ラボ

2016.04.18

2016年4月21日にビー・エヌ・エヌ新社より『今すぐ現場で使えるコンテンツ ストラテジー ビジネスを成功に導くWebコンテンツ制作 フレームワーク+ツールキット』が刊行されます。

コンテンツストラテジーとは、Webサイトの構築やリニューアルプロジェクトにおいてその中身(=コンテンツ)をいかに効果的に最適化していくか、そのプロセスとアプローチに着目したものです。本書は、そのコンテンツストラテジー分野で業界を牽引している米企業BrainTraffic社のコンテンツストラテジスト、Meghan Casey氏著の『The Content Strategy Toolkit: Methods, Guidelines, and Templates for Getting Content Right』(2015年発行)の翻訳書です。

本書は、コンテンツストラテジーの定番書とも言われている、同社のCEOであるKristina Halvorson氏著の『Content Strategy for the Web』の概念をもとに、コンテンツを中心としたWebプロジェクト全体像と具体的なタスクやツールが紹介された、コンテンツストラテジー実践のための指南書となっています。またプロセスを丁寧に追って説明されていることから、Webプロジェクト入門書としても活用できる1冊です。

日本語版の監修はコンセント代表取締役/インフォメーションアーキテクトの長谷川敦士が務めており、本書巻頭に日本語版刊行にあたっての原稿を寄せています。

《書籍情報》

■ 書名:『今すぐ現場で使えるコンテンツ ストラテジー
― ビジネスを成功に導くWebコンテンツ制作 フレームワーク+ツールキット』

■ 著者:ミーガン・キャシー[BrainTraffic ,Inc.]
■ 監修:長谷川敦士[Concent ,Inc.]
■ 翻訳:高崎拓哉
■ 翻訳協力:トランネット

■ 仕様:B5判変型/248ページ
■ 出版社:ビー・エヌ・エヌ新社
■ ISBN:978-4-8025-1008-0
■ 発売日:2016/4/21
■ 定価:本体2,800円+税

出版元BNN新社のオフィシャルページ

『今すぐ現場で使えるコンテンツ ストラテジー ― ビジネスを成功に導くWebコンテンツ制作 フレームワーク+ツールキット』のご購入(Amazonのサイトへリンクします)

2016.04.08

デンマーク・コペンハーゲンに拠点をおくビジネスコンサルタンシー ayanomimi とコンセントが一緒に開催したイベント「東京デンマークWEEK 2015 ayanomimi x CONCENT」

「東京デンマークWEEK 2015」は2015年10月26日〜30日の5日間に渡り開催されましたが、このうち、10月28日と29日の2日間のプログラムの企画・運営をコンセントが協力。10月28日は「WORK & DESIGN in DENMARK」を、29日は「DANISH PUBLIC DESIGN」をテーマに、各日、午後の部、夜の部の2回実施。さまざまなゲストスピーカーによるプレゼンテーションと、参加者とのディスカッションを通し、デンマークから学べることや日本とデンマークが一緒にできることの探求を行いました。

「東京デンマークWEEK 2015 ayanomimi x CONCENT」全4回のイベントの詳細レポートは、サービスデザインチームが運営するWebメディア『Service Design Park』に掲載していますのでぜひご一読ください。


■イベントレポート|10月28日
午後の部:WORK & DESIGN in DENMARK “デンマークのヒュッゲな職場、デンマークのオフィス環境”

夜の部:WORK & DESIGN in DENMARK “デンマークのヒュッゲな職場、働く環境のトレンドと習慣”

 

■イベントレポート|10月29日
午後の部:DANISH PUBLIC DESIGN “プロセスをデザインするデンマーク、ヒュッゲな公共デザイン”

夜の部:DANISH PUBLIC DESIGN “デンマークの行政サービスのデジタル化”

 

また、イベント企画の背景などについて、ayanomimi 代表の岡村 彩さんやデンマークと結びつくきっかけとなった「Service Design Salon」を主宰している、コンセントのサービスデザイナー小山田那由他が以下の記事でご紹介しています。

■イベント背景について
東京デンマークWEEK2015イベントレポートVol.1 イントロダクション

 

【関連リンク】
セミナー・イベント情報|東京デンマークWEEK 2015 ayanomimi x CONCENT開催のお知らせ

2016.04.08

※本記事はコンセントのサービスデザインチームによるブログ『Service Design Park』に、2016年3月22日に掲載された記事の転載です(転載元:http://sd-park.tumblr.com/post/141477363506/cit-report2015)。

【記事概要】
千葉工業大学工学部/デザイン科学科3年生の「情報デザイン論および演習3」では、サービスデザインアプローチを活用し、社会に役立つデザインを授業テーマとしてとりあげている。コンセントでは、テーマ設定、および学生の中間/最終報告へのレビューにて同授業への協力を行った。

こんにちは。サービスデザイナーの小山田です。
今回は、Pub.Lab.のプロジェクトのひとつである、千葉工業大学授業支援のレポートをお届けします。

 


「三方よしのデザイン」を目指して


千葉工業大学の山崎和彦教授が担当されている「情報デザイン論および演習3」では、工学部/デザイン科学科の3年生が、サービスデザインを実践を通して学んでいます。

2015年度の授業は、「デザインは色やかたちをつくるだけではなく、社会に役立つ素敵な活動」であるという考えのもと、「習志野市民のためのデザイン」をテーマに行われました。山崎教授はデザインを通して実現すべき価値として、「三方よしのデザイン」という考え方を提唱されています。

この「三方よし」とは、かつて近江商人が自分たちの仕事について、社会的な貢献の重要性を表現した言葉です。山崎教授は、企業とユーザーというような二者間の関係性にとどまらず、社会のなかのさまざまなステークホルダーそれぞれが価値を享受できる仕組みをつくる重要性を、この言葉を引用して説明しています。

※三方よしのデザインについて、詳しくはService Design Salon Vol.8「公共のためのデザインの可能性」をご覧ください。

 


学生×三方よしのデザイン


コンセントでは、授業でとりあげるテーマの検討や、中間/最終発表での学生のプレゼンテーションへのレビューに協力しました。サービスデザインを学ぶ学生にとって、この「習志野市民のためのデザイン」は、非常に難しい課題だと思います。サービスデザインの観点からデザインを行うとき、そこにはたくさんの考えるべきことが存在します。そもそも解決すべき課題はなんなのか、サービス提供者側の提供価値はなんなのか、顧客さえも認知していない潜在的なニーズはなんなのか、そしてさらには、どのような組織をつくればそのサービスを実現できるのか……。多様な人々と関わり合いながらさまざまな側面からの検討とデザインを行う必要があります。

そして、「三方よし」という観点で、社会的な貢献も含め課題解決を考えるときには、ステークホルダーが増えることでよりいっそう考えるべきことが多くなります。しかし、だからこそ、いったん自由な発想を武器に、授業を通してさまざまなアイディアをプロトタイピングすることに重要な意味があります。コンセントでは、この授業支援をPub. Lab.のプロジェクトのひとつとして位置づけています。というのも、インタビューなどのリサーチを通して公共サービスを利用する市民側のニーズを把握しながら、制約に縛られることなく、まずはさまざまな可能性を広く考えることが、「公共の課題をサービスデザインアプローチによる“共創”で解決し、よりよい暮らしをつくる」というPub.Lab.のミッションとも合致するからです。

 


プロセスとテーマ


この授業では、「製品の構想段階から対象ユーザーとその要求を明確にして、要求に合ったものを設計し、満足度合いを評価する」というHCD(Human Centered Design:人間中心設計)のプロセスをベースに、ユーザーインタビューやペルソナ作成、エクスペリエンスマップ(カスタマージャーニーマップ)作成、ストーリーボード作成など、サービスデザインのさまざまなツールを活用しています。

情報デザイン演習3のデザインプロセス

2015年度は、同大学の所在する習志野市を対象とした「習志野市民のためのデザイン」というテーマが設定され、さらに下記3つのサブテーマとアドバイザーが設定されました。学生はそのうちひとつのテーマに取り組みます。

習志野市民×郵便局(アドバイザー:IBM
習志野市民×イオン(アドバイザー:Good Patch
習志野市民×習志野市新市庁舎(アドバイザー:コンセント × 公共R不動産

このうち、「習志野市民×習志野市新市庁舎」というテーマに対して、コンセントからは、私(小山田)と千葉工業大学のOBであるサービスデザイナーの黒坂、コンセント代表の長谷川の3名でアドバイザーを担当しました。また、公共空間/建築としての観点からレビューを行うため、Pub.Lab.のプロジェクトでお世話になっている公共R不動産の塩津友理さん、菊池マリエさん、加藤 優一さんにも中間、最終レビューへのご参加をいただきました。

 


サービスデザインができるまで その1


それでは、実際の授業の模様をレポートしていきたいと思います。まず、最初は中間報告会。この段階では、市民へのインタビューを行い、顧客の潜在ニーズを抽出し、コンセプトメイキング、シナリオ作成、ストーリーボード作成など、ひととおりアイディアをかたちにしています。学生は全員で、約50名(!)授業時間は5時間です。すべての学生の発表を順番に行うと、とてもこの時間内では終わりません。そのため、当日はそれぞれのテーマごとに3つのグループに分かれ、パネル発表形式でレビューを行いました。

発表内容は出力されテーブルの上に。

3ヶ月間の成果。(画像提供:公共R不動産)

学生さんひとり一人のプレゼンテーションを聞きながらのレビュー。

学生の皆さんの提案は、具体的なプロダクトよりのものもあれば、より広くサービスエコシステムを考えるようなものもあり、とても楽しく刺激になるものでした。ブラッシュアップのための“ツッコミ”を学生さん自身でしきれていない部分もありましたが、直接質問を投げかけながら「こんな可能性があるのでは?」とみなさんとディスカッションができたのはとてもいい経験でした。とても真剣に取り組んでいるためか、プロセスを忠実に実行しているような少し堅い印象を受けましたが、せっかくの自由な提案ができる機会ですので、思い切った提案を、見る人はもちろん、提案者自身も楽しめるといいなと思いました。私自身、この楽しむ感覚は肝に銘じてデザインをしていきたいと思っています。

アドバイザーからの総評の時間。(画像提供:公共R不動産)

熱心に講評のメモをとる学生の皆さん。

 


サービスデザインができるまで その2


そして、年が明けての2016年1月26日。最終報告会です。学生の皆さんは、中間報告会の後、プロトタイプの作成、検証、ブラッシュアップを繰り返し、最終的に2つのプレゼンテーション資料にまとめあげました。PowerPointなどのプレゼンテーションスライドと、サービスの利用シーンを紹介したムービーです。

締めくくりのプレゼンテーション。

スライドデザインにも力が入ります。

自分が学生のころと比べるとプレゼンテーションのツールが大きく進化していることに改めて驚きを感じました。PowerPoint、Keynoteでの資料作成、ムービー…… 教授にお話を聞くと、授業開始直前にムービーを仕上げた方もいるそう。すでに簡単な動画編集は、なにかをデザインする人にとっての基本的な表現ツールになっているのかもしれませんね。

プレゼンテーション自体は、資料の説明3分、動画の上映3分という非常にタイトなもので、スライドには、グラフィックやプロダクトの説明だけではなく、ペルソナやエクスペリエンスマップ、サービスブループリント、ビジネスモデルなども含まれていて、サービスデザインというアプローチが、ホリスティック(包括的)なものだということをよく象徴した内容になっています。

プレゼンテーションでは、中間報告会のアイディアがブラッシュアップされ、さらに動画で簡潔にサービス概要がまとまっているので、非常に楽しく発表を見ることができました。ただ、最終的な発表に向けて今まで実施してきサービスブループリントや、ビジネスモデルの紹介などを丁寧にしすぎてしまい、大事なポイントを伝えられず概要紹介になってしまうプレゼンテーションもあったように思います。なにをやってきたか、ではなく、「なにをするべきだと思うのか」を提案する場としてプレゼンテーションの場を捉えると、さらに伝わるものになったのではないでしょうか。

それでは、「習志野市民×習志野市新市庁舎」のアイディアから、いくつかご紹介したいと思います。

- – -

■子どもおしごと塾
市庁舎を子どもの職業体験の場として市民に開放し、さまざまな職業体験をしてもらうアイディア。経験を積むことで、子どもたちは「出世」も経験できる。

■親子でのゴミ拾い
ゴミ拾いを親子で楽しめるアクティビティとして再定義。Go Proを活用して、親が離れたところで市庁舎を利用していても、「見守り」ができるという新しい技術を取り入れる工夫も。

■コミュニティラジオ
用事がなければなかなか行くことのない市庁舎を、コミュニティラジオのスタジオをつくることで、市民にとって役立つ情報を発信する存在へと変える提案。

- – -

いかがでしたでしょうか。市民の目線で、市庁舎の存在意義を再考したり、従来は面倒だった行為を楽しめるものへと変換したり……新しい「三方よし」のデザインを行おうとしていることが伝わってきます。今後も、このような幅広いアイディアをプロトタイピングするお手伝いを通して、新しいデザインを生み出すお手伝いができればと考えています。

 

【執筆者プロフィール】
小山田 那由他
サービスデザイナー/アートディレクター。デザイナーとしての経歴を生かし、デザイン思考、HCD(Human Centered Design)をベースに、企業の事業開発、新商品開発の支援を行う。クライアントワークのほか、オープンな社内勉強会「Service Design Salon」と、公共に対するデザインアプローチを研究する「Public Lab.」を主宰。
サストコのプロフィールへ

【関連リンク】
セミナー・イベント情報|Service Design Salon Vol.12 [Lecture]/第20回UXD initiative 研究会「ソーシャル/サービスデザイン/学び」 開催のお知らせ

2016.02.18

※本記事はコンセントのサービスデザインチームによるブログ『Service Design Park』に、2016年2月2日に掲載された記事の転載です(転載元:http://sd-park.tumblr.com/post/138544599886/daisy-circle)。

こんにちは、株式会社コンセントのサービスデザイナー、赤羽太郎です。

さて今回ぼくの記事では、サービスデザインの実際のプロジェクト事例について書いていきます。

※ちなみにこの事例についてはコンセントのコーポレートサイトの事例紹介ページにも紹介されていますが、ここでは、途中の紆余曲折や、どんな手法を用いたか、というプロセスをちょっとだけ掘り下げてお伝えします。

まず、このプロジェクトのクライアントはカシオ計算機株式会社様です。同社にとって未知の市場である「介護」に関わる課題を解決することをスコープとして、最終的に冒頭画像のスマートフォンアプリ「DaisyCircle」を開発・リリースしました。

クライアントからのオーダーには現在進行形で超高齢化社会へと突き進む日本において、今後あるべき家族の形を描き出したい、という思いがありました。今回のプロジェクトはそれを実現するためのソリューション、というわけです。とても有意義なプロジェクトだなー、というのが最初にお話を頂いた時の素直な感想でした。

しかし、そのために「介護」におけるどのような課題にアプローチするべきか、そのビジネスはBtoCなのかBtoBなのかBtoBtoCなのか、というような、サービスを開発するにあたっての具体的なことについては、ほとんど決まっていませんでした。

すべてのプロセスについて書くと大変長くなってしまうので(プロジェクト自体は1年半程度の期間かかっているので)、ここでは下記の3点に絞って紹介していきます。

1. 価値抽出からのサービス開発
2. 複数のステークホルダーへの価値提供
3. MVP(Minimum Viable Product)の重要性

なぜこの3点かというと、ほかのプロジェクトに比べて特徴的な点だからです(せっかくブログに書くわけですし)。ちなみにここでいう「価値」とは、サービスに対してユーザーが期待するであろう「価値」、つまり現状満たされていない未充足のニーズを指します。

さて、介護というものには、とても多くの人や要素が関係しています。下の画像はプロジェクト初期に情報の整理のためにまとめた介護に関わる関係者や要素の相関図です。

これだけ見ても複雑さがみてとれますね。たぶん、業界の方から見ればこれでもまだ足りない部分もきっとあるでしょう。

ご両親などが介護される事になった家族は、このような複雑な世界にある日突然飛び込むことになるわけです。それは混乱するし大変です。かくいう私も母親がケアマネージャーという介護に関わる仕事をしていたにも関わらず、あまり介護についてはなんとなくしか知りませんでした(しかし、他の人よりは知っていると思ってました。今考えると全然ですが)。

そのため、プロジェクトではまず、複雑な関係性の中のどの部分に対してのソリューションを検討するかを決めるところから始める必要がありました。その後、定義した範囲の関係者の、現状の介護への関わり方の文脈・課題と、その背景にある価値観を探っていきました。

 


1.価値抽出からのサービス開発


価値抽出のために、まずはコンテクスチュアルインクワイアリー(Contextual Inquiry:文脈的探求)という手法を用いて、介護が行われている現場や、介護に関わる人々のお宅に訪問し、インタビューを実施しました。そこで得たユーザーファクト(インタビューなので”発話”)をもとに、背景にどのような価値観が存在するのかを探っていきます。本プロジェクトではKA法という手法によってユーザーファクトを価値として抽象化し、最終的にその構造を「価値マップ」という概念図としてモデル化しています。

抽象化とはなんぞや…をざっくり説明すると、ある事象に関連した「具体的な事実」がたくさんあったとして、それらの事実の背景にある共通の要因に着目し、別個の概念として収斂・統合する…言い換えれば、ある視点から情報を解釈してまとめ直す、というプロセスです。例えば小学校のクラスに30名の生徒がいた場合、彼らを「男」と「女」という二種類に分けたり、「班」の所属でまとめたり…といったような手続きを指します。

抽象化の実務上の利点としては、複雑な要素で成り立つ構造をよりメタな視点で俯瞰して理解や整理、分析、そこからの仮説立案がしやすくなる、という事が挙げられます。ちなみに、先に述べたような「異なった視点」「別の解釈」も当然複数あるため、どのような抽象化の方針がプロジェクトに有益か、を探るために、抽象化のプロセス自体、多くのプロジェクトケースで何度もやり直す必要が出てきます。コンセントでも、ここはかなり時間をかけて複数回スクラップ&ビルドを繰り返します。

なお、KA法はもともと紀文食品の浅田和実氏が開発した手法ですが、それをUXデザインの手法としてさらに千葉工業大学の安藤昌也教授がブラッシュアップしており、おおよそコンセントで用いている手法はおおよそこれと同様のものになります。

※さらに踏み込んだ話としては、この一連のプロセスはグラウンデッド・セオリー・アプローチ(Grounded Thory Approach- 以下GTA。)というメソッドをベースにしており、もともとこの手法自体も看護の現場の社会学調査のために米国の社会学者バーニー・グレイザーとアンセルム・ストラウスによって開発されたものです。ちなみにこの手法には複雑かつ恣意的な部分が多々あると言われており、研究者ごとの考え方やセンスにより分析結果にバラつきが出やすく、この課題点を改善した修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(modified – Grouded Theory Approach)を日本人社会学者の木下康仁氏が提唱しており、大本のGTAよりはこちらの方がよりコンセントで用いている手法には近いものになります。

 


2.複数のステークホルダーへの価値提供


さて、今回のプロジェクトにおいてなぜ上記のようなアプローチを取ったか、という事については、3つ理由があります。まず1点目が、新しい仮説を調査から導き出すのには探究的な質的研究法、定性調査が適しているということ。2点目※として1人のステークホルダーがサービス提供者にもサービスの受け手にもなるような場合には、文脈が複雑化するため、分析対象としてわかりやすくするため、抽象化する必要がある、ということ。そして、最後の3点目の理由が、「2.複数のステークホルダーへの価値提供」を実現するためです。

※GTAが登場した文脈も看護の現場の複雑さを整理する必要から、というバックグラウンドがある。ちなみに、GTAにおいてはインタビューから得た膨大なファクトをルールに基いて一定の情報単位に「コード化(切片化)」し、それら文脈から切り離された抽象的な情報単位を再構成し、その過程で、情報集合を「概念」として構造化する、という手順を踏む。

私たちが調査を行う場合に、必ずしも上記のような調査〜コード化〜抽象化〜構造化、といったプロセスを踏むわけではありません。プロジェクトによっては、調査の結果からすぐにカスタマージャーニーマップを描いて、そこから得たインサイト(洞察/示唆)をもとにソリューションのコンセプトを開発するようなこともあります。つまり、そこには、観察から得られた情報のビジュアル化、モデル化はあっても抽象化するプロセスは明示的にはありません。この場合は、顕在化しているにせよ潜在的であるにせよ、行動文脈上に課題があり、それに対して解決策を提示していく、という、ある意味明快でわかりやすい手順を踏むことができます。

しかし、今回のプロジェクトのように複数の関係者の利害関係が絡み合っている場合、ある関係者に対してのソリューションが他の関係者の不利益につながることもあります。このようなケースでは、それぞれのユーザーインタビューの結果から、文脈やニーズを1つ1つ読み解き整合させていくことは非常に困難です。しかし、文脈の背景にある「価値」というものに抽象化することで、複数のステークホルダーにとって共通する「価値」とは何か、をマッチングすることが可能に(少なくともマッチングしやすく)なるのです。

本プロジェクトにおいても、抽象化された価値構造をつき合わせ、その中で複数の関係者に共通した価値をいくつか見つけることができました。その中で、なるべく多くの関係者にとって、意義のあるソリューションにつながる価値を選択しました。

結論から言えば、それは「適切な距離感を保つ」という価値です。

これを各ステークホルダーごとに落としこむと、介護サービスの利用者本人にとってはなるべく自立可能な期間を長く保つこと、家族にとっては両親や祖父母など、介護サービス利用者をちゃんと見守りつつ自分たちの生活スタイルをなるべく変えずに介護に関わっていくこと、サービス提供者にとってはプロとして必要な情報を過不足なく伝達・受容できるということ、と言えます(実際はもっと色々な価値や文脈を含みますが、ここでは簡単にまとめています)。

実際、介護の現場ではどの程度踏み込んだり意見しても良いのかがわかりにくく、遠慮しすぎてしまったり、逆に踏み込みすぎて過干渉になるようなケースが散見されています。この状態を解決するためのコミュニケーションツールを開発する、ということがプロジェクトの目標として定義されました。

 


3.MVPの重要性


サービスの方向性が定義されたのちには、具体的なソリューションを作っていきます。ここでクローズアップされてくるのが「3.MVPの重要性」です。MVPとは、 Minimum Viable Product、日本語で言うと「最小限実行可能な製品」という意味です。ここでは、ユーザーにサービス価値の体験提供が可能な最低限のプロトタイプ、という意味で用います。

さて繰り返しになりますが、このプロジェクトのターゲットである介護業界にはさまざまな立場のステークホルダーが存在しています。その人達に対して、本当にニーズがあるのか(Customer)?本当にコミュニケーションに問題があるのか(Problem)?このサービスで問題を解決できるのか(Solution)?、といういわゆるCPS軸のそれぞれを、各ステークホルダーに対して検証する必要があるわけです。

このような場合、「じゃあWebサービスをつくろう」「スマホアプリをつくろう」と開発を始めてしまうと、しかし開発後にあるステークホルダーにとっては致命的に不便だった、という事態も発生しかねません。そのため、MVPを複数段階でプロトタイプしながら、ステークホルダーに見せて検証していくという手順が必要になります。

もともとMVPはLean UXの文脈でよく使われる言葉であり、むしろシンプルなソリューションを特定のペルソナに適用する、というイメージが強いような気もしますが、個人的には本プロジェクトのような、複雑なステークホルダーの存在するような状況でも上記のような理由でむしろ有効だと感じています。結果的にステークホルダーが多いのでLean UXのようなスピード感のあるプロセスにはなりませんが、それはMVPの有効性とはまた別の話です。

本プロジェクトにおいては、大きく分けると

1. コンセプトシート(説明書やカタログのようなもの)でのユーザー検証
2. ラフプロトタイプ(工数低めに作れて動くもの)での検証
3. 実際のユーザーに長期間使ってもらう実証実験

という3段階で行いました。

それぞれの段階のMVPに対して各立場のユーザーからのフィードバックを受け、新機能を検討したり、逆に増えた機能アイデアをざっくり削ったり、方向修正を適宜行っていきました。

その甲斐あって、最終的に3ヶ月間実施した実証実験では想定した通りの成果や、部分的にはそれ以上の成果を得ることができ、実際に市場にリリースする運びとなりました。本サービスは、iOS、Android対応のスマートフォンアプリ「DaisyCircle」としてカシオ計算機からサービス提供されています。

DaisyCircle
http://daisycircle.casio.jp

とはいえ、現状の介護業界では多くのやり取りがFAXや電話で行われ、業務のIT化もそれほど進んでおらず、働く人の平均年齢も比較的高めで、スマートフォンアプリとの相性が決して良いとは言えません。そのためサービスの認知浸透にはまだまだ時間がかかりそうですので引き続き頑張ります。

このプロジェクトではほかにも、ビジネスモデルとしての収益性の検討やその裏付けのための定量調査、プロモーションのチャネルや手段の検討、そもそも別のソリューションの可能性はないかといった検討やプロトタイピングなど、さまざまな途中経過がありましたが、それらはまた別の機会があれば書いていきたいと思います。

さて、いかがでしたでしょうか。途中専門用語を使いすぎた感もなきにしもあらず、ですが、より「この部分の話が聞きたい」ということなどあれば、ぜひ下記アドレスよりご連絡下さい。次回以降の記事に反映するなり、お返事差し上げるなり、なにかしらリアクションいたしますので。

sd-park[at]concentinc.jp
※[at]は@に変えてください。

ではでは。

【執筆者プロフィール】
赤羽太郎|サストコ

 

【関連リンク】
事例紹介|カシオ計算機 介護業界向け新サービス開発

2016.02.09

※本記事はコンセントのサービスデザインチームによるブログ『Service Design Park』に、2016年2月8日に掲載された記事の転載です(転載元:http://sd-park.tumblr.com/post/138720557366/wacoal-vol1)。

こんにちは、サービスデザイナーの高石です。
今回は、株式会社ワコール様と一緒に取り組んでいる「ワコールつどいプロジェクト」についてご紹介します。

「ワコールつどいプロジェクト」は、ワコール様のコーポレートサイトを中心としたWebガバナンス強化プロジェクトが発端となりスタートしたものです。顧客の生活にきちんと寄り添い、下着の価値を届けるWeb施策を行うためには、顧客の利用文脈に寄り添ったWebガバナンスの策定が必要です。そうしたなかで、そもそも顧客が生活のなかでどのようなタイミングで下着に関わるのか、またその関わり方はどのようなものなのかをあらためて整理する必要があり、それらを洗い出す方法の1つとしてカスタマージャーニーマップ(以下、CJM)を作成することにしました。

一口に下着との関わりといっても、その関わり方には、「着用する/洗う」といった日常生活場面から、体型の変化や、妊娠等のライフステージの変化にともない「見直す/変える」といったことまで幅広いものが含まれます。

このCJMをきっかけに、「企業の手を離れ顧客のもとに届いた下着は、生活のなかで長時間かつ多様に女性の人生を支えているものだ」ということをあらためて認識することができました。ワコール様にも『「女性にとって下着とは何か」「広い意味で、世の女性が美しくあるために提供できること」を顧客とともに明らかにしていきたい』という思いがあり、「ワコールつどいプロジェクト」がスタートしました。

このプロジェクトは、エンドユーザーと事業者とでともに行うワークショップ群の総称で、顧客と「仲間」として関わり合う場を通じた、ワコールのあらたな価値創出をめざしています。 今回紹介するのは、そのなかでも2015年3月10日に開催した「『ココロにフィットする下着』デザインワークショップ」という初回ワークショップです。

ふだん選び、身に着けている「カラダを支えるため」の下着から離れ、自分の気持ちや価値観を下着のかたちに落とし込む、という手作りワークを行いました。

 

この取り組みのビジネス上の価値について、コンセント取締役/サービスデザイナーの大崎による説明を以下にご紹介します。

- – -

この一連の取り組みは、企業と生活者が共に価値創造をする「共創マーケティング」に「ものづくり」のプロセスを取り込んだものと言えます。

共創マーケティングとは、一般的に企業と生活者がコミュニティを形成し、製品・サービスの問題点や新しい使い方などを共に考え創るしくみと言われます。生活者が自主的に意見を発したり、生活者同士で製品・サービスについて語り合えるプラットフォームをオンライン・オフライン上で設計することで、新しいアイデアや生活者の潜在ニーズや価値観を発見することができます。このように製品・サービス開発におけるマーケティングリサーチの機能を持ちながらも、同時に生活者とのエンゲージメントを強め、LTV(顧客生涯価値)を最大化することができるなど、企業にとってメリットの大きい手法として注目されています。

このワークショップは、このような共創マーケティングの文脈の中に「ものづくり」のメソッドを入れ込むことで、「共創」の側面をより強めた取り組みとして捉えることができます。

共創のしくみをマーケティングの側面から捉えると、生活者にいかに本音を語ってもらえるかが重要になります。製品やサービスに対して顕在化しているニーズではなく、それらに対して生活者が抱いている生の価値観をあぶり出すことが、製品・サービスを成功させる重要なポイントになります。例えばデプスインタビューでは、本音を語ってもらうための幾つもの話し方やメソッドがあり、エスノグラフィ調査では「観察」を通じて生活者自身が気づいていないニーズや価値観を抽出する手法が体系化されています。

しかし、デプスインタビューにせよ、エスノグラフィ調査にせよ、調査する側とされる側という壁が存在している以上、本音や価値観は出てきてもそれらに対して互いに確認し合ったり議論することはありません。あくまで分析の対象として存在しているだけです。

このワークショップでは文字通り、生活者と企業が一緒になって実際に手を動かして「下着」をつくります。制作物という媒介を通して作り手の本音が出てきたり、媒介を通じてお互いに意見を交換することもできます。あえて「ココロのため」と、製品としての下着の「体を整える」という特性からずらしたことで、単なる色柄の好みの表現になることを防ぐと同時に、ワコール社員の方々にも一生活者としての視点にも立ち戻ってもらい、従来の調査とは違う切り口の「本音」を引き出すことができました。

ものづくりを通して参加者同士のつながりを強める作用もあります。言葉にしづらい身体の悩みや不安に対して「もの」を媒介することで抵抗なく言葉にすることができ、お互いに確認することができます。それによって個人で抱いていた不安や問題が実は思い込みであったり、あるいは企業にとって解決可能な問題であることがわかったりと、その場で解決がはかられることも多くあります。問題解決を通じて、生活者同士や生活者と企業間でのつながりを強固にできることも「ものづくり」ワークショップの強みであると言えます。

ワークショップ終了後に行った希望者対象の計測相談会では、「測っていこうよ、ちゃんと見てあげるから」「一度も測ったことがない? だめだよー!」といったフランクな感じで参加者同士で誘い合う場面がみられました。ほぼ全員計測を受けて帰られたのですが、ワークを通じてすっかり打ち解け、単なる「売る側—買う側」を超えた関係性ができたことが伺えました。

共創マーケティングでは、参加する生活者のモチベーションをいかにあげられるかというのも重要な観点ですが、今回のワークショップの参加者の感想をみても十分に手応えがありました。 「“もっと、自分らしい下着をつけよう。下着から自分の魅力を引き出すことができるんだ” と新しい発見があり、意識はとても変化したと思います」 「下着をきっかけに自分の内面や相手のことを知っていくのが楽しかったです」 「気づかなかったことに、手を動かすことで気づけるのはすごい」 「とても楽しかったです! ショーツについての話もしたかった!」

プレワーク的に行った下着や体についてのブレストでは、どのグループからもたくさんの意見が出され、とても初対面同士とは思えない盛り上がりを見せ、デリケートなテーマなだけに参加者が躊躇してしまうのでは?というこちらの懸念は良い意味で裏切られました。普段の生活の中では、同じ課題や悩みを持つ者同士で集まることも少ないようで、下着や体に関して「つどい」話し合うこと自体に大きな価値を感じていただけるようでした。

「ワコールつどいプロジェクト」は継続的に行われており、今後も下着や身体にまつわるさまざまなテーマを、生活者のセグメントに分けて開催していく予定です。次回以降の取り組みはこの場(『Service Design Park』)で継続的に公開していきます。

 


【「ワコールつどいプロジェクト」ワークショップ開催のお知らせ】

2016年2月23日に、女子大学生を対象としたワコール x コンセント共催のワークショップ「わたしの人生すごろく〈女性力アップ編〉を作ろう」をamuにて開催します。

就活のような自己分析や人生設計ではなく、若い女性がこれから先、それぞれの考える「ステキな大人の女性」になっていくためには何をするべきか。いまのキラキラ女子力にとどまらない「女性力」をつけていくための行動計画を、同じ年代の仲間や、人生の先輩たちといっしょに考えてみませんか。

開催概要は以下の「セミナー・イベント情報」ページをご参照ください。

Wacoal × Concent ワークショップ「わたしの人生すごろく〈女性力アップ編〉を作ろう」開催のお知らせ」|セミナー・イベント情報

 


【執筆者プロフィール】
高石 有美子(たかいし・ゆみこ)|株式会社コンセント サービスデザイナー

神奈川県出身。早稲田大学第一文学部(美術史学専修)卒業後、1998年にアレフ・ゼロ(現コンセント)にエディトリアルデザイナーとして入社。現在 Service Design Div.所属。豊富なデザイン経験と主婦・母としての視点を活かし、 一般顧客、とくに女性と企業をつなぐ共創プロジェクトへの参加も多い。小学生2児の母。

2015.12.21

※本記事はコンセントのサービスデザインチームによるブログ『Service Design Park』に、2015年12月11日に掲載された記事の転載です(転載元:http://sd-park.tumblr.com/post/134957140081/uxdesignandeditorialdesign)。

サービスデザイナーの佐藤史です。

私は普段からよく、「サービスデザイン」や「ユーザーエクスペリエンス(以下、UX)」に関する社外のイベントに参加し人前で話をすることがあります。終了後、懇親会などの場で改めて自己紹介するとき、現在の自分は社内でService Design Div.という部署に所属しているが、以前は同じ会社の中で「エディトリアルデザイン(※1)」領域の仕事をやっていました。つまり紙の会社案内や広報誌・社内報などを制作する仕事に携わっていました…という話をすると意外な顔をされることが多いです。

※1.エディトリアルデザイン…情報とその価値を正確な導線で伝えることで、読み手の心にメッセージを届けるためのデザイン手法です。広く一般的には雑誌・書籍など出版物のデザインを指しますが、コンセントでは、エディトリアルデザインのパイオニアとして、雑誌等で培った「編集思考力」と「デザイン力」を、企業・教育機関・政府関係機関の広報ツールのデザインに活かしており、そのようなアウトプットまでを含めて「エディトリアルデザイン」と呼んでいます。

数年前まで私はもっぱら「コンテンツディレクター」として、エディトリアルデザイナーや編集者、ライター、カメラマンそして印刷会社の方々と一緒に、いろいろな企業広報ツールの制作に携わっていました。しかし、サービスデザインやUXデザインの専門家を名乗るようになった現在でも、「エディトリアルデザイン」という専門領域に関する知見は私の大きなバックボーンとして、プロジェクトのいろいろな場面においてとても役に立っています。

ちなみに、「コンセントさんには、UXデザイナーがたくさんいるのでは?」という質問を受けることも多いですが、よく考えてみると、コンセントには最初からユーザーエクスペリエンス(UX)だけを専門としてきたデザイナーばかりがいるわけでもありません。雑誌や広報誌のようなエディトリアルデザインと、Webサイトやデジタルアプリのようなインタラクションデザインの両方をやる人もいますし、そうした人がサービスデザインやUXデザインをやる場合も多数あります。つまり、エディトリアルデザイナーでもインタラクションデザイナーでもみんな「問題を解決する人」「設計する人」という広義の意味での「デザイナー」で、「◯◯デザイン」の「◯◯」という(デザインの)対象物にこだわっているわけではないことは、コンセントのデザイナーの特徴なのかもしれません。事実、私が現在所属するService Design Div.でも、以前は、エディトリアルデザインを専門にしていた社員が、サービスデザイナーとして活動し、自らプロジェクトのリードをとることも多いです。(普段の仕事で各分野の比重が占める割合は人それぞれで、どこに注力するかは本人の意思も尊重されます)

 


「エディトリアルデザイン」もUXデザインのひとつ?


ここで本題に入りますが、「エディトリアルデザイン」も俯瞰して捉えれば「UXデザイン」であると私は思っています。それは、エディトリアルデザインと呼ばれているもの自体が、「冊子を手にしてページを繰る」というユーザー体験をデザインすることに他ならないからです。興味深い事例をひとつ紹介しましょう。

私は過去に、あるB to B企業の広報誌のコンテンツディレクターをしていたことがあります。広報誌をリニューアルし、新しいコンテンツ企画を検討するとき、以下のようなアプローチをとりました。

その広報誌は、主にその企業の営業職の方が取引先を訪問した時に、お客さんと対面で会話しながら手渡しする目的でつくられている冊子でした。そこで、実際にその企業の営業職の方に「ユーザーインタビュー」をして、“取引先の方と普段どういう会話をされているか”“どういうコンテンツがあればその方との会話が弾みそうか”“どういうコンテンツがあれば営業しやすいか”等をヒアリングし、そこから得た情報をもとに、その広報誌のコンテンツ企画や編集方針、誌面構成を策定しました。

また、デザイナーと一緒にデザインフォーマットを検討する段階では、この広報誌は、読み手つまり「ユーザー」が椅子に腰を据えてじっくり読むというような「使われ方」をされているのではなく、仕事の空き時間や営業の方が訪れたついでにパラパラと見て読まれる場合が大半であるという、ユーザーインタビューや読者アンケートなどの定性・定量調査から得た「利用文脈」を踏まえたうえで、読む人にとって負担にならない程度の情報量や文字量を決めました。

これは、いわゆるデジタルアプリなどを開発するときに、UXデザイナーが、インタビューなどの定性調査から要件を導き出すプロセスと、基本的には同じ思考のプロセスをとっていたと思います。

 

また、エディトリアルデザイナーが印刷媒体を企画してデザインする行為自体は、一連の「プロトタイプ」と言えます。

その媒体がもつデザイントーンに相応しい紙の質感や厚さなどは、プリンタ出力ではなく、束見本(※2)や色校正(※3)刷りを通してでないと確かめられません。実際、印刷用紙の厚さや紙質などは、冊子や本を手にしたときに感じる「認知」や「体験」に大きな影響を与えます。例えば、白色度が強く厚さもしっかりした紙でなおかつ表紙にコーティング加工などが施された会社案内を受け取れば、「ああ、この会社はちゃんとしているんだな」などと折り目正しい企業の印象をもちますが、読み手に気軽に手にしてもらいたくて発行している広報誌が、あまり厚い紙で刷られていたら「気軽さ」の印象は低減するでしょう。これは一般的な傾向ですが、白色度の強い紙に比べてややアイボリーがかった紙だとカジュアル感が醸成されやすくなります。また、ムック書籍が雑誌に比べて、やや厚めの紙でつくられることが多いのも、読み手の情報に対する向き合い方が、雑誌のそれに比べるとムックの方が少しだけ「きちんと読みたい・知りたい」と能動的になることを意識した結果だと思います。

その他にも、デザイナーがレイアウトチェックをするとき、プリンタから余白付きで出力されたものではなく、必ず周囲の余白を切り落として実際の仕上がりサイズの状態で確認するものも、「精度の高いプロトタイプ」で手にしてみることによりデザイン上の見落としを防ぐことができるからです。


※2.束見本…冊子の厚さを確認するために、実際に印刷される紙と同じ用紙で作る冊子の見本。


※3.色校正…指定した色がその通りに印刷されているかを確認する作業。

 


継続的なユーザー体験とコミュニケーションをつくる


ここまで書くと、「だとしたら別にエディトリアルデザインに限らず広告とかポスターとかパッケージでも同じ論法だろう」と考える方も多いと思います。ただここで、「ユーザーエクスペリエンスデザイン」と「エディトリアルデザイン」の共通項として、もうひとつ強調しておきたいことがあります。それは、どちらも、提供・発信する側とそれを受け取る相手との間に、一回限りではない継続的なコミュニケーションが発生する場合が非常に多いということです。

広報誌や雑誌で毎号いろいろな特集記事を考える時、過去の号からの読み手の声を参考に戦略を立てることは、Webサイトやデジタルアプリケーションをローンチした後、アクセスログを取得して解析することと同じく「検証・改善サイクルを回す」ことに該当します。また、会社案内や製品パンフレットのように定期的な刊行物ではない場合でも、一度目にして終わりではなく、後から読み返されることがままあるという点は、ポスター等の広告媒体との大きな違いです。コンセントは「コミュニケーションをデザインする会社です」といろんな場面で説明されることが多いですが、私個人の考えでは、それだけだとまだ説明が足りていない気がしており、そこに「継続性」という特長が存在すること、一発限りのプロモーションではない”継続的な”コミュニケーションをデザインする会社だということをここであらためて強調したいと思います。

 


「デザイン」することで得られる効果に対して意識的になる


何だか自画自賛ならぬ自社自賛的な文章になってきましたが、最後に「ユーザーエクスペリエンスデザイン」も「エディトリアルデザイン」も、ともにこれからはデザインする人間がアウトプットに対してもつ責任も重くなるであろうことを述べておきます。

数年前までは、多くの企業にとって、サービスデザインやUXデザインは新しい概念であり、多くの方がその概念や手法を理解しようとされていました。しかし今は、概念や手法の理解も引き続き大事なのですが、それに加えて、導入することで会社の事業戦略や収益に対してどういう効果が得られるのかという点に、多くの方の関心が移ってきており、われわれデザイン会社はそれをクライアント企業や社会に対してきちんと説明することを求められています。

一方、エディトリアルデザインの分野では、電子書籍やニュースアプリが広まったことで紙の出版物は減少し、企業の広報活動でも、紙の冊子はつくらずPDFのみで配信することも増えてきました。だからこそ、紙をつかって相応のコストで制作される印刷媒体が、出版物もしくは企業の広報・販促活動として、どれだけの意義があり価値をもつのか、つまりコンテンツをあえて印刷物にする費用対効果について、われわれのようにコンテンツを企画・提案する立場の人間はこれまで以上に意識的になる必要があります。

ただ、これは私個人の所感ですが、メディアのデジタル化によって紙の出版物や広報ツールが全部なくなるということはさすがにないと思います。むしろ本当に読み手にとって大切であり、手にして読んで保管するに値すると思ってもらえる良質なコンテンツだけが有形の印刷物として残っていくのではないでしょうか。そしてそういう世の中になれば、それこそ先に述べたようなエディトリアルデザイナーの能力が大きく発揮される好機だと捉えるべきでしょう。ちなみにサービスデザインの分野でも、サービスという無形の存在を伝える物的証拠が顧客の体験価値向上において重要であることが原則のひとつとして語られています。

読者が美しく装丁された印刷物を手にしたときのワクワクする気持ち、ビジネスパーソンが企業広報誌のページを繰ってコンテンツを読み終わったときの「なるほど!」という満足感。こういう体験を、エディトリアルデザイナーやコンテンツディレクターが「優れたユーザー体験」としてロジカルに語る姿を見てみたい。それは、「エディトリアルデザイン」から「ユーザーエクスペリエンスデザイン」へと活動の軸足を移した今の自分の思いでもあります。

【執筆者プロフィール】
佐藤 史|サストコ

2015.12.16

※本記事はコンセントのサービスデザインチームによるブログ『Service Design Park』に、2015年11月30日に掲載された記事の転載です(転載元:http://sd-park.tumblr.com/post/134257798431/bousoulifestylevol1)。

こんにちは。サービスデザイナーの小橋です。

コンセントでは、公共の課題をサービスデザインアプローチによる共創で解決するための「Pub. Lab.(パブリックラボ)」という取り組みを行っています。今回はそのプロジェクトのひとつである「いすみ市発 房総ライフスタイルプロジェクト」の概要と、そこで行ったワークショップの様子をご紹介します。

 


多様なライフスタイルが共存するいすみ市での「サービスエコシステム」観点


まず、プロジェクトの概要と背景について、簡単に説明します。

「いすみ市発 房総ライフスタイルプロジェクト」は、千葉県いすみ市武蔵野美術大学D-LOUNGEが提携して進めている産官学民協働プロジェクトで、コンセントはD-LOUNGEの協力パートナーとして、プロジェクトプランの提供およびプロジェクト進行を担当しています。また、地元のいすみ市地域おこし協力隊や、NPO法人いすみライフスタイル研究所のご協力のもと、いすみ市民の方々にもプロジェクトに参加していただいています。

今回のプロジェクトは、コンセントが普段クライアントワークとして取り組んでいるサービスデザインのアプローチを行政課題に適用する試みです。サービスデザインは、「ユーザー中心」の考え方が基本にありますが、近年、ユーザーを取り巻く環境の全体像をサービスエコシステムの観点でとらえることが重要になっています。エコシステムとは本来、生物とその環境の構成要素をひとつのシステムとしてとらえる概念ですが、ユーザーとサービスについても、このような観点で広い視点から関係性を捉えることが重要です。

マルチステークホルダーが関係する複雑な問題においては、ユーザーの直接的なタッチポイントだけではなく、ユーザーを取り巻く他のステークホルダーや組織、市場、文化、行政などの間接的な外部要因まで含めて関係性を可視化し、ホリスティックな視点でユーザー理解、問題定義を行う必要があります。

一方、いすみ市は、多様なライフスタイルが共存するまちです。2005年に、夷隅郡夷隅町と大原町・岬町の3町が合併して誕生しましたが、「地方創生」の時流に乗って、ここ数年、都会からの移住・定住の促進に力を入れています。良好な漁場を育む里海と、昔ながらの田園地帯が残る里山を中心として、多様な自然環境に恵まれているため、移住者のタイプも様々で、サーフィンに最適な海を求めてくる人、里山でのエコな暮らしを求めて来る人など、実に多様なライフスタイルが見られます。また、当然ながら地元の人々はこの地域で長年それぞれの暮らしを営んでおり、これからも増えていく移住者にどう向き合い、どう接していくべきかということも問題になります。

このように、多様なライフスタイルが共存するいすみ市のまちづくりを考えていく上では、単にユーザー中心の視点だけではなく、さまざまなライフスタイルを持った人々がどう関係し合っているのかをサービスエコシステムの観点でとらえ、まさに「木を見て森も見る」ようなスタンスで、問題を探り当てるサービスデザインのアプローチが有効ではないかと考えています。

移住・定住の促進は、いまや全国的な動きになっており、いすみ市と共通する問題を抱えている地方自治体は少なくありません。このプロジェクトの目的は、いすみ市の魅力の発掘・発信と課題発見・解決策の抽出を行なうことです。これらを達成するために、その意義や有効性の検証も視野に入れ、前述したサービスデザインでのアプローチを行っています。そうすることで、房総半島ひいては日本全国でのパブリックな課題に対するアプローチとして、示唆に富むケーススタディになるのではないかと思います。

 


ライフスタイル類型化ワークショップ


このような背景をふまえてスタートしたプロジェクトですが、はじめのステップとして、いすみ市住民のライフスタイルを理解するために「いすみ市ライフスタイル類型化ワークショップ」を11月11日(水)にいすみ市役所で行いました。このワークショップは、いすみ市住民のさまざまなライフスタイルを洗い出して分類した上で、それぞれのセグメントに属する住民の特徴と課題を理解し、これから行うフィールド調査に向けて「いすみ市の縮図」を把握することが目的です。ワークショップ当日は、いすみ市の地域おこし協力隊の方々に加えて、いすみライフスタイル研究所のサポート会員である地元住民の方々にもお越しいただきました。コンセントは、ワークショップのプログラム設計とファシリテーションを担当し、サービスデザインチームから小橋、星、川原田の3名が参加しました。

ワークのためのツールとして、ライフスタイルの特徴を書き出すカードを作成しました。3つのグループに分かれ、各グループで、いすみ市住民のライフスタイルをどんどん書き出しながら意見を出し合います。

各グループで出したカードをボードに貼って、全体での議論をします。

その後、分類した各セグメントの住民について、各グループで現状の課題を洗い出し、全員で共有しました。

 


今後に向けて


今回のワークショップをしてみて、事前に予想していた以上に多様なライフスタイルが集まり、あらためて、いすみ市の多様性を再認識しました。普段から地域に関わっている地域おこし協力隊や住民の方々が集まり、リアルな意見が集まったことも大きな収穫でした。全体の議論では熱のこもった意見が飛び交い、参加者の方々のまちづくりに対する意識の高さが伺えました。

今回、類型化した中でも参加者の関心が高かったのは、「農業・漁業を営む地元住民」「移住者に対してウェルカムな地元住民」「子育てをする家族」「アートに関わる移住者」「自給自足の暮らしをする移住者」など、いずれも、行政課題としての重要度が高く、特徴的なライフスタイルの方々でした。

今後は、これらの住民セグメントにフォーカスをあてて、インタビューやフィールド調査を行っていき、実際の住民の声に耳を傾けながら、プロブレムフレーミングのための分析を進めていきます。プロジェクトはまだ始まったばかりですが、最終的にどういう形で実を結ぶか、私自身も楽しみにしながら進めていきたいと思います。

【執筆者】
小橋 真哉(株式会社コンセント サービスデザイナー)

2015.12.14

※本記事はコンセントのサービスデザインチームによるブログ『Service Design Park』に、2015年11月19日に掲載された記事の転載です(転載元:http://sd-park.tumblr.com/post/133507365371/pub-lab)。

こんにちは。サービスデザイナーの小山田です。

今回は、コンセントの「Pub.Lab(パブリック・ラボ)」という取り組みをご紹介します。

コンセントでは、以前から企業に加えユーザーが参加する共創プロジェクトとして、株式会社ワコール様との「ココロにフィットする下着」デザインワークショップや、行政も参画する「子育てママ*リビングラボ」(※1)などを行ってきました。

※1「子育てママ*リビングラボ」のキックオフイベント「子育てアイデアソン」は、主催:ソーシャルビジネスデザイン研究所、共催:大阪市東成区社会福祉協議会、協力:コクヨ株式会社、株式会社コンセント、大阪イノベーションハブ、東成区役所、で開催されました。

それぞれのプロジェクトについて詳しくは下記のページをご覧ください。
amuイベントレポート|「ココロにフィットする下着」デザインワークショップ
ラボコラム|これからの共創のかたち「リビングラボ」

「Pub.Lab.」は、これらの活動に加え、サービスデザインの手法を活用し、公的な機関を含むさまざまなステークホルダーとの連携の仕方や、公共空間のあり方を検討し、よりよい暮らしのつくり方を考えるためのチームであり、取り組みです。

コアメンバーとして、グラフィック、エディトリアルデザインをバックグラウンドにもつ私、小山田と、建築、プロジェクトマネジメントをバックグラウンドにもつ小橋が、主要なメンバーとなり、プロジェクトごとにさまざまなメンバーと連携して、プロジェクトを実行しています。

 


よりホリスティックな視点へ


ふだんコンセントでは、サービスデザインのアプローチを通して、企業の提供する製品・サービスの体験価値の向上を図り、新規事業開発や製品・サービス開発を支援しています。その際には、エスノグラフィ調査などを通して、顧客自身も気づいていないような期待価値を理解し、それを実現するソリューションを検討していくことになります。

ユーザーの視点に立ち、よりよい暮らしを実現させるためには、企業とユーザーという限定された関係性だけではなく、公共という視点も含めた、よりホリスティックな視点に立つ必要があります。さまざまなステークホルダー間で共有できる価値創出をステークホルダー間での連携を通して実現していく必要があることを痛感します。

海外では、たとえばデンマークのMindlabのように、行政自身がサービスデザインの方法論を取り入れ、市民との共創による政策提言を行っている事例があります。しかし、システムや文化の違いなどもあり、日本では、ふだんの暮らしにもっとも近いはずの公的なものと、デザインとの距離が遠いという現状があります。

こうした背景をふまえ、Pub. Lab.は、「公共の課題をサービスデザインアプローチによる”共創”で解決し、よりよい暮らしをつくる」ということをミッションとして発足しました。このミッションをふまえ、セミナー・勉強会などのイベントを通した継続的な研究活動を行うとともに、理論を実践に移すための取り組みとして、産学官連携でいくつかのパイロットプロジェクトを進めていきます。

 


Pub.Lab.の活動


先述したように、コンセントでは「下着づくりワークショップ」や「リビングラボ」といった、サービスデザインの手法を使い、ホリスティックな視点から共に価値を創るプロジェクトを実施してきました。
Pub.Lab.では、これらのユーザー中心のデザインと「共創」により新しい価値を実現するプロジェクトに加え、さまざまなパートナーとともに以下のような活動を行っています。

●公共施設の有効活用に向けたサービスデザイン
(コンセント×公共R不動産)

「公共R不動産」とは、全国から公共空間の情報を集め、それを買いたい、借りたい、使いたい市民や企業とマッチングするためのWebサイトです。Pub. Lab.のメンバーは、この運営チームのミーティングに定期的に参加し、企業と行政のコミュニケーションを促進させていくためのサービス検討を一緒に進めています。

 

●サービスデザインによる公共空間、サービスのプロトタイピング
(コンセント×公共R不動産×千葉工業大学 山崎研究室×習志野市)

例えば公園や、公開空地などさまざまな人に向けて広く開かれた場所で、どのようなことが行われるべきか。それは、ステークホルダーの理解と、新しい発想によって、その場所ごとに生み出されるべきものではないでしょうか。コンセントでは、千葉工業大学 山崎研究室の授業支援を通して、公共空間のサービスプロトタイピングを行っています。

 

●サービスデザインによる地域課題の特定とサービスプロトタイピング
(コンセント×D-Lounge×千葉県いすみ市×いすみライフスタイル研究所)

千葉県いすみ市は、豊かな自然と東京との絶妙な距離から、都心からの移住者の多い場所です。この街の未来を考える際には、単純に「移住促進」という方法からスタートするのではなく、地域の特性とステークホルダーの理解から、何が課題になっているかを理解することが欠かせません。コンセントでは、サービスデザインの手法を活用して地域の課題解決支援を行っています。

 

●デンマークとのサービスデザイン情報交換(Service Design Salon)
(コンセント×エスベン・グロンダール氏、ayanomimi、Danish Design Centre、VIA Design)

Service Design SalonはコンセントのService Designチームが主催する、オープンな勉強会です。カジュアルな雰囲気のなか、さまざまな方をゲストスピーカーにお招きして活動をご紹介いただいたり、参加者もまじえたディスカッションを行ったりしています。今後も、デンマークの市民参加型デザインや、公共デザインの分野に関する勉強会を行っていきます。

 

●公共空間における市民の「居心地のよさ」研究(東京デンマークWeek)
(コンセント×ayanomimi)

Service Design Salonを開催するなかで、デンマークの“ヒュッゲ”という言葉と出会いました。心地よい空間や、時間、ゆったりしたり、賑やかに過ごしたり……一言では言い表せない快適さを表現するデンマークの言葉です。公共空間、公共デザインで先進的な取り組みを行うデンマークをより深く知るために、デンマークで活動するデザインコンサルティング会社 “ayanomimi”のイベント、「東京デンマークWEEK」の企画・開催協力を行いました。

特に、デンマークとの情報交換は、2015年10月20日に開催した「Service Design Salon Vol.10 / Service Design Initiative」でも、デンマークで刑務所の労働環境改善などのプロジェクトを手掛けるVIA DesignのIda Vesterdal氏とSune Kjems氏や、「The Service Design Global Conference 2015」で基調講演を行った、Danish Design CenterのChristian Bason氏をお招きして意見交換するなど活発に行っています。

また、デンマークのデザインコンサルティング会社であるayanomimiとは、2015年10月26日〜30日に開催された「東京デンマークWEEK 2015」の全7回のイベントのうち、4回をコンセントで協力。多数の方にご来場いただき、デンマークと日本での意見交換の機会をつくることができました。

過去に行ってきたイベントの概要はこちらでご覧いただけます。

●デンマークとのサービスデザイン情報交換(Service Design Salon)
オープンな勉強会「Service Design Salon」|サストコ
Service Design Salon vol.4 レポート|サストコ
~日本の公園から考える~Service Design Salon vol.5 レポート|サストコ
Service Design Salon Vol.10 [Lecture]/Service Design initiative
「Changing Organization into Service Design」イベント概要|Peatix
※イベントレポート公開準備中

●公共空間における市民の「居心地のよさ」研究(東京デンマークWeek)※イベントレポート公開準備中
イベント概要|ayanomimi オフィシャルサイト
“デンマークのヒュッゲな職場、デンマークのオフィス環境” |Peatix
“デンマークのヒュッゲな職場、働く環境のトレンドと習慣” |Peatix
“プロセスをデザインするデンマーク、ヒュッゲな公共デザイン” |Peatix
“デンマークの行政サービスのデジタル化” |Peatix

今後も、上記のイベントに加え、現在トライアルを行っているプロジェクトのご報告を行っていく予定です。

もしご興味のあるテーマがありましたら、「Service Design Salon」などの公開イベント(コンセントの公式Facebookページにて随時告知)や、Service Design Park Facebookページへぜひご参加ください。

【執筆者プロフィール】
小山田 那由他|サストコ

2015.11.25

※本記事はコンセントのサービスデザインチームによるブログ『Service Design Park』に、2015年8月21日に掲載された記事の転載です(転載元:http://sd-park.tumblr.com/post/127223613356/how-to-use-qualitative-research-effectively)。

こんにちは。サービスデザイナーの佐藤史です。

最近、仕事でプロジェクトプランをつくるとき、定性調査を実施するメリットについて、いろいろな人から質問をうけるので、今日は定性調査の意義とその活用法についてごく基本的なことを書いてみたいと思います。

 


「ユーザーを知る」とはどういうことか?


新しいサービスや製品を開発するとき、「生活のなかで、どんなニーズがあるのか?」「どんな製品やサービスなら受け入れられるのか?」を知るために、ユーザーインタビューをすることがあります。

かたや、「いやいや、我々はアンケートやアクセスログを使って調査しているから、ユーザーのことはよくわかっているよ」という声もよく耳にします。もちろん、アンケートやアクセスログのような定量調査は、市場ニーズを知る上で大切です。

しかし、ユーザーの情報には、以下の3種類(階層)があり、定量調査だけでは、その一部の階層しか知ることができません。

● 属性・セグメント →アンケートで入手可能
● 行為・文脈 →文脈インタビュー・行動観察が必要
● 価値観・インサイト(本音) →デプスインタビュー・仮説など

どのようなユーザー調査も、新しいサービスや製品のアイデアを生み出すためには、この3つの階層すべてについて、ユーザーのことを知る必要があります。3つの階層を、比較的単純な例を用いて説明してみます。

 

まず、「属性・セグメント」

主観に左右されない単純な事実。「私は◯◯です」の一言、もしくは「はい」か「いいえ」でも答えられるようなこと。大抵の場合は、アンケートを実施すればデータを収集できます。

 

次が、「行動・文脈」

例えば「普段、どこで何をやっているか」。これはアンケートやインタビューでも収集できますが、聞く内容によっては、本人が見栄をはったり体裁を気にして、やや脚色を加えて回答してくる場合もあります。定量調査だけではなく、街頭での行動観察など定性調査と組み合わせて調べることをお薦めします。

 

最後の一番深い階層が、「価値観・インサイト(いわゆる本音)」です。

この階層の情報は、本人にとっては、あまりにも日常的で当たり前のことである場合が多いため、突っこんで質問でもされない限り、なかなか答えてくれないものです。ですので、インタビューする時には、事実を聞くだけではなくその理由も深掘りして聞く必要があります。(※1)

また、「行動・文脈」の場合と同じく、インタビューの場では本人が、やや脚色して答えてくる場合もあるので、インタビュー後に改めて発言録を読み返し、「なぜ、この人はこうしているのだろう?」と発言の理由やそこに潜む真意について深く考察する必要があります。

※1. インタビューで事実を深掘りして相手の本音を引き出すためには、「オープンクエスチョン」という質問のテクニックがあります。

 


事実の背後にある「ユーザーにとっての価値」を考える


この「価値観・インサイト(いわゆる本音)」をつかむには、ちょっとしたコツが必要ですので、もう少し詳しく説明します。例えば、あるインタビューから、以下のような分析結果を導き出したとしましょう。

 

……これは一見、もっともらしいですが、わざわざ調査をせずとも何となくメディアで取り上げられる一般的イメージからでも予想できそうな分析結果になっていますね。こういう例を我々はよく「発見性に乏しい分析」「データが緻密に拾えていない」「考察が浅い」などと言います。

では、インタビューのとき、もう一段踏み込んで下記のような発言を引き出していたら、どんなサービス改善への示唆が得られるでしょうか?

 

「なぜ、この人はこういうふうにしているのだろう?」−−−−どんな小さな行為でも、その背景には必ずその人なりの理由や価値観は存在するものです。このように、日頃の行動や、発言したことの裏に潜む真意を探ることで、サービスや製品に関する本質的な解決策を発見することができるのです。

ところが、です。こういう疑問をもたれる方も多いのではないでしょうか?

「それって単なる推測では? 論拠はどこにあるの?」

「インタビューのような定性調査は、定量調査とは違って、少人数にしか聞けないから不安」

このような指摘は、定性調査を、定量調査と手法は違えど同じ目的と捉えてしまっていることに起因するようです。ここで定性調査の意義について、改めて整理しておきます。

 


定性調査と定量調査、上手に組み合わせること


定性調査は、定量調査のように事実を数値的に把握するための手法ではなく、事実に対する仮説モデル(例:ペルソナ、シナリオ)を構築するための手法です。「定性調査は定量調査に比べて確からしさの点で劣るのでは?」とよく聞かれますが、確からしさの優劣ではなく、定性調査と定量調査ではそもそも目的が違うのです。

※『IA100 ユーザエクスペリエンスのための情報アーキテクチャ設計』(長谷川敦士著・BNN新社発行)より引用

定性調査の分析結果から思いもよらぬ新しい仮説が導かれることで、サービスや製品開発の可能性が広がることは、とても胸躍る体験です。しかし、ビジネスとして実現させるためには、仮説が正しいのかどうかを数値的に検証することも欠かせません。上図のように、定量と定性、タイプの異なるふたつの調査をうまく組み合わせることが重要です。

最後に、定性調査の精度を上げるためのポイントをもうひとつ。仮説は仮説でも、一人もしくは少人数で考えた仮説と、大勢で考えた仮説では、その強度は大きく変わります。また、多くの人の視点で考え、なおかつ対案も用意したうえで検証すれば、プロジェクトも円滑に進みます。定性調査を行う際、多角的な視点を取り入れて分析結果の偏りを防ぐためには、ワークショップやアイデアソンのような多数の人を巻き込む手法が効果的です。ぜひ、これらも併せて試してみてください。

また、ユーザーが本当に求めていることを探りより深い理解と、プロジェクトを進めるにあたっての根拠となる情報を与えてくれるユーザー調査手法の一つに“コンテクスチュアル・インクワイアリー”があります。進め方や活用例のご紹介、またユーザーの更なる理解に向けて、質的・量的調査を相互補完または融合させる方法論である“Mixed Methods(ミクストメソッド)”について、コンセントのメンバーが解説した記事がございますので、ご興味をもたれた方はぜひご参照ください。
寄稿記事「ユーザーを本当に理解していますか? ユーザーの行動・体験から要求を探る「コンテクスチュアル・インクワイアリー」 |Web担当者Forum(2014年3月19日 公開)

 

【執筆者プロフィール】
佐藤 史|サストコ

2015.10.19

2015年10月22日にビー・エヌ・エヌ新社より『今日からはじめる情報設計 – センスメイキングするための7ステップ -』が刊行されます。

情報アーキテクチャの第一人者として知られる、インフォメーションアーキテクトのアビー・コバートによる、「しっちゃかめっちゃか」への処方箋。Webサイトの情報設計に限らず、世の中の錯綜した情報、複雑な情報を整頓して考えるため、問題解決のベースとなる情報設計のエッセンスを7つのステップで手ほどきしてくれる本です。

日本語版の監訳は、コンセント代表取締役/インフォメーションアーキテクトの長谷川敦士が務めています。

《書籍情報
『今日からはじめる情報設計 -センスメイキングするための7ステップ-』

■ 書名:『今日からはじめる情報設計 – センスメイキングするための7ステップ -』
■ 著 者:アビー・コバート
■ 監訳者:長谷川敦士
■ 訳 者:安藤幸央
■ ISBN:978-4-8025-1001-1
■ 定価:本体2,000円+税
■ 仕様:A5判/176ページ
■ 発売日:2015年10月22日

出版元BNN新社のオフィシャルページ

『今日からはじめる情報設計 – センスメイキングするための7ステップ -』のご購入(Amazonのサイトへリンクします)