サービスデザインとは何か

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    長谷川敦士 Ph.D.代表取締役社長/インフォメーションアーキテクト

こんにちは、コンセントの長谷川です。

突然ですが、みなさんは「サービスデザイン」という言葉はご存じでしょうか。

日本語としては「サービス」+「デザイン」で「サービスデザイン」だな、ということはわかると思いますが、そういう意味ではなく、固有名詞として昨今サービスデザインという言葉が話題を呼んでいます。

このサービスデザインという言葉は、欧米では、数年前に話題になったデザイン思考(Design Thinking/デザインシンキング)という概念を具体的にビジネスに落とし込む、という文脈で用いられています。

デザイン思考とは、米国のデザインコンサルティング会社IDEOが提唱した概念で、簡単に言うと「デザイナーの思考方法を使ってビジネスも考えようよ」ということです。

ここでいうデザイナーの思考方法というのは、いわゆるHCD(Human Centered Design/人間中心設計)と呼ばれる、

  1. 1.利用者/対象者を正しく知る
  2. 2.問題を定義する
  3. 3.問題解決のためのデザインをプロトタイピングしながら行う
  4. 4.デザインが機能しているかを評価する

というフローを繰り返すというものです。

優れたデザイナーであれば、意識しなくとも行っているプロセスだと思いますが、このプロセスを、デザインフェーズだけでなく、商品開発やサービス開発といった企業活動に正しく組み込むことによって、利用者に価値のある、優位性のある製品やサービスを実現できる、という考え方です。

デザイン思考は、従来はデザイン会社の中や、企業のデザイン部門内だけで実践されてきていました。しかし、2000年代も後半になり、「機能」の観点でみると、実はけっこうなことが実現されているため、単純なモノ作りは必要とされなくなり、「何を生活者に対して提供すればよいのか」という素朴な疑問があらためて問い直されることとなったことから重視されはじめました。

IDEOは、それまでもプロダクトデザイン(工業デザイン)の分野で、ユニークな製品を実現してきていましたが、そのアプローチがいわゆる形のデザインだけでなく、製品コンセプト自体を作り出すところに役立つことに気付き、プロダクトデザインの会社からデザインコンサルティング会社へと変革を遂げ、企業に対してもこういったあたらしいアプローチをもとにビジネスを実現する取り組みを行ったのです。

ここで、素朴な疑問が生まれます。

どうしてモノ作りが機能しなくなるとデザイン思考が有効になるのでしょうか。

それはサービスデザインの本質的な部分でもあります。

単純に形を作っていた時代、世の中ではなにかを実現する「機能」自体が不足していました。音楽を鳴らすこと、野菜や牛乳を冷やすこと、衣類を洗濯すること、こういった機能はないと不便であるため、機能が実現されていれば、利用者にとってそもそも形がどうであれ価値があったのです。

しかし、機能自体が満ち足りると、そこでは単なる機能の実現だけでは利用者は満足しなくなります。また、満足できないだけでなく、そもそも機能は多くなりすぎてしまっていて、必要とすらされていない、という状況すら生まれてきているのです(みなさんも家にある家電の機能で使っていないものが多くあるでしょう)。

そうした状況の中、「どうすれば利用者に使ってもらえるのか」「長期にわたって使いやすいということをどうやって実現するか」といった課題が生まれてきます。そこでは、単に機能を利用者にそのまま与えるのではなく、利用者が必要とする形での「サービス」として提供する必要がある、という認識に至りました。これが「サービスデザイン」という考え方が生まれてきた背景です。

そして、もう一つ本質的な課題として、「サービス」は目に見えないということがあります。

これは触れる/触れないという意味で「インタンジブル(触れない)」と呼ばれます。しかし、このインタンジブルなサービスは最終的には人が触れる形(タンジブル)なものとして提供されることになります。このタンジブル−インタンジブルの関係こそがサービスデザインにデザイン思考が必要とされるゆえんです。

目に見えないサービスをいくら机上で考えても、それが実際に利用者にどう受けとめられるかはあくまで想像上のものでしかありません。そのインタンジブルなサービスコンセプトはタンジブルなプロトタイプに(=触れるプロトタイプ)よって試行錯誤を繰り返して、サービスコンセプトがきちんと利用者に伝わるかどうかを検証しなければならないのです。
サービス価値(提供価値/user value proposition)の定義、その実現方法といったこれからのサービスビジネスの実現には、デザイン思考、つまりデザインの能力自体が不可欠なのです。

こういった背景から、サービスデザインという分野はデザイナーが自分達の提供価値を意識して生まれてきた分野であり、今後ますます必要とされる考え方といえるでしょう。

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