ラボ

2017.02.10

Service Design Div.の佐藤史です。

2016年7月11日に、株式会社リクルートジョブズ様(以下、リクルートジョブズ)の社内向けに開催したデザイン研修をご紹介します。講師は、コンセント社のアートディレクターで書籍『なるほどデザイン〈目で見て楽しむ新しいデザインの本。〉』の著者である筒井美希です。

リクルートジョブズ様では、6月30日と7月1日にも、UXデザインを事業開発につなげる方法論である「サービスデザイン」に関する研修を実施しました(⇒ http://www.concentinc.jp/labs/2017/02/recruitjobs-ux-design-training/)。一方、本稿でご紹介する研修は「コミュニケーションデザイン」に関する内容です。端的に言うと、前者はサービスを開発するためのデザイン、後者は、そのサービスの価値を「どう伝えるか」のためのデザインです。

どんなに良いUXを提供できるサービスが存在していても、そのサービスの価値が、ターゲットとするユーザーに正しく伝わらなければサービスとして成立しません。正しく伝えるためにはコミュニケーション設計が必要です。
それは、Webサイトやデジタルアプリなどオンラインで宣伝することもあれば、紙のパンフレットやフライヤーを使って販促活動をすることもあります。さらには、顧客とのリアルな場でのタッチポイントがある場合は、そこで働く人のユニフォームや施設の空間設計も必要になります。これらのツールすべてが、きちんとそのサービスにふさわしいデザインで統一されていなければなりません。

この研修のゴールは、新しいサービスやそのコミュニケーションツールをつくるとき、そのデザインの良し悪しを判断し、言語化して人に伝えられるようになること。今回の受講者はデザイナーではなく、サービスの開発と運営に携わる幅広い方を対象としています。

まず冒頭で筒井は「みなさん、このなかでどれがいちばん良い配色だと思いますか?」といくつかの選択肢を提示しました。問いかけながらも、「もちろん、判断できませんよね」と続けます。そこで某有名サービスブランドを例にあげ、「そのサービスブランドらしい」と感じる書体や配色を、それぞれ複数の選択肢から選んでいただきました。何の目的もない状態では、そもそもデザインの良し悪しを判断することができない。その前提を実感していただいた上で、前半のワークがスタートします。

  


「◯◯らしいデザインとは何か」を考える


書体から受ける印象を相手に説明し、どの書体を指しているかを当ててみる。互いに似たような印象をもつイラストと書体を結びつけてみる。あるメッセージにふさわしいと感じる写真を複数のなかから選ぶ等、何個かのショートワークを重ねていくなかで、「◯◯らしいデザインとは何か」を考える視点や、言語化するスキルを少しずつ養っていただきました。
このワークの特徴は、例えば、普段の仕事で何かツールを制作するとき、完成したデザインカンプを見比べるだけでは、「このデザインのどこがどう良い(もしくは良くない)のか」について、なかなか各人の視点と意見がかみ合わないことがあると思います。しかし、このように、書体、配色、写真などデザインを構成する要素を分解してひとつひとつ個別に見ることで、「◯◯らしいデザインとは何か」をデザイナーでなくとも判断しやすくなります。一方、デザインというものは、それらひとつひとつの要素が組み合わさることで、全体のブランディング(サービスの人格)が形成されることを実感していただきました。
また、デザインの言語化を行うための方法として、複数の案を比較する・擬人化する・ムードボードを用いるなど、専門的知識だけに頼らないコミュニケーション方法を体験していただきました。

  


伝えたいことの優先度をつけることが大事


後半は少し難易度を上げて、レイアウトされた雑誌の見開きページを複数見比べ、その中からあるサービスのコンセプトや特定のターゲット層にふさわしいものはどれかを選ぶワークです。
ここで筒井は、まず「伝えたいことの優先度をつけることが大事です」と強調しました。サービス開発プロジェクトでは、個別の機能要件を議論する前に提供価値を定めることが重要ですが、それはサービスを告知・宣伝するためのコミュニケーションツールを考える場合でも同様です。たとえ、そのサービスに訴求ポイントがたくさんあったとしても、それらすべてを一つのツールで一度に全部伝えようとしてしまうと情報を多すぎて結果として受け手に対して何の印象も残すことができません。このように、伝えたい情報を整理して取捨選択すること、筒井はこれを著書の中でもご紹介している「ダイジ度天秤」という道具に例えて検討のプロセスを説明しました。また、伝えたい事を整理し取捨選択するうえで、それを目にする人、つまりターゲットペルソナがどんな人かを考えることが「ふさわしいデザイン」を考えるうえで議論の拠り所となることも併せて解説しました。

最後は全体のまとめとして、実際に自分の手でテキストや写真を切り貼りしてフライヤーを制作していただきました。テーマはあるイベントスペースの案内ツールですが、このツールの目的が何かをきちんと決めてからつくることで、個々の要素の取捨選択や、配置の方向性が考えやすくなるというプロセスを体験していただきました。また、1人ずつ自分のつくったツールの目的とデザイン意図を発表し、筒井によるレビューが行われました。

今回の研修をまとめると、コミュニケーションツールのデザインというものは、大きく以下のプロセスに分けられると思います。

● サービスの価値を伝えたい相手(=ターゲット)がどんな人かを考える
● そのサービスで、最も重視したい価値は何かを考える(もしくは優先度をつける)
● これからつくろうとしているツールの目的を定める
● 色、書体、写真・イラスト等、個別の要素ごとに「どんなものがふさわしいか」を考える

なお、このようなプロセスはデザイナーと呼ばれている人だけがとるのではありません。研修終了後のアンケートでは、

● デザインにあまり興味はなかったが、知識として学べたので、今後デザインに関する業務を行う上で、自分なりの楽しみ方や勘所がわかった気がした
● 抽象的な現象やデータを言語化する考え方は、デザイン関連の仕事かどうかに関わらず重要な考え方であると感じた
● システム設計やコーディングのレビュー、パワーポイントの説明資料作成等の場面でも活かせると感じた

等々の感想が寄せられました。特に今回の研修内容が、ビジュアルデザインの仕事以外でも幅広く活用できるメソッドとして理解いただけたことは、専門ジャンルは違えども同じデザイナーとして、私自身もとても喜ばしく感じました。最終的な目的が、UXのデザインであれ、何か特定のツールのデザインであれ、「何を目的にどのようなものをつくりたいのか」という ゴールイメージを言語化して共有することは不可欠です。つくろうとしているもののデザインがそれにふさわしいか否かのジャッジは、プロジェクトメンバー全員が主体性をもって考えるべきことではないでしょうか。
研修は、筒井の「プロジェクトの成功のために、 質の良いコミュニケーションを!」という言葉で締めくくられました。

なお、本研修の講師である筒井の著書『なるほどデザイン〈目で見て楽しむ新しいデザインの本。〉』については、下記リンクをご参照ください。
著書『なるほどデザイン〈目で見て楽しむ新しいデザインの本。〉』(http://www.concentinc.jp/labs/2015/08/naruhodo-design/)

最後になりますが、コンセントでは、サービスデザイン・UXデザインから、グラフィックデザインに至るまで、こうした企業内セミナーを多数実施しています。
セミナーや執筆依頼などございましたら、コンセントサイトのお問い合わせフォームよりご相談ください。
お問い合わせフォーム(講演・セミナー・取材の依頼やご相談)
(https://www.concentinc.jp/contact/seminar/)

 

【執筆者プロフィール】
佐藤 史|サストコ

2017.02.10

Service Design Div.の佐藤史です。

2016年6月30日と7月1日の2日間にわたり、株式会社リクルートジョブズ様(以下、リクルートジョブズ)の社内向けに開催した、UXデザイン研修をご紹介します。

リクルートジョブズは、求人メディア「タウンワーク」「フロム・エー ナビ」など人材採用に関するさまざまなサービスを開発・提供しています。今回の研修はそのリクルートジョブズの入社1〜5年目の若手社員を対象にしたものです。

受講された方の職種は、主に商品・サービス企画開発、マーケティング、Webサイト統括、エンジニアリング等ですが、これから基本的な手法(定性調査やプロトタイプなど)を学ぼうと考えている方から、普段の業務ですでに実践されている方まで、UXデザインの経験年数はさまざまでした。

そのため、基本的な手法を学ぶだけではなく、事業開発(もしくは改善)プロジェクトにおけるUXデザインの活用のしかたについても、受講者が良いヒントを得ることができるよう、研修のプログラムを企画・設計しました。

2日間の研修プログラムは、講義とワークショップから成り立っています。
講義は、UXデザインを事業開発に繋げる方法論である「サービスデザイン」に関して。
ワークショップでは、受講者が普段の業務でもよく実践されている「定性調査」と「UIデザイン」の2つを実施しました。

研修の内容と様子を以下に時系列で紹介します。

 


1)講義「サービスデザインの実践 」(6月30日)


コンセント社のService Design Div.担当役員の大崎が、サービスデザインの概論について30分ほど講義しました。
現在は、テクノロジーやメディアの変化に伴う「顧客の時代」であり、そのなかで顧客視点に立脚して事業を設計するサービスデザインの意義が高まっていること。サービスデザインは、製品・サービス開発に限らず、顧客開発・管理やブランディングの領域においても有効な方法論であることを説明しました。
そして、コンセント社のプロジェクトの進め方の事例として、カシオ計算機様との新規サービス開発プロジェクト事例と、6週間の新規事業開発プログラム「コンセント サービスデザインスプリント」を紹介しました。

※カシオ計算機様との事例および「コンセント サービスデザインスプリント」の詳細については、下記リンクもご参照ください。
カシオ計算機様との事例 (http://www.concentinc.jp/works/casio-daisycircle/)
「コンセント サービスデザインスプリント」 (http://www.concentinc.jp/news/2016/04/concent-service-design-sprint/)

 


2)ワークショップ「サービス開発のための定性調査 」(6月30日)


大崎の講義に続いて、サービスデザイナーの私、佐藤史が定性調査に関するワークショップを実施しました。
サービスを新規開発(もしくは改善)するとき、サービスアイデアをどうやって探索し、そこからどうリサーチ計画を立てるかを考えるワークショップです。実際のプロジェクトでリサーチを実践しているUXデザイナーだけではなく、プロジェクトプラン設計時にどういうリサーチを実施すればよいかを考えることのあるマーケット担当者やプロジェクトマネージャーにも意義のあるテーマです。

 

■行動観察とインタビューで仮説を強化
最初にまず、「駅の施設を利活用した新しいサービスアイデアを考えてほしい」というテーマを設定して、実際に駅に足を運んで行動観察を体験していただきます。次に、行動観察から生まれたサービスアイデアの仮説をインタビューで検証します。そして最後に、インタビュー結果を振り返り、仮説を強化・修正して、その市場性や有用性を検証するための調査計画を考えていただきました。

受講者の皆さんには数名の班に分かれてワークを実施していただきましたが、漠然としたテーマをいきなり与えられたことに最初は少し戸惑いつつも、とりあえず外に出てみれば何かわかるだろうと考えてすぐ行動を始める班、外に出る前にまず何かしらのアイデアや観察する対象を話し合ってから行動を開始する班など、各班の様子はさまざまでしたが、それぞれの観点で観察することでいろいろな気づきがあり、中にはアイデアがたくさん出すぎて絞り込みに苦慮する班もいたようです。また、インタビューでは、初めてインタビューを経験された方は、インタビュー対象者から話を引き出すことにも苦戦されていたようですが、「短時間でも多くの気づきがあった」という感想もあり、最後は全班が無事に、アイデア仮説と調査計画を発表することができました。

 

■調査では、良い仮説をもつことが大事
実際のサービス開発プロジェクトの場合でも、データを眺めているだけでは、なかなか良いアイデアが出にくかったり、調査をしようにも何から調べ始めたら良いかわからず悩んだりすることもあります。そんな時、机上で考え続けるよりも、ひとまず現場を見に行き、人に尋ねることで、良いアイデア仮説が生成されることが多々あります。そして、何かしらの仮説をもつことで次に何をすればいいかの計画(調査設計)が生まれ、ひいてはプロジェクトの推進に繋がることを、このワークを通して体験していただきました。
最近は、インタビューなど定性調査のテクニックを教える研修や書籍もいろいろと出てきています。しかし、定性調査で良いアウトプットを出すためには、テクニックだけではなく、調査設計(問いの立て方、定量調査との組み合わせ方 等)が適切かどうかも重要なポイントです。それを受講者の皆様にぜひ体験していただきたくこのワークを設計しました。
ワークショップ終了後のリフレクションの場では、「行動観察をすることで、いつもの環境の中でも新しい発見があることに気づくことができた」「アタリをつけつつも広い視点で事実を見ることが大事だと感じた」等、定性調査のエッセンスを実感できたという声が上がりました。また、「仮説にこだわりすぎずにブラッシュアップしていくことが大事」「小さなニーズの深掘りにならないように定量調査でも見ていきたい」等、留意したいことまでも感じていただき、今後の皆様のプロジェクトでの実践が期待される内容でした。

 


3)ワークショップ「UI Design Workshop」(7月1日)


2日目は、アートディレクターの佐藤通洋とコンテンツストラテジストの中垣美香による、UIデザインに関するワークショップを実施しました。テーマは「若いカップルをペルソナとした対話型アプリのUIをペーパープロトタイプを使って考える」というものです。

■ペーパープロトタイプを体験
このワークショップで佐藤と中垣が伝えたかったことは大きく2つあります。まず、いきなり画面のUIを考え始めるのではなく、最初に「ユーザー(ペルソナ)はそのアプリをどう使うのか」という利用体験シナリオをしっかりと頭で考えて設計に臨むこと。次に、利用体験シナリオが固まった後は、今度は頭よりもとにかく「手」を動かしてカタチにしていくこと。この2つのポイントを、佐藤と中垣はワークの間中、何度も繰り返し強調していました。その他、ペーパープロトタイプを作り始める前のレクチャーでは、佐藤が「時間と空間のモデル&ルールをしっかり設定すること」「全体に関わる観点と細部に関わる観点を行き来して精度を上げる」など重要な6つのポイントを細かく解説しました。

前半の利用体験シナリオを考えるワークでは、ペルソナの若いカップルが、受講者の皆様とほぼ同世代だったこともあり、具体的で楽しそうなシナリオが次々と生まれていました。一方、後半のペーパープロトタイプでは、アイデアをカタチにすることにやや悩まれた方もいましたが、コンセント社オリジナルのペーパープロトタイピングツール『Handmock(ハンモック)』と3Dプリンタで出力したスマホ筐体のモックアップが、参加者が楽しみながら「手」を動かすことを促してくれたようです。このようにペーパープロトタイピングには、デザイナー職ではなくとも、誰もがアイデアをカタチにできることで、完成イメージについて全員の目線を揃えてディスカッションができるという効果があります。

また、いきなりUIデザインのイメージを思い描く前に、カップルの楽しい利用体験を自由に発想したことがきっかけとなって、最終的には、昨今のスマホアプリの一般常識にこだわらない、ユニークなUIデザインのアイデアもたくさん生まれました。

 

■最初の段階で、設計を意識すること
各受講者が作成したペーパープロトタイプを書画カメラに映しながらの最後の発表では、受講者全員に対して2人の講師より詳細に講評させていただき、ひとりひとりの満足度も高かったようです。
終了後の感想では、「ペーパープロトタイピングを実施した経験は何度もあるが、何に留意すべきか考えず感覚的に作っていたので、体系的に学べてとても良かった」「チャットUIだからできることや、チャットUIの強みとは何かを、もう少し意識できたら良かった」等、感覚値にだけ頼らずに、デザインする手前の段階で設計を意識することの重要さに気づいたという声が上がりました。また、「ペーパープロトタイプを作ることで短時間でストーリーをビジュアル化でき、それをもとに要件を詰めていくことでメンバー間の会話もスムーズになることがわかりました」等、プロトタイプは単なる仕上がりイメージの確認だけではなく、プロジェクトメンバー間の共通認識を形成して健全な議論を促す意味でも有効だということに、気づいていただけたようでした。

 

なお、コンセント社オリジナルのペーパープロトタイピングツール『Handmock』の詳細については、下記リンクもご参照ください。
ペーパープロトタイピングツール『Handmock』(http://www.concentinc.jp/labs/2014/09/handmock-mobile-ui-design-prototyping-kit/)

 


UXデザインのプロセスを組織で活用するために


研修終了後には、受講者の皆様にアンケートをとらせていただきました。
「業務上、現在課題に感じていることがあれば教えてください」という質問に対しては、

● UXデザインの重要性と実施意義を、プロジェクトメンバーとしっかり伝えたい
● 他部門の人を、リサーチやデザインのプロセスに巻き込んでいきたい
● プロジェクトメンバーが全員、「カスタマー主語」で会話できるようになってほしい
● UXデザインを実践するにあたり、導入効果や指標を考えていきたい

といったコメントが寄せられ、組織とプロジェクトに対する、UXプロセスの導入・啓蒙について課題意識をおもちの方が多いように見られました。
また、今後さらに具体的な事例や手法の詳細をもっと知りたい、という感想も多く寄せられました。
最初に述べた通り、今回の研修は、単なる手法の伝授にとどまらず、実プロジェクトでどう活用すればいいかを考えていただくことにも比重を置いて企画しました。この講義とワークショップで得たことが皆様の業務における良い示唆になるとともに、学んだことを日々の業務で活用いただきつつ、UXやサービスデザインをさらに深く学んでいただくきっかけになれば幸いです。

なお、今回の研修では、本稿で紹介したUXデザイン研修と併せて、一部の受講者を対象に、「コミュニケーションデザイン」に関する研修も実施しました。あわせて下記のレポートもご覧ください。
【レポート】株式会社リクルートジョブズ様「なるほどデザイン」研修(http://www.concentinc.jp/labs/2017/02/recruitjobs-naruhododesign-training/)

最後になりますが、コンセント社では、サービスデザイン・UXデザインから、グラフィックデザインに至るまで、こうした企業内セミナーを多数実施しております。
セミナーや執筆依頼などございましたら、コンセントサイトのお問い合わせフォームよりご相談ください。
お問い合わせフォーム(講演・セミナー・取材の依頼やご相談)(https://www.concentinc.jp/contact/seminar/)

 

【執筆者プロフィール】
佐藤 史|サストコ

2017.02.09

SDGC16

こんにちは。Communication Manager河内です。
2016年12月5日に「Service Design Global Conference 2016」の報告会を恵比寿で開催しました。
Service Design Global Conference(以下、SDGC)は、国際的なサービスデザインの啓蒙組織であるService Design Network(SDN)により開催されている国際会議です。
開催9回目を数える今回は、2016年10月26〜28日にオランダ・アムステルダムにて開催されました。

◎ Service Design Global Conference
http://service-design-conference.com/

◎ Service Design Network
https://www.service-design-network.org/

サービスデザインに関しては、現在ではさまざまな書籍やWeb上の情報ソースがあり、日本語で手に入るものも少なくありません。それでも最新の動向に触れ、同じ領域を扱っている人同士で情報交換できるリアルな場の価値はますます高まっていると感じます。

年々、日本からのカンファレンス参加者も増えているとはいえ、欧州内から参加するよりはハードルがかなり高いのも事実。そこで2016年12月5日に、SDN Japan Chapter(SDN日本支部)主催で、SDGC16の報告会を開催しました。

◎ SDN Japan Chapter(SDN日本支部)
https://www.service-design-network.org/chapters/sdn-japan

「世界のサービスデザイン潮流 Service Design Global Conference 2016 報告会」と題した本イベントでは、SDGC16で取り上げられていたトピックを日本のみなさんにも紹介しカンファレンスの報告をするとともに、参加者同士での議論も深めました。

◎「世界のサービスデザイン潮流 Service Design Global Conference 2016 報告会」告知ページ:
http://www.concentinc.jp/seminar/2016/11/service-design-global-conference-2016-redux/

私自身は、このイベントに登壇はしませんでしたが、アムステルダムで開催されたカンファレンスそのものに参加してきたので、現地で取ったノートも見返しながら、実際に参加してきた感想を交え、現地で撮った写真も挿し込みつつ、本報告会の様子を紹介していきたいと思います。


Introduction of SDN and SDGC16


まず、コンセント代表/SDN Japan Chapter共同代表の長谷川からはイントロダクションとして、SDN自体とカンファレンスの概要紹介がありました。

SDNという組織に関するトピックとして、
・ローカルチャプター(各都市支部)間の連携が活発になってきていること
・昨年から開催されているService Design Awardに、今年は100件以上の応募があり、日本からの入賞はなかったこと
・SIG(研究会活動)がスタートし、去年はファイナンス分野、今年はパブリックセクターについて調査されインパクトレポートとして公開されたこと
・日本支部では今夏からサービスビジネスモデル研究会が発足し、日本企業の特殊性やマーケット抽出に取り組んでいること

などが紹介されました。


(ローカルチャプターMTGにて、長谷川と同じく共同代表で慶應義塾大学経済学部の武山政直教授から日本支部での活動を報告している様子。各都市支部間の連携も活発になってきた。)

カンファレンスについてですが、今年の開催地は2008年の初開催時と同じくオランダのアムステルダム。10月26日にSDN会員向け特別プログラムであるMember’s Day(出席者:370名)が、そして続く27、28日には2日間のカンファレンス(出席者:640名)が開催されました。

今回のテーマは「Business as Unusual」でした。

長谷川は、今年のカンファレンスを通じて感じたこととして、
・サービスデザインの手法やアプローチがすでに十分認知され、遂行までが一般化してきていること
・そのうえで、サービスデザインを実践し続けることができる組織文化づくりやピボットの見極め、組織のスケールのさせ方など、具体的にビジネスを遂行する際に起きうる課題が論点になってきていること
・いかに具体的なビジネス成果をあげ測定できるものとするかが問われるようになってきていること(そして、それはアワードでもその傾向が見られたとのこと)
・他国ではパブリックセクターにおけるサービスデザインの普及が顕著で、日本としてはやや焦りを感じること
を挙げていました。


Service Design Tour


続いて、インフォバーンのEsben Groendal氏から、Member’s Dayの前日に催行したService Design Tourについての報告がありました。

Service Design Tourは一昨年から開催しているプログラムです。

カンファレンス参加だけでももちろん有益ですが、せっかくなので、開催地(および周辺国)にて、現地のサービスデザインエージェンシーや、サービスデザイン的視点で先進的な取り組みをしている組織や機関などを訪問し、情報交換やディスカッションをしてこよう!というものです。

元々は、日本支部の企画からスタートし、ストックホルムでSDGCが開催された際にはデンマークにて実施(この時は、まさにこの発表をしてくれたEsben氏が、現地でのコーディネーターとして大活躍!)、また翌年はNYCでも実施しました。

第1回のデンマークでのツアーについては、以前、コンセントの広報用Webマガジン「サストコ」の「世界行脚」でもご紹介していますので、よかったらご覧ください。
http://sustoco.concentinc.jp/angya/copenhagen/index.html

これまで過去2回の催行実績があり、訪問側と受け入れ側双方にとって有益であったことから、今年は、日本以外の国のSDNメンバーにもツアーが提供されました(ただし、受け入れ側企業や団体側の物理スペースなどの関係から、日本チームと日本以外のチームは別行動)。

今回の訪問先は5か所。パブリックセクターでは、教育的機関としてCentral Library(中央図書館)、サステナビリティや社会システムの研究的機関としてMediamatic。そしてプライベートセクターでは、サービスデザインエージェンシーとして、KOOSSTBYESSENSEの3社。

報告のなかでGroendal氏も触れていましたが、私も実際にService Design Tourに参加し、いろいろ話を聞くなかで、KOSSやESSENSEは、デザイン会社ではなくSD専門エージェンシーとして、SD単体で成立しているという意味で大変興味深く、クライアント(市場)とエージェンシー双方が成熟していると感じました。

彼らは、クライアント企業のデザイン部門としての動き方をしており、特にESSENSEの方は、公共性の高い空港や郵便サービスなどの会社の仕事を扱っており、予算の9割ほどが2つのプロジェクトで回っているとのこと。下請けのような立場ではなくパートナーであり、また、新たに案件を獲得する必要がないということは、長期的な戦略を共に実行していける環境でもあるため、働き方としても大変魅力的!


(KOOSのオフィス)


(ESSENSEのオフィス)


(ESSENSEでは実際のプロジェクトの進め方をより詳しく聞くことができました。スキポール空港のプロジェクトについて説明をうけているところ。)

STBYは、ユーザーリサーチの専門家が集まっている会社です。規模としては小さな会社ですが、ある会社が他国でユーザー調査をしたい場合、STBYを通じて現地のリサーチャーを用意できるというようなネットワークを構築しているため、全世界にまたがってプロジェクトを手がけているパワフルな会社でした。


(STBYによるプレゼンテーション)

Mediamaticは、一言で説明するのが難しいのですが、社会システムのプロトタイプ的なことをアートと融合させながら、提示しているようなところです。

植物の栽培施設とそこで収穫した野菜を提供するレストランがあったり、アートギャラリーのような場所があったりとユニークな場所でした。


(アクアポニクスという、サステナブルな栽培システムの見学)


(施設内にあるマイクロブルワリーの見学)

Central Libraryも単に本を貸し借りする場所ではなく、より教育機関的であり、人間にしかできないことと、機械に任せておけばよいところがうまく切り離されていたり、場としての体験がとてもよく考えられているので、顧客サービスとしての質が高いと感じました。


(ガイドの方に各フロアを案内していただきました)


(本を静かに読むだけの場所ではなく、多様なスタイルで協同作業ができる空間があちこちにつくられていました)


(返却などは機械による対応で、その分スタッフは利用者のサービス向上のためにリソースを使うことができるようでした)


キーノートや個別のセッションの振り返り


さて、カンファレンスに話を戻して…。
Groendal氏に続いて、SDN日本支部の共同代表/慶應義塾大学の武山政直先生がSDGCでのキーノートを中心にいくつかのセッションを紹介。

なかでも、SDNのファウンダーであるBirgit Mager氏のセッション「Plenary Presentation: Journey map into the future」は、サービスデザインの潮流を端的に理解するのに役立つものだったと思います。ここ8年ぐらいのSDNの活動を振り返りつつ、ビジネスにおける移り変わりを2000年代までと2010年以降の対比でわかりやすく説明するスライドが紹介されたときには、報告会に参加された方の多くが写真を撮っていました。

サービスデザインに見られる大きな変化として挙げられていたのが次の点です。
・PLAYFUL FRAMING ⇒ STRATEGIC FOCUSへ(ビジネスとデザインの融合へ)
・USER FOCUS ⇒ SYSTEM VIEWへ(価値共創を導くためによりシステム視点へ)
・METHODS ⇒ MINDSET(表面的に導入しただけではダメ。より本質的に意識を変える必要性)
・CONCEPTS ⇒ IMPLEMENTATION(アイディア出しだけではダメ。デザイナーがきちんと責任を持つ)
・EXTERNAL SUPPORT ⇒ INTERNAL CAPACITY(継続的にSDに取り組めるよう、ビルドインしていく)

武山先生からはBirgitのセッションのほかに、Capital OneのJamin Hegeman(元Adaptive Path)による、Capital Oneという大きな金融系企業組織全体にサービスデザインを浸透させるための試行錯誤に関する話や、Spotify(音楽ストリーミングサービス)のサービスデザイナーによる、アジャイルカルチャーのネット企業にいかにサービスデザインを導入するかといった話、Googleによるリサーチとサービス改善を高速で回す話、BMWによる製造業からサービス業へモデル転換していくための取り組みの話、製造業の未来としてスマートファクトリーの話、UKのポリシーラボなどサービスデザインを政策デザインに応用するといったパブリックサービスにおけるサービスデザインの話などが紹介されました。

こうしたセッションを俯瞰し、武山先生は今回のSDGC2016の特徴として、次の5つでまとめられました。


・出発点からの振り返り
・大規模組織へのサービスデザインの導入
・スピードとアジャイル
・新たな製造業とサービスデザイン
・公共組織のサービス改革


続いて、コンセントのサービスデザインチームマネージャーの赤羽からも、Member’s Dayやカンファレンスでの気になったセッションを紹介。

コンセントでもPUB.LAB.という活動名で、公共サービスや地方都市におけるサービスデザインの取り組みを行っていることから、カンファレンス期間を通じて赤羽にとって最も印象に残っているセッションの一つとして、University of Dundeeで教鞭を取るMike Press氏による話が紹介されました。

コンセントのPUB.LAB. について
http://sd-park.tumblr.com/post/133507365371/pub-lab

Press氏のセッションは、スコットランドにあるDundeeという小さな都市をデザインでどのように大きく変えていったかについてのもので、具体的には、貧困家庭にいる子どもが多く問題を抱える街をデザインでどのように改善したかとか、病院や教育などを市民参加型で改善した例、人口15万人ほどの街で1,000人もの子どもが参加したミュージアムイベントをどのように成功させたかなど、課題の対象や深刻度などはさまざまに、街をあげてデザインに取り組んできたという話でした。

興味深いこととして、このDundeeは大変小さな都市にもかかわらず、ファッション誌『GQ』でも世界一クールなスモールシティとして取り上げられていたり、ユネスコデザインシティに指定されていたりと、大きく評価されていることも窺えて、Member’s Dayで一緒に話を聞いた私にとっても印象に残ったセッションでした。ちなみに、日本では名古屋と神戸がユネスコデザインシティに指定されているそうです。

参考)
WHY DUNDEE IS BECOMING BRITAIN’S COOLEST LITTLE CITY
http://www.gq-magazine.co.uk/article/why-dundee-is-the-coolest-little-city-in-britain

カンファレンス1日目のパラレルセッション「How to sabotage an organization」というのも興味深いセッションでした。sabotageは、サボるというような意味ですが、ここでは「destroy=破壊する」と読み替えてもよいでしょう。

1940年代にCIAの前身となる組織がつくったサボりマニュアルというのが存在するらしいのですが、つまりそれは、組織をうまく機能させなくするためのスパイマニュアルで、裏を返せば、組織がどういう状況なのか黄色信号を認識できるものとして使うことができるという紹介。またさらに言えば、アンチパターンとして、いかに自社がサービスデザイン的思考ができていないかを考えるためのツールとして使えるということが話されていました。

例えば、サボタージュのメソッド(=こんなことが起きてる組織は黄色信号)には、
・正しい手続きでしか物事を進めない(ショートカットを認めない)こと
・コミッティを大きく見せること
・もっと重要なことがあるときにあえてミーティングを開くこと
・手続きを増やすこと
などがあります。

これをもっとサービスデザイン的観点でのサボタージュする方法に置き換え、サービスデザインのアンチパターンとして以下の6つが挙げられていました。

・サービスについてミスリードする情報を出すこと
・人々がサービスを使うのを妨げること
・トランザクションの完了率を下げること(入力項目を増やすなど)
・トランザクションごとのコストを増やす(紙やコールセンターへの問い合わせを強いるなど)
・たらい回しにしてイライラさせる
・組織変革を進まないようにする

アンチパターンはデザインパターンの逆であり、行き詰った時には、逆を考えてみるのも手、という示唆を含んだセッションでした。

このセッションのほか、赤羽からは、サービスブランディングに関する航空会社の例を挙げたセッションや、オランダ生まれのTomTomというIoTのスタートアップの事例、カスタマーエクスペリエンス向上のための活動を効果的に実践できているオランダの金融機関の話など、さまざまなセッションが簡潔に紹介され、赤羽自身のカンファレンス全体の所感としては、

・アジア勢の勢いを感じること
・取り組みから実績が重視されてきていること
・thinking(考え方)からdoing(実践)へと移行してきていること
・意外とイノベーション系が少ないこと
を挙げていました。


登壇者と会場の参加者を加えたディスカッション


カンファレンス報告を終えたあとは、インフォバーン京都支社長の井登友一さんによるファシリテーションで、ディスカッションが行われました。

テーマとしては「いまとこれからのサービスデザイン」「今回のカンファレンステーマであったbusiness as unusualとはどういう意味なのか」「日本の事業会社がサービスデザインに取り組んでいくために必要なことや大事なポイントが何か」といったあたり。

いくつか印象に残った話として、例えば自動車業界の話があります。世界的に活況を呈しているカーシェアリングのサービス。日本ではそうしたサービスを提供するのはあくまでサードパーティであって自動車メーカーそのものはサプライヤーという立場になりがちです。それはシェアリングサービスの提供は、本業である自動車の生産量自体の減少につながるかもしれないという議論をはらんでいるためかもしれません。しかし、欧米では自動車メーカーのなかにそうしたシェアリングサービス部門があったりします。

もちろん国が違えば一概に比較できるものではありませんが、マーケットの変化に敏感で「そのビジネスがマーケットとして求められているのであれば、そっちをやる」という判断をしたり、あるいは全く違う領域のパートナーとアライアンスを組んで、既存の自動車の使い方とは違うサービスを提供したりするなど、柔軟に機動的に対応している様子が見られます。

確かに、私もアムステルダムで1年ぶりに再会したSDN事務局の女性と、トイレの待ち時間に立ち話をしていたところ、彼女が今回で事務局をやめて、自動車メーカーのシェアリングサービスの部門へ転職するという話も聞いたりして、メーカー自身がそういった部門をもち、サービス提供に取り組み、そのための人材獲得に力を入れているんだということを実際に感じました。

こうしたことについて武山先生は「そうした新しいサービスを提供するということは、単なるアイディアだけではだめで、働き方やチームなど全体を変えることにほかならない。サービスと組織をデザインすることは一体化している。そしてサービスデザイナーはそれをやらなくてはならない」とおっしゃっていて、赤羽も「カンファレンスではサービスは組織のアバターだという話があった」と補足していました。長谷川も「最終的に組織をデザインしないとだめとなったときに、デザインリードな組織にしていくということで、企業のなかで合意が取れて、それがビジネス的にも良い(効果がある)となることが、日本でサービスデザインへの取り組みを進めるうえで大事である」と意見を述べていました。

ディスカッションで議論し足りなかったことについては、その後の懇親会に持ち越され、会場のあちこちで熱心な会話がされていました。


(報告会のあとの懇親会。登壇者のみなさん。)


Design Thinkerが求められる時代


ところで、この報告会のディスカッションで出た話ではないのですが、アムステルダム滞在中の数日間を通じて、私が印象に残った(すなわち、今回のカンファレンスで繰り返し強調されていたと感じる)こととして、「Service Designer」か「Design Thinker」かという議論があります。

コラボレーションしながらさまざまな変化を起こすためにサービスデザイナーという職能が必要となってきたものの、フルスペック(あるいは理想とされる正しい手続きで)でサービスデザインを実践しようとすると、それはそれで時間も労力もかかり、大掛かりになってしまうこともあります。プロセスをやることが目的になってしまっていないか、ということへの問題提起として、本来の「変化を起こしていく」というマインドセットをもって、小回りを利かせながら、本質的に問題に取り組んでいく「Design Thinker」がより重要になっていくのではないか、という趣旨の話がありました。

また、クロージングでのBirgitの話のなかにも「Start Small, Grow Faster」というメッセージがありました。

このレポートの前半でも紹介したBirgitのキーノートスライドに「METHODS → MINDSET」ともあるように、すでにある程度サービスデザインというものが浸透してきている現在では、使えるツールやメソッドはたくさんあります。しかし、結局のところ、やるかやらないか、変化を起こすつもりがあるかないか、ということ自体が問われるようにもなってきており、ゆえに、肩書がどうあれ「Design Thinker」というマインドセットで動けるかどうかが大事なのだと感じます。

「肩書がどうあれ」とは言いましたが、私が初めて参加したSDGC2011(サンフランシスコ開催)では、「Service Designer」という肩書の名刺を持った人はまだチラホラとしかいませんでした。しかし現在ではこのカンファレンスに行くと、たいていみんな「Service Designer」を名乗っています。そうした状況をみると「サービスデザインという領域も随分進展してきたのだな…」と感じずにはいられません。

来年あたりは肩書というよりもマインドセットの表明として「Design Thinker」を使う人が増えていくのかしら…と、今後の変化も気になるところです。

私自身のことで考えてみると、私はデザインエージェンシーであるコンセントの仕事以外に、最近ではグループ会社の一つである、小さな事業会社の仕事もしています。

基本的には広報担当としての立場で動いていますし、私自身は「サービスデザイナー」を名乗っていませんが、この小さな事業会社のサービス提供を考えるうえでは肩書きが何であるかに関わらず、Design Thinkerというマインドセットで、Small Startをモットーに、サービスデザインのアプローチを取り入れていけたら…と思いを強くしたカンファレンスでした。

SDGC16で提供されたプログラムのセッションの動画やスライド資料の多くはオンラインで公開されていますので、ぜひご覧になってみてください。

◎ セッション動画:
https://www.youtube.com/results?search_query=sdgc16

◎ スライド資料:
http://www.slideshare.net/search/slideshow?searchfrom=header&q=sdgc16&ud=any&ft=all&lang=en&sort=

さて、最後に少しお知らせです。

本報告会でも紹介されたDundeeの事例など、公共サービスにおけるサービスデザインは最近特に関心を集めているトピックですが、こうした公共サービスへのサービスデザインの導入についてはSIG(分科会)で研究されており、カンファレンスの会場では、その研究成果を紹介する書籍『Service Design Impact Report on the Public Sector』がSDN会員向けに無償で配布されました。現在コンセントのサービスデザインチームがその日本語抄訳に取り組んでいますので、近いうちにみなさんにもご紹介できる予定です。

また、SDN Japan Chapterでは3月9日にSDN会員向けに初のMeetupイベントを開催します。詳細は、SDN Japan Chapter Facebook Pageにてご確認ください。

【執筆者プロフィール】
河内 尚子|サストコ

2017.01.06

【記事の概要】
2016年11月28日に、コンセントのイベントスペース「amu」で行われた広報ご担当者向けセミナーの内容と、当日の様子についてのレポートです。

 

こんにちは。コンセントのクリエイティブ・ディレクター、青松です。
今回は、先日「amu」で行ったセミナー「あなたの企業の広報物を、健康診断!『その広報物、機能していますか?』」についてレポートします。

コンセントは、コミュニケーション・デザインを事業の主軸としたデザイン会社です。
お取り引きさせていただいている企業のご担当者様は、とりわけコミュニケーション面を担っている方が多くを占めます。ご所属先は広報部門に限らず、さまざまな部署で広報的な動きをされている方が数多くいらっしゃいます。

広報担当の方が制作される媒体も、最近は多様になってきて、ウェブサイトの運用から紙1枚のリーフレットまで、さまざまな媒体を一手に引き受けていらっしゃる方も少なくありません。
本セミナーの企画にあたっては、広報媒体を担当される方が普段、どのようなことに悩まれているのかを社内で意見を出し合いながら検討しました。そこで出た結論として、今回お伝えしようと思ったのは「読者視点」。当日は実際にご自身がつくられた媒体をおもちいただき、それをどう評価したらよいのかをレクチャーしつつ、実際の読者視点で媒体を「健康診断」していただきました。

今回のセミナーは
● 個人視点→読者視点で媒体をみる演習
● すでにでき上がった広報媒体の課題抽出観点
の二点を、簡単なワークを通して学べるプログラムになっています。

「読者視点」と一言で言っても、すぐに実践するのは難しい方もいらっしゃるかもしれないので、まずはご参加者全員で練習課題をしていただくことにしました。

恵比寿で配布しているフリーペーパーを題材に、「読者視点」をもって評価していただきやすくするため、事前に私の方で、想定読者の名前、年齢から住まい、訪れた目的、趣味などを、ご自身の中に落とし込みやすいようにできるだけ具体的に設定しておきました。参加した皆さんには媒体を眺めて思ったことを付箋に書き出していただき、お互いの評価の仕方や、書き出された課題を分類したりすることで、自身の好みではなく「読者の視点で意見を言う」ことに、少しずつ慣れてきたようでした。

ちなみに、コンセントの実際のプロジェクトでは、読者を設定するための必要な情報量は媒体によってさまざまです。また場合よっては、定量データをとって読者の志向を読み解いたり、インタビューなどの定性調査をして実際の読者についての理解をより深めたりします(ウェブサイトやアプリ開発では一般的)。今回のセミナーはその入門編として設計しました。

練習課題を終えたら、次は実践課題。

そもそも、セミナータイトルに「健康診断」とつけましたが、広報媒体が「健康である」とはどういうことなのでしょうか。今回はこれを、
「ある目的をもってつくられたものが、実際にその目的が達成されるであろう企画やデザインに落とし込まれていること」
と定義して、目的と読者を念頭に置きながら、個人的視点を離れて媒体評価をできるシートを作成しました。


当日使用した「広報媒体健康診断シート」(シートの使い方などの詳細はこちらのページをご参照ください。⇒ 広報媒体健康診断シート|ラボ

このワークシートを使って、当日おもちいただいたご自身の制作媒体を評価していただきました。参加いただいた方からは、
「普段の業務の中で、いちばんやらなければいけなかったことが整理された」
「健康診断を行うことで、漠然としたことが具体化された」
など、ご好評の声をいただきました。

最後に本セミナーのまとめとして、コンテンツ・ディレクターの川崎から媒体を「つくる」視点と「見る」視点とで、制作者の意図していることと読者が意識していることがどう関係しているのかを解説させていただきました。

普段の業務の中では、私たちコンセント社員もコンテンツを「つくる」側に立っています。「どんな行動を起こしてもらうために(目的)」、「何を」「誰に」伝えるのかを考えぬくのが、情報伝達の基本です。

1. 発信すべき情報(コンテンツ)を、
2. どんな「らしさ」で(ふるまい)、
3. どういう態度で伝えるか(ふんいき)
によって、読者への受け取られ方は変わってきます。

一方で、「見る」側に立つと、これとは逆の流れで読者はコンテンツを「見る」ことになります。

1. 見た目から得られる印象に誘われて(ふんいき)
2. 使いやすさや、キャッチコピーに刺激され(ふるまい)
3. 実際にコンテンツを受け取り、または行動します(コンテンツ)

「つくる」視点でその媒体の主要な目的やターゲットを定め、「見る」視点でそのタッチポイントやふるまいをデザインする。二つの視点を行ったり来たりすることで、目的を見失わずに、読者に合わせた着地点を見い出し、糸口を見つけることができるのです。

今回のセミナーでは、ご自身が制作されたものをもち寄って参加いただいたこともあり、セミナー後のFree Talk Timeでも、皆さまから当日のセミナーについての質問や普段の悩みをお聞きすることができ、私自身、非常に勉強になりました。

ご興味のある方は、2017年にも第二回開催を予定しておりますので、ふるってご参加ください。
詳細が決まりましたら、本サイトの「セミナー・イベント情報」ページコンセントの公式Facebookにてお知らせいたします。

【執筆者プロフィール】
青松 基|サストコ

【関連リンク】
セミナー「あなたの企業の広報物を、健康診断!『その広報物、機能していますか?』」開催のお知らせ
広報媒体健康診断シート|ラボ

★2017年1月19日追記★
本セミナーの第二回開催が2月23日に決定いたしました。詳細は以下のページをご参照ください。
2月23日開催【人と企業を繋げるコミュニケーション講座】 つくる、つたえる、ふりかえる。 読者の視点で媒体分析!|セミナー・イベント情報

2017.01.06

完成した広報媒体を振り返るためのシート。
媒体を制作した目的と、代表的な読者像(ターゲット)にフィットした企画・デザインができているかという視点での気づきを書き出すことで、次回(次号)の制作に活かすことを意図したツールです。

広報媒体健康診断シート[ PDF : 37KB ]

《記入のコツ》
以下の順番で記入するのがオススメです。
1. 「読者像」を書く:代表的な読者像はどんな人物か
2. 「目的」を書く:読者がどうなることが目的なのか
3. 「効果」を書く:目的達成によってどんな効果が得られるか
4. 「内容」「デザイン」それぞれに感じたことを書き出す

これらの記入が終わったら、書き出されたことについて重要度をつけておくと、後々また見返したときに結論が明快なシートになります。

《記入する際の留意点》
● 記入に迷った際は、記入欄右下の記入例を参考にしてみてください。
● 読者像が絞りきれない場合は、読者像ごとにシートをつくります。
● 目的が複数ある場合は、優先して達成したい目的の順位をつけると、課題を書き出したときの優先順位がつけやすくなり、次回にも活用しやすくなります。

 

実際にこのシートを使って、自社の制作した媒体を診断していただくセミナーを開催しました。
詳しくはこちらのレポートを参照ください。
【レポート】広報媒体健康診断セミナー|ラボ

 

※本資料をセミナーやワークショップで用いる場合、また書籍に転載する場合にはコンセントまで事前にご連絡ください。
講演・セミナー・取材の依頼やご相談

2016.05.25

デザイン会社は社会に対してどんな役割を果たしているのか。そもそも「デザイン」とはなにか。

コンセントとグループ会社のPIVOTは、2016年4月18日と21日の2日間、就職活動生向けのイベント「CONCENT×PIVOT Night Session 2017」を共同開催。プログラムの第一部で、コンセント代表取締役でインフォメーションアーキテクトの長谷川敦士と、PIVOT代表取締役社長の宮嵜泰成による「社会に果たすデザイン会社の役割」と題したトークセッションを行いました。

 

「デザイン思考」「Design Thinking」といった言葉をよく耳にする現代においては、「デザイン」という言葉が、いわゆる表面的な見た目だけではなく、本来の「設計」という意味として日本でも広く捉えられるようになってきています。

このトークセッションでは、デザインやデザイン業界に興味をもち仕事の選択肢として考えている学生の方々に本質的なデザインの意義を伝え、人や社会のために活かせるようになってほしいと考え、デザインの捉え方や社会に果たすべき使命についてお話ししました。

本記事ではこのトークセッションの内容をご紹介します。

(セッション中にご紹介した2名のバックグラウンドも、別記事「【対談|バックグラウンド編】長谷川敦士 × 宮嵜泰成『“デザイン”をはじめたきっかけ』〜 CONCENT×PIVOT Night Session 2017 より〜」にてご紹介しています。ぜひ合わせてご一読ください。)

 


はじめに


「デザイン」は見た目の話だけではない

長谷川:
デザインの仕事に関わっていない人に「『デザイン』ってなんだと思う?」と聞くと、ファッションデザインのことを思いつく人が一番多いと言われています。グラフィックデザインという言葉にも馴染みがあるので広告のポスターなどを思い浮かべる人もいるかもしれませんね。

「デザイン」という言葉は、一般的にはいわゆる「見た目」として認識されることが多いと思いますが、本来は見た目だけのことではありませんし、「デザイン」という言葉は今、こうした意味とは異なる捉えられ方になり、社会的な市民権を得てきています。

今回のイベントの参加者属性もいわゆる美大系と呼ばれる大学と一般大学の割合が半々であることや、僕自身、武蔵野美術大学や多摩美術大学などの美大で講義をしていますが、たとえば産業技術大学院大学などの美大以外でも「デザイン」を教える機会が増えてきていること、また、クライアントからいただく相談内容をみていても、社会の中で「デザイン」が今までとは違う意味で捉えられているという感覚がありますし、デザイン会社を経営している立場としてもそうなっていくと思っています。

 

宮嵜:
今、長谷川さんが言った「そうなっていくと思っている」というところは結構大事なことなんです。特に日本では、ビジネスにおいてはまだまだ「デザイン」という言葉が見た目の話に終始してしまっているのが実際のところだと感じています。

みなさんにはぜひ、ふだん生活する中で「もう少しどうにかならないかな」ということを考えるようにしてほしいです。たとえば電車に乗るときにSuicaのチャージをしたり、銀行のATMでお金を出し入れしたりするときに「なにか迷うことはないか」とか、新しい設備があって自動化されるはずなのになぜか近くには案内係の人がたくさんいて説明をしてくれるといったシーンをみたら「不思議だな」と思える感覚を日常的に身につけてほしい。

さらにそうした問題があったときに、解決手段として文字サイズなど画面の見た目をよくしたらいいと安易に思ったり、そうしたことをやるのがデザイナーだと一般的には思われがちなのですが、それだけではないことを理解してほしいと思います。「利用する人が、そもそもなんの目的でそこにいて、一番やりたいことはなにか」を根源的にひも解いていき、そこからいろんなしくみを考えた結果として目にしたり触れたりできるアウトプットが出てくるわけで、その思考や行為全体が「デザイン」なんです。みなさんがふだん目にしているものは単に「かっこいいもの」としてデザインされたわけではなく、たくさんの「デザインの思想」が含まれて設計されたものなんです。

僕らがやっている「デザイン」は、特に「設計が大事」ということがポイントなんですね。

 

長谷川:
「デザイン」という言葉の意味が拡大化している中で、宮嵜さんが言ったように日常での困りごとがあったとき、本質的なことをみてどうすればそれを解決できるのかを考える。そうするといろんな解決方法がみえてきます。

すごくおもしろいケーススタディーに空港のサイン計画があります。人の流れを考えて、手前には急いでいる人向けの情報を、奥にはそんなに急いでいない人向けの情報を表示するようにしたら、急いでいる人は必要な情報を素早く取得して反応できるし、急いでいない人は手前にある情報は自分が必要とする情報ではないことがきちんとわかる。つまり「『時間軸』をコントロールしてサインの設置場所を変える」というデザインをしているんですよね。

今日は会社説明のイベントではありますが、「デザイン」という言葉をきちんとわかってもらえればそれでいいと思っています。コンセントやPIVOTに応募してもらうというのは正直問題ではなく、むしろ「デザイン」をしっかり理解した上で、いろんな業種や企業をみて志望先を決めた方がいいからです。

 


「デザイン」とは


「ライザップ型」になった「デザイン」

長谷川:
前述の「本質を突き詰めるアプローチ」は「デザイン思考」(英語では「Design Thinking」)と言われているのですが、今、この言葉は『Harvard Business Review』(ダイヤモンド社)というマーケティングや経営などの理論を語る有名なグローバル・マネジメント誌をはじめとしたビジネス誌でも頻繁に取り上げられていて、ちょっとした流行になっています。正確に言えば流行はひととおり終わり、「デザイン思考はこれからどうなるのか」といった普及の段階に入っています。

専門分野だけではなくビジネス一般で語られるようになったということは、「デザイン」の一定の重要性が世界的に認められてきていることを意味していますが、このように世の中の認識が大きく塗り替えられたのは2000年代でまだ最近のことなんです。

プライベートトレーニングジムの「ライザップ(RIZAP)」をご存知でしょうか?
コンセプトは「結果にコミットする」。「commit(コミット)」を直接和訳するのはなかなか難しいのですが、要は「結果を出します」ということを言っているんですね。

トレーニングマシンやプールなどの設備を充実させているのが従来型のジムとすると、「ライザップという概念を使うことによって、痩せることができたり筋肉をつけることができる状況になる、ということをやる」のがライザップ。従来型のジムも目的は同じですが、目的を達成するための手段が異なっているんです。「設備というモノを提供する」という従来型のジムに対して、「ゴールが達成できるか」ということに深く関与するのがライザップの特徴です。

実は「デザイン」の捉えられ方も昔は従来型のジムのようなものでした。つまり、「グラフィックデザイン」「インダストリアルデザイン」「ファッションデザイン」といった言葉に代表され、「絵を描く」「モノのカタチをつくる」といったこと、たとえるならば従来型のジムが設備を用意しているという「手段」のことがデザインだと言われていたんです。

それが今、どのように認識が変わってきたかというと、ここ数年さまざまなシーンで聞くようになった「エクスペリエンスデザイン」「体験デザイン」「ユーザーエクスペリエンスデザイン(以下、UXD)」といった言葉に表れているように「あなたが得られる『体験』をつくります、というのが『デザイン』である」と広く捉えられるようになりました。コンセントが実際にやっているのもUXDです。

比喩的に言えば「デザインはライザップ型になった」。「ユーザーの体験という『結果』」に対していかに関与できるかというように、「デザイン」というものの考え方が変わってきているのが時代の大きな流れです。

「どうデザインすべきか」が日々変化する

長谷川:
これまでは「トレーニングジムをつくりましょう」といったら場所やマシンなどの設備のことを考えればよかったように、たとえばグラフィックデザインをやるのであれば、まずは平面構成のことや「みえるということはなにか」といったことを学ぶなど分野としてわかりやすかったのですが、「UXDをやります」という場合、ものすごく壮大な話になってきます。ライザップで言えば、その人が今太っている原因はなにかを探求し、設備だけではなく食事制限なども含めて痩せるという目的を果たすための過程づくりをやらなければいけないというように、全方位的に関わることになるからです。

ただ学生時代には、最初からこうしたことに取り組むよりも、まずは自分の得意分野をつくっていくようにした方がいいでしょう。すべてのことについて万能なユーザーエクスペリエンスデザイナーというのはまだいないんですね。果たしてなにをデザインしたらいいのか、お題がどんどん変わってくるので。

たとえばスマートフォンも、10年ほど前はモバイル端末にすべての情報が入るなんて、産業としてはまだ誰も考えていなかったわけです。あくまでメールのためのサブ端末という位置づけだったと思います。ところが今では、WebプロジェクトをみてもPCサイトよりもスマートフォンサイトをメインとして考えるのが当たり前というように、ビジネスにおいて重要なものになりました。

でもさらに5年後はどうなるのか? スマートフォンといった端末が果たして適切なのか?

たとえば今、マイクロソフトの「HoloLens」では「拡張現実(AR:オーグメンテッドリアリティ)」という技術で環境にバーチャルなものを融合できるようになったりとテクノロジーが日々発達しているため、「ユーザー体験をどうデザインしていくべきか」ということ自体もどんどん変化していきます。UXDを提供するための方法論をもっている我々のような会社であっても日々学ばなければいけないんです。

 


デザイン思考とは


非デザイナーがデザイナーのように物事を考えるための方法論

長谷川:
本質を突き詰めるアプローチである「デザイン思考」という言葉ですが、特にデザイン業界に興味のあるみなさんにはよく理解してほしいので本来の意味を説明しておきますね。

「デザイン思考」というのは、「非デザイナーがデザイナーのように物事を考えるための方法論」です。つまり、デザイン教育を受けていない人、デザイン業界ではないビジネスパーソンといった人たちが、デザイナーのやっている取り組みをうまく活用して、新しい事業の成功などを目指すためのものです。
ですので、デザイン会社であるコンセントやPIVOTのメンバーにとっては、自分たちの考え方が「デザイン思考」というわけです。

やみくもにブレインストーミングしたりアイディア100連発出しをするのではなく、デザイナーが性(さが)としてやっている「本質を突き詰めるアプローチ」という正しい方法論をとる。ただ、こう言っては紛らわしいかもしれませんが、これをやれば絶対うまくいくというものではありません。これは方法論というものが常にもっている宿命のようなものですが。やってもつまらないアイディアしか出ない人もいれば、放っておいてもおもしろいアイディアを出せる人もいます。でも、こうしたプロセスを丁寧に追っていくことによって、いい企画を出せたり本質に近づくことができたりするのも事実です。かなり熟練した人であってもやっています。

デザインの普遍的なアプローチ〜「具体→分析→抽象→統合→具体」〜

長谷川:
「本質を突き詰める」といったときに、そもそもどこまで戻ってどう考えていくのかを理解してもらうために、1つ概念を紹介したいと思います。ちなみにこれは、僕が大学院のドクター(博士課程)を出る20代後半までずっとサイエンスの分野にいたところを急にデザインをやることにしたので(関連記事「【対談|バックグラウンド編】長谷川敦士 × 宮嵜泰成『“デザイン”をはじめたきっかけ』〜 CONCENT×PIVOT Night Session 2017 より〜」を参照)、美大を卒業してデザインでしのぎを削っている人がいっぱいいるところに喧嘩を売りに行くという状況にもかかわらず何も知らないのはまずいと思い、デザインについていろいろ勉強してたどり着いたものです。

その概念とは、問題解決のための人の活動には「具体→分析→抽象→統合→具体」というように物事の思考を進めていくという、普遍性の高いプロセスがあるということです(上図)。

この図の中の言葉を説明すると、「分析」というのは物事をより細かくみていく、分解をする、理解をするといった理解側のアプローチで、「統合」はそれらを組み合わせて問題を解決しようとか、アウトプットしようといった方向性です。英語で言うと「Synthesis and analysis」という言葉でよく対で使われるものです。
「抽象」(abstract)とは概念的であるとか何かをモデル化したりすることで、それに対して「具体」があります。こちらも「もっと具体的に喋るように」とか「抽象概念がどう」といったような対比があり対で使われる言葉です。

ユーザー体験だけではなくたとえば組織の問題や自分の将来などどんな問題であっても解決しようというときには、まず具体的なものをみてそこにある事実を把握します。たとえば「今この場にいる人たちの特徴をまとめて何か解決案を示せ」といった場合、まず男子は何人、女子は何人と数えて年齢のばらつきを調べ、具体的にこの場にいる人全体の属性を分析的に理解するというように。

そうして進めると「男子が15人、女子が18人」とわかるわけですが1人1人について最適化していってもきりがなく事実自体をみていても解決には至らないので、それらを抽象化します。事実を整理して、情報量を減らしたりどういう要素があるのかと分解したり、モデル化するということを行うわけです。「ざっくりみると、女子はこんな感じで男子はこう」といったように。あるいは男女ではなく「活発な人はこれぐらいで受け身な人はこれぐらい」と分けるのもいいかもしれません。抽象化する際の軸はいろいろあります。

こうして単純化したところから「こんなことが問題なんだ」という理解をして、ヒントを得て、どう解決するのか概念的な解決の方向を考え、それらを組み合わせて統合し、具体的なカタチとして現実化させていきます。たとえばみなさんにリーフレットを配ってコミュニケーションをとろうとか、アプリで何かをしようといった具合に。そうしてつくった試作を問題に適応して具体的に検証し、効果がなければまたこのサイクルを回していきます。

このアプローチは意識してやっている人もいれば無自覚にやっている人もいるのですが、なにか問題に直面したときにそれを解決するためこのような思考で振る舞っていくということが普遍的なアプローチとしてあり、このアプローチが社会的な問題全般の解決に役立つと考えています。

 


社会におけるデザイン会社の役割


なぜデザイナーのアプローチが社会の役に立つのか?

長谷川:
「デザイナー」と呼ばれている人たちは問題解決にこうしたアプローチをとっています。
そしてデザインは最終的には人が触れるものに落とし込まれる場合が多いので、このアプローチをするときに必ず「人」をみるんですね。「誰の問題を解決しようとしているのか」「どういうふうに困っているのか」といった視点で人を観察して理解をする。そこから課題をみつけていくんです。

触れられるもの以外でも、たとえばテクノロジー分野における人が介在しない技術的な問題の解決にこういうプロセスをとることもあります。また、問題解決型のデザインだけではなく、「スペキュラティブ・デザイン」と呼ばれるビジョン提案型のデザインでも同じです。「スペキュラティブ」というのは「投機型」という意味で、デザインのアプローチを使って企業のより先のビジョンをつくったり、新しい方向性を提示することにより世界を変えていこうというものです。

ではなぜデザイナーは人をみることを重視しているのでしょうか。それはニーズの変化にあります。

技術や豊かさが不足していて世界的に成長期だった時代には、たとえば自動車ならきちんとつくられるといった「生産能力」や、いかに速く走るかといった「性能」などが重視されていたので、人が介在しないいわゆる工学的なアプローチでも有効だったし、あるいは狭い意味でのマーケティングと呼ばれている「誰に売るか」をファインチューニングしていけばビジネスが成立していました。もちろん局所的にはデザイン思考のようなアプローチはとられていましたが。

ところがモノが足りてきた現代では、車で言えばこれ以上の速さは求められないというように、モノ自体への大きな渇望がなくなってきて、ただモノをつくるだけでは商売として成り立たなくなってきました。別の言い方をすれば、世界が豊かになったから「人の体験」を考えることにやっと向き合えるようになってきたんですね。

じゃあどんな体験がいいのかというと、人により千差万別で多様化しています。だからデザイナーは「人」をいちいちみて考えるわけです。「考える」というのも人をみるのと同様に重要です。具体的にみたことを組み合わせてカタチにするだけなら「デザイン」とは言えないでしょう。

車に関連した「体験」を考えるいいケーススタディーに、カーシェアのサービスがあります。今すごく流行っていますね。車をただつくって販売するのではなくて、「どんなふうに人が車を利用しやすくすれば、所有はしなくてもうまく利用だけできるようになるか」ということが設計されています。また「Uber」というタクシーの配車サービスでは、サービス提供社側だけではなく、誰でも運転手になることができます。アプリの中で「ここからここまで乗りたい」と言っている人に対し「自分が運転手をやります」と言うと「では運転手をお願いします」となり、運転手を務めた人にお金が入るという新しいシステムです。

このように、「人がいかにうまく使えるようになっているか」という社会の中での「システム」をデザインしたり、「人の利用体験」をデザインするということがすごく重要になってきています。そしてこうした新しい事業やサービスの開発にあたり、デザイナーがやってきた問題解決のアプローチで考えていくことは、社会の役に立つことになるんです。

デザイン会社の存在意義

宮嵜:
今の「社会の中でのシステム」という話に関連して、僕がITに興味をもってから今日までの間に何が変わってきたかというところをお話ししたいと思います。

従来の巨大IT企業は昭和の社会システムを支えるIT化をしてきました。たとえば市役所に行って住民票を請求すると、住民票が紙として出力されて手渡されますよね。プリンターから出力されるので、これも「IT化されている」わけです。ただ、先ほどの図でいくと「具体」を「分析」しても「具体」のままなんです。つまり、コンピューターなどのIT機器に置き換えればそれだけで物事の効率化ができていたんです。

でも今は、社会のシステム自体が大きく変わってきているので、あらためてこの「デザイン思考」といったプロセスに真剣に取り組むことで、きちんとカタチにできるチャンスにすごく恵まれていると言えるんです。

さっきの「Uber」のような新しい社会システムを生み出せる環境になってきたときに、「デザイン」で解決するということにPIVOTも取り組むことができているのですが、これは、大手のIT企業がいる中で僕らのような会社でやる1番のおもしろさでもあります。

 

長谷川:
コンセントでは、企業のコミュニケーションデザインやブランディング、新規事業開発といった際に、こういうアプローチを適用しながらやっているわけですが、デザイン会社のメリットとしてはいろんな業種の仕事を扱えることがあります。ものすごいスピードで変化していく現代の社会では先を読むことは簡単ではありませんが、いろいろ試しながらやっていけるのは僕らにとっても経験が積めることになります。

そして今、世の中全体が「デザイン思考」の重要性に気づいていることが、僕らが「デザイン」の可能性を見出している1つの要因になっています。そしてそれはコンセントやPIVOTのようなデザイン会社が存在する意義につながると思っています。「デザイン」が重視されていることは、多くの一般企業(※デザイン会社ではないという意味での「一般」)の事業開発部門などにデザインを学んだ人が就職して活躍していることからも言えるでしょう。この場合はデザイナーを組織の中に入れることでデザイン思考を取り入れていることになりますが、「デザイナーがもっている考え方を事業開発に活かしている」わけです。

多くの企業は解決すべき課題をたくさん抱えていますし、また個人の日常生活でも解決したら嬉しいことは多い。「デザイン」のアプローチを使い課題を解決していくのが僕らデザイン会社の仕事です。コンセントやPIVOTのようなポジションの会社が世の中から求められているし、デザインで解決できる可能性がわれわれにはあるので、社会に対する役割として果たさなければいけない、と強く感じています。

 


ユーザー体験のデザインに必要なこと


自分のための「アート」「サイエンス」、人のための「デザイン」「エンジニアリング」

長谷川:
コンセントやPVOTについて理解いただくためにもう1つ概念をご紹介します。また4象限しばりで申し訳ないのですが。

「アート」「サイエンス」「デザイン」「エンジニアリング」という4つに分け、「誰のためか」という縦軸に「自分のため」と「人のため」を、横軸に「自然」「人の内面」のいずれをよりみているかというのをとることができます(上図)。なお、ここでの「アート」は絵や文学、音楽なども含めた芸術全般を指しています。

「デザイン」と「アート」は美術大学の中にデザイン学科があることもあってよく混同されがちなのですが、このように概念的に整理することで一般化して考えることもできるんですね。

僕はずっと「サイエンス」の分野を研究していたので(関連記事「【対談|バックグラウンド編】長谷川敦士 × 宮嵜泰成『“デザイン”をはじめたきっかけ』〜 CONCENT×PIVOT Night Session 2017 より〜」を参照)100%言い切れるのですが、「サイエンス」では人のためにということは全く考えていないんです。自然科学への興味をもとに「それが何なんだろう?」という探究を行うのが「サイエンス」の本質なので、むしろ、他人に役立てようとかは考えない方がいい。結果的に人の役に立つかもしれないですが。

理系の人はよくロジカルシンキングだと言われますが、やっていること自体は本当に思いつきなんですよね。ただ、思いつきだけだと他の人に共有できないから、思いついたこととそれ以外がつながるように階段をつくっている。ロジカルにシンキングしているわけではなくて、「今までにわかったのはこの辺りで、こういうことがわかって、これはここからこうつながります」と書いたロジックで説明をしているだけなんです。

僕がやっていたスーパーカミオカンデにしても他のバイオケミカルなものにしても「サイエンス」は全て基本的には「自分のため」にやっています。これは「アート」も同じで、興味の向き先が自然一般であれば「サイエンス」、人間の内面寄りであれば「アート」になる。もちろんアートビジネスとして結果的に商売にはなるのですが、どちらかと言うと「これを表現したい」という自分の中の創造欲求や衝動でつくられていくものが「アート」ですから。

「アート」と「サイエンス」は基本的には人間の知的な探求で、たいていの大学の「教養学部」の英語表記が「School of Arts & Sciences」とされているのもそのためです。

そして「人のため」に「アート」を応用するのが「デザイン」で、「サイエンス」を応用するのが「エンジニアリング」です。

領域横断で考えることが重要

長谷川:
ここでの「デザイン」で表現されるものは先ほどお話ししたユーザー体験というよりは、グラフィックやテキスタイル、ファッションなどに近いのですがこれらは全て、人の反応を呼び起こしたり人の感情に対して働くというような「人間についてのアートで得られた知見や表現、直感を応用して人のために役立てているもの」です。

一方、ニュートリノや水の流れ方など「自然についてサイエンスで得られた知見を応用して、社会の問題を解決したり人の役に立たせようとするもの」が、土木や機械工学、情報工学などの「エンジニアリング」になります。

この4象限でのデザインがこれまでのデザインになるのですが、コンセントやPIVOTが取り組んでいる「ユーザー体験をつくっていくデザイン」は、このすべての分野が統合されて生み出されます。

「ユーザー体験のデザイン」では、たとえば人が大勢いることによってなにか変わるかとか、ソーシャルネットなどのコミュニケーションによって人間の距離感のおき方がどう変化するかといった、人間の気持ちも考えていくことになります。この「行動経済学」と呼ばれている「人間の意思決定というものは全然合理的ではなく、感情に左右されるというものである」ということを無視できないわけですが、実はこれらは人間についての知見を得てきた「アート」の領域でもまだそんなにわかっている話ではないんです。

先ほどの「結果にコミットする」というライザップ型で考えるときには、「アート」的な要素や「サイエンス」で発見された論証可能な知見など、すべての領域をミックスして考える必要があります。どこか1つの領域だけをやればいいのではないんですね。たとえば美大でデザインをやっていた人でもその知識だけで乗り切ろうとするのではなく、他の領域の知識と組み合わせて考えて問題を解決するということが要求されるようになっています。個人的にはこうした状況はすごくおもしろくて僕自身もやっていますし、実際コンセントで「デザイナー」を名乗っている人の中には美大卒ではない人がたくさんいます。

特に「エンジニアリング」と「デザイン」という2分野はものすごく融合しなければいけなくなっています。それがコンセントとPIVOTが同じ企業グループとして一緒にやっている理由でもありますが。

「デザイン」と「エンジニアリング」の融合

宮嵜:
そうですね。「デザインとエンジニアリングをいかにつないでいくか」ということはPIVOTの大きいテーマでもあります。

一般の消費者からしたら、デザイナーがデザインしたものがきちんとカタチになってでき上がるわけですから、デザイナーとエンジニアが手を携えてやるのは当然の話ですが、実際にはその間に壁がうまれることもあります。よりエモーショナルに人の心に訴える話と生産技術や効率化の話を一緒に考える必要がありますので。これは利益相反したりすることもありますし、デザインとエンジニアを担当している会社が異なる場合もあります。

だからこそデザイナーとエンジニアがいかに手を組むかというのは重要なテーマなんですよね。そこがおもしろいところでもありますが。

 


就活生へのメッセージ


「デザイン」のアプローチを、世の中にもっと普及していこう

長谷川:
今日のデザインプロセスの話を聞いて「そんなことわかってるよ」と思った人もいるかもしれません。ただ、「分析した内容から統合する」「具体的に観察したことを抽象化する」「統合して見出されたことを具体化してカタチにする」ときなど、プロセスとは言ったものの実際に回すにはいろんなレベルでのジャンプが必要になり、個人の力量が問われます。目の前の困ったことや、大学での卒業研究やレポート、課題などに取り組むときにも適用可能なフレームワークですので、ぜひふだんから意識をしていただけたらと思います。

今、デザインやデザイン思考は世界的に重視されていて、今後ますます必要とされていくものだと本心から信じています。今日お話ししたようなデザインの考え方やアプローチを、もっと社会一般に普及させていかなければいけない。そのときに、国内だけではなくグローバルな動向を常にキャッチしておく必要がありますが、中国、東南アジア、南米、ヨーロッパなどではビジネスシーンにおいて自国語ではなくほぼ100%英語を使っているため同時にその情報を得らるのに対し、日本だけが言葉の障壁で遅れがちなため、デザインを扱っているわれわれがそういう話を世の中にもっと発信していかねばという使命感をもっています。採用という文脈で言えば、そういうことを考え一緒にチャレンジしていく人を求めています。

ただ、お互いよく知らないのに「ぜひうちにきて」と言うのは不誠実ですし、コンセントやPIVOTに入るか入らないかは別として、今日お話ししたような問題意識はこれからの世の中にすごく必要だと思っているのでぜひ議論したいですね。

本質を突き詰めて、世の中をよくしていこう

宮嵜:
絵を描く勉強を専門的にされている方もいらっしゃれば理系の方もいらっしゃったりと、いろんな分野を学んでいる方が今日来てくださっています。

僕らPIVOTにも、デザインの専門的な知識をもった人もいれば、新しい技術を取り込んでプログラムをつくっている人もいます。今日の話のようなことを考えて、デザインとエンジニアリングの両者のスキルをすごく高い次元で活用して世の中にアウトプットを出していきたいと思っているので、いろんな方にきてもらえるといいなとこのようなイベントを開催したわけです。

「はじめからきちんと考えたいんです」という出発点の仕事がだいぶ増えてきているとはいえ、まだまだそういう仕事ばかりではないのが現状です。
でもPIVOTでは、たとえばクライアントからの依頼が「この画面をよくしてほしい」という端的な内容だったとしても、いきなり画面だけをみて使い勝手がどうこうと判断していくのではなく、「そもそもこのWebサイトやアプリを使う人は誰で、どういう経路を通ってたどりつくのか」というところから考え、本質にある問題を探り解決方法を提案しています。

言われたことだけをこなすという姿勢ではなく、ときには「めんどうくさい人たちだ」と思われるぐらい(笑)いちいちこうしたアプローチをとっているのは、「本質的な問題をみつけて真剣に考え、エンドユーザーやクライアントにとっていい方向にもっていき、世の中をよくしたい」という信念があるからこそです。

 

対談日:2016年4月18日、21日
※本記事は2日間の対談内容をもとに構成したものです。

(原稿執筆:岩楯ユカ/コンセント PR division)

 

【関連リンク】
ラボ|【対談|バックグラウンド編】長谷川敦士 × 宮嵜泰成「『デザイン』をはじめたきっかけ」〜 CONCENT×PIVOT Night Session 2017 より〜
イベント情報|就職活動生向けイベント「CONCENT×PIVOT Night Session 2017」開催のお知らせ

2016.05.25

コンセントとグループ会社のPIVOTは、2016年4月18日と21日の2日間、就職活動生向けのイベント「CONCENT×PIVOT Night Session 2017」を共同開催。プログラムの第一部で、コンセント代表取締役でインフォメーションアーキテクトの長谷川敦士と、PIVOT代表取締役社長の宮嵜泰成による「社会に果たすデザイン会社の役割」と題したトークセッションを行いました。

 

当日は、文学部やシステムデザインマネジメント研究科、商学部、コンピュータサイエンス、経済学部、教育学部というようにいろんなバックグラウンドの学生の方々に参加いただき、長谷川と宮嵜からも参考としてそれぞれが「デザイン」にたどり着くまでのバックグラウンドをお話ししました。本記事ではその内容をご紹介します。

(バックグラウンド以外のトークセッション内容は、別記事「【対談】長谷川敦士 × 宮嵜泰成『デザイン会社が社会に果たすべき役割とは』〜 CONCENT×PIVOT Night Session 2017 より〜」にてご紹介しています。ぜひ合わせてご一読ください。)

◎Index

バックグラウンド1:長谷川敦士(コンセント代表取締役/インフォメーションアーキテクト)
-「理解のデザイン」に興味をもったきっかけ
- 映画『Powers of Ten』で広がった未知の世界への興味

バックグラウンド2:宮嵜泰成(PIVOT代表取締役社長)
- 現場出発で身をもって実感しながら本質に気づいていった

 


バックグラウンド1:長谷川敦士(コンセント代表取締役/インフォメーションアーキテクト)


「理解のデザイン」に興味をもったきっかけ

長谷川:
大学の学部時代は物理学科にいて素粒子物理学をやっていました。
素粒子物理学というのは、物が一番小さくなったときの構成要素を研究対象とする分野のことです。後にノーベル物理学賞を授賞することになる、スーパーカミオカンデ(東京大学宇宙線研究所が岐阜県飛騨市神岡町の神岡鉱山の地下 1000mに設置した素粒子物理研究のための観測装置。コトバンクより引用)のプロジェクトがあるんですが、今から20年くらい前、ちょうどその発見をした頃にプロジェクトをやっていました。

「物が一番小さくなると何がわかるんだろうか?」ということを知りたいという欲求で、大学院の修士課程でも素粒子物理の研究を続けていたのですが、そのうち「物が一番小さくなっても何だかよくわからない」ということがよくわかって。正確に言えば、物が一番小さい状態というのは数式で記述はできるんですけれども。ただ、それが僕の中で直感的に「あ、わかった」ということに結びつかないということがわかったんです。そうして興味をもち始めたのが「人間の脳みそは何をやっているんだろう」ということでした。

人工知能の分野は今でこそ流行っていますが、僕が大学院生の頃の90年代は「冬の時期」と呼ばれ人工知能が下火になった時期。そんな時代のなか人工知能の研究分野に移って、そこで認知科学と呼ばれている研究をやりました。

院を合わせて9年間くらいずっとそうした研究をしていたのですが、2000年になるぐらいのときに、「物事を理解するということのデザインをする」という分野があることを知ったんですね。きっかけはリチャード・ソール・ワーマンというアメリカの編集者です。もともとは建築家でその後グラフィックデザイナーになり編集者になった人です。

NHKで放送されていたりするので知っている人も多いと思いますが、TEDカンファレンス(以下、TED)を生み出したのがこのリチャード・ソール・ワーマンです。

「TED」は「Technology, Entertainment and Design」の略で、TEDのWebサイトには、TEDのロゴの脇に「Ideas worth spreading」(広げる価値のあるアイディア)ということが書いてあります。彼が「これからの時代、“テクノロジー”と“人を楽しませること”と“デザイン”のアイディアは集めて共有することがすごく大事になる。いろんな人たちのアイディアを集める場をつくれば知の共有ができるだろう」とやり始めたことなんです。余談ですが、TEDは1993年に日本で開催されたことがあり、呼んだのはコンセントの取締役である吉田望。彼がリチャード・ソール・ワーマンのファンで電通時代に呼んだんです。

リチャード・ソール・ワーマンは『Understanding USA』(1999年。Ted Conferences)というおもしろい本を書いていて、統計データはそのままでは読みにくいのでわかりやすくするために、アメリカの統計白書を片っ端からインフォグラフィックスにする、ということをこの本でしているんですよね。こうしたプロジェクトを彼はガンガンやっていて、彼の他にも、アクセスマップやガイドブックをつくったりなどいろんなことをやっている人がいる。

彼らの考え方や活動に触れ、こうした意味での新しい「デザイン」という仕事は、美大出身ではない僕でもできる可能性があるんじゃないかと思ったんです。冒頭でもお話ししたように、このような新しい「デザイン」の分野はこれからすごく重要になると思って始めました。

映画『Powers of Ten』で広がった未知の世界への興味

長谷川:
科学のバックグラウンドがあって、リチャード・ソール・ワーマンの「物事を理解することのデザインには、これから可能性がすごくある」という言葉に興味をもち今デザインをやっているわけですが、もう1つ忘れもしないきっかけが『Powers of Ten』という映画です。

映画の冒頭に、公園で人が寝ているところからカメラがどんどんズームアウトしていくというシーンがあります。
英語の「Power」は「○の何乗」というときの数字の肩につけるものを指すので、映画のタイトルの「Powers of Ten」というのは「10の何乗」という意味です。最初が10の0乗だから1mスケールで人が映っているのだけど、10の1乗になると10mスケールになり、次は10の2乗…という具合にどんどんカメラがひいていく。すると地球が丸ごと入り、そのままひいていくと太陽系が入りさらに太陽系が小さくなっていって銀河系に入っていくというふうにどんどんどんどんひいていくのですが、27乗ぐらいまでいくと今度はガーッと寄っていって人のスケールになる。そして10のマイナス1乗になり10センチのスケールになって人の手の中にどんどん入っていって、10のマイナス20乗くらいまでいくと。

このように科学への興味やいろんな視点を得ることにすごく役立つ映画なんですが、IBMと一緒にこの映画をつくったのが、有名な家具デザイナーであるチャールズ&レイ・イームズ夫妻。

プロダクトを手がけていたイームズ夫妻が、人にどうやってものを伝えていったらいいかということや、自分が見えている世界をいかに描いて伝えようかといったことをすごく考えて、コンセプトをつくっているんです。

この映画が制作されたのは1968年で、まだ素粒子というものは一般的には知られていない時代。「ここから先はまだ明されていない未知の世界である」みたいなことで話が終わって。小学生のときにこの映画を観て「わ! その先はなんだろう?!」と思ったのが、僕がそもそも物理をやるきっかけでした。
映画自体がすごくおもしろくて、大きさにとらわれないでいろんな視点で物を考えるということの一助になると思うのでぜひ見てもらいたいです。

今思えば、チャールズ&レイ・イームズ夫妻のデザインされた世界の中で僕は自分のモチベーションを培っていったので、「デザイン」に始まって今また「デザイン」をやっているんだなと感じています。

 


バックグラウンド2:宮嵜泰成(PIVOT代表取締役社長)


現場出発で身をもって実感しながら本質に気づいていった

宮嵜:
長谷川さんはアカデミックな世界で生きてこられていて研究の場に長く身を置かれていたんですけど、僕は全く対極の道を歩んでいて、すごく早い段階で社会に出ています。

今はアプリやWeb サイトをつくっているPIVOTという会社にたまたまたどり着いていますが、初めに入社した会社で仕事をしているうちに、コンピューターが会社に浸透してきたのがそもそものきっかけです。ちょうど90年代の終わりぐらいですが、インターネットに接続するということ自体が普通の中小企業にとっては「そんなの必要なの?」という時代。そんな時代に「これ、おもしろいんじゃないかな」と思って、自分で勝手に勉強を始めて、だんだんとそういう道に来ているんですね。

そのとき一番おもしろいと感じたのは、その道具の使い方を正しく知りさえすれば、たとえば仕事が10分の1ぐらいの効率になったりしたことです。今はそこまでのドラスティックな変化を起こすことはできるとはいえ難しいですが、当時はその使い方さえ理解すればものすごい効率化が図れることがわかった。勝手に社内を啓蒙・説得して予算をつけてもらってといったことをやっているうちに、どんどん本業になってきたという流れです。

初めは小手先のテクノロジーに踊らされますが、「正しく使う」とか「きちんと効率化しよう」ということに向き合っていくと、「効率化をするためにはどうすればいいか」「そもそもこの業務はどういう仕組みになっていて、なぜこういうルールで動いてるのか」といったことをだんだん考えるようになってくるんですよね。現場の表面的なことよりももう少しさかのぼって、「そもそもなんでこうなっているのか」といった本質的なことをしっかり考えるのが大事。「デザイン」という言葉についても、見た目だけの話ではないということに、やっているうちに気づいていきました。

PIVOTがAZグループに参画する前、コンセントの長谷川さんは僕にとっては先生みたいな感じだったんですよね(笑)。著書などを読んで「こういうふうにきちんと考えて取り組んでいくのが、これから大事だな」と感じていて。そういう情報をキャッチしていたら、たまたまですけれども最終的に出会って今は一緒のグループにいるという。

 

対談日:2016年4月18日、21日
※本記事は2日間の対談内容をもとに構成したものです。

(原稿執筆:岩楯ユカ/コンセント PR division)

 

【関連リンク】
ラボ|【対談】長谷川敦士 × 宮嵜泰成「デザイン会社が社会に果たすべき役割とは」〜 CONCENT×PIVOT Night Session 2017 より〜

イベント情報|就職活動生向けイベント「CONCENT×PIVOT Night Session 2017」開催のお知らせ

2016.04.18

2016年4月21日にビー・エヌ・エヌ新社より『今すぐ現場で使えるコンテンツ ストラテジー ビジネスを成功に導くWebコンテンツ制作 フレームワーク+ツールキット』が刊行されます。

コンテンツストラテジーとは、Webサイトの構築やリニューアルプロジェクトにおいてその中身(=コンテンツ)をいかに効果的に最適化していくか、そのプロセスとアプローチに着目したものです。本書は、そのコンテンツストラテジー分野で業界を牽引している米企業BrainTraffic社のコンテンツストラテジスト、Meghan Casey氏著の『The Content Strategy Toolkit: Methods, Guidelines, and Templates for Getting Content Right』(2015年発行)の翻訳書です。

本書は、コンテンツストラテジーの定番書とも言われている、同社のCEOであるKristina Halvorson氏著の『Content Strategy for the Web』の概念をもとに、コンテンツを中心としたWebプロジェクト全体像と具体的なタスクやツールが紹介された、コンテンツストラテジー実践のための指南書となっています。またプロセスを丁寧に追って説明されていることから、Webプロジェクト入門書としても活用できる1冊です。

日本語版の監修はコンセント代表取締役/インフォメーションアーキテクトの長谷川敦士が務めており、本書巻頭に日本語版刊行にあたっての原稿を寄せています。

《書籍情報》

■ 書名:『今すぐ現場で使えるコンテンツ ストラテジー
― ビジネスを成功に導くWebコンテンツ制作 フレームワーク+ツールキット』

■ 著者:ミーガン・キャシー[BrainTraffic ,Inc.]
■ 監修:長谷川敦士[Concent ,Inc.]
■ 翻訳:高崎拓哉
■ 翻訳協力:トランネット

■ 仕様:B5判変型/248ページ
■ 出版社:ビー・エヌ・エヌ新社
■ ISBN:978-4-8025-1008-0
■ 発売日:2016/4/21
■ 定価:本体2,800円+税

出版元BNN新社のオフィシャルページ

『今すぐ現場で使えるコンテンツ ストラテジー ― ビジネスを成功に導くWebコンテンツ制作 フレームワーク+ツールキット』のご購入(Amazonのサイトへリンクします)

2016.04.08

デンマーク・コペンハーゲンに拠点をおくビジネスコンサルタンシー ayanomimi とコンセントが一緒に開催したイベント「東京デンマークWEEK 2015 ayanomimi x CONCENT」

「東京デンマークWEEK 2015」は2015年10月26日〜30日の5日間に渡り開催されましたが、このうち、10月28日と29日の2日間のプログラムの企画・運営をコンセントが協力。10月28日は「WORK & DESIGN in DENMARK」を、29日は「DANISH PUBLIC DESIGN」をテーマに、各日、午後の部、夜の部の2回実施。さまざまなゲストスピーカーによるプレゼンテーションと、参加者とのディスカッションを通し、デンマークから学べることや日本とデンマークが一緒にできることの探求を行いました。

「東京デンマークWEEK 2015 ayanomimi x CONCENT」全4回のイベントの詳細レポートは、サービスデザインチームが運営するWebメディア『Service Design Park』に掲載していますのでぜひご一読ください。


■イベントレポート|10月28日
午後の部:WORK & DESIGN in DENMARK “デンマークのヒュッゲな職場、デンマークのオフィス環境”

夜の部:WORK & DESIGN in DENMARK “デンマークのヒュッゲな職場、働く環境のトレンドと習慣”

 

■イベントレポート|10月29日
午後の部:DANISH PUBLIC DESIGN “プロセスをデザインするデンマーク、ヒュッゲな公共デザイン”

夜の部:DANISH PUBLIC DESIGN “デンマークの行政サービスのデジタル化”

 

また、イベント企画の背景などについて、ayanomimi 代表の岡村 彩さんやデンマークと結びつくきっかけとなった「Service Design Salon」を主宰している、コンセントのサービスデザイナー小山田那由他が以下の記事でご紹介しています。

■イベント背景について
東京デンマークWEEK2015イベントレポートVol.1 イントロダクション

 

【関連リンク】
セミナー・イベント情報|東京デンマークWEEK 2015 ayanomimi x CONCENT開催のお知らせ

2016.04.08

※本記事はコンセントのサービスデザインチームによるブログ『Service Design Park』に、2016年3月22日に掲載された記事の転載です(転載元:http://sd-park.tumblr.com/post/141477363506/cit-report2015)。

【記事概要】
千葉工業大学工学部/デザイン科学科3年生の「情報デザイン論および演習3」では、サービスデザインアプローチを活用し、社会に役立つデザインを授業テーマとしてとりあげている。コンセントでは、テーマ設定、および学生の中間/最終報告へのレビューにて同授業への協力を行った。

こんにちは。サービスデザイナーの小山田です。
今回は、Pub.Lab.のプロジェクトのひとつである、千葉工業大学授業支援のレポートをお届けします。

 


「三方よしのデザイン」を目指して


千葉工業大学の山崎和彦教授が担当されている「情報デザイン論および演習3」では、工学部/デザイン科学科の3年生が、サービスデザインを実践を通して学んでいます。

2015年度の授業は、「デザインは色やかたちをつくるだけではなく、社会に役立つ素敵な活動」であるという考えのもと、「習志野市民のためのデザイン」をテーマに行われました。山崎教授はデザインを通して実現すべき価値として、「三方よしのデザイン」という考え方を提唱されています。

この「三方よし」とは、かつて近江商人が自分たちの仕事について、社会的な貢献の重要性を表現した言葉です。山崎教授は、企業とユーザーというような二者間の関係性にとどまらず、社会のなかのさまざまなステークホルダーそれぞれが価値を享受できる仕組みをつくる重要性を、この言葉を引用して説明しています。

※三方よしのデザインについて、詳しくはService Design Salon Vol.8「公共のためのデザインの可能性」をご覧ください。

 


学生×三方よしのデザイン


コンセントでは、授業でとりあげるテーマの検討や、中間/最終発表での学生のプレゼンテーションへのレビューに協力しました。サービスデザインを学ぶ学生にとって、この「習志野市民のためのデザイン」は、非常に難しい課題だと思います。サービスデザインの観点からデザインを行うとき、そこにはたくさんの考えるべきことが存在します。そもそも解決すべき課題はなんなのか、サービス提供者側の提供価値はなんなのか、顧客さえも認知していない潜在的なニーズはなんなのか、そしてさらには、どのような組織をつくればそのサービスを実現できるのか……。多様な人々と関わり合いながらさまざまな側面からの検討とデザインを行う必要があります。

そして、「三方よし」という観点で、社会的な貢献も含め課題解決を考えるときには、ステークホルダーが増えることでよりいっそう考えるべきことが多くなります。しかし、だからこそ、いったん自由な発想を武器に、授業を通してさまざまなアイディアをプロトタイピングすることに重要な意味があります。コンセントでは、この授業支援をPub. Lab.のプロジェクトのひとつとして位置づけています。というのも、インタビューなどのリサーチを通して公共サービスを利用する市民側のニーズを把握しながら、制約に縛られることなく、まずはさまざまな可能性を広く考えることが、「公共の課題をサービスデザインアプローチによる“共創”で解決し、よりよい暮らしをつくる」というPub.Lab.のミッションとも合致するからです。

 


プロセスとテーマ


この授業では、「製品の構想段階から対象ユーザーとその要求を明確にして、要求に合ったものを設計し、満足度合いを評価する」というHCD(Human Centered Design:人間中心設計)のプロセスをベースに、ユーザーインタビューやペルソナ作成、エクスペリエンスマップ(カスタマージャーニーマップ)作成、ストーリーボード作成など、サービスデザインのさまざまなツールを活用しています。

情報デザイン演習3のデザインプロセス

2015年度は、同大学の所在する習志野市を対象とした「習志野市民のためのデザイン」というテーマが設定され、さらに下記3つのサブテーマとアドバイザーが設定されました。学生はそのうちひとつのテーマに取り組みます。

習志野市民×郵便局(アドバイザー:IBM
習志野市民×イオン(アドバイザー:Good Patch
習志野市民×習志野市新市庁舎(アドバイザー:コンセント × 公共R不動産

このうち、「習志野市民×習志野市新市庁舎」というテーマに対して、コンセントからは、私(小山田)と千葉工業大学のOBであるサービスデザイナーの黒坂、コンセント代表の長谷川の3名でアドバイザーを担当しました。また、公共空間/建築としての観点からレビューを行うため、Pub.Lab.のプロジェクトでお世話になっている公共R不動産の塩津友理さん、菊池マリエさん、加藤 優一さんにも中間、最終レビューへのご参加をいただきました。

 


サービスデザインができるまで その1


それでは、実際の授業の模様をレポートしていきたいと思います。まず、最初は中間報告会。この段階では、市民へのインタビューを行い、顧客の潜在ニーズを抽出し、コンセプトメイキング、シナリオ作成、ストーリーボード作成など、ひととおりアイディアをかたちにしています。学生は全員で、約50名(!)授業時間は5時間です。すべての学生の発表を順番に行うと、とてもこの時間内では終わりません。そのため、当日はそれぞれのテーマごとに3つのグループに分かれ、パネル発表形式でレビューを行いました。

発表内容は出力されテーブルの上に。

3ヶ月間の成果。(画像提供:公共R不動産)

学生さんひとり一人のプレゼンテーションを聞きながらのレビュー。

学生の皆さんの提案は、具体的なプロダクトよりのものもあれば、より広くサービスエコシステムを考えるようなものもあり、とても楽しく刺激になるものでした。ブラッシュアップのための“ツッコミ”を学生さん自身でしきれていない部分もありましたが、直接質問を投げかけながら「こんな可能性があるのでは?」とみなさんとディスカッションができたのはとてもいい経験でした。とても真剣に取り組んでいるためか、プロセスを忠実に実行しているような少し堅い印象を受けましたが、せっかくの自由な提案ができる機会ですので、思い切った提案を、見る人はもちろん、提案者自身も楽しめるといいなと思いました。私自身、この楽しむ感覚は肝に銘じてデザインをしていきたいと思っています。

アドバイザーからの総評の時間。(画像提供:公共R不動産)

熱心に講評のメモをとる学生の皆さん。

 


サービスデザインができるまで その2


そして、年が明けての2016年1月26日。最終報告会です。学生の皆さんは、中間報告会の後、プロトタイプの作成、検証、ブラッシュアップを繰り返し、最終的に2つのプレゼンテーション資料にまとめあげました。PowerPointなどのプレゼンテーションスライドと、サービスの利用シーンを紹介したムービーです。

締めくくりのプレゼンテーション。

スライドデザインにも力が入ります。

自分が学生のころと比べるとプレゼンテーションのツールが大きく進化していることに改めて驚きを感じました。PowerPoint、Keynoteでの資料作成、ムービー…… 教授にお話を聞くと、授業開始直前にムービーを仕上げた方もいるそう。すでに簡単な動画編集は、なにかをデザインする人にとっての基本的な表現ツールになっているのかもしれませんね。

プレゼンテーション自体は、資料の説明3分、動画の上映3分という非常にタイトなもので、スライドには、グラフィックやプロダクトの説明だけではなく、ペルソナやエクスペリエンスマップ、サービスブループリント、ビジネスモデルなども含まれていて、サービスデザインというアプローチが、ホリスティック(包括的)なものだということをよく象徴した内容になっています。

プレゼンテーションでは、中間報告会のアイディアがブラッシュアップされ、さらに動画で簡潔にサービス概要がまとまっているので、非常に楽しく発表を見ることができました。ただ、最終的な発表に向けて今まで実施してきサービスブループリントや、ビジネスモデルの紹介などを丁寧にしすぎてしまい、大事なポイントを伝えられず概要紹介になってしまうプレゼンテーションもあったように思います。なにをやってきたか、ではなく、「なにをするべきだと思うのか」を提案する場としてプレゼンテーションの場を捉えると、さらに伝わるものになったのではないでしょうか。

それでは、「習志野市民×習志野市新市庁舎」のアイディアから、いくつかご紹介したいと思います。

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■子どもおしごと塾
市庁舎を子どもの職業体験の場として市民に開放し、さまざまな職業体験をしてもらうアイディア。経験を積むことで、子どもたちは「出世」も経験できる。

■親子でのゴミ拾い
ゴミ拾いを親子で楽しめるアクティビティとして再定義。Go Proを活用して、親が離れたところで市庁舎を利用していても、「見守り」ができるという新しい技術を取り入れる工夫も。

■コミュニティラジオ
用事がなければなかなか行くことのない市庁舎を、コミュニティラジオのスタジオをつくることで、市民にとって役立つ情報を発信する存在へと変える提案。

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いかがでしたでしょうか。市民の目線で、市庁舎の存在意義を再考したり、従来は面倒だった行為を楽しめるものへと変換したり……新しい「三方よし」のデザインを行おうとしていることが伝わってきます。今後も、このような幅広いアイディアをプロトタイピングするお手伝いを通して、新しいデザインを生み出すお手伝いができればと考えています。

 

【執筆者プロフィール】
小山田 那由他
サービスデザイナー/アートディレクター。デザイナーとしての経歴を生かし、デザイン思考、HCD(Human Centered Design)をベースに、企業の事業開発、新商品開発の支援を行う。クライアントワークのほか、オープンな社内勉強会「Service Design Salon」と、公共に対するデザインアプローチを研究する「Public Lab.」を主宰。
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【関連リンク】
セミナー・イベント情報|Service Design Salon Vol.12 [Lecture]/第20回UXD initiative 研究会「ソーシャル/サービスデザイン/学び」 開催のお知らせ