ぴあ   スマホアプリ『ぴあ』コンセプト開発

雑誌『ぴあ』の体験をデジタルに昇華する

2011年7月に休刊した雑誌『ぴあ』をスマホアプリとして復活させるにあたって、初期のコンセプト開発とプロトタイピングを行いました。インターネットやスマホが当たり前になった今、かつての雑誌『ぴあ』が提供していた豊かな体験を、デジタル体験としてどう復活させるべきかをさまざまな視点から探索し、サービスデザインのアプローチでコンセプト案とプロトタイプに落とし込みました。

  • モバイルアプリ
  • 事業開発支援
  • デジタルプロダクト開発支援

[ プロジェクトのポイント ]

  • 徹底的なプロトタイピングによるコンセプトの探索
  • 『ぴあ』読者や若年層、つくり手などへのさまざまな観点でのリサーチ
  • 雑誌『ぴあ』の豊かな体験をデジタルへ落とし込むコンセプト立案

プロジェクトの背景

映画やコンサート情報をまとめた情報誌として、1972年7月に創刊した雑誌『ぴあ』。ピーク時には発行部数80万部に達し、首都圏版の他に中部版、関西版を展開していた媒体でしたが、インターネットの普及やメディア環境の変化に伴い、2011年7月に休刊しました。ぴあ株式会社様(以下、ぴあ社)では、「役目がまた見つかったら、帰ってきます」という休刊時の宣言通り、休刊後も雑誌『ぴあ』をデジタル化する構想を長年温めていましたが、エンターテインメント市場の拡大やモバイル普及などの時流を受け、スマホアプリとして復活させるためのプロジェクトを本格的に始動。同社の原点とも言えるメディアを立ち上げるにあたって、サービスのコンセプトやあるべきユーザー体験の立案をコンセントにご依頼いただきました。

問題解決までのアプローチ

本プロジェクトでは、アイデアを具体的なアウトプットに落とし込む徹底的なプロトタイピングによって、あるべきユーザー体験を探索・検証していくアプローチをとりました。まず、これまでぴあ社で構想されていた膨大なアイデアや検討課題をすべて洗い出して大まかに整理し、2週間ごとのサービスデザインスプリントに検討テーマを振り分け、反復的なプロトタイピングと検証によって、ブラッシュアップを進めていきました。
並行して、かつての『ぴあ』読者に対するインタビューや、SNS・アプリを頻繁に活用する若年層に対する情報収集の行動実態調査、つくり手や批評家に対するヒアリングなど、さまざまな観点でのリサーチも実施しました。
かつての雑誌『ぴあ』がもたらしていた体験とは何だったのか? そして、インターネットやスマホが当たり前になった今、復活させるならば、どういうデジタル体験であるべきなのか? 大量のプロトタイプで試行錯誤を繰り返しながら、ぴあ社と二人三脚で探索していきました。

クリエイティブのポイント

探索を進めるごとにあらためて明らかになったのは、雑誌『ぴあ』には、単なる「情報誌」というだけではとても片付けられない多様で豊かな体験があったということでした。映画、舞台、音楽、アートなど多様なジャンルの中からさまざまな切り口で情報を探せるだけではなく、雑誌をパラパラとめくりながら思いもよらない作品・公演と出会える「発見」と「刺激」がそこにはありました。当時の読者は『ぴあ』を片手に街へ出かけ、『ぴあMAP』を見ながら近くのスポットに立ち寄りました。欄外に掲載されていた読者投稿の人気コーナー「はみだしYOUとPIA」は、さながら現在のTwitterのような情報発信の場であり、読者同士をつなげるコミュニティとしても機能していました。

こうした豊かな体験を咀嚼しながらつくった初期バージョンでは、スマホならではの心地よいインターフェイスと、アクティビティを介してユーザー同士がつながるソーシャル要素を重視したコンセプトを立案しました。ユーザーやアーティスト、会場などをフォローし、タイムラインのように日常的に眺める中で新たな発見をもたらすものでした。

その後、コンテンツの「質」自体にも着目し、特集記事やエッセイといった記事の編集方針を再定義。作品・公演の情報をただ掲載するだけではなく、各業界の「通」である語り手が多彩な主観で織りなす企画によって、新鮮で読み応えのある記事構成を目指しました。折しも、サブスクリプション型の有料メディアの台頭や、キュレーションメディアの相次ぐ著作権の問題など、デジタルメディアにおいてもコンテンツの「質」そのものが問われ始める機運もありました。
こうして、雑誌『ぴあ』で培った読みものとしてのおもしろさと、業界の「通」やユーザーを介した「偶然の出会いと発見」を共存させた新たなコンセプトへとアップデートし、「情報」「人」「好み」を媒介として「『わたしだけの1本』に出会えるアプリ」というコンセプトを立案しました。

コンセントで立案した初期コンセプトはここまでですが、その後、この基本コンセプトをもとにアプリのデザイン・開発が進められ、いくつかの機能を強化した上で、2018年6月29日にテスト版リリース、2018年11月29日に本創刊されました。2020年2月時点で、ダウンロード数は100万を超え、当時のエッセンスを凝縮した機能やコンテンツが話題を呼んでいます。

[ お客様の声 ]

ユーザー視点で設計したコンセプトと提供価値が
いつでも立ち返れる軸になる

今回のクライアントであるぴあ株式会社のご担当者に、プロジェクトの背景や進め方、成果等についてうかがいました。

インタビューにご協力いただいたぴあ株式会社の岡政人様(デジタルメディア・サービス事業局 新ぴあ事業推進部 部長/統括編集長 uP!!!事業推進部)

Q.アプリ版として『ぴあ』を2018年に新創刊された経緯について教えてください。
2011年に休刊したときは紙媒体としての役目を終えた形でしたので、デジタルでの役目を検討するプロジェクトがすぐに立ち上がり、『チケットぴあ』を創刊し現在も代表取締役社長を務める矢内のもと、社長直轄プロジェクトとして紙媒体の編集メンバーを中心に長年検討してきました。さまざまなテストプロジェクトを経て、2015年春には一部開発を進めつつモックでレビューを行いリリースしようとしたのですが、新しさがあまりないということで見直しになりました。そこでコンセプト設計から見直した方がいいと判断し、パートナー会社を探す中でコンセントさんにご相談しました。

Q. コンセントに依頼しようと思われた決め手はございますか?
エディトリアルデザインとデジタルの両方をやられているところが一番大きかったです。アレフ・ゼロさん時代に出版されていたデザイン書などを読んだり、当時、自分が担当していた特集をお願いしたこともあったりと、コンセントさんのことは個人的にも知っていたのですが、今回いろいろな会社を検討する中で、新しいことをやるのならコンセントさんがいいと人づてに聞き、実際にうかがって話をお聞きした形です。
お願いしようと決めた理由には、「コンセプト設計をユーザー視点で一からやりましょう」と説明を受けたときに、確かにそこが足りていないと思ったこともあります。アンケートをとったり社内レビューをしたりして検討はしていましたが、社内からの視点になっていて、ユーザーリサーチやプロトタイピングなどをしてユーザーからの目線を入れるという発想がなかったなと。コンセントさんはいろいろな手法を取り入れていて、デザインスプリントなども実際に一緒にやってみて、なるほどと思いました。

Q. 今回、プロトタイピングしながら検討するという進め方をしましたが、振り返っていかがでしたか?
今回のプロジェクトは代表の矢内の思い入れも強かったのですが、資料で説明するだけではやろうとしていることがイメージで伝わりづらいんです。それが、実際の絵になってしかも動くプロトタイプだと、実現したいと思っていることの意識合わせがしやすく、話の伝わる速度も上がりスムーズに進みました。ただ一方で想像しやすいだけに「もっとこうならないか」という追加要望がスピード感を上げて出てきてしまい、それを反映しようとしてプロジェクト期間が長くはなってしまいました。リリースする前に何度か“脱皮”を繰り返した形です。ただ、脱皮を繰り返してUIは変わっていますが、最初にコンセントさんと一緒に開発したコンセプト自体は大きく変わっていません。初期のデザインスプリントをやる中で、「雑誌をただデジタル化したり単に情報を並べるのではなく、出会いと発見をつくるのが『ぴあ』なのだ」ということを言語化して固めたため、その後の議論でも常にそこに立ち返って考えられたのは大きいです。「ぴあの提供価値はなにか」を考え、「情報との偶然の出会い」が価値だと決めたことにより軸ができたんですよね。
実際、アプリ版『ぴあ』のUIがなんでも入れ込められる箱になっているのは、その「情報との偶然の出会い」という軸があるからこそなんです。そぎ落とすよりはとにかく形にして全部入れてみようと。

Q. アプリ版『ぴあ』の特徴について教えてください。

一番の特徴は「今すぐぴあする」という名前のついた、「今、ここ」で行われているイベント情報が一覧表示される検索です。「今、ここ」自体はそんな珍しくないですが、映画やステージ、アートなどいろんなジャンル横断になっていて、且つ検索ボタンのようなものを押すことなく「今すぐぴあする」を選んだ時点で情報が表示されているという形に特徴があります。コンセントさんとつくっているときからそうしていたのですが、なるべくワンステップで情報を出そうという方針にしています。
さらに、まずは今日のこの時間この場所と軸を決めて表示した上で、日にちや場所を変えたらどうかという探し方ができるようにしています。「今、ここ」で探すのか、「この週末にあれを見たい」で探すのかといった検索のユースケースはとても大切なので、プロジェクト当初からコンセントさんとさんざん検討しました。
他には、画面遷移における新ナビゲーション機能の「チャンネルUI」や、専門家による「水先案内人」コーナーなどを設けて自分で選びたいものとピックアップされたものの両軸から情報を探せるようにしていることも特徴です。

Q. テスト版のリリースから10ヶ月、本創刊から4ヶ月で(2019年3月取材時点)、まだサービス初期ではありますが、感じられている手応えはありますか?

目指す規模感は大きいのでまだまだではありますが手応えはあります。映画やステージ、クラシックなどのジャンル横断というのは競合がありそうで意外といないので、いけるのではないかというのが実感としてあります。
一方で、ネイティブアプリの難しさも感じています。アプリはいかに知ってもらい且つダウンロードしてもらうかが重要です。特にメディアアプリの場合、圧倒的に成功していると言えるものはまだあまりない。やってみてわかったのは、ダウンロードするハードルがいかに高いかということです。ダウンロード数は間もなく50万(2019年3月取材時点。同年8月上旬時点では70万)になるので、広告をあまり出していないことを考えるとまあまあいい数字ではありますが、爆発的に知ってもらうにはどうすればいいのかはアプリならではの難しさです。そうしたことも受け、2019年4月1日にまずはランディングページをニュースWebポータルのような内容にアップデートします。

Q. 最後に今後の展望をお聞かせください。
アプリをリリースしてからの成長ステージのモデルをコンセントさんと一緒に第3段階ぐらいまでつくったんですが、実際にリリースしてみた今でもそれが理想形というのは変わらないと感じています。コメントが書き込まれたりそれに対する反応があったりとユーザーの動きもだいぶ見えるようになってきたので、そこから読者同士や読者とつくり手がフォローし合ったり、その熱量が可視化されたりつながり合ったりということができてくると、究極の理想形になり結構おもしろいことになるのでそこを目指しています。実現できそうだという気がしていますね。

[ プロジェクト概要 ]

クライアント名 ぴあ株式会社 様

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