ラボ

2015.05.07

Service Design division の川原田です。

2015年4月17日〜19日の3日間に渡って、世界で活躍するUXのスペシャリストたちが集うカンファレンス及びワークショップ「UX DAYS TOKYO 2015」が開催され、参加してきました。

本イベントは Web Directions East LLC 主催で、17日は5名のスペシャリストが登壇して最先端の取り組みを紹介するカンファレンス、18日・19日はその5名が実際にUXの手法を参加者に直接指導するというワークショップ、という構成でした。
参加者のうち9割以上は日本人で、その多くはUXに関心のあるWebやアプリ開発に関わる業種の方だったようです。

(同じ業界の方が多数いたためか、開始前に関わらずすでに賑わっていました)

また、コンセントは本イベントにおけるゴールドスポンサーとして協賛しており、ランチタイムには Service Design division の担当役員でもあるサービスデザイナーの大崎が、直近のプロジェクトにて実施した「Concent Service Design Sprint」について紹介しました(※)。15分ほどの簡単な紹介でしたが、スライドの写真を撮る参加者の方も多く、注目度の高さを感じました。

※「Concent Service Design Sprint」とは
「Design Sprint」とは、Googleの投資部門Google Venturesがスタートアップ支援のために開発・実践している方法論で、ビジネス上の課題解決を目的に、5日間で顧客と一緒にデザインやプロトタイピング、アイデアのテストを行うというものです。この短期間でのフローをヒントに、調査・観察、仮説・方針設定、コンテンツ開発・企画、ラフプロトタイピング、ユーザーテストまでを短期間で集中的に実施するものを「Concent Service Design Sprint」とし、ここでは5名のメンバーにて6週間で行った例を紹介しました。

 

(大崎がランチタイムのプレゼンにて、「Concent Service Design Sprint」を紹介)

また、本イベント名にも掲げられている「UX」、すなわち「ユーザー体験」とは、個人的には、身の回りのあらゆるシーンにおいてユーザー自身が体験し、意識的・無意識的に関わらず感情を動かされるようなモノ・コトすべてを包括するような、広義の空間的な広がりのあるものと捉えています。

Webやスマートフォンの登場によって、人が生活する上でのUX、つまり先ほどの視点で言えば生活空間、あるいは生活環境に対して、ユーザーが表情を与え、その質を変化させてきたように、世の中のテクノロジーの加速度的な進化・発展は、それが倫理や道徳といった社会制度的な文脈に反することのない目的で用いられる限り、人間の文化的な活動領域を着実に拡張し、変革していくものと言えます。

そういった中でのUXを考えたとき、社会の変革に伴って我々はどのような観点をもって将来的な課題に取り組んでいくべきか、またはある種オルタナティブな設計思想が必要と言えるのか、UXに関わるスペシャリストとしての考えや姿勢を知りたいという想いが私自身の参加背景にありました。

前置きが長くなりましたが、以下、個人的な所感を交えて各セッションの要点をご紹介します。

 


■ MAGICAL UX AND THE INTERNET OF THINGS(インターネット・オブ・シングスと魔法のユーザー体験)/Josh Clark


著書『Tapworthy: Designing Great iPhone Apps』等で知られるUXデザイナーJosh Clark氏による、IoTの最新事例の紹介と、それが進む中でもつべきUX観点についての話でした。SF映画と合わせて実際に開発されているIoTの実例を示し、これまで映画の世界で魔法として描かれてきたようなことが、デジタルインタラクションやセンシング技術の発展によって現実のものとなりつつあることが紹介されました。

「世界は大きなキャンバス」であり、大きな可能性があるとする一方で、技術は人間性の延長として用いるべきもので、我々はもっと創造力を磨くべきだとJosh Clark氏は説きます。

また携帯電話の登場によって我々はデジタルの世界に閉じこもりがちになることで、現実の世界で起きていることの多くを見逃してしまっていることを危惧し、そういった視点からもIoTの活用によって物理的な世界との繋がりをつくっていくことが重要と述べていました。

 


■ Orchestrating Experience(エクスペリエンス<経験>を組織で共有する)/Chris Risdon


Adaptive PathのディレクターであるChris Risdon氏による、サービスエクスペリエンスについての話でした。顧客にとっての体験は一貫したものであるべきとし、正にサービスデザインの重要性が説かれました。

タッチポイントはオーケストラにおける音符であり、一連のストーリーとして組織全体でエクスペリエンスを共有し、ユーザー中心で設計がなされる必要があると提言していました。

 


■ Rapid Design & Experimentation for User-Centered Products(動きの早い設計とユーザー中心の製品を生み出す検証とは)/Kate Rutter


Adaptive Pathでコンサルティングの部長を務め、Luxr.comの創設にも携わったKate Rutter氏による、Rapid UX手法の紹介でした。

近年UXの手法がよりスピーディになっているというトレンドとその有用性を示した上で、デザインのサイクルを早期に回すLean UXの手法として、実際にどう手を動かすべきか、ということを9つのツールとして具体的に紹介してくれました。これらのツールを柔軟に組み合わせることで、さまざまな手法に応用が可能であると言えます。

普段から使用しているツールとして馴染みのあるものが大半でしたが、一般向けにデザインの手法を説明する際などに大変有効であると感じました。

 


■ How To Listen(ユーザーの声に耳を傾ける)/Nate Bolt


FacebookとInstagramでUXデザイナーを務めたNate Bolt氏による、デザインリサーチについての講演でした。AirbnbやFacebook、Flickr等を例に、ユーザーにとってそれが本当に使いやすいものとなるためには、適切な場面で適切なリサーチが重要であることが説かれていました。

個人的には、デザイン会社として強みをもてるのは、ユーザー調査の結果からどういった立脚地で価値を抽出するか、そしてそれをどのように体系化・構造化するか、という点を重視することにあると捉えていましたが、近年リモートUXリサーチのツールが充実してきていることもあり、調査手法自体もやはりデザインの対象として当初から計画することが重要であることを再認識しました。

 


■ Connected UX(UXのデータを繋ぐために)/Aaron Walter


世界最大のメール配信サービス「MailChimp」のUXディレクターAaron Walter氏による講演でした。

特に興味深かったのは、ピラミッド図で「(上から)WISDOM-KNOWLEDGE-INFORMATION-DATA」という概念図を示したものでした。我々が活用し得る「叡智」は大量のデータをベースとして、情報、知識として精錬させていく先にあるものであると述べています。

また、日々の大量のメール処理のために「Evernote」を利用することでデータの集約化を図ったことを始めとして、データを繋ぐことで人を繋ぎ、チームメンバーにとってのユビキタス環境の実現によって領域の横断が容易になり、より快適な仕事環境が構築できることが紹介されました。

身の回りにデータが溢れ返る現代において、最適な形でそれらをピックアップし、正に「叡智」としてチームビルディングに活用した好例と言えるのではないでしょうか。

(予定されていたすべての講演を終えて、5名のスピーカーが集合)

 

各セッションについての要点は以上になります。
以下、全体を通しての所感です。

今回、本イベントの開催目的としては、UI設計におけるUXの重要性を伝えることが掲げられていましたが、実際にはやはりUIに限った話ではなく、発展するテクノロジーや氾濫するデータ、そしてそれらを包含する社会に対していかに人間中心という視座で向き合うか、という基本的な姿勢を示すものであったと感じました。

特に、個人的に最も印象的だったのはJosh氏が指摘していた点です。すなわち、「Webやアプリはデジタルの世界の話であり、スマートフォンやPCを使用しているのは現実の物理的な世界においては静的で閉塞的な状態に過ぎない」ということです。「歩きスマホ」という社会問題が生じるのは、このデジタル世界への静的な没入状態と、現実の社会において生活を営む動的な状態との次元の違いに摩擦が生じているためであると言えます。前半部で述べたような空間的なものとしてのUXとして考えるならば、すべては現実の物理的で流動的な環境にユーザーがいることを前提として、デザインされるべきです。その意味で、IoTの応用によってその摩擦を、Josh氏が示したように魔法のごとくビジブルな形へ昇華させることは、この問題を解決する糸口になりうるものと考えます。ないしはそれ以上に、新しい文化領域の発展を体現しうるツールと言えるかもしれません。無論、そこには技術を扱う人間自身がどのように振る舞うかという視点が軸としてあるべきでしょう。

全体のセッションを通じても、やはり根底にあるものとしてユーザー中心、もっと言えば「ユーザー」というある意味神格化されたモデルよりも、より根源的なものとしての「人間」がいることを再認識し、改めて人間中心設計という必然に帰着することを感じました。

 


【執筆者プロフィール】
川原田 大地|サストコ

【登壇者プロフィール】
大崎 優|サストコ

【関連リンク】
ニュース|「UX DAYS TOKYO」にゴールドスポンサーとして協賛
UX DAYS TOKYOオフィシャルサイト

2015.03.03

※本コラムは、一般社団法人 日本BtoB広告協会発行の月刊『BtoB コミュニケーション』2015年1月号への寄稿原稿のオリジナルです。(執筆者:コンセント取締役/インフォメーションアーキテクト 山中 健一)


1.はじめに


B to B企業にとって、企業サイトは重要なコミュニケーションツールでありマーケティングツールである。特にグローバル進出をはかる企業にとって、いつでもどこでも見ることができるという特性をもつWebサイトがもつ価値は大きい。そしてその価値を最大限に活かせるWebサイトの構築・運用には、「Webガバナンス」が重要となる。
本稿では、グローバルという観点から、企業サイトの役割や価値を整理するとともに、Webガバナンスの必要性と気をつけるべき3つのポイント、実行するためのプロセスである「エンタープライズ情報アーキテクチャ(EIA)」について紹介する。

 


2.なぜ、グローバルWebガバナンスが必要か


■2-1.企業サイトの役割

まずは企業サイトの役割からみていこう。
マーケティングツールやブランディングのツールというのはもちろん、株主への情報提供や情報管理ポリシーの開示といったコーポレートコミュニケーションのためのツールであったりと、企業サイトが担っている役割は非常に大きく、企業方針や戦略と密接な関わりをもっている(図1)。なんらかの情報を得ようと期待してWebサイトを訪れる顧客や株主、社員、社員の家族などさまざまなステークホルダーに向けた情報を適切に扱い、企業の情報資産として活用するところが、企業サイトの特徴であると言える。

(図1:企業サイトに影響する要素)

 

■2-2.グローバルでの企業サイトの価値

では、グローバル視点においての企業 サイトの価値とはなんだろうか。
日本国内では有名企業であっても、海外では知られていないことも多く、前述した企業イメージや情報を伝える役割としてのWebサイトを整備しておくことは世界をマーケットとする企業にとって不可欠である。リアルな営業拠点を海外にもつことは時間やコストがかかるが、Webサイトは比較的短時間で立ち上げることができるため、企業の情報を発信し、リアルな打ち手が届いていない国や地域の人々にもアプローチできることが、グローバル視点で活動する企業にとってWebサイトの最大の価値と言える。そしてその価値は、企業サイトのもつ役割の中でも特に「ブランディング」「マーケティング」「サポート」という3要素において顕著になる。

 

[ブランディングにおける価値]

テレビのコマーシャルなどのマスメディアにも露出していない地域や国においては、聞いたことのない企業やその商品について、取引相手が情報を得る主な手段はWebサイトとなるのは想像に難くない。そういった地域においてはWebサイトが企業ブランドイメージとイコールとなり、企業にとってWebサイトは、自社ブランドを伝えるためのコミュニケーションツールとして、非常に重要な役割を果たす。

 

[マーケティングにおける価値]

Webサイトの特徴の1つである「すぐにコンタクトできる」点を活かすことで、リアルな営業拠点がない地域や国からも、意見や問い合わせをもらえる(当然、Webサイトを訪れてもらう布石が必要であるが)。
「資料がほしい」「デモンストレーションをしてほしい」といった、セールスにつながる問い合わせが得られると同時に、Webサイトから取得できるデータを解析・活用することで、その問い合わせがどの地域の人からで、何が必要とされているのか等を考察することが可能となり、商談にも活かすことができる。
また、営業拠点がある地域にとっても、Webサイトは営業の強いサポートツールとなる。Webサイトに情報が整備されていることで、企業への信頼につながり、サービスや商品の情報提供はもちろん、営業スタッフが顧客に説明したことの裏付けや伝えきれなかったことの補足など、営業フォローツールの1つとして果たせる役割は大きい。

 

[サポートにおける価値]

問い合わせが得やすいということは、マーケティング価値だけではなくカスタマーサポートにおける価値もある。営業拠点がない国や地域においても、本社などである程度の対応ができることはもちろん、問い合わせデータを集約・管理することで得られる利点は高い。逆にWebサイトが整備されておらず、問い合わせが即座にすることができない場合などは、容易に機会損失につながってしまうだろう。

 

このようにブランディング、マーケティング、サポートの3つの観点でみても、いつでもどこでも見たり問い合わせたりできるWebサイトは、グローバル展開を考える企業において時間や距離的な問題を解決でき、機会獲得にもつながる重要なツールであることは疑う余地がない。

 

■2-3. Webガバナンスの必要性

ほとんどの企業は、企業サイトの他にも、キャンペーンサイトや商品サイト、ECサイトなど複数のWebサイトを運営している。特にグローバル展開を進めている企業では、本国サイトもあればグローバルサイト、各ローカルサイトもあるといったように、大手企業では1,000以上のWebサイトを運用しているケースもあるだろう。複数サイトをもつ企業では、個別のWebサイトごとに運営担当者がいて、ユーザーに向けて日々情報を発信する。ユーザーは必要なときにWebサイトを訪れ企業の情報を受け取り、同時に企業イメージや商品イメージといったものを蓄積している。企業はWebサイトを訪れたユーザーの行動や問い合わせ等からさまざまなフィードバックを受け、運用・改善に活かしていく。こうした一連のサイクルの中で、多くのステークホルダーが関係し、Webサイトは成り立っている(図2)。

(図2:企業サイトに関係するコミュニケーション)

 

複数サイトを運営する場合には、個々のWebサイトの質だけではなく、企業が保有する全てのWebサイトを総体(Webサイト群)としてみて、一貫した企業イメージや情報を伝える必要がある。だが、個々のサイトごとにも異なった方針や役割があり、運営担当者もそれぞれに存在する状況下では、掲載する情報や伝え方を担当者や各部署の判断で行っており、企業としての一貫性が伝わってこないというケースは多くみられる(ここでの一貫性とは、見た目を完全に揃えるといったことではなく、企業総体としてのイメージが伝わっているか、という意味である)。
個別ではなく「総体」としての観点から一貫性のあるWebサイトを維持、運用していくためのルールづくりやインフラ整備、運営体制の構築などの統制をとっていく。これがWebガバナンスであり、特に複数サイトを保有し、多様なステークホルダーが関係する企業にとって重要なこととなる。

 

■2-4. Webガバナンス欠如による3つの損失

Webガバナンスを重視する背景には、その欠如による「運営コストの増加(重複投資)」「企業イメージの毀損(ブランド毀損)」「機会損失(期待値の低下)」という、主に3つの損失が起こる可能性への危惧がある(図3)。

(図3:Webガバナンス欠如によって起こる3つの損失)

 

[運営コストの増加(重複投資)]

多くの Webサイトを保有し、多数の担当者が関わっている場合、Webサイトごとにリソースが分散し、結果として同じような情報やコンテンツを制作しているケースもみられる。同じ企業であれば、基本的には同じ情報を同じように扱うべきであるところを、個別の担当者が個々の考えを反映することで、似て非なる情報が作成されることは時間やコストの無駄と言える。これは人だけではなく、機能やインフラ面においても同様だ。本来複数のWebサイトがあるということは、それだけ多くの有益なデータを保有していることになるが、たとえば個別サイトごとにしかデータの管理がなされていない場合、同じような分析をサイトごとに行っていたり、全体でデータのシェアがなされていないという状態では、せっかくのデータも活用することができず、機会損失につながる。
企業として統一した見解やルールで組織やインフラを整備する、といったWebガバナンスを行うことで、重複投資の回避や機会創出が可能になる。また、多くのWeb担当者はマーケティング担当や広報担当、宣伝担当などが兼任になっている場合も少なくなく、こうしたルールや組織などの整備により個々の判断が不要になる部分も多くなることで、本業に時間を使えるようになるというのも、効率化のメリットの1つとしてあるだろう。

 

[企業イメージの毀損(ブランド毀損)]

2つ目に挙げた「企業イメージの毀損(ブランド毀損)」の「イメージ」とは、デザインや動的振る舞いである「Look and Feel(ルック・アンド・フィール)」※1と、「掲載する情報」の2側面を指す。


※1 Look and Feel…グラフィカルユーザインタフェースにおける色、形状、レイアウト、書体のような要素を含むデザインの側面(ルック)と、ボタン、ボックス、メニューといった動的振る舞い(フィール)からなる(出典:Wikipedia)

 

Look and Feelという観点では、たとえばロゴの位置や大きさが異なっていたり、ロゴにキャッチコピーのような文章を独自に付けていたりなど、個々のWebサイトごとで独自デザインを展開することによる企業イメージの統一感の欠如がある。
一方の情報という観点においては、たとえば堅実なイメージをもつ企業であれば掲載情報からも堅実さを感じられることをユーザー側は無意識に期待するが、統制がとれていないと情報から企業イメージとは異なる印象を受け取ることもあり、場合によっては企業や商品の信頼性にも影響が出てしまうだろう。
情報をどのようなトーンアンドマナーで伝えていくのか、Webガバナンスの観点から決めていくことで統一した企業イメージを発信できる。

 

[機会損失(期待値の低下)]

関係するWebサイト同士で連携ができていなかったり、情報の伝え方の統制がとれていないと、ユーザーは求めている情報が得られず、ユーザーにとっても企業にとっても機会の損失が起こりうる。「情報を得たい」「問い合わせたい」といったように、ユーザーは何かしらの期待値をもってWebサイトを訪れるため、それが叶えられなければ期待値は下がり、他に類似サービスや商品を扱う競合があればそちらに流れてしまいかねないのである。
関係するWebサイト同士の連携がとれていない例を紹介しよう。アメリカ向けに英語のWebサイトをもつ企業があったとする。ところがアメリカには、英語が読めずスペイン語しかわからないといった人もいる。そうしたユーザーが同じ企業の南米向けのスペイン語で書かれているWebサイトにたどり着いた上で、「この商品について問い合わせしたい」と思い、「同じ企業のWebサイトだから大丈夫だろう…」と南米向けのスペイン語のサイトから問い合わせてみた、というケースがあったとする。しかしながらアメリカの英語サイトと南米のスペイン語のWebサイト間での連携がとれていなければ、この問い合わせは、おそらくうやむやにされてしまう。結果、カスタマーサポートが途切れてしまい、クレームや機会損失につながることもある。
こういった問題を回避するには、組織として関係するWebサイト間で連携をとるための体制を整備しておくことが重要になる。

 


3.グローバルWebガバナンス


実際にWebガバナンスを進めるにあたっては、筆者のこれまでのプロジェクト経験から、「グローバルサイトの在り方」「地域と言語」「運用体制・ガイドライン・CMS」の3つのポイントをおさえるべきだと考えている。

 

■3-1.グローバルサイトの在り方

[グローバルサイトとは?]

グローバルサイトとは、「全世界に向けた情報」を発信するためのWebサイトである。ゆえに、たとえば日本企業がグローバル進出にあたり英語サイトをつくらねばと、サイト設計もコンテンツも日本サイトそっくりそのままで、全て英語に翻訳しただけのWebサイトがグローバルサイトと呼べるか?というとそうではない。英語サイト=グローバルサイトではない、ということをまずは認識する必要がある。
グローバルサイトに掲載する情報は、グローバル展開におけるマーケティングやブランドコミュニケーション戦略をふまえた上で、「全世界に向けて発信すべき情報は何か」という観点で検討していくこととなる。たとえば、日本国内でしか販売していない商品情報を世界各国の人々が知りたいか、知りたいとしたら情報の粒度はどのくらいか、といったように。
以下、「グローバルサイトの役割」と「グローバルサイトと本社サイトの関係性」の2つの観点から、グローバルサイトの在り方をみていきたい。

 

[グローバルサイトの役割]

グローバルサイトには、「誘導」「訴求」「補完」の3つの役割がある(図4)。

(図4:グローバルサイトの役割)

 

「誘導」とは、各Webサイトへのゲートウェイやハブとしての役割のことである。グローバルサイトはWebサイト群のヒエラルキーでは上部に位置づけられ、適したWebサイトへと誘導する役割を担う。
2つ目は世界に向けて何を訴えたいのか、企業ブランディング、コーポレートコミュニケーションとしての「訴求」である。
最後の「補完」は、営業拠点やローカルサイトを展開していない国や地域のサポートとしての役割で、具体的には問い合わせ機能や製品情報の提供などとなる。
以上3つの役割をどのようなバランスでもたせるかにより、グローバルサイトの在り方は異なってくる。たとえば企業イメージの浸透を図りたいといった場合には「訴求」の役割を大きくもたせるグローバルサイトとして位置づけ、日本をはじめ各国サイトで訴求している商品情報等の上位概念となる情報 ——フィロソフィーや企業の歴史、R&D等 —— をメインに伝え、商品情報の要約のみ載せておき、詳細については各国サイトをみてもらうといった「誘導」の役割を必要に応じて入れておく、といった具合である。

 

[グローバルサイトと本社サイトの関係性]

グローバルサイトの役割や企業形態により、グローバルサイトと本社サイトとの関係性は、「グローバルサイト=本社サイト」であるか否かの2つに分かれる。グローバルサイトにてどのような情報を発信していくかを判断する際は、この関係性を考慮する必要がある(図5)。

(図5:グローバルサイトと本社サイトの関係性)

 

Apple社やMicrosoft社のように主にアメリカに本社があるグローバル企業などで、かつ製品情報に地域性がない場合は、本社サイトの情報をほぼそのままグローバルサイトで配信していることが多い。つまり「グローバルサイト=本社サイト」という関係性となる。
一方、各地域性をもたせたマーケティングとグローバルコミュニケーションを両立させる必要がある場合には、「グローバルサイト=本社サイト」ではない関係性となり、グローバルサイト用にコンテンツ作成やサイト設計を行い、情報発信していくことが必要になる。

 

■3-2.地域と言語
次にグローバルWebガバナンスにおける2つめのポイントである「地域と言語」についてみていく。

 

[地域]

地理学上での分け方の1つに、世界をアジア、ヨーロッパ、アフリカ、北アメリカ、南アメリカ、オセアニアの6大陸に大別する方法があるが、企業のWebサイトにおいては、世界の地域分けは企業の運用形態を如実に表すこととなり、事業戦略とサポート体制の2側面から考えるべきである。
つまり企業としてどの地域に投資したいのか、どの市場にどのような製品・サービスを提供するかという事業戦略の観点と、たとえばEMEA(Europe, the Middle East and Africa)の単位でサイトの運営を行う場合に、組織の体制として問い合わせへのサポートをしっかり行えるかというサポート観点で考えることである。ヨーロッパ支社では対応しきれないときには、アフリカや中東を地域分け上独立させ、問い合わせ対応は本社で行うといったように、サポート体制も踏まえて検討する必要がある。

また、地域分けにおける日本企業にみられる傾向として「日本、アジア、ヨーロッパ」といったように日本を地域の1つにして扱っていたり、各国のサイトへのリンクを並べる順番も、通常は50音順などの規則で並べているところを、日本を最初に配置したりというように、日本を特別扱いすることがある。日本企業だから日本を一番に訴求したいという意図はわかるが、日本以外の国の企業ではこの傾向はあまりみられないため、グローバル視点では、疑問に思う人も少なくないだろう。リンク先の日本サイトにおいて、英語を提供していない場合はなおさらである。さらに、社内に対してのガバナンスにおいては本社特別扱いのようなイメージとなり、各国に厳守させているルールでも日本だけ例外をゆるすなど、統制が崩れているケースもある。たとえば「ジャパンブランドを掲げる」といった明確で強いビジョンがあり、あえてやっているのであればよいが、ガバナンスが効かなくなる可能性があることを認識し対応方針を決めておく必要がある。

 

[言語]

どの言語をカバーするかだが、重要視すべき1つに世界で多く使用されている言語という観点がある。母国語人口、公用語国、そして言語別インターネットユーザー数で比較してみよう(図6)。公用語国と言語別インターネットユーザー数でトップの英語、母国語人口トップかつ言語別インターネットユーザー数で2位の中国語は必須であると言える。

(図6:グローバルでの必要言語。トリップアドバイザー「世界で最も交わされている挨拶は?」2013年2月13日 http://tg.tripadvisor.jp/languages/ のデータを参照し、筆者がまとめたもの)

 

英語、中国語の次の言語としては、上位にランクインしているスペイン語、ビジネス上重要視されているフランス語やドイツ語、アラビア語などが候補に考えられるが、どういった情報を誰に届けるのかということが一番重要であり、企業がどこを狙っているかという需要によって言語展開の優先度を考えるのがいいだろう。この考え方はグローバルサイトだけではなくローカルサイトでも同様である。
ただしB to Cビジネスの場合は事情が異なる。Webサイトのメインユーザーが取引先企業で使用言語を割り出しやすいB to Bビジネスと異なり、B to Cビジネスでは世界のどの地域の人がグローバルサイトに訪れるのかわからない場合もある。まずは英語をおさえるというのはB to B ビジネスを行う企業と同じだが、その次に展開していく言語はリサーチなどの手段で使用言語を割り出すか、図6のような世界の公用語国などを参考に展開していくといい。
また、カナダのように公用語が複数ある国では全ての公用語での等しい情報提供が法的に求められている国もあるため、注意されたい。

 

■3-3.運用体制・ガイドライン・CMS

問い合わせ対応や地域、言語を検討する際、グローバルWebガバナンスでは運用体制が非常に重要となる。そして運用体制づくりにおいては、人的配置以外にも、ガイドラインなどのルールをしっかりと整備しておくといったことが必要だ。

ガイドラインにはいろいろなものがあるが、大きくは制作のためのガイドラインと運用・管理のためのガイドラインに分かれる。制作のためのガイドラインは、たとえばデザインに関するルールなどで、色や書体、文字のサイズを細かく決めているものからテンプレートといったものまでさまざまなものがある。一方の運用のためのガイドラインでは、問い合わせやトラブル対応など運用上発生する事柄に対してのオペレーションや心得等を決めておく。また、コンテンツの制作から承認、公開するまでの業務フローといったものも含まれる。
その他にも、ドメイン運用やアクセシビリティ、SNSやアプリの制作・運用に関するガイドラインなどがある。またVIやCI、ブランドコミュニケーション、コンプライアンスガイドラインといったWebサイトのためだけに策定されていないものもWebガバナンスには関わってくる。

ガイドラインはただ単にルールを策定するだけではなく、それぞれのガイドラインの位置づけや、どのように関係し紐づくのかを整理・設計することで、ガイドラインをガバナンスのツールとして活用できる。また、ガイドラインを配るだけではなく、説明したり困った場合にフォローできる仕組みを構築しておくことで、理解が深まり、より活用しやすくなるだろう。
「ガイドラインはどうせ読んでもらえない」ということを聞くが、読まれないからといって基準づくりを放棄してはWebガバナンスにおいて致命的となる。判断すべき場合において、その判断基準が個人の考えではなく、企業全体で決めたルールとなっていることが大切だ。

そして早い情報発信、情報統制等の点からCMSも重要になる。グローバル展開していけばいくほど扱う情報やステークホルダーの数も多くなる。また、特に大企業ではコンテンツ公開までの承認フローが複雑といったこともある。運営担当者のITリテラシーもさまざまで、自身でHTMLを書けない場合がほとんどだと思われるが、更新ごとに制作会社に発注していては迅速な情報発信ができない。
CMSを導入することで、コンテンツ作成、承認フロー、情報一元管理といったことがシステムで管理できるようになる。最近では、翻訳のフローも含めある程度自動化して翻訳するといった仕組みも組み込め、複雑でない情報であれば、日本語で書いた情報を多数の言語に翻訳して本社から同時リリースしたいといった多言語展開にあたってのニーズに対応することも可能となっている。
選定にあたっては、Webサイト間での連携のしやすさを考えると、グローバルレベルで同じCMSを利用した方がよい。また、CMSはそれぞれ特長が異なるため、導入には各CMSの特長を検討し選定しないと、思っていた効率化も図れず無駄な投資になりかねない。「CMSで何がしたいのか?」を整理した上で、専門業者などの知見者に相談することをおすすめする。

 


4.EIAについて


最後の項では、グローバルWebガバナンスを実行するための考え方やプロセスの枠組みの1つであるEIA(Enterprise Information Architecture:エンタープライズ情報アーキテクチャ)を紹介する。

 

■4-1.EIAの考え方

EIAでは、企業がもつ全てのWebサイト総体という広い視点で、企業が扱う情報を資産として捉えより有効活用できるよう、情報設計の方針、動線設計、Webサイト構築方針を、全体(トップダウン)と個別(ボトムアップ)の両方のアプローチから検討する(図7)。

(図7:全体最適と個別最適によるEIAの構築)

 

全体(トップダウン)のアプローチでは、企業のブランディング、最低限の品質担保を念頭におき、全体のレギュレーションを考えていく。Webサイト群全体をどう扱うかという観点から、VIルールや各Webサイト間の連携、載せるべき情報の方針、共通のCMSなどの基盤技術、運用方針やフロー、体制など、全体でのルールを設計していく。
一方の個別(ボトムアップ)では、個々の製品・サービス効果や運用効率を念頭に、各Webサイトの独自性に関わるルールをつくっていく。企業ブランドを守りつつ、たとえば製品サイトとしてどのように特徴を出していくのかといったように、個別の製品やサービスのブランディング、キャンペーン企画など、細かいレベルでユーザーと向き合う接点のところを考えていく。
このように、全体(トップダウン)と個別(ボトムアップ)の双方からアプローチして最適化していくことで、ガバナンスを構築していくという考え方がEIAであり、最終的なアウトプットとしては、ガイドラインや、Webサイト群構造、Webサイトテンプレート、運営組織構築などとなる。

 

■4-2.EIAの実施で得られる効果

EIAを実施することで得られる効果には、「企業」「社内ステークホルダー」「エンドユーザー」の3つごと次のようなものがある(図8)。

(図8:EIAの実施で得られる効果)

 

企業にとっては、前述しているようにブランド毀損や重複投資の回避、ブランド価値の向上がある。Webサイトを運用している社内のステークホルダーにとっては、運用効率の向上が見込まれるため、本業への専念やそれによる機会創出につながる。そしてエンドユーザーにとっては、欲しい情報があり探しやすいといったところから情報取得効率の向上となり、それに伴って機会獲得につながり、問い合わせの回答がスムーズに返ってくる等によるストレスの軽減といったことが挙げられる。

 


5.おわりに


企業のグローバルWebガバナンスの必要性を説明してきた。特にBtoB企業にとってWebサイトはまだまだ活用できるコミュニケーションツールであり、その可能性を試すメディアであるが、企業としての情報を発信している以上、そのガバナンスは必要最低限のお作法が不可欠だ。企業として統制されたガバナンスを行った上で、情報を発信していかなくては、Webサイトを利用した新しい信頼をユーザーから得ることが難しくなってきている。マルチデバイス化して、いつでもどこからでも情報にアクセスできる時代においては、企業として、統制された情報をどのように発信していくかが、他社との差別化の重要なポイントとなるだろう。

 

【執筆者プロフィール】
山中 健一
(株式会社コンセント取締役/株式会社AZホールディングス執行役員/HCD-Net認定 人間中心設計専門家/インフォメーションアーキテクト)

1995年よりグラフィックデザイナーとして国産自動車メーカーの販売カタログなどの制作に携わり、その後、CD–ROMやキオスク端末などのユーザーインターフェイスデザイナーを経て、1999年よりWebデザイナー/アートディレクターとして活動開始。大手電機メーカー製品サイトやECサイトの立ち上げから、大手企業のコーポレートサイト、キャンペーンサイト、IRサイト、イントラサイトなどの情報設計・デザイン・構築など数多くのプロジェクトに従事。

2004年にNEC「ecotonoha(エコトノハ)」プロジェクトにて、カンヌ国際広告コンクールでのインターネット部門でのグランプリ受賞を始めとする、世界3大広告賞をプロジェクトメンバーとして受賞。2007年よりWebコンサルティングファーム サイエントジャパンにて、プロジェクトマネージャー兼インフォメーションアーキテクトとして、グローバルサイトを始めとした大規模サイトの設計・構築、ガイドライン策定などに従事。2009年より、同社にてUX部門であるエクスペリエンスネットワークのディレクター代行(部門長相当)を兼務。その後、 BtoBを専門で扱うWebコンサルティング会社の立ち上げ支援などを経て、2013年にインフォメーションアーキテクトとして株式会社コンセントに入社。2014年4月より同社取締役に就任。

2015.02.18

2月20日にビー・エヌ・エヌ新社より『START INNOVATION ! with this visual toolkit.〔スタート・イノベーション! 〕—ビジネスイノベーションをはじめるための 実践ビジュアルガイド&思考ツールキット』が刊行されます。

この本は、難しい学術的な理論書ではなく、『どうやってイノベーションを起こすのか?』という疑問に明快に答えてくれる1冊。

イノベーションを探検になぞらえた著者のメソトロジーには、読者を鼓舞するイノベーターとしてのマインドセットやビジネスのフレームワーク、確認すべきチェックリストが満載で、ビジネスの現場で実践できる内容となっているのが特徴です。

日本語版の刊行にあたっては、コンセント代表取締役の上原哲郎が巻末解説として「なんとなく実現することはない」というエッセイもよせています。


《丸善丸の内本店でのご購入特典》

本書籍の刊行を記念し、下記の通りイベントを開催します。

■イベント名
『スタート・イノベーション!』(ビー・エヌ・エヌ新社)刊行記念
小山龍介氏 × 山口博志氏 × 田川欣也氏 × 上原哲郎 トークセッション

■日程・場所
開催日時:3月13日(金) 19:00~
場所:丸善・丸の内本店3F日経セミナールーム

■詳細・お申し込み
参加条件やお申し込み方法等詳細につきましては、丸善のサイトにてご確認ください。
http://www.junkudo.co.jp/mj/store/event_detail.php?fair_id=8296


《書籍情報

■書名:
『START INNOVATION ! with this visual toolkit.〔スタート・イノベーション! 〕
—ビジネスイノベーションをはじめるための 実践ビジュアルガイド&思考ツールキット』

■著者:ハイス・ファン・ウルフェン
■翻訳:高崎拓哉
■監修:小山龍介、山口博志、上原哲郎、田川欣哉
■出版社:ビー・エヌ・エヌ新社
■ISBN:978-4861009648
■版型:B5判変型/264ページ
■定価:本体2,600円+税
■刊行:2015年2月20日

出版元(ビー・エヌ・エヌ新社)のオフィシャルページ

『START INNOVATION ! with this visual toolkit.〔スタート・イノベーション! 〕
—ビジネスイノベーションをはじめるための 実践ビジュアルガイド&思考ツールキット』のご購入
(Amazonのサイトへリンクします)

2015.01.22

※本コラムは、2014年12月1日発売の宣伝会議1月号への寄稿原稿のオリジナルです。


データで示されるCX向上の必要性


近年、企業にとって、カスタマーエクスペリエンス(以下CX)をどう扱うかという議論は、サービスクオリティをどう上げるか、顧客満足度をどう高めるかというものから、ブランドや事業そのものをどうデザインするかという、より大きな課題へとシフトしています。

米国における調査では、顧客の89%が不満足なCXが原因で他のブランドに乗り換えている、と回答しています(RightNow社『The 2011 U.S. Customer Experience Impact (CEI) Report』より)。つまり、CXのクオリティというのは、個々の商品やサービスだけの一時的な成果にとどまらず、継続的なブランド構築に対する重大なリスクとして慎重に取り扱うべき課題となってきているのです。

実際に、Oracleのカスタマー・エクスペリエンスに関する調査の報告書「Global Insights Succeeding in the Customer Experience Era」のなかで取り上げられている世界各国の企業経営幹部へのアンケートでも、有益で一貫した、ブランドにふさわしいCXを提供できないために生じる損失が年間売上の20%におよぶと推定しています。また、93%の経営幹部が、CXの改善は今後2年間の最優先課題上位3つのうちの1つであると答えています。

このように企業のCXへの対応は、世界的に見ても注力しなければならない課題として緊迫感が増しているのが、データからも見てとれます。


CX向上に有効なサービスデザイン


では、有効なCXを構築するにはどうすればよいのでしょうか。

その答えのひとつは、自社の既存の商品やサービスを基準に最適なCXを考えるのではなく、CXを基点として商品やサービスそのもの、ひいては組織構造自体をダイナミックに最適化させていくという視点の転換です。

そのようなCX基点でのアプローチとして有効なのが「サービスデザイン」です。
サービスデザインの「サービス」とは、飲食業などの「サービス業」だけではなく、製造業も含んだあらゆる事業活動を指しており、サービスデザインは、「モノ」ではなく「コト」を優先的な判断基準とする考え方である「サービス・ドミナント・ロジック」(※)がもとになっています。

これは、顧客に提供されるものは全てが「サービス=コト」であり、「モノ」はその構成要素のひとつにすぎないという考え方です。

CXの本質は、顧客が感じる価値にもとづいた「コト」を企業が提供できているかということ、そして、その「コト」が顧客行動の中の複数の接点(タッチポイント)、チャネルにおいて、一貫したものとしてデザインされ、実際に顧客に届けるための企業内オペレーションや組織設計にまで踏み込んで最適化が図られているかということに尽きます。(図1)

(図1:顧客の体験価値は一貫性を伴ったものとして扱う必要があり、チャネルを横断した視点をもつことが肝要)

サービスデザインがCX向上に有効なのは、「コト」を中心として事業全体を再構築するためのアプローチが明確に示されており、顧客にとって価値ある「コト」とは何か、それを一貫して提供できる方法は何か、双方を同時に検討できる点です。

※「サービス・ドミナント・ロジック」について詳しくは以下を参照してください。
ラボコラム|UXの本質について

 


具体的なプロセス


例えば、カスタマージャーニーマップについて考えてみましょう。カスタマージャーニーマップとは、サービスと顧客行動との関係性を可視化するツールです。タッチポイントはどこか、そこに内在している顧客感情や期待価値、文脈性(そのサービスを使用するにあたってのシチュエーション、時間的要因や、物理環境、人間関係など)は何かなど、全てを俎上にあげて最適なCXを議論するために用いられます。

各タッチポイントにおける価値ある「コト」=「体験価値」がカスタマージャーニーマップにより明示されたら、それを具現化するために顧客が実際に触れられる(Tangibleな)接点としてのインターフェース(製品自体の性能なども含む)を検討します(図2:Interaction Design)。あるいは、そもそも顧客にとっての「体験価値」が何であるかが不明瞭な場合には、エスノグラフィ調査などを行い、顧客の観察を通じた「体験価値」の抽出、明示化を行い、それに基づき、既存製品・サービスの改良やビジネスモデル自体を再検討することもあります(図2:Service Design)。

コンセントでは図2のように「Service Design」「Activity Design」「Interaction Design」という3ステップのフレームワークを用いて問題の切り分けを行い、課題解決を図っています。

(図2:構造化シナリオ手法をベースにコンセントで開発し実践しているサービスデザインのフレームワーク)

このようにサービスデザインのプロセスでは、全体を通して一貫したブランディングを実現するため、どのタッチポイントにCXを阻害する要因があるのか、ブランド棄損の可能性があるのか、費用を投下すべきタッチポイントはどこか、どのタッチポイントに不可避な問題が存在していて、そのリカバリーをどこですべきかなど、カスタマージャーニーマップなどのツールを用いて顧客行動を中心とした検討を行い、企業が総合的に行うべきタスクを明らかにします。


コミュニケーション環境の変化


また、顧客と企業のタッチポイントを考える上で、近年とりわけ重要になってきているのが、ソーシャルネットワークなどのコミュニケーション環境の変化です。

顧客にとって体験価値を満たすCXを提供できた場合には、ソーシャルネットワークによってポジティブなレビューとしてシェアされ、新たな顧客を獲得できるでしょう。しかし、顧客の期待に満たないCXの場合には「炎上」を引き起こし、深刻なブランド棄損につながってしまうことも考えられます。

一方では、サービスに対する顧客のレビューが企業に対する評価、フィードバックとして機能し、それがさらに他の顧客の共感を集め、「ここはもっとこうした方がよい」といったポジティブな意見が集団的にどんどん集まるケースも見受けられます。

ソーシャルネットワーク登場以前では、企業は商品やサービスそのものの品質を上げ、プロモーション活動と合わせてブランド価値を「積み上げていく」という視点で考えていればよかったのですが、現在では、企業側がコントロールできないソーシャル・ネットワークでの顧客行動も含めて、マネジメントを行う必要性が高くなってきているのです。

そのマネジメントをする際に必要なことは、顧客とともにサービスを「創っていく」という視座をもち、顧客のシェアやフィードバックを、事業継続のためのKPIとして捉え、PDCAサイクルを回していくことです。幸いにも、ソーシャルネットワークの普及によって顧客の反応は可視化されますし、定量的に計測することも可能です。把握が難しい場合にはソーシャルリスニングツールを利用するのもよいでしょう。

こういった共創的な姿勢を見せる企業には、顧客の評価も多く集まり、さらなる事業拡大を目指すことも可能となります。

企業にとっては、顧客ニーズを探るためのリサーチ費用、そして結果的には開発費用までもを抑えることができ、また、新たな顧客創出のための広告費も圧縮することができます。このように企業が顧客と共創的関係を築くことは企業にとって大きなベネフィットとなります。

ソーシャルネットワークを介したこのような顧客との関係性は、もはや全ての企業にとって避けて通れないものとなっています。CXの良し悪しでビジネスの成否が大きく関わるような状況にあるのです。

私がクライアントワークでデザインしたサービスでも、明確に「どんな顧客」が共創的な立場で振る舞ってくれるかをモデル化し、彼らのために有効なCXは何かといったことを、サービス立ち上げ前の段階で明示化し、共創関係を非常に重要視して開発を進めています。


企業のCXへの対応状況


このようにCXはあらゆる点で重要視すべき存在ではありますが、企業としては課題を多く残しているのが現状です。一貫した体験価値の提供ができない組織的課題があるのです。

冒頭でも取り上げたのと同じ報告書(Oracleのカスタマー・エクスペリエンスに関する調査の報告書「Global Insights Succeeding in the Customer Experience Era」)のなかでも、企業内には最適なCXを提供するにあたっての障害がさまざまなレベルで存在していることが示されています(図3)。まさに、あらゆる経営資源を、体験価値にもとづいて見直す必要が出てきているのです。

(図3:テクノロジー、組織構造、投資と、最適なCXのためには、組織内のあらゆる部門が同じ視点で行動を起こさなければならない。)

そのためには、前述のカスタマージャーニーマップのようなツールを企業内の共通言語として機能させ、企業全体をシームレスに動かすことが必要です。企業内のバリューチェーンごと、事業ドメインごとの縦割りでのアクションではなく、顧客価値を最適化するために企業全体の意識をCX基準で統一することが求められています。

また一方で、私が所属するコンセントには、その企業の事業ドメインを、これまで異業種と捉えてきた企業(例えばAppleなど)から侵食される恐れがあるので、対策を講ずべくサービスをリデザインして欲しいとった依頼をいただくことが少なくありません。CXに対する信頼性を得た企業はそれを武器に他業種への参入が容易になります。技術やその他のリソースは後からついてくるもの。AppleやGoogleなどの買収戦略をみれば容易に想像がつくと思います。そういった危機感は現場に立つ者としてひしひしと感じています。


顧客が必要とするCX


CXをデザインする際に重要なことは、 全てのタッチポイントに一貫性をもたせること。CXをマクロな視点(経営)と、ミクロの視点(個別タッチポイントのインタラクションデザイン)の両方から精緻にデザインすること。独自性がありながらも安全性などの基本的な要素をおさえたCXであること。接する時間の長いCXであること。生活を本質的に豊かにするCXであること。感動を与えるCXであること。

顧客に信頼されるCXをデザインし、エンゲージメントを高める取り組みが早急に求められています。

執筆:大崎優(株式会社コンセント サービスデザイナー/アートディレクター)

 

【執筆者プロフィール】
サストコ|大崎優

【関連リンク】
ニュース|『宣伝会議』1月号掲載
ニュース|ビジネスや社会を変える「サービスデザイン」の実践的プログラムを提供

2015.01.15

こんにちは。サービスデザインチームの阿部です。

今回は、2014年11月25日にサムスン電子ジャパン株式会社様(以下、サムスン電子ジャパン様)の社内向けに開催した、サービスデザインのセミナーをご紹介します。

こちらのコラム読者のみなさんはご存じの通り、サービスデザインに関する世の中の興味関心は、近年ますます高まる一方です。

プロジェクト単位での実践はもちろんのこと、会社組織全体へのサービスデザインの浸透を目指す動きもあります。しかし、サービスデザインに関し、その意義と定義について、組織全体が共通の理解をもって活動できているとは言い難いのが現状ではないでしょうか。

そのためか最近では、サービスデザインに関する組織としての学習意識がより一層高まっているように感じられます。実際、コンセントへのレクチャー依頼も増加傾向にあり、私がこうやって記事を書いている間にも、別のセミナープロジェクトが複数動いています。

さて、今回のサムスン電子ジャパン様でのセミナーで講師を務めたのは、コンセントのサービスデザインチームのリーダーである大崎です。サービスデザインの講演や講義というと、Service Design Network日本支部の共同代表でもある、コンセント代表の長谷川が務めている印象が強いと思いますが、最近は、現場でプロジェクトを日々こなしているメンバーが担うことも珍しくありません。

長谷川の講演がどちらかというと概念的で抽象度が高いのに対し、サービスデザインチームのメンバーによるレクチャーはより実践的です。試行錯誤のうえ体系化してきている自分たちの経験から話をすることも多いためか、企業の担当者様も素朴な疑問を投げやすいようで、リアルなディスカッションにつながることも多々あり、セミナー終了後の参加者のみなさんの納得度も高く感じられます。

(レクチャーするサービスデザインチームリーダー大崎)

さて、企業内セミナーというと、本来であれば企業様との守秘義務上お伝えすることができないケースが多いのですが、今回はサムスン電子ジャパン様のお取り計らいにより、プログラムの概要について簡単にご紹介したいと思います。

そもそも今回セミナー開催をご依頼いただいた背景には、サムスン電子ジャパン様社内で各自の立場によって考え方が異なり、なかなか一人一人が共通の理解のもと取り組むことが難しいサービスデザインについて、改めて全員で一緒に考える機会をもち、今後の進むべき方向性や個々の役割を再認識し、積極的にサービスデザインのプロジェクトを各自推進していけるような組織をつくっていきたい、というご担当者様の熱い想いがあります。

もちろんサムスン電子ジャパン様でも、プロジェクトにおいてUX、サービスデザイン観点の取り組みはすでにおこなわれていました。しかし、世の中のサービスデザインを実践している多くの企業と同じように、まだ取り組み始めて間もないこともあり、セミナーを受講するまでは社員のみなさん一人一人の知識と認識にばらつきがある状況でした。

そのため、今回のセミナーでは、サービスデザインに関して共通の理解を得るとともに、これから個人として、そして組織としてどのように取り組んでいくべきかの示唆となることを目指して設計することにしました。

(セミナー中の様子)

そこでセミナー前半では、サービスデザインとは何か、その本質をまず理解していただくことに重点をおいてレクチャーすることとし、サービスデザインを実践していく上で重要となる「サービス・ドミナント・ロジック」の考え方から、実際のプロジェクトにおける具体的なサービスデザインのプロセスにまで踏み込んでサービスの実例を交えてご紹介しました。

後半では、サービスデザインを実践していく上での企業組織のあり方について、現状の企業組織における課題点からあるべき組織の姿についてまで言及。セミナーの最後には、「サービスデザイン組織課題発見シート」を用いて、自分たちの組織が抱える課題と今後向かっていくべき方向性について洗い出すワークショップをおこない、それをもとにディスカッションをしました。

(ワークショップで使用したワークシート。各自で黙々と記入するタイプのものではないところがポイント。このシートをもとに、セミナーの最後にディスカッションをおこなった)

(コンセント代表の長谷川もディスカッションに参戦)

今回のセミナーは、さまざまな職種や立場の方々が参加されたこともあり、今後の組織としてのあり方や個々人の動き方について相互理解が進み、活発的な議論ができたという印象です。また、セミナー終了後にはご担当者様から「メンバーからの評判もよく、取り組んでいくべき課題を再認識し、課題に向き合うモチベーションを上げることができた」との言葉をいただくことができました。

最後になりますが、コンセントでは、こうした企業内セミナーを含め、世の中へのサービスデザインの普及と啓蒙に積極的に取り組んでいます。

昨年後半からは、武蔵野美術大学が運営するD-LOUNGEにて、サービスデザインに関するレクチャー・ワークショッププログラムを提供しており、またコンセントの半社内勉強会「Service Design Salon」は社内外問わず、どなたでもご参加いただけるオープンな勉強会として不定期に開催しています。サービスデザインに関心がある方にはおすすめです。

なお、サービスデザインチームへのセミナーや執筆依頼などございましたら、コンセントサイトのお問い合わせフォームよりご相談ください。

講演・セミナー・取材の依頼やご相談

【執筆者プロフィール】
サストコ|阿部啓悟

【関連リンク】
ニュース|ビジネスや社会を変える「サービスデザイン」の実践的プログラムを提供

サストコ|オープンな勉強会「Service Design Salon」

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※ Service Design Salonの開催情報等をお知らせしています。

2014.12.26

こんにちは、サービスデザインチームのデザイナー 小山田です。

今回は、2014年11月5日に開催された、Vinay Venkatraman(ヴィネイ・ヴェンカトラマン)氏をお招きしたセッションの模様をレポートします。

このセッションは、「Roundtable discussion on “data-driven human-centric innovation”」と題されたもので、株式会社リ・パブリック様(http://re-public.jp/)が主催し、コンセント共催で開催しました。また、会場となった西麻布のco-lab(http://co-lab.jp/)はクリエイターのためのシェアード・コラボレーション・スタジオで、春蒔プロジェクト株式会社様からご提供いただきました。

会場は、西麻布co-lab地下1階のフレックススペース。

まずは、ヴェンカトラマン氏について、イベントの案内文から抜粋してご紹介いたします。

ヴェンカトラマン氏は、コペンハーゲンで今、最も注目を集めるデザイン教育機関 CIID(Copenhagen Institute of Interaction Design)のCo-founderであり、イノベーションプロバイダー Leapcraft(http://leapcraft.dk/)のCEO & founderです。また、デンマークのデザイン政策をリードするDDC(Danish Design Center)とともに、Big Dataをデザインの力で活かし、新たな産業に結びつける人材育成のための機関 Big Data Viz Academy(http://bigdataviz.dk/)を設立。ここで提供されているプログラムは、データサイエンスとデザインの両側面を学ぶことができる画期的なプログラムとして、世界中から注目を集めています。

「データサイエンスとデザインの両面を結びつける活動」と聞き、セッションでご紹介いただく内容も非常に難しいのではないか、と緊張して当日を迎えました。しかし、実際のヴェンカトラマン氏の語り口は柔らかく、参加者を交えてのディスカッションも、軽食とお酒をいただきながら行われとても和やかな雰囲気でした。

ときおりジョークを交えつつ、落ち着いた雰囲気でお話されるのが印象的だったヴェンカトラマン氏。

ダイジェストではありますが、以下に当日のセッション内容を、ヴェンカトラマン氏の印象的なジョークをお借りして、2部構成にてご報告します。

・Part1 – How we make the money
・Part2 – How we lose the money

 


Part 1 – How we make the money


ここでは、ヴェンカトラマン氏の自己紹介、“データ”についてのお考え、そして、ご自身が率いるLeapcraftの実際のプロジェクトの3つを中心にお話しいただきました。

氏は、もともとインダストリアルデザイナーとして、照明や家具などのプロダクトデザインを行っていたそうです。彼は、“データ”をベークライト(フェノール樹脂、いわゆるプラスチック)になぞらえ、現代のデザイナーにとっての“A new raw material for innovation”だと定義します。

Ericsson 1950s bakelite telephone.jpg

EricssonのDBH15。ベークライトの登場で、自由な造形が可能になった。

Ericsson 1950s bakelite telephone” by ChristosVOwn work. Licensed under CC BY-SA 3.0 via Wikimedia Commons.

その新しい素材である“データ”を使って、Leapcraftが手がけた事例はどんなものなのでしょうか。

 

■The Copenhagen Intelligent Traffic Solutions

その1つが、CITS(The Copenhagen Intelligent Traffic Solutions)と呼ばれる、自転車に乗る人の利便性向上のための都市の交通状況のビジュアライゼーションとシミュレーションです。
各種センサーを利用し、自動車、自転車、人の動きをデータとして取得します。それによって、クラウドベースのソフトウェアを通じ、交通状況のリアルタイムモニタリングを可能にしました。また、各種のパラメータ(交通量、天気、道路工事、特別な行事など)を変えることで、交通量変化による渋滞発生のシミュレーションも可能にしています。

CITS The Copenhagen Intelligent Traffic Solutions(http://leapcraft.dk/cits/

CITS project from Leapcraft on Vimeo.

 

■Preventive Medicine

もう1つは、コストが増大し続ける医療分野で、データを予防医療に活用したプロジェクトです。

医療費の増大が課題になっているのは日本も同じですね。

このプロジェクトは、医療機関を受診する方の性別や年齢のデータを使い、グラフにすることで、どの時間帯、時期に、どんな利用者が多いのかがわかるものです。たとえば、子どもの患者が多い時間帯や、休暇中は患者数が減ること、など(ちなみにクリスマスの前後は、全体的な患者数が減るそう)。
データを可視化することで、背景にあるストーリーを見出すことができ、それに対する対応も検討することができるんですね。

プレゼンテーションの合間には、会場からの質問に応じて活発なディスカッションが行われました。その中で、「さまざまなスキルやバックグランドをもつ人々を、いかにチームとしてうまく機能させるか?」というものがありました。氏の回答は……「共通言語がないので、エンジニアとエスノグラファーを1つの部屋に集めて、何かが起こるのを信じることにした」というもの。ジョークとして明るく仰っていましたが、異なる分野のプロフェッショナル同士の意志疎通には、たくさんの課題があるんだろうな、と思いました。

 

■The Storytelling

また、これら事例の他にも、どのようにデータをイノベーションにつなげていくかをご紹介いただきました。なかでも、データとデザインの関係性についてのお考えが興味深かったです。

イノベーションのためには、両者は50:50の関係が望ましいものだそう。一方は、Data SkillすなわちAnalytics(分析)、もう一方はDesign SkillすなわちConcepts(コンセプト)。それらがうまく連携し、ストーリーを語れるようにすることが重要なのだと。
また、データをストーリーとして“Serving”する時のポイントとして、想像力の必要性を挙げていらっしゃったのも印象的でした。

データにストーリーを語らせる……。思わず会場の書棚の本を眺めてしまいました。

そこでのスライドにはこんな言葉が書かれていました。
Constraints + Ingenuity = Appropriate Solution (Problem Solving)
Constraints + Ingenuity + Imagination = Frugal Innovation (Value Creation)

制約に対して発明の才があれば、適切なソリューションが生まれるが、これは問題解決型。そこに想像力がプラスされると、イノベーションと価値がつくり出される。

「データは、多面的な真実を含んでいる」とヴェンカトラマン氏はおっしゃっていましたが、そこにデザイナーとして素敵にアイディアを飛躍させる価値や余地があるんだな、と感じました。

このスライドだけでもなんだか素敵なストーリーを予感します。

 


Part 2 – How we lose the money


さて、次のHow we lose the money。こちらは、ヴェンカトラマン氏が取り組んでいる研究グループ Frugal Digital(http://frugaldigital.org/)の活動の紹介でした。

 

■The Tinkering Ecosystem

はじめにスライドを中心に、インドなどでの“Tinkering Ecosystem”をご紹介いただきました。
Tinkering Ecosystemはさまざまな国で見られる現象で、スマートフォンやコンピューターなどのハイテク機器までも、露天商のような小規模な設備で、修理、改造を行っているというもの。これにより、大規模なインフラがなくても、モノの持続可能性を高めた社会を形づくっています。氏いわく、「インドではハードディスク・ドライブもキロ単位で買える」そう(!)。

ムンバイの路上で売られている携帯電話のパーツ。

photo by Meena Kadri

 

そのような環境を背景に、現地の人々を支援するため、低コストで実現できるプロダクトをつくるというのが、氏の取り組んでいる活動です。たとえば、教育関係者のための小型のプロジェクターや、医療関係者のための健康状態を測定するヘルスメーターなど。どちらも携帯電話や目覚まし時計など現地で手に入るものをベースにつくられているということでした。

人々が直面している困難と、周囲の環境の特徴を結び付けて価値を創り出す、素晴らしいプロジェクトだと感じました。目覚まし時計を利用したヘルスメーターの完成品もとても可愛らしくて、想像力とデザインの重要性を強く感じました。

このFrugalDigitalの活動については、氏がTEDで講演をされていますので、詳細についてご興味がある方はぜひご覧ください。

TED Talks ヴィネイ・ヴェンカトラマン:デジタル過疎地での「ハイテク・クラフト」

 


Extra – Concent’s Case


ヴェンカトラマン氏のスピーチの後には、セッションに参加された方による、データを活用した事例のプレゼンテーションが行われました。
コンセントからも、代表の長谷川による、データを活用したIA(インフォメーション・アーキテクチャ)の2つのケーススタディの発表がありました。

ケース1は、アルバイト情報を扱うWebサイトを、データを活用しつつユーザー中心に設計したプロジェクトです。
従来、そのようなWebサイトの情報は、時給や勤務地などのスペック的なもので構成されていました。しかし実際にユーザーへのインタビューを行うと、 “暇つぶし”としてアルバイトを探すといったユーザーの利用文脈がありました。
こうしたインタビューで得られた定性的なデータを分析、構造化し、Webサイトの情報設計に反映することで、ユーザー視点でのアルバイト探しを実現しています。

ユーザーの潜在的なニーズは“暇つぶし”(!)

ケース2は、オーディオ製品を扱うWebサイトで、インタビューなどで得た定性データを形態素解析と共起ネットワーク分析を使ってビジュアライズし、得られた結果からそれらを製品紹介の切り口として活用した事例です。
定性的な情報を分析、活用することで、ユーザーセンタードなアプローチが実現できるという事例でした。

***

ビッグデータと呼ばれる大量のデータだけではなく、定性的な調査で得られるデータもまたデータ。さまざまなアプローチで、ユーザーにとって新しい価値をつくろうという目的は共通しているんだな、と感じたセッションでした。

【小山田那由他プロフィール】
http://sustoco.concentinc.jp/from-editors/2012/11/nayuta-oyamada/

2014.11.12

サービスデザインチームのデザイナー、星です。
普段の仕事では車載情報機器のユーザビリティ評価、情報設計、デザイン、モックアップ制作などをしています。

さて、この前の週末にCarPlay対応車載機(Pioneer SPH-DA700)をクルマに取り付けたので、都内までの通勤で早速使ってみました。簡単にですが以下、所感を残しておきます。

Apple CarPlay
https://www.apple.com/jp/ios/carplay/

【良いところ】

普段iPhoneを使ってる人にとって「メッセージ」を運転中にハンズフリーで操作できる点は、Siriの認識精度によるところが大きいとはいえ良い(電話と音楽だけなら今までのBluetooth接続をサポートした車載機でも可能)。


「マップ」での経路案内は降車後も継続できるので、目的地から離れた場所にクルマを停める場合はありがたい。同様に「ミュージック」では車内で聴いていた音楽を降車後続けて聴けるので、共に体験の連続性がある点は良い。

【気になったところ】

走行中はSiriの認識精度が下がる。多分エンジンの音や振動をノイズで拾ってるためだと思う。マイク取付位置はハンドルコラム、クルマはトヨタのist。レクサスほど静かではないにしろ、特にエンジンのノイズが気になるクルマではない。

誤認識なら再発話で粘るという手もあるが、ノイズを拾ってSiri側で発話終了を認識できない場合は待ち受け時間が続き痛い。車載専用にフィルターなどで環境ノイズを切るなどの処理はしてないのだろうか。Siriが使えないCarPlay=使い物にならない、となってしまう可能性。

【マップ】

Siriでの目的地設定は駅などの主要施設の認識は可能だが、住所を番地まで読み上げるような長いものはかなり厳しい。iPhone側から手入力で設定しておいてその履歴を指定するという方法で対処するハメに。

文字入力はなぜかアルファベットのみ(日本語不可)、パレット表示のバグの様なものもありあまり使い物にならない(「Concent」と入力しても弊社はヒットせず…)。

ルート引きは一応複数ルートに対応しているが、渋滞情報その他の交通情報は考慮されない(この点で「Google Map」の方が使い勝手が良い)。

音声読み上げも微妙に「解読」レベル。地元なら地名を理解できるが、未知の土地ではかなり不安。地図の表示はわりと見やすく、描画も綺麗だが建物の高さをいちいち再現する必要性は感じない。操作に関してピンチイン/アウトを使わせないのはなぜだろう。

【メッセージ・電話】
到着時間の連絡など運転中にメッセージを送信したい場合にはとても便利だが、Siriの認識精度の問題からストレスが溜まることもある。選択肢型の音声認識は通りやすいので、受信メッセージの読み上げなどは使える。

【ミュージック】
1曲、1アーティストを選んで聴くような場合、Siriで操作できる恩恵はとても大きい(手入力だととても時間が掛かる)が、認識精度の問題からストレスが溜まることもある。

選曲についてはiPhone単体での操作感と近い操作感は担保されているので、今まで使っていたナビ(トヨタ純正、リストはページスクロール)に比べると格段に使いやすい。ジャケ写が出るのも楽しいが、よくある機能。

【ハードウェア】
フルフラットの表面仕上げは美しいが「押した感触」の無いボタンはブラインドでの操作が必要な車載機では致命的に使いづらい。

揺れる車内においては視認しながらの操作を迫られる。SIriの起動にはこのボタンの長押しが必要なのだが、ステアリングスイッチなどを併用しないととても危険(試用車はステアリングスイッチ無し)。そもそも右ハンドル車の場合は車載機右側にボタンがあるべき。

【ひとまずのまとめ】
「マップ」のナビゲーション機能はとにかく貧弱なので、ディスプレイオーディオ+αくらいの気持ちで使わないと確実にガッカリする。ナビアプリにしても、同じ無料なら「Y!カーナビ」を使う方が全然良い。

そもそもiOS上でのSiriに慣れてないと使いこなせない。CarPlay上のSiriで何が操作できるのか、ガイドやチュートリアルが無いと何もせずに終わりそう。CarPlayに関しても情報が少なすぎる。製品付属の取説は情報量が少なく、AppleのオフィシャルHPにも大した情報は無い。なによりCarPlay対応アプリがまだ少なすぎる…

【星貴史プロフィール】
http://sustoco.concentinc.jp/from-editors/2014/02/takashi-hoshi/

【関連リンク】
サストコ特集|コンセント座談会 デザイナーが感じるサービスデザインの今

2014.10.29

こんにちは、ユーザーエクスペリエンスアーキテクトの坂田です。

2014年9月24日に開催された、Orange Labs Tokyo が主催する「design talk」(http://designtalks.doorkeeper.jp/events/14954)の初回となるイベントにて「DESIGN VS. TECHNOLOGY?」をテーマとしたセッションを担当させていただきました。

本イベントを主催する Orange Labs Tokyo はフランスの大手テレコム企業 Orange の東京オフィスで、世界各国の Orange グループのテクニカルチームやビジネスユニットを、サービスデザインの観点から支援している専門部隊です。初回となる本イベントでは他にも IAMAS の小林 茂教授や NPO 国境なき技師団の八木田 寛之氏が登壇されました。

セッションの途中ではフランスに本拠地を置く Orange 主催ということでキッシュやフランスワインが振る舞われました。参加された方々の約3/4が外国人と、多国籍な会となり、セッションもすべて英語にて行われました。

ユーザエクスペリエンス・デザインやサービスデザインのバックグラウンドをもっている登壇者は私一人ということもあり、20分の枠内でサービスデザインに軸を置いた広義の「デザインの躍進」について話題提供をさせていただきました。

■セッション資料『Designing for the Future – The Rise of Design』

 

ここからは私が当日お話させていただいた内容を振り返りながら、デザインとテクノロジーという大変興味深いトピックについて、個人的な考察とともにさらに話しを深めていきたいと思います。

 


デザインとテクノロジーの対立


工業的に製造された製品で、デザインされていないモノはないと考えています。デザインはいたるところに溢れていますが、なぜか難しいものと思われてしまうようになりました。よくデザインは「観察による問題解決をする行為」と説明することがあります。語源を辿ると、デザインは物質を「de-signare = 脱・しるし化する」ことで、モノのありようが現在どうなっているかを見直す行為そのものです。これはまさにテクノロジーにも当てはまるのではないでしょうか。この場合のテクノロジーは、電気カミソリなどの道具や炊飯器のような複雑系機械を指し、「実世界の問題の解決ないしは問題の防止に役立てられているモノ」です。つまり、本来、デザインとテクノロジーは対立構造にはないはずです。

 


デザインとテクノロジーの架け橋


デザインが問題発見・問題解決をする行為であると定義するならば、テクノロジーにも同じようなことが言えると思います。デザイン対テクノロジーの対立関係ではなく、デザインとテクノロジーの双方から社会の、ないしは生活の問題に向き合うことがこれからの時代に必要なのではないでしょうか。問題解決は大事だけれど、さらに大事なことは問題を発見ないしは定義し、そもそもの問題を起こさないようにすることだと考えます。そのためには、デザインとテクノロジーの架け橋となる我々人間が、問題の防止に務める努力をしなければならないと考えます。

電車の駅を想像してください。駅構内のエレベーターやエスカレーターは、体の不自由な方や高齢者の移動をサポートする役割を担っていると同時に、階段で起こる怪我などのさまざまな問題を防止するための施策としても成立していると言えるかもしれません。エスカレーターを取り付けられない一部の駅では、階段の手すりの形状を再設計したり、階段の踏み面積や角度を緩やかにすることで問題解決に挑んでいますが、エスカレーターという技術の発達によってそもそもの問題の防止策の選択肢が増えたのです。

生活者が抱える問題解決へのアプローチは違えど、エスカレーターという技術的な選択がなされなければ、問題を起こさないための工夫が施されなかったかもしれません。生活問題の防止を目的としてエレベーターが設計されたとは言い切れませんが、これからはデザインの選択肢としてのテクノロジーという関係性を人間が構築していければ、豊かな未来社会の実現に更に貢献できるのではないでしょうか。

 


サービスデザインと人間中心設計


問題解決及び問題の防止への理解を深めていくためには、当イベントでお話した、サービスデザインの3ステップ(スライド資料7ページ目)にも繋がります。

1. Frame: システムの枠を理解する。
2. Unframe: 枠を取り壊し、点在する問題を発見する。
3. Reframe: 問題を防止・解決するための枠を再設計する。

当イベントのセッションで一番お伝えしたかったことは、

テクノロジーは結局テクノロジーであり、それを設計・操作するのは人間である

ということです。

エスカレーターの設計は、当たり前ですが、人間の手によって行われます。たとえそれが機械によって生産されていたとしても、その機械を手がけたのは人間です。技術の発展によって生活は確かに便利になりましたが、忘れてはならないのはそれらの製品はあくまでもインターフェイスであり、作り手と受け手の双方のコミュニケーション・デザインによって社会の、ないしは受け手の問題解決や防止へと繋がっているということです。

米IDEO が積極的に同様のメッセージを発信している(http://www.ideo.com/work/human-centered-design-toolkit/)ように、この時代だからこそ、人間による、人間のための Human Centered Design(人間中心設計)に立ち返るべきだと考えています。

 

【坂田一倫プロフィール】
http://sustoco.concentinc.jp/from-editors/2013/07/kazumichi-sakata/

【関連リンク】
Orange Labs Tokyo
セミナー・イベント情報|Orange Labs Tokyo主催「design talks #1」登壇のお知らせ

2014.10.27

デザイナーの渡邊です。
今回は、全天球コンテンツづくりを通して見えてきた「全天球動画の価値」についてご紹介したいと思います。

最近、企業広告や企画展のイベント会場でよく見かけるようになってきた「全天球動画」。明治エッセル スーパーカップの販促イベントや、レッドブルのモトクロスVR体験イベントで全天球動画コンテンツが使われていたり、また上野の森美術館での企画展『進撃の巨人展』(http://www.kyojinten.jp/ 2014年11月~2015年1月開催予定)でも、Oculus Rift(ヘッドマウントディスプレイ)を使った全天球体験ができるようなコンテンツが見られるようになってきました。

僕自身は会社では主に紙もののデザインをしています。とは言え紙以外をやらないというわけではなく、コミュニケーションを生むものであれば何でもデザインできる、というスタンスでデザインをしています。
たとえば、3Dプリンターなど一般の人にとっては新しい技術や、新しいビジュアル表現言語(全天球動画、3Dなど)と向き合うときには、その技術に触れたことがない人の視点から「このガジェットや技術を楽しむにはどうしたらいいんだろう」と考えたり、「どうしたらユーザーにこの表現の魅力を伝えられるだろうか、ユーザーに楽しんで使ってもらえるだろうか」といったことを常に考えています。

考え始めるきっかけになったのは、理化学研究所の藤井直敬先生のSRシステム(Substitutional Reality System:代替現実システム)(http://srlab.jp/about)の立ち上げプロジェクトに関わったことです。そこで「全天球動画」に出会い、これまでにない新たな情報体験としての魅力や可能性に夢中になり、その魅力や価値をコンセントラボやサストコで記事を書いていたのがきっかけで、さまざまな業界の方から声をかけていただき、いくつかのプロジェクトでコンテンツづくりにも携わるようになりました。

 


全天球動画の何が新しいのか?


 

渋谷 スクランブル交差点

全天球動画をまだ見たことがない方は、こちらのWebサイトでサンプルを見ることができます。
http://www.kolor.com/360-video/coupe-icare-2013(KOLOR 360-DEGREE VIDEO SOLUTIONS)

ご覧いただけるとわかるのですが、全天球動画は、360度、天地前後左右のパノラマ動画の中に入って見回すことができるという、「新しいビジュアル言語」です。どのあたりが新しいのかというと、「見る場所=視点」を自分で決めることができるところです。

技術的な側面では、これまではステッチ(つなげる作業)して全天球で見ることができる状態にするまで、一苦労どころではなく専門知識がないとできないことでした。それがソフトウェアで比較的簡単に360度の動画がつくれるようになったんです。つまり、技術が一般の人のところにおりてきたということです。もちろん、映像表現として踏み込むには技術が必要です。
近い将来、Instagram(画像共有アプリ)やYouTube(動画共有サービス)のようにシェアすることも簡単で、お手軽にどこでも全天球動画を楽しむことができるようになってくると思います。

 


「フィジカル」であることが、体験の意味を変える


全天球動画の体験自体はパソコンでもできます。ただ、それはあくまで画面と向き合っているものとしての「従来の映像体験の延長」です。

全天球動画の真価を発揮するのは、頭につけて使用するHMD(ヘッドマウントディスプレイ)の『Oculus Rift』や『ハコスコ』といったデバイスを使っての映像体験です。自分の頭を動かして「フィジカルに体験」することによって映像体験の意味が変わってきます。

普通の映像体験では一側面的にしか見えなかったものが、映像の「中に入る」ことによってそこに自分自身が存在し、前後左右や裏側を含め、映像が構造化して見えてきます。3D空間でキャラクター操作を行う箱庭ゲーム空間体験の習熟(空間内でのモノの配置を身体感覚に結びつけて考えられる)のように映像体験をすることができるんです。

実際にその場にいた人と同じくらいの、状況を理解させる力が、全天球動画にはあります。そして、一部始終を目の当たりにすることによって情報と主観的に向かい合うことができ、自分自身で物事を見比べて判断することができます。複数のニュースを眺めて物事を多角的に考察するのに似ていると思います。

『ハコスコ』はカジュアルHMDです。全天球動画による仮想現実空間を、手軽に体験できるVR(仮想現実)プラットフォームです。『ハコスコ』本体とお手持ちのスマートフォンで体験できます。「ハコスコでの映像体験はどんな感じだろう?」と思われた方は、YouTubeに体験動画を公開していますのでそちらもぜひ見てみてください。『ハコスコ』公式サイト(http://hacosco.com/)にも掲載されているこの体験動画は、コンセントのメンバーにも撮影協力してもらい作成しました。

⇒ ハコスコ体験動画
https://www.youtube.com/watch?v=sTrrc4TX3ww#t=12

 


全天球動画でできる体験


前述しましたが、全天球動画は視点を自分で決める=見ている人それぞれに視点が委ねられるため、「共通の体験になりにくい」という側面もあります。でもそれは「みんな違う体験ができる」とも言えます。

たとえば、ブルータルオーケストラ Vampillia(www.vampillia.com/)のライブのコンテンツをつくらせていただいたのですが、楽器をやっている人だったら自分の好きなパートの部分だけを見ることも可能です。ドラマーだったらドラムだけを、ギターリストならギターのパートだけをずっと見続けるというように。
撮影者の視点をたどるのではなく、どこを見るのかを見る人自身で視点をコントロールできるわけです。

Vampillia - Endress Summer @渋谷WWW いいにおいのする夏の無料の大感謝祭 【ハコスコアプリ収録】

また花火大会を撮影したコンテンツでは、フィジカルな体験を伴った気持ちのいい動画体験ができます。この花火大会は海沿いで行われたため、打ち上げ場所の横幅も広く、花火の動きを頭を動かして追わないと見れないくらい広い視野角の動画になりました。花火を追って見ることで、スケール感も感じながら花火大会を体験することができるんです。

ぎおん柏崎まつり 海の大花火大会 2014年7/26(土)新潟県柏崎市 中央海岸一帯 【ハコスコアプリ収録】

 


全天球動画と情報体験


「何はともあれモノは試しながらつくらねば」というスタンスで、全天球動画を初めて体験して以来、さまざまな場所で撮影をしてきた中で見えてきた体験の価値についてご紹介させていただきました。あらためてまとめると、

●全天球動画の体験価値
・同じ映像なのに毎回違うところを見るという楽しみ方ができる。
・「共通の体験になりにくい」を言い換えると「みんな違う体験ができる」。
・フィジカルを伴った気持ちのいい動画体験ができる。

の3つが実感していることです。

特に3つ目に挙げた「フィジカルを伴った気持ちのいい動画体験」は、ウェアラブルの文脈での情報体験を考える上で、非常に重要なポイントになってくるでしょう。

今後ますます、情報は世の中に溢れてきます。その大量の情報と出会うポイントがフィジカルな動作と合ってくると、腑に落ちるのではと考えています。たとえば目の動き、顔の動き、腕の動作などに合わせた自然な情報の出し方や在り方。そういうことを考えてつくっていくことが必要です。

***

9月に開催された世界最大級のマーケティングカンファレンス「ad:tech Tokyo 2014」やミュージックフェスティバル「THE BIG PARADE」でも、制作した全天球動画コンテンツのVR体験会を実施したり、『日経産業新聞』や『月刊MdN』に取材協力させていただいたりと、全天球動画への関心が高まりつつあることを日増しに実感しています。

今後も、いろいろな方とコラボレーションしながら、全天球動画の体験価値について探っていきます。

 

【渡邊徹プロフィール】
http://sustoco.concentinc.jp/from-editors/2012/01/toru-watanabe/

【関連リンク】
SR Laboratories
全天球動画を体験するきっかけとなったプロジェクト。SRというのはSubstitutional Reality の略で「代替現実」を意味し、理化学研究所の藤井直敬先生が開発されました。コンセントではこちらのWebサイト構築のお手伝いをさせていただきました。

ニュース|「ハコスコアプリ」に全天球動画コンテンツを提供(2014.10.23)

ニュース|日経産業新聞1面トップ「記者がトライ」に掲載(3Dプリンター体験記)(2013.06.05)

ニュース|日経産業新聞1面トップ「記者がトライ」に掲載(オキュラス・リフトの体験記)(2014.05.14)

ニュース|月刊『MdN』2014年9月号掲載(FRONTIERS 新しい視覚体験「視覚ガジェット最前線、前人未到のその先へ」)(2014.08.07)

日本経済新聞 電子版「ワープ!「時をかける少女」 代替現実にクラクラ 」(2014/5/18)

セミナー・イベント情報|「ad:tech Tokyo 2014」登壇のお知らせ

セミナー・イベント情報|新型ミュージックフェスティバル『THE BIG PARADE』にて、ハコスコ × コンセントによるバーチャルリアリティ体験会を開催

ブログ(サストコ)|3Dプリンターがコンセントにやってきた!

ブログ(サストコ)|スキャネクトってなんぞ!?(3Dプリンタ第二回)

2014.10.15

※本コラムは、2014年6月28日(土)に行われた公益社団法人 日本パブリックリレーションズ協会主催「第10回 PRプランナー交流会」での講演内容をもとに執筆したものです。

 


溢れる情報の中で


数年前、情報量の爆発的な増加ということを耳にしたことがあると思います。インターネットの普及により、人類が所有する情報量は、2000年~2003年のたった3年間で、過去30万年間に紡いできた情報量を超えてしまったと論じる研究者もいます。数字の信憑性はさておき、接触する情報量の増加は誰もが肌で感じていると思います。そして、このような状況は日常生活だけでなく、ビジネス上にも新たな課題を生んでいるのはないでしょうか。

近年、「コンテント(ツ)ストラテジー」という名前とともに、「大事なのは、コンテンツの価値」ということが盛んに言われるようになった背景には、こうした状況も関係しているのではないかと考えています。

本コラムでは、ビジネスにおいて情報発信者・受信者の間で起きている問題、「Content Strategy(コンテン“ト”ストラテジー)」と「Contents Strategy(コンテン“ツ”ストラテジー)」という言葉の違いとその意味、そして「コンテントストラテジスト」の役割を見極めてきたいと思います。

 


情報発信者と受信者間の悪循環と、言語処理技術の発展


いわゆる「まとめサイト」や検索機能、キュレーションサービスなど、求める情報に触れるまでのプロセスをできるだけ省いたサービスが増えつつあります。この背景には、情報を獲得するプロセスは、旅行の行程のようにワクワクするものではなく、Webの中では省くべき無駄なプロセス、負荷にすぎないとされていることがあると考えられます。これは、いかに価値ある情報をより多く獲得するかということよりも、自分にとって無駄な情報が入ってこないよう、また一度獲得した必要な情報をいつでも取り出せるように、「情報を選別・管理すること」の方に受信者は腐心していることを示しているのではないでしょうか。

一方、情報を発信する企業側が抱える課題の一つとして、バナーなどのWeb広告の集客力の低下が指摘されています。「想定していた集客ができてない/せっかくつくったWebサイトが見てもらえない」⇒「ユーザーのニーズを的確に捉えていないからだ」⇒「次は●●をテーマにしたコンテンツを発信してみよう!」⇒「やはり見てもらえない・・・」ということを繰り返し、結果として散乱するコンテンツ、管理できず放置されたWebサイトが乱立するといったケースが起きているようです。実際、コンセントにも「Webサイト内の情報が整理しきれず散乱している」「ドメイン配下にWebサイトが乱立」といったご相談をいただくことがあります。

この両者の関係は、『北風と太陽』の話を思い起こさせます。期待・想定していたものに見合わないコンテンツと出会うことで、それを排除しよう、避けようと情報受信者としてのユーザーの文脈はさらに狭まり、情報提供者側はそこに何とか入り込もうとして、検索でのランキングを上げたりバナー広告や頻繁なメール配信を行ったりと、発信する情報量をさらに増やしていく。これは情報の受発信における悪循環を生み出していると言えます。

また、Googleが2011年に行ったパンダアップデート※1 では、今なお急速に発達し続ける自然言語処理により、単なる誘導のためのページや、どこか別のWebサイトに掲載された内容のコピーで自動生成されたページなどは価値の低いものとされ、「ユーザーに独自の価値を提供できるWebサイト、ページ」こそが検索順位の上位に入る資格があるとされました。

このように、「コンテンツの価値」が注目され出した背景には、IT技術の進歩に伴い、情報獲得におけるユーザーの傾向、それに対応しようとする情報発信者のふるまい、価値があるとされるWebサイトの在り方といったものが変化していることがあると考えられます。

※1 パンダアップデート:
Googleが検索結果の質を高めるために行っている検索アルゴリズムのアップデートのこと。2011年(日本では2012年)より実施され、現在も1ヵ月に1回ほどの頻度で行われている。それ以降、実質的には内容のないアフィリエイトサイトや、wikipediaからのコピーだけ、あるいは特定のキーワードだけを狙ってキーワードが乱発したページなどは検索順位を下げられている。
似たものに、ペンギンアップデートというものがあり、一般的にはこちらの方が影響が大きく、検索結果から外されるというペナルティを伴うアップデートとされている。
参考 ⇒ https://support.google.com/webmasters/topic/6001981?hl=ja&ref_topic=3309300 の「品質に関するガイドライン」

 


「コンテンツの価値」とは何か?


こうした流れになると、「やはりコンテンツは量より質だ」というありきたりなことが言われがちですが、それは前述したパンダアップデートを待つまでもなく、誰もがわかっていたことです。例えば出版社などのコンテンツ供給をビジネスとする企業にとっては、コンテンツにとって質以上に重要なものはないでしょう。

しかしながら、とにかく質の高いコンテンツをつくらなければと、つくることが目的化してしまってはいないでしょうか?

コンテンツそれ自体が商品ではない情報発信者に必要なことは、自分たちの企業価値や商品価値、自社のスタッフを、正しく魅力的に知ってもらうためにコンテンツをつくるといった、「目的」からコンテンツを考えることです。パンダアップデートの背景にもこうした考えがあるように思えます。

つまり、コンテントストラテジーとは、「ビジネスに寄与するようコンテンツを戦略的に考える」ということです。

誰もが手軽に文字や画像、映像などでコンテンツをつくることができる今、自分の組織や商材の価値を忘れ、コンテンツをつくること自体が目的化することが頻繁に起こっています。「コンテントストラテジー」とは、アプリやCMSなど情報を発信するさまざまな誘惑のある状況下においても、本来のビジネス価値を忘れないようにするための一つの自戒的な解なのかもしれません。

 


Content Strategy(コンテン“ト”ストラテジー)とContents Strategy(コンテン“ツ”ストラテジー)


敢えてここまで「コンテン“ツ”ストラテジー」と言わずに「コンテン“ト”ストラテジー」と表記した理由もこうした背景があります。

日本ではこの二つの言葉は混同されて用いられていまが、可算名詞の“Contents”を使った「コンテンツストラテジー」とは、コンテンツを前提に、そしてコンテンツをゴールにしたコンテンツのつくり方を戦略的に行う手法と言えます。それはあくまで「制作プロセス」を意味するのであって、エディトリアルストラテジー (Editorial Strategy)と呼ぶべきものです。

一方の「コンテン“ト”ストラテジー (Content Strategy)」とは、コンテンツを戦略的につくることはもちろん、運用すること、管理すること、ざっくりと言ってしまえば「コンテンツを扱う」ということをいかに戦略的に行うかに主眼を置いた言葉です。そのため、「ビジネスに貢献するコンテンツ」という意味で用いる場合は、抽象化された非可算名詞である”Content”を使った「コンテン“ト”ストラテジー」と呼ぶべきです。

 


KPIとコンテンツの編集方針


Content StrategyやUXの文脈で頻繁に出てくる「ストーリーテリング」という言葉が少し前に流行りましたが、Contents/Contentの違いをこの観点からも説明してみます。

Contents Strategy=Editorial Strategyが構築するストーリーは、コンテンツ内のストーリーであり、コンテンツが訴求していることとユーザーとをつなぐ役割を果たします。一方、Content Strategyは、コンテンツを媒介にしてビジネス価値と人を結ぶストーリーを構築します。情報発信者である企業側からすれば、その時のコンテンツは決してゴールにあるのではなく、中間指標(KPI) 上にあります。

「コンテンツがビジネスにどれほど貢献できているか」というコンテントストラテジーの観点では、KPIこそがコンテンツの軸であり、編集方針に等しいものになります。したがって、コンテンツの編集方針とは、KPIを具体化したものになるはずです。KPIからコンテンツ編集方針、そしてコンテンツ企画へのゆがみのないプロセスがコンテントストラテジストこそが構築するコンテンツのストーリーです。

 


コンテントストラテジストの役割


こうした役割を担うコンテントストラテジストは、「翻訳者」に例えることができます。以前、ある本に「個人とはその人という言語体系」といったことが書かれており、なるほどと思いました。これは企業や集団にも言えそうです。コンテントストラテジストが翻訳する相手は、クライアント、クライアントがメッセージを届けたいユーザーや読者、クライアントのステークホルダー、社内のデザイナー、プロデューサー、IA、WEBディレクター、ディベロッパー、コーダーなどです。こうしたさまざまな人たちにコンテンツの価値と目的を伝え、上記の「KPI-編集方針-コンテンツ企画」を結ぶストーリーを彼らに理解してもらいつつ一緒に構築する存在となることが、コンテントストラテジストの役割なのだと思います。

 

執筆:千々和 淳(コンセント コンテントストラテジーチーム ディレクター)

 

【関連資料】
2014年6月28日(土)に、公益社団法人 日本パブリックリレーションズ協会主催「第10回 PRプランナー交流会」にて、コンテントストラテジーをテーマとしたワークショップを実施しました。その際の講演資料をSlideshare にアップしておりますので合わせてご参照ください。

 

【関連リンク】
「第10回 PRプランナー交流会」登壇のお知らせ