UX STRAT 2013 参加報告

コラム

2013.10.01

※本コラムは、長谷川のブログ「underconcept」からの転載です。

去る9月10日、11日の2日間、米ジョージア州アトランタにおいて、はじめてのUX戦略(ユーザーエクスペリエンス戦略)についてのカンファレンス、UX STRAT 2013が開催された。

このカンファレンスは、LinkedInのUX Strategy & Planingディスカッショングループでの議論が発端となり開催されたもので、同グループの発起人でもある米Retail UXのUXディレクターであるPaul Bryanが主催を務めている。

UX Strategy and Planning | LinkedIn
http://www.linkedin.com/groups/UX-Strategy-Planning-3735935

上記グループにて議論が盛り上がり、これをテーマに企画されたカンファレンがUX STRATとなる。

初回となる今回は、約200人の参加者が集まり、2日間に渡るシングルトラックのセッションと、その前日に午前と午後に分けられたいくつかのワークショップとで会は構成された。

以下、会のトピック的なセッションを紹介しながら、問題意識と今後の展望を述べる。

 

■ 基調講演:Nathan Shedroff

米California College of the Arts(CCA)にて、MBA in Design Strategy(通称Design MBA)を立ち上げ、教鞭をとっているNathan Shedroffによるキーノート。「戦略(Strategy)」を「一連の意志決定の中での(選択された)ある形(a pattern in stream of decisions)」、と定義づけた後、従来のユーザビリティなどを戦術(Tactics)ととらえると、体験(Experience)が戦略に該当す ると説明した。また、体験が価値を生み出しているという現在において、製品・サービス開発(Product & Service Development)が企業戦略(Corporate Strategy)に影響を及ぼすようになってきているという構図を携帯電話ビジネスなので状況を例に取り上げながら示した。

 

■ The Marriage of Corporate & UX Strategy:Leah Buley

米IntuiteのUX StrategistのLeah Buleyによる、企業戦略とUX戦略との融合についてのケース事例。Intuiteの事例をもとに、企業戦略にUX戦略が融合されるまでのステップとし て、1)ビジネスユニットとUX部隊が共存する段階、2)コアプロダクト自体をUX観点によって再定義する段階、と2段階に規定した。ここでは、UX戦略 (顧客への価値提供戦略)と企業戦略(事業を成立させるための戦略)との2つの戦略とがどういった形を持って企業内で関係を持っていくか、という課題意識 をもとに話がなされている。これらの2つの「戦略」がそれぞれどういった特色を持っているか、その融合のために社内で行うべき活動などを紹介していった。

 

■ Lean UX + UX STRAT:Josh Seiden

「Lean UX」という概念の提唱者である、Josh Seidenによる、Lean UXとUX Strategyとの関係性を述べたセッション。Lean UXについての概要を述べながらも、組織が全体としてこのLean UXチーム(small team)をどのように運営していくべきかについての全体像を示した。また、彼のプレゼンテーションに対し、Lean UXがUX戦略であるというような意見が書かれ、それに対してJosh自身が、Lean UXはUX戦略にそって実行されるものであり、UX戦略ではない、という返事がなされていた。

 

■ Connected UX:Aaron Walter

UX戦略を組織の中で実現していくために、いかに顧客の情報を共有して、知識にしていくかという課題に取り組んだRocket Science Group社の製品MailChimpにおける事例の紹介。面白いのは、Nathanがかつて提示した、

Data > Information > Knowledge > Wisdom

という、情報価値のレイヤーモデルを提示しながら、概念を示していた点。このカンファレンスの参加者はバックグラウンドとしてインフォメーションアーキテクトである人も多く、そういった意味で、自分たちの持っているデザインスキルを自社の組織デザインにも適用している好例といえよう。

さて、内容としては、Evernoteを顧客データベースとして、顧客からのフィードバック、調査内容や分析内容などを統合し、個客像を作り上げていくというユニークなアプローチの紹介であった。なかでもタグペルソナ(Tag Persona)という、Evernoteのタグ機能を使った、個客像の表現は面白い手法であったために、個人的にも応用してみようと思っている。また、 彼らは、「メールはAPIである(Email is the API)」という考え方で、積極的にメールをインターフェイスとして使った業務フローを構築していた。多くの人が使えている手段として、そしてメールそのものの管理しにくさを考慮に入れた、たいへん正しいアプローチであるといえる。

と、彼らの話は、UX戦略というよりは、その実現のための手法の側面も強かったが、組織が膨大な顧客データを使いながら、顧客志向の組織を目指していくという意味ではUX戦略ともいえるだろう。

最後に彼らの原則を紹介する:

・簡単に入力、簡単に利用(Easy in, Easy out)
・みんなのためのデータ、みんなのデータ(Data for everone, Everyone’s data)

 

■ Using Big Data and Personalization to Drive UX Strategy:Rob Houser

こちらも、タイトル通り戦略というよりも施行事例。ここでは、データを元にいかにUX戦略を実現していったかを紹介していた。ソフトウェアを手がける米sage社において、いかに操作インストラクションを提示するかについて、彼らが掲げたUX戦略は、

1.製品自体をきちんとデザインする
2.ユーザーニーズに沿った手助けを行う
3.製品自体の中で手助けをする(外部マニュアルに頼らない)
4.ユーザーに適応(adapt)させる

といったもので、この戦略に基づきながら、sage Advisorという機能としてユーザー支援を実現していった。アプローチとしては、まずユーザーアシスタント機能を埋め込むところから始まり、その結果 としての行動のトラッキング、そしてメッセージの吟味、そしてガイド原則を定義するといった流れ。かなり具体的な戦略を提議し、それを実現していっている という意味で興味深いものであった。

 

■ Assessing Organizational Context and Capability for UX Strategy:Phillip Hunter

それぞれの組織において、その組織の文脈をふまえながら、どういった能力が必要であるかをいかに評価するかという考えを紹介したセッション。さまざ まなスキルに対して、現状・あるべき状態・優先順位をプロットしていき、必要であるが不足している箇所についてはそれを補うアクションをとっていく、とい う手順を示した。いわれてみればその通り、というものではあるのだが、なかなか組織内でこういった棚卸しを行っていくような活動はとられていないと思うの で、そういった意味で1つのフレームワークとして有効であろう。

 

■ 所感

全体を通じて、いくつかのセッションを紹介してみた。

初日キーノートを終えた直後に率直に感じた感想は、「企業戦略にいかにUXデザインを統合していくか(UX Design for Business Strategy)」という課題意識と、「UXデザインにおける戦略性(Strategy for UX Design)」との2つの観点が混在しているということであった。

この点については、主催のPaulにそのまま質問を投げかけてみた。彼の返事は、「まさにそういった議論を行うためのカンファレンスなんだよ」というものであった。彼のビジョンとしては、UXデザインを企業戦略/事業戦略に融合させるというもので、UX STRATはそのためのカンファレンスということであった。実際、会期中は至る所でこういった議論がなされ、#UXSTRATというハッシュタグの元でも盛んに議論がなされていた。

また、「誰がUX戦略のオーナーか」と名付けられたパネルディスカッションの中でも、プロジェクトの推進者、プロジェクトの責任者、製品オーナーとさまざまな意見が出されていた。

思うに、いま、UXデザインという分野は、従来の製品デザインの範疇を超えて事業自体にまで影響を及ぼそうとしている。こういった時代背景のもとで、組織やUXチームの成熟度に応じて、その統合の度合いや適切な方法というものが変わってきうる。この部分がこのUX STRATが課題にしているものであり、唯一共通の観点であったといえそうである。

今回のUX STRATでは、この点を全体で確認できたことは大きな成果であると言える。日本においては、UXデザイン自体がまだUIデザインの延長として語られており、そういう意味では、UXという言葉よりもデザイン思考のほうが日本のマーケットには親和性が高いのかもしれない(どちらも同じことを言っているわけだ が)。

また、UXデザイン/デザイン思考をいかにマネジメントに取り入れるかという意味では、サービスデザインとも概念は近い。UX STRATではサービスデザインについての言及はなかったが、事業戦略にUXデザインを適切に取り入れた状態をサービスデザインと呼べるとすれば、UX戦略とは、企業がサービスデザイン体質に生まれ変わるための戦略と言い換えることもできるのかもしれない。

日本においても、日本ならではのUXデザインと企業戦略との統合について議論を行ってきたい。

 

Postscript: Facebook上のUX Strategyグループでのその後の議論

[Kazumichi Sakata] 結果として対顧客へのソリューションを展開するために、社内の Maturity レベルの向上に踏み切った話はなかったのですね。

SD との親和性や関係性を模索する上でも重要な観点だと思っていました。現状の組織体や人員ありきの戦略とするか、それを踏まえた SD 的な UX 戦略とするかの違いでしかありませんが。それはコーポレート戦略として位置づけられてるのでしょうか。

[長谷川 敦士] そこはなかったなあ。そういう意味では参加者がやはりUX部門の人であり、そこから見た企業戦略という、ある意味もともと企業戦略をやっていた人ではない感は強く感じた。マーケも企業戦略グループ(マネジメント)も外部とみなしている。

[長谷川 敦士] うむ、坂田くんのいう後者についての言及はなかったね。そこは企業戦略として任せちゃっているんだと思う。その考えこそサイロだと思うんだけどね。

[Kazumichi Sakata] サービスデザインの議論になったときにサービスプロバイダーなきにカスタマージャーニー留まりになってしまうことも納得いきます。

 

【関連リンク】

UX STRAT