HCD-Netとは

コラム

2014.02.27

本コラムは、HCD-Net(人間中心設計推進機構)の理事も務めるコンセント代表/インフォメーションアーキテクト長谷川が、コンセントのグループ会社向けのメディアに書いたコラムの転載です。一部、編集して掲載します。

HCDとは何か、またHCD-Netがどんな活動をしているのか、興味はあっても今さら聞きづらい、というようなことをご紹介しています。


■ 「人間中心設計」という概念


HCD-Net(正式名称「特定非営利活動法人 人間中心設計推進機構」)は、「人間中心設計(Human Centered Design: HCD)」という概念を啓蒙・普及させることを目的とした団体です。

HCD-Net ミッションステートメント
http://www.hcdnet.org/organization/

HCD-Netは、HCDに関する学際的な知識を集め、産学を超えた人間尊重の英知を束ね、HCD導入に関する様々な知識や方法を適切に提供することで、多くの人々が便利に快適に暮らせる社会づくりに貢献します。あわせて経済の発展への寄与と、豊かでストレスのない実りある社会の実現をめざします。

この人間中心設計(HCD)というものは、もともとは、デバイスのユーザーインターフェイス(UI)などの「インタラクティブシステム(利用者との相互作用があるしくみ)」の操作をよりよくしようという目的で考え出された「プロセス」です。

どうしても、「システムの機能に利用者が合わせる」ということから抜けきれなかったUI業界で、「利用者観点でUI設計を行うにはどうすべきか」という問題意識から生まれました。

具体的には、「利用者を観察する」「行動をモデル化する」「プロトタイプをデザインする」「ちゃんと使えるか評価する」という手順をとることで、利用者のことを考えたシステムを作れるだろう、という、言ってみれば標準プロセスです。

1999年にはISO(国際標準化機構)によって、プロセス規格として制定されました。

ISO13407
http://ja.wikipedia.org/wiki/ISO_13407

そして、さらに2010年には、昨今、問題の視点がUIから、ユーザー体験(UX)に移ってきたことを受け、ISO13407はISO9241-210としてアップデートされ、その対象範囲も単なるインタラクティブシステムだけでなく、サービスを含んだものに拡張されました。

千葉工業大学 安藤先生によるISO9241-210の解説
http://www.slideshare.net/masaya0730/iso92412102010

(余談ですが、「UI」と「UX」は似たキーワードですが、「UI/UX」と混用してしまうといろいろ間違いのもとですので、気をつけてください。)

このHCDという概念は、バズワードにもなっている「デザイン思考」そのものであるともいえるもので、たとえばデザイン思考で有名なIDEOがとっている基本のアプローチもHCDプロセスです。

IDEO
http://www.ideo.com/

どうしても、ツールやサービスなどの「使うもの」前提のプロセスであるので、広報誌やコーポレートサイトといったコミュニケーションメディアの設計に使うにはひと工夫必要ですが、たとえばこれまでコンセントで培ってきた「伝わるしくみ」は、このHCDプロセスをコミュニケーションに用いるためにカスタマイズしたものであるということができます。

また、サービスの設計に使うことのできるフレームワークですので、自社のサービスの体験価値を上げて、あたらしいビジネスを模索するためにはHCDプロセスはうってつけです。

たとえば、出版社のビジネスで考えると、「本を作って売る」というのは事業側の観点で、たとえば「昨今の本の読まれ方」を観察し、テーマを読者の利用シチュエーションに合わせたり、書籍サイズを使いやすいサイズにしたりする、といったような活動が考えられるでしょう。


■ HCD-Netという団体


前述したISO13407のプロセスをより企業の製品開発やUI設計に活用させよう、という問題意識から、2005年に製品メーカーや研究者などが集まって、HCD-Netが生まれました。

HCD-Net(人間中心設計推進機構)
http://www.hcdnet.org/

インタラクティブシステム向けの規格という背景があったため、設立時は、カメラメーカーやAVメーカーなど、いわゆる「組み込み機器」と呼ばれる機器メーカーの色が濃かったのですが、当時Web技術が普及しはじめてきていたこともあり、2006年頃に私、長谷川も評議員という形で関与を始め、2007年から理事となりました。

現在は、理事が18名、会員が527人、賛助会員(企業会員)は45社となっています。
コンセントも賛助会員です。

HCD-Netは、研究事業、教育事業、広報社会化事業、開発事業、規格認定事業、国際事業の6つの事業部から構成されています。

  • 研究事業では、論文誌を発行したり、研究報告会を開催するような、いわゆる学会的な活動を行っています。
  • 教育事業では、サービスデザインや、人間中心設計の基礎、などのテーマでセミナーや法人向けレクチャーを行っています。去年開催された、サービスデザインの6回シリーズのコースは、コンセントからも何名か受講し、大変好評でした。
  • 広報社会化事業では、HCDをより広く広報したり、HCD-Net会員の視点を広げるようなイベントを開催しています。長谷川はこの広報社会化事業を担当しており、サロンイベントのプロデュースを行っています。
  • 開発事業では、新規事業の企画や企業からの委託研究などを行っています。
  • 規格認定事業では、後述する、認定人間中心設計専門家という認定制度を主催しています。
  • 国際事業では、海外のUX関係団体とのネットワーキングを担当しています。また、HCD-Netは、国際的なユーザーエクスペリエンスの団体 UXPA(User Experience Proffecional Association:旧称Usability Professional Association: UPA)の日本支部(Japan Chapter)も務めています。海外のUX業界では、その言い方のほうが通りがいいですね。

いくつか具体的な活動もご紹介します。


■ 認定人間中心設計専門家


HCD-Netが認定する専門家資格です。
HCDプロセスを実施するのに必要な専門スキル(competence)のマップに基づき、自身の過去の活動をレポートすることで専門家の申請を行います。

この制度の特徴は、単なる専門知識の評価ではなく、プロジェクト実施の経験が評価される点です。
このため、アカデミックな人ではなく、デザイナーもしくはデザインプロジェクトのプロジェクトマネージャがとることができる資格です。

現在、内閣府の電子政府ユーザビリティガイドラインという、政府が調達する官公庁サイトや行政の手続きシステム(e-Taxなど)のRFP(Request for Proposal:提案要求書)では、プロジェクトにこの認定専門家が入っていることが必須となっており、そういった目的で専門家になっている人もいます。

また、メーカーなどでは社内の人事評価のためにこの資格を用いているようなケースもあります。

現在、資格が始まって3年目ですが、274名が専門家になっており、コンセントにも現在のところ7人の専門家がいます。

ある程度の規模以上のデザインプロジェクトでは、HCDの概念はプロジェクト設計に有効です。

人間中心設計(HCD)専門家 資格認定制度
http://www.hcdnet.org/certified/


■ HCD-Netサロン


もうひとつ活動をご紹介します。
長谷川が担当している、広報社会化委員会でプロデュースしているHCD-Netサロンというイベントです。

このイベントは、HCDそのもののセミナーではなく、新領域を探索するために、HCDとそれ以外の領域との融合を模索するテーマを設定して話題提供のショートプレゼンテーション+パネルディスカッションを行っています。

広報社会化委員会のメンバーで持ち回りでテーマを設定して、月に一回のペースでイベントを開催しています。
これまでには、アドバンストデザイン、データビジュアリゼーション、ソーシャルデザイン、といったようなテーマとHCDとの関係を探るようなイベントが開催されました。

長谷川が主催する場合は、基本的にはコンセントのグループ会社で運営している多目的クリエイティブ・スペース「amu」で開催しており、これまで「ブランディングとUX」「マーケティングとUX」「サービスデザイン」「パターンランゲージ」といったようなテーマで開催しています。

ちなみに、直近では、3月に「HCDと高齢者」というテーマで開催されます。
興味を持たれた方は申し込んでみてください。

HCD-Netのイベント情報
http://www.hcdnet.org/event/

興味を持った方はぜひ活動にも参加してください。

【関連リンク】
コラム|HCDとは:使う人の観点でものを作るしくみ