定性調査の活用法 〜ユーザーの本質的な価値を導き出す〜

Service Designについて学ぶ コラム

2015.11.25

※本記事はコンセントのサービスデザインチームによるブログ『Service Design Park』に、2015年8月21日に掲載された記事の転載です(転載元:http://sd-park.tumblr.com/post/127223613356/how-to-use-qualitative-research-effectively)。

こんにちは。サービスデザイナーの佐藤史です。

最近、仕事でプロジェクトプランをつくるとき、定性調査を実施するメリットについて、いろいろな人から質問をうけるので、今日は定性調査の意義とその活用法についてごく基本的なことを書いてみたいと思います。

 


「ユーザーを知る」とはどういうことか?


新しいサービスや製品を開発するとき、「生活のなかで、どんなニーズがあるのか?」「どんな製品やサービスなら受け入れられるのか?」を知るために、ユーザーインタビューをすることがあります。

かたや、「いやいや、我々はアンケートやアクセスログを使って調査しているから、ユーザーのことはよくわかっているよ」という声もよく耳にします。もちろん、アンケートやアクセスログのような定量調査は、市場ニーズを知る上で大切です。

しかし、ユーザーの情報には、以下の3種類(階層)があり、定量調査だけでは、その一部の階層しか知ることができません。

● 属性・セグメント →アンケートで入手可能
● 行為・文脈 →文脈インタビュー・行動観察が必要
● 価値観・インサイト(本音) →デプスインタビュー・仮説など

どのようなユーザー調査も、新しいサービスや製品のアイデアを生み出すためには、この3つの階層すべてについて、ユーザーのことを知る必要があります。3つの階層を、比較的単純な例を用いて説明してみます。

 

まず、「属性・セグメント」

主観に左右されない単純な事実。「私は◯◯です」の一言、もしくは「はい」か「いいえ」でも答えられるようなこと。大抵の場合は、アンケートを実施すればデータを収集できます。

 

次が、「行動・文脈」

例えば「普段、どこで何をやっているか」。これはアンケートやインタビューでも収集できますが、聞く内容によっては、本人が見栄をはったり体裁を気にして、やや脚色を加えて回答してくる場合もあります。定量調査だけではなく、街頭での行動観察など定性調査と組み合わせて調べることをお薦めします。

 

最後の一番深い階層が、「価値観・インサイト(いわゆる本音)」です。

この階層の情報は、本人にとっては、あまりにも日常的で当たり前のことである場合が多いため、突っこんで質問でもされない限り、なかなか答えてくれないものです。ですので、インタビューする時には、事実を聞くだけではなくその理由も深掘りして聞く必要があります。(※1)

また、「行動・文脈」の場合と同じく、インタビューの場では本人が、やや脚色して答えてくる場合もあるので、インタビュー後に改めて発言録を読み返し、「なぜ、この人はこうしているのだろう?」と発言の理由やそこに潜む真意について深く考察する必要があります。

※1. インタビューで事実を深掘りして相手の本音を引き出すためには、「オープンクエスチョン」という質問のテクニックがあります。

 


事実の背後にある「ユーザーにとっての価値」を考える


この「価値観・インサイト(いわゆる本音)」をつかむには、ちょっとしたコツが必要ですので、もう少し詳しく説明します。例えば、あるインタビューから、以下のような分析結果を導き出したとしましょう。

 

……これは一見、もっともらしいですが、わざわざ調査をせずとも何となくメディアで取り上げられる一般的イメージからでも予想できそうな分析結果になっていますね。こういう例を我々はよく「発見性に乏しい分析」「データが緻密に拾えていない」「考察が浅い」などと言います。

では、インタビューのとき、もう一段踏み込んで下記のような発言を引き出していたら、どんなサービス改善への示唆が得られるでしょうか?

 

「なぜ、この人はこういうふうにしているのだろう?」−−−−どんな小さな行為でも、その背景には必ずその人なりの理由や価値観は存在するものです。このように、日頃の行動や、発言したことの裏に潜む真意を探ることで、サービスや製品に関する本質的な解決策を発見することができるのです。

ところが、です。こういう疑問をもたれる方も多いのではないでしょうか?

「それって単なる推測では? 論拠はどこにあるの?」

「インタビューのような定性調査は、定量調査とは違って、少人数にしか聞けないから不安」

このような指摘は、定性調査を、定量調査と手法は違えど同じ目的と捉えてしまっていることに起因するようです。ここで定性調査の意義について、改めて整理しておきます。

 


定性調査と定量調査、上手に組み合わせること


定性調査は、定量調査のように事実を数値的に把握するための手法ではなく、事実に対する仮説モデル(例:ペルソナ、シナリオ)を構築するための手法です。「定性調査は定量調査に比べて確からしさの点で劣るのでは?」とよく聞かれますが、確からしさの優劣ではなく、定性調査と定量調査ではそもそも目的が違うのです。

※『IA100 ユーザエクスペリエンスのための情報アーキテクチャ設計』(長谷川敦士著・BNN新社発行)より引用

定性調査の分析結果から思いもよらぬ新しい仮説が導かれることで、サービスや製品開発の可能性が広がることは、とても胸躍る体験です。しかし、ビジネスとして実現させるためには、仮説が正しいのかどうかを数値的に検証することも欠かせません。上図のように、定量と定性、タイプの異なるふたつの調査をうまく組み合わせることが重要です。

最後に、定性調査の精度を上げるためのポイントをもうひとつ。仮説は仮説でも、一人もしくは少人数で考えた仮説と、大勢で考えた仮説では、その強度は大きく変わります。また、多くの人の視点で考え、なおかつ対案も用意したうえで検証すれば、プロジェクトも円滑に進みます。定性調査を行う際、多角的な視点を取り入れて分析結果の偏りを防ぐためには、ワークショップやアイデアソンのような多数の人を巻き込む手法が効果的です。ぜひ、これらも併せて試してみてください。

また、ユーザーが本当に求めていることを探りより深い理解と、プロジェクトを進めるにあたっての根拠となる情報を与えてくれるユーザー調査手法の一つに“コンテクスチュアル・インクワイアリー”があります。進め方や活用例のご紹介、またユーザーの更なる理解に向けて、質的・量的調査を相互補完または融合させる方法論である“Mixed Methods(ミクストメソッド)”について、コンセントのメンバーが解説した記事がございますので、ご興味をもたれた方はぜひご参照ください。
寄稿記事「ユーザーを本当に理解していますか? ユーザーの行動・体験から要求を探る「コンテクスチュアル・インクワイアリー」 |Web担当者Forum(2014年3月19日 公開)

 

【執筆者プロフィール】
佐藤 史|サストコ