Introduction of Content Strategy コンテントストラテジー入門〜コンテントストラテジーの背景と役割〜

コラム

2014.10.15

※本コラムは、2014年6月28日(土)に行われた公益社団法人 日本パブリックリレーションズ協会主催「第10回 PRプランナー交流会」での講演内容をもとに執筆したものです。

 


溢れる情報の中で


数年前、情報量の爆発的な増加ということを耳にしたことがあると思います。インターネットの普及により、人類が所有する情報量は、2000年~2003年のたった3年間で、過去30万年間に紡いできた情報量を超えてしまったと論じる研究者もいます。数字の信憑性はさておき、接触する情報量の増加は誰もが肌で感じていると思います。そして、このような状況は日常生活だけでなく、ビジネス上にも新たな課題を生んでいるのはないでしょうか。

近年、「コンテント(ツ)ストラテジー」という名前とともに、「大事なのは、コンテンツの価値」ということが盛んに言われるようになった背景には、こうした状況も関係しているのではないかと考えています。

本コラムでは、ビジネスにおいて情報発信者・受信者の間で起きている問題、「Content Strategy(コンテン“ト”ストラテジー)」と「Contents Strategy(コンテン“ツ”ストラテジー)」という言葉の違いとその意味、そして「コンテントストラテジスト」の役割を見極めてきたいと思います。

 


情報発信者と受信者間の悪循環と、言語処理技術の発展


いわゆる「まとめサイト」や検索機能、キュレーションサービスなど、求める情報に触れるまでのプロセスをできるだけ省いたサービスが増えつつあります。この背景には、情報を獲得するプロセスは、旅行の行程のようにワクワクするものではなく、Webの中では省くべき無駄なプロセス、負荷にすぎないとされていることがあると考えられます。これは、いかに価値ある情報をより多く獲得するかということよりも、自分にとって無駄な情報が入ってこないよう、また一度獲得した必要な情報をいつでも取り出せるように、「情報を選別・管理すること」の方に受信者は腐心していることを示しているのではないでしょうか。

一方、情報を発信する企業側が抱える課題の一つとして、バナーなどのWeb広告の集客力の低下が指摘されています。「想定していた集客ができてない/せっかくつくったWebサイトが見てもらえない」⇒「ユーザーのニーズを的確に捉えていないからだ」⇒「次は●●をテーマにしたコンテンツを発信してみよう!」⇒「やはり見てもらえない・・・」ということを繰り返し、結果として散乱するコンテンツ、管理できず放置されたWebサイトが乱立するといったケースが起きているようです。実際、コンセントにも「Webサイト内の情報が整理しきれず散乱している」「ドメイン配下にWebサイトが乱立」といったご相談をいただくことがあります。

この両者の関係は、『北風と太陽』の話を思い起こさせます。期待・想定していたものに見合わないコンテンツと出会うことで、それを排除しよう、避けようと情報受信者としてのユーザーの文脈はさらに狭まり、情報提供者側はそこに何とか入り込もうとして、検索でのランキングを上げたりバナー広告や頻繁なメール配信を行ったりと、発信する情報量をさらに増やしていく。これは情報の受発信における悪循環を生み出していると言えます。

また、Googleが2011年に行ったパンダアップデート※1 では、今なお急速に発達し続ける自然言語処理により、単なる誘導のためのページや、どこか別のWebサイトに掲載された内容のコピーで自動生成されたページなどは価値の低いものとされ、「ユーザーに独自の価値を提供できるWebサイト、ページ」こそが検索順位の上位に入る資格があるとされました。

このように、「コンテンツの価値」が注目され出した背景には、IT技術の進歩に伴い、情報獲得におけるユーザーの傾向、それに対応しようとする情報発信者のふるまい、価値があるとされるWebサイトの在り方といったものが変化していることがあると考えられます。

※1 パンダアップデート:
Googleが検索結果の質を高めるために行っている検索アルゴリズムのアップデートのこと。2011年(日本では2012年)より実施され、現在も1ヵ月に1回ほどの頻度で行われている。それ以降、実質的には内容のないアフィリエイトサイトや、wikipediaからのコピーだけ、あるいは特定のキーワードだけを狙ってキーワードが乱発したページなどは検索順位を下げられている。
似たものに、ペンギンアップデートというものがあり、一般的にはこちらの方が影響が大きく、検索結果から外されるというペナルティを伴うアップデートとされている。
参考 ⇒ https://support.google.com/webmasters/topic/6001981?hl=ja&ref_topic=3309300 の「品質に関するガイドライン」

 


「コンテンツの価値」とは何か?


こうした流れになると、「やはりコンテンツは量より質だ」というありきたりなことが言われがちですが、それは前述したパンダアップデートを待つまでもなく、誰もがわかっていたことです。例えば出版社などのコンテンツ供給をビジネスとする企業にとっては、コンテンツにとって質以上に重要なものはないでしょう。

しかしながら、とにかく質の高いコンテンツをつくらなければと、つくることが目的化してしまってはいないでしょうか?

コンテンツそれ自体が商品ではない情報発信者に必要なことは、自分たちの企業価値や商品価値、自社のスタッフを、正しく魅力的に知ってもらうためにコンテンツをつくるといった、「目的」からコンテンツを考えることです。パンダアップデートの背景にもこうした考えがあるように思えます。

つまり、コンテントストラテジーとは、「ビジネスに寄与するようコンテンツを戦略的に考える」ということです。

誰もが手軽に文字や画像、映像などでコンテンツをつくることができる今、自分の組織や商材の価値を忘れ、コンテンツをつくること自体が目的化することが頻繁に起こっています。「コンテントストラテジー」とは、アプリやCMSなど情報を発信するさまざまな誘惑のある状況下においても、本来のビジネス価値を忘れないようにするための一つの自戒的な解なのかもしれません。

 


Content Strategy(コンテン“ト”ストラテジー)とContents Strategy(コンテン“ツ”ストラテジー)


敢えてここまで「コンテン“ツ”ストラテジー」と言わずに「コンテン“ト”ストラテジー」と表記した理由もこうした背景があります。

日本ではこの二つの言葉は混同されて用いられていまが、可算名詞の“Contents”を使った「コンテンツストラテジー」とは、コンテンツを前提に、そしてコンテンツをゴールにしたコンテンツのつくり方を戦略的に行う手法と言えます。それはあくまで「制作プロセス」を意味するのであって、エディトリアルストラテジー (Editorial Strategy)と呼ぶべきものです。

一方の「コンテン“ト”ストラテジー (Content Strategy)」とは、コンテンツを戦略的につくることはもちろん、運用すること、管理すること、ざっくりと言ってしまえば「コンテンツを扱う」ということをいかに戦略的に行うかに主眼を置いた言葉です。そのため、「ビジネスに貢献するコンテンツ」という意味で用いる場合は、抽象化された非可算名詞である”Content”を使った「コンテン“ト”ストラテジー」と呼ぶべきです。

 


KPIとコンテンツの編集方針


Content StrategyやUXの文脈で頻繁に出てくる「ストーリーテリング」という言葉が少し前に流行りましたが、Contents/Contentの違いをこの観点からも説明してみます。

Contents Strategy=Editorial Strategyが構築するストーリーは、コンテンツ内のストーリーであり、コンテンツが訴求していることとユーザーとをつなぐ役割を果たします。一方、Content Strategyは、コンテンツを媒介にしてビジネス価値と人を結ぶストーリーを構築します。情報発信者である企業側からすれば、その時のコンテンツは決してゴールにあるのではなく、中間指標(KPI) 上にあります。

「コンテンツがビジネスにどれほど貢献できているか」というコンテントストラテジーの観点では、KPIこそがコンテンツの軸であり、編集方針に等しいものになります。したがって、コンテンツの編集方針とは、KPIを具体化したものになるはずです。KPIからコンテンツ編集方針、そしてコンテンツ企画へのゆがみのないプロセスがコンテントストラテジストこそが構築するコンテンツのストーリーです。

 


コンテントストラテジストの役割


こうした役割を担うコンテントストラテジストは、「翻訳者」に例えることができます。以前、ある本に「個人とはその人という言語体系」といったことが書かれており、なるほどと思いました。これは企業や集団にも言えそうです。コンテントストラテジストが翻訳する相手は、クライアント、クライアントがメッセージを届けたいユーザーや読者、クライアントのステークホルダー、社内のデザイナー、プロデューサー、IA、WEBディレクター、ディベロッパー、コーダーなどです。こうしたさまざまな人たちにコンテンツの価値と目的を伝え、上記の「KPI-編集方針-コンテンツ企画」を結ぶストーリーを彼らに理解してもらいつつ一緒に構築する存在となることが、コンテントストラテジストの役割なのだと思います。

 

執筆:千々和 淳(コンセント コンテントストラテジーチーム ディレクター)

 

【関連資料】
2014年6月28日(土)に、公益社団法人 日本パブリックリレーションズ協会主催「第10回 PRプランナー交流会」にて、コンテントストラテジーをテーマとしたワークショップを実施しました。その際の講演資料をSlideshare にアップしておりますので合わせてご参照ください。

 

【関連リンク】
「第10回 PRプランナー交流会」登壇のお知らせ