【レポート】UX STRAT & UX Strategies Summit Redux

コラム

2015.08.10

執筆:佐野 実生(デザイナー)

はじめまして。デザイナーの佐野です。
7月7日(火)に開催した「UX STRAT & UX Strategies Summit Redux」の内容をご報告します。

この「UX STRAT & UX Strategies Summit Redux」は、今年6月4、5日にアムステルダムで開催されたUX STRATと、6月9〜11日にサンフランシスコで開催されたUX Strategies SummitというUX戦略に関する2つのカンファレンスの報告会です。
ほぼ同時期に開催されたUX戦略という同じテーマのカンファレンスが、それぞれどのようなものだったのか、実際に参加された方からカンファレンスの報告があり、当日会場に集まった本Reduxの参加者のみなさんとの意見交換が活発に行われました。

この日の登壇者はインフォバーンの井登友一氏、ヤフーの深澤大気氏、コンセントの長谷川の3人でした。井登氏と長谷川がUX STRATについて、ヤフーの深澤氏がUX Strategies Summitについて報告してくださいました。

 


UX STRAT


 

UX STRATは2年前に米国アトランタで初めて開催されたUX戦略の国際会議です。今回は6月4、5日にアムステルダムで開催されました。今年アトランタで予定されている第3回大会とは別のスピンオフカンファレンスで、初の欧州開催だったそうです。
もともとこの国際会議がスタートした背景には、UXに関わる人を取り巻く環境が多岐にわたり、未確定な分野でもあるため、全員で同じ文脈をディスカッションするという意図があるとのこと。

 

■井登氏からの報告

井登氏からは、UX STRATで特に印象的だったという以下の3つのトピックについてご紹介いただきました。

1. 多様性への適応と組織論としてのUX戦略
2. データ指向
3. UXとCXの意識的な区分

1. 多様性への適応と組織論としてのUX戦略
「欧州」と言えど、各国ごとの多様な文化を背景に、価値観の違うステークホルダーが多く存在している。その中でサービスを提供していく企業にとってUXは共通認識であり、UXを運営推進していくことと組織論はセットであるべきだ、というお話でした。

2. データ指向
UXには文化の多様性に左右されない共通指標が必要であり、価値観に左右されない数字としてのデータはその指針となる。この考え方から、「UXはデジタルである」という概念に基づくセッションが多く見られたといいます。

3. UXとCXの意識的な区分
井登氏は、年を経るごとにUX戦略という言葉がもつ意味が進化、そして深化していると感じていらっしゃるそうです。
2013年:「Business × Design」
2014年:「Integration & Execution」
2015年:「Make the Values」
これらのキーワードからもわかる通り、初開催時からUXはビジネスと直結しているという点は一貫しています。その中で、特に欧州では「UX」と「CX」という言葉を使い分けていると感じると、氏はおっしゃっていました。ここで言う「CX」は、ひと昔前の「ブランディング」の概念と似ているのではないか?とも。
また、デジタル化の加速が取り巻く変化も重要なポイントとの指摘もありました。
デジタルでの体験とユーザー体験は密接な関係にあり、デジタルが製品体験を変える原動力になると考えられます。そういった意味でも、「UXはデジタルである」と言えるのかもしれない、とおっしゃっていました。

 

■長谷川からの報告

今回のUX STRATは、製造業のデジタル部門からの参加が目立ったとのことでした。Web分野の人材が製造業へ異動するケースが多く、 BMW、フォルクスワーゲン、フィリップスなど、製造業のデジタルシフトに関心をもつ人の参加が多かったそうです。
また、コンサルタントの参加者も多く、年齢層は40〜50代と高めだったそうです。UX戦略において企業組織内で全体を見る視点の共有が必要とされていると考えることができるとのこと。

2年前のUX STRATでは、そもそも「UX」という概念への共通認識がまちまちだったといいます。それが最近では、基本的には企業戦略の中にUXデザインの機能が盛り込まれるべきであり、そのために人材、環境を含めどのような視点が必要か?という議論に集約されてきたとのこと。
さらに今年は、欧州各国の認識が揃ってきていると感じたそうです。しかし、欧州では各国のUXデザインの動きの規模自体は小さいため、議論が最も進んでいるのはアメリカだと思われるとのことでした。

またCXとUXについて、今回のカンファレンスでは「CX:企業が提供する全顧客体験」「UX:その内のデジタル」という定義がなされた。長谷川は、この2つを区別しようと思ったことがなかったので、この概念には驚いたとのこと。 ただ、企業から見た相手のエクスペリエンスという観点ではどちらも同じであると考えられるため、この区別の方法についてはあまり納得していないそうです。

「ユーザー」と「カスタマー」を別々の概念として捉えると、ここでいう「ユーザー」とは、その名の通り「使う人」を指す。つまり、顧客が「使う」のは「デジタル機器」(PC、 スマートフォン、タブレット、パネルなど)だ、と定義づけることができる。 例えば、店舗体験は「CX」であり、デジタル機器を使って得られる体験は「UX」であるといった具合に。 この考え方の場合、どこまでが「カスタマー」で、どこからが「ユーザー」なのか、「ユーザー」=「使う」人、をどこまでと定義するか、が1つのポイントになる、ということでした。

また企業におけるデザイナーの担うべき役割について、「より使いやすく」といった最適化ではなく、イノベーションにシフトすべきであるという動きが見られたそうです。

⇒ 参考:Lifting off from the UX plateau: Experiences with a new CX framework

 


UX Strategies Summit


■深澤氏からの報告

深澤氏からは、6月9〜11日にサンフランシスコで開催されたUX Strategies Summitのお話をしていただきました。

今年で2回目の開催を迎えたUX Strategies Summitは、 IA SummitやUXPAに比べると小規模のもの。参加者の特徴としては、ビジネス系の役職の高い参加者や、IT、メーカー、コンサルタントが多かったそうです。

UX戦略のトレンドは世界共通で、主に以下の3点に集約されるとのことです。
1. チームビルディングとチームマネジメント
2. UXの効果の示し方
3. デザインプロセスの時間短縮

1. チームビルディングとチームマネジメント
UX戦略実行において、1人の実践者である「Team of one」から、実践者の内のひとり「Team of many」の考え方にシフトしているとのこと。やはり、UX戦略を推進するためには周りを巻き込んでいく必要があり、そのためにチームビルディングやチームマネジメントが必要と認識されてきている、とおっしゃっていました。
⇒ 参考:書籍『一人から始めるユーザーエクスペリエンス デザインを成功へと導くチームビルディングと27のUXメソッド』(発行元:丸善出版)
深澤氏が翻訳に携わられた本です。コンセントの長谷川も監訳を担当しています。

2. 効果の示し方
効果を示すことはUX戦略を進める上で重要なことの1つ。ではどう示すかというところで、ビジネス要件からのユーザーニーズを満たしていくためのシート「UX strategy blueprint」が紹介されていたそう。
⇒ 参考:http://www.uie.com/articles/ux_strategy_blueprint/

また、このUX strategy blueprintは「Google heart framework」の考え方を用いているとのことでした。
https://www.gv.com/lib/how-to-choose-the-right-ux-metrics-for-your-product

3. デザインプロセスの短縮
ユーザーニーズを素早く分析するための方法を模索する必要がある。
UXをUIに落とし込む際、ゼロからつくる必要はなく、競合対象のUIデザインを上手く利用すれば時間短縮に繋がるという考え方も紹介されたそうです。

また、UXに心理学、行動経済学、認知心理学といった科学的なアプローチをより積極的に取り入れようという話があったともおっしゃっていました。

さらに、「ブランディングはUXなのか?」という議論もあったといいます。この「ブランディング」と「UX」の2つはイコールというよりも、一貫性のあるUXを提供することでブランド価値を形成できるという考えだそうです。
この例として、アメリカのintuitという企業の事例が挙げられたとのこと。全サイトを通し、インタラクションなど全ての要素を揃えるための再構成を行った結果、ブランドの認知度自体が向上したそうです。
同じように、Facebookでもデバイスに関わらず一貫した広告体験を提供できるようデザインを見直した事例があるとのことでした。
⇒ 参考:An Update on Facebook Ads

総括として、深澤氏の考えるUXとは、「ビジネスゴールを満たしながらユーザーニーズを満たすための戦略」だとお話してくださいました。

 


質問


 

カンファレンス報告の後には、さまざまな質問が飛び交いました。
その内のいくつかを登壇者の方からの回答と合わせてテーマごとにまとめてご紹介します。

■両カンファレンスにはどのような違いがあるのか?
UX Strategies Summitは、ケーススタディが豊富である一方で事例紹介に偏りがち。一方、UX STRATでは議論が積極的に行われる傾向にある。

■なぜCXとUXを分けるに至ったのか?
アメリカで開催されるカンファレンスでは、ソフトウェア関連の参加者が多く、そういった業界ではコンシューマー=ユーザーとして扱いやすい。それに対して欧州の企業は「ユーザー」という概念に慣れていないため、「カスタマー」の方がしっくりくるのではないか。

■「デジタル」の範囲はどこまで?
コミュニケーションにもプロダクトにも関わっているので、体験、IoT、全てが含まれると考えられる。例えば車の場合、電気自動車のようなデジタルマテリアルも「デジタル」に含まれるだろう。しかし、UX=デジタルと定義した場合、Web業界では逆にUXの意味合いが狭まってしまうのではないか、とも考えることができる。

■マーケティングとUX、CXの関係は?(CXのキャリアパスとして、マーケティング分野の人間が踏み込んできた領域と考えるのか、それともデザイナーが目指しはじめたものなのか、という質問)
どちらというわけではなく、さまざまな議論の中から自然に発生したのではないか、と考えられる。また、「デザインパーソン」がデザイナーだけではなくなってきていることから、UXやCXに関わる人はどんどん拡大していると考えられる(深澤氏によれば、「UX Strategies Summitの参加者はデザイナーが少なく、マーケティング分野の人間が多かった」ということで、このことからも、UXやCXに関わる人が拡大しているという考えは正しいと言えそうです)。

■サービスデザインとCX
「CXをどうしていくべきか?」という部分が「サービスデザイン」と呼ばれていた。欧州ではサービスデザインという言葉が一般化し、すでに共通認識になっていると感じられる。

 


最後に


ディスカッションが一番盛り上がったのは、「UXとCX」というテーマでした。

井登氏のお話にもありましたが、UX戦略にはユーザーの価値観が密接に関係していると私も思います。そして「デザイン」という言葉が意味する範囲の広がりとグローバル化に伴い、UX、CXといった言葉が包括すべき範囲がどんどん拡大しているのではないでしょうか。また、そこからさらに新しい概念が生まれ、ブランディングとUXの例のように既存の概念が修正され、さらに変化を続けていくのではないかと感じました。

今回のReduxで紹介された2つのカンファレンスですが、どちらも秋の開催がアナウンスされています。 6月の開催からどのような変化があるのか楽しみですね。

UX STRAT
UX Strategies Summit

 

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UX STRAT & UX Strategies Summit Redux開催のお知らせ