ラボ

2016.02.18

※本記事はコンセントのサービスデザインチームによるブログ『Service Design Park』に、2016年2月2日に掲載された記事の転載です(転載元:http://sd-park.tumblr.com/post/138544599886/daisy-circle)。

こんにちは、株式会社コンセントのサービスデザイナー、赤羽太郎です。

さて今回ぼくの記事では、サービスデザインの実際のプロジェクト事例について書いていきます。

※ちなみにこの事例についてはコンセントのコーポレートサイトの事例紹介ページにも紹介されていますが、ここでは、途中の紆余曲折や、どんな手法を用いたか、というプロセスをちょっとだけ掘り下げてお伝えします。

まず、このプロジェクトのクライアントはカシオ計算機株式会社様です。同社にとって未知の市場である「介護」に関わる課題を解決することをスコープとして、最終的に冒頭画像のスマートフォンアプリ「DaisyCircle」を開発・リリースしました。

クライアントからのオーダーには現在進行形で超高齢化社会へと突き進む日本において、今後あるべき家族の形を描き出したい、という思いがありました。今回のプロジェクトはそれを実現するためのソリューション、というわけです。とても有意義なプロジェクトだなー、というのが最初にお話を頂いた時の素直な感想でした。

しかし、そのために「介護」におけるどのような課題にアプローチするべきか、そのビジネスはBtoCなのかBtoBなのかBtoBtoCなのか、というような、サービスを開発するにあたっての具体的なことについては、ほとんど決まっていませんでした。

すべてのプロセスについて書くと大変長くなってしまうので(プロジェクト自体は1年半程度の期間かかっているので)、ここでは下記の3点に絞って紹介していきます。

1. 価値抽出からのサービス開発
2. 複数のステークホルダーへの価値提供
3. MVP(Minimum Viable Product)の重要性

なぜこの3点かというと、ほかのプロジェクトに比べて特徴的な点だからです(せっかくブログに書くわけですし)。ちなみにここでいう「価値」とは、サービスに対してユーザーが期待するであろう「価値」、つまり現状満たされていない未充足のニーズを指します。

さて、介護というものには、とても多くの人や要素が関係しています。下の画像はプロジェクト初期に情報の整理のためにまとめた介護に関わる関係者や要素の相関図です。

これだけ見ても複雑さがみてとれますね。たぶん、業界の方から見ればこれでもまだ足りない部分もきっとあるでしょう。

ご両親などが介護される事になった家族は、このような複雑な世界にある日突然飛び込むことになるわけです。それは混乱するし大変です。かくいう私も母親がケアマネージャーという介護に関わる仕事をしていたにも関わらず、あまり介護についてはなんとなくしか知りませんでした(しかし、他の人よりは知っていると思ってました。今考えると全然ですが)。

そのため、プロジェクトではまず、複雑な関係性の中のどの部分に対してのソリューションを検討するかを決めるところから始める必要がありました。その後、定義した範囲の関係者の、現状の介護への関わり方の文脈・課題と、その背景にある価値観を探っていきました。

 


1.価値抽出からのサービス開発


価値抽出のために、まずはコンテクスチュアルインクワイアリー(Contextual Inquiry:文脈的探求)という手法を用いて、介護が行われている現場や、介護に関わる人々のお宅に訪問し、インタビューを実施しました。そこで得たユーザーファクト(インタビューなので”発話”)をもとに、背景にどのような価値観が存在するのかを探っていきます。本プロジェクトではKA法という手法によってユーザーファクトを価値として抽象化し、最終的にその構造を「価値マップ」という概念図としてモデル化しています。

抽象化とはなんぞや…をざっくり説明すると、ある事象に関連した「具体的な事実」がたくさんあったとして、それらの事実の背景にある共通の要因に着目し、別個の概念として収斂・統合する…言い換えれば、ある視点から情報を解釈してまとめ直す、というプロセスです。例えば小学校のクラスに30名の生徒がいた場合、彼らを「男」と「女」という二種類に分けたり、「班」の所属でまとめたり…といったような手続きを指します。

抽象化の実務上の利点としては、複雑な要素で成り立つ構造をよりメタな視点で俯瞰して理解や整理、分析、そこからの仮説立案がしやすくなる、という事が挙げられます。ちなみに、先に述べたような「異なった視点」「別の解釈」も当然複数あるため、どのような抽象化の方針がプロジェクトに有益か、を探るために、抽象化のプロセス自体、多くのプロジェクトケースで何度もやり直す必要が出てきます。コンセントでも、ここはかなり時間をかけて複数回スクラップ&ビルドを繰り返します。

なお、KA法はもともと紀文食品の浅田和実氏が開発した手法ですが、それをUXデザインの手法としてさらに千葉工業大学の安藤昌也教授がブラッシュアップしており、おおよそコンセントで用いている手法はおおよそこれと同様のものになります。

※さらに踏み込んだ話としては、この一連のプロセスはグラウンデッド・セオリー・アプローチ(Grounded Thory Approach- 以下GTA。)というメソッドをベースにしており、もともとこの手法自体も看護の現場の社会学調査のために米国の社会学者バーニー・グレイザーとアンセルム・ストラウスによって開発されたものです。ちなみにこの手法には複雑かつ恣意的な部分が多々あると言われており、研究者ごとの考え方やセンスにより分析結果にバラつきが出やすく、この課題点を改善した修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(modified – Grouded Theory Approach)を日本人社会学者の木下康仁氏が提唱しており、大本のGTAよりはこちらの方がよりコンセントで用いている手法には近いものになります。

 


2.複数のステークホルダーへの価値提供


さて、今回のプロジェクトにおいてなぜ上記のようなアプローチを取ったか、という事については、3つ理由があります。まず1点目が、新しい仮説を調査から導き出すのには探究的な質的研究法、定性調査が適しているということ。2点目※として1人のステークホルダーがサービス提供者にもサービスの受け手にもなるような場合には、文脈が複雑化するため、分析対象としてわかりやすくするため、抽象化する必要がある、ということ。そして、最後の3点目の理由が、「2.複数のステークホルダーへの価値提供」を実現するためです。

※GTAが登場した文脈も看護の現場の複雑さを整理する必要から、というバックグラウンドがある。ちなみに、GTAにおいてはインタビューから得た膨大なファクトをルールに基いて一定の情報単位に「コード化(切片化)」し、それら文脈から切り離された抽象的な情報単位を再構成し、その過程で、情報集合を「概念」として構造化する、という手順を踏む。

私たちが調査を行う場合に、必ずしも上記のような調査〜コード化〜抽象化〜構造化、といったプロセスを踏むわけではありません。プロジェクトによっては、調査の結果からすぐにカスタマージャーニーマップを描いて、そこから得たインサイト(洞察/示唆)をもとにソリューションのコンセプトを開発するようなこともあります。つまり、そこには、観察から得られた情報のビジュアル化、モデル化はあっても抽象化するプロセスは明示的にはありません。この場合は、顕在化しているにせよ潜在的であるにせよ、行動文脈上に課題があり、それに対して解決策を提示していく、という、ある意味明快でわかりやすい手順を踏むことができます。

しかし、今回のプロジェクトのように複数の関係者の利害関係が絡み合っている場合、ある関係者に対してのソリューションが他の関係者の不利益につながることもあります。このようなケースでは、それぞれのユーザーインタビューの結果から、文脈やニーズを1つ1つ読み解き整合させていくことは非常に困難です。しかし、文脈の背景にある「価値」というものに抽象化することで、複数のステークホルダーにとって共通する「価値」とは何か、をマッチングすることが可能に(少なくともマッチングしやすく)なるのです。

本プロジェクトにおいても、抽象化された価値構造をつき合わせ、その中で複数の関係者に共通した価値をいくつか見つけることができました。その中で、なるべく多くの関係者にとって、意義のあるソリューションにつながる価値を選択しました。

結論から言えば、それは「適切な距離感を保つ」という価値です。

これを各ステークホルダーごとに落としこむと、介護サービスの利用者本人にとってはなるべく自立可能な期間を長く保つこと、家族にとっては両親や祖父母など、介護サービス利用者をちゃんと見守りつつ自分たちの生活スタイルをなるべく変えずに介護に関わっていくこと、サービス提供者にとってはプロとして必要な情報を過不足なく伝達・受容できるということ、と言えます(実際はもっと色々な価値や文脈を含みますが、ここでは簡単にまとめています)。

実際、介護の現場ではどの程度踏み込んだり意見しても良いのかがわかりにくく、遠慮しすぎてしまったり、逆に踏み込みすぎて過干渉になるようなケースが散見されています。この状態を解決するためのコミュニケーションツールを開発する、ということがプロジェクトの目標として定義されました。

 


3.MVPの重要性


サービスの方向性が定義されたのちには、具体的なソリューションを作っていきます。ここでクローズアップされてくるのが「3.MVPの重要性」です。MVPとは、 Minimum Viable Product、日本語で言うと「最小限実行可能な製品」という意味です。ここでは、ユーザーにサービス価値の体験提供が可能な最低限のプロトタイプ、という意味で用います。

さて繰り返しになりますが、このプロジェクトのターゲットである介護業界にはさまざまな立場のステークホルダーが存在しています。その人達に対して、本当にニーズがあるのか(Customer)?本当にコミュニケーションに問題があるのか(Problem)?このサービスで問題を解決できるのか(Solution)?、といういわゆるCPS軸のそれぞれを、各ステークホルダーに対して検証する必要があるわけです。

このような場合、「じゃあWebサービスをつくろう」「スマホアプリをつくろう」と開発を始めてしまうと、しかし開発後にあるステークホルダーにとっては致命的に不便だった、という事態も発生しかねません。そのため、MVPを複数段階でプロトタイプしながら、ステークホルダーに見せて検証していくという手順が必要になります。

もともとMVPはLean UXの文脈でよく使われる言葉であり、むしろシンプルなソリューションを特定のペルソナに適用する、というイメージが強いような気もしますが、個人的には本プロジェクトのような、複雑なステークホルダーの存在するような状況でも上記のような理由でむしろ有効だと感じています。結果的にステークホルダーが多いのでLean UXのようなスピード感のあるプロセスにはなりませんが、それはMVPの有効性とはまた別の話です。

本プロジェクトにおいては、大きく分けると

1. コンセプトシート(説明書やカタログのようなもの)でのユーザー検証
2. ラフプロトタイプ(工数低めに作れて動くもの)での検証
3. 実際のユーザーに長期間使ってもらう実証実験

という3段階で行いました。

それぞれの段階のMVPに対して各立場のユーザーからのフィードバックを受け、新機能を検討したり、逆に増えた機能アイデアをざっくり削ったり、方向修正を適宜行っていきました。

その甲斐あって、最終的に3ヶ月間実施した実証実験では想定した通りの成果や、部分的にはそれ以上の成果を得ることができ、実際に市場にリリースする運びとなりました。本サービスは、iOS、Android対応のスマートフォンアプリ「DaisyCircle」としてカシオ計算機からサービス提供されています。

DaisyCircle
http://daisycircle.casio.jp

とはいえ、現状の介護業界では多くのやり取りがFAXや電話で行われ、業務のIT化もそれほど進んでおらず、働く人の平均年齢も比較的高めで、スマートフォンアプリとの相性が決して良いとは言えません。そのためサービスの認知浸透にはまだまだ時間がかかりそうですので引き続き頑張ります。

このプロジェクトではほかにも、ビジネスモデルとしての収益性の検討やその裏付けのための定量調査、プロモーションのチャネルや手段の検討、そもそも別のソリューションの可能性はないかといった検討やプロトタイピングなど、さまざまな途中経過がありましたが、それらはまた別の機会があれば書いていきたいと思います。

さて、いかがでしたでしょうか。途中専門用語を使いすぎた感もなきにしもあらず、ですが、より「この部分の話が聞きたい」ということなどあれば、ぜひ下記アドレスよりご連絡下さい。次回以降の記事に反映するなり、お返事差し上げるなり、なにかしらリアクションいたしますので。

sd-park[at]concentinc.jp
※[at]は@に変えてください。

ではでは。

【執筆者プロフィール】
赤羽太郎|サストコ

 

【関連リンク】
事例紹介|カシオ計算機 介護業界向け新サービス開発

2016.02.09

※本記事はコンセントのサービスデザインチームによるブログ『Service Design Park』に、2016年2月8日に掲載された記事の転載です(転載元:http://sd-park.tumblr.com/post/138720557366/wacoal-vol1)。

こんにちは、サービスデザイナーの高石です。
今回は、株式会社ワコール様と一緒に取り組んでいる「ワコールつどいプロジェクト」についてご紹介します。

「ワコールつどいプロジェクト」は、ワコール様のコーポレートサイトを中心としたWebガバナンス強化プロジェクトが発端となりスタートしたものです。顧客の生活にきちんと寄り添い、下着の価値を届けるWeb施策を行うためには、顧客の利用文脈に寄り添ったWebガバナンスの策定が必要です。そうしたなかで、そもそも顧客が生活のなかでどのようなタイミングで下着に関わるのか、またその関わり方はどのようなものなのかをあらためて整理する必要があり、それらを洗い出す方法の1つとしてカスタマージャーニーマップ(以下、CJM)を作成することにしました。

一口に下着との関わりといっても、その関わり方には、「着用する/洗う」といった日常生活場面から、体型の変化や、妊娠等のライフステージの変化にともない「見直す/変える」といったことまで幅広いものが含まれます。

このCJMをきっかけに、「企業の手を離れ顧客のもとに届いた下着は、生活のなかで長時間かつ多様に女性の人生を支えているものだ」ということをあらためて認識することができました。ワコール様にも『「女性にとって下着とは何か」「広い意味で、世の女性が美しくあるために提供できること」を顧客とともに明らかにしていきたい』という思いがあり、「ワコールつどいプロジェクト」がスタートしました。

このプロジェクトは、エンドユーザーと事業者とでともに行うワークショップ群の総称で、顧客と「仲間」として関わり合う場を通じた、ワコールのあらたな価値創出をめざしています。 今回紹介するのは、そのなかでも2015年3月10日に開催した「『ココロにフィットする下着』デザインワークショップ」という初回ワークショップです。

ふだん選び、身に着けている「カラダを支えるため」の下着から離れ、自分の気持ちや価値観を下着のかたちに落とし込む、という手作りワークを行いました。

 

この取り組みのビジネス上の価値について、コンセント取締役/サービスデザイナーの大崎による説明を以下にご紹介します。

- – -

この一連の取り組みは、企業と生活者が共に価値創造をする「共創マーケティング」に「ものづくり」のプロセスを取り込んだものと言えます。

共創マーケティングとは、一般的に企業と生活者がコミュニティを形成し、製品・サービスの問題点や新しい使い方などを共に考え創るしくみと言われます。生活者が自主的に意見を発したり、生活者同士で製品・サービスについて語り合えるプラットフォームをオンライン・オフライン上で設計することで、新しいアイデアや生活者の潜在ニーズや価値観を発見することができます。このように製品・サービス開発におけるマーケティングリサーチの機能を持ちながらも、同時に生活者とのエンゲージメントを強め、LTV(顧客生涯価値)を最大化することができるなど、企業にとってメリットの大きい手法として注目されています。

このワークショップは、このような共創マーケティングの文脈の中に「ものづくり」のメソッドを入れ込むことで、「共創」の側面をより強めた取り組みとして捉えることができます。

共創のしくみをマーケティングの側面から捉えると、生活者にいかに本音を語ってもらえるかが重要になります。製品やサービスに対して顕在化しているニーズではなく、それらに対して生活者が抱いている生の価値観をあぶり出すことが、製品・サービスを成功させる重要なポイントになります。例えばデプスインタビューでは、本音を語ってもらうための幾つもの話し方やメソッドがあり、エスノグラフィ調査では「観察」を通じて生活者自身が気づいていないニーズや価値観を抽出する手法が体系化されています。

しかし、デプスインタビューにせよ、エスノグラフィ調査にせよ、調査する側とされる側という壁が存在している以上、本音や価値観は出てきてもそれらに対して互いに確認し合ったり議論することはありません。あくまで分析の対象として存在しているだけです。

このワークショップでは文字通り、生活者と企業が一緒になって実際に手を動かして「下着」をつくります。制作物という媒介を通して作り手の本音が出てきたり、媒介を通じてお互いに意見を交換することもできます。あえて「ココロのため」と、製品としての下着の「体を整える」という特性からずらしたことで、単なる色柄の好みの表現になることを防ぐと同時に、ワコール社員の方々にも一生活者としての視点にも立ち戻ってもらい、従来の調査とは違う切り口の「本音」を引き出すことができました。

ものづくりを通して参加者同士のつながりを強める作用もあります。言葉にしづらい身体の悩みや不安に対して「もの」を媒介することで抵抗なく言葉にすることができ、お互いに確認することができます。それによって個人で抱いていた不安や問題が実は思い込みであったり、あるいは企業にとって解決可能な問題であることがわかったりと、その場で解決がはかられることも多くあります。問題解決を通じて、生活者同士や生活者と企業間でのつながりを強固にできることも「ものづくり」ワークショップの強みであると言えます。

ワークショップ終了後に行った希望者対象の計測相談会では、「測っていこうよ、ちゃんと見てあげるから」「一度も測ったことがない? だめだよー!」といったフランクな感じで参加者同士で誘い合う場面がみられました。ほぼ全員計測を受けて帰られたのですが、ワークを通じてすっかり打ち解け、単なる「売る側—買う側」を超えた関係性ができたことが伺えました。

共創マーケティングでは、参加する生活者のモチベーションをいかにあげられるかというのも重要な観点ですが、今回のワークショップの参加者の感想をみても十分に手応えがありました。 「“もっと、自分らしい下着をつけよう。下着から自分の魅力を引き出すことができるんだ” と新しい発見があり、意識はとても変化したと思います」 「下着をきっかけに自分の内面や相手のことを知っていくのが楽しかったです」 「気づかなかったことに、手を動かすことで気づけるのはすごい」 「とても楽しかったです! ショーツについての話もしたかった!」

プレワーク的に行った下着や体についてのブレストでは、どのグループからもたくさんの意見が出され、とても初対面同士とは思えない盛り上がりを見せ、デリケートなテーマなだけに参加者が躊躇してしまうのでは?というこちらの懸念は良い意味で裏切られました。普段の生活の中では、同じ課題や悩みを持つ者同士で集まることも少ないようで、下着や体に関して「つどい」話し合うこと自体に大きな価値を感じていただけるようでした。

「ワコールつどいプロジェクト」は継続的に行われており、今後も下着や身体にまつわるさまざまなテーマを、生活者のセグメントに分けて開催していく予定です。次回以降の取り組みはこの場(『Service Design Park』)で継続的に公開していきます。

 


【「ワコールつどいプロジェクト」ワークショップ開催のお知らせ】

2016年2月23日に、女子大学生を対象としたワコール x コンセント共催のワークショップ「わたしの人生すごろく〈女性力アップ編〉を作ろう」をamuにて開催します。

就活のような自己分析や人生設計ではなく、若い女性がこれから先、それぞれの考える「ステキな大人の女性」になっていくためには何をするべきか。いまのキラキラ女子力にとどまらない「女性力」をつけていくための行動計画を、同じ年代の仲間や、人生の先輩たちといっしょに考えてみませんか。

開催概要は以下の「セミナー・イベント情報」ページをご参照ください。

Wacoal × Concent ワークショップ「わたしの人生すごろく〈女性力アップ編〉を作ろう」開催のお知らせ」|セミナー・イベント情報

 


【執筆者プロフィール】
高石 有美子(たかいし・ゆみこ)|株式会社コンセント サービスデザイナー

神奈川県出身。早稲田大学第一文学部(美術史学専修)卒業後、1998年にアレフ・ゼロ(現コンセント)にエディトリアルデザイナーとして入社。現在 Service Design Div.所属。豊富なデザイン経験と主婦・母としての視点を活かし、 一般顧客、とくに女性と企業をつなぐ共創プロジェクトへの参加も多い。小学生2児の母。

2015.12.21

※本記事はコンセントのサービスデザインチームによるブログ『Service Design Park』に、2015年12月11日に掲載された記事の転載です(転載元:http://sd-park.tumblr.com/post/134957140081/uxdesignandeditorialdesign)。

サービスデザイナーの佐藤史です。

私は普段からよく、「サービスデザイン」や「ユーザーエクスペリエンス(以下、UX)」に関する社外のイベントに参加し人前で話をすることがあります。終了後、懇親会などの場で改めて自己紹介するとき、現在の自分は社内でService Design Div.という部署に所属しているが、以前は同じ会社の中で「エディトリアルデザイン(※1)」領域の仕事をやっていました。つまり紙の会社案内や広報誌・社内報などを制作する仕事に携わっていました…という話をすると意外な顔をされることが多いです。

※1.エディトリアルデザイン…情報とその価値を正確な導線で伝えることで、読み手の心にメッセージを届けるためのデザイン手法です。広く一般的には雑誌・書籍など出版物のデザインを指しますが、コンセントでは、エディトリアルデザインのパイオニアとして、雑誌等で培った「編集思考力」と「デザイン力」を、企業・教育機関・政府関係機関の広報ツールのデザインに活かしており、そのようなアウトプットまでを含めて「エディトリアルデザイン」と呼んでいます。

数年前まで私はもっぱら「コンテンツディレクター」として、エディトリアルデザイナーや編集者、ライター、カメラマンそして印刷会社の方々と一緒に、いろいろな企業広報ツールの制作に携わっていました。しかし、サービスデザインやUXデザインの専門家を名乗るようになった現在でも、「エディトリアルデザイン」という専門領域に関する知見は私の大きなバックボーンとして、プロジェクトのいろいろな場面においてとても役に立っています。

ちなみに、「コンセントさんには、UXデザイナーがたくさんいるのでは?」という質問を受けることも多いですが、よく考えてみると、コンセントには最初からユーザーエクスペリエンス(UX)だけを専門としてきたデザイナーばかりがいるわけでもありません。雑誌や広報誌のようなエディトリアルデザインと、Webサイトやデジタルアプリのようなインタラクションデザインの両方をやる人もいますし、そうした人がサービスデザインやUXデザインをやる場合も多数あります。つまり、エディトリアルデザイナーでもインタラクションデザイナーでもみんな「問題を解決する人」「設計する人」という広義の意味での「デザイナー」で、「◯◯デザイン」の「◯◯」という(デザインの)対象物にこだわっているわけではないことは、コンセントのデザイナーの特徴なのかもしれません。事実、私が現在所属するService Design Div.でも、以前は、エディトリアルデザインを専門にしていた社員が、サービスデザイナーとして活動し、自らプロジェクトのリードをとることも多いです。(普段の仕事で各分野の比重が占める割合は人それぞれで、どこに注力するかは本人の意思も尊重されます)

 


「エディトリアルデザイン」もUXデザインのひとつ?


ここで本題に入りますが、「エディトリアルデザイン」も俯瞰して捉えれば「UXデザイン」であると私は思っています。それは、エディトリアルデザインと呼ばれているもの自体が、「冊子を手にしてページを繰る」というユーザー体験をデザインすることに他ならないからです。興味深い事例をひとつ紹介しましょう。

私は過去に、あるB to B企業の広報誌のコンテンツディレクターをしていたことがあります。広報誌をリニューアルし、新しいコンテンツ企画を検討するとき、以下のようなアプローチをとりました。

その広報誌は、主にその企業の営業職の方が取引先を訪問した時に、お客さんと対面で会話しながら手渡しする目的でつくられている冊子でした。そこで、実際にその企業の営業職の方に「ユーザーインタビュー」をして、“取引先の方と普段どういう会話をされているか”“どういうコンテンツがあればその方との会話が弾みそうか”“どういうコンテンツがあれば営業しやすいか”等をヒアリングし、そこから得た情報をもとに、その広報誌のコンテンツ企画や編集方針、誌面構成を策定しました。

また、デザイナーと一緒にデザインフォーマットを検討する段階では、この広報誌は、読み手つまり「ユーザー」が椅子に腰を据えてじっくり読むというような「使われ方」をされているのではなく、仕事の空き時間や営業の方が訪れたついでにパラパラと見て読まれる場合が大半であるという、ユーザーインタビューや読者アンケートなどの定性・定量調査から得た「利用文脈」を踏まえたうえで、読む人にとって負担にならない程度の情報量や文字量を決めました。

これは、いわゆるデジタルアプリなどを開発するときに、UXデザイナーが、インタビューなどの定性調査から要件を導き出すプロセスと、基本的には同じ思考のプロセスをとっていたと思います。

 

また、エディトリアルデザイナーが印刷媒体を企画してデザインする行為自体は、一連の「プロトタイプ」と言えます。

その媒体がもつデザイントーンに相応しい紙の質感や厚さなどは、プリンタ出力ではなく、束見本(※2)や色校正(※3)刷りを通してでないと確かめられません。実際、印刷用紙の厚さや紙質などは、冊子や本を手にしたときに感じる「認知」や「体験」に大きな影響を与えます。例えば、白色度が強く厚さもしっかりした紙でなおかつ表紙にコーティング加工などが施された会社案内を受け取れば、「ああ、この会社はちゃんとしているんだな」などと折り目正しい企業の印象をもちますが、読み手に気軽に手にしてもらいたくて発行している広報誌が、あまり厚い紙で刷られていたら「気軽さ」の印象は低減するでしょう。これは一般的な傾向ですが、白色度の強い紙に比べてややアイボリーがかった紙だとカジュアル感が醸成されやすくなります。また、ムック書籍が雑誌に比べて、やや厚めの紙でつくられることが多いのも、読み手の情報に対する向き合い方が、雑誌のそれに比べるとムックの方が少しだけ「きちんと読みたい・知りたい」と能動的になることを意識した結果だと思います。

その他にも、デザイナーがレイアウトチェックをするとき、プリンタから余白付きで出力されたものではなく、必ず周囲の余白を切り落として実際の仕上がりサイズの状態で確認するものも、「精度の高いプロトタイプ」で手にしてみることによりデザイン上の見落としを防ぐことができるからです。


※2.束見本…冊子の厚さを確認するために、実際に印刷される紙と同じ用紙で作る冊子の見本。


※3.色校正…指定した色がその通りに印刷されているかを確認する作業。

 


継続的なユーザー体験とコミュニケーションをつくる


ここまで書くと、「だとしたら別にエディトリアルデザインに限らず広告とかポスターとかパッケージでも同じ論法だろう」と考える方も多いと思います。ただここで、「ユーザーエクスペリエンスデザイン」と「エディトリアルデザイン」の共通項として、もうひとつ強調しておきたいことがあります。それは、どちらも、提供・発信する側とそれを受け取る相手との間に、一回限りではない継続的なコミュニケーションが発生する場合が非常に多いということです。

広報誌や雑誌で毎号いろいろな特集記事を考える時、過去の号からの読み手の声を参考に戦略を立てることは、Webサイトやデジタルアプリケーションをローンチした後、アクセスログを取得して解析することと同じく「検証・改善サイクルを回す」ことに該当します。また、会社案内や製品パンフレットのように定期的な刊行物ではない場合でも、一度目にして終わりではなく、後から読み返されることがままあるという点は、ポスター等の広告媒体との大きな違いです。コンセントは「コミュニケーションをデザインする会社です」といろんな場面で説明されることが多いですが、私個人の考えでは、それだけだとまだ説明が足りていない気がしており、そこに「継続性」という特長が存在すること、一発限りのプロモーションではない”継続的な”コミュニケーションをデザインする会社だということをここであらためて強調したいと思います。

 


「デザイン」することで得られる効果に対して意識的になる


何だか自画自賛ならぬ自社自賛的な文章になってきましたが、最後に「ユーザーエクスペリエンスデザイン」も「エディトリアルデザイン」も、ともにこれからはデザインする人間がアウトプットに対してもつ責任も重くなるであろうことを述べておきます。

数年前までは、多くの企業にとって、サービスデザインやUXデザインは新しい概念であり、多くの方がその概念や手法を理解しようとされていました。しかし今は、概念や手法の理解も引き続き大事なのですが、それに加えて、導入することで会社の事業戦略や収益に対してどういう効果が得られるのかという点に、多くの方の関心が移ってきており、われわれデザイン会社はそれをクライアント企業や社会に対してきちんと説明することを求められています。

一方、エディトリアルデザインの分野では、電子書籍やニュースアプリが広まったことで紙の出版物は減少し、企業の広報活動でも、紙の冊子はつくらずPDFのみで配信することも増えてきました。だからこそ、紙をつかって相応のコストで制作される印刷媒体が、出版物もしくは企業の広報・販促活動として、どれだけの意義があり価値をもつのか、つまりコンテンツをあえて印刷物にする費用対効果について、われわれのようにコンテンツを企画・提案する立場の人間はこれまで以上に意識的になる必要があります。

ただ、これは私個人の所感ですが、メディアのデジタル化によって紙の出版物や広報ツールが全部なくなるということはさすがにないと思います。むしろ本当に読み手にとって大切であり、手にして読んで保管するに値すると思ってもらえる良質なコンテンツだけが有形の印刷物として残っていくのではないでしょうか。そしてそういう世の中になれば、それこそ先に述べたようなエディトリアルデザイナーの能力が大きく発揮される好機だと捉えるべきでしょう。ちなみにサービスデザインの分野でも、サービスという無形の存在を伝える物的証拠が顧客の体験価値向上において重要であることが原則のひとつとして語られています。

読者が美しく装丁された印刷物を手にしたときのワクワクする気持ち、ビジネスパーソンが企業広報誌のページを繰ってコンテンツを読み終わったときの「なるほど!」という満足感。こういう体験を、エディトリアルデザイナーやコンテンツディレクターが「優れたユーザー体験」としてロジカルに語る姿を見てみたい。それは、「エディトリアルデザイン」から「ユーザーエクスペリエンスデザイン」へと活動の軸足を移した今の自分の思いでもあります。

【執筆者プロフィール】
佐藤 史|サストコ

2015.12.16

※本記事はコンセントのサービスデザインチームによるブログ『Service Design Park』に、2015年11月30日に掲載された記事の転載です(転載元:http://sd-park.tumblr.com/post/134257798431/bousoulifestylevol1)。

こんにちは。サービスデザイナーの小橋です。

コンセントでは、公共の課題をサービスデザインアプローチによる共創で解決するための「Pub. Lab.(パブリックラボ)」という取り組みを行っています。今回はそのプロジェクトのひとつである「いすみ市発 房総ライフスタイルプロジェクト」の概要と、そこで行ったワークショップの様子をご紹介します。

 


多様なライフスタイルが共存するいすみ市での「サービスエコシステム」観点


まず、プロジェクトの概要と背景について、簡単に説明します。

「いすみ市発 房総ライフスタイルプロジェクト」は、千葉県いすみ市武蔵野美術大学D-LOUNGEが提携して進めている産官学民協働プロジェクトで、コンセントはD-LOUNGEの協力パートナーとして、プロジェクトプランの提供およびプロジェクト進行を担当しています。また、地元のいすみ市地域おこし協力隊や、NPO法人いすみライフスタイル研究所のご協力のもと、いすみ市民の方々にもプロジェクトに参加していただいています。

今回のプロジェクトは、コンセントが普段クライアントワークとして取り組んでいるサービスデザインのアプローチを行政課題に適用する試みです。サービスデザインは、「ユーザー中心」の考え方が基本にありますが、近年、ユーザーを取り巻く環境の全体像をサービスエコシステムの観点でとらえることが重要になっています。エコシステムとは本来、生物とその環境の構成要素をひとつのシステムとしてとらえる概念ですが、ユーザーとサービスについても、このような観点で広い視点から関係性を捉えることが重要です。

マルチステークホルダーが関係する複雑な問題においては、ユーザーの直接的なタッチポイントだけではなく、ユーザーを取り巻く他のステークホルダーや組織、市場、文化、行政などの間接的な外部要因まで含めて関係性を可視化し、ホリスティックな視点でユーザー理解、問題定義を行う必要があります。

一方、いすみ市は、多様なライフスタイルが共存するまちです。2005年に、夷隅郡夷隅町と大原町・岬町の3町が合併して誕生しましたが、「地方創生」の時流に乗って、ここ数年、都会からの移住・定住の促進に力を入れています。良好な漁場を育む里海と、昔ながらの田園地帯が残る里山を中心として、多様な自然環境に恵まれているため、移住者のタイプも様々で、サーフィンに最適な海を求めてくる人、里山でのエコな暮らしを求めて来る人など、実に多様なライフスタイルが見られます。また、当然ながら地元の人々はこの地域で長年それぞれの暮らしを営んでおり、これからも増えていく移住者にどう向き合い、どう接していくべきかということも問題になります。

このように、多様なライフスタイルが共存するいすみ市のまちづくりを考えていく上では、単にユーザー中心の視点だけではなく、さまざまなライフスタイルを持った人々がどう関係し合っているのかをサービスエコシステムの観点でとらえ、まさに「木を見て森も見る」ようなスタンスで、問題を探り当てるサービスデザインのアプローチが有効ではないかと考えています。

移住・定住の促進は、いまや全国的な動きになっており、いすみ市と共通する問題を抱えている地方自治体は少なくありません。このプロジェクトの目的は、いすみ市の魅力の発掘・発信と課題発見・解決策の抽出を行なうことです。これらを達成するために、その意義や有効性の検証も視野に入れ、前述したサービスデザインでのアプローチを行っています。そうすることで、房総半島ひいては日本全国でのパブリックな課題に対するアプローチとして、示唆に富むケーススタディになるのではないかと思います。

 


ライフスタイル類型化ワークショップ


このような背景をふまえてスタートしたプロジェクトですが、はじめのステップとして、いすみ市住民のライフスタイルを理解するために「いすみ市ライフスタイル類型化ワークショップ」を11月11日(水)にいすみ市役所で行いました。このワークショップは、いすみ市住民のさまざまなライフスタイルを洗い出して分類した上で、それぞれのセグメントに属する住民の特徴と課題を理解し、これから行うフィールド調査に向けて「いすみ市の縮図」を把握することが目的です。ワークショップ当日は、いすみ市の地域おこし協力隊の方々に加えて、いすみライフスタイル研究所のサポート会員である地元住民の方々にもお越しいただきました。コンセントは、ワークショップのプログラム設計とファシリテーションを担当し、サービスデザインチームから小橋、星、川原田の3名が参加しました。

ワークのためのツールとして、ライフスタイルの特徴を書き出すカードを作成しました。3つのグループに分かれ、各グループで、いすみ市住民のライフスタイルをどんどん書き出しながら意見を出し合います。

各グループで出したカードをボードに貼って、全体での議論をします。

その後、分類した各セグメントの住民について、各グループで現状の課題を洗い出し、全員で共有しました。

 


今後に向けて


今回のワークショップをしてみて、事前に予想していた以上に多様なライフスタイルが集まり、あらためて、いすみ市の多様性を再認識しました。普段から地域に関わっている地域おこし協力隊や住民の方々が集まり、リアルな意見が集まったことも大きな収穫でした。全体の議論では熱のこもった意見が飛び交い、参加者の方々のまちづくりに対する意識の高さが伺えました。

今回、類型化した中でも参加者の関心が高かったのは、「農業・漁業を営む地元住民」「移住者に対してウェルカムな地元住民」「子育てをする家族」「アートに関わる移住者」「自給自足の暮らしをする移住者」など、いずれも、行政課題としての重要度が高く、特徴的なライフスタイルの方々でした。

今後は、これらの住民セグメントにフォーカスをあてて、インタビューやフィールド調査を行っていき、実際の住民の声に耳を傾けながら、プロブレムフレーミングのための分析を進めていきます。プロジェクトはまだ始まったばかりですが、最終的にどういう形で実を結ぶか、私自身も楽しみにしながら進めていきたいと思います。

【執筆者】
小橋 真哉(株式会社コンセント サービスデザイナー)

2015.12.14

※本記事はコンセントのサービスデザインチームによるブログ『Service Design Park』に、2015年11月19日に掲載された記事の転載です(転載元:http://sd-park.tumblr.com/post/133507365371/pub-lab)。

こんにちは。サービスデザイナーの小山田です。

今回は、コンセントの「Pub.Lab(パブリック・ラボ)」という取り組みをご紹介します。

コンセントでは、以前から企業に加えユーザーが参加する共創プロジェクトとして、株式会社ワコール様との「ココロにフィットする下着」デザインワークショップや、行政も参画する「子育てママ*リビングラボ」(※1)などを行ってきました。

※1「子育てママ*リビングラボ」のキックオフイベント「子育てアイデアソン」は、主催:ソーシャルビジネスデザイン研究所、共催:大阪市東成区社会福祉協議会、協力:コクヨ株式会社、株式会社コンセント、大阪イノベーションハブ、東成区役所、で開催されました。

それぞれのプロジェクトについて詳しくは下記のページをご覧ください。
amuイベントレポート|「ココロにフィットする下着」デザインワークショップ
ラボコラム|これからの共創のかたち「リビングラボ」

「Pub.Lab.」は、これらの活動に加え、サービスデザインの手法を活用し、公的な機関を含むさまざまなステークホルダーとの連携の仕方や、公共空間のあり方を検討し、よりよい暮らしのつくり方を考えるためのチームであり、取り組みです。

コアメンバーとして、グラフィック、エディトリアルデザインをバックグラウンドにもつ私、小山田と、建築、プロジェクトマネジメントをバックグラウンドにもつ小橋が、主要なメンバーとなり、プロジェクトごとにさまざまなメンバーと連携して、プロジェクトを実行しています。

 


よりホリスティックな視点へ


ふだんコンセントでは、サービスデザインのアプローチを通して、企業の提供する製品・サービスの体験価値の向上を図り、新規事業開発や製品・サービス開発を支援しています。その際には、エスノグラフィ調査などを通して、顧客自身も気づいていないような期待価値を理解し、それを実現するソリューションを検討していくことになります。

ユーザーの視点に立ち、よりよい暮らしを実現させるためには、企業とユーザーという限定された関係性だけではなく、公共という視点も含めた、よりホリスティックな視点に立つ必要があります。さまざまなステークホルダー間で共有できる価値創出をステークホルダー間での連携を通して実現していく必要があることを痛感します。

海外では、たとえばデンマークのMindlabのように、行政自身がサービスデザインの方法論を取り入れ、市民との共創による政策提言を行っている事例があります。しかし、システムや文化の違いなどもあり、日本では、ふだんの暮らしにもっとも近いはずの公的なものと、デザインとの距離が遠いという現状があります。

こうした背景をふまえ、Pub. Lab.は、「公共の課題をサービスデザインアプローチによる”共創”で解決し、よりよい暮らしをつくる」ということをミッションとして発足しました。このミッションをふまえ、セミナー・勉強会などのイベントを通した継続的な研究活動を行うとともに、理論を実践に移すための取り組みとして、産学官連携でいくつかのパイロットプロジェクトを進めていきます。

 


Pub.Lab.の活動


先述したように、コンセントでは「下着づくりワークショップ」や「リビングラボ」といった、サービスデザインの手法を使い、ホリスティックな視点から共に価値を創るプロジェクトを実施してきました。
Pub.Lab.では、これらのユーザー中心のデザインと「共創」により新しい価値を実現するプロジェクトに加え、さまざまなパートナーとともに以下のような活動を行っています。

●公共施設の有効活用に向けたサービスデザイン
(コンセント×公共R不動産)

「公共R不動産」とは、全国から公共空間の情報を集め、それを買いたい、借りたい、使いたい市民や企業とマッチングするためのWebサイトです。Pub. Lab.のメンバーは、この運営チームのミーティングに定期的に参加し、企業と行政のコミュニケーションを促進させていくためのサービス検討を一緒に進めています。

 

●サービスデザインによる公共空間、サービスのプロトタイピング
(コンセント×公共R不動産×千葉工業大学 山崎研究室×習志野市)

例えば公園や、公開空地などさまざまな人に向けて広く開かれた場所で、どのようなことが行われるべきか。それは、ステークホルダーの理解と、新しい発想によって、その場所ごとに生み出されるべきものではないでしょうか。コンセントでは、千葉工業大学 山崎研究室の授業支援を通して、公共空間のサービスプロトタイピングを行っています。

 

●サービスデザインによる地域課題の特定とサービスプロトタイピング
(コンセント×D-Lounge×千葉県いすみ市×いすみライフスタイル研究所)

千葉県いすみ市は、豊かな自然と東京との絶妙な距離から、都心からの移住者の多い場所です。この街の未来を考える際には、単純に「移住促進」という方法からスタートするのではなく、地域の特性とステークホルダーの理解から、何が課題になっているかを理解することが欠かせません。コンセントでは、サービスデザインの手法を活用して地域の課題解決支援を行っています。

 

●デンマークとのサービスデザイン情報交換(Service Design Salon)
(コンセント×エスベン・グロンダール氏、ayanomimi、Danish Design Centre、VIA Design)

Service Design SalonはコンセントのService Designチームが主催する、オープンな勉強会です。カジュアルな雰囲気のなか、さまざまな方をゲストスピーカーにお招きして活動をご紹介いただいたり、参加者もまじえたディスカッションを行ったりしています。今後も、デンマークの市民参加型デザインや、公共デザインの分野に関する勉強会を行っていきます。

 

●公共空間における市民の「居心地のよさ」研究(東京デンマークWeek)
(コンセント×ayanomimi)

Service Design Salonを開催するなかで、デンマークの“ヒュッゲ”という言葉と出会いました。心地よい空間や、時間、ゆったりしたり、賑やかに過ごしたり……一言では言い表せない快適さを表現するデンマークの言葉です。公共空間、公共デザインで先進的な取り組みを行うデンマークをより深く知るために、デンマークで活動するデザインコンサルティング会社 “ayanomimi”のイベント、「東京デンマークWEEK」の企画・開催協力を行いました。

特に、デンマークとの情報交換は、2015年10月20日に開催した「Service Design Salon Vol.10 / Service Design Initiative」でも、デンマークで刑務所の労働環境改善などのプロジェクトを手掛けるVIA DesignのIda Vesterdal氏とSune Kjems氏や、「The Service Design Global Conference 2015」で基調講演を行った、Danish Design CenterのChristian Bason氏をお招きして意見交換するなど活発に行っています。

また、デンマークのデザインコンサルティング会社であるayanomimiとは、2015年10月26日〜30日に開催された「東京デンマークWEEK 2015」の全7回のイベントのうち、4回をコンセントで協力。多数の方にご来場いただき、デンマークと日本での意見交換の機会をつくることができました。

過去に行ってきたイベントの概要はこちらでご覧いただけます。

●デンマークとのサービスデザイン情報交換(Service Design Salon)
オープンな勉強会「Service Design Salon」|サストコ
Service Design Salon vol.4 レポート|サストコ
~日本の公園から考える~Service Design Salon vol.5 レポート|サストコ
Service Design Salon Vol.10 [Lecture]/Service Design initiative
「Changing Organization into Service Design」イベント概要|Peatix
※イベントレポート公開準備中

●公共空間における市民の「居心地のよさ」研究(東京デンマークWeek)※イベントレポート公開準備中
イベント概要|ayanomimi オフィシャルサイト
“デンマークのヒュッゲな職場、デンマークのオフィス環境” |Peatix
“デンマークのヒュッゲな職場、働く環境のトレンドと習慣” |Peatix
“プロセスをデザインするデンマーク、ヒュッゲな公共デザイン” |Peatix
“デンマークの行政サービスのデジタル化” |Peatix

今後も、上記のイベントに加え、現在トライアルを行っているプロジェクトのご報告を行っていく予定です。

もしご興味のあるテーマがありましたら、「Service Design Salon」などの公開イベント(コンセントの公式Facebookページにて随時告知)や、Service Design Park Facebookページへぜひご参加ください。

【執筆者プロフィール】
小山田 那由他|サストコ

2015.11.25

※本記事はコンセントのサービスデザインチームによるブログ『Service Design Park』に、2015年8月21日に掲載された記事の転載です(転載元:http://sd-park.tumblr.com/post/127223613356/how-to-use-qualitative-research-effectively)。

こんにちは。サービスデザイナーの佐藤史です。

最近、仕事でプロジェクトプランをつくるとき、定性調査を実施するメリットについて、いろいろな人から質問をうけるので、今日は定性調査の意義とその活用法についてごく基本的なことを書いてみたいと思います。

 


「ユーザーを知る」とはどういうことか?


新しいサービスや製品を開発するとき、「生活のなかで、どんなニーズがあるのか?」「どんな製品やサービスなら受け入れられるのか?」を知るために、ユーザーインタビューをすることがあります。

かたや、「いやいや、我々はアンケートやアクセスログを使って調査しているから、ユーザーのことはよくわかっているよ」という声もよく耳にします。もちろん、アンケートやアクセスログのような定量調査は、市場ニーズを知る上で大切です。

しかし、ユーザーの情報には、以下の3種類(階層)があり、定量調査だけでは、その一部の階層しか知ることができません。

● 属性・セグメント →アンケートで入手可能
● 行為・文脈 →文脈インタビュー・行動観察が必要
● 価値観・インサイト(本音) →デプスインタビュー・仮説など

どのようなユーザー調査も、新しいサービスや製品のアイデアを生み出すためには、この3つの階層すべてについて、ユーザーのことを知る必要があります。3つの階層を、比較的単純な例を用いて説明してみます。

 

まず、「属性・セグメント」

主観に左右されない単純な事実。「私は◯◯です」の一言、もしくは「はい」か「いいえ」でも答えられるようなこと。大抵の場合は、アンケートを実施すればデータを収集できます。

 

次が、「行動・文脈」

例えば「普段、どこで何をやっているか」。これはアンケートやインタビューでも収集できますが、聞く内容によっては、本人が見栄をはったり体裁を気にして、やや脚色を加えて回答してくる場合もあります。定量調査だけではなく、街頭での行動観察など定性調査と組み合わせて調べることをお薦めします。

 

最後の一番深い階層が、「価値観・インサイト(いわゆる本音)」です。

この階層の情報は、本人にとっては、あまりにも日常的で当たり前のことである場合が多いため、突っこんで質問でもされない限り、なかなか答えてくれないものです。ですので、インタビューする時には、事実を聞くだけではなくその理由も深掘りして聞く必要があります。(※1)

また、「行動・文脈」の場合と同じく、インタビューの場では本人が、やや脚色して答えてくる場合もあるので、インタビュー後に改めて発言録を読み返し、「なぜ、この人はこうしているのだろう?」と発言の理由やそこに潜む真意について深く考察する必要があります。

※1. インタビューで事実を深掘りして相手の本音を引き出すためには、「オープンクエスチョン」という質問のテクニックがあります。

 


事実の背後にある「ユーザーにとっての価値」を考える


この「価値観・インサイト(いわゆる本音)」をつかむには、ちょっとしたコツが必要ですので、もう少し詳しく説明します。例えば、あるインタビューから、以下のような分析結果を導き出したとしましょう。

 

……これは一見、もっともらしいですが、わざわざ調査をせずとも何となくメディアで取り上げられる一般的イメージからでも予想できそうな分析結果になっていますね。こういう例を我々はよく「発見性に乏しい分析」「データが緻密に拾えていない」「考察が浅い」などと言います。

では、インタビューのとき、もう一段踏み込んで下記のような発言を引き出していたら、どんなサービス改善への示唆が得られるでしょうか?

 

「なぜ、この人はこういうふうにしているのだろう?」−−−−どんな小さな行為でも、その背景には必ずその人なりの理由や価値観は存在するものです。このように、日頃の行動や、発言したことの裏に潜む真意を探ることで、サービスや製品に関する本質的な解決策を発見することができるのです。

ところが、です。こういう疑問をもたれる方も多いのではないでしょうか?

「それって単なる推測では? 論拠はどこにあるの?」

「インタビューのような定性調査は、定量調査とは違って、少人数にしか聞けないから不安」

このような指摘は、定性調査を、定量調査と手法は違えど同じ目的と捉えてしまっていることに起因するようです。ここで定性調査の意義について、改めて整理しておきます。

 


定性調査と定量調査、上手に組み合わせること


定性調査は、定量調査のように事実を数値的に把握するための手法ではなく、事実に対する仮説モデル(例:ペルソナ、シナリオ)を構築するための手法です。「定性調査は定量調査に比べて確からしさの点で劣るのでは?」とよく聞かれますが、確からしさの優劣ではなく、定性調査と定量調査ではそもそも目的が違うのです。

※『IA100 ユーザエクスペリエンスのための情報アーキテクチャ設計』(長谷川敦士著・BNN新社発行)より引用

定性調査の分析結果から思いもよらぬ新しい仮説が導かれることで、サービスや製品開発の可能性が広がることは、とても胸躍る体験です。しかし、ビジネスとして実現させるためには、仮説が正しいのかどうかを数値的に検証することも欠かせません。上図のように、定量と定性、タイプの異なるふたつの調査をうまく組み合わせることが重要です。

最後に、定性調査の精度を上げるためのポイントをもうひとつ。仮説は仮説でも、一人もしくは少人数で考えた仮説と、大勢で考えた仮説では、その強度は大きく変わります。また、多くの人の視点で考え、なおかつ対案も用意したうえで検証すれば、プロジェクトも円滑に進みます。定性調査を行う際、多角的な視点を取り入れて分析結果の偏りを防ぐためには、ワークショップやアイデアソンのような多数の人を巻き込む手法が効果的です。ぜひ、これらも併せて試してみてください。

また、ユーザーが本当に求めていることを探りより深い理解と、プロジェクトを進めるにあたっての根拠となる情報を与えてくれるユーザー調査手法の一つに“コンテクスチュアル・インクワイアリー”があります。進め方や活用例のご紹介、またユーザーの更なる理解に向けて、質的・量的調査を相互補完または融合させる方法論である“Mixed Methods(ミクストメソッド)”について、コンセントのメンバーが解説した記事がございますので、ご興味をもたれた方はぜひご参照ください。
寄稿記事「ユーザーを本当に理解していますか? ユーザーの行動・体験から要求を探る「コンテクスチュアル・インクワイアリー」 |Web担当者Forum(2014年3月19日 公開)

 

【執筆者プロフィール】
佐藤 史|サストコ

2015.10.19

2015年10月22日にビー・エヌ・エヌ新社より『今日からはじめる情報設計 – センスメイキングするための7ステップ -』が刊行されます。

情報アーキテクチャの第一人者として知られる、インフォメーションアーキテクトのアビー・コバートによる、「しっちゃかめっちゃか」への処方箋。Webサイトの情報設計に限らず、世の中の錯綜した情報、複雑な情報を整頓して考えるため、問題解決のベースとなる情報設計のエッセンスを7つのステップで手ほどきしてくれる本です。

日本語版の監訳は、コンセント代表取締役/インフォメーションアーキテクトの長谷川敦士が務めています。

《書籍情報
『今日からはじめる情報設計 -センスメイキングするための7ステップ-』

■ 書名:『今日からはじめる情報設計 – センスメイキングするための7ステップ -』
■ 著 者:アビー・コバート
■ 監訳者:長谷川敦士
■ 訳 者:安藤幸央
■ ISBN:978-4-8025-1001-1
■ 定価:本体2,000円+税
■ 仕様:A5判/176ページ
■ 発売日:2015年10月22日

出版元BNN新社のオフィシャルページ

『今日からはじめる情報設計 – センスメイキングするための7ステップ -』のご購入(Amazonのサイトへリンクします)

2015.10.19

2015年10月22日にビー・エヌ・エヌ新社より『これからのマーケティングに役立つ、サービス・デザイン入門 – 商品開発・サービスに革新を巻き起こす、顧客目線のビジネス戦略』が刊行されます。

サービスデザインは、企業が顧客に対しあらゆるタッチポイントでより快適なカスタマーエクスペリエンスを提供するために、顧客の視点からビジネスをリフレーミングする取り組みです。

この書籍では、ツールやメソッドを詳細に紹介しているわけではありませんが、顧客が製品やサービスについて何を価値と考えているかを知るための有用な方法が扱われており、これからのマーケティングに役立つヒントが見つかる一冊です。

日本語版の監修はコンセント代表取締役/インフォメーションアーキテクトでService Design Global Network Japan Chapterのボードメンバーでもある長谷川敦士が務めており、またコンセントの取締役/サービスデザイナーの大崎優が解説文「日本のサービスデザインの現場」を寄せています。

《書籍情報

■ 書名:『これからのマーケティングに役立つ、サービス・デザイン入門
- 商品開発・サービスに革新を巻き起こす、顧客目線のビジネス戦略』

■ 著者:J.Margus Klaar
■ 翻訳:郷司 陽子
■ 監修:長谷川敦士

■ 版型:単行本(ソフトカバー): 120ページ
■ 出版社: ビー・エヌ・エヌ新社 (2015/10/22)
■ 言語: 日本語
■ ISBN-10: 4861009979
■ ISBN-13: 978-4861009976
■ 発売日: 2015/10/22
■ 価格:1,600円+税

出版元BNN新社のオフィシャルページ

『これからのマーケティングに役立つ、サービス・デザイン入門 – 商品開発・サービスに革新を巻き起こす、顧客目線のビジネス戦略』のご購入(Amazonのサイトへリンクします)

2015.08.13

執筆:中垣美香、石井真奈、中筋ひかる、関根彩矢

IAをとりまく現状、未来でのテクノロジーとの関わり方、複雑化するユーザー環境、ビジネスにおけるデジタルコミュニケーションの重要性の向上、シェアードエコノミーや集合知などのあたらしい価値観の台頭……IAを取り巻く多岐にわたるトピックに対して、私たちは今後どう関わっていけばいいのでしょうか。こういった課題を考える場として、IAの合宿と銘打った「IA CAMP 2015」が、7月17日(金)にパレスサイドビル マイナビルームで開催されました。

ソシオメディア、コンセント、マイナビの3社による共同開催となった「IA CAMP 2015」。プログラムは日中の第1部、第2部、夜間の第3部に分かれ、9:00から21:15まで丸1日かけて行われました。登壇者と参加者はセミナールームに集い、IAにまつわるさまざまなセッションを受けるというスタイル。コンセントの長谷川をはじめとする日本のIA業界のスピーカーに加え、今回はIA界の「開拓者」たちも海をわたって登壇してくださいました。“シロクマ本”を著したPeter Morville氏をはじめ、Dan Klyn氏、Jason Hobbs氏の議論は、日本の、特にWebの文脈で語られるIAとは異なる視点に立脚したもので、IAを客観的に捉え直すきっかけとなる素晴らしいセッションでした。

以下、コンセントから参加したディレクターの中垣、デザイナーの石井、ディレクターの中筋、デザイナーの関根の4名が、各セッションについてレポートします。

 


■日本のIA、弱いIA/長谷川敦士(株式会社コンセント 代表取締役/インフォメーションアーキテクト)


 

オープニングキーノートにあたるコンセントの長谷川のセッションは「日本のIA、弱いIA」というテーマで、日本のデザインの特性と情報社会全体で求められている「弱いIA」の可能性についての講演でした。

さまざまな事例を紹介しながら、日本のデザインには
・情報量が多くなりがち(受け手が多すぎる情報も処理できてしまうという側面、「情報量の多さ=選択肢の多さ」としてポジティブに捉える側面がある)
・検証と改善を重ねた細かい配慮が得意
・一貫性をつくるのが苦手
・共感を生む仕組みづくりが得意(「設計者=利用者」であることが多い、文脈性の共有度が高い)
などといった特性があると言及していました。

そして、そういったデザインを生み出す背景には、トップダウンの戦略型ではなく、ボトムアップの現場最適型という日本の組織文化があるということが述べられていました。もともと日本人が狩猟型ではなく農耕型の民族であったこと、島国という大きな集合体の中で日本語(漢字、ひらがな、カタカナ)という単一言語を用いてきたこと、といった歴史的要因が、現場のオペレーションでの検証改善・最適化を図っていくことを得意とする、日本の組織文化を築き上げてきたのではないかとのことでした。

本セッションのテーマにある「弱いIA」とは、今年2月開催のWorld IA Day 2015 Japanで紹介された「弱いロボット」にインスピレーションを得た概念(※1)で、自律的に人間の行動を代替し目的を完遂する(=強いIA)のではなく、人間に依存し、人間の共感性にアプローチすることで目的完遂までの意思決定をサポートするというアーキテクチャです。切り出されたシステムの一部を自己完遂するのが「強いIA」であるとすれば、「弱いIA」とは、対象との交流を通じて文脈を参照し、対象を取り巻くシステムを構築しながら、対象そのものが目的を達成することを促します。

※1 World IA Day 2015 Japanのなかで紹介された「弱いロボット」については、World IA Day 2015 Japanのレポートをご参照ください。(⇒ http://www.concentinc.jp/labs/2015/05/world-ia-day-2015-japan/

セッションの中で紹介があったAirbnbの「従業員経験モデル」のように、「共感を生む仕組みづくり」は、今後その重要性がますます高まることが予想されます。私も、日本人としての文化特性を活かしつつ、専門家として、特定の文脈によらず利用者の共感を引き出す構造とUIによって利用者の意思決定を促す「弱いIA」の可能性を広げていきたいと思います。[執筆:中垣]

 


■The Architecture of Understanding/Peter Morville 氏


 

オープニングキーノートの2つ目のセッションは、“シロクマ本”の著者としても著名なPeter Morville氏による講演でした。本セッションは、「情報を体系化することで世界をより良い場所にできるのか?」「“すべてが深く錯綜している(※2)”社会をどう理解し、何を担っていくのか?」といった課題に対し、彼の最新刊である『Intertwingled: 錯綜する世界/情報がすべてを変える』を紐解きながら、Nature/Category/Link/Culture/Limitsという5つのキーワードを切り口に議論を展開していました。ここでは、その5つのキーワードのそれぞれの要点をご紹介します。

※2 Theodor H. Nelson(1974)Dream Machines

・Nature(自然)
多くの有機体がつながり、急速な変化を遂げる情報化社会の実態を理解するための手掛かりとして、自分たちのいる組織を1つの生態系と見なし、あらゆる生態系は相互性をもつという「システム思考」が重要。また、複雑さや変化のスピードに応じる方法論としてのアジャイルやリーンについて、その価値は理解しつつも、「計画」というステップをないがしろにしてしまう落とし穴がある。「Playing Practice」の精神で失敗を通じた経験学習も大事である一方、取り返しのつかない失敗をしては元も子もないので、より実りある実践をするための情報取集、計画が必要。

・Category(カテゴリー)
複雑さの理解の手掛かりとしてのカテゴリー(分類)は、悪いことではないが危険なことでもあるため、そのリスクに気づくことが重要。カテゴリーは認知と文化が土台になっていて、実際のところ、それぞれの境界線は「見たらわかる」程度にぼやけていることがほとんど。例えば宗教や信条など、平面的なx軸とy軸による位置づけだけではその本質をほとんど理解できないように、位置や場所ではなく、ベクトルや方向性に目を向けた分類が大切。

・Link(つながり)
デジタル/リアルの境界を越えて、時間的/空間的な「つながり」が複雑さを増している今、コンテキストへのより深いレベルでの理解が重要になってきている。ハイパーテキストは「つながり」を考える上での出発点にはなるものの、より次元を高め意識を拡張し、時間と空間の見えない「つながり」を見つけ出して使いこなすことが重要。言い換えると、その「つながり」を前向きな変化を起こす「てこ」にしていく、ということ。

・Culture(文化)
前述したコンテキストの理解にあたっては、顧客文化の理解のための手法論や実践現場はある程度成熟してきているが、顧客文化の理解と同様に、企業文化への理解も重要。企業と顧客の双方の文化に対応できる適合性を見出すことこそが、正しいデザインであると言える。また、文化という目に見えないものを理解するには、Artifacts(人工物)、Espoused Values(価値観)、Underlying Association(基本的仮定)という3段階の文化レベルで捉えること、Culture Mapという手法で可視化することなどが手掛かりとなる。

・Limits(限界)
私たちの視点と視野には限界があり、すべての情報・事実を取り込むことはできない。複雑さとともに暮らす私たちは、情報や事実を「無視」することが得意である。つまり、大量の正確な情報ではなく、人々の行動により良い変化をもたらす情報と、それが流れるシステムについて考えていくことが大切。変化の鍵になるものとして、Keystone Habit(習慣を成り立たせているもの)による波及効果、またストーリーとして語られる情報などが、今後より重要になる。

最後にまとめとして、Peter Morville氏は、情報アーキテクチャに携わる私たちには全体を見渡す望遠鏡、ディティールに気づく顕微鏡、そしてものの見方を変える万華鏡という、3つのレンズが必要であると述べていました。

私たちの暮らす世界、理解しようとしているシステムは途方もなく複雑です。複雑にもつれたシステムを紐解いていくこと、そして単にソフトウェアやWebサイト、エクスペリエンスをデザインすることに留まらず、システムの中でより良い変化をもたらすことこそが、錯綜する世界の中で私たちが担うべき役割なのだと、氏の講演をお聞きして感じました。[執筆:中垣]

 


■You’re Screwing Up The World: Profound Opposite Truths In Architecture/Dan Klyn 氏


 

情報アーキテクチャ分野で18年の実践経験があり、The Understanding Group (TUG) の共同創設者であるDan Klyn氏による講演。
(なお、講演内容は、事前に告知していた内容から、本原稿で後述する当日の盈進学園東野高等学校の見学に合わせた内容に急遽変更になっています。)

講演では、パターン・ランゲージ(※3)を提唱したクリストファー・アレグザンダーを中心とする建築家たちの思想をもとに、建築物における空間秩序の構築プロセスが紹介されていました。
建築家は、大前提として機能的なものを作らなければなりませんが、一方で装飾(美的理性)も作りたいという欲にも駆られます。ただ、自分自身の頭の中に「絵」として浮かび上がっていないと、2つの理性を統一するのは難しい。機能を優先させてしまうと、世界は自動販売機のような、機能を全面に押し出したものになってしまう。そのような状態を回避するために、建築物を作る上では「空間秩序」(もしくは「宇宙的な秩序」)を機能以前の問題として設計しなければならないと言及していました。

※3 「パターン・ランゲージ」とは、クリストファー・アレグザンダーが提唱した建築・都市計画にかかわる理論です。建物やコミュニティを形成するための手法としてパターン・ランゲージは用いられます。

上記で述べたような「空間秩序」を構築するための手法のひとつとしてパターン・ランゲージがあり、構築例として、アレグザンダーがデザインした埼玉入間市にある盈進学園東野高等学校が紹介されました。この高校の建築プロセスは大きく以下の8つに分かれています。

1. 教員をはじめとするステークホルダー82名に「夢や希望」をインタビュー
2. 知的言語(パターン・ランゲージ)での感情表現をラフなスケッチでまとめ、一貫性を与える
→言葉だけで表現するのは十分ではない。身体から出てくる言葉に「かたち」を与えねばならない
3. 統一感をもたせるために、物理世界に旗を立て絵から現実に置き換える
4. 議論を通してランゲージを洗練する
5. 82名のステークホルダーにパターン・ランゲージの確認・承認を得る
6. 予算の範囲内で、現場とお金のバランスを見ながらパターン・ランゲージを再調整する
7. 中心になる2つの「システム」を探し、統一する
1) パワフルな言語のパターンの中心
2) 現場のなかの最も意味のある中心
8. パターンの中心(構造で最もおもしろい部分)になるランゲージをスケッチで起こす
→具体的なモデル図(図面)ではなく、あくまで要素(マテリアル)であることが大事

上記のプロセスの中で個人的に興味深かったのは、空間秩序の構築のために、構想(絵)を実地にて検証する(現実に置き換える)ということ。まさに空間のプロトタイピングと言えます。
IAはデジタル世界での情報構築に馴染みがありますが、特に業務におけるIAではどうしてもそこに閉じてしまいがちになります。実世界の秩序を構築する東野高等学校のプロセスを垣間見られたことは、参加者の方々にとってもIAの概念を拡張するきっかけになる良い機会だったのではないでしょうか。[執筆:石井]

 


■タイトル未定/佐藤伸哉 氏(株式会社シークレットラボ 代表取締役・AKQA)


 

「タイトル未定」と銘打った佐藤氏による、「IoT時代におけるIAの思考と役割について」の講演でした。
氏はIAの理解のためにはUXの理解が不可欠であると述べ、講演は、UXと定義されるものが何であるか、また、UXを設計するにあたりどのような手法が世の中で取り入れられているかの紹介から始まりました。UXを理解するためには、ビジネス目的と顧客ニーズの観点から物事を捉えられるようにすること。そのためには、いろいろなフィールド・ドメインをバランス良くつないでデザインできるカバー領域の広さと広くもとうとする思考が大切だそうです。

佐藤氏は、IAの業務スコープは、「ワイヤーフレームを書く」といった表面上の情報設計作業ではないとしています。氏によれば、ユーザージャーニーマップやHCDメソッド、ワークショップやプロトタイピングなど、UXをデザインするうえで必要なプロセスや得られたインサイトなどを成果物として可視化することがIAの作業になります。もちろん、作業の中には「ワイヤーフレームを書く」ことも含まれるが、それはUXを設計するための「手段」であり、書くことを「目的」にしてはいけない。IAは「ユーザー体験のシステムを構築すること」であり、インフォメーションアーキテクト は「UXを機能させるための設計・構築に携わるデザイナー」を指すとのことでした。

IAがもつべき思考と役割が明らかになったところで、「IoTにおけるIAの役割が何か」という本題が始まりました。今後IAの業務を拡張するのは、オンデマンドだったWebやモバイルに代わり、常にネットワークに繋がっているIoTだと氏は考えているそうです。IoTは既存のプロダクトとは違い、ユーザーからプロダクトに働きかけるインタラクションではなく、プロダクト側からユーザーに働きかけるインタラクションを発生させます。つまり、「プロダクトのストラテジーや企画」も含めた設計(「生み出すこと」と「そのプロダクトにまつわる、今は存在しないUXのシステム構築」)も、今後のIAに求められるスキルとして考えていかなければならないとのことでした。

佐藤氏の講演から、IAの業務範囲は現在だけでも非常に多岐にわたることがうかがい知れます。今後も、IoTをはじめとする技術の進歩とともにユーザーの生活が変化することで、その業務範囲は拡張し続けることでしょう。

締めくくりの「What is your title?(あなたのタイトルは何?)」という問いが総括する、今一度自分は何者であるか、何者になっていきたいかを考えさせてくれる講演でした。[執筆:石井]

 


■シロクマ本に学ぶエクスペリエンスのための手技法/篠原稔和 氏(ソシオメディア株式会社)


 

こちらはIAに携わる人なら一度は目にしたり耳にしたことのある『Information Architecture for the World Wide Web』(オライリー・刊)、通称“シロクマ本”に関するセッションでした。日本語版は第2版までしか出ていませんが、英語版では第4版(『Information Architecture for the Web and Beyond』)の刊行が予定されています。そこでこのセッションでは、今、改めて “シロクマ本”を読み解いていくために、各版でどのような変更点があり、それらにどのような意味があるのかについて、これまでの日本語版の監訳者である篠原氏が解説してくださいました。

時代の変化などを受けて何度か改訂が行われている部分もあるものの、一方では変わらずに掲載されているものもあります。例えば、

1. 情報アーキテクチャの基本原則(組織化、ラベリング、ナビゲーション、検索、メタデータ)
2. 「調査→戦略→設計と文書化」のプロセス

です。これらは“シロクマ本”におけるIAの基盤となっています。

また、篠原氏は今後インフォメーションアーキテクトが身につけていくべき手法として以下を挙げています。
・トップダウン/ボトムアップ:組織の中の情報を引き出すアプローチ
・シソーラス、制限語彙、メタデータ:情報をデータとしてシステム化していくアプローチ
・各種ユーザー調査:ユーザー理解の前提となるアプローチ

著者の一人であるPeter Moville氏を迎えた今回のIA CAMPだからこそ、参加者が一堂に会して改めて本書の内容を反芻し各々の血肉としていくことに、より強い意味があったのだと思いました。[執筆:中筋]

 


■顧客から引き出す技術 -インタビューとグラフィックファシリテーションの共通点/三澤直加 氏(株式会社グラグリッド)


 

このセッションでは、役割を超えて人と人とが交わり考えるために、インフォメーションアーキテクトに必要なことを、三澤氏が実際に関わった事例から紐解き解説してくださるセッションでした。
ここで最も重要とされていたのは以下の2つです。

1. 相手の立場になって聞く
インタビューをプロジェクトに取り入れるときは、事前にインタビューの目的を明らかにし、話を聞きたい人の属性の設定や聞くポイント、流れを整理することで、段取り良く進めることができる。また、スムーズな進行のためだけでなく、インタビューの中で本音を探るためには、フラットな関係性の中で耳を澄ませることや、共同体験を通して考え方を探ること、発言の背景(コンテキスト/価値観)を常に意識することなどが重要なファクターとなってくる。

2. 考えを可視化する
考える土台をつくるために必要なアクションである。可視化することでイメージがわき、概念を共有できる、などの効果が期待できる。当事者が共通認識をもち、より発展的な議論、活動の活発化へ繋げることも可能。考えを可視化する場において、ファシリテーターの思考はまさにIAを行っている状態にあり、個々の考えなどをしっかり聞き、内容を把握しながら構造化している。

この講演から、IAは特定の役割の人だけが担うものではなく、上記を意識しながら、その周囲にいる異なる役割の人々とともに実践していくものであると再確認することができました。[執筆:中筋]

 


■デザインの裏のデザインの裏のデザイン/Jason Hobbs 氏


 

情報アーキテクチャと人間中心設計にフォーカスしながらデザインを実践してきた、Jason Hobbs氏による講演。IAを視覚的に表現するためのビジュアル言語と、そのアウトプットの形に関する内容でした。

Hobbs氏の言うIAには2つの考え方が含有されています。1つは「人類学的空間」。これは深さや高さを超えた「スペース」という概念であり、インフォメーションアーキテクトが1つの境界を超えて新たな意味を構築していることに対するメタファーでもあります。もう1つは「ハビトゥス」であり、これは社会学者のピエール・ブルデューが提唱した、人々の日常的な経験の中で蓄積されて生み出される無自覚的な知覚、思考、行為のことです。
デザインにはハビトゥスの情報アーキテクチャが隠れていると、講演では言及されていました。

現在、IA的アプローチは専門分野だけではなく、ビジネス一般の世界にも広がっており、コミュニティの中でたくさんの人々が定説としてきたIAの枠組みの外側で、新たにIAを構築する動きが出ているとのことです。それに伴いプロセスやアウトプットの形も多様化していることを受け、私たちも柔軟にIAを捉え実践していく必要があると感じました。[執筆:中筋]

 


■第3部「IA CAMP振り返り~学びのまとめと深堀り」


 

第1部、2部での講義型スタイルとはうって変わって、第3部の会場はリラックスした雰囲気。軽食が出され、登壇者のトークを背景に、お酒を飲みつつゲスト同士が楽しく交流していました。

篠原氏の「IA CAMPの振り返りとまとめ」に続いて行われた、全登壇者によるパネルディスカッションでは、東野高校の話で盛り上がりました。Klyn氏のセッションにもあったように、この高校はクリストファー・アレグザンダーのパターン・ランゲージの手法による建築物。実はIA CAMP当日の午後、講演を終えたPeter Morville氏やDan Klyn氏、佐藤氏の一行は実際にこの高校を訪問していたのです。彼らは、30年前にアレグザンダーがデザインした建築物が今もこうして残り、そこで生徒たちが学んでいるという事実に感銘を受けたそうです。ちなみに、Morville氏のお気に入りが「橋」。理由は「IAの役割も、まさに“橋渡し”のようなものだと思うから」だそうです。「私たちIAは、ユーザーをコンテンツやサービスにつなげる仕事を生業としていますよね」。彼の言葉に会場からは拍手が起こっていました。


(Peter Morville氏がお気に入りだとお話しされていた、東野高校にある太鼓橋。
撮影:ソシオメディア高橋真理氏。)

 

最後に、長谷川が「これからの社会の中でIAが担っていく役割はどのようなものだと思いますか?」とKlyn氏とMorville氏に質問を投げかけました。

Klyn氏「責任の問題はきちんと議論しなければいけないですね。建築物に関する最古の法規が記されている『ハンムラビ法典』には、自分が建てた建築物が倒壊してその住人の子供が死んでしまった場合、建築家の子供も殺されなければならない、という法がありますが、私は正直そこまでしたくない(笑)。ただし、もしIAが自分の仕事の価値を世の中の人に認めて欲しいなら、説明責任を負わなければなりません。IAというのは、世の中に非常に大きな影響を及ぼします。私たちIAには構造を変化させ、人々の行動や習慣などを変えることができる力があります。ですから、みなさんもIAの仕事をする際、自分たちが人々の生活する“場所”をつくっているということと、彼らにとって“good”なものをつくるのだという意識を強くもちましょう。そのために善悪の判断基準をもち、“真実”について知らなければいけません。正直、私自身も“真実”というトピックに向き合うのは難しいですが、自分の問題としても、今後避けて通れないと思います」

Morville氏「今日はさまざまな観点 ― 弱いIAから、UXのコンテキストにおけるIA、伝統的な建築物に絡めたIAなど― からIAを見ていきました。アメリカでは、IAに1つの定義がないことに不満を覚える人が多いですが、日本は柔軟に多くの意見を受け入れてくれる土壌があるように思います。そして私は、IAが多義的であることにむしろ可能性を感じます。ですから、こうしてIAを巡るさまざまなメソッドや定義があることがとても嬉しいです。これからも、多くの方にさまざまなアプローチをしていただけたらと思います」

 

大盛況のうちに終わったIA CAMP 2015。
クロージングとして、長谷川が「IAを取り巻く状況がこれだけ多様化している中で、IAはいわゆる専門家だけのものではなくなっています。IAについて考える人々が増えることはとても重要です。肩書きや業種にとらわれず、さまざまな視点からIAについて考えていただきたい」と言っていたのが印象的でした。

セッションからいただいたアイデアをもとに、デザイナーである私も自分なりのIAへのアプローチを模索してみたいと思います。[執筆:関根]

 


【執筆者プロフィール】
中垣美香|サストコ
石井真奈|サストコ
中筋ひかる|サストコ
関根彩矢|サストコ

 

【関連リンク】
セミナー・イベント情報|「IA CAMP 2015 – The Future of Information Architects – IoT時代におけるIAの思考と役割」開催のお知らせ

2015.08.10

執筆:佐野 実生(デザイナー)

はじめまして。デザイナーの佐野です。
7月7日(火)に開催した「UX STRAT & UX Strategies Summit Redux」の内容をご報告します。

この「UX STRAT & UX Strategies Summit Redux」は、今年6月4、5日にアムステルダムで開催されたUX STRATと、6月9〜11日にサンフランシスコで開催されたUX Strategies SummitというUX戦略に関する2つのカンファレンスの報告会です。
ほぼ同時期に開催されたUX戦略という同じテーマのカンファレンスが、それぞれどのようなものだったのか、実際に参加された方からカンファレンスの報告があり、当日会場に集まった本Reduxの参加者のみなさんとの意見交換が活発に行われました。

この日の登壇者はインフォバーンの井登友一氏、ヤフーの深澤大気氏、コンセントの長谷川の3人でした。井登氏と長谷川がUX STRATについて、ヤフーの深澤氏がUX Strategies Summitについて報告してくださいました。

 


UX STRAT


 

UX STRATは2年前に米国アトランタで初めて開催されたUX戦略の国際会議です。今回は6月4、5日にアムステルダムで開催されました。今年アトランタで予定されている第3回大会とは別のスピンオフカンファレンスで、初の欧州開催だったそうです。
もともとこの国際会議がスタートした背景には、UXに関わる人を取り巻く環境が多岐にわたり、未確定な分野でもあるため、全員で同じ文脈をディスカッションするという意図があるとのこと。

 

■井登氏からの報告

井登氏からは、UX STRATで特に印象的だったという以下の3つのトピックについてご紹介いただきました。

1. 多様性への適応と組織論としてのUX戦略
2. データ指向
3. UXとCXの意識的な区分

1. 多様性への適応と組織論としてのUX戦略
「欧州」と言えど、各国ごとの多様な文化を背景に、価値観の違うステークホルダーが多く存在している。その中でサービスを提供していく企業にとってUXは共通認識であり、UXを運営推進していくことと組織論はセットであるべきだ、というお話でした。

2. データ指向
UXには文化の多様性に左右されない共通指標が必要であり、価値観に左右されない数字としてのデータはその指針となる。この考え方から、「UXはデジタルである」という概念に基づくセッションが多く見られたといいます。

3. UXとCXの意識的な区分
井登氏は、年を経るごとにUX戦略という言葉がもつ意味が進化、そして深化していると感じていらっしゃるそうです。
2013年:「Business × Design」
2014年:「Integration & Execution」
2015年:「Make the Values」
これらのキーワードからもわかる通り、初開催時からUXはビジネスと直結しているという点は一貫しています。その中で、特に欧州では「UX」と「CX」という言葉を使い分けていると感じると、氏はおっしゃっていました。ここで言う「CX」は、ひと昔前の「ブランディング」の概念と似ているのではないか?とも。
また、デジタル化の加速が取り巻く変化も重要なポイントとの指摘もありました。
デジタルでの体験とユーザー体験は密接な関係にあり、デジタルが製品体験を変える原動力になると考えられます。そういった意味でも、「UXはデジタルである」と言えるのかもしれない、とおっしゃっていました。

 

■長谷川からの報告

今回のUX STRATは、製造業のデジタル部門からの参加が目立ったとのことでした。Web分野の人材が製造業へ異動するケースが多く、 BMW、フォルクスワーゲン、フィリップスなど、製造業のデジタルシフトに関心をもつ人の参加が多かったそうです。
また、コンサルタントの参加者も多く、年齢層は40〜50代と高めだったそうです。UX戦略において企業組織内で全体を見る視点の共有が必要とされていると考えることができるとのこと。

2年前のUX STRATでは、そもそも「UX」という概念への共通認識がまちまちだったといいます。それが最近では、基本的には企業戦略の中にUXデザインの機能が盛り込まれるべきであり、そのために人材、環境を含めどのような視点が必要か?という議論に集約されてきたとのこと。
さらに今年は、欧州各国の認識が揃ってきていると感じたそうです。しかし、欧州では各国のUXデザインの動きの規模自体は小さいため、議論が最も進んでいるのはアメリカだと思われるとのことでした。

またCXとUXについて、今回のカンファレンスでは「CX:企業が提供する全顧客体験」「UX:その内のデジタル」という定義がなされた。長谷川は、この2つを区別しようと思ったことがなかったので、この概念には驚いたとのこと。 ただ、企業から見た相手のエクスペリエンスという観点ではどちらも同じであると考えられるため、この区別の方法についてはあまり納得していないそうです。

「ユーザー」と「カスタマー」を別々の概念として捉えると、ここでいう「ユーザー」とは、その名の通り「使う人」を指す。つまり、顧客が「使う」のは「デジタル機器」(PC、 スマートフォン、タブレット、パネルなど)だ、と定義づけることができる。 例えば、店舗体験は「CX」であり、デジタル機器を使って得られる体験は「UX」であるといった具合に。 この考え方の場合、どこまでが「カスタマー」で、どこからが「ユーザー」なのか、「ユーザー」=「使う」人、をどこまでと定義するか、が1つのポイントになる、ということでした。

また企業におけるデザイナーの担うべき役割について、「より使いやすく」といった最適化ではなく、イノベーションにシフトすべきであるという動きが見られたそうです。

⇒ 参考:Lifting off from the UX plateau: Experiences with a new CX framework

 


UX Strategies Summit


■深澤氏からの報告

深澤氏からは、6月9〜11日にサンフランシスコで開催されたUX Strategies Summitのお話をしていただきました。

今年で2回目の開催を迎えたUX Strategies Summitは、 IA SummitやUXPAに比べると小規模のもの。参加者の特徴としては、ビジネス系の役職の高い参加者や、IT、メーカー、コンサルタントが多かったそうです。

UX戦略のトレンドは世界共通で、主に以下の3点に集約されるとのことです。
1. チームビルディングとチームマネジメント
2. UXの効果の示し方
3. デザインプロセスの時間短縮

1. チームビルディングとチームマネジメント
UX戦略実行において、1人の実践者である「Team of one」から、実践者の内のひとり「Team of many」の考え方にシフトしているとのこと。やはり、UX戦略を推進するためには周りを巻き込んでいく必要があり、そのためにチームビルディングやチームマネジメントが必要と認識されてきている、とおっしゃっていました。
⇒ 参考:書籍『一人から始めるユーザーエクスペリエンス デザインを成功へと導くチームビルディングと27のUXメソッド』(発行元:丸善出版)
深澤氏が翻訳に携わられた本です。コンセントの長谷川も監訳を担当しています。

2. 効果の示し方
効果を示すことはUX戦略を進める上で重要なことの1つ。ではどう示すかというところで、ビジネス要件からのユーザーニーズを満たしていくためのシート「UX strategy blueprint」が紹介されていたそう。
⇒ 参考:http://www.uie.com/articles/ux_strategy_blueprint/

また、このUX strategy blueprintは「Google heart framework」の考え方を用いているとのことでした。
https://www.gv.com/lib/how-to-choose-the-right-ux-metrics-for-your-product

3. デザインプロセスの短縮
ユーザーニーズを素早く分析するための方法を模索する必要がある。
UXをUIに落とし込む際、ゼロからつくる必要はなく、競合対象のUIデザインを上手く利用すれば時間短縮に繋がるという考え方も紹介されたそうです。

また、UXに心理学、行動経済学、認知心理学といった科学的なアプローチをより積極的に取り入れようという話があったともおっしゃっていました。

さらに、「ブランディングはUXなのか?」という議論もあったといいます。この「ブランディング」と「UX」の2つはイコールというよりも、一貫性のあるUXを提供することでブランド価値を形成できるという考えだそうです。
この例として、アメリカのintuitという企業の事例が挙げられたとのこと。全サイトを通し、インタラクションなど全ての要素を揃えるための再構成を行った結果、ブランドの認知度自体が向上したそうです。
同じように、Facebookでもデバイスに関わらず一貫した広告体験を提供できるようデザインを見直した事例があるとのことでした。
⇒ 参考:An Update on Facebook Ads

総括として、深澤氏の考えるUXとは、「ビジネスゴールを満たしながらユーザーニーズを満たすための戦略」だとお話してくださいました。

 


質問


 

カンファレンス報告の後には、さまざまな質問が飛び交いました。
その内のいくつかを登壇者の方からの回答と合わせてテーマごとにまとめてご紹介します。

■両カンファレンスにはどのような違いがあるのか?
UX Strategies Summitは、ケーススタディが豊富である一方で事例紹介に偏りがち。一方、UX STRATでは議論が積極的に行われる傾向にある。

■なぜCXとUXを分けるに至ったのか?
アメリカで開催されるカンファレンスでは、ソフトウェア関連の参加者が多く、そういった業界ではコンシューマー=ユーザーとして扱いやすい。それに対して欧州の企業は「ユーザー」という概念に慣れていないため、「カスタマー」の方がしっくりくるのではないか。

■「デジタル」の範囲はどこまで?
コミュニケーションにもプロダクトにも関わっているので、体験、IoT、全てが含まれると考えられる。例えば車の場合、電気自動車のようなデジタルマテリアルも「デジタル」に含まれるだろう。しかし、UX=デジタルと定義した場合、Web業界では逆にUXの意味合いが狭まってしまうのではないか、とも考えることができる。

■マーケティングとUX、CXの関係は?(CXのキャリアパスとして、マーケティング分野の人間が踏み込んできた領域と考えるのか、それともデザイナーが目指しはじめたものなのか、という質問)
どちらというわけではなく、さまざまな議論の中から自然に発生したのではないか、と考えられる。また、「デザインパーソン」がデザイナーだけではなくなってきていることから、UXやCXに関わる人はどんどん拡大していると考えられる(深澤氏によれば、「UX Strategies Summitの参加者はデザイナーが少なく、マーケティング分野の人間が多かった」ということで、このことからも、UXやCXに関わる人が拡大しているという考えは正しいと言えそうです)。

■サービスデザインとCX
「CXをどうしていくべきか?」という部分が「サービスデザイン」と呼ばれていた。欧州ではサービスデザインという言葉が一般化し、すでに共通認識になっていると感じられる。

 


最後に


ディスカッションが一番盛り上がったのは、「UXとCX」というテーマでした。

井登氏のお話にもありましたが、UX戦略にはユーザーの価値観が密接に関係していると私も思います。そして「デザイン」という言葉が意味する範囲の広がりとグローバル化に伴い、UX、CXといった言葉が包括すべき範囲がどんどん拡大しているのではないでしょうか。また、そこからさらに新しい概念が生まれ、ブランディングとUXの例のように既存の概念が修正され、さらに変化を続けていくのではないかと感じました。

今回のReduxで紹介された2つのカンファレンスですが、どちらも秋の開催がアナウンスされています。 6月の開催からどのような変化があるのか楽しみですね。

UX STRAT
UX Strategies Summit

 

【関連情報】
UX STRAT & UX Strategies Summit Redux開催のお知らせ