サービス改善に効果的なUXリサーチの方法とプロセス

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    田村祥子リサーチャー/サービスデザイナー

画像:トップのイメージ。UXリサーチ、サービス改善プロジェクトをテーマにしたイラスト。10人ほどのプロジェクトメンバーがデータを解析し議論を重ねている。背景にはピンクや紫のグラデーションが使われている。

こんにちは、リサーチャー/サービスデザイナーの田村です。わたしは日頃、事業開発プロジェクトでUXリサーチを担当しています。

事業開発は課題の連続です。「なぜユーザー数が増えないのか」「なぜこの機能は使われないのか」と日々課題が発見される中で、サービスを「改善」しているつもりが、実はユーザーのためになっていないということがあるかもしれません。

課題に対するアプローチを考えるのはプロジェクトメンバーだけでもできますが、ユーザー理解がない状態で検討を進めても、仮説だらけの選択肢から正解を選ぶ射幸性の高い作業になってしまいます。「複雑だから」という意見をもとにアプリのホーム画面をシンプルにしたら、ユーザーがよく使う機能に辿り着くまでのステップ数が増えてしまって離脱数が増加してしまうなど、時にはユーザーが望む形とは正反対の改善をしてしまうこともあり得ます。また、たまたま状況が改善されたとしても成功要因がきちんと解明できず、その後成果の上がる改善を継続的に行っていくことが難しいという状況に陥りがちです。

そうした事態を避けて望ましい状態を維持するには、ユーザーへの理解を深めユーザー視点での仮説を検証しながら、一歩一歩サービスを磨いていくことが大切です。そのための有効な1つの手段が「UXリサーチ」です。

UXリサーチとは?

UXリサーチについては近年たくさんの専門書が出版され、UXデザインのプロセスにおいて不可欠な手法として認識され始めています。詳しい説明は専門書にお譲りしますが、私はUXリサーチを「サービスやプロダクトの開発において、ユーザー視点でより良い体験をデザインするためのインサイトを得たり、仮説を検証したりするための手法」であると捉えています。

ここからは具体的に、あるサービス開発において私が現在行っているUXリサーチについてお話しします。

はじめの一歩!UXリサーチを始めるためのチームづくり

サービス改善にUXリサーチを活用するためには、リサーチチームを新設するだけではなく、他のチームといかに連携していくかを考えて体制をつくる必要があります。例に挙げるプロジェクトでは以下の体制で、課題の発見からUX・UI検討、新バージョンのリリースまでのサービスの改善サイクルを回しています。

画像:4つのチームとそれぞれの役割が書かれている図版。1.プロダクトマネジメントチーム・サービスに関する意思決定を行うチーム。・全社的な経営判断との接続も意識する必要がある。2.リサーチチーム・サービスの評価~調査・分析を担当するチーム。・ログ分析やユーザーインタビューを実施し、分析結果に基づいた改善アイデアをデザインチームに共有する。3.デザインチーム・サービスの企画・改善を担当するチーム。・プロダクトマネジメントチームの発案やリサーチチームから出された改善アイデアを踏まえ、サービスのUXとUIを検討する。4.開発チーム・プロダクトの実装とリリースを担当するチーム。・ログ分析のためのログ収集も行う。開発チームからリサーチチームへログが渡され、リサーチチームからデザインチームに調査結果が渡される。デザインチームからプロダクトマネジメントチームへ改善案の提案が渡され、プロダクトマネジメントチームから開発チームへ決定案が渡される。一連のプロセスを繰り返しながらリリースされる。

各チームの主な役割を示した図。実際には矢印で示した内容以外のことも適宜コミュニケーションを取りながら進めている。

歩きだそう!サービス改善への道のり

UXリサーチに先立って、まずはサービス改善の目標となるKGIとKPIを決めます。KGIとKPIが定まったら、その達成状況の評価から分析、改善案の検討・実装までのプロセスを複数回実施し、段階的に改善を重ねてKGI/KPIの達成を目指します。

一度きりの改善でサービスのあるべき姿に到達することはまれです。仮説の答え合わせをしながら着実に目標を達成できるように、こうしたサイクルを回すプロセスにしています。

画像:サービス改善のプロセスが書かれた図版。①KGI/KPI設計②KGI/KPI達成状況の評価③ログ分析④ユーザーインタビュー⑤UX/UI改善案の検討・実装②KGI/KPI達成状況の評価から⑤UX/UI改善案の検討・実装までをKGI/KPIの達成まで繰り返し実施する。

①KGI/KPI設計

サービスコンセプトや事業戦略からKGIとKPIを設計します。ここで意識したいのはサービスの業績的な観点だけでKGI/KPIを立てないことです。ユーザー視点をもたないままにアカウント登録者数やアクティブユーザー数をKPIに設定してしまうと、サービスの使われ方を見誤り、チームを間違った方向に導いてしまう可能性があります。

「ユーザーがサービスの本質的な価値を感じられる行動は何か」という問いをKGI/KPI設計に反映することで、ビジネスとしてもユーザーにとっても実りのあるサービスを目指すことができます。例えばタスク管理アプリであれば使う人の生産性向上に寄与することが重要なので、アカウント登録者数やアプリの滞在時間よりもユーザーごとの完了にしたタスクの数をウォッチしていった方がよさそうですよね。

②KGI/KPI達成状況の評価

次にKGIとKPIを設計した時点でのそれらの数値を算出し、現在の達成状況を明らかにします。以後も、定期的にKGIとKPIの達成状況を評価して施策の効果を測ることで、サービス改善の軌道修正がしやすくなります。週1で評価するのがよいのか、月1がよいのかはサービスによって異なります。毎日の利用が想定されるフードデリバリーサービスであればウィークリーでもよいかもしれませんが、経費精算サービスであれば前回の評価から1カ月以上空けないと状況が変わっていないかもしれません。

③ログ分析

「いつ、どこから、誰が、どのようにアクセスしたか」などのログを分析し、ユーザーによるサービスの利用状況を定量的に把握します。顕著な離脱などの傾向から、ユーザー体験の中で問題が起きている箇所を特定し、改善の優先順位を付けていきます。

④ユーザーインタビュー

ログ分析から発見された課題の背景を定性的に調査します。ユーザーの発話から新たなサービス改善のヒントを得ることもあります。

⑤UX/UI改善案の検討・実装

UXリサーチの結果を踏まえ、アプリのUI改善やプロモーションの企画など具体的な施策を検討し、実行に移します。

ここからは一連のサービス改善フローの中で“UXリサーチ”として行っている「③ログ分析」と「④ユーザーインタビュー」について詳しくお話ししていきます。

数字で確認!ログ分析

ユーザーの行動を客観的に把握し、ユーザー体験の中で課題となっているタッチポイント間のつながりやアプリ内の画面を特定するためにログ分析を行っています。ログ分析をUXリサーチのはじめに行うことで、データをもとに改善が必要なポイントと優先順位を定め、改善のためのリソースをどこに注力すべきかの判断をします。

ログ分析ではページの閲覧数や離脱率、アカウント登録などの特定のイベントのコンバージョン率といった数値を計測します。ウェブサイトやアプリ以外の行動も工夫次第では計測可能です。例に挙げたサービスは郵便物もユーザーとの重要なタッチポイントだったため、郵便受取率もログの1つとして集計しました。

カスタマージャーニーマップから指標を設計する

ログの中でどの数値に注目すべきかを検討するに当たり、ユーザー体験設計時に作成するTo-Be(未来の)カスタマージャーニーマップが役に立ちます。To-Beカスタマージャーニーマップには、ユーザーに期待するアクションとそれを促すためのタッチポイントがセットで示されています。そのため、タッチポイントの前後の数値の変化に着目することで、どこが意図どおりに機能していないのかを分析することができます。

また、カスタマージャーニーマップにはユーザーの行動が一連の流れとして描かれているため、順を追って数値の変化を見ていくことでファネル分析をすることもできます。

画像:あるアプリケーションサービスのカスタマジャーニーマップとファネル分析を表した図。カスタマジャーニーマップでは、それぞれのフェーズで感じる顧客の体験や感情がまとめられている。ファネル分析では、アプリケーションのトップページから注文完了画面に至るそれぞれの画面の閲覧数の変化を図で表し、落差の大きい部分(閲覧数が大幅に減ったしまった部分)の原因を考察している。

①カスタマジャーニーマップ:サービス初回利用時の体験を可視化したもの。ログ分析では「トップページ」以降の数値に着目して、理想のユーザー体験を提供できているかを検証している。
②ファネル分析:各タッチポイントの閲覧数の変化を表現したもの。今回のように閲覧数を順に追っていくと、どこでユーザーが使うのをやめてしまっているのかがわかる。特に落差の大きいところには深刻な課題が潜んでいる可能性がある。

消去法で原因仮説を組み立てる

指標を追うことにより、一連の体験の中でネックとなっている箇所を見つけることはできます。しかし、なぜそこが問題になっているのか、問題を解消するためにはどこに働きかければいいのか、という原因の究明は簡単ではありません。そのため、「アカウント登録のフローは問題なさそう」「直前に見ていたページはコンバージョン率を左右していなさそう」など一つひとつの行動を追いながら、消去法で的を絞って、仮説を組み立てていきます。

また、数字は恣意的に解釈できてしまうものなので、無理やり理由付けたり原因と結び付けたりしないように注意することが必要です。

生の声を聞こう!ユーザーインタビュー

ユーザーインタビューは以下の2点を明らかにするために行います。
①ログ分析に基づいたユーザーの行動と原因の因果関係の仮説を検証するため
②ユーザーの行動の背景にある価値観を理解するため

「ユーザーがなぜその行動をしているのか?」というWHYの部分はログからは見えないので、実際に使っているユーザーに話を聞くことで改善アイデアを検討する際のヒントが得られます。また、サービスの改善が必要な部分に着目するのではなく、良い部分を伸ばすといった改善方法もあり、サービスを使い込んでいるエクストリームユーザーにサービス利用のモチベーションを聞いてみることもあります。

行動に対するユーザー自身の認識を聞く

ユーザーインタビューを行う前にログから利用状況を確認し、調査協力者が「他のユーザーと比べてサービスを頻繁に利用しているか」や「どの画面で離脱しているのか」を把握した状態でインタビューに臨みます。しかし、実際にインタビューする際にはそうした情報は積極的に開示しないようにしています。私たちからはアクティブに利用しているように見えても、ユーザー自身にとっては他のサービスと同程度に利用しているという認識かもしれないからです。

他のユーザーと比べてどうかというよりも、あくまでも調査協力者自身が類似するサービスを利用するときの行動と比較してどうか、という意見をもらえるよう心がけています。

継続して実施するための仕組みをつくる

ユーザーインタビューは継続して実施することが大切なので、リクルーティングから謝礼の送付までの一連のフローをいかに仕組み化できるかも重要なポイントです。リサーチチームが他の業務と並行して無理なく実施できるよう、日程調整では日程調整サービスを利用したり、インタビュー案内メールやリマインドメールの送付を自動化したりするなどの工夫をしています。

ユーザーインタビューを依頼するときのメール文の例。以下のように書かれている。平素より、XXXXXをご利用いただき誠にありがとうございます。弊社では XXXXXの様々な機能・サービスの改善に日々取り組んでおります。このユーザーの皆さまからのご意見を参考にさせていただきたく、サービスに関する感想や使い方についてお聞かせいただく機会を設けたいと考えております。一人でも多くのユーザー様のご意見を頂戴し、より皆さまにご活用いただけるサービスを目指してまいります。この機会に、是非とも忌憚ないご意見をお聞かせいただければ幸いです。ご協力頂いた方には謝礼としてAmazon ギフト券 500円分を進呈いたします。(ヒアリングの概要)開催日時: 2022/10/16 10:00~13:00 のうち30分・開催場所: オンライン (Zoom)・お聞きする内容: XXXXXについて・ご参加いただきたい方: XXXXX を利用したことがある方ご協力頂ける場合は、下記URLから日程調整にお進みください。※本メールは、2022年10月7日時点で、 XXXXXを利用されている全ての方にお送りしています。 ご了承ください。

インタビュー案内メールの文面のサンプル。依頼内容は簡潔に箇条書きを使ってまとめ、日程調整サービスへと誘導する。

プロジェクトメンバーの意識をユーザーに向ける

私たちリサーチチームの主な役割はUXリサーチの結果を踏まえて改善アイデアを出すことですが、もう一点大切な役割があります。それは、「サービスに関わるメンバー全員がユーザーを深く理解する手助けをすること」です。

具体的には、期間やエリアごとに利用状況を比較できるようなレポートを週次で共有したり、インタビューのサマリーを共有したりするなど、ユーザーの行動や価値観を理解するための情報をプロジェクトメンバーに提供しています。ユーザーを具体的に想像できるようになることで、サービス改善のアイデアが生まれやすくなり、チーム間の連携も深まります。

画像:折れ線グラフで表されたレポートが表示されている

一定期間の利用状況を比較するレポートの例。エリアごとの反応速度の違いや施策を打ち出したときの反応などを1枚で捉えることができる。

サービス改善にゴールはない

本サービスではUXリサーチを起点とした改善プロセスを繰り返し、ユーザーの実際の行動や生の声を開発・改善に生かすことで、伸び悩んでいたアカウント登録者数やアクティブユーザー数が増加するなどの具体的な成果が出てきています。当初立てていた目標を達成したら、ユーザーの声を聞きながらまた次の目標地点へとサービスを磨き続けていく道のりを歩んでいきます。

UXリサーチは1人のユーザーの声を聞くところから始まります。私たちの取り組みが皆さまのサービスを改善するヒントになれば幸いです。

[ 執筆者 ]

コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

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