Interview / プロジェクト座談会

空気感や温もりまで体現する、
町の魅力をより伝えるためのデザイン

大和 宮崎県都農町PR誌『Tsuno Town magazine』を制作したメンバーが、成果物を見ながら話している様子 大和 宮崎県都農町PR誌『Tsuno Town magazine』を制作したメンバーが、成果物を見ながら話している様子

大和 宮崎県都農町PR誌『Tsuno Town magazine』

プロジェクトの背景

ギフトカタログを手がける株式会社大和様とともに、宮崎県都農町をPRするタブロイド誌を企画。都農町の特産品や人の魅力を発信してきました。コンセントではこれまで1〜3号を担当。3号目は町制100周年を記念して「100年分の歴史と思いを次の100年へ」というメッセージのもと、デザイナーが企画から取材・撮影、デザインを一貫して行い、都農町の魅力を伝えています。

大和 宮崎県都農町PR誌『Tsuno Town magazine』外部サイト

体制図

プロジェクトの体制図。クライアントの下に、コンセントメンバーと外部パートナーから成るチームがある。クライアントの直下はアートディレクター、ディレクター、プロデューサーで、アートディレクターの下にデザイナーが3人。今回のインタビュー参加者たちの役割は、アートディレクターが白川桃子 2009年新卒入社、その下のデザイナーが吉山理沙 2018年新卒入社、星川萌美 2018年新卒入社、今野絢香 2019年新卒入社。外部パートナーはスタイリスト、料理家、カメラマン、ライターのことを指す。 プロジェクトの体制図。クライアントの下に、コンセントメンバーと外部パートナーから成るチームがある。クライアントの直下はアートディレクター、ディレクター、プロデューサーで、アートディレクターの下にデザイナーが3人。今回のインタビュー参加者たちの役割は、アートディレクターが白川桃子 2009年新卒入社、その下のデザイナーが吉山理沙 2018年新卒入社、星川萌美 2018年新卒入社、今野絢香 2019年新卒入社。外部パートナーはスタイリスト、料理家、カメラマン、ライターのことを指す。

綿密な準備が誌面全体のクオリティを決める

取材や撮影が多かったと思いますが、気をつけていたことや意識したことはありますか?

アイコン : 星川

星川

事前に取材先はどのような場所なのか、自分がイメージする画はどの場所で撮影できそうか、想定していた場所がイメージと違っていたらどうするか、などを調べて撮影に臨むようにしました。

アイコン : 白川

白川

移動が多い撮影だったので、車での移動時間も含めて、当日のシミュレーションをしながら一緒に撮影スケジュールをつくりましたよね。事前に調べたものの、海の満ち引き具合が想定していたイメージと違ったり、牛が餌を食べている様子を撮りたかったのになかなか食べてくれなかったり(笑)とハプニングもありました。
一方で、町の人が知る人ぞ知る穴場スポットを教えてくださったり、調べてきた内容よりもっと画になる場所があると、撮影場所を変更した上で同行させてもらったりと、都農町さんの協力にとても助けられました。

アイコン : 星川

星川

そうですね。実際行ってみたら、思っていたより暗くて写真が撮りづらかったり、ここイメージと違ったなと感じたりすることも。でも、突発的なハプニングにも対応できるように準備していったので、いろいろありましたが町の人の協力もあってスムーズに進めることができたと思います。

アイコン : 吉山

吉山

私は「都農ごはん」という都農町民の皆さんが考案したオリジナルレシピを紹介するページを担当したのですが、そのまま掲載するのではなくて、薬膳の要素を盛り込むことで読み物としてもおもしろいものをつくることを心がけました。

アイコン : 白川

白川

このプロジェクトは企画からデザイナーが担当しました。例えば吉山さんが担当してくれたページだと、「都農ごはん」の企画自体もとてもいい内容でしたが、薬膳と絡めることでより都農の豊かな恵みを引き立たてる企画へと強度を上げることができたと思っています。

アイコン : 吉山

吉山

料理家の方やスタイリスト、カメラマンと、関わる人が多かったので事前に企画内容や意図、デザインラフを共有しました。フードスタイリストの方がこちらの意図を汲み取って、内容に合った素敵な食器などを提案をしてくださったりと、プロの力を借りることで自分のイメージよりもさらに良い画がつくれることの楽しさやありがたさを感じました。

アイコン : 白川

白川

どれもデザイナーだけではできない企画で、本当にいろいろな人が関わってくれています。その人たちがしっかりパフォーマンスを発揮できるように環境を整えることも私たちの仕事。ページごとの目的を叶えるために、パートナーの方々とのコミュニケーションを大事にしていました。
今野さんは、取材や撮影はなかったけれど、デザインに取り掛かる前の下調べをしっかりしてくれましたよね。

アイコン : 今野

今野

そうですね。私は都農町をインフォグラフィックで見せるページを担当しましたが、取り上げる項目についてはインターネットだけではなくて、国会図書館に足を運んでさまざまなデータを集めました。その上で、どこを掘り下げれば都農町をよりよく伝えられるかを考えました。

アイコン : 白川

白川

でき上がったものをみるとさらっとつくっているように見えるけれど、綿密なリサーチによってうまれる膨大な資料から、何をピックアップするか、どんな順番で、どんな表現でみせるか、といった検討を何度も繰り返しましたよね。

「都農町タブロイド紙」の今野が制作した1ページと、リサーチ時のメモが並んでいる様子

ターゲットに響く佇まいを全員で検討する

実際にデザインをする際はどんなことを考えながら進めるのですか?

アイコン : 星川

星川

実際に都農町に行ってさまざまな人に会って、風景を見たり、ぬくもりを感じたり、感動したことをしっかり体現することを意識しました。

アイコン : 白川

白川

事前に撮影ラフはつくりますが、自分自身で現地の魅力を体感することで、見えてくるものが変わってきますよね。それを踏まえた上で、写真の使い方や文字との組み合わせ方、あしらいなど、全体と細部を検証しながらデザインをつくり込んでいきました。

アイコン : 星川

星川

現地の方にお聞きした話がよりよく伝わるように、レイアウトを変えたりしましたね。あとは他のページとの兼ね合いもあって、差を出しつつしっかり魅力を伝えることを考えていました。

「都農町タブロイド紙」内の、星川が制作した「都農町長のインタビュー」が掲載されているページ
アイコン : 吉山

吉山

私も一冊を通しての目的みたいなものを自分の中にもちつつ、周りのみんなのデザインを俯瞰して見て、自分のデザインを見直したりしていました。

アイコン : 白川

白川

一冊通しての佇まいをどのようにするかはとても重要です。これはエディトリアルに限ったことではないですけどね。一冊の軸をずらざず、皆の認識を揃えるために、デザインチェックや打ち合わせにも全て皆に同席してもらいました。それは認識を揃えるだけでなく、先輩がどうプレゼンするかを聞けたり、人がどんな観点でデザインをつくっているか、アートディレクターがどんなフィードバックをするのかを知れる機会にもなりますよね。このようにプロジェクト全体を客観的に俯瞰して見ることは、この先アートディレクターになったときに必要な観点となると思います。

アイコン : 星川

星川

全体の流れを把握することで、担当ページをどう調整したらいいかがわかりやすくなったと思います。お互いにアドバイスし合ったりして、ぶれずにつくっていけました。

アイコン : 吉山

吉山

少しずつ形になっていって、手を入れながらよりよくしていく過程は、皆で一つの生き物を管理しているみたいな感じでしたね。

アイコン : 今野

今野

先輩方のデザインを見たり、アドバイスをもらったりする中で、一冊を通してページごとに大きく見せ方を変えないと読者はついてきてくれないんだなって、改めて気づかされました。

アイコン : 白川

白川

今回のタブロイド誌はターゲットが広い媒体です。都農町への関心が高い人、低い人、文章を読み込みたい人、ぱっと見のビジュアルを楽しみたい人など、幅広い層の人に楽しんでもらえるよう緩急のついたコンテンツとデザインを心がけています。でも一番大事なのは、デザインする過程の中でいかに楽しさを見出すか。楽しくするのもつまらなくするのも自分自身。つくっている人が楽しんでいたら、それはつくったものに表れると思います。

「都農町タブロイド紙」内の、吉山が制作した「都農町民の皆さんが考案したオリジナルレシピ」が紹介されているページ

納得するまで突き詰めて、自信をつけていく

エディトリアルだからこその醍醐味はどのようなところにあると思いますか?

アイコン : 吉山

吉山

制限があるようでいて、造形要素を工夫すれば実は1ページの中でもいろいろな情報を盛り込むことができるところや、読み手の目と頭に情報をどう届けるのか動線を考えるのもおもしろいです。情報設計とデザインの絡め方の自由度が高くて、本文ならこのフォント、ポイントになる部分は違うフォントを使って文字色を変えるとか、文字の見せ方一つで紙面上に空間が生まれるので、立体物をつくるような楽しさもあります。今回担当した「都農ごはん」もその一つだと思うのですが、まだ広く知られていないけれどおもしろい情報を企画やデザインで料理して、広く発信できたことはいい経験になりました。今後もそういうことに携わっていきたいですね。

アイコン : 星川

星川

これまでにウェブ、エディトリアル両方のプロジェクトを経験して思うのは、デザイナーが一貫してアウトプットを突き詰められるのはエディトリアルならではの魅力だということです。ウェブは利便性や動線設計も大事だったりするし、最後はエンジニアにお任せすることになります。それはそれでこだわり始めるとおもしろいので、両方経験できる環境に身を置けているのはよかったと思っています。

アイコン : 今野

今野

私も「こんなにつくり込んでいいんだ!」と驚きと発見がありました。色味や余白、フォントのサイズや線の太さなど、実際に印刷されたときにどう見えるかは出力してみないとわからなくて。画面上の数値は合っていても自分の目で見ると違和感を感じることがありました。そこで感じた違和感は大切にした方がよくて、画面だけでは完結できないこと、出力して実際の印象を感じとることで理想に近づけるというのは勉強になりました。完成をイメージしながらデザインを考えるのがおもしろかったです。

アイコン : 白川

白川

世の中に普通に存在しているデザインって実は尊くて、完成に行き着くまでにきっとたくさんの積み重ねがあるはずです。例えばこの表紙のタイトル部分は一見ただの黒に見えますが、CMYKの掛け合わせを何パターンも試して、全体の雰囲気にふさわしい濃度にしています。あしらいやノンブルもサイズに合わせてそれぞれの加工をほどこしていたり。このような積み重ねがクオリティにつながると思っています。だから、私はどの媒体でもメンバーそれぞれが自分で納得いくまでつくりきることを大事にしています。途中でアートディレクターが引き取らない。ハードルが高いと感じることもあると思いますが、そこを乗り越えないと一歩先に進めないような気がしていますし、胸を張って自分がデザインしましたと言えるものをつくり続けることで、自信がついていくのだと思います。

メンバーの集合写真:今野、吉山、星川、白川