ラボ

2015.10.19

2015年10月22日にビー・エヌ・エヌ新社より『これからのマーケティングに役立つ、サービス・デザイン入門 – 商品開発・サービスに革新を巻き起こす、顧客目線のビジネス戦略』が刊行されます。

サービスデザインは、企業が顧客に対しあらゆるタッチポイントでより快適なカスタマーエクスペリエンスを提供するために、顧客の視点からビジネスをリフレーミングする取り組みです。

この書籍では、ツールやメソッドを詳細に紹介しているわけではありませんが、顧客が製品やサービスについて何を価値と考えているかを知るための有用な方法が扱われており、これからのマーケティングに役立つヒントが見つかる一冊です。

日本語版の監修はコンセント代表取締役/インフォメーションアーキテクトでService Design Global Network Japan Chapterのボードメンバーでもある長谷川敦士が務めており、またコンセントの取締役/サービスデザイナーの大崎優が解説文「日本のサービスデザインの現場」を寄せています。

《書籍情報

■ 書名:『これからのマーケティングに役立つ、サービス・デザイン入門
- 商品開発・サービスに革新を巻き起こす、顧客目線のビジネス戦略』

■ 著者:J.Margus Klaar
■ 翻訳:郷司 陽子
■ 監修:長谷川敦士

■ 版型:単行本(ソフトカバー): 120ページ
■ 出版社: ビー・エヌ・エヌ新社 (2015/10/22)
■ 言語: 日本語
■ ISBN-10: 4861009979
■ ISBN-13: 978-4861009976
■ 発売日: 2015/10/22
■ 価格:1,600円+税

出版元BNN新社のオフィシャルページ

『これからのマーケティングに役立つ、サービス・デザイン入門 – 商品開発・サービスに革新を巻き起こす、顧客目線のビジネス戦略』のご購入(Amazonのサイトへリンクします)

2015.08.13

執筆:中垣美香、石井真奈、中筋ひかる、関根彩矢

IAをとりまく現状、未来でのテクノロジーとの関わり方、複雑化するユーザー環境、ビジネスにおけるデジタルコミュニケーションの重要性の向上、シェアードエコノミーや集合知などのあたらしい価値観の台頭……IAを取り巻く多岐にわたるトピックに対して、私たちは今後どう関わっていけばいいのでしょうか。こういった課題を考える場として、IAの合宿と銘打った「IA CAMP 2015」が、7月17日(金)にパレスサイドビル マイナビルームで開催されました。

ソシオメディア、コンセント、マイナビの3社による共同開催となった「IA CAMP 2015」。プログラムは日中の第1部、第2部、夜間の第3部に分かれ、9:00から21:15まで丸1日かけて行われました。登壇者と参加者はセミナールームに集い、IAにまつわるさまざまなセッションを受けるというスタイル。コンセントの長谷川をはじめとする日本のIA業界のスピーカーに加え、今回はIA界の「開拓者」たちも海をわたって登壇してくださいました。“シロクマ本”を著したPeter Morville氏をはじめ、Dan Klyn氏、Jason Hobbs氏の議論は、日本の、特にWebの文脈で語られるIAとは異なる視点に立脚したもので、IAを客観的に捉え直すきっかけとなる素晴らしいセッションでした。

以下、コンセントから参加したディレクターの中垣、デザイナーの石井、ディレクターの中筋、デザイナーの関根の4名が、各セッションについてレポートします。

 


■日本のIA、弱いIA/長谷川敦士(株式会社コンセント 代表取締役/インフォメーションアーキテクト)


 

オープニングキーノートにあたるコンセントの長谷川のセッションは「日本のIA、弱いIA」というテーマで、日本のデザインの特性と情報社会全体で求められている「弱いIA」の可能性についての講演でした。

さまざまな事例を紹介しながら、日本のデザインには
・情報量が多くなりがち(受け手が多すぎる情報も処理できてしまうという側面、「情報量の多さ=選択肢の多さ」としてポジティブに捉える側面がある)
・検証と改善を重ねた細かい配慮が得意
・一貫性をつくるのが苦手
・共感を生む仕組みづくりが得意(「設計者=利用者」であることが多い、文脈性の共有度が高い)
などといった特性があると言及していました。

そして、そういったデザインを生み出す背景には、トップダウンの戦略型ではなく、ボトムアップの現場最適型という日本の組織文化があるということが述べられていました。もともと日本人が狩猟型ではなく農耕型の民族であったこと、島国という大きな集合体の中で日本語(漢字、ひらがな、カタカナ)という単一言語を用いてきたこと、といった歴史的要因が、現場のオペレーションでの検証改善・最適化を図っていくことを得意とする、日本の組織文化を築き上げてきたのではないかとのことでした。

本セッションのテーマにある「弱いIA」とは、今年2月開催のWorld IA Day 2015 Japanで紹介された「弱いロボット」にインスピレーションを得た概念(※1)で、自律的に人間の行動を代替し目的を完遂する(=強いIA)のではなく、人間に依存し、人間の共感性にアプローチすることで目的完遂までの意思決定をサポートするというアーキテクチャです。切り出されたシステムの一部を自己完遂するのが「強いIA」であるとすれば、「弱いIA」とは、対象との交流を通じて文脈を参照し、対象を取り巻くシステムを構築しながら、対象そのものが目的を達成することを促します。

※1 World IA Day 2015 Japanのなかで紹介された「弱いロボット」については、World IA Day 2015 Japanのレポートをご参照ください。(⇒ http://www.concentinc.jp/labs/2015/05/world-ia-day-2015-japan/

セッションの中で紹介があったAirbnbの「従業員経験モデル」のように、「共感を生む仕組みづくり」は、今後その重要性がますます高まることが予想されます。私も、日本人としての文化特性を活かしつつ、専門家として、特定の文脈によらず利用者の共感を引き出す構造とUIによって利用者の意思決定を促す「弱いIA」の可能性を広げていきたいと思います。[執筆:中垣]

 


■The Architecture of Understanding/Peter Morville 氏


 

オープニングキーノートの2つ目のセッションは、“シロクマ本”の著者としても著名なPeter Morville氏による講演でした。本セッションは、「情報を体系化することで世界をより良い場所にできるのか?」「“すべてが深く錯綜している(※2)”社会をどう理解し、何を担っていくのか?」といった課題に対し、彼の最新刊である『Intertwingled: 錯綜する世界/情報がすべてを変える』を紐解きながら、Nature/Category/Link/Culture/Limitsという5つのキーワードを切り口に議論を展開していました。ここでは、その5つのキーワードのそれぞれの要点をご紹介します。

※2 Theodor H. Nelson(1974)Dream Machines

・Nature(自然)
多くの有機体がつながり、急速な変化を遂げる情報化社会の実態を理解するための手掛かりとして、自分たちのいる組織を1つの生態系と見なし、あらゆる生態系は相互性をもつという「システム思考」が重要。また、複雑さや変化のスピードに応じる方法論としてのアジャイルやリーンについて、その価値は理解しつつも、「計画」というステップをないがしろにしてしまう落とし穴がある。「Playing Practice」の精神で失敗を通じた経験学習も大事である一方、取り返しのつかない失敗をしては元も子もないので、より実りある実践をするための情報取集、計画が必要。

・Category(カテゴリー)
複雑さの理解の手掛かりとしてのカテゴリー(分類)は、悪いことではないが危険なことでもあるため、そのリスクに気づくことが重要。カテゴリーは認知と文化が土台になっていて、実際のところ、それぞれの境界線は「見たらわかる」程度にぼやけていることがほとんど。例えば宗教や信条など、平面的なx軸とy軸による位置づけだけではその本質をほとんど理解できないように、位置や場所ではなく、ベクトルや方向性に目を向けた分類が大切。

・Link(つながり)
デジタル/リアルの境界を越えて、時間的/空間的な「つながり」が複雑さを増している今、コンテキストへのより深いレベルでの理解が重要になってきている。ハイパーテキストは「つながり」を考える上での出発点にはなるものの、より次元を高め意識を拡張し、時間と空間の見えない「つながり」を見つけ出して使いこなすことが重要。言い換えると、その「つながり」を前向きな変化を起こす「てこ」にしていく、ということ。

・Culture(文化)
前述したコンテキストの理解にあたっては、顧客文化の理解のための手法論や実践現場はある程度成熟してきているが、顧客文化の理解と同様に、企業文化への理解も重要。企業と顧客の双方の文化に対応できる適合性を見出すことこそが、正しいデザインであると言える。また、文化という目に見えないものを理解するには、Artifacts(人工物)、Espoused Values(価値観)、Underlying Association(基本的仮定)という3段階の文化レベルで捉えること、Culture Mapという手法で可視化することなどが手掛かりとなる。

・Limits(限界)
私たちの視点と視野には限界があり、すべての情報・事実を取り込むことはできない。複雑さとともに暮らす私たちは、情報や事実を「無視」することが得意である。つまり、大量の正確な情報ではなく、人々の行動により良い変化をもたらす情報と、それが流れるシステムについて考えていくことが大切。変化の鍵になるものとして、Keystone Habit(習慣を成り立たせているもの)による波及効果、またストーリーとして語られる情報などが、今後より重要になる。

最後にまとめとして、Peter Morville氏は、情報アーキテクチャに携わる私たちには全体を見渡す望遠鏡、ディティールに気づく顕微鏡、そしてものの見方を変える万華鏡という、3つのレンズが必要であると述べていました。

私たちの暮らす世界、理解しようとしているシステムは途方もなく複雑です。複雑にもつれたシステムを紐解いていくこと、そして単にソフトウェアやWebサイト、エクスペリエンスをデザインすることに留まらず、システムの中でより良い変化をもたらすことこそが、錯綜する世界の中で私たちが担うべき役割なのだと、氏の講演をお聞きして感じました。[執筆:中垣]

 


■You’re Screwing Up The World: Profound Opposite Truths In Architecture/Dan Klyn 氏


 

情報アーキテクチャ分野で18年の実践経験があり、The Understanding Group (TUG) の共同創設者であるDan Klyn氏による講演。
(なお、講演内容は、事前に告知していた内容から、本原稿で後述する当日の盈進学園東野高等学校の見学に合わせた内容に急遽変更になっています。)

講演では、パターン・ランゲージ(※3)を提唱したクリストファー・アレグザンダーを中心とする建築家たちの思想をもとに、建築物における空間秩序の構築プロセスが紹介されていました。
建築家は、大前提として機能的なものを作らなければなりませんが、一方で装飾(美的理性)も作りたいという欲にも駆られます。ただ、自分自身の頭の中に「絵」として浮かび上がっていないと、2つの理性を統一するのは難しい。機能を優先させてしまうと、世界は自動販売機のような、機能を全面に押し出したものになってしまう。そのような状態を回避するために、建築物を作る上では「空間秩序」(もしくは「宇宙的な秩序」)を機能以前の問題として設計しなければならないと言及していました。

※3 「パターン・ランゲージ」とは、クリストファー・アレグザンダーが提唱した建築・都市計画にかかわる理論です。建物やコミュニティを形成するための手法としてパターン・ランゲージは用いられます。

上記で述べたような「空間秩序」を構築するための手法のひとつとしてパターン・ランゲージがあり、構築例として、アレグザンダーがデザインした埼玉入間市にある盈進学園東野高等学校が紹介されました。この高校の建築プロセスは大きく以下の8つに分かれています。

1. 教員をはじめとするステークホルダー82名に「夢や希望」をインタビュー
2. 知的言語(パターン・ランゲージ)での感情表現をラフなスケッチでまとめ、一貫性を与える
→言葉だけで表現するのは十分ではない。身体から出てくる言葉に「かたち」を与えねばならない
3. 統一感をもたせるために、物理世界に旗を立て絵から現実に置き換える
4. 議論を通してランゲージを洗練する
5. 82名のステークホルダーにパターン・ランゲージの確認・承認を得る
6. 予算の範囲内で、現場とお金のバランスを見ながらパターン・ランゲージを再調整する
7. 中心になる2つの「システム」を探し、統一する
1) パワフルな言語のパターンの中心
2) 現場のなかの最も意味のある中心
8. パターンの中心(構造で最もおもしろい部分)になるランゲージをスケッチで起こす
→具体的なモデル図(図面)ではなく、あくまで要素(マテリアル)であることが大事

上記のプロセスの中で個人的に興味深かったのは、空間秩序の構築のために、構想(絵)を実地にて検証する(現実に置き換える)ということ。まさに空間のプロトタイピングと言えます。
IAはデジタル世界での情報構築に馴染みがありますが、特に業務におけるIAではどうしてもそこに閉じてしまいがちになります。実世界の秩序を構築する東野高等学校のプロセスを垣間見られたことは、参加者の方々にとってもIAの概念を拡張するきっかけになる良い機会だったのではないでしょうか。[執筆:石井]

 


■タイトル未定/佐藤伸哉 氏(株式会社シークレットラボ 代表取締役・AKQA)


 

「タイトル未定」と銘打った佐藤氏による、「IoT時代におけるIAの思考と役割について」の講演でした。
氏はIAの理解のためにはUXの理解が不可欠であると述べ、講演は、UXと定義されるものが何であるか、また、UXを設計するにあたりどのような手法が世の中で取り入れられているかの紹介から始まりました。UXを理解するためには、ビジネス目的と顧客ニーズの観点から物事を捉えられるようにすること。そのためには、いろいろなフィールド・ドメインをバランス良くつないでデザインできるカバー領域の広さと広くもとうとする思考が大切だそうです。

佐藤氏は、IAの業務スコープは、「ワイヤーフレームを書く」といった表面上の情報設計作業ではないとしています。氏によれば、ユーザージャーニーマップやHCDメソッド、ワークショップやプロトタイピングなど、UXをデザインするうえで必要なプロセスや得られたインサイトなどを成果物として可視化することがIAの作業になります。もちろん、作業の中には「ワイヤーフレームを書く」ことも含まれるが、それはUXを設計するための「手段」であり、書くことを「目的」にしてはいけない。IAは「ユーザー体験のシステムを構築すること」であり、インフォメーションアーキテクト は「UXを機能させるための設計・構築に携わるデザイナー」を指すとのことでした。

IAがもつべき思考と役割が明らかになったところで、「IoTにおけるIAの役割が何か」という本題が始まりました。今後IAの業務を拡張するのは、オンデマンドだったWebやモバイルに代わり、常にネットワークに繋がっているIoTだと氏は考えているそうです。IoTは既存のプロダクトとは違い、ユーザーからプロダクトに働きかけるインタラクションではなく、プロダクト側からユーザーに働きかけるインタラクションを発生させます。つまり、「プロダクトのストラテジーや企画」も含めた設計(「生み出すこと」と「そのプロダクトにまつわる、今は存在しないUXのシステム構築」)も、今後のIAに求められるスキルとして考えていかなければならないとのことでした。

佐藤氏の講演から、IAの業務範囲は現在だけでも非常に多岐にわたることがうかがい知れます。今後も、IoTをはじめとする技術の進歩とともにユーザーの生活が変化することで、その業務範囲は拡張し続けることでしょう。

締めくくりの「What is your title?(あなたのタイトルは何?)」という問いが総括する、今一度自分は何者であるか、何者になっていきたいかを考えさせてくれる講演でした。[執筆:石井]

 


■シロクマ本に学ぶエクスペリエンスのための手技法/篠原稔和 氏(ソシオメディア株式会社)


 

こちらはIAに携わる人なら一度は目にしたり耳にしたことのある『Information Architecture for the World Wide Web』(オライリー・刊)、通称“シロクマ本”に関するセッションでした。日本語版は第2版までしか出ていませんが、英語版では第4版(『Information Architecture for the Web and Beyond』)の刊行が予定されています。そこでこのセッションでは、今、改めて “シロクマ本”を読み解いていくために、各版でどのような変更点があり、それらにどのような意味があるのかについて、これまでの日本語版の監訳者である篠原氏が解説してくださいました。

時代の変化などを受けて何度か改訂が行われている部分もあるものの、一方では変わらずに掲載されているものもあります。例えば、

1. 情報アーキテクチャの基本原則(組織化、ラベリング、ナビゲーション、検索、メタデータ)
2. 「調査→戦略→設計と文書化」のプロセス

です。これらは“シロクマ本”におけるIAの基盤となっています。

また、篠原氏は今後インフォメーションアーキテクトが身につけていくべき手法として以下を挙げています。
・トップダウン/ボトムアップ:組織の中の情報を引き出すアプローチ
・シソーラス、制限語彙、メタデータ:情報をデータとしてシステム化していくアプローチ
・各種ユーザー調査:ユーザー理解の前提となるアプローチ

著者の一人であるPeter Moville氏を迎えた今回のIA CAMPだからこそ、参加者が一堂に会して改めて本書の内容を反芻し各々の血肉としていくことに、より強い意味があったのだと思いました。[執筆:中筋]

 


■顧客から引き出す技術 -インタビューとグラフィックファシリテーションの共通点/三澤直加 氏(株式会社グラグリッド)


 

このセッションでは、役割を超えて人と人とが交わり考えるために、インフォメーションアーキテクトに必要なことを、三澤氏が実際に関わった事例から紐解き解説してくださるセッションでした。
ここで最も重要とされていたのは以下の2つです。

1. 相手の立場になって聞く
インタビューをプロジェクトに取り入れるときは、事前にインタビューの目的を明らかにし、話を聞きたい人の属性の設定や聞くポイント、流れを整理することで、段取り良く進めることができる。また、スムーズな進行のためだけでなく、インタビューの中で本音を探るためには、フラットな関係性の中で耳を澄ませることや、共同体験を通して考え方を探ること、発言の背景(コンテキスト/価値観)を常に意識することなどが重要なファクターとなってくる。

2. 考えを可視化する
考える土台をつくるために必要なアクションである。可視化することでイメージがわき、概念を共有できる、などの効果が期待できる。当事者が共通認識をもち、より発展的な議論、活動の活発化へ繋げることも可能。考えを可視化する場において、ファシリテーターの思考はまさにIAを行っている状態にあり、個々の考えなどをしっかり聞き、内容を把握しながら構造化している。

この講演から、IAは特定の役割の人だけが担うものではなく、上記を意識しながら、その周囲にいる異なる役割の人々とともに実践していくものであると再確認することができました。[執筆:中筋]

 


■デザインの裏のデザインの裏のデザイン/Jason Hobbs 氏


 

情報アーキテクチャと人間中心設計にフォーカスしながらデザインを実践してきた、Jason Hobbs氏による講演。IAを視覚的に表現するためのビジュアル言語と、そのアウトプットの形に関する内容でした。

Hobbs氏の言うIAには2つの考え方が含有されています。1つは「人類学的空間」。これは深さや高さを超えた「スペース」という概念であり、インフォメーションアーキテクトが1つの境界を超えて新たな意味を構築していることに対するメタファーでもあります。もう1つは「ハビトゥス」であり、これは社会学者のピエール・ブルデューが提唱した、人々の日常的な経験の中で蓄積されて生み出される無自覚的な知覚、思考、行為のことです。
デザインにはハビトゥスの情報アーキテクチャが隠れていると、講演では言及されていました。

現在、IA的アプローチは専門分野だけではなく、ビジネス一般の世界にも広がっており、コミュニティの中でたくさんの人々が定説としてきたIAの枠組みの外側で、新たにIAを構築する動きが出ているとのことです。それに伴いプロセスやアウトプットの形も多様化していることを受け、私たちも柔軟にIAを捉え実践していく必要があると感じました。[執筆:中筋]

 


■第3部「IA CAMP振り返り~学びのまとめと深堀り」


 

第1部、2部での講義型スタイルとはうって変わって、第3部の会場はリラックスした雰囲気。軽食が出され、登壇者のトークを背景に、お酒を飲みつつゲスト同士が楽しく交流していました。

篠原氏の「IA CAMPの振り返りとまとめ」に続いて行われた、全登壇者によるパネルディスカッションでは、東野高校の話で盛り上がりました。Klyn氏のセッションにもあったように、この高校はクリストファー・アレグザンダーのパターン・ランゲージの手法による建築物。実はIA CAMP当日の午後、講演を終えたPeter Morville氏やDan Klyn氏、佐藤氏の一行は実際にこの高校を訪問していたのです。彼らは、30年前にアレグザンダーがデザインした建築物が今もこうして残り、そこで生徒たちが学んでいるという事実に感銘を受けたそうです。ちなみに、Morville氏のお気に入りが「橋」。理由は「IAの役割も、まさに“橋渡し”のようなものだと思うから」だそうです。「私たちIAは、ユーザーをコンテンツやサービスにつなげる仕事を生業としていますよね」。彼の言葉に会場からは拍手が起こっていました。


(Peter Morville氏がお気に入りだとお話しされていた、東野高校にある太鼓橋。
撮影:ソシオメディア高橋真理氏。)

 

最後に、長谷川が「これからの社会の中でIAが担っていく役割はどのようなものだと思いますか?」とKlyn氏とMorville氏に質問を投げかけました。

Klyn氏「責任の問題はきちんと議論しなければいけないですね。建築物に関する最古の法規が記されている『ハンムラビ法典』には、自分が建てた建築物が倒壊してその住人の子供が死んでしまった場合、建築家の子供も殺されなければならない、という法がありますが、私は正直そこまでしたくない(笑)。ただし、もしIAが自分の仕事の価値を世の中の人に認めて欲しいなら、説明責任を負わなければなりません。IAというのは、世の中に非常に大きな影響を及ぼします。私たちIAには構造を変化させ、人々の行動や習慣などを変えることができる力があります。ですから、みなさんもIAの仕事をする際、自分たちが人々の生活する“場所”をつくっているということと、彼らにとって“good”なものをつくるのだという意識を強くもちましょう。そのために善悪の判断基準をもち、“真実”について知らなければいけません。正直、私自身も“真実”というトピックに向き合うのは難しいですが、自分の問題としても、今後避けて通れないと思います」

Morville氏「今日はさまざまな観点 ― 弱いIAから、UXのコンテキストにおけるIA、伝統的な建築物に絡めたIAなど― からIAを見ていきました。アメリカでは、IAに1つの定義がないことに不満を覚える人が多いですが、日本は柔軟に多くの意見を受け入れてくれる土壌があるように思います。そして私は、IAが多義的であることにむしろ可能性を感じます。ですから、こうしてIAを巡るさまざまなメソッドや定義があることがとても嬉しいです。これからも、多くの方にさまざまなアプローチをしていただけたらと思います」

 

大盛況のうちに終わったIA CAMP 2015。
クロージングとして、長谷川が「IAを取り巻く状況がこれだけ多様化している中で、IAはいわゆる専門家だけのものではなくなっています。IAについて考える人々が増えることはとても重要です。肩書きや業種にとらわれず、さまざまな視点からIAについて考えていただきたい」と言っていたのが印象的でした。

セッションからいただいたアイデアをもとに、デザイナーである私も自分なりのIAへのアプローチを模索してみたいと思います。[執筆:関根]

 


【執筆者プロフィール】
中垣美香|サストコ
石井真奈|サストコ
中筋ひかる|サストコ
関根彩矢|サストコ

 

【関連リンク】
セミナー・イベント情報|「IA CAMP 2015 – The Future of Information Architects – IoT時代におけるIAの思考と役割」開催のお知らせ

2015.08.10

執筆:佐野 実生(デザイナー)

はじめまして。デザイナーの佐野です。
7月7日(火)に開催した「UX STRAT & UX Strategies Summit Redux」の内容をご報告します。

この「UX STRAT & UX Strategies Summit Redux」は、今年6月4、5日にアムステルダムで開催されたUX STRATと、6月9〜11日にサンフランシスコで開催されたUX Strategies SummitというUX戦略に関する2つのカンファレンスの報告会です。
ほぼ同時期に開催されたUX戦略という同じテーマのカンファレンスが、それぞれどのようなものだったのか、実際に参加された方からカンファレンスの報告があり、当日会場に集まった本Reduxの参加者のみなさんとの意見交換が活発に行われました。

この日の登壇者はインフォバーンの井登友一氏、ヤフーの深澤大気氏、コンセントの長谷川の3人でした。井登氏と長谷川がUX STRATについて、ヤフーの深澤氏がUX Strategies Summitについて報告してくださいました。

 


UX STRAT


 

UX STRATは2年前に米国アトランタで初めて開催されたUX戦略の国際会議です。今回は6月4、5日にアムステルダムで開催されました。今年アトランタで予定されている第3回大会とは別のスピンオフカンファレンスで、初の欧州開催だったそうです。
もともとこの国際会議がスタートした背景には、UXに関わる人を取り巻く環境が多岐にわたり、未確定な分野でもあるため、全員で同じ文脈をディスカッションするという意図があるとのこと。

 

■井登氏からの報告

井登氏からは、UX STRATで特に印象的だったという以下の3つのトピックについてご紹介いただきました。

1. 多様性への適応と組織論としてのUX戦略
2. データ指向
3. UXとCXの意識的な区分

1. 多様性への適応と組織論としてのUX戦略
「欧州」と言えど、各国ごとの多様な文化を背景に、価値観の違うステークホルダーが多く存在している。その中でサービスを提供していく企業にとってUXは共通認識であり、UXを運営推進していくことと組織論はセットであるべきだ、というお話でした。

2. データ指向
UXには文化の多様性に左右されない共通指標が必要であり、価値観に左右されない数字としてのデータはその指針となる。この考え方から、「UXはデジタルである」という概念に基づくセッションが多く見られたといいます。

3. UXとCXの意識的な区分
井登氏は、年を経るごとにUX戦略という言葉がもつ意味が進化、そして深化していると感じていらっしゃるそうです。
2013年:「Business × Design」
2014年:「Integration & Execution」
2015年:「Make the Values」
これらのキーワードからもわかる通り、初開催時からUXはビジネスと直結しているという点は一貫しています。その中で、特に欧州では「UX」と「CX」という言葉を使い分けていると感じると、氏はおっしゃっていました。ここで言う「CX」は、ひと昔前の「ブランディング」の概念と似ているのではないか?とも。
また、デジタル化の加速が取り巻く変化も重要なポイントとの指摘もありました。
デジタルでの体験とユーザー体験は密接な関係にあり、デジタルが製品体験を変える原動力になると考えられます。そういった意味でも、「UXはデジタルである」と言えるのかもしれない、とおっしゃっていました。

 

■長谷川からの報告

今回のUX STRATは、製造業のデジタル部門からの参加が目立ったとのことでした。Web分野の人材が製造業へ異動するケースが多く、 BMW、フォルクスワーゲン、フィリップスなど、製造業のデジタルシフトに関心をもつ人の参加が多かったそうです。
また、コンサルタントの参加者も多く、年齢層は40〜50代と高めだったそうです。UX戦略において企業組織内で全体を見る視点の共有が必要とされていると考えることができるとのこと。

2年前のUX STRATでは、そもそも「UX」という概念への共通認識がまちまちだったといいます。それが最近では、基本的には企業戦略の中にUXデザインの機能が盛り込まれるべきであり、そのために人材、環境を含めどのような視点が必要か?という議論に集約されてきたとのこと。
さらに今年は、欧州各国の認識が揃ってきていると感じたそうです。しかし、欧州では各国のUXデザインの動きの規模自体は小さいため、議論が最も進んでいるのはアメリカだと思われるとのことでした。

またCXとUXについて、今回のカンファレンスでは「CX:企業が提供する全顧客体験」「UX:その内のデジタル」という定義がなされた。長谷川は、この2つを区別しようと思ったことがなかったので、この概念には驚いたとのこと。 ただ、企業から見た相手のエクスペリエンスという観点ではどちらも同じであると考えられるため、この区別の方法についてはあまり納得していないそうです。

「ユーザー」と「カスタマー」を別々の概念として捉えると、ここでいう「ユーザー」とは、その名の通り「使う人」を指す。つまり、顧客が「使う」のは「デジタル機器」(PC、 スマートフォン、タブレット、パネルなど)だ、と定義づけることができる。 例えば、店舗体験は「CX」であり、デジタル機器を使って得られる体験は「UX」であるといった具合に。 この考え方の場合、どこまでが「カスタマー」で、どこからが「ユーザー」なのか、「ユーザー」=「使う」人、をどこまでと定義するか、が1つのポイントになる、ということでした。

また企業におけるデザイナーの担うべき役割について、「より使いやすく」といった最適化ではなく、イノベーションにシフトすべきであるという動きが見られたそうです。

⇒ 参考:Lifting off from the UX plateau: Experiences with a new CX framework

 


UX Strategies Summit


■深澤氏からの報告

深澤氏からは、6月9〜11日にサンフランシスコで開催されたUX Strategies Summitのお話をしていただきました。

今年で2回目の開催を迎えたUX Strategies Summitは、 IA SummitやUXPAに比べると小規模のもの。参加者の特徴としては、ビジネス系の役職の高い参加者や、IT、メーカー、コンサルタントが多かったそうです。

UX戦略のトレンドは世界共通で、主に以下の3点に集約されるとのことです。
1. チームビルディングとチームマネジメント
2. UXの効果の示し方
3. デザインプロセスの時間短縮

1. チームビルディングとチームマネジメント
UX戦略実行において、1人の実践者である「Team of one」から、実践者の内のひとり「Team of many」の考え方にシフトしているとのこと。やはり、UX戦略を推進するためには周りを巻き込んでいく必要があり、そのためにチームビルディングやチームマネジメントが必要と認識されてきている、とおっしゃっていました。
⇒ 参考:書籍『一人から始めるユーザーエクスペリエンス デザインを成功へと導くチームビルディングと27のUXメソッド』(発行元:丸善出版)
深澤氏が翻訳に携わられた本です。コンセントの長谷川も監訳を担当しています。

2. 効果の示し方
効果を示すことはUX戦略を進める上で重要なことの1つ。ではどう示すかというところで、ビジネス要件からのユーザーニーズを満たしていくためのシート「UX strategy blueprint」が紹介されていたそう。
⇒ 参考:http://www.uie.com/articles/ux_strategy_blueprint/

また、このUX strategy blueprintは「Google heart framework」の考え方を用いているとのことでした。
https://www.gv.com/lib/how-to-choose-the-right-ux-metrics-for-your-product

3. デザインプロセスの短縮
ユーザーニーズを素早く分析するための方法を模索する必要がある。
UXをUIに落とし込む際、ゼロからつくる必要はなく、競合対象のUIデザインを上手く利用すれば時間短縮に繋がるという考え方も紹介されたそうです。

また、UXに心理学、行動経済学、認知心理学といった科学的なアプローチをより積極的に取り入れようという話があったともおっしゃっていました。

さらに、「ブランディングはUXなのか?」という議論もあったといいます。この「ブランディング」と「UX」の2つはイコールというよりも、一貫性のあるUXを提供することでブランド価値を形成できるという考えだそうです。
この例として、アメリカのintuitという企業の事例が挙げられたとのこと。全サイトを通し、インタラクションなど全ての要素を揃えるための再構成を行った結果、ブランドの認知度自体が向上したそうです。
同じように、Facebookでもデバイスに関わらず一貫した広告体験を提供できるようデザインを見直した事例があるとのことでした。
⇒ 参考:An Update on Facebook Ads

総括として、深澤氏の考えるUXとは、「ビジネスゴールを満たしながらユーザーニーズを満たすための戦略」だとお話してくださいました。

 


質問


 

カンファレンス報告の後には、さまざまな質問が飛び交いました。
その内のいくつかを登壇者の方からの回答と合わせてテーマごとにまとめてご紹介します。

■両カンファレンスにはどのような違いがあるのか?
UX Strategies Summitは、ケーススタディが豊富である一方で事例紹介に偏りがち。一方、UX STRATでは議論が積極的に行われる傾向にある。

■なぜCXとUXを分けるに至ったのか?
アメリカで開催されるカンファレンスでは、ソフトウェア関連の参加者が多く、そういった業界ではコンシューマー=ユーザーとして扱いやすい。それに対して欧州の企業は「ユーザー」という概念に慣れていないため、「カスタマー」の方がしっくりくるのではないか。

■「デジタル」の範囲はどこまで?
コミュニケーションにもプロダクトにも関わっているので、体験、IoT、全てが含まれると考えられる。例えば車の場合、電気自動車のようなデジタルマテリアルも「デジタル」に含まれるだろう。しかし、UX=デジタルと定義した場合、Web業界では逆にUXの意味合いが狭まってしまうのではないか、とも考えることができる。

■マーケティングとUX、CXの関係は?(CXのキャリアパスとして、マーケティング分野の人間が踏み込んできた領域と考えるのか、それともデザイナーが目指しはじめたものなのか、という質問)
どちらというわけではなく、さまざまな議論の中から自然に発生したのではないか、と考えられる。また、「デザインパーソン」がデザイナーだけではなくなってきていることから、UXやCXに関わる人はどんどん拡大していると考えられる(深澤氏によれば、「UX Strategies Summitの参加者はデザイナーが少なく、マーケティング分野の人間が多かった」ということで、このことからも、UXやCXに関わる人が拡大しているという考えは正しいと言えそうです)。

■サービスデザインとCX
「CXをどうしていくべきか?」という部分が「サービスデザイン」と呼ばれていた。欧州ではサービスデザインという言葉が一般化し、すでに共通認識になっていると感じられる。

 


最後に


ディスカッションが一番盛り上がったのは、「UXとCX」というテーマでした。

井登氏のお話にもありましたが、UX戦略にはユーザーの価値観が密接に関係していると私も思います。そして「デザイン」という言葉が意味する範囲の広がりとグローバル化に伴い、UX、CXといった言葉が包括すべき範囲がどんどん拡大しているのではないでしょうか。また、そこからさらに新しい概念が生まれ、ブランディングとUXの例のように既存の概念が修正され、さらに変化を続けていくのではないかと感じました。

今回のReduxで紹介された2つのカンファレンスですが、どちらも秋の開催がアナウンスされています。 6月の開催からどのような変化があるのか楽しみですね。

UX STRAT
UX Strategies Summit

 

【関連情報】
UX STRAT & UX Strategies Summit Redux開催のお知らせ

2015.08.06

よりよいデザインにするために、デザイナーが頭の中で考えていることを、作例などのビジュアルとともにわかりやすく解説したデザイン書籍『なるほどデザイン〈目で見て楽しむ新しいデザインの本。〉』が2015年7月31日に刊行されました。著者は、株式会社コンセントのアートディレクターの筒井美希。

本書は、デザインに興味があるすべての人に、楽しく読んで「なるほど!」と理解いただけることを目指し、3つの章で構成されています。

Chapter 1「編集×デザイン」では、まずはなんのためにデザインするのか、その目的を理解した上でその目的にふさわしいデザインを導き出すことの必要性を、目的別の作例を通して説き、さらに最終アウトプットとしてのデザインを考えていくまでの過程をプロセスを追って説明しています。

「デザイナーの7つ道具」と題したChapter 2では、デザインのコツや気をつけるべきポイントを、「天秤」や「スポットライト」といった道具になぞらえて紹介。

そして最後のChapter 3「デザインの素」では、「文字と組み」「言葉と文章」「色」といったデザインの要素ごとに、どのような特徴をもちどういった視点で考えているのか、デザイナーの考え方をより詳細にひも解いて解説しています。

本書は、筒井自身がプロとしてのデザイナーに至るまでの、日々のデザイン現場での経験や先輩デザイナーからのアドバイスを振り返り、デザイナーの頭の中で行われているプロセスや考え方、必要な力を体系化。本書のためにつくりおろしたデザイン作例やイラストを用いて解説することで、「考え方」を目で見て理解できるようになっています。

新人デザイナーをはじめ、キャリアのあるデザイナー、デザイナーを教育する立場にある方、さらにデザインの仕事に携わっていない方でもデザインを判断する立場であったり、デザインに興味がある方など、よりよいデザインを追求されているすべての方にぜひともお読みいただきたい一冊です。


《書籍情報》

■書名:『なるほどデザイン〈目で見て楽しむ新しいデザインの本。〉』
■著者:筒井 美希(株式会社コンセント)
■出版社:エムディエヌコーポレーション
■ISBN-13:978-4-8443-6517-4
■フォーマット:A5判 272ページ オールカラー
■定価:単行本/2,000円+税  Kindle版/1,800円
■刊行:2015年7月31日

出版元エムディエヌコーポレーションのオフィシャルページ
『なるほどデザイン〈目で見て楽しむ新しいデザインの本。〉』紹介ページ
『なるほどデザイン〈目で見て楽しむ新しいデザインの本。〉』のご購入(Amazonのページへリンクします)

 


《著者プロフィール》

筒井 美希(つつい・みき)
株式会社コンセント アートディレクター/デザイナー

武蔵野美術大学デザイン情報学科卒業後、2006年株式会社アレフ・ゼロ(現 コンセント)に入社。雑誌・書籍・広報誌・カタログ・学校案内・Webサイトなど、幅広くアートディレクション/デザインを手がける。

2015.07.27

2015年7月27日に、丸善出版より『一人から始めるユーザーエクスペリエンス デザインを成功へと導くチームビルディングと27のUXメソッド』が刊行されました。

この本は、UXのメソッドだけでなく、いかにUXチームを作るかといったチームビルディングの方法やチームの運営方法など、組織にUXを根付かせるための具体的な方法を詳細に解説しています。UXデザインの入門書であると同時に、ユーザーエクスペリエンスに取り組みたい人や組織への導入がスムーズにいかないチームにとっての実践的なガイドブックとも言える一冊です。

日本語版の刊行にあたっては、コンセント長谷川が監訳を務めており監訳者序文を寄せています。

もともと、筆者のLeah Buley氏が国際会議IA Summit(Information Architecture Summit)にて発表したプレゼンテーションが原型となっている本書。長谷川の序文ではそうした背景も紹介しています。

《書籍情報

一人から始めるユーザーエクスペリエンス表紙

■書名:『一人から始めるユーザーエクスペリエンス デザインを成功へと導くチームビルディングと27のUXメソッド』
■著者:Leah Buley・著
■監訳:長谷川敦士
■翻訳:深澤大気、森本恭平、高橋一貴、瀧知恵美、福井進吾、遠藤茜、齋藤健、柴田宏行
■出版社:丸善出版株式会社
■ISBN:978-4-621-08951-4
■定価:2,592円(本体2,400円+税)
■判型:A5
■ページ数:251ページ
■刊行:2015年7月27日

出版元 丸善出版サイト内のオフィシャルページ
『一人から始めるユーザーエクスペリエンス デザインを成功へと導くチームビルディングと27のUXメソッド』のご購入(Amazonのサイトへリンクします)

2015.07.03

IA Cocktail Hour: IA Summit 2015 talk
はじめまして。コンテントストラテジストの土屋です。5月21日(木)に行われた「IA Cocktail Hour: IA Summit 2015 talk」の内容をご報告します。

今回は昨年に引き続き「talk」と銘打ち、「IA Summit 2015」に参加してきたメンバーが、カンファレンスで挙がった内容から話題提供を行い、参加者と自由に議論を交わしていこうという目的のもと開催されました。

IA Summitへの参加メンバーということで主にお話されていたのは、インフォバーンの井登さん、フリーランスでIAをしている岩本さん、そしてコンセントの長谷川、坂田(所属は本イベント時のもの)、河内でした。コンセントの佐藤、関根もIA Summit参加者として話題提供をしました。

さてIA Summitはインフォメーションアーキテクト、UXデザイナー、コンテントストラテジストなどが集う情報アーキテクチャのカンファレンスです。2000年から始まり16回目を迎えた今年は、アメリカのミネアポリスにて3日間の日程で開催されました。

IA Cocktail Hour: IA Summit 2015 talk

期間中には70ほどのセッションのほか、マラソンやカラオケなどのアクティビティも開催されたそうです。早朝マラソンではランの最中にもあちこちで参加者間での意見交換が行われていたとか(!)。

IA Cocktail Hourでは、参加者の印象に残ったセッションの内容が共有されました。IAに詳しいとは言えない私ですが、初参加しての内容をかいつまんでご紹介します。


■ Re-framing and Un-framing IA
情報アーキテクチャのオントロジーの再定義・再確認


今回3度目の参加をされた岩本さんは、今年はIAの定義を再確認するという内容のセッションが多くなった印象だと言います。クロージング・キーノートでBrenda Laurelは「Gaian-Centered design」と表現しており、「『Whole Earth Catalog』(※)的な着地になったのかなという印象」と岩本さんはおっしゃっていました。

IA Cocktail Hour: IA Summit 2015 talk

Wikipedia: Whole Earth Catalog(全地球カタログ)

またテッド・ネルソンがスカイプで参加した初日のイブニング・キーノートも興味深かったとのこと。下記にYouTubeが上がっています。

・New Fields and Feel Effects Q&A
http://www.iasummit.org/index.php/node/291


■ Content and Data
多チャンネル・多デバイスにおけるコンテンツとデータ


コンセントの長谷川からはMarsha Havertyのセッション「What We Mean by Meaning: New Structural Properties of IA」を紹介。

IA Cocktail Hour: IA Summit 2015 talk

Marsha Havertyは、情報が人に受け取られると意味(meaning)が形成される、という考え方を出発点に、意味は言語的情報と感覚的な情報の2軸で受け止められると考え、物理学でいうところの位相空間にヒントを得て情報を解釈するモデルを作りました。

この話は、IAとは何か、何を伝えればいいのかを議論してきたIAサミットに一石投じた印象で、長年の参加者にとってもインパクトのあるセッションだったそうです。Webメディアに関わってきた私にとっても、日頃「どのように人に情報を届けるか」に執心こそすれ、そのメカニズムに関して概念的に考えたことがなかったので新鮮に感じました。情報が人に受け取られるまでを丁寧に紐解くことで、発信者としてもさまざまな着想が可能となるでしょう。

実際、IA Summitの会場でも、感覚的なもの、言語的なものに対する積極的なアプローチだとして高い評価を得て、あまりにも反響が大きかったため、期間中に再演されたほどだったとのこと。

ほかにも象徴的だったセッションとして長谷川からPaul Rissenによる「Designing Webs: Information Architecture as a Creative Practice」が挙げられていました。これはBBCオンラインニュースの情報整理担当者の話で、インターネットに存在する情報の関連自体をデザインしているという考え方が紹介されました。
Webサイトという限られた範囲のことではなく、Webの情報ネットワークのことを考えることで、実現されることの可能性の高さが示唆されています。

Dalia LevineとDuane Deglerによる「Structure and Metadata: Shortening the On-Ramp to Linked Data」では、人にわかるデータを、マシンにわかるデータにどうつなぐか?について、これをLinked Dataの概念として定義付けました。

IA Cocktail Hour: IA Summit 2015 talk

今現場ですでに使っている分類体系を生かしつつ活用すること、そしてそれらのLinked DataをどのようにつないでいくかがIAの意識すべき点であるということです。


■ Shaping Organization
組織の再編と推進


坂田からは、職種としてのIAがどのようにキャリアを形成するのかといったことを含めいくつかのセッションが紹介されました。

IA Cocktail Hour: IA Summit 2015 talk

Peter Merholzによる「Shaping Organizations to Deliver Great User Experiences」というセッションでは、組織設計や組織構築の担当者がよいUXのためにどういう組織の形があるかを考えた場合に3つのパターンが紹介されたとのこと。その3つとは、
1. 専門チームからデザイナーがプロジェクトごとに派遣される。これは専門性の維持に有効。
2. プロジェクトチームにはじめからデザイナーが参加する。1と比べて専門性の維持が難しいのがデメリット。
3. カスタマージャーニーマップをベースに共創、責任感・主体性を養う

坂田も言っていたことですが、ひとくちに組織といっても複合的な事柄があるため、これが答えとは決められないでしょう。ただ、大きな分類としては上記のパターンが当てはまると言えそうです。

さらに坂田は、2013年のEuro IAの内容も引き合いに出していました。それは「Managing chaos」の著者であるLisa Welchmanによるもので、情報設計、情報整理がもたらす価値を再確認したときにそもそも組織が問題なのではないか、という疑問を起点として情報管理をいかにシステム化するかを考えたという話です。情報を整理・設計したところで平和はもたらされるだろうかという問いに対するキーワードは、「コントロールとマネジメントは異なる」「平和であることは、良い仕事ができること。そして事業が成長すること」そして「情報そのものにコンテキストは存在し、そのコンテキストは誰かの手によって与えられていることを忘れてはならない」といったものでした。

ではどんな組織図がありうるのか。鉄道会社が作った世界最初の組織図は、現在よく見るような、トップが最上位にいる形ではなかったそうです。IA視点の組織図、どんなものになるのでしょうか?

IA Cocktail Hour: IA Summit 2015 talk

IA Summitの内容共有のあとには、IA Summit参加者とCocktail Hourに来てくださった方の間で意見交換が行われました。

IA Cocktail Hour: IA Summit 2015 talk

今年も思考を刺激するトピックが登場したIA Summit。サイトではさっそく次回の開催情報が発表されていますね。興味をもった方はサイトをチェックしてみましょう。
http://www.iasummit.org/

2015.06.11

執筆:佐藤 史(Service Design Div.所属 プロデューサー/コンテンツディレクター HCD-Net認定 人間中心設計専門家)

 


「他者理解」を育む場、ワークショップ


 

最近、企業や公共の場における問題解決やアイデア創発の手法として、「ワークショップ」が注目されています。コンセントでも、何か新しいサービスやコミュニケーションツールをつくるとき、アイデア発想等を目的にしたワークショップをクライアントと実施するケースがこれまで以上に増えてきました。また、コンセント社内でも、社員同士のコミュニケーションとナレッジ強化を目的にワークショップをよく活用しています。

そもそもワークショップとは何なのでしょうか。ワークショップには、演劇・アートの世界で実施されるものもあれば、子どものために教育の場で実施されるものありますので、企業や公共の場で実施されるそれも、「ワークショップ」という大きな概念のなかのほんの一部分でしかないと考えますが、私の場合、クライアントをはじめ他者に説明する時は、まず以下のように定義したうえで、実施の判断と内容の検討をしています。

ワークショップとは、異なる前提・知識・体験をもっている参加者同士が、共通のオブジェクトとテーマに向かって、頭と手を動かしながら協働して何かを考えたりつくったりすることで、他者を理解し、納得解を導き出すためのエクササイズです。

ちなみに、ビジネスの場で実施する場合に、よく混同されやすいのですが、ワークショップは、ブレインストーミングやアイデアソンとは目的が大きく異なります。
ブレインストーミングやアイデアソンは、限られた時間内で、何かしらのアウトプット・成果を目指す場合に有効であるのに対して、ワークショップは、参加者がそれぞれ何か気づきを得ることで、コミュニケーションを促進させたい場合に有効です。実施する場合は、どちらにより目的の比重をおくべきかを関係者とすりあわせた上で、判断しています。

コンセントでの過去の事例からワークショップの具体的な価値をみていきましょう。
あるプロジェクトで、新しいデジタルアプリのユーザーインタフェース(以下、UI)を開発するにあたり、そのアプリで伝えるべきブランディングやデザインイメージを「デザインコンセプト」として言語化する必要がありました。このような場合に気をつけなければいけないのは、たとえば「◯◯社の製品らしい清潔感あるデザインと快適な操作性」のような要件があったとして、そこで言う「清潔感」や「快適な操作性」に対して具体的に思い描くビジュアルや操作イメージは、たいていの場合、人によってまちまちであるということ。
ですので、どんなデザインコンセプトにするのかを議論する以前に、上述のような認識の差が既に存在していることをプロジェクトメンバー全員に理解していただく必要がありました。そのために、おのおのが遠慮せずに自分の考えを打ち明け、互いに否定し合うことなくシェアできる場としてワークショップという手法を用いたのです。ワークショップを実施することで、すべてのプロジェクトメンバーが気持ちよく議論に参加して、皆で納得できる結論(どういうデザインコンセプトにするのか)に辿り着けるようにしました。
ここで大切なことは、何か素晴らしい結論が出たことではありません。結論にいたるまでのプロセスをメンバーが全員で共有できたことと、それを通してメンバー同士がお互いを理解し、アプリの開発に際して共通のゴールをもてたことにあります。このように参加者同士の理解を促し結びつきをつくりだすことがワークショップを実施することの価値なのです。


クライアントワークで実施したワークショップの一例。コーポレートサイトをリニューアルするにあたり、
その企業がサイトで最も訴求すべき(と各人が考える)ビジネス価値を付箋に書き出しマッピング。
共通してあがった意見は何か、大きく異なる意見は何か、意見が異なっても何か共通項はないか等を、
職能・世代の異なる社員同士でディスカッション。これから制作するサイトで打ち出すべきメッセージを皆で考えた。

 


コンセント社内デザイナー(主に若手社員)のナレッジ共有と強化のためのワークショップ。
チームごとに仮想のクライアントと制作会社を演じて擬似プレゼンを体験してみることで、
クライアントに良い提案をするために大切なことは何かを考える機会に。

 


会社の共通行動目標を考えるためのワークショップ。自分の成功体験と失敗体験を互いに打ち明け合い、
それについて他者から言われた感想や意見をもとにして、チームごとにこれからの行動目標を考えた。

 


ワークショップの場における、ファシリテーションの重要性


 

「参加者同士の理解を促し結びつきをつくり出す」といっても、初対面の人といきなり同じグループで何かをやることは参加者にとって相応の緊張感を伴います。それは企業内で実施する場合でも同様で、いきなり広い場所に集められて普段接する機会がない他部署の人同士、すぐに打ち解けた議論などできない場合がほとんどだと思います。このようなワークショップの場で、参加者の緊張を和らげて参加者同士をつなぐ役割を果たすのが、ファシリテーターの存在です。ファシリテーターと聞くと司会進行役をイメージする方もいると思いますが、ワークショップの場では、「ファシリテーション」という要素が、ワークショップの「テーマ設定」「プログラム構成」「会場設営」と同等に重要であり、最終的な参加者の満足度も、実はプログラムの内容や結果よりもファシリテーションの質に大きく影響されることが多いのです。プログラムのデザインや場のデザインと同様に、ファシリテーションも「デザイン」する必要があるのです。

ファシリテーションをデザインし、質の高いものにするために何が必要か。
私の場合、まず、「デザイン」にあたっては、参加者から見て自分がどういう存在に見られたい(もしくは見られるべき)かを考えます。


どう見られたいか? 指南役、伴走者、案内者…。

ワークショップでは、ファシリテーターは研修の場でのそれとは違い、必ずしも 「教える人」とは限りません。参加者とともに何かに取り組む「伴走者」としてふるまう場合もあれば、裏方として参加者をそっと後押しする場合もあります。そのワークショップをどういう雰囲気の場にしたいのかによってファシリテーターの見られたい印象とふるまいも変わるのです。たとえば、参加意識が高く、何かをこの場で得たいという動機が強いワークショップの場合は、こちらもその期待にきちんと応える意志表明として、首から下げる名札入れには名刺を入れて「専門家の佐藤さん」としてふるまいます。逆に、日常とは少し異なる打ち解けた雰囲気を出したいときは、手描きの名札をつけた「史さん」としてふるまい、参加者をリラックスさせ、ここは安心して発言できる場なのだということを理解させることもあります。
自分は「伴走者」のつもりでファシリテーションしているのに、参加者に「この人は教えてくれる先生だ」と思われたままワークショップを始めるとどうなるでしょうか? 当然、参加者の満足度を下げる結果になります。もちろん、最初の挨拶で「わたしは皆さんの伴走者です」などと自己紹介をするわけではありませんが、少なくとも、ワークショップを始める段階で、自分はファシリテーターとして参加者とどういう形でコミュニケーションを図りたいのかを何らかのかたちで意思表示する義務があります。それをどう伝えるのかを考えることも、ファシリテーションデザインのひとつです。

ワークを実施している最中、ファシリテーターは、内容についていけない参加者がいないか、参加者同士の関係がおかしくなっていないか等、常に参加者の表情と動きをよく見て適度に介入します。時には、参加者同士を結びつけて何かを気づかせるために、あえて静観することもあります。
また、いろいろな人が参加する場である以上、たまに他者とは少し異なった意見を述べたり、異なる行動をとってしまう人もいます。その時は、その参加者に、他者と違うことで何か気まずい・恥ずかしい思いをさせないようにする気遣いも大切です(「多様性の許容」もワークショップにおける重要な要素のひとつです)。稀に、参加者がワークの内容に対してファシリテーターに異議を唱えてくる場合もあります。その場で相手の考えを傾聴し、時には軌道修正する即興力や、同時にゴールを見失わない意志の強さも必要です。

私は、ワークショップを通して、参加者にはものごとに対する新しい視点を得てほしいと思いますし、日常とは少し異なった空間関係・対人関係で何かをやってみることで気づきや発想をもち帰ってほしいと思っています。しかし、だからこそ予想しえないハプニングが起こる可能性が常に潜在していることも意識してファシリテーションする必要があります。


介入と静観のバランス。

 


多様性を保証し、疎外感を緩和する。

 


やり方は即興で変えても、ゴールを見失わない。

 


デザイナーに、ファシリテーション力が求められる


 

デザインという行為を、アウトプットするだけではなく、プロセスも含めた全員参加型のワークスタイルとして捉えているコンセントでは、クライアントワークとしても、広報活動の一環としても、ワークショップを実施する機会は今後さらに増えるだろうと思います。そこでは、私のようなプロデューサー職の人間ではなく、デザイナー自身がワークショップのファシリテーションをすることもあります。また、たとえワークショップの場ではなくとも、デザインという、ある意味では抽象的な活動に携わる以上、これからのデザイナーには、価値観の異なる他者同士を結びつけ、気持ちよく合意形成に至らせる能力が欠かせないものとなるでしょう。そのためには、人に対してどう促し・働きかけるのか、場の空気をどうやって形成し牽引していくのか…。ファシリテーションデザインは、デザイナーの基礎的素養としても今後より重要になっていくと考えます。

…では、たとえば、グラフィックデザインの何かを決めるときに、デザイナーは、クライアントに対して、どういうファシリテーションをしているのか? その事例は、また回を改めて述べたいと思います。

 

◆最後に

筆者は、昨秋、青山学院大学の社会人向け履修証明プログラム「青山学院大学ワークショップデザイナー育成プログラム」を修了しており、最近は社内外で「ワークショップデザイナー」を名乗った活動もはじめております。本稿の執筆にあたっても、上記プログラムの実習期間中に講師の方や一緒に履修した同窓生の皆さまからいただいた、たくさんの言葉や気づきを参考にさせていただきました。末筆ではありますが、ここに厚く御礼申し上げます。




アクセシビリティをテーマに、参加者が身体をつかっていろいろなことにトライするワークショップ「AccHop!!」。揃いのTシャツに手描きの名札をつけ、サブファシリテーターとして参加。

(ご参考)AccHop!! (http://acchop.com/


【執筆者プロフィール】
佐藤 史|サストコ

2015.05.28

執筆:大崎 優(取締役、サービスデザイナー)


潜在ニーズを発見できる新しい手法


生活者のニーズを拾い上げ、ニーズに沿ってサービスをデザインしていくHuman Centered Designのプロセスは、サービス開発をする現場で普及が進んできました。その手法はあらゆる分野での検討がなされており、実際に数多くのアプローチが実践されています。とりわけ、生活者自身が自覚していないような潜在ニーズの掘り起こしに対しては、競合優位性の高いサービスを生み出す可能性があるため、注目度も高く、行動観察手法などを導入している企業も少なくありません。中でも民族学的・文化人類学的手法をビジネスのリサーチに応用した、エスノグラフィックリサーチは筆者自身も数多く実施しています。

こういった潜在ニーズを掘り起こすリサーチは、調査する側に一定のスキルが必要であること、実施すれば必ず潜在ニーズが得られるといった確実性には欠けること、時間がかかり相応のコストがかかることなどさまざまな問題があり、定性調査としてハードルが高いものでした。

そんな潜在ニーズを掘り起こす定性調査の手法の一つとして「リビングラボ(Living Lab)」という取り組みが注目されています。

リビングラボとは、サービス開発プロセスにエンドユーザーを共創的に巻き込んで継続的に進行するプロセスのこと。サービス開発の初期段階から、ユーザーをコミットさせ、サービスアイデアの創出、タッチポイントのデザイン、プロトタイピングといった一連の流れを継続的に共創的に行っていくモデルです。

さまざまな研究者がそれぞれ違った意味でリビングラボを定義していますが、現時点では先述の定義が一般的になっています。米国で提唱されたと言われるリビングラボは、当初は文字通り実生活空間に近い「実験室」で、新しい技術を試す空間という位置づけでした。あるプロダクトや技術を、擬似的な生活空間の文脈の中で観察するためのリサーチ手法でした。その後、リビングラボは実験室の枠を超えて、エンドユーザーが主体的に開発プロセスに介入するという発展を遂げていきました。ユーザーを、観察対象から共につくるパートナーとして捉えるかたちに変化し、より社会性を帯びた活動へ発展していったわけです。欧州においては、行政のスキームにおける市民参加事業としてのリビングラボという色合いが濃く、多面的に捉えられる取り組みになっています。そのリビングラボがICTの発展とオープンイノベーションの高まりとに呼応する形で注目を集めてきているというのが現況です。

 


実際のリビングラボの取り組み


さて、ここでリビングラボの事例として、筆者が携わっている「子育てママ*リビングラボ」を紹介したいと思います。

「子育てママ*リビングラボ」は、子育てママの働き方と子育て、両面での支援のため、生活者、行政、企業、クリエイターが参画する共創型のプロジェクトです。 6ヶ月程度の継続的なプログラムが想定されたこのプロジェクトは、生活者である子育てママにも、リサーチ・インタビューの対象としてだけではなくすべてのプロセスに積極的に関与してもらい、アイデアソンの繰り返し、ブラッシュアップ、ハッカソンという流れを基本に、企業の課題や技術シーズなどの要素も取り入れながら行われます。

大阪市「東成区子ども・子育てプラザ」で開催されたキックオフイベントでは子育てママ、クリエイター、大阪市や東成区の行政担当者、複数の大手企業などさまざまな立場の方が参加し、子育てママの課題に対してソリューションを検討していきました。具体的には「家事の中で、ロボットに託したいこと、託したくないことは何か?」という題目のもと、家庭生活で生じている家事労働や育児の負担、コミュニケーションについての課題をワークショップ形式で洗い出していきました。そこで出た課題をカスタマージャーニーマップ(※1)などのサービスデザイン手法を用いて可視化したり、ビジネスモデルキャンバスなどを使いながら事業化に向けた検討も行い、まる1日をかけて、サービスアイデアを具現化していきました。

このリビングラボの活動の中で、参加したあるメーカーの開発者は、生活者の思わぬ生活行動やニーズをすくい取れたと発言していました。たとえば、子育てママの生活行動の中のある特定の時間に、ECサイトなどの販売チャネルの効果が最大化できるのではないかという仮説が立てられたと言います。企業内で検討している仮説とは異なる意外な視点が得られ、収穫があったようです。

※1 カスタマージャーニーマップ:生活者行動を可視化し、その行動とサービスの関係性、そこで起こる問題などを発見、共有するためのツール。

 


リビングラボの社会的意義


このように企業にとっては、自社内での研究や旧来のマーケットリサーチでは得られないようなニーズを発見することができます。そして一方で、生活者にとっては自分のニーズを社会的な問題解決のソリューションに役立てられる、社会貢献できるという意義があります。もしくは、この「子育てママ*リビングラボ」のように、同じ課題を抱えた仲間で集まれる、議論できるというだけでも、参加するママにとって大きな意義があるようでした。

たとえば、今回のアイデアソンで実施した、自分の一日の行動を可視化するカスタマージャーニーマップをつくる場面では、自分の生活を客観的に図示したことで、生活の中での問題点を発見することができたり、問題を把握し共有するだけで「辛いのは自分だけじゃない」という安心感を得られたような側面もありました。

参加する生活者にとってのリビングラボの意義はそれだけにとどまらず、参加することで生活者が経済的な対価を得られるしくみをつくり、新しい「稼ぎ方」を確立することも可能です。子育てママは、労働による対価ではなく、自らの市場価値に対して対価をもらえるようになるわけです。言わずもがなですが、今回の参加者である行政担当者にとっては、子育てママへの課題はそのまま行政課題に直結します。そしてクリエイターは、自らの創造性を社会に役立て、活躍の場を広げることができます。もちろん、単純に仕事を得ることもできます。

このように、リビングラボの活動は、User Centered Design から Citizen Centered Design的なものへの進化を辿っています。そして、このリビングラボの盛り上がりは、企業活動におけるCSV(Creating Shared Value)という概念の広がりに呼応しています。

CSVは、一般的にはCSR(Corporate Social Responsibility)の進化系として捉えられて話されることが多いようです。しかし、目指すところは大きく違っています。CSRは、利潤追求だけでない社会へ与える影響に対し責任をもつこと、もしくは、あらゆるステークホルダーからの要求に対して適切な意思決定をすることと定義されます。それに対し、CSVは社会的意義のある領域に、競合他社よりも先行的に投資し、あらたなブルーオーシャンを目指す、もしくはそのフィールドのルールまでも先行してつくってしまう、という極めて強い利潤追求型と言えます。

今回を例にすると、子育てママを救うという社会的にも賛同を得やすい意義を得て、それをビジネスチャンスとする、というしたたかな企業の思惑があるとも言えるのです。単なる社会貢献活動でも文化活動でもなく、れっきとしたサービス開発である点から、持続可能性の高い取り組み、ビジネスとして位置づけることができます。経済の歯車を回している実感があるからこそ、生活者も参加したくなる、という考え方もできるかもしれません。

 


リビングラボの課題と展開


さて、メリットばかりを述べたリビングラボの活動にも、当然課題があります。

一つ目は機密保持の観点です。企業では新サービスの設計は機密事項であり、密室での検討がなされます。社会性を帯びたリビングラボでは、オープンな場での検討が必須になります。

二つ目の課題は、知的財産権の問題です。サービスアイデアは本来的には参加している全員のものです。サービスが事業化され、利益が出たケースの対応は事前に明示化して進めなければなりません。

三つ目の課題はインセンティブの設計です。生活者が参加したいと思うにはどうしたらいいか、継続的に関わるのであればどうすればいいか、それぞれのステークホルダーのニーズを上手く活かす設計はなにかを充分に検討する必要があります。

このように、課題も多く設計の難易度も高い取り組みではありますが、先述したように社会的に意義もあり、実効性の高い取り組みとも言え、今後のデザインやマーケットリサーチの分野に強い影響のあるものだと考えられます。もしくは、アートの領域で言及される「Socially Engaged Art」のような社会のあらゆる領域との接続も可能なものとも言えるでしょう。

 

なお、本コラムでご紹介した「子育てママ*リビングラボ」キックオフイベントの模様は、下記サイトに公開されているレポートでご確認いただけます。合わせてご覧ください。
⇒ワーキングマザー応援サイト「WorMo’」(運営:コクヨ株式会社 WorMo’事務局)
http://www.wormo.net/topics/interview/84/

 

「子育てママ*リビングラボ」のキックオフイベント「子育てアイデアソン」は、主催・ソーシャルビジネスデザイン研究所、共催・大阪市東成区社会福祉協議会、協力・コクヨ株式会社、株式会社コンセント、大阪イノベーションハブ、東成区役所、で開催されました。

 


【執筆者プロフィール】
サストコ|大崎 優

【関連リンク】
ラボ(コラム)|カスタマージャーニーマップのパターン
セミナー・イベント情報|「子育てママ*リビングラボ」キックオフイベント『子育てアイデアソン』開催のお知らせ

2015.05.26

執筆:金子まや(コンテント ストラテジスト)

情報アーキテクチャを通じて世界をつなぐコミュニティイベント、World IA Day(WIAD)が今年も2月に開催されました。2012年にスタートし、年に一度世界各都市で情報アーキテクチャについてのイベントが同時開催されるこのWIADは今年で開催4回目となります(日本では昨年、大雪に見舞われ中止となりましたが…)。


(今回のコーディネーターの一人、UX Tokyoの山本郁也氏によるイントロダクションでスタート)

 

さて、World IA Day 2015ですが、「Architecting Happiness(幸福の構築)」を今年の世界共通のテーマとして開催されました。さらに日本ではローカルテーマを「身体性」として、IAとは一見関係がないように見える分野の方々が登壇し、それぞれが考える、人びとを幸福にするIAの身体性に関して語られました。

私は、ふだんの業務でIAとは切っても切れないContent Strategyに携わる身として、また以前社内イベントにお越しいただいたこともある『WIRED』の編集長の若林さんのファンとして、さらに数年前に『弱いロボット』を読んで以来、岡田美智雄さんにお会いしてみたいと思っていた身として、今回のWorld IA Day 2015に参加しました。

私自身も感銘をうけた『弱いロボット』の著者の岡田美智雄教授は、弱いロボットの研究を通して「”IA”とはなにか?」という根本的なことをわかりやすく語ってくれました。また、独立行政法人産業技術総合研究所主任研究員でニコニコ学会β実行委員長でもあるメディアアーティストの江渡浩一郎氏は、「身体を通しての“IA”」についてご自身の体験をもとに紹介してくださいました。また、ディスカッションに登壇した『WIRED』日本版の編集長の若林恵氏は、お二方の講演の話をふまえて、日本人の文化や性格などの話を織り交ぜながら、それまでのIAの話を拡散してさらに発展させてくれました。

それぞれ異なる業種の方々がIAに関して話すという、とても興味深くさまざまな気づきを与えてくれる一日でした。是非、当日の録画(https://www.youtube.com/playlist?list=PLUuTo1X6FU-RLE9EQLeVko-CPLVMpdVer)を視聴いただきたいのですが、5時間という長丁場でもあるため、私の視点からおもしろかった点、興味深かった点を中心に、当日の内容を少しご紹介します。

 


■“IA”とはなにか?(岡田教授の「“弱いIA”の可能性」から)


 

「ロボットの中に不完結さをつくることで、コミュニケーションのヒントが見つかるのでは」と、「弱いロボット」を研究している岡田教授。今回の登壇にあたり、「IAとはなにか」について考えた際、「わかりやすく情報を伝えることである」というシンプルな解答に至ったそうです。

伝わった相手も、情報を伝えることができた自分自身も嬉しくなる、というのが岡田教授による“Architecting Happiness”の解釈。
——では、その幸福を構築するために“完璧なIA”というものは必要なのだろうか? これまでの研究の中での「どこか不完結さをもったものの方が、相手は手を差しのべたくなるのではないか?」という仮説は、IAにとっても言えるのではないか。“完璧なIA”では、“一方的な発信者”と、“与えられて当たり前と考えてしまう受信者”という関係性を生み出してしまう。そこにはコミュニケーションは生まれず、結果、幸福は構築されないという構図になるかもしれない。——

IAとは、Webや紙をはじめとしたメディアに対して考えることではなく、もっと根本的に、そして原初的に人と人とのコミュニケーションを考えることだということ。Webや紙やロボットといったツールは、人間同士のコミュニケーションを考えるためのツールでしかないということを再認識させてくれる講演でした。

 


■身体を通して“IA”を考える(江渡氏の講演「ニコニコ学会β、wiki、パターンランゲージ…そして身体性へ」より)


 

岡田教授のわかりやすい”IA”の定義に続き、江渡氏の講演では、「相手にわかりやすく情報を伝えるにはどうすればよいか?」ということを、ニコニコ学会βの立ち上げを例にとり具体的に紹介してくださいました。結論から言うと「相手に伝わるようにストーリーをつくること」ということなのですが、ニコニコ学会βは、「学会という一般の人には馴染みがないものに対していかに興味をもってもらい、研究の内容を知ってもらうこと。そしてそれをキッカケに研究が認められ発展していくこと」を一つのストーリーとして立ち上げられたそうです。

また、スティーブ・ジョブズがあるスピーチの中で、リード大学でカリグラフィーの授業を受けたこと、そして、カリグラフィー教育においてリード大学は当時国内最高水準だったと称えている映像を紹介した上で、江渡氏自身が最近リード大学を訪れた際にお聞きしたお話に。そのカリグラフィーの授業は英文学の教授がつくったものであること。つくった背景には、「生活そのものに美があふれるべき」という想いがあること。授業をとった学生にはAdobeのディレクターもいることから、その教授の遺伝子が現在のIT産業に受け継がれ、AdobeやMacの根底となり結実しているという流れがあるのだと、江渡氏は感じとったそうです。

江渡氏の講演をお聴きして、「相手の視点に立つこと」と「ときには相手が予想もしないようなことをする」ということに、「わかりやすく情報を伝える」ためのヒントがありそうだと思いました。

 


■拡散する“IA”(パネルディスカッション、オープンディスカッションから)


 

岡田教授、江渡氏の講演を受けて、大林寛氏(株式会社OVERKAST代表)と若林恵氏(『WIRED』日本版 編集長)も交えてのパネルディスカッション、オープンディスカッションでは
・「弱さ」を分析することはできるのか
・「弱さ」を出すことによって、地位を築いていく。実は「弱さ」は「強さ」と紙一重なのか
・『ハフィントンポスト』と『WIRED』に見る、それぞれのコミュニケーションの違い(井戸端会議と木彫りのクマの話)
・日本ではTumblrと俳句は同じもの? 価値が生まれるコミュニケーションと価値が生まれないコミュニケーション
・「伝わる」の中にある誤解とそこから生まれる感情
など、さまざまな話題が展開されました。

このようにディスカッションで多くの話題が生まれたということは、情報が伝わったことにより、立場の違う登壇者・視聴者それぞれが、岡田教授が講演の中でおっしゃられていた「グラウンディング」(※)を起こした結果なのだと思いました。

 

以上、長くなりましたが、今回このレポートを書くにあたって何度も読み返すたびに新しい気づきが多く、登壇されたみなさんが語りたかったことを上手くこのレポートで伝えられたという自信は正直ありません。見当違いの解釈をしてしまっているところがあるかもしれません。
ただ、講演を聴き、自分がどう受け取ってどう考えたのかということ自体を整理し書けたことが、私の中でグラウンディングが起きたということなのではないかと嬉しさも感じています。

※グラウンディング:グラウンディングとはアフォーダンスにも近い言葉ですが、投機するものとそれをそっと支えるものがペアになるような状況。例えばなにげなく地面に自分を委ねる時、それは自分が地面に横たわっているだけでなく、地面側がそれを支えているとも考えられるというような考え方です。

 

【関連情報】
World IA Day 2015 公式サイト
World IA Day Japan 公式Facebookアカウント
World IA Day 2015 Japan 公式収録ビデオ

【執筆者プロフィール】
サストコ|金子まや

2015.05.08

※本コラムは、長谷川のブログ「underconcept」からの転載です。

Apple Watchを購入観点でじっくり見てみたら、ぐっときたのは無印ではあるものの13万円もするリンクブレスレットモデルではないか。さすがにちょっと、と躊躇して、会社で試験機として買った無印38mmスポーツバンドモデルでGW中に試用。以下ファーストインプレッション。
(上野学さんからご指摘いただき一部修正しました)


1. Apple Watchでなにをすべきかの期待値


こういったウォッチデバイスへの世の期待値が形成されていくことに伴って解決されることと思われるが、いまのところはApple Watchでなにをやるべきかについて迷ってしまう。これは、ユーザーサイドもだけど、サプライサイドも迷いが見られる。

ユーザー側には、まずはApple Watchで何ができて何ができないかの想像がつかないという問題がある。たとえば、ダイエットアプリのNoomは入力した結果を見るだけ(なのであまり使う必要はない)が、Evernoteは新規ノートを書き込める(のでけっこう有用)といったばらつきがあり、どこまでApple Watchに期待していいかがわからない。

これにともなって、ハニカムメニューのレイアウトをどうしたらよいかを決める基準が持てないのでわりとデフォルトからちょっといじって放置してしまっている。そもそもハニカムメニューを積極的に使うべきなのかどうかはまだよくわからんが、少なくとも利用頻度や、特性の類似性などで勝手にグループ化してくれたほうが便利な気がする。

同様に、「通知」に出てくるべき内容の取捨選択も自分で決めるのは難しい。現在、アプリ単位で外したり入れたりする仕様だが、筆者の状況では、Skype、Facebook、LinkedIn、SMS、メール(複数アカウント)、Google+といったコミュニケーション手段が混在しており、それぞれのなかで優先順位の高いものと低いものとがある。要は相手次第であって、アプリ次第ではない。いろいろ試した結果、FacebookとSMSだけ生かして後は通知させない設定にしてみた。さらにコミュニケーション以外の他のアプリからの通知はすべてオフにした。つけはじめに比べると急激に通知量は減ったが、いまのところ不便はない。できれば来た通知を選んで残す外すを決められる適応型インターフェイスにしてもらいたいところ。

設定における細かい話だと、Apple Watch側でにアプリを持たなくとも、iPhoneへの通知をそのままApple Watchにもってくることができるが、これらの違いや意味はちょっとユーザーには伝わらない。結論としては「なにを設定しておくべきか」を事前にユーザーに選択させるのは無理があるということがいえるだろう。


2. 意外と電話に使える


Apple Watchには物理ボタンが二つあり、その一つ(デジタル竜頭じゃないほう)は、お気に入り電話帳を呼び出すボタン。当初、電話はほとんどしないしと思って、プライオリティが低いと考えていたが、意外と便利に使えることが判明した。

Apple Watchを使ってみてからゴールデンウィークに突入したので家人との連絡の頻度が上がったということもあるが、iPhoneを出さなくとも電話ができる、かつそのデバイスをいつも身につけているというのは意外と便利だったのだ。iPhone 6 Plusにしてからいつもポケットに入れておくとかさばるので、鞄に入れっぱなしにしがちであったのがそもそも本末転倒なのかもしれないけど。

Skype等も含め通話のためのBluetoothヘッドセットはまあまあ持ち歩いているのだが、さすがにいつもというわけにはいかないので急に電話がかかってきたときとかに出るのに重宝した。そんなにつかわないけど、来るときは来る、というのがポイントだと思う(そのためにApple Watchに数万円払うのかというと疑問は残るが)。相手にどう聞こえているかはまだちゃんと確認していないが、スピーカーフォンとしてのApple Watchは問題なく使えている。

個人的には、最近メッセンジャーとしてFacebookメッセージをよく使っているので、電話帳からのメッセージは標準SMSだけでなく、一般のメッセージアプリにも対応してくれるとうれしいです。


3. Siri端末としての可能性


二つの物理ボタンおよびフェイスのタッチはいまだになにで何ができるのか混乱する。「グランス」と呼ばれるモード?がなんなのかもまだよくわかっていない。アプリ等を積極的に呼び出す使い方はあまり想定されていないのだろう。やはりApple Watchの真骨頂はSiriだろう。日常で便利さを感じたのは「明日の天気」とか「タイマーを10分にセットする」といったちょっとしたコマンド。これらをメニューを経由せずに、さくっとモードレスに使えるのはたいへん便利。いまのところは竜頭の長押しだが、Siri呼び出しの方法はかなりキモ。やはり「OK、Siri」?(補足:気づいていませんでしたが「Hey Siri」で立ち上げられました)


4. 既存端末との住み分け


筆者はライフログの実験のため、Nike FuelBandで過去数年分のログをためている。で、未だに左手にFuelBand、右手にApple Watchをつけているが(はい、自分でもあほらしいと思っています)、当然ながらFuelBandとApple Watchのアクティビティアプリはかぶっている。

すでにWithingsとRunKeeperとのバックグラウンドトラッキング(自動での一日のアクティビティ記録)はオフにしているが、Apple Watchをつけない日もあることを考えると、FuelBandを完全に捨てるのもなんなので悩ましい。Nike+ Fuelアプリには、FuelBandをつけていないときにiPhoneの内蔵万歩計で代替する機能もあるが、前述のとおりiPhoneを鞄に入れっぱなしにしていることが増えてこれは誤差が大きくなってしまった。Apple WatchでNike+ Fuelを貯めるというアプリがでてもいい気もするが、Appleは許さないだろうなあ。

ちなみに、自転車で出勤するとき、Apple Watch(ワークアウト)、iPhone(RunKeeper)、FuelBand(セッション)の3つでの同時記録を試みたが、ぜんぶ立ち上げる工程が複雑すぎて、ワークアウトアプリとRunKeeperしかログをとれていなかった(ちなみに、言わずもがなだが自転車自体にもサイクルコンピューターがついているので、そこでも距離等は記録されている)。RunKeeperは地図上に経路が出るが、ワークアウトアプリは距離が出るだけ、それぞれの誤差はRunKeeper: 7.21km、サイクルコンピューター: 7.30km、ワークアウトアプリ: 7.35kmと、まあ1%程度なので許容範囲。

ここまでくるとどこまで記録マニアなのかという気もするが、RunKeeperがあとで地図も見られることも考えると一番これからも使うような気もする。iPhoneを鞄に入れっぱなしでスタート/ストップできるのは大変便利なので。

余談だが、「ワークアウト」アプリを立ち上げる際に、Siriで「ワークアウトを始める」というとアプリが起動する。のだが、その「ワークアウト」というアプリ名を失念してしまい、「アクティビティを始める」とか、「ムーブを始める」とか、いろいろ試してしまった。アプリ名を知らないとSiriは使えないことを思い出させられた。

デバイスメーカーからすると自社のプロダクトおよびサービスで囲い込みをしたい気持ちはよくわかるが、ウェアラブルな製品はそれ単体ですべての状況に対応するとは考えがたいので、サービスでの相互乗り入れや互換性はやはりほしい。


まとめ


まだ、世のアプリ開発側がApple Watch前提になっていないために、いろいろな迷いが生まれているが、これを機に、ウォッチ型端末への期待値の標準化がなされていくだろう。で、もうちょっとできることのスタンダードは収束していくことと思われる。これは供給側も利用側も双方についていえる。こうしてみると、Apple Watchだけでなく、iPodにしても、iPhoneにしてもApple製品は世のデバイス生態系の標準化がなされていくことに関して常にリードをとれているということが見て取れる。

加えて、Siriの活用を前提としたアプリの使い方、情報の提供についてもApple Watchをきっかけによりこなれていくことが考えられるが、これはまだかなあ。


PostScript


ちなみに、このテキストは同時期に出た新型MacBookで書いてみている。今回久しぶりに既存マシンからのデータ移行を行わず、アプリもクリーンインストールして、データはDropBoxとiCloudにての移行。特に問題はなくセットアップできたが、いかんせんUSB Type-Cしか端子がついていないマシンなので、無線LANにての同期しかない。いやー、時間がかかった。

前評判が悪い新型キーボードは、JISキーボードだとたぶんぜんたいが若干左に寄り気味な感じで微妙なタイプミスが頻出している(トラックパッドとの兼ね合いもありJIKのあたりにストレスを感じる)。覚悟していたストロークは思ったより抵抗はない。むしろMacBook Airに戻ったら深すぎて違和感を感じた。せっかくなので?、ローマ字ではなくカナ入力を1時間くらい試してみたが、まだなれないのでローマ字に戻してしまった。

USB Type-Cは形状もLightningとにていて紛らわしい。これはType-C一本に集約するのであろうと思われるが、しばらくはType-CとMicro USBとLightningとで混乱しそう。意外に便利だったのが、USB同士ということでANKERのPowr IQ USB充電アダプタでMacBookが充電できたこと。サードパーティの対応も含め、こっちが標準になるのかな。