【対談】長谷川敦士 × 宮嵜泰成「デザイン会社が社会に果たすべき役割とは」〜 CONCENT × PIVOT Night Session 2017 より〜

コラム

2016.05.25

デザイン会社は社会に対してどんな役割を果たしているのか。そもそも「デザイン」とはなにか。

コンセントとグループ会社のPIVOTは、2016年4月18日と21日の2日間、就職活動生向けのイベント「CONCENT×PIVOT Night Session 2017」を共同開催。プログラムの第一部で、コンセント代表取締役でインフォメーションアーキテクトの長谷川敦士と、PIVOT代表取締役社長の宮嵜泰成による「社会に果たすデザイン会社の役割」と題したトークセッションを行いました。

 

「デザイン思考」「Design Thinking」といった言葉をよく耳にする現代においては、「デザイン」という言葉が、いわゆる表面的な見た目だけではなく、本来の「設計」という意味として日本でも広く捉えられるようになってきています。

このトークセッションでは、デザインやデザイン業界に興味をもち仕事の選択肢として考えている学生の方々に本質的なデザインの意義を伝え、人や社会のために活かせるようになってほしいと考え、デザインの捉え方や社会に果たすべき使命についてお話ししました。

本記事ではこのトークセッションの内容をご紹介します。

(セッション中にご紹介した2名のバックグラウンドも、別記事「【対談|バックグラウンド編】長谷川敦士 × 宮嵜泰成『“デザイン”をはじめたきっかけ』〜 CONCENT×PIVOT Night Session 2017 より〜」にてご紹介しています。ぜひ合わせてご一読ください。)

 


はじめに


「デザイン」は見た目の話だけではない

長谷川:
デザインの仕事に関わっていない人に「『デザイン』ってなんだと思う?」と聞くと、ファッションデザインのことを思いつく人が一番多いと言われています。グラフィックデザインという言葉にも馴染みがあるので広告のポスターなどを思い浮かべる人もいるかもしれませんね。

「デザイン」という言葉は、一般的にはいわゆる「見た目」として認識されることが多いと思いますが、本来は見た目だけのことではありませんし、「デザイン」という言葉は今、こうした意味とは異なる捉えられ方になり、社会的な市民権を得てきています。

今回のイベントの参加者属性もいわゆる美大系と呼ばれる大学と一般大学の割合が半々であることや、僕自身、武蔵野美術大学や多摩美術大学などの美大で講義をしていますが、たとえば産業技術大学院大学などの美大以外でも「デザイン」を教える機会が増えてきていること、また、クライアントからいただく相談内容をみていても、社会の中で「デザイン」が今までとは違う意味で捉えられているという感覚がありますし、デザイン会社を経営している立場としてもそうなっていくと思っています。

 

宮嵜:
今、長谷川さんが言った「そうなっていくと思っている」というところは結構大事なことなんです。特に日本では、ビジネスにおいてはまだまだ「デザイン」という言葉が見た目の話に終始してしまっているのが実際のところだと感じています。

みなさんにはぜひ、ふだん生活する中で「もう少しどうにかならないかな」ということを考えるようにしてほしいです。たとえば電車に乗るときにSuicaのチャージをしたり、銀行のATMでお金を出し入れしたりするときに「なにか迷うことはないか」とか、新しい設備があって自動化されるはずなのになぜか近くには案内係の人がたくさんいて説明をしてくれるといったシーンをみたら「不思議だな」と思える感覚を日常的に身につけてほしい。

さらにそうした問題があったときに、解決手段として文字サイズなど画面の見た目をよくしたらいいと安易に思ったり、そうしたことをやるのがデザイナーだと一般的には思われがちなのですが、それだけではないことを理解してほしいと思います。「利用する人が、そもそもなんの目的でそこにいて、一番やりたいことはなにか」を根源的にひも解いていき、そこからいろんなしくみを考えた結果として目にしたり触れたりできるアウトプットが出てくるわけで、その思考や行為全体が「デザイン」なんです。みなさんがふだん目にしているものは単に「かっこいいもの」としてデザインされたわけではなく、たくさんの「デザインの思想」が含まれて設計されたものなんです。

僕らがやっている「デザイン」は、特に「設計が大事」ということがポイントなんですね。

 

長谷川:
「デザイン」という言葉の意味が拡大化している中で、宮嵜さんが言ったように日常での困りごとがあったとき、本質的なことをみてどうすればそれを解決できるのかを考える。そうするといろんな解決方法がみえてきます。

すごくおもしろいケーススタディーに空港のサイン計画があります。人の流れを考えて、手前には急いでいる人向けの情報を、奥にはそんなに急いでいない人向けの情報を表示するようにしたら、急いでいる人は必要な情報を素早く取得して反応できるし、急いでいない人は手前にある情報は自分が必要とする情報ではないことがきちんとわかる。つまり「『時間軸』をコントロールしてサインの設置場所を変える」というデザインをしているんですよね。

今日は会社説明のイベントではありますが、「デザイン」という言葉をきちんとわかってもらえればそれでいいと思っています。コンセントやPIVOTに応募してもらうというのは正直問題ではなく、むしろ「デザイン」をしっかり理解した上で、いろんな業種や企業をみて志望先を決めた方がいいからです。

 


「デザイン」とは


「ライザップ型」になった「デザイン」

長谷川:
前述の「本質を突き詰めるアプローチ」は「デザイン思考」(英語では「Design Thinking」)と言われているのですが、今、この言葉は『Harvard Business Review』(ダイヤモンド社)というマーケティングや経営などの理論を語る有名なグローバル・マネジメント誌をはじめとしたビジネス誌でも頻繁に取り上げられていて、ちょっとした流行になっています。正確に言えば流行はひととおり終わり、「デザイン思考はこれからどうなるのか」といった普及の段階に入っています。

専門分野だけではなくビジネス一般で語られるようになったということは、「デザイン」の一定の重要性が世界的に認められてきていることを意味していますが、このように世の中の認識が大きく塗り替えられたのは2000年代でまだ最近のことなんです。

プライベートトレーニングジムの「ライザップ(RIZAP)」をご存知でしょうか?
コンセプトは「結果にコミットする」。「commit(コミット)」を直接和訳するのはなかなか難しいのですが、要は「結果を出します」ということを言っているんですね。

トレーニングマシンやプールなどの設備を充実させているのが従来型のジムとすると、「ライザップという概念を使うことによって、痩せることができたり筋肉をつけることができる状況になる、ということをやる」のがライザップ。従来型のジムも目的は同じですが、目的を達成するための手段が異なっているんです。「設備というモノを提供する」という従来型のジムに対して、「ゴールが達成できるか」ということに深く関与するのがライザップの特徴です。

実は「デザイン」の捉えられ方も昔は従来型のジムのようなものでした。つまり、「グラフィックデザイン」「インダストリアルデザイン」「ファッションデザイン」といった言葉に代表され、「絵を描く」「モノのカタチをつくる」といったこと、たとえるならば従来型のジムが設備を用意しているという「手段」のことがデザインだと言われていたんです。

それが今、どのように認識が変わってきたかというと、ここ数年さまざまなシーンで聞くようになった「エクスペリエンスデザイン」「体験デザイン」「ユーザーエクスペリエンスデザイン(以下、UXD)」といった言葉に表れているように「あなたが得られる『体験』をつくります、というのが『デザイン』である」と広く捉えられるようになりました。コンセントが実際にやっているのもUXDです。

比喩的に言えば「デザインはライザップ型になった」。「ユーザーの体験という『結果』」に対していかに関与できるかというように、「デザイン」というものの考え方が変わってきているのが時代の大きな流れです。

「どうデザインすべきか」が日々変化する

長谷川:
これまでは「トレーニングジムをつくりましょう」といったら場所やマシンなどの設備のことを考えればよかったように、たとえばグラフィックデザインをやるのであれば、まずは平面構成のことや「みえるということはなにか」といったことを学ぶなど分野としてわかりやすかったのですが、「UXDをやります」という場合、ものすごく壮大な話になってきます。ライザップで言えば、その人が今太っている原因はなにかを探求し、設備だけではなく食事制限なども含めて痩せるという目的を果たすための過程づくりをやらなければいけないというように、全方位的に関わることになるからです。

ただ学生時代には、最初からこうしたことに取り組むよりも、まずは自分の得意分野をつくっていくようにした方がいいでしょう。すべてのことについて万能なユーザーエクスペリエンスデザイナーというのはまだいないんですね。果たしてなにをデザインしたらいいのか、お題がどんどん変わってくるので。

たとえばスマートフォンも、10年ほど前はモバイル端末にすべての情報が入るなんて、産業としてはまだ誰も考えていなかったわけです。あくまでメールのためのサブ端末という位置づけだったと思います。ところが今では、WebプロジェクトをみてもPCサイトよりもスマートフォンサイトをメインとして考えるのが当たり前というように、ビジネスにおいて重要なものになりました。

でもさらに5年後はどうなるのか? スマートフォンといった端末が果たして適切なのか?

たとえば今、マイクロソフトの「HoloLens」では「拡張現実(AR:オーグメンテッドリアリティ)」という技術で環境にバーチャルなものを融合できるようになったりとテクノロジーが日々発達しているため、「ユーザー体験をどうデザインしていくべきか」ということ自体もどんどん変化していきます。UXDを提供するための方法論をもっている我々のような会社であっても日々学ばなければいけないんです。

 


デザイン思考とは


非デザイナーがデザイナーのように物事を考えるための方法論

長谷川:
本質を突き詰めるアプローチである「デザイン思考」という言葉ですが、特にデザイン業界に興味のあるみなさんにはよく理解してほしいので本来の意味を説明しておきますね。

「デザイン思考」というのは、「非デザイナーがデザイナーのように物事を考えるための方法論」です。つまり、デザイン教育を受けていない人、デザイン業界ではないビジネスパーソンといった人たちが、デザイナーのやっている取り組みをうまく活用して、新しい事業の成功などを目指すためのものです。
ですので、デザイン会社であるコンセントやPIVOTのメンバーにとっては、自分たちの考え方が「デザイン思考」というわけです。

やみくもにブレインストーミングしたりアイディア100連発出しをするのではなく、デザイナーが性(さが)としてやっている「本質を突き詰めるアプローチ」という正しい方法論をとる。ただ、こう言っては紛らわしいかもしれませんが、これをやれば絶対うまくいくというものではありません。これは方法論というものが常にもっている宿命のようなものですが。やってもつまらないアイディアしか出ない人もいれば、放っておいてもおもしろいアイディアを出せる人もいます。でも、こうしたプロセスを丁寧に追っていくことによって、いい企画を出せたり本質に近づくことができたりするのも事実です。かなり熟練した人であってもやっています。

デザインの普遍的なアプローチ〜「具体→分析→抽象→統合→具体」〜

長谷川:
「本質を突き詰める」といったときに、そもそもどこまで戻ってどう考えていくのかを理解してもらうために、1つ概念を紹介したいと思います。ちなみにこれは、僕が大学院のドクター(博士課程)を出る20代後半までずっとサイエンスの分野にいたところを急にデザインをやることにしたので(関連記事「【対談|バックグラウンド編】長谷川敦士 × 宮嵜泰成『“デザイン”をはじめたきっかけ』〜 CONCENT×PIVOT Night Session 2017 より〜」を参照)、美大を卒業してデザインでしのぎを削っている人がいっぱいいるところに喧嘩を売りに行くという状況にもかかわらず何も知らないのはまずいと思い、デザインについていろいろ勉強してたどり着いたものです。

その概念とは、問題解決のための人の活動には「具体→分析→抽象→統合→具体」というように物事の思考を進めていくという、普遍性の高いプロセスがあるということです(上図)。

この図の中の言葉を説明すると、「分析」というのは物事をより細かくみていく、分解をする、理解をするといった理解側のアプローチで、「統合」はそれらを組み合わせて問題を解決しようとか、アウトプットしようといった方向性です。英語で言うと「Synthesis and analysis」という言葉でよく対で使われるものです。
「抽象」(abstract)とは概念的であるとか何かをモデル化したりすることで、それに対して「具体」があります。こちらも「もっと具体的に喋るように」とか「抽象概念がどう」といったような対比があり対で使われる言葉です。

ユーザー体験だけではなくたとえば組織の問題や自分の将来などどんな問題であっても解決しようというときには、まず具体的なものをみてそこにある事実を把握します。たとえば「今この場にいる人たちの特徴をまとめて何か解決案を示せ」といった場合、まず男子は何人、女子は何人と数えて年齢のばらつきを調べ、具体的にこの場にいる人全体の属性を分析的に理解するというように。

そうして進めると「男子が15人、女子が18人」とわかるわけですが1人1人について最適化していってもきりがなく事実自体をみていても解決には至らないので、それらを抽象化します。事実を整理して、情報量を減らしたりどういう要素があるのかと分解したり、モデル化するということを行うわけです。「ざっくりみると、女子はこんな感じで男子はこう」といったように。あるいは男女ではなく「活発な人はこれぐらいで受け身な人はこれぐらい」と分けるのもいいかもしれません。抽象化する際の軸はいろいろあります。

こうして単純化したところから「こんなことが問題なんだ」という理解をして、ヒントを得て、どう解決するのか概念的な解決の方向を考え、それらを組み合わせて統合し、具体的なカタチとして現実化させていきます。たとえばみなさんにリーフレットを配ってコミュニケーションをとろうとか、アプリで何かをしようといった具合に。そうしてつくった試作を問題に適応して具体的に検証し、効果がなければまたこのサイクルを回していきます。

このアプローチは意識してやっている人もいれば無自覚にやっている人もいるのですが、なにか問題に直面したときにそれを解決するためこのような思考で振る舞っていくということが普遍的なアプローチとしてあり、このアプローチが社会的な問題全般の解決に役立つと考えています。

 


社会におけるデザイン会社の役割


なぜデザイナーのアプローチが社会の役に立つのか?

長谷川:
「デザイナー」と呼ばれている人たちは問題解決にこうしたアプローチをとっています。
そしてデザインは最終的には人が触れるものに落とし込まれる場合が多いので、このアプローチをするときに必ず「人」をみるんですね。「誰の問題を解決しようとしているのか」「どういうふうに困っているのか」といった視点で人を観察して理解をする。そこから課題をみつけていくんです。

触れられるもの以外でも、たとえばテクノロジー分野における人が介在しない技術的な問題の解決にこういうプロセスをとることもあります。また、問題解決型のデザインだけではなく、「スペキュラティブ・デザイン」と呼ばれるビジョン提案型のデザインでも同じです。「スペキュラティブ」というのは「投機型」という意味で、デザインのアプローチを使って企業のより先のビジョンをつくったり、新しい方向性を提示することにより世界を変えていこうというものです。

ではなぜデザイナーは人をみることを重視しているのでしょうか。それはニーズの変化にあります。

技術や豊かさが不足していて世界的に成長期だった時代には、たとえば自動車ならきちんとつくられるといった「生産能力」や、いかに速く走るかといった「性能」などが重視されていたので、人が介在しないいわゆる工学的なアプローチでも有効だったし、あるいは狭い意味でのマーケティングと呼ばれている「誰に売るか」をファインチューニングしていけばビジネスが成立していました。もちろん局所的にはデザイン思考のようなアプローチはとられていましたが。

ところがモノが足りてきた現代では、車で言えばこれ以上の速さは求められないというように、モノ自体への大きな渇望がなくなってきて、ただモノをつくるだけでは商売として成り立たなくなってきました。別の言い方をすれば、世界が豊かになったから「人の体験」を考えることにやっと向き合えるようになってきたんですね。

じゃあどんな体験がいいのかというと、人により千差万別で多様化しています。だからデザイナーは「人」をいちいちみて考えるわけです。「考える」というのも人をみるのと同様に重要です。具体的にみたことを組み合わせてカタチにするだけなら「デザイン」とは言えないでしょう。

車に関連した「体験」を考えるいいケーススタディーに、カーシェアのサービスがあります。今すごく流行っていますね。車をただつくって販売するのではなくて、「どんなふうに人が車を利用しやすくすれば、所有はしなくてもうまく利用だけできるようになるか」ということが設計されています。また「Uber」というタクシーの配車サービスでは、サービス提供社側だけではなく、誰でも運転手になることができます。アプリの中で「ここからここまで乗りたい」と言っている人に対し「自分が運転手をやります」と言うと「では運転手をお願いします」となり、運転手を務めた人にお金が入るという新しいシステムです。

このように、「人がいかにうまく使えるようになっているか」という社会の中での「システム」をデザインしたり、「人の利用体験」をデザインするということがすごく重要になってきています。そしてこうした新しい事業やサービスの開発にあたり、デザイナーがやってきた問題解決のアプローチで考えていくことは、社会の役に立つことになるんです。

デザイン会社の存在意義

宮嵜:
今の「社会の中でのシステム」という話に関連して、僕がITに興味をもってから今日までの間に何が変わってきたかというところをお話ししたいと思います。

従来の巨大IT企業は昭和の社会システムを支えるIT化をしてきました。たとえば市役所に行って住民票を請求すると、住民票が紙として出力されて手渡されますよね。プリンターから出力されるので、これも「IT化されている」わけです。ただ、先ほどの図でいくと「具体」を「分析」しても「具体」のままなんです。つまり、コンピューターなどのIT機器に置き換えればそれだけで物事の効率化ができていたんです。

でも今は、社会のシステム自体が大きく変わってきているので、あらためてこの「デザイン思考」といったプロセスに真剣に取り組むことで、きちんとカタチにできるチャンスにすごく恵まれていると言えるんです。

さっきの「Uber」のような新しい社会システムを生み出せる環境になってきたときに、「デザイン」で解決するということにPIVOTも取り組むことができているのですが、これは、大手のIT企業がいる中で僕らのような会社でやる1番のおもしろさでもあります。

 

長谷川:
コンセントでは、企業のコミュニケーションデザインやブランディング、新規事業開発といった際に、こういうアプローチを適用しながらやっているわけですが、デザイン会社のメリットとしてはいろんな業種の仕事を扱えることがあります。ものすごいスピードで変化していく現代の社会では先を読むことは簡単ではありませんが、いろいろ試しながらやっていけるのは僕らにとっても経験が積めることになります。

そして今、世の中全体が「デザイン思考」の重要性に気づいていることが、僕らが「デザイン」の可能性を見出している1つの要因になっています。そしてそれはコンセントやPIVOTのようなデザイン会社が存在する意義につながると思っています。「デザイン」が重視されていることは、多くの一般企業(※デザイン会社ではないという意味での「一般」)の事業開発部門などにデザインを学んだ人が就職して活躍していることからも言えるでしょう。この場合はデザイナーを組織の中に入れることでデザイン思考を取り入れていることになりますが、「デザイナーがもっている考え方を事業開発に活かしている」わけです。

多くの企業は解決すべき課題をたくさん抱えていますし、また個人の日常生活でも解決したら嬉しいことは多い。「デザイン」のアプローチを使い課題を解決していくのが僕らデザイン会社の仕事です。コンセントやPIVOTのようなポジションの会社が世の中から求められているし、デザインで解決できる可能性がわれわれにはあるので、社会に対する役割として果たさなければいけない、と強く感じています。

 


ユーザー体験のデザインに必要なこと


自分のための「アート」「サイエンス」、人のための「デザイン」「エンジニアリング」

長谷川:
コンセントやPVOTについて理解いただくためにもう1つ概念をご紹介します。また4象限しばりで申し訳ないのですが。

「アート」「サイエンス」「デザイン」「エンジニアリング」という4つに分け、「誰のためか」という縦軸に「自分のため」と「人のため」を、横軸に「自然」「人の内面」のいずれをよりみているかというのをとることができます(上図)。なお、ここでの「アート」は絵や文学、音楽なども含めた芸術全般を指しています。

「デザイン」と「アート」は美術大学の中にデザイン学科があることもあってよく混同されがちなのですが、このように概念的に整理することで一般化して考えることもできるんですね。

僕はずっと「サイエンス」の分野を研究していたので(関連記事「【対談|バックグラウンド編】長谷川敦士 × 宮嵜泰成『“デザイン”をはじめたきっかけ』〜 CONCENT×PIVOT Night Session 2017 より〜」を参照)100%言い切れるのですが、「サイエンス」では人のためにということは全く考えていないんです。自然科学への興味をもとに「それが何なんだろう?」という探究を行うのが「サイエンス」の本質なので、むしろ、他人に役立てようとかは考えない方がいい。結果的に人の役に立つかもしれないですが。

理系の人はよくロジカルシンキングだと言われますが、やっていること自体は本当に思いつきなんですよね。ただ、思いつきだけだと他の人に共有できないから、思いついたこととそれ以外がつながるように階段をつくっている。ロジカルにシンキングしているわけではなくて、「今までにわかったのはこの辺りで、こういうことがわかって、これはここからこうつながります」と書いたロジックで説明をしているだけなんです。

僕がやっていたスーパーカミオカンデにしても他のバイオケミカルなものにしても「サイエンス」は全て基本的には「自分のため」にやっています。これは「アート」も同じで、興味の向き先が自然一般であれば「サイエンス」、人間の内面寄りであれば「アート」になる。もちろんアートビジネスとして結果的に商売にはなるのですが、どちらかと言うと「これを表現したい」という自分の中の創造欲求や衝動でつくられていくものが「アート」ですから。

「アート」と「サイエンス」は基本的には人間の知的な探求で、たいていの大学の「教養学部」の英語表記が「School of Arts & Sciences」とされているのもそのためです。

そして「人のため」に「アート」を応用するのが「デザイン」で、「サイエンス」を応用するのが「エンジニアリング」です。

領域横断で考えることが重要

長谷川:
ここでの「デザイン」で表現されるものは先ほどお話ししたユーザー体験というよりは、グラフィックやテキスタイル、ファッションなどに近いのですがこれらは全て、人の反応を呼び起こしたり人の感情に対して働くというような「人間についてのアートで得られた知見や表現、直感を応用して人のために役立てているもの」です。

一方、ニュートリノや水の流れ方など「自然についてサイエンスで得られた知見を応用して、社会の問題を解決したり人の役に立たせようとするもの」が、土木や機械工学、情報工学などの「エンジニアリング」になります。

この4象限でのデザインがこれまでのデザインになるのですが、コンセントやPIVOTが取り組んでいる「ユーザー体験をつくっていくデザイン」は、このすべての分野が統合されて生み出されます。

「ユーザー体験のデザイン」では、たとえば人が大勢いることによってなにか変わるかとか、ソーシャルネットなどのコミュニケーションによって人間の距離感のおき方がどう変化するかといった、人間の気持ちも考えていくことになります。この「行動経済学」と呼ばれている「人間の意思決定というものは全然合理的ではなく、感情に左右されるというものである」ということを無視できないわけですが、実はこれらは人間についての知見を得てきた「アート」の領域でもまだそんなにわかっている話ではないんです。

先ほどの「結果にコミットする」というライザップ型で考えるときには、「アート」的な要素や「サイエンス」で発見された論証可能な知見など、すべての領域をミックスして考える必要があります。どこか1つの領域だけをやればいいのではないんですね。たとえば美大でデザインをやっていた人でもその知識だけで乗り切ろうとするのではなく、他の領域の知識と組み合わせて考えて問題を解決するということが要求されるようになっています。個人的にはこうした状況はすごくおもしろくて僕自身もやっていますし、実際コンセントで「デザイナー」を名乗っている人の中には美大卒ではない人がたくさんいます。

特に「エンジニアリング」と「デザイン」という2分野はものすごく融合しなければいけなくなっています。それがコンセントとPIVOTが同じ企業グループとして一緒にやっている理由でもありますが。

「デザイン」と「エンジニアリング」の融合

宮嵜:
そうですね。「デザインとエンジニアリングをいかにつないでいくか」ということはPIVOTの大きいテーマでもあります。

一般の消費者からしたら、デザイナーがデザインしたものがきちんとカタチになってでき上がるわけですから、デザイナーとエンジニアが手を携えてやるのは当然の話ですが、実際にはその間に壁がうまれることもあります。よりエモーショナルに人の心に訴える話と生産技術や効率化の話を一緒に考える必要がありますので。これは利益相反したりすることもありますし、デザインとエンジニアを担当している会社が異なる場合もあります。

だからこそデザイナーとエンジニアがいかに手を組むかというのは重要なテーマなんですよね。そこがおもしろいところでもありますが。

 


就活生へのメッセージ


「デザイン」のアプローチを、世の中にもっと普及していこう

長谷川:
今日のデザインプロセスの話を聞いて「そんなことわかってるよ」と思った人もいるかもしれません。ただ、「分析した内容から統合する」「具体的に観察したことを抽象化する」「統合して見出されたことを具体化してカタチにする」ときなど、プロセスとは言ったものの実際に回すにはいろんなレベルでのジャンプが必要になり、個人の力量が問われます。目の前の困ったことや、大学での卒業研究やレポート、課題などに取り組むときにも適用可能なフレームワークですので、ぜひふだんから意識をしていただけたらと思います。

今、デザインやデザイン思考は世界的に重視されていて、今後ますます必要とされていくものだと本心から信じています。今日お話ししたようなデザインの考え方やアプローチを、もっと社会一般に普及させていかなければいけない。そのときに、国内だけではなくグローバルな動向を常にキャッチしておく必要がありますが、中国、東南アジア、南米、ヨーロッパなどではビジネスシーンにおいて自国語ではなくほぼ100%英語を使っているため同時にその情報を得らるのに対し、日本だけが言葉の障壁で遅れがちなため、デザインを扱っているわれわれがそういう話を世の中にもっと発信していかねばという使命感をもっています。採用という文脈で言えば、そういうことを考え一緒にチャレンジしていく人を求めています。

ただ、お互いよく知らないのに「ぜひうちにきて」と言うのは不誠実ですし、コンセントやPIVOTに入るか入らないかは別として、今日お話ししたような問題意識はこれからの世の中にすごく必要だと思っているのでぜひ議論したいですね。

本質を突き詰めて、世の中をよくしていこう

宮嵜:
絵を描く勉強を専門的にされている方もいらっしゃれば理系の方もいらっしゃったりと、いろんな分野を学んでいる方が今日来てくださっています。

僕らPIVOTにも、デザインの専門的な知識をもった人もいれば、新しい技術を取り込んでプログラムをつくっている人もいます。今日の話のようなことを考えて、デザインとエンジニアリングの両者のスキルをすごく高い次元で活用して世の中にアウトプットを出していきたいと思っているので、いろんな方にきてもらえるといいなとこのようなイベントを開催したわけです。

「はじめからきちんと考えたいんです」という出発点の仕事がだいぶ増えてきているとはいえ、まだまだそういう仕事ばかりではないのが現状です。
でもPIVOTでは、たとえばクライアントからの依頼が「この画面をよくしてほしい」という端的な内容だったとしても、いきなり画面だけをみて使い勝手がどうこうと判断していくのではなく、「そもそもこのWebサイトやアプリを使う人は誰で、どういう経路を通ってたどりつくのか」というところから考え、本質にある問題を探り解決方法を提案しています。

言われたことだけをこなすという姿勢ではなく、ときには「めんどうくさい人たちだ」と思われるぐらい(笑)いちいちこうしたアプローチをとっているのは、「本質的な問題をみつけて真剣に考え、エンドユーザーやクライアントにとっていい方向にもっていき、世の中をよくしたい」という信念があるからこそです。

 

対談日:2016年4月18日、21日
※本記事は2日間の対談内容をもとに構成したものです。

(原稿執筆:岩楯ユカ/コンセント PR division)

 

【関連リンク】
ラボ|【対談|バックグラウンド編】長谷川敦士 × 宮嵜泰成「『デザイン』をはじめたきっかけ」〜 CONCENT×PIVOT Night Session 2017 より〜
イベント情報|就職活動生向けイベント「CONCENT×PIVOT Night Session 2017」開催のお知らせ