三方よしのデザインを目指して 千葉工業大学授業支援レポート

Service Designについて学ぶ コラム

2016.04.08

※本記事はコンセントのサービスデザインチームによるブログ『Service Design Park』に、2016年3月22日に掲載された記事の転載です(転載元:http://sd-park.tumblr.com/post/141477363506/cit-report2015)。

【記事概要】
千葉工業大学工学部/デザイン科学科3年生の「情報デザイン論および演習3」では、サービスデザインアプローチを活用し、社会に役立つデザインを授業テーマとしてとりあげている。コンセントでは、テーマ設定、および学生の中間/最終報告へのレビューにて同授業への協力を行った。

こんにちは。サービスデザイナーの小山田です。
今回は、Pub.Lab.のプロジェクトのひとつである、千葉工業大学授業支援のレポートをお届けします。

 


「三方よしのデザイン」を目指して


千葉工業大学の山崎和彦教授が担当されている「情報デザイン論および演習3」では、工学部/デザイン科学科の3年生が、サービスデザインを実践を通して学んでいます。

2015年度の授業は、「デザインは色やかたちをつくるだけではなく、社会に役立つ素敵な活動」であるという考えのもと、「習志野市民のためのデザイン」をテーマに行われました。山崎教授はデザインを通して実現すべき価値として、「三方よしのデザイン」という考え方を提唱されています。

この「三方よし」とは、かつて近江商人が自分たちの仕事について、社会的な貢献の重要性を表現した言葉です。山崎教授は、企業とユーザーというような二者間の関係性にとどまらず、社会のなかのさまざまなステークホルダーそれぞれが価値を享受できる仕組みをつくる重要性を、この言葉を引用して説明しています。

※三方よしのデザインについて、詳しくはService Design Salon Vol.8「公共のためのデザインの可能性」をご覧ください。

 


学生×三方よしのデザイン


コンセントでは、授業でとりあげるテーマの検討や、中間/最終発表での学生のプレゼンテーションへのレビューに協力しました。サービスデザインを学ぶ学生にとって、この「習志野市民のためのデザイン」は、非常に難しい課題だと思います。サービスデザインの観点からデザインを行うとき、そこにはたくさんの考えるべきことが存在します。そもそも解決すべき課題はなんなのか、サービス提供者側の提供価値はなんなのか、顧客さえも認知していない潜在的なニーズはなんなのか、そしてさらには、どのような組織をつくればそのサービスを実現できるのか……。多様な人々と関わり合いながらさまざまな側面からの検討とデザインを行う必要があります。

そして、「三方よし」という観点で、社会的な貢献も含め課題解決を考えるときには、ステークホルダーが増えることでよりいっそう考えるべきことが多くなります。しかし、だからこそ、いったん自由な発想を武器に、授業を通してさまざまなアイディアをプロトタイピングすることに重要な意味があります。コンセントでは、この授業支援をPub. Lab.のプロジェクトのひとつとして位置づけています。というのも、インタビューなどのリサーチを通して公共サービスを利用する市民側のニーズを把握しながら、制約に縛られることなく、まずはさまざまな可能性を広く考えることが、「公共の課題をサービスデザインアプローチによる“共創”で解決し、よりよい暮らしをつくる」というPub.Lab.のミッションとも合致するからです。

 


プロセスとテーマ


この授業では、「製品の構想段階から対象ユーザーとその要求を明確にして、要求に合ったものを設計し、満足度合いを評価する」というHCD(Human Centered Design:人間中心設計)のプロセスをベースに、ユーザーインタビューやペルソナ作成、エクスペリエンスマップ(カスタマージャーニーマップ)作成、ストーリーボード作成など、サービスデザインのさまざまなツールを活用しています。

情報デザイン演習3のデザインプロセス

2015年度は、同大学の所在する習志野市を対象とした「習志野市民のためのデザイン」というテーマが設定され、さらに下記3つのサブテーマとアドバイザーが設定されました。学生はそのうちひとつのテーマに取り組みます。

習志野市民×郵便局(アドバイザー:IBM
習志野市民×イオン(アドバイザー:Good Patch
習志野市民×習志野市新市庁舎(アドバイザー:コンセント × 公共R不動産

このうち、「習志野市民×習志野市新市庁舎」というテーマに対して、コンセントからは、私(小山田)と千葉工業大学のOBであるサービスデザイナーの黒坂、コンセント代表の長谷川の3名でアドバイザーを担当しました。また、公共空間/建築としての観点からレビューを行うため、Pub.Lab.のプロジェクトでお世話になっている公共R不動産の塩津友理さん、菊池マリエさん、加藤 優一さんにも中間、最終レビューへのご参加をいただきました。

 


サービスデザインができるまで その1


それでは、実際の授業の模様をレポートしていきたいと思います。まず、最初は中間報告会。この段階では、市民へのインタビューを行い、顧客の潜在ニーズを抽出し、コンセプトメイキング、シナリオ作成、ストーリーボード作成など、ひととおりアイディアをかたちにしています。学生は全員で、約50名(!)授業時間は5時間です。すべての学生の発表を順番に行うと、とてもこの時間内では終わりません。そのため、当日はそれぞれのテーマごとに3つのグループに分かれ、パネル発表形式でレビューを行いました。

発表内容は出力されテーブルの上に。

3ヶ月間の成果。(画像提供:公共R不動産)

学生さんひとり一人のプレゼンテーションを聞きながらのレビュー。

学生の皆さんの提案は、具体的なプロダクトよりのものもあれば、より広くサービスエコシステムを考えるようなものもあり、とても楽しく刺激になるものでした。ブラッシュアップのための“ツッコミ”を学生さん自身でしきれていない部分もありましたが、直接質問を投げかけながら「こんな可能性があるのでは?」とみなさんとディスカッションができたのはとてもいい経験でした。とても真剣に取り組んでいるためか、プロセスを忠実に実行しているような少し堅い印象を受けましたが、せっかくの自由な提案ができる機会ですので、思い切った提案を、見る人はもちろん、提案者自身も楽しめるといいなと思いました。私自身、この楽しむ感覚は肝に銘じてデザインをしていきたいと思っています。

アドバイザーからの総評の時間。(画像提供:公共R不動産)

熱心に講評のメモをとる学生の皆さん。

 


サービスデザインができるまで その2


そして、年が明けての2016年1月26日。最終報告会です。学生の皆さんは、中間報告会の後、プロトタイプの作成、検証、ブラッシュアップを繰り返し、最終的に2つのプレゼンテーション資料にまとめあげました。PowerPointなどのプレゼンテーションスライドと、サービスの利用シーンを紹介したムービーです。

締めくくりのプレゼンテーション。

スライドデザインにも力が入ります。

自分が学生のころと比べるとプレゼンテーションのツールが大きく進化していることに改めて驚きを感じました。PowerPoint、Keynoteでの資料作成、ムービー…… 教授にお話を聞くと、授業開始直前にムービーを仕上げた方もいるそう。すでに簡単な動画編集は、なにかをデザインする人にとっての基本的な表現ツールになっているのかもしれませんね。

プレゼンテーション自体は、資料の説明3分、動画の上映3分という非常にタイトなもので、スライドには、グラフィックやプロダクトの説明だけではなく、ペルソナやエクスペリエンスマップ、サービスブループリント、ビジネスモデルなども含まれていて、サービスデザインというアプローチが、ホリスティック(包括的)なものだということをよく象徴した内容になっています。

プレゼンテーションでは、中間報告会のアイディアがブラッシュアップされ、さらに動画で簡潔にサービス概要がまとまっているので、非常に楽しく発表を見ることができました。ただ、最終的な発表に向けて今まで実施してきサービスブループリントや、ビジネスモデルの紹介などを丁寧にしすぎてしまい、大事なポイントを伝えられず概要紹介になってしまうプレゼンテーションもあったように思います。なにをやってきたか、ではなく、「なにをするべきだと思うのか」を提案する場としてプレゼンテーションの場を捉えると、さらに伝わるものになったのではないでしょうか。

それでは、「習志野市民×習志野市新市庁舎」のアイディアから、いくつかご紹介したいと思います。

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■子どもおしごと塾
市庁舎を子どもの職業体験の場として市民に開放し、さまざまな職業体験をしてもらうアイディア。経験を積むことで、子どもたちは「出世」も経験できる。

■親子でのゴミ拾い
ゴミ拾いを親子で楽しめるアクティビティとして再定義。Go Proを活用して、親が離れたところで市庁舎を利用していても、「見守り」ができるという新しい技術を取り入れる工夫も。

■コミュニティラジオ
用事がなければなかなか行くことのない市庁舎を、コミュニティラジオのスタジオをつくることで、市民にとって役立つ情報を発信する存在へと変える提案。

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いかがでしたでしょうか。市民の目線で、市庁舎の存在意義を再考したり、従来は面倒だった行為を楽しめるものへと変換したり……新しい「三方よし」のデザインを行おうとしていることが伝わってきます。今後も、このような幅広いアイディアをプロトタイピングするお手伝いを通して、新しいデザインを生み出すお手伝いができればと考えています。

 

【執筆者プロフィール】
小山田 那由他
サービスデザイナー/アートディレクター。デザイナーとしての経歴を生かし、デザイン思考、HCD(Human Centered Design)をベースに、企業の事業開発、新商品開発の支援を行う。クライアントワークのほか、オープンな社内勉強会「Service Design Salon」と、公共に対するデザインアプローチを研究する「Public Lab.」を主宰。
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