ラボ

2015.08.06

よりよいデザインにするために、デザイナーが頭の中で考えていることを、作例などのビジュアルとともにわかりやすく解説したデザイン書籍『なるほどデザイン〈目で見て楽しむ新しいデザインの本。〉』が2015年7月31日に刊行されました。著者は、株式会社コンセントのアートディレクターの筒井美希。

本書は、デザインに興味があるすべての人に、楽しく読んで「なるほど!」と理解いただけることを目指し、3つの章で構成されています。

Chapter 1「編集×デザイン」では、まずはなんのためにデザインするのか、その目的を理解した上でその目的にふさわしいデザインを導き出すことの必要性を、目的別の作例を通して説き、さらに最終アウトプットとしてのデザインを考えていくまでの過程をプロセスを追って説明しています。

「デザイナーの7つ道具」と題したChapter 2では、デザインのコツや気をつけるべきポイントを、「天秤」や「スポットライト」といった道具になぞらえて紹介。

そして最後のChapter 3「デザインの素」では、「文字と組み」「言葉と文章」「色」といったデザインの要素ごとに、どのような特徴をもちどういった視点で考えているのか、デザイナーの考え方をより詳細にひも解いて解説しています。

本書は、筒井自身がプロとしてのデザイナーに至るまでの、日々のデザイン現場での経験や先輩デザイナーからのアドバイスを振り返り、デザイナーの頭の中で行われているプロセスや考え方、必要な力を体系化。本書のためにつくりおろしたデザイン作例やイラストを用いて解説することで、「考え方」を目で見て理解できるようになっています。

新人デザイナーをはじめ、キャリアのあるデザイナー、デザイナーを教育する立場にある方、さらにデザインの仕事に携わっていない方でもデザインを判断する立場であったり、デザインに興味がある方など、よりよいデザインを追求されているすべての方にぜひともお読みいただきたい一冊です。


《書籍情報》

■書名:『なるほどデザイン〈目で見て楽しむ新しいデザインの本。〉』
■著者:筒井 美希(株式会社コンセント)
■出版社:エムディエヌコーポレーション
■ISBN-13:978-4-8443-6517-4
■フォーマット:A5判 272ページ オールカラー
■定価:単行本/2,000円+税  Kindle版/1,800円
■刊行:2015年7月31日

出版元エムディエヌコーポレーションのオフィシャルページ
『なるほどデザイン〈目で見て楽しむ新しいデザインの本。〉』紹介ページ
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《著者プロフィール》

筒井 美希(つつい・みき)
株式会社コンセント アートディレクター/デザイナー

武蔵野美術大学デザイン情報学科卒業後、2006年株式会社アレフ・ゼロ(現 コンセント)に入社。雑誌・書籍・広報誌・カタログ・学校案内・Webサイトなど、幅広くアートディレクション/デザインを手がける。

2015.07.27

2015年7月27日に、丸善出版より『一人から始めるユーザーエクスペリエンス デザインを成功へと導くチームビルディングと27のUXメソッド』が刊行されました。

この本は、UXのメソッドだけでなく、いかにUXチームを作るかといったチームビルディングの方法やチームの運営方法など、組織にUXを根付かせるための具体的な方法を詳細に解説しています。UXデザインの入門書であると同時に、ユーザーエクスペリエンスに取り組みたい人や組織への導入がスムーズにいかないチームにとっての実践的なガイドブックとも言える一冊です。

日本語版の刊行にあたっては、コンセント長谷川が監訳を務めており監訳者序文を寄せています。

もともと、筆者のLeah Buley氏が国際会議IA Summit(Information Architecture Summit)にて発表したプレゼンテーションが原型となっている本書。長谷川の序文ではそうした背景も紹介しています。

《書籍情報

一人から始めるユーザーエクスペリエンス表紙

■書名:『一人から始めるユーザーエクスペリエンス デザインを成功へと導くチームビルディングと27のUXメソッド』
■著者:Leah Buley・著
■監訳:長谷川敦士
■翻訳:深澤大気、森本恭平、高橋一貴、瀧知恵美、福井進吾、遠藤茜、齋藤健、柴田宏行
■出版社:丸善出版株式会社
■ISBN:978-4-621-08951-4
■定価:2,592円(本体2,400円+税)
■判型:A5
■ページ数:251ページ
■刊行:2015年7月27日

出版元 丸善出版サイト内のオフィシャルページ
『一人から始めるユーザーエクスペリエンス デザインを成功へと導くチームビルディングと27のUXメソッド』のご購入(Amazonのサイトへリンクします)

2015.07.03

IA Cocktail Hour: IA Summit 2015 talk
はじめまして。コンテントストラテジストの土屋です。5月21日(木)に行われた「IA Cocktail Hour: IA Summit 2015 talk」の内容をご報告します。

今回は昨年に引き続き「talk」と銘打ち、「IA Summit 2015」に参加してきたメンバーが、カンファレンスで挙がった内容から話題提供を行い、参加者と自由に議論を交わしていこうという目的のもと開催されました。

IA Summitへの参加メンバーということで主にお話されていたのは、インフォバーンの井登さん、フリーランスでIAをしている岩本さん、そしてコンセントの長谷川、坂田(所属は本イベント時のもの)、河内でした。コンセントの佐藤、関根もIA Summit参加者として話題提供をしました。

さてIA Summitはインフォメーションアーキテクト、UXデザイナー、コンテントストラテジストなどが集う情報アーキテクチャのカンファレンスです。2000年から始まり16回目を迎えた今年は、アメリカのミネアポリスにて3日間の日程で開催されました。

IA Cocktail Hour: IA Summit 2015 talk

期間中には70ほどのセッションのほか、マラソンやカラオケなどのアクティビティも開催されたそうです。早朝マラソンではランの最中にもあちこちで参加者間での意見交換が行われていたとか(!)。

IA Cocktail Hourでは、参加者の印象に残ったセッションの内容が共有されました。IAに詳しいとは言えない私ですが、初参加しての内容をかいつまんでご紹介します。


■ Re-framing and Un-framing IA
情報アーキテクチャのオントロジーの再定義・再確認


今回3度目の参加をされた岩本さんは、今年はIAの定義を再確認するという内容のセッションが多くなった印象だと言います。クロージング・キーノートでBrenda Laurelは「Gaian-Centered design」と表現しており、「『Whole Earth Catalog』(※)的な着地になったのかなという印象」と岩本さんはおっしゃっていました。

IA Cocktail Hour: IA Summit 2015 talk

Wikipedia: Whole Earth Catalog(全地球カタログ)

またテッド・ネルソンがスカイプで参加した初日のイブニング・キーノートも興味深かったとのこと。下記にYouTubeが上がっています。

・New Fields and Feel Effects Q&A
http://www.iasummit.org/index.php/node/291


■ Content and Data
多チャンネル・多デバイスにおけるコンテンツとデータ


コンセントの長谷川からはMarsha Havertyのセッション「What We Mean by Meaning: New Structural Properties of IA」を紹介。

IA Cocktail Hour: IA Summit 2015 talk

Marsha Havertyは、情報が人に受け取られると意味(meaning)が形成される、という考え方を出発点に、意味は言語的情報と感覚的な情報の2軸で受け止められると考え、物理学でいうところの位相空間にヒントを得て情報を解釈するモデルを作りました。

この話は、IAとは何か、何を伝えればいいのかを議論してきたIAサミットに一石投じた印象で、長年の参加者にとってもインパクトのあるセッションだったそうです。Webメディアに関わってきた私にとっても、日頃「どのように人に情報を届けるか」に執心こそすれ、そのメカニズムに関して概念的に考えたことがなかったので新鮮に感じました。情報が人に受け取られるまでを丁寧に紐解くことで、発信者としてもさまざまな着想が可能となるでしょう。

実際、IA Summitの会場でも、感覚的なもの、言語的なものに対する積極的なアプローチだとして高い評価を得て、あまりにも反響が大きかったため、期間中に再演されたほどだったとのこと。

ほかにも象徴的だったセッションとして長谷川からPaul Rissenによる「Designing Webs: Information Architecture as a Creative Practice」が挙げられていました。これはBBCオンラインニュースの情報整理担当者の話で、インターネットに存在する情報の関連自体をデザインしているという考え方が紹介されました。
Webサイトという限られた範囲のことではなく、Webの情報ネットワークのことを考えることで、実現されることの可能性の高さが示唆されています。

Dalia LevineとDuane Deglerによる「Structure and Metadata: Shortening the On-Ramp to Linked Data」では、人にわかるデータを、マシンにわかるデータにどうつなぐか?について、これをLinked Dataの概念として定義付けました。

IA Cocktail Hour: IA Summit 2015 talk

今現場ですでに使っている分類体系を生かしつつ活用すること、そしてそれらのLinked DataをどのようにつないでいくかがIAの意識すべき点であるということです。


■ Shaping Organization
組織の再編と推進


坂田からは、職種としてのIAがどのようにキャリアを形成するのかといったことを含めいくつかのセッションが紹介されました。

IA Cocktail Hour: IA Summit 2015 talk

Peter Merholzによる「Shaping Organizations to Deliver Great User Experiences」というセッションでは、組織設計や組織構築の担当者がよいUXのためにどういう組織の形があるかを考えた場合に3つのパターンが紹介されたとのこと。その3つとは、
1. 専門チームからデザイナーがプロジェクトごとに派遣される。これは専門性の維持に有効。
2. プロジェクトチームにはじめからデザイナーが参加する。1と比べて専門性の維持が難しいのがデメリット。
3. カスタマージャーニーマップをベースに共創、責任感・主体性を養う

坂田も言っていたことですが、ひとくちに組織といっても複合的な事柄があるため、これが答えとは決められないでしょう。ただ、大きな分類としては上記のパターンが当てはまると言えそうです。

さらに坂田は、2013年のEuro IAの内容も引き合いに出していました。それは「Managing chaos」の著者であるLisa Welchmanによるもので、情報設計、情報整理がもたらす価値を再確認したときにそもそも組織が問題なのではないか、という疑問を起点として情報管理をいかにシステム化するかを考えたという話です。情報を整理・設計したところで平和はもたらされるだろうかという問いに対するキーワードは、「コントロールとマネジメントは異なる」「平和であることは、良い仕事ができること。そして事業が成長すること」そして「情報そのものにコンテキストは存在し、そのコンテキストは誰かの手によって与えられていることを忘れてはならない」といったものでした。

ではどんな組織図がありうるのか。鉄道会社が作った世界最初の組織図は、現在よく見るような、トップが最上位にいる形ではなかったそうです。IA視点の組織図、どんなものになるのでしょうか?

IA Cocktail Hour: IA Summit 2015 talk

IA Summitの内容共有のあとには、IA Summit参加者とCocktail Hourに来てくださった方の間で意見交換が行われました。

IA Cocktail Hour: IA Summit 2015 talk

今年も思考を刺激するトピックが登場したIA Summit。サイトではさっそく次回の開催情報が発表されていますね。興味をもった方はサイトをチェックしてみましょう。
http://www.iasummit.org/

2015.06.11

執筆:佐藤 史(Service Design Div.所属 プロデューサー/コンテンツディレクター HCD-Net認定 人間中心設計専門家)

 


「他者理解」を育む場、ワークショップ


 

最近、企業や公共の場における問題解決やアイデア創発の手法として、「ワークショップ」が注目されています。コンセントでも、何か新しいサービスやコミュニケーションツールをつくるとき、アイデア発想等を目的にしたワークショップをクライアントと実施するケースがこれまで以上に増えてきました。また、コンセント社内でも、社員同士のコミュニケーションとナレッジ強化を目的にワークショップをよく活用しています。

そもそもワークショップとは何なのでしょうか。ワークショップには、演劇・アートの世界で実施されるものもあれば、子どものために教育の場で実施されるものありますので、企業や公共の場で実施されるそれも、「ワークショップ」という大きな概念のなかのほんの一部分でしかないと考えますが、私の場合、クライアントをはじめ他者に説明する時は、まず以下のように定義したうえで、実施の判断と内容の検討をしています。

ワークショップとは、異なる前提・知識・体験をもっている参加者同士が、共通のオブジェクトとテーマに向かって、頭と手を動かしながら協働して何かを考えたりつくったりすることで、他者を理解し、納得解を導き出すためのエクササイズです。

ちなみに、ビジネスの場で実施する場合に、よく混同されやすいのですが、ワークショップは、ブレインストーミングやアイデアソンとは目的が大きく異なります。
ブレインストーミングやアイデアソンは、限られた時間内で、何かしらのアウトプット・成果を目指す場合に有効であるのに対して、ワークショップは、参加者がそれぞれ何か気づきを得ることで、コミュニケーションを促進させたい場合に有効です。実施する場合は、どちらにより目的の比重をおくべきかを関係者とすりあわせた上で、判断しています。

コンセントでの過去の事例からワークショップの具体的な価値をみていきましょう。
あるプロジェクトで、新しいデジタルアプリのユーザーインタフェース(以下、UI)を開発するにあたり、そのアプリで伝えるべきブランディングやデザインイメージを「デザインコンセプト」として言語化する必要がありました。このような場合に気をつけなければいけないのは、たとえば「◯◯社の製品らしい清潔感あるデザインと快適な操作性」のような要件があったとして、そこで言う「清潔感」や「快適な操作性」に対して具体的に思い描くビジュアルや操作イメージは、たいていの場合、人によってまちまちであるということ。
ですので、どんなデザインコンセプトにするのかを議論する以前に、上述のような認識の差が既に存在していることをプロジェクトメンバー全員に理解していただく必要がありました。そのために、おのおのが遠慮せずに自分の考えを打ち明け、互いに否定し合うことなくシェアできる場としてワークショップという手法を用いたのです。ワークショップを実施することで、すべてのプロジェクトメンバーが気持ちよく議論に参加して、皆で納得できる結論(どういうデザインコンセプトにするのか)に辿り着けるようにしました。
ここで大切なことは、何か素晴らしい結論が出たことではありません。結論にいたるまでのプロセスをメンバーが全員で共有できたことと、それを通してメンバー同士がお互いを理解し、アプリの開発に際して共通のゴールをもてたことにあります。このように参加者同士の理解を促し結びつきをつくりだすことがワークショップを実施することの価値なのです。


クライアントワークで実施したワークショップの一例。コーポレートサイトをリニューアルするにあたり、
その企業がサイトで最も訴求すべき(と各人が考える)ビジネス価値を付箋に書き出しマッピング。
共通してあがった意見は何か、大きく異なる意見は何か、意見が異なっても何か共通項はないか等を、
職能・世代の異なる社員同士でディスカッション。これから制作するサイトで打ち出すべきメッセージを皆で考えた。

 


コンセント社内デザイナー(主に若手社員)のナレッジ共有と強化のためのワークショップ。
チームごとに仮想のクライアントと制作会社を演じて擬似プレゼンを体験してみることで、
クライアントに良い提案をするために大切なことは何かを考える機会に。

 


会社の共通行動目標を考えるためのワークショップ。自分の成功体験と失敗体験を互いに打ち明け合い、
それについて他者から言われた感想や意見をもとにして、チームごとにこれからの行動目標を考えた。

 


ワークショップの場における、ファシリテーションの重要性


 

「参加者同士の理解を促し結びつきをつくり出す」といっても、初対面の人といきなり同じグループで何かをやることは参加者にとって相応の緊張感を伴います。それは企業内で実施する場合でも同様で、いきなり広い場所に集められて普段接する機会がない他部署の人同士、すぐに打ち解けた議論などできない場合がほとんどだと思います。このようなワークショップの場で、参加者の緊張を和らげて参加者同士をつなぐ役割を果たすのが、ファシリテーターの存在です。ファシリテーターと聞くと司会進行役をイメージする方もいると思いますが、ワークショップの場では、「ファシリテーション」という要素が、ワークショップの「テーマ設定」「プログラム構成」「会場設営」と同等に重要であり、最終的な参加者の満足度も、実はプログラムの内容や結果よりもファシリテーションの質に大きく影響されることが多いのです。プログラムのデザインや場のデザインと同様に、ファシリテーションも「デザイン」する必要があるのです。

ファシリテーションをデザインし、質の高いものにするために何が必要か。
私の場合、まず、「デザイン」にあたっては、参加者から見て自分がどういう存在に見られたい(もしくは見られるべき)かを考えます。


どう見られたいか? 指南役、伴走者、案内者…。

ワークショップでは、ファシリテーターは研修の場でのそれとは違い、必ずしも 「教える人」とは限りません。参加者とともに何かに取り組む「伴走者」としてふるまう場合もあれば、裏方として参加者をそっと後押しする場合もあります。そのワークショップをどういう雰囲気の場にしたいのかによってファシリテーターの見られたい印象とふるまいも変わるのです。たとえば、参加意識が高く、何かをこの場で得たいという動機が強いワークショップの場合は、こちらもその期待にきちんと応える意志表明として、首から下げる名札入れには名刺を入れて「専門家の佐藤さん」としてふるまいます。逆に、日常とは少し異なる打ち解けた雰囲気を出したいときは、手描きの名札をつけた「史さん」としてふるまい、参加者をリラックスさせ、ここは安心して発言できる場なのだということを理解させることもあります。
自分は「伴走者」のつもりでファシリテーションしているのに、参加者に「この人は教えてくれる先生だ」と思われたままワークショップを始めるとどうなるでしょうか? 当然、参加者の満足度を下げる結果になります。もちろん、最初の挨拶で「わたしは皆さんの伴走者です」などと自己紹介をするわけではありませんが、少なくとも、ワークショップを始める段階で、自分はファシリテーターとして参加者とどういう形でコミュニケーションを図りたいのかを何らかのかたちで意思表示する義務があります。それをどう伝えるのかを考えることも、ファシリテーションデザインのひとつです。

ワークを実施している最中、ファシリテーターは、内容についていけない参加者がいないか、参加者同士の関係がおかしくなっていないか等、常に参加者の表情と動きをよく見て適度に介入します。時には、参加者同士を結びつけて何かを気づかせるために、あえて静観することもあります。
また、いろいろな人が参加する場である以上、たまに他者とは少し異なった意見を述べたり、異なる行動をとってしまう人もいます。その時は、その参加者に、他者と違うことで何か気まずい・恥ずかしい思いをさせないようにする気遣いも大切です(「多様性の許容」もワークショップにおける重要な要素のひとつです)。稀に、参加者がワークの内容に対してファシリテーターに異議を唱えてくる場合もあります。その場で相手の考えを傾聴し、時には軌道修正する即興力や、同時にゴールを見失わない意志の強さも必要です。

私は、ワークショップを通して、参加者にはものごとに対する新しい視点を得てほしいと思いますし、日常とは少し異なった空間関係・対人関係で何かをやってみることで気づきや発想をもち帰ってほしいと思っています。しかし、だからこそ予想しえないハプニングが起こる可能性が常に潜在していることも意識してファシリテーションする必要があります。


介入と静観のバランス。

 


多様性を保証し、疎外感を緩和する。

 


やり方は即興で変えても、ゴールを見失わない。

 


デザイナーに、ファシリテーション力が求められる


 

デザインという行為を、アウトプットするだけではなく、プロセスも含めた全員参加型のワークスタイルとして捉えているコンセントでは、クライアントワークとしても、広報活動の一環としても、ワークショップを実施する機会は今後さらに増えるだろうと思います。そこでは、私のようなプロデューサー職の人間ではなく、デザイナー自身がワークショップのファシリテーションをすることもあります。また、たとえワークショップの場ではなくとも、デザインという、ある意味では抽象的な活動に携わる以上、これからのデザイナーには、価値観の異なる他者同士を結びつけ、気持ちよく合意形成に至らせる能力が欠かせないものとなるでしょう。そのためには、人に対してどう促し・働きかけるのか、場の空気をどうやって形成し牽引していくのか…。ファシリテーションデザインは、デザイナーの基礎的素養としても今後より重要になっていくと考えます。

…では、たとえば、グラフィックデザインの何かを決めるときに、デザイナーは、クライアントに対して、どういうファシリテーションをしているのか? その事例は、また回を改めて述べたいと思います。

 

◆最後に

筆者は、昨秋、青山学院大学の社会人向け履修証明プログラム「青山学院大学ワークショップデザイナー育成プログラム」を修了しており、最近は社内外で「ワークショップデザイナー」を名乗った活動もはじめております。本稿の執筆にあたっても、上記プログラムの実習期間中に講師の方や一緒に履修した同窓生の皆さまからいただいた、たくさんの言葉や気づきを参考にさせていただきました。末筆ではありますが、ここに厚く御礼申し上げます。




アクセシビリティをテーマに、参加者が身体をつかっていろいろなことにトライするワークショップ「AccHop!!」。揃いのTシャツに手描きの名札をつけ、サブファシリテーターとして参加。

(ご参考)AccHop!! (http://acchop.com/


【執筆者プロフィール】
佐藤 史|サストコ

2015.05.28

執筆:大崎 優(取締役、サービスデザイナー)


潜在ニーズを発見できる新しい手法


生活者のニーズを拾い上げ、ニーズに沿ってサービスをデザインしていくHuman Centered Designのプロセスは、サービス開発をする現場で普及が進んできました。その手法はあらゆる分野での検討がなされており、実際に数多くのアプローチが実践されています。とりわけ、生活者自身が自覚していないような潜在ニーズの掘り起こしに対しては、競合優位性の高いサービスを生み出す可能性があるため、注目度も高く、行動観察手法などを導入している企業も少なくありません。中でも民族学的・文化人類学的手法をビジネスのリサーチに応用した、エスノグラフィックリサーチは筆者自身も数多く実施しています。

こういった潜在ニーズを掘り起こすリサーチは、調査する側に一定のスキルが必要であること、実施すれば必ず潜在ニーズが得られるといった確実性には欠けること、時間がかかり相応のコストがかかることなどさまざまな問題があり、定性調査としてハードルが高いものでした。

そんな潜在ニーズを掘り起こす定性調査の手法の一つとして「リビングラボ(Living Lab)」という取り組みが注目されています。

リビングラボとは、サービス開発プロセスにエンドユーザーを共創的に巻き込んで継続的に進行するプロセスのこと。サービス開発の初期段階から、ユーザーをコミットさせ、サービスアイデアの創出、タッチポイントのデザイン、プロトタイピングといった一連の流れを継続的に共創的に行っていくモデルです。

さまざまな研究者がそれぞれ違った意味でリビングラボを定義していますが、現時点では先述の定義が一般的になっています。米国で提唱されたと言われるリビングラボは、当初は文字通り実生活空間に近い「実験室」で、新しい技術を試す空間という位置づけでした。あるプロダクトや技術を、擬似的な生活空間の文脈の中で観察するためのリサーチ手法でした。その後、リビングラボは実験室の枠を超えて、エンドユーザーが主体的に開発プロセスに介入するという発展を遂げていきました。ユーザーを、観察対象から共につくるパートナーとして捉えるかたちに変化し、より社会性を帯びた活動へ発展していったわけです。欧州においては、行政のスキームにおける市民参加事業としてのリビングラボという色合いが濃く、多面的に捉えられる取り組みになっています。そのリビングラボがICTの発展とオープンイノベーションの高まりとに呼応する形で注目を集めてきているというのが現況です。

 


実際のリビングラボの取り組み


さて、ここでリビングラボの事例として、筆者が携わっている「子育てママ*リビングラボ」を紹介したいと思います。

「子育てママ*リビングラボ」は、子育てママの働き方と子育て、両面での支援のため、生活者、行政、企業、クリエイターが参画する共創型のプロジェクトです。 6ヶ月程度の継続的なプログラムが想定されたこのプロジェクトは、生活者である子育てママにも、リサーチ・インタビューの対象としてだけではなくすべてのプロセスに積極的に関与してもらい、アイデアソンの繰り返し、ブラッシュアップ、ハッカソンという流れを基本に、企業の課題や技術シーズなどの要素も取り入れながら行われます。

大阪市「東成区子ども・子育てプラザ」で開催されたキックオフイベントでは子育てママ、クリエイター、大阪市や東成区の行政担当者、複数の大手企業などさまざまな立場の方が参加し、子育てママの課題に対してソリューションを検討していきました。具体的には「家事の中で、ロボットに託したいこと、託したくないことは何か?」という題目のもと、家庭生活で生じている家事労働や育児の負担、コミュニケーションについての課題をワークショップ形式で洗い出していきました。そこで出た課題をカスタマージャーニーマップ(※1)などのサービスデザイン手法を用いて可視化したり、ビジネスモデルキャンバスなどを使いながら事業化に向けた検討も行い、まる1日をかけて、サービスアイデアを具現化していきました。

このリビングラボの活動の中で、参加したあるメーカーの開発者は、生活者の思わぬ生活行動やニーズをすくい取れたと発言していました。たとえば、子育てママの生活行動の中のある特定の時間に、ECサイトなどの販売チャネルの効果が最大化できるのではないかという仮説が立てられたと言います。企業内で検討している仮説とは異なる意外な視点が得られ、収穫があったようです。

※1 カスタマージャーニーマップ:生活者行動を可視化し、その行動とサービスの関係性、そこで起こる問題などを発見、共有するためのツール。

 


リビングラボの社会的意義


このように企業にとっては、自社内での研究や旧来のマーケットリサーチでは得られないようなニーズを発見することができます。そして一方で、生活者にとっては自分のニーズを社会的な問題解決のソリューションに役立てられる、社会貢献できるという意義があります。もしくは、この「子育てママ*リビングラボ」のように、同じ課題を抱えた仲間で集まれる、議論できるというだけでも、参加するママにとって大きな意義があるようでした。

たとえば、今回のアイデアソンで実施した、自分の一日の行動を可視化するカスタマージャーニーマップをつくる場面では、自分の生活を客観的に図示したことで、生活の中での問題点を発見することができたり、問題を把握し共有するだけで「辛いのは自分だけじゃない」という安心感を得られたような側面もありました。

参加する生活者にとってのリビングラボの意義はそれだけにとどまらず、参加することで生活者が経済的な対価を得られるしくみをつくり、新しい「稼ぎ方」を確立することも可能です。子育てママは、労働による対価ではなく、自らの市場価値に対して対価をもらえるようになるわけです。言わずもがなですが、今回の参加者である行政担当者にとっては、子育てママへの課題はそのまま行政課題に直結します。そしてクリエイターは、自らの創造性を社会に役立て、活躍の場を広げることができます。もちろん、単純に仕事を得ることもできます。

このように、リビングラボの活動は、User Centered Design から Citizen Centered Design的なものへの進化を辿っています。そして、このリビングラボの盛り上がりは、企業活動におけるCSV(Creating Shared Value)という概念の広がりに呼応しています。

CSVは、一般的にはCSR(Corporate Social Responsibility)の進化系として捉えられて話されることが多いようです。しかし、目指すところは大きく違っています。CSRは、利潤追求だけでない社会へ与える影響に対し責任をもつこと、もしくは、あらゆるステークホルダーからの要求に対して適切な意思決定をすることと定義されます。それに対し、CSVは社会的意義のある領域に、競合他社よりも先行的に投資し、あらたなブルーオーシャンを目指す、もしくはそのフィールドのルールまでも先行してつくってしまう、という極めて強い利潤追求型と言えます。

今回を例にすると、子育てママを救うという社会的にも賛同を得やすい意義を得て、それをビジネスチャンスとする、というしたたかな企業の思惑があるとも言えるのです。単なる社会貢献活動でも文化活動でもなく、れっきとしたサービス開発である点から、持続可能性の高い取り組み、ビジネスとして位置づけることができます。経済の歯車を回している実感があるからこそ、生活者も参加したくなる、という考え方もできるかもしれません。

 


リビングラボの課題と展開


さて、メリットばかりを述べたリビングラボの活動にも、当然課題があります。

一つ目は機密保持の観点です。企業では新サービスの設計は機密事項であり、密室での検討がなされます。社会性を帯びたリビングラボでは、オープンな場での検討が必須になります。

二つ目の課題は、知的財産権の問題です。サービスアイデアは本来的には参加している全員のものです。サービスが事業化され、利益が出たケースの対応は事前に明示化して進めなければなりません。

三つ目の課題はインセンティブの設計です。生活者が参加したいと思うにはどうしたらいいか、継続的に関わるのであればどうすればいいか、それぞれのステークホルダーのニーズを上手く活かす設計はなにかを充分に検討する必要があります。

このように、課題も多く設計の難易度も高い取り組みではありますが、先述したように社会的に意義もあり、実効性の高い取り組みとも言え、今後のデザインやマーケットリサーチの分野に強い影響のあるものだと考えられます。もしくは、アートの領域で言及される「Socially Engaged Art」のような社会のあらゆる領域との接続も可能なものとも言えるでしょう。

 

なお、本コラムでご紹介した「子育てママ*リビングラボ」キックオフイベントの模様は、下記サイトに公開されているレポートでご確認いただけます。合わせてご覧ください。
⇒ワーキングマザー応援サイト「WorMo’」(運営:コクヨ株式会社 WorMo’事務局)
http://www.wormo.net/topics/interview/84/

 

「子育てママ*リビングラボ」のキックオフイベント「子育てアイデアソン」は、主催・ソーシャルビジネスデザイン研究所、共催・大阪市東成区社会福祉協議会、協力・コクヨ株式会社、株式会社コンセント、大阪イノベーションハブ、東成区役所、で開催されました。

 


【執筆者プロフィール】
サストコ|大崎 優

【関連リンク】
ラボ(コラム)|カスタマージャーニーマップのパターン
セミナー・イベント情報|「子育てママ*リビングラボ」キックオフイベント『子育てアイデアソン』開催のお知らせ

2015.05.26

執筆:金子まや(コンテント ストラテジスト)

情報アーキテクチャを通じて世界をつなぐコミュニティイベント、World IA Day(WIAD)が今年も2月に開催されました。2012年にスタートし、年に一度世界各都市で情報アーキテクチャについてのイベントが同時開催されるこのWIADは今年で開催4回目となります(日本では昨年、大雪に見舞われ中止となりましたが…)。


(今回のコーディネーターの一人、UX Tokyoの山本郁也氏によるイントロダクションでスタート)

 

さて、World IA Day 2015ですが、「Architecting Happiness(幸福の構築)」を今年の世界共通のテーマとして開催されました。さらに日本ではローカルテーマを「身体性」として、IAとは一見関係がないように見える分野の方々が登壇し、それぞれが考える、人びとを幸福にするIAの身体性に関して語られました。

私は、ふだんの業務でIAとは切っても切れないContent Strategyに携わる身として、また以前社内イベントにお越しいただいたこともある『WIRED』の編集長の若林さんのファンとして、さらに数年前に『弱いロボット』を読んで以来、岡田美智雄さんにお会いしてみたいと思っていた身として、今回のWorld IA Day 2015に参加しました。

私自身も感銘をうけた『弱いロボット』の著者の岡田美智雄教授は、弱いロボットの研究を通して「”IA”とはなにか?」という根本的なことをわかりやすく語ってくれました。また、独立行政法人産業技術総合研究所主任研究員でニコニコ学会β実行委員長でもあるメディアアーティストの江渡浩一郎氏は、「身体を通しての“IA”」についてご自身の体験をもとに紹介してくださいました。また、ディスカッションに登壇した『WIRED』日本版の編集長の若林恵氏は、お二方の講演の話をふまえて、日本人の文化や性格などの話を織り交ぜながら、それまでのIAの話を拡散してさらに発展させてくれました。

それぞれ異なる業種の方々がIAに関して話すという、とても興味深くさまざまな気づきを与えてくれる一日でした。是非、当日の録画(https://www.youtube.com/playlist?list=PLUuTo1X6FU-RLE9EQLeVko-CPLVMpdVer)を視聴いただきたいのですが、5時間という長丁場でもあるため、私の視点からおもしろかった点、興味深かった点を中心に、当日の内容を少しご紹介します。

 


■“IA”とはなにか?(岡田教授の「“弱いIA”の可能性」から)


 

「ロボットの中に不完結さをつくることで、コミュニケーションのヒントが見つかるのでは」と、「弱いロボット」を研究している岡田教授。今回の登壇にあたり、「IAとはなにか」について考えた際、「わかりやすく情報を伝えることである」というシンプルな解答に至ったそうです。

伝わった相手も、情報を伝えることができた自分自身も嬉しくなる、というのが岡田教授による“Architecting Happiness”の解釈。
——では、その幸福を構築するために“完璧なIA”というものは必要なのだろうか? これまでの研究の中での「どこか不完結さをもったものの方が、相手は手を差しのべたくなるのではないか?」という仮説は、IAにとっても言えるのではないか。“完璧なIA”では、“一方的な発信者”と、“与えられて当たり前と考えてしまう受信者”という関係性を生み出してしまう。そこにはコミュニケーションは生まれず、結果、幸福は構築されないという構図になるかもしれない。——

IAとは、Webや紙をはじめとしたメディアに対して考えることではなく、もっと根本的に、そして原初的に人と人とのコミュニケーションを考えることだということ。Webや紙やロボットといったツールは、人間同士のコミュニケーションを考えるためのツールでしかないということを再認識させてくれる講演でした。

 


■身体を通して“IA”を考える(江渡氏の講演「ニコニコ学会β、wiki、パターンランゲージ…そして身体性へ」より)


 

岡田教授のわかりやすい”IA”の定義に続き、江渡氏の講演では、「相手にわかりやすく情報を伝えるにはどうすればよいか?」ということを、ニコニコ学会βの立ち上げを例にとり具体的に紹介してくださいました。結論から言うと「相手に伝わるようにストーリーをつくること」ということなのですが、ニコニコ学会βは、「学会という一般の人には馴染みがないものに対していかに興味をもってもらい、研究の内容を知ってもらうこと。そしてそれをキッカケに研究が認められ発展していくこと」を一つのストーリーとして立ち上げられたそうです。

また、スティーブ・ジョブズがあるスピーチの中で、リード大学でカリグラフィーの授業を受けたこと、そして、カリグラフィー教育においてリード大学は当時国内最高水準だったと称えている映像を紹介した上で、江渡氏自身が最近リード大学を訪れた際にお聞きしたお話に。そのカリグラフィーの授業は英文学の教授がつくったものであること。つくった背景には、「生活そのものに美があふれるべき」という想いがあること。授業をとった学生にはAdobeのディレクターもいることから、その教授の遺伝子が現在のIT産業に受け継がれ、AdobeやMacの根底となり結実しているという流れがあるのだと、江渡氏は感じとったそうです。

江渡氏の講演をお聴きして、「相手の視点に立つこと」と「ときには相手が予想もしないようなことをする」ということに、「わかりやすく情報を伝える」ためのヒントがありそうだと思いました。

 


■拡散する“IA”(パネルディスカッション、オープンディスカッションから)


 

岡田教授、江渡氏の講演を受けて、大林寛氏(株式会社OVERKAST代表)と若林恵氏(『WIRED』日本版 編集長)も交えてのパネルディスカッション、オープンディスカッションでは
・「弱さ」を分析することはできるのか
・「弱さ」を出すことによって、地位を築いていく。実は「弱さ」は「強さ」と紙一重なのか
・『ハフィントンポスト』と『WIRED』に見る、それぞれのコミュニケーションの違い(井戸端会議と木彫りのクマの話)
・日本ではTumblrと俳句は同じもの? 価値が生まれるコミュニケーションと価値が生まれないコミュニケーション
・「伝わる」の中にある誤解とそこから生まれる感情
など、さまざまな話題が展開されました。

このようにディスカッションで多くの話題が生まれたということは、情報が伝わったことにより、立場の違う登壇者・視聴者それぞれが、岡田教授が講演の中でおっしゃられていた「グラウンディング」(※)を起こした結果なのだと思いました。

 

以上、長くなりましたが、今回このレポートを書くにあたって何度も読み返すたびに新しい気づきが多く、登壇されたみなさんが語りたかったことを上手くこのレポートで伝えられたという自信は正直ありません。見当違いの解釈をしてしまっているところがあるかもしれません。
ただ、講演を聴き、自分がどう受け取ってどう考えたのかということ自体を整理し書けたことが、私の中でグラウンディングが起きたということなのではないかと嬉しさも感じています。

※グラウンディング:グラウンディングとはアフォーダンスにも近い言葉ですが、投機するものとそれをそっと支えるものがペアになるような状況。例えばなにげなく地面に自分を委ねる時、それは自分が地面に横たわっているだけでなく、地面側がそれを支えているとも考えられるというような考え方です。

 

【関連情報】
World IA Day 2015 公式サイト
World IA Day Japan 公式Facebookアカウント
World IA Day 2015 Japan 公式収録ビデオ

【執筆者プロフィール】
サストコ|金子まや

2015.05.08

※本コラムは、長谷川のブログ「underconcept」からの転載です。

Apple Watchを購入観点でじっくり見てみたら、ぐっときたのは無印ではあるものの13万円もするリンクブレスレットモデルではないか。さすがにちょっと、と躊躇して、会社で試験機として買った無印38mmスポーツバンドモデルでGW中に試用。以下ファーストインプレッション。
(上野学さんからご指摘いただき一部修正しました)


1. Apple Watchでなにをすべきかの期待値


こういったウォッチデバイスへの世の期待値が形成されていくことに伴って解決されることと思われるが、いまのところはApple Watchでなにをやるべきかについて迷ってしまう。これは、ユーザーサイドもだけど、サプライサイドも迷いが見られる。

ユーザー側には、まずはApple Watchで何ができて何ができないかの想像がつかないという問題がある。たとえば、ダイエットアプリのNoomは入力した結果を見るだけ(なのであまり使う必要はない)が、Evernoteは新規ノートを書き込める(のでけっこう有用)といったばらつきがあり、どこまでApple Watchに期待していいかがわからない。

これにともなって、ハニカムメニューのレイアウトをどうしたらよいかを決める基準が持てないのでわりとデフォルトからちょっといじって放置してしまっている。そもそもハニカムメニューを積極的に使うべきなのかどうかはまだよくわからんが、少なくとも利用頻度や、特性の類似性などで勝手にグループ化してくれたほうが便利な気がする。

同様に、「通知」に出てくるべき内容の取捨選択も自分で決めるのは難しい。現在、アプリ単位で外したり入れたりする仕様だが、筆者の状況では、Skype、Facebook、LinkedIn、SMS、メール(複数アカウント)、Google+といったコミュニケーション手段が混在しており、それぞれのなかで優先順位の高いものと低いものとがある。要は相手次第であって、アプリ次第ではない。いろいろ試した結果、FacebookとSMSだけ生かして後は通知させない設定にしてみた。さらにコミュニケーション以外の他のアプリからの通知はすべてオフにした。つけはじめに比べると急激に通知量は減ったが、いまのところ不便はない。できれば来た通知を選んで残す外すを決められる適応型インターフェイスにしてもらいたいところ。

設定における細かい話だと、Apple Watch側でにアプリを持たなくとも、iPhoneへの通知をそのままApple Watchにもってくることができるが、これらの違いや意味はちょっとユーザーには伝わらない。結論としては「なにを設定しておくべきか」を事前にユーザーに選択させるのは無理があるということがいえるだろう。


2. 意外と電話に使える


Apple Watchには物理ボタンが二つあり、その一つ(デジタル竜頭じゃないほう)は、お気に入り電話帳を呼び出すボタン。当初、電話はほとんどしないしと思って、プライオリティが低いと考えていたが、意外と便利に使えることが判明した。

Apple Watchを使ってみてからゴールデンウィークに突入したので家人との連絡の頻度が上がったということもあるが、iPhoneを出さなくとも電話ができる、かつそのデバイスをいつも身につけているというのは意外と便利だったのだ。iPhone 6 Plusにしてからいつもポケットに入れておくとかさばるので、鞄に入れっぱなしにしがちであったのがそもそも本末転倒なのかもしれないけど。

Skype等も含め通話のためのBluetoothヘッドセットはまあまあ持ち歩いているのだが、さすがにいつもというわけにはいかないので急に電話がかかってきたときとかに出るのに重宝した。そんなにつかわないけど、来るときは来る、というのがポイントだと思う(そのためにApple Watchに数万円払うのかというと疑問は残るが)。相手にどう聞こえているかはまだちゃんと確認していないが、スピーカーフォンとしてのApple Watchは問題なく使えている。

個人的には、最近メッセンジャーとしてFacebookメッセージをよく使っているので、電話帳からのメッセージは標準SMSだけでなく、一般のメッセージアプリにも対応してくれるとうれしいです。


3. Siri端末としての可能性


二つの物理ボタンおよびフェイスのタッチはいまだになにで何ができるのか混乱する。「グランス」と呼ばれるモード?がなんなのかもまだよくわかっていない。アプリ等を積極的に呼び出す使い方はあまり想定されていないのだろう。やはりApple Watchの真骨頂はSiriだろう。日常で便利さを感じたのは「明日の天気」とか「タイマーを10分にセットする」といったちょっとしたコマンド。これらをメニューを経由せずに、さくっとモードレスに使えるのはたいへん便利。いまのところは竜頭の長押しだが、Siri呼び出しの方法はかなりキモ。やはり「OK、Siri」?(補足:気づいていませんでしたが「Hey Siri」で立ち上げられました)


4. 既存端末との住み分け


筆者はライフログの実験のため、Nike FuelBandで過去数年分のログをためている。で、未だに左手にFuelBand、右手にApple Watchをつけているが(はい、自分でもあほらしいと思っています)、当然ながらFuelBandとApple Watchのアクティビティアプリはかぶっている。

すでにWithingsとRunKeeperとのバックグラウンドトラッキング(自動での一日のアクティビティ記録)はオフにしているが、Apple Watchをつけない日もあることを考えると、FuelBandを完全に捨てるのもなんなので悩ましい。Nike+ Fuelアプリには、FuelBandをつけていないときにiPhoneの内蔵万歩計で代替する機能もあるが、前述のとおりiPhoneを鞄に入れっぱなしにしていることが増えてこれは誤差が大きくなってしまった。Apple WatchでNike+ Fuelを貯めるというアプリがでてもいい気もするが、Appleは許さないだろうなあ。

ちなみに、自転車で出勤するとき、Apple Watch(ワークアウト)、iPhone(RunKeeper)、FuelBand(セッション)の3つでの同時記録を試みたが、ぜんぶ立ち上げる工程が複雑すぎて、ワークアウトアプリとRunKeeperしかログをとれていなかった(ちなみに、言わずもがなだが自転車自体にもサイクルコンピューターがついているので、そこでも距離等は記録されている)。RunKeeperは地図上に経路が出るが、ワークアウトアプリは距離が出るだけ、それぞれの誤差はRunKeeper: 7.21km、サイクルコンピューター: 7.30km、ワークアウトアプリ: 7.35kmと、まあ1%程度なので許容範囲。

ここまでくるとどこまで記録マニアなのかという気もするが、RunKeeperがあとで地図も見られることも考えると一番これからも使うような気もする。iPhoneを鞄に入れっぱなしでスタート/ストップできるのは大変便利なので。

余談だが、「ワークアウト」アプリを立ち上げる際に、Siriで「ワークアウトを始める」というとアプリが起動する。のだが、その「ワークアウト」というアプリ名を失念してしまい、「アクティビティを始める」とか、「ムーブを始める」とか、いろいろ試してしまった。アプリ名を知らないとSiriは使えないことを思い出させられた。

デバイスメーカーからすると自社のプロダクトおよびサービスで囲い込みをしたい気持ちはよくわかるが、ウェアラブルな製品はそれ単体ですべての状況に対応するとは考えがたいので、サービスでの相互乗り入れや互換性はやはりほしい。


まとめ


まだ、世のアプリ開発側がApple Watch前提になっていないために、いろいろな迷いが生まれているが、これを機に、ウォッチ型端末への期待値の標準化がなされていくだろう。で、もうちょっとできることのスタンダードは収束していくことと思われる。これは供給側も利用側も双方についていえる。こうしてみると、Apple Watchだけでなく、iPodにしても、iPhoneにしてもApple製品は世のデバイス生態系の標準化がなされていくことに関して常にリードをとれているということが見て取れる。

加えて、Siriの活用を前提としたアプリの使い方、情報の提供についてもApple Watchをきっかけによりこなれていくことが考えられるが、これはまだかなあ。


PostScript


ちなみに、このテキストは同時期に出た新型MacBookで書いてみている。今回久しぶりに既存マシンからのデータ移行を行わず、アプリもクリーンインストールして、データはDropBoxとiCloudにての移行。特に問題はなくセットアップできたが、いかんせんUSB Type-Cしか端子がついていないマシンなので、無線LANにての同期しかない。いやー、時間がかかった。

前評判が悪い新型キーボードは、JISキーボードだとたぶんぜんたいが若干左に寄り気味な感じで微妙なタイプミスが頻出している(トラックパッドとの兼ね合いもありJIKのあたりにストレスを感じる)。覚悟していたストロークは思ったより抵抗はない。むしろMacBook Airに戻ったら深すぎて違和感を感じた。せっかくなので?、ローマ字ではなくカナ入力を1時間くらい試してみたが、まだなれないのでローマ字に戻してしまった。

USB Type-Cは形状もLightningとにていて紛らわしい。これはType-C一本に集約するのであろうと思われるが、しばらくはType-CとMicro USBとLightningとで混乱しそう。意外に便利だったのが、USB同士ということでANKERのPowr IQ USB充電アダプタでMacBookが充電できたこと。サードパーティの対応も含め、こっちが標準になるのかな。

2015.05.07

Service Design division の川原田です。

2015年4月17日〜19日の3日間に渡って、世界で活躍するUXのスペシャリストたちが集うカンファレンス及びワークショップ「UX DAYS TOKYO 2015」が開催され、参加してきました。

本イベントは Web Directions East LLC 主催で、17日は5名のスペシャリストが登壇して最先端の取り組みを紹介するカンファレンス、18日・19日はその5名が実際にUXの手法を参加者に直接指導するというワークショップ、という構成でした。
参加者のうち9割以上は日本人で、その多くはUXに関心のあるWebやアプリ開発に関わる業種の方だったようです。

(同じ業界の方が多数いたためか、開始前に関わらずすでに賑わっていました)

また、コンセントは本イベントにおけるゴールドスポンサーとして協賛しており、ランチタイムには Service Design division の担当役員でもあるサービスデザイナーの大崎が、直近のプロジェクトにて実施した「Concent Service Design Sprint」について紹介しました(※)。15分ほどの簡単な紹介でしたが、スライドの写真を撮る参加者の方も多く、注目度の高さを感じました。

※「Concent Service Design Sprint」とは
「Design Sprint」とは、Googleの投資部門Google Venturesがスタートアップ支援のために開発・実践している方法論で、ビジネス上の課題解決を目的に、5日間で顧客と一緒にデザインやプロトタイピング、アイデアのテストを行うというものです。この短期間でのフローをヒントに、調査・観察、仮説・方針設定、コンテンツ開発・企画、ラフプロトタイピング、ユーザーテストまでを短期間で集中的に実施するものを「Concent Service Design Sprint」とし、ここでは5名のメンバーにて6週間で行った例を紹介しました。

 

(大崎がランチタイムのプレゼンにて、「Concent Service Design Sprint」を紹介)

また、本イベント名にも掲げられている「UX」、すなわち「ユーザー体験」とは、個人的には、身の回りのあらゆるシーンにおいてユーザー自身が体験し、意識的・無意識的に関わらず感情を動かされるようなモノ・コトすべてを包括するような、広義の空間的な広がりのあるものと捉えています。

Webやスマートフォンの登場によって、人が生活する上でのUX、つまり先ほどの視点で言えば生活空間、あるいは生活環境に対して、ユーザーが表情を与え、その質を変化させてきたように、世の中のテクノロジーの加速度的な進化・発展は、それが倫理や道徳といった社会制度的な文脈に反することのない目的で用いられる限り、人間の文化的な活動領域を着実に拡張し、変革していくものと言えます。

そういった中でのUXを考えたとき、社会の変革に伴って我々はどのような観点をもって将来的な課題に取り組んでいくべきか、またはある種オルタナティブな設計思想が必要と言えるのか、UXに関わるスペシャリストとしての考えや姿勢を知りたいという想いが私自身の参加背景にありました。

前置きが長くなりましたが、以下、個人的な所感を交えて各セッションの要点をご紹介します。

 


■ MAGICAL UX AND THE INTERNET OF THINGS(インターネット・オブ・シングスと魔法のユーザー体験)/Josh Clark


著書『Tapworthy: Designing Great iPhone Apps』等で知られるUXデザイナーJosh Clark氏による、IoTの最新事例の紹介と、それが進む中でもつべきUX観点についての話でした。SF映画と合わせて実際に開発されているIoTの実例を示し、これまで映画の世界で魔法として描かれてきたようなことが、デジタルインタラクションやセンシング技術の発展によって現実のものとなりつつあることが紹介されました。

「世界は大きなキャンバス」であり、大きな可能性があるとする一方で、技術は人間性の延長として用いるべきもので、我々はもっと創造力を磨くべきだとJosh Clark氏は説きます。

また携帯電話の登場によって我々はデジタルの世界に閉じこもりがちになることで、現実の世界で起きていることの多くを見逃してしまっていることを危惧し、そういった視点からもIoTの活用によって物理的な世界との繋がりをつくっていくことが重要と述べていました。

 


■ Orchestrating Experience(エクスペリエンス<経験>を組織で共有する)/Chris Risdon


Adaptive PathのディレクターであるChris Risdon氏による、サービスエクスペリエンスについての話でした。顧客にとっての体験は一貫したものであるべきとし、正にサービスデザインの重要性が説かれました。

タッチポイントはオーケストラにおける音符であり、一連のストーリーとして組織全体でエクスペリエンスを共有し、ユーザー中心で設計がなされる必要があると提言していました。

 


■ Rapid Design & Experimentation for User-Centered Products(動きの早い設計とユーザー中心の製品を生み出す検証とは)/Kate Rutter


Adaptive Pathでコンサルティングの部長を務め、Luxr.comの創設にも携わったKate Rutter氏による、Rapid UX手法の紹介でした。

近年UXの手法がよりスピーディになっているというトレンドとその有用性を示した上で、デザインのサイクルを早期に回すLean UXの手法として、実際にどう手を動かすべきか、ということを9つのツールとして具体的に紹介してくれました。これらのツールを柔軟に組み合わせることで、さまざまな手法に応用が可能であると言えます。

普段から使用しているツールとして馴染みのあるものが大半でしたが、一般向けにデザインの手法を説明する際などに大変有効であると感じました。

 


■ How To Listen(ユーザーの声に耳を傾ける)/Nate Bolt


FacebookとInstagramでUXデザイナーを務めたNate Bolt氏による、デザインリサーチについての講演でした。AirbnbやFacebook、Flickr等を例に、ユーザーにとってそれが本当に使いやすいものとなるためには、適切な場面で適切なリサーチが重要であることが説かれていました。

個人的には、デザイン会社として強みをもてるのは、ユーザー調査の結果からどういった立脚地で価値を抽出するか、そしてそれをどのように体系化・構造化するか、という点を重視することにあると捉えていましたが、近年リモートUXリサーチのツールが充実してきていることもあり、調査手法自体もやはりデザインの対象として当初から計画することが重要であることを再認識しました。

 


■ Connected UX(UXのデータを繋ぐために)/Aaron Walter


世界最大のメール配信サービス「MailChimp」のUXディレクターAaron Walter氏による講演でした。

特に興味深かったのは、ピラミッド図で「(上から)WISDOM-KNOWLEDGE-INFORMATION-DATA」という概念図を示したものでした。我々が活用し得る「叡智」は大量のデータをベースとして、情報、知識として精錬させていく先にあるものであると述べています。

また、日々の大量のメール処理のために「Evernote」を利用することでデータの集約化を図ったことを始めとして、データを繋ぐことで人を繋ぎ、チームメンバーにとってのユビキタス環境の実現によって領域の横断が容易になり、より快適な仕事環境が構築できることが紹介されました。

身の回りにデータが溢れ返る現代において、最適な形でそれらをピックアップし、正に「叡智」としてチームビルディングに活用した好例と言えるのではないでしょうか。

(予定されていたすべての講演を終えて、5名のスピーカーが集合)

 

各セッションについての要点は以上になります。
以下、全体を通しての所感です。

今回、本イベントの開催目的としては、UI設計におけるUXの重要性を伝えることが掲げられていましたが、実際にはやはりUIに限った話ではなく、発展するテクノロジーや氾濫するデータ、そしてそれらを包含する社会に対していかに人間中心という視座で向き合うか、という基本的な姿勢を示すものであったと感じました。

特に、個人的に最も印象的だったのはJosh氏が指摘していた点です。すなわち、「Webやアプリはデジタルの世界の話であり、スマートフォンやPCを使用しているのは現実の物理的な世界においては静的で閉塞的な状態に過ぎない」ということです。「歩きスマホ」という社会問題が生じるのは、このデジタル世界への静的な没入状態と、現実の社会において生活を営む動的な状態との次元の違いに摩擦が生じているためであると言えます。前半部で述べたような空間的なものとしてのUXとして考えるならば、すべては現実の物理的で流動的な環境にユーザーがいることを前提として、デザインされるべきです。その意味で、IoTの応用によってその摩擦を、Josh氏が示したように魔法のごとくビジブルな形へ昇華させることは、この問題を解決する糸口になりうるものと考えます。ないしはそれ以上に、新しい文化領域の発展を体現しうるツールと言えるかもしれません。無論、そこには技術を扱う人間自身がどのように振る舞うかという視点が軸としてあるべきでしょう。

全体のセッションを通じても、やはり根底にあるものとしてユーザー中心、もっと言えば「ユーザー」というある意味神格化されたモデルよりも、より根源的なものとしての「人間」がいることを再認識し、改めて人間中心設計という必然に帰着することを感じました。

 


【執筆者プロフィール】
川原田 大地|サストコ

【登壇者プロフィール】
大崎 優|サストコ

【関連リンク】
ニュース|「UX DAYS TOKYO」にゴールドスポンサーとして協賛
UX DAYS TOKYOオフィシャルサイト

2015.03.03

※本コラムは、一般社団法人 日本BtoB広告協会発行の月刊『BtoB コミュニケーション』2015年1月号への寄稿原稿のオリジナルです。(執筆者:コンセント取締役/インフォメーションアーキテクト 山中 健一)


1.はじめに


B to B企業にとって、企業サイトは重要なコミュニケーションツールでありマーケティングツールである。特にグローバル進出をはかる企業にとって、いつでもどこでも見ることができるという特性をもつWebサイトがもつ価値は大きい。そしてその価値を最大限に活かせるWebサイトの構築・運用には、「Webガバナンス」が重要となる。
本稿では、グローバルという観点から、企業サイトの役割や価値を整理するとともに、Webガバナンスの必要性と気をつけるべき3つのポイント、実行するためのプロセスである「エンタープライズ情報アーキテクチャ(EIA)」について紹介する。

 


2.なぜ、グローバルWebガバナンスが必要か


■2-1.企業サイトの役割

まずは企業サイトの役割からみていこう。
マーケティングツールやブランディングのツールというのはもちろん、株主への情報提供や情報管理ポリシーの開示といったコーポレートコミュニケーションのためのツールであったりと、企業サイトが担っている役割は非常に大きく、企業方針や戦略と密接な関わりをもっている(図1)。なんらかの情報を得ようと期待してWebサイトを訪れる顧客や株主、社員、社員の家族などさまざまなステークホルダーに向けた情報を適切に扱い、企業の情報資産として活用するところが、企業サイトの特徴であると言える。

(図1:企業サイトに影響する要素)

 

■2-2.グローバルでの企業サイトの価値

では、グローバル視点においての企業 サイトの価値とはなんだろうか。
日本国内では有名企業であっても、海外では知られていないことも多く、前述した企業イメージや情報を伝える役割としてのWebサイトを整備しておくことは世界をマーケットとする企業にとって不可欠である。リアルな営業拠点を海外にもつことは時間やコストがかかるが、Webサイトは比較的短時間で立ち上げることができるため、企業の情報を発信し、リアルな打ち手が届いていない国や地域の人々にもアプローチできることが、グローバル視点で活動する企業にとってWebサイトの最大の価値と言える。そしてその価値は、企業サイトのもつ役割の中でも特に「ブランディング」「マーケティング」「サポート」という3要素において顕著になる。

 

[ブランディングにおける価値]

テレビのコマーシャルなどのマスメディアにも露出していない地域や国においては、聞いたことのない企業やその商品について、取引相手が情報を得る主な手段はWebサイトとなるのは想像に難くない。そういった地域においてはWebサイトが企業ブランドイメージとイコールとなり、企業にとってWebサイトは、自社ブランドを伝えるためのコミュニケーションツールとして、非常に重要な役割を果たす。

 

[マーケティングにおける価値]

Webサイトの特徴の1つである「すぐにコンタクトできる」点を活かすことで、リアルな営業拠点がない地域や国からも、意見や問い合わせをもらえる(当然、Webサイトを訪れてもらう布石が必要であるが)。
「資料がほしい」「デモンストレーションをしてほしい」といった、セールスにつながる問い合わせが得られると同時に、Webサイトから取得できるデータを解析・活用することで、その問い合わせがどの地域の人からで、何が必要とされているのか等を考察することが可能となり、商談にも活かすことができる。
また、営業拠点がある地域にとっても、Webサイトは営業の強いサポートツールとなる。Webサイトに情報が整備されていることで、企業への信頼につながり、サービスや商品の情報提供はもちろん、営業スタッフが顧客に説明したことの裏付けや伝えきれなかったことの補足など、営業フォローツールの1つとして果たせる役割は大きい。

 

[サポートにおける価値]

問い合わせが得やすいということは、マーケティング価値だけではなくカスタマーサポートにおける価値もある。営業拠点がない国や地域においても、本社などである程度の対応ができることはもちろん、問い合わせデータを集約・管理することで得られる利点は高い。逆にWebサイトが整備されておらず、問い合わせが即座にすることができない場合などは、容易に機会損失につながってしまうだろう。

 

このようにブランディング、マーケティング、サポートの3つの観点でみても、いつでもどこでも見たり問い合わせたりできるWebサイトは、グローバル展開を考える企業において時間や距離的な問題を解決でき、機会獲得にもつながる重要なツールであることは疑う余地がない。

 

■2-3. Webガバナンスの必要性

ほとんどの企業は、企業サイトの他にも、キャンペーンサイトや商品サイト、ECサイトなど複数のWebサイトを運営している。特にグローバル展開を進めている企業では、本国サイトもあればグローバルサイト、各ローカルサイトもあるといったように、大手企業では1,000以上のWebサイトを運用しているケースもあるだろう。複数サイトをもつ企業では、個別のWebサイトごとに運営担当者がいて、ユーザーに向けて日々情報を発信する。ユーザーは必要なときにWebサイトを訪れ企業の情報を受け取り、同時に企業イメージや商品イメージといったものを蓄積している。企業はWebサイトを訪れたユーザーの行動や問い合わせ等からさまざまなフィードバックを受け、運用・改善に活かしていく。こうした一連のサイクルの中で、多くのステークホルダーが関係し、Webサイトは成り立っている(図2)。

(図2:企業サイトに関係するコミュニケーション)

 

複数サイトを運営する場合には、個々のWebサイトの質だけではなく、企業が保有する全てのWebサイトを総体(Webサイト群)としてみて、一貫した企業イメージや情報を伝える必要がある。だが、個々のサイトごとにも異なった方針や役割があり、運営担当者もそれぞれに存在する状況下では、掲載する情報や伝え方を担当者や各部署の判断で行っており、企業としての一貫性が伝わってこないというケースは多くみられる(ここでの一貫性とは、見た目を完全に揃えるといったことではなく、企業総体としてのイメージが伝わっているか、という意味である)。
個別ではなく「総体」としての観点から一貫性のあるWebサイトを維持、運用していくためのルールづくりやインフラ整備、運営体制の構築などの統制をとっていく。これがWebガバナンスであり、特に複数サイトを保有し、多様なステークホルダーが関係する企業にとって重要なこととなる。

 

■2-4. Webガバナンス欠如による3つの損失

Webガバナンスを重視する背景には、その欠如による「運営コストの増加(重複投資)」「企業イメージの毀損(ブランド毀損)」「機会損失(期待値の低下)」という、主に3つの損失が起こる可能性への危惧がある(図3)。

(図3:Webガバナンス欠如によって起こる3つの損失)

 

[運営コストの増加(重複投資)]

多くの Webサイトを保有し、多数の担当者が関わっている場合、Webサイトごとにリソースが分散し、結果として同じような情報やコンテンツを制作しているケースもみられる。同じ企業であれば、基本的には同じ情報を同じように扱うべきであるところを、個別の担当者が個々の考えを反映することで、似て非なる情報が作成されることは時間やコストの無駄と言える。これは人だけではなく、機能やインフラ面においても同様だ。本来複数のWebサイトがあるということは、それだけ多くの有益なデータを保有していることになるが、たとえば個別サイトごとにしかデータの管理がなされていない場合、同じような分析をサイトごとに行っていたり、全体でデータのシェアがなされていないという状態では、せっかくのデータも活用することができず、機会損失につながる。
企業として統一した見解やルールで組織やインフラを整備する、といったWebガバナンスを行うことで、重複投資の回避や機会創出が可能になる。また、多くのWeb担当者はマーケティング担当や広報担当、宣伝担当などが兼任になっている場合も少なくなく、こうしたルールや組織などの整備により個々の判断が不要になる部分も多くなることで、本業に時間を使えるようになるというのも、効率化のメリットの1つとしてあるだろう。

 

[企業イメージの毀損(ブランド毀損)]

2つ目に挙げた「企業イメージの毀損(ブランド毀損)」の「イメージ」とは、デザインや動的振る舞いである「Look and Feel(ルック・アンド・フィール)」※1と、「掲載する情報」の2側面を指す。


※1 Look and Feel…グラフィカルユーザインタフェースにおける色、形状、レイアウト、書体のような要素を含むデザインの側面(ルック)と、ボタン、ボックス、メニューといった動的振る舞い(フィール)からなる(出典:Wikipedia)

 

Look and Feelという観点では、たとえばロゴの位置や大きさが異なっていたり、ロゴにキャッチコピーのような文章を独自に付けていたりなど、個々のWebサイトごとで独自デザインを展開することによる企業イメージの統一感の欠如がある。
一方の情報という観点においては、たとえば堅実なイメージをもつ企業であれば掲載情報からも堅実さを感じられることをユーザー側は無意識に期待するが、統制がとれていないと情報から企業イメージとは異なる印象を受け取ることもあり、場合によっては企業や商品の信頼性にも影響が出てしまうだろう。
情報をどのようなトーンアンドマナーで伝えていくのか、Webガバナンスの観点から決めていくことで統一した企業イメージを発信できる。

 

[機会損失(期待値の低下)]

関係するWebサイト同士で連携ができていなかったり、情報の伝え方の統制がとれていないと、ユーザーは求めている情報が得られず、ユーザーにとっても企業にとっても機会の損失が起こりうる。「情報を得たい」「問い合わせたい」といったように、ユーザーは何かしらの期待値をもってWebサイトを訪れるため、それが叶えられなければ期待値は下がり、他に類似サービスや商品を扱う競合があればそちらに流れてしまいかねないのである。
関係するWebサイト同士の連携がとれていない例を紹介しよう。アメリカ向けに英語のWebサイトをもつ企業があったとする。ところがアメリカには、英語が読めずスペイン語しかわからないといった人もいる。そうしたユーザーが同じ企業の南米向けのスペイン語で書かれているWebサイトにたどり着いた上で、「この商品について問い合わせしたい」と思い、「同じ企業のWebサイトだから大丈夫だろう…」と南米向けのスペイン語のサイトから問い合わせてみた、というケースがあったとする。しかしながらアメリカの英語サイトと南米のスペイン語のWebサイト間での連携がとれていなければ、この問い合わせは、おそらくうやむやにされてしまう。結果、カスタマーサポートが途切れてしまい、クレームや機会損失につながることもある。
こういった問題を回避するには、組織として関係するWebサイト間で連携をとるための体制を整備しておくことが重要になる。

 


3.グローバルWebガバナンス


実際にWebガバナンスを進めるにあたっては、筆者のこれまでのプロジェクト経験から、「グローバルサイトの在り方」「地域と言語」「運用体制・ガイドライン・CMS」の3つのポイントをおさえるべきだと考えている。

 

■3-1.グローバルサイトの在り方

[グローバルサイトとは?]

グローバルサイトとは、「全世界に向けた情報」を発信するためのWebサイトである。ゆえに、たとえば日本企業がグローバル進出にあたり英語サイトをつくらねばと、サイト設計もコンテンツも日本サイトそっくりそのままで、全て英語に翻訳しただけのWebサイトがグローバルサイトと呼べるか?というとそうではない。英語サイト=グローバルサイトではない、ということをまずは認識する必要がある。
グローバルサイトに掲載する情報は、グローバル展開におけるマーケティングやブランドコミュニケーション戦略をふまえた上で、「全世界に向けて発信すべき情報は何か」という観点で検討していくこととなる。たとえば、日本国内でしか販売していない商品情報を世界各国の人々が知りたいか、知りたいとしたら情報の粒度はどのくらいか、といったように。
以下、「グローバルサイトの役割」と「グローバルサイトと本社サイトの関係性」の2つの観点から、グローバルサイトの在り方をみていきたい。

 

[グローバルサイトの役割]

グローバルサイトには、「誘導」「訴求」「補完」の3つの役割がある(図4)。

(図4:グローバルサイトの役割)

 

「誘導」とは、各Webサイトへのゲートウェイやハブとしての役割のことである。グローバルサイトはWebサイト群のヒエラルキーでは上部に位置づけられ、適したWebサイトへと誘導する役割を担う。
2つ目は世界に向けて何を訴えたいのか、企業ブランディング、コーポレートコミュニケーションとしての「訴求」である。
最後の「補完」は、営業拠点やローカルサイトを展開していない国や地域のサポートとしての役割で、具体的には問い合わせ機能や製品情報の提供などとなる。
以上3つの役割をどのようなバランスでもたせるかにより、グローバルサイトの在り方は異なってくる。たとえば企業イメージの浸透を図りたいといった場合には「訴求」の役割を大きくもたせるグローバルサイトとして位置づけ、日本をはじめ各国サイトで訴求している商品情報等の上位概念となる情報 ——フィロソフィーや企業の歴史、R&D等 —— をメインに伝え、商品情報の要約のみ載せておき、詳細については各国サイトをみてもらうといった「誘導」の役割を必要に応じて入れておく、といった具合である。

 

[グローバルサイトと本社サイトの関係性]

グローバルサイトの役割や企業形態により、グローバルサイトと本社サイトとの関係性は、「グローバルサイト=本社サイト」であるか否かの2つに分かれる。グローバルサイトにてどのような情報を発信していくかを判断する際は、この関係性を考慮する必要がある(図5)。

(図5:グローバルサイトと本社サイトの関係性)

 

Apple社やMicrosoft社のように主にアメリカに本社があるグローバル企業などで、かつ製品情報に地域性がない場合は、本社サイトの情報をほぼそのままグローバルサイトで配信していることが多い。つまり「グローバルサイト=本社サイト」という関係性となる。
一方、各地域性をもたせたマーケティングとグローバルコミュニケーションを両立させる必要がある場合には、「グローバルサイト=本社サイト」ではない関係性となり、グローバルサイト用にコンテンツ作成やサイト設計を行い、情報発信していくことが必要になる。

 

■3-2.地域と言語
次にグローバルWebガバナンスにおける2つめのポイントである「地域と言語」についてみていく。

 

[地域]

地理学上での分け方の1つに、世界をアジア、ヨーロッパ、アフリカ、北アメリカ、南アメリカ、オセアニアの6大陸に大別する方法があるが、企業のWebサイトにおいては、世界の地域分けは企業の運用形態を如実に表すこととなり、事業戦略とサポート体制の2側面から考えるべきである。
つまり企業としてどの地域に投資したいのか、どの市場にどのような製品・サービスを提供するかという事業戦略の観点と、たとえばEMEA(Europe, the Middle East and Africa)の単位でサイトの運営を行う場合に、組織の体制として問い合わせへのサポートをしっかり行えるかというサポート観点で考えることである。ヨーロッパ支社では対応しきれないときには、アフリカや中東を地域分け上独立させ、問い合わせ対応は本社で行うといったように、サポート体制も踏まえて検討する必要がある。

また、地域分けにおける日本企業にみられる傾向として「日本、アジア、ヨーロッパ」といったように日本を地域の1つにして扱っていたり、各国のサイトへのリンクを並べる順番も、通常は50音順などの規則で並べているところを、日本を最初に配置したりというように、日本を特別扱いすることがある。日本企業だから日本を一番に訴求したいという意図はわかるが、日本以外の国の企業ではこの傾向はあまりみられないため、グローバル視点では、疑問に思う人も少なくないだろう。リンク先の日本サイトにおいて、英語を提供していない場合はなおさらである。さらに、社内に対してのガバナンスにおいては本社特別扱いのようなイメージとなり、各国に厳守させているルールでも日本だけ例外をゆるすなど、統制が崩れているケースもある。たとえば「ジャパンブランドを掲げる」といった明確で強いビジョンがあり、あえてやっているのであればよいが、ガバナンスが効かなくなる可能性があることを認識し対応方針を決めておく必要がある。

 

[言語]

どの言語をカバーするかだが、重要視すべき1つに世界で多く使用されている言語という観点がある。母国語人口、公用語国、そして言語別インターネットユーザー数で比較してみよう(図6)。公用語国と言語別インターネットユーザー数でトップの英語、母国語人口トップかつ言語別インターネットユーザー数で2位の中国語は必須であると言える。

(図6:グローバルでの必要言語。トリップアドバイザー「世界で最も交わされている挨拶は?」2013年2月13日 http://tg.tripadvisor.jp/languages/ のデータを参照し、筆者がまとめたもの)

 

英語、中国語の次の言語としては、上位にランクインしているスペイン語、ビジネス上重要視されているフランス語やドイツ語、アラビア語などが候補に考えられるが、どういった情報を誰に届けるのかということが一番重要であり、企業がどこを狙っているかという需要によって言語展開の優先度を考えるのがいいだろう。この考え方はグローバルサイトだけではなくローカルサイトでも同様である。
ただしB to Cビジネスの場合は事情が異なる。Webサイトのメインユーザーが取引先企業で使用言語を割り出しやすいB to Bビジネスと異なり、B to Cビジネスでは世界のどの地域の人がグローバルサイトに訪れるのかわからない場合もある。まずは英語をおさえるというのはB to B ビジネスを行う企業と同じだが、その次に展開していく言語はリサーチなどの手段で使用言語を割り出すか、図6のような世界の公用語国などを参考に展開していくといい。
また、カナダのように公用語が複数ある国では全ての公用語での等しい情報提供が法的に求められている国もあるため、注意されたい。

 

■3-3.運用体制・ガイドライン・CMS

問い合わせ対応や地域、言語を検討する際、グローバルWebガバナンスでは運用体制が非常に重要となる。そして運用体制づくりにおいては、人的配置以外にも、ガイドラインなどのルールをしっかりと整備しておくといったことが必要だ。

ガイドラインにはいろいろなものがあるが、大きくは制作のためのガイドラインと運用・管理のためのガイドラインに分かれる。制作のためのガイドラインは、たとえばデザインに関するルールなどで、色や書体、文字のサイズを細かく決めているものからテンプレートといったものまでさまざまなものがある。一方の運用のためのガイドラインでは、問い合わせやトラブル対応など運用上発生する事柄に対してのオペレーションや心得等を決めておく。また、コンテンツの制作から承認、公開するまでの業務フローといったものも含まれる。
その他にも、ドメイン運用やアクセシビリティ、SNSやアプリの制作・運用に関するガイドラインなどがある。またVIやCI、ブランドコミュニケーション、コンプライアンスガイドラインといったWebサイトのためだけに策定されていないものもWebガバナンスには関わってくる。

ガイドラインはただ単にルールを策定するだけではなく、それぞれのガイドラインの位置づけや、どのように関係し紐づくのかを整理・設計することで、ガイドラインをガバナンスのツールとして活用できる。また、ガイドラインを配るだけではなく、説明したり困った場合にフォローできる仕組みを構築しておくことで、理解が深まり、より活用しやすくなるだろう。
「ガイドラインはどうせ読んでもらえない」ということを聞くが、読まれないからといって基準づくりを放棄してはWebガバナンスにおいて致命的となる。判断すべき場合において、その判断基準が個人の考えではなく、企業全体で決めたルールとなっていることが大切だ。

そして早い情報発信、情報統制等の点からCMSも重要になる。グローバル展開していけばいくほど扱う情報やステークホルダーの数も多くなる。また、特に大企業ではコンテンツ公開までの承認フローが複雑といったこともある。運営担当者のITリテラシーもさまざまで、自身でHTMLを書けない場合がほとんどだと思われるが、更新ごとに制作会社に発注していては迅速な情報発信ができない。
CMSを導入することで、コンテンツ作成、承認フロー、情報一元管理といったことがシステムで管理できるようになる。最近では、翻訳のフローも含めある程度自動化して翻訳するといった仕組みも組み込め、複雑でない情報であれば、日本語で書いた情報を多数の言語に翻訳して本社から同時リリースしたいといった多言語展開にあたってのニーズに対応することも可能となっている。
選定にあたっては、Webサイト間での連携のしやすさを考えると、グローバルレベルで同じCMSを利用した方がよい。また、CMSはそれぞれ特長が異なるため、導入には各CMSの特長を検討し選定しないと、思っていた効率化も図れず無駄な投資になりかねない。「CMSで何がしたいのか?」を整理した上で、専門業者などの知見者に相談することをおすすめする。

 


4.EIAについて


最後の項では、グローバルWebガバナンスを実行するための考え方やプロセスの枠組みの1つであるEIA(Enterprise Information Architecture:エンタープライズ情報アーキテクチャ)を紹介する。

 

■4-1.EIAの考え方

EIAでは、企業がもつ全てのWebサイト総体という広い視点で、企業が扱う情報を資産として捉えより有効活用できるよう、情報設計の方針、動線設計、Webサイト構築方針を、全体(トップダウン)と個別(ボトムアップ)の両方のアプローチから検討する(図7)。

(図7:全体最適と個別最適によるEIAの構築)

 

全体(トップダウン)のアプローチでは、企業のブランディング、最低限の品質担保を念頭におき、全体のレギュレーションを考えていく。Webサイト群全体をどう扱うかという観点から、VIルールや各Webサイト間の連携、載せるべき情報の方針、共通のCMSなどの基盤技術、運用方針やフロー、体制など、全体でのルールを設計していく。
一方の個別(ボトムアップ)では、個々の製品・サービス効果や運用効率を念頭に、各Webサイトの独自性に関わるルールをつくっていく。企業ブランドを守りつつ、たとえば製品サイトとしてどのように特徴を出していくのかといったように、個別の製品やサービスのブランディング、キャンペーン企画など、細かいレベルでユーザーと向き合う接点のところを考えていく。
このように、全体(トップダウン)と個別(ボトムアップ)の双方からアプローチして最適化していくことで、ガバナンスを構築していくという考え方がEIAであり、最終的なアウトプットとしては、ガイドラインや、Webサイト群構造、Webサイトテンプレート、運営組織構築などとなる。

 

■4-2.EIAの実施で得られる効果

EIAを実施することで得られる効果には、「企業」「社内ステークホルダー」「エンドユーザー」の3つごと次のようなものがある(図8)。

(図8:EIAの実施で得られる効果)

 

企業にとっては、前述しているようにブランド毀損や重複投資の回避、ブランド価値の向上がある。Webサイトを運用している社内のステークホルダーにとっては、運用効率の向上が見込まれるため、本業への専念やそれによる機会創出につながる。そしてエンドユーザーにとっては、欲しい情報があり探しやすいといったところから情報取得効率の向上となり、それに伴って機会獲得につながり、問い合わせの回答がスムーズに返ってくる等によるストレスの軽減といったことが挙げられる。

 


5.おわりに


企業のグローバルWebガバナンスの必要性を説明してきた。特にBtoB企業にとってWebサイトはまだまだ活用できるコミュニケーションツールであり、その可能性を試すメディアであるが、企業としての情報を発信している以上、そのガバナンスは必要最低限のお作法が不可欠だ。企業として統制されたガバナンスを行った上で、情報を発信していかなくては、Webサイトを利用した新しい信頼をユーザーから得ることが難しくなってきている。マルチデバイス化して、いつでもどこからでも情報にアクセスできる時代においては、企業として、統制された情報をどのように発信していくかが、他社との差別化の重要なポイントとなるだろう。

 

【執筆者プロフィール】
山中 健一
(株式会社コンセント取締役/株式会社AZホールディングス執行役員/HCD-Net認定 人間中心設計専門家/インフォメーションアーキテクト)

1995年よりグラフィックデザイナーとして国産自動車メーカーの販売カタログなどの制作に携わり、その後、CD–ROMやキオスク端末などのユーザーインターフェイスデザイナーを経て、1999年よりWebデザイナー/アートディレクターとして活動開始。大手電機メーカー製品サイトやECサイトの立ち上げから、大手企業のコーポレートサイト、キャンペーンサイト、IRサイト、イントラサイトなどの情報設計・デザイン・構築など数多くのプロジェクトに従事。

2004年にNEC「ecotonoha(エコトノハ)」プロジェクトにて、カンヌ国際広告コンクールでのインターネット部門でのグランプリ受賞を始めとする、世界3大広告賞をプロジェクトメンバーとして受賞。2007年よりWebコンサルティングファーム サイエントジャパンにて、プロジェクトマネージャー兼インフォメーションアーキテクトとして、グローバルサイトを始めとした大規模サイトの設計・構築、ガイドライン策定などに従事。2009年より、同社にてUX部門であるエクスペリエンスネットワークのディレクター代行(部門長相当)を兼務。その後、 BtoBを専門で扱うWebコンサルティング会社の立ち上げ支援などを経て、2013年にインフォメーションアーキテクトとして株式会社コンセントに入社。2014年4月より同社取締役に就任。

2015.02.18

2月20日にビー・エヌ・エヌ新社より『START INNOVATION ! with this visual toolkit.〔スタート・イノベーション! 〕—ビジネスイノベーションをはじめるための 実践ビジュアルガイド&思考ツールキット』が刊行されます。

この本は、難しい学術的な理論書ではなく、『どうやってイノベーションを起こすのか?』という疑問に明快に答えてくれる1冊。

イノベーションを探検になぞらえた著者のメソトロジーには、読者を鼓舞するイノベーターとしてのマインドセットやビジネスのフレームワーク、確認すべきチェックリストが満載で、ビジネスの現場で実践できる内容となっているのが特徴です。

日本語版の刊行にあたっては、コンセント代表取締役の上原哲郎が巻末解説として「なんとなく実現することはない」というエッセイもよせています。


《丸善丸の内本店でのご購入特典》

本書籍の刊行を記念し、下記の通りイベントを開催します。

■イベント名
『スタート・イノベーション!』(ビー・エヌ・エヌ新社)刊行記念
小山龍介氏 × 山口博志氏 × 田川欣也氏 × 上原哲郎 トークセッション

■日程・場所
開催日時:3月13日(金) 19:00~
場所:丸善・丸の内本店3F日経セミナールーム

■詳細・お申し込み
参加条件やお申し込み方法等詳細につきましては、丸善のサイトにてご確認ください。
http://www.junkudo.co.jp/mj/store/event_detail.php?fair_id=8296


《書籍情報

■書名:
『START INNOVATION ! with this visual toolkit.〔スタート・イノベーション! 〕
—ビジネスイノベーションをはじめるための 実践ビジュアルガイド&思考ツールキット』

■著者:ハイス・ファン・ウルフェン
■翻訳:高崎拓哉
■監修:小山龍介、山口博志、上原哲郎、田川欣哉
■出版社:ビー・エヌ・エヌ新社
■ISBN:978-4861009648
■版型:B5判変型/264ページ
■定価:本体2,600円+税
■刊行:2015年2月20日

出版元(ビー・エヌ・エヌ新社)のオフィシャルページ

『START INNOVATION ! with this visual toolkit.〔スタート・イノベーション! 〕
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