いすみ市発 房総ライフスタイルプロジェクト Vol.1

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    小橋真哉サービスデザイナー

※本記事はコンセントのサービスデザインチームによるブログ『Service Design Park』に、2015年11月30日に掲載された記事の転載です(転載元:http://sd-park.tumblr.com/post/134257798431/bousoulifestylevol1 ※2021年8月2日に運営を終了しています)。



こんにちは。サービスデザイナーの小橋です。

コンセントでは、公共の課題をサービスデザインアプローチによる共創で解決するための「Pub. Lab.(パブリックラボ)」という取り組みを行っています。今回はそのプロジェクトのひとつである「いすみ市発 房総ライフスタイルプロジェクト」の概要と、そこで行ったワークショップの様子をご紹介します。


多様なライフスタイルが共存するいすみ市での「サービスエコシステム」観点


まず、プロジェクトの概要と背景について、簡単に説明します。

「いすみ市発 房総ライフスタイルプロジェクト」は、千葉県いすみ市武蔵野美術大学D-LOUNGEが提携して進めている産官学民協働プロジェクトで、コンセントはD-LOUNGEの協力パートナーとして、プロジェクトプランの提供およびプロジェクト進行を担当しています。また、地元のいすみ市地域おこし協力隊や、NPO法人いすみライフスタイル研究所のご協力のもと、いすみ市民の方々にもプロジェクトに参加していただいています。

今回のプロジェクトは、コンセントが普段クライアントワークとして取り組んでいるサービスデザインのアプローチを行政課題に適用する試みです。サービスデザインは、「ユーザー中心」の考え方が基本にありますが、近年、ユーザーを取り巻く環境の全体像をサービスエコシステムの観点でとらえることが重要になっています。エコシステムとは本来、生物とその環境の構成要素をひとつのシステムとしてとらえる概念ですが、ユーザーとサービスについても、このような観点で広い視点から関係性を捉えることが重要です。

マルチステークホルダーが関係する複雑な問題においては、ユーザーの直接的なタッチポイントだけではなく、ユーザーを取り巻く他のステークホルダーや組織、市場、文化、行政などの間接的な外部要因まで含めて関係性を可視化し、ホリスティックな視点でユーザー理解、問題定義を行う必要があります。

一方、いすみ市は、多様なライフスタイルが共存するまちです。2005年に、夷隅郡夷隅町と大原町・岬町の3町が合併して誕生しましたが、「地方創生」の時流に乗って、ここ数年、都会からの移住・定住の促進に力を入れています。良好な漁場を育む里海と、昔ながらの田園地帯が残る里山を中心として、多様な自然環境に恵まれているため、移住者のタイプも様々で、サーフィンに最適な海を求めてくる人、里山でのエコな暮らしを求めて来る人など、実に多様なライフスタイルが見られます。また、当然ながら地元の人々はこの地域で長年それぞれの暮らしを営んでおり、これからも増えていく移住者にどう向き合い、どう接していくべきかということも問題になります。

このように、多様なライフスタイルが共存するいすみ市のまちづくりを考えていく上では、単にユーザー中心の視点だけではなく、さまざまなライフスタイルを持った人々がどう関係し合っているのかをサービスエコシステムの観点でとらえ、まさに「木を見て森も見る」ようなスタンスで、問題を探り当てるサービスデザインのアプローチが有効ではないかと考えています。


移住・定住の促進は、いまや全国的な動きになっており、いすみ市と共通する問題を抱えている地方自治体は少なくありません。このプロジェクトの目的は、いすみ市の魅力の発掘・発信と課題発見・解決策の抽出を行なうことです。これらを達成するために、その意義や有効性の検証も視野に入れ、前述したサービスデザインでのアプローチを行っています。そうすることで、房総半島ひいては日本全国でのパブリックな課題に対するアプローチとして、示唆に富むケーススタディになるのではないかと思います。


ライフスタイル類型化ワークショップ


このような背景をふまえてスタートしたプロジェクトですが、はじめのステップとして、いすみ市住民のライフスタイルを理解するために「いすみ市ライフスタイル類型化ワークショップ」を11月11日(水)にいすみ市役所で行いました。このワークショップは、いすみ市住民のさまざまなライフスタイルを洗い出して分類した上で、それぞれのセグメントに属する住民の特徴と課題を理解し、これから行うフィールド調査に向けて「いすみ市の縮図」を把握することが目的です。ワークショップ当日は、いすみ市の地域おこし協力隊の方々に加えて、いすみライフスタイル研究所のサポート会員である地元住民の方々にもお越しいただきました。コンセントは、ワークショップのプログラム設計とファシリテーションを担当し、サービスデザインチームから小橋、星、川原田の3名が参加しました。

ワークのためのツールとして、ライフスタイルの特徴を書き出すカードを作成しました。3つのグループに分かれ、各グループで、いすみ市住民のライフスタイルをどんどん書き出しながら意見を出し合います。

各グループで出したカードをボードに貼って、全体での議論をします。


その後、分類した各セグメントの住民について、各グループで現状の課題を洗い出し、全員で共有しました。




今後に向けて


今回のワークショップをしてみて、事前に予想していた以上に多様なライフスタイルが集まり、あらためて、いすみ市の多様性を再認識しました。普段から地域に関わっている地域おこし協力隊や住民の方々が集まり、リアルな意見が集まったことも大きな収穫でした。全体の議論では熱のこもった意見が飛び交い、参加者の方々のまちづくりに対する意識の高さが伺えました。

今回、類型化した中でも参加者の関心が高かったのは、「農業・漁業を営む地元住民」「移住者に対してウェルカムな地元住民」「子育てをする家族」「アートに関わる移住者」「自給自足の暮らしをする移住者」など、いずれも、行政課題としての重要度が高く、特徴的なライフスタイルの方々でした。

今後は、これらの住民セグメントにフォーカスをあてて、インタビューやフィールド調査を行っていき、実際の住民の声に耳を傾けながら、プロブレムフレーミングのための分析を進めていきます。プロジェクトはまだ始まったばかりですが、最終的にどういう形で実を結ぶか、私自身も楽しみにしながら進めていきたいと思います。

[ 執筆者 ]

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