、世界をアジア、ヨーロッパ、アフリカ、北アメリカ、南アメリカ、オセアニアの6大陸に大別する方法があるが、企業のWebサイトにおいては、世界の地域分けは企業の運用形態を如実に表すこととなり、事業戦略とサポート体制の2側面から考えるべきである。
つまり企業としてどの地域に投資したいのか、どの市場にどのような製品・サービスを提供するかという事業戦略の観点と、たとえばEMEA(Europe, the Middle East and Africa)の単位でサイトの運営を行う場合に、組織の体制として問い合わせへのサポートをしっかり行えるかというサポート観点で考えることである。ヨーロッパ支社では対応しきれないときには、アフリカや中東を地域分け上独立させ、問い合わせ対応は本社で行うといったように、サポート体制も踏まえて検討する必要がある。

また、地域分けにおける日本企業にみられる傾向として「日本、アジア、ヨーロッパ」といったように日本を地域の1つにして扱っていたり、各国のサイトへのリンクを並べる順番も、通常は50音順などの規則で並べているところを、日本を最初に配置したりというように、日本を特別扱いすることがある。日本企業だから日本を一番に訴求したいという意図はわかるが、日本以外の国の企業ではこの傾向はあまりみられないため、グローバル視点では、疑問に思う人も少なくないだろう。リンク先の日本サイトにおいて、英語を提供していない場合はなおさらである。さらに、社内に対してのガバナンスにおいては本社特別扱いのようなイメージとなり、各国に厳守させているルールでも日本だけ例外をゆるすなど、統制が崩れているケースもある。たとえば「ジャパンブランドを掲げる」といった明確で強いビジョンがあり、あえてやっているのであればよいが、ガバナンスが効かなくなる可能性があることを認識し対応方針を決めておく必要がある。

 

[言語]

どの言語をカバーするかだが、重要視すべき1つに世界で多く使用されている言語という観点がある。母国語人口、公用語国、そして言語別インターネットユーザー数で比較してみよう(図6)。公用語国と言語別インターネットユーザー数でトップの英語、母国語人口トップかつ言語別インターネットユーザー数で2位の中国語は必須であると言える。

(図6:グローバルでの必要言語。トリップアドバイザー「世界で最も交わされている挨拶は?」2013年2月13日 http://tg.tripadvisor.jp/languages/ のデータを参照し、筆者がまとめたもの)

 

英語、中国語の次の言語としては、上位にランクインしているスペイン語、ビジネス上重要視されているフランス語やドイツ語、アラビア語などが候補に考えられるが、どういった情報を誰に届けるのかということが一番重要であり、企業がどこを狙っているかという需要によって言語展開の優先度を考えるのがいいだろう。この考え方はグローバルサイトだけではなくローカルサイトでも同様である。
ただしB to Cビジネスの場合は事情が異なる。Webサイトのメインユーザーが取引先企業で使用言語を割り出しやすいB to Bビジネスと異なり、B to Cビジネスでは世界のどの地域の人がグローバルサイトに訪れるのかわからない場合もある。まずは英語をおさえるというのはB to B ビジネスを行う企業と同じだが、その次に展開していく言語はリサーチなどの手段で使用言語を割り出すか、図6のような世界の公用語国などを参考に展開していくといい。
また、カナダのように公用語が複数ある国では全ての公用語での等しい情報提供が法的に求められている国もあるため、注意されたい。

 

■3-3.運用体制・ガイドライン・CMS

問い合わせ対応や地域、言語を検討する際、グローバルWebガバナンスでは運用体制が非常に重要となる。そして運用体制づくりにおいては、人的配置以外にも、ガイドラインなどのルールをしっかりと整備しておくといったことが必要だ。

ガイドラインにはいろいろなものがあるが、大きくは制作のためのガイドラインと運用・管理のためのガイドラインに分かれる。制作のためのガイドラインは、たとえばデザインに関するルールなどで、色や書体、文字のサイズを細かく決めているものからテンプレートといったものまでさまざまなものがある。一方の運用のためのガイドラインでは、問い合わせやトラブル対応など運用上発生する事柄に対してのオペレーションや心得等を決めておく。また、コンテンツの制作から承認、公開するまでの業務フローといったものも含まれる。
その他にも、ドメイン運用やアクセシビリティ、SNSやアプリの制作・運用に関するガイドラインなどがある。またVIやCI、ブランドコミュニケーション、コンプライアンスガイドラインといったWebサイトのためだけに策定されていないものもWebガバナンスには関わってくる。

ガイドラインはただ単にルールを策定するだけではなく、それぞれのガイドラインの位置づけや、どのように関係し紐づくのかを整理・設計することで、ガイドラインをガバナンスのツールとして活用できる。また、ガイドラインを配るだけではなく、説明したり困った場合にフォローできる仕組みを構築しておくことで、理解が深まり、より活用しやすくなるだろう。
「ガイドラインはどうせ読んでもらえない」ということを聞くが、読まれないからといって基準づくりを放棄してはWebガバナンスにおいて致命的となる。判断すべき場合において、その判断基準が個人の考えではなく、企業全体で決めたルールとなっていることが大切だ。

そして早い情報発信、情報統制等の点からCMSも重要になる。グローバル展開していけばいくほど扱う情報やステークホルダーの数も多くなる。また、特に大企業ではコンテンツ公開までの承認フローが複雑といったこともある。運営担当者のITリテラシーもさまざまで、自身でHTMLを書けない場合がほとんどだと思われるが、更新ごとに制作会社に発注していては迅速な情報発信ができない。
CMSを導入することで、コンテンツ作成、承認フロー、情報一元管理といったことがシステムで管理できるようになる。最近では、翻訳のフローも含めある程度自動化して翻訳するといった仕組みも組み込め、複雑でない情報であれば、日本語で書いた情報を多数の言語に翻訳して本社から同時リリースしたいといった多言語展開にあたってのニーズに対応することも可能となっている。
選定にあたっては、Webサイト間での連携のしやすさを考えると、グローバルレベルで同じCMSを利用した方がよい。また、CMSはそれぞれ特長が異なるため、導入には各CMSの特長を検討し選定しないと、思っていた効率化も図れず無駄な投資になりかねない。「CMSで何がしたいのか?」を整理した上で、専門業者などの知見者に相談することをおすすめする。

 


4.EIAについて


最後の項では、グローバルWebガバナンスを実行するための考え方やプロセスの枠組みの1つであるEIA(Enterprise Information Architecture:エンタープライズ情報アーキテクチャ)を紹介する。

 

■4-1.EIAの考え方

EIAでは、企業がもつ全てのWebサイト総体という広い視点で、企業が扱う情報を資産として捉えより有効活用できるよう、情報設計の方針、動線設計、Webサイト構築方針を、全体(トップダウン)と個別(ボトムアップ)の両方のアプローチから検討する(図7)。

(図7:全体最適と個別最適によるEIAの構築)

 

全体(トップダウン)のアプローチでは、企業のブランディング、最低限の品質担保を念頭におき、全体のレギュレーションを考えていく。Webサイト群全体をどう扱うかという観点から、VIルールや各Webサイト間の連携、載せるべき情報の方針、共通のCMSなどの基盤技術、運用方針やフロー、体制など、全体でのルールを設計していく。
一方の個別(ボトムアップ)では、個々の製品・サービス効果や運用効率を念頭に、各Webサイトの独自性に関わるルールをつくっていく。企業ブランドを守りつつ、たとえば製品サイトとしてどのように特徴を出していくのかといったように、個別の製品やサービスのブランディング、キャンペーン企画など、細かいレベルでユーザーと向き合う接点のところを考えていく。
このように、全体(トップダウン)と個別(ボトムアップ)の双方からアプローチして最適化していくことで、ガバナンスを構築していくという考え方がEIAであり、最終的なアウトプットとしては、ガイドラインや、Webサイト群構造、Webサイトテンプレート、運営組織構築などとなる。

 

■4-2.EIAの実施で得られる効果

EIAを実施することで得られる効果には、「企業」「社内ステークホルダー」「エンドユーザー」の3つごと次のようなものがある(図8)。

(図8:EIAの実施で得られる効果)

 

企業にとっては、前述しているようにブランド毀損や重複投資の回避、ブランド価値の向上がある。Webサイトを運用している社内のステークホルダーにとっては、運用効率の向上が見込まれるため、本業への専念やそれによる機会創出につながる。そしてエンドユーザーにとっては、欲しい情報があり探しやすいといったところから情報取得効率の向上となり、それに伴って機会獲得につながり、問い合わせの回答がスムーズに返ってくる等によるストレスの軽減といったことが挙げられる。

 


5.おわりに


企業のグローバルWebガバナンスの必要性を説明してきた。特にBtoB企業にとってWebサイトはまだまだ活用できるコミュニケーションツールであり、その可能性を試すメディアであるが、企業としての情報を発信している以上、そのガバナンスは必要最低限のお作法が不可欠だ。企業として統制されたガバナンスを行った上で、情報を発信していかなくては、Webサイトを利用した新しい信頼をユーザーから得ることが難しくなってきている。マルチデバイス化して、いつでもどこからでも情報にアクセスできる時代においては、企業として、統制された情報をどのように発信していくかが、他社との差別化の重要なポイントとなるだろう。

 

【執筆者プロフィール】
山中 健一
(株式会社コンセント取締役/株式会社AZホールディングス執行役員/HCD-Net認定 人間中心設計専門家/インフォメーションアーキテクト)

1995年よりグラフィックデザイナーとして国産自動車メーカーの販売カタログなどの制作に携わり、その後、CD–ROMやキオスク端末などのユーザーインターフェイスデザイナーを経て、1999年よりWebデザイナー/アートディレクターとして活動開始。大手電機メーカー製品サイトやECサイトの立ち上げから、大手企業のコーポレートサイト、キャンペーンサイト、IRサイト、イントラサイトなどの情報設計・デザイン・構築など数多くのプロジェクトに従事。

2004年にNEC「ecotonoha(エコトノハ)」プロジェクトにて、カンヌ国際広告コンクールでのインターネット部門でのグランプリ受賞を始めとする、世界3大広告賞をプロジェクトメンバーとして受賞。2007年よりWebコンサルティングファーム サイエントジャパンにて、プロジェクトマネージャー兼インフォメーションアーキテクトとして、グローバルサイトを始めとした大規模サイトの設計・構築、ガイドライン策定などに従事。2009年より、同社にてUX部門であるエクスペリエンスネットワークのディレクター代行(部門長相当)を兼務。その後、 BtoBを専門で扱うWebコンサルティング会社の立ち上げ支援などを経て、2013年にインフォメーションアーキテクトとして株式会社コンセントに入社。2014年4月より同社取締役に就任。