【レポート】Euro IA Summit 2012 Redux in Tokyo
新卒ディレクターのゆいぴょんです。
2012年10月18日(木)、amuで開催された「Euro IA 2012 Redux in Tokyo(Euro IA報告会)」について私とプロデューサーの赤羽の2人からレポートしたいと思います。
Euro IA 2012というのは、年1回欧州の都市で開催される、ASIS&T(全米情報科学テクノロジー学会)主催の国際会議です。2日にわたるセッション(パラレルに進行する2ラインのセッション)+ワークショップ1日という構成で、運営はIA Institute(情報アーキテクチャ学会)が担っています。
報告会では、実際にEuro IAに行ってきたコンセントの長谷川と三菱電機の粕谷さんから、その詳細や各セッションで話された内容などが共有されましたが、そちらは赤羽のレポートに譲って、まずは私の目線で今回の報告会の見どころだと思った点を2つご紹介したいと思います。
一つめは、来場者が報告会を聞いて「自分ごと」として捉え、それを多くの人が発言によって会場にフィードバックしたこと、二つめは、Euro IAで仕入れた知識を共有し、来場者各々の「再発見」だけに留まらず、さらに次の命題が見つかったことです。
それぞれについて補足したいと思います。一つめについては、スピーカーの一人である三菱電機の粕谷さんの提案で早くから会場でお酒がサーブされたことにより、会場の緊張がほぐれて「発言」のハードルが低くなったことが良かったのかもしれません。これによって、自由に発言できるムードが形成されたように思います。発言数で言えば、普段私が参加するセミナーやイベントとの比較で2倍ぐらいはあったでしょうか。
二つめについて。粕谷さんから、Euro IAのパネルディスカッションやセッションで、タスク・パイチャート、カスタマージャーニーマップ、サービスブループリント、ラダーマップ…などユーザーの調査結果の可視化、シーンの可視化などの「よくある手法」がいくつか取り上げられたことが報告されました。それを受けて長谷川が「手法の新規性ではなく、まずやってみて、何を発見できるかが大切」であることを語り、会場から「昔からある10年前にきいたことがあるものが、最新のカンファレンスで出てくることがある。新しいものだけじゃなく、古いものを改めて今使うと新しいものを発見できる。」という声が挙がりました。
初めは正直「なーんだ、よく聞く手法じゃないですか。目新しさの無い!」 と思っていましたが、そうではないんですね。新しい手法を珍しがって追うのではなく、古くからある手法やその価値を再発見して使っていくことが、この先に求められることなんだと、気づきました。
また、その後のディスカッションでは、スピーカーの長谷川、粕谷さんだけでなく会場をも巻き込んで、「目新しさばかり求めることを含め、日本が遅れていることを意識するとしないでは、大きく違う。」という議論になり、今後どういう「場」を作っていけるかこれからの検討課題、という締めくくりになりました。
スピーカだけでなく、わたしたち来場者が疑問をぶつけて解消するのが今回のReduxのような報告会をはじめ、懇親会や勉強会といった[場]だと言えると思いますが、問題意識を持ち帰る[場]づくりをすることで、その先どんな世界でどんなものが作られるのか見てみたいですし、あわよくば自分でそうした場づくりや、そうした場を基点とした何か新しい価値の創造もしてみたいと思いました。
私のレポートはここまでにして、赤羽にバトンタッチします。
コンセントのプロデューサー赤羽です。
Euro IA Reduxは、私たちにとっては、海外でのIAトレンドにキャッチアップするための重要なイベントです。全体を通しての僕の所感は次の通りです。
1.ウェブサイトやスマートフォンサイトなど単独のコンタクトポイントの事例でなく、クロスメディア/マルチチャンネル事例の増加トレンドにある。
2.さらにそのような複雑な情報構造・状況を整理するために用いられる様々なビジュアライゼーションメソッドの重要性が高まっている。
つまり「より包括的な問題解決アプローチとそのビジュアル化」がトレンド、という印象ですが、それぞれのケースでなぜ(ブランディングやマーケティングでなく)「IA」からのアプローチが有効だったのか、Reduxでは時間が限られていることもあり個別の詳細な内容までは触れていなかったので、もう少し知りたいとも思いました。
もちろんそれぞれのアプローチはお互いに排他的なもの、という訳ではないのですが、クロスメディア/マルチチャネルの状況において”IA”のアプローチが有効な領域、ケース、状況といったものはどういうものか、今考えていく必要性を感じます。
Reduxの様子はUstreamのアーカイブとしてご覧いただけますが、さらっと写真と文章でも時系列に沿ってご紹介しておきます。
Euro IAもそうですが、Reduxにもたくさんの人が参加していて、注目度が高く活発に活動も行われている印象です。
Redux自体の全体の流れは以下のような感じ。
・前半はEuro IAの全体像について長谷川が主に説明
・後半は粕谷さんが参加した時系列に沿って説明
(ちょいちょい合間に小話挟む)
・質疑応答
さて、Euro IAは、European IA Summitというのが正式名称。
USで開催されているのが本場で、Euro IAはサブブランド。そして今年の開催場所はイタリア・ローマ。昨年はチェコ・プラハ。その前はフランス・パリ。開催地は広く欧州全体を巡っており、広く関心を持たれていることが伺えます。
報告によると、アメリカよりはEuro IAのほうがセッションの密度がゆるやかとのこと。とはいえ朝9時から夜7〜8時とのことなので一日がかりで相当の長さです。
ワークショップは別料金(200ユーロ)だそうです。ワークショップは14時から18時まで4時間程度。
Euro IAには企業側/エージェント双方から参加していて、今回の参加者は合計200名程度。参加者はいろいろな国から来ていて、わりと小規模の会社の参加も多かったそうです。そこからも西洋におけるIAという概念の浸透を伺えます。
さて、いよいよ本番のセッションの話。メインキーノートは UKのGerry McGovernによる”Dirty Magnet”。
ナビゲーションというものは便利すぎて、磁石のように余計なものもなんでもくっつけてしまいやすい、という内容。高速道路の看板やアマゾンのナビなどの事例が登場。
中締めKeynote は Andrea Resmini氏とEric Reiss氏による ”美について”
このセッションは大変面白かったらしいです。2人ともピアノがうまいとのこと。片方が演奏し、片方がしゃべるスタイルだったそうで、なんだかオシャレです。
現在においてデザインの「パターン」最適化されたフォーマット、型は実現できている…しかしそれはデザインと呼べるのか?個性やブランドはどうなるのか?という問いを発するような内容だったそうです。IAで言えば、ユーザビリティ担保するだけのIAと優れたUXを実現するIA。優れたUXには美が必要、というような解釈でしょうか。例えばABテストだけで決めていくことは合理的ですが、合理性で行き詰まる時に必要になるのが「美」の視点かもしれません。
※実際のプレゼンテーションを聞いてないのでRedux内容からの推測です。
Closing Keynote :Stephen Anderson ”What am I curious about?”
アンテナを立てる方向について、収束する方向でなく、小さくまとまらず、現場仕事に追われるだけでなく、フロンティアを目指せ、というような内容。モンテッソーリ教育などがキーワードとして出てきたそうです。
※モンテッソーリ教育:小さいころから達成感などを与えるために仕事をさせるような教育。詳しくはwikiへ。
続いて、その他のワークショップについてざっと説明。
・サーチアナリティクス:検索行為に特化した分析
・ユーザブルユーザビリティ
・アライメントダイアグラム(いろいろ視覚化するワークショップ)→長谷川が参加
その他諸々、様々なトピックがあったようです。
スウェーデンの大学の講師を務めつつ企業のコンサル業務を行なっている、”Pervasive Information Architecture”の著者として知られるAndrea Resminiのワークに粕谷さんは参加。8人くらいのワークショップだったそうです。
4時間で1つのワークショップ、との事なので参加者同士での交流密度は高そうですね。
実際にEuro IAで配布されていたプログラム
その他ワークショップの内容、様々なUX手法を俯瞰して潮流を見ること、ケーススタディ、ユーザビリティテスト、コンテンツストラテジー、EIAの組織への適用…について共有されました。
Eric Reiss氏というIA業界の名物スピーカーは、US / Euro両方に登場したそうです。
机の上に乗っています。
Euro IAでは、プレゼン途中でもどんどんみんな質問するらしいです。確かに日本ではプレゼンの途中の質問とかはあまり見かけない光景です。文化の違いというか、民族性の違いを感じます。
スペインからのプレゼンター。テーマは”Design for Good”
仕事だけでIAやってるのはもったいない。もっといろいろ社会に向けて(政府・NPOとか)やれることあるよ、という話。具体的に1日の時間をどう使ってるかの紹介なども。
Euro IA参加メンバーと記念撮影。楽しそうですね。
ほかにも、マルチデバイスに対応するコンテンツモデルの話や、アフリカのクロスチャンネルのIAの話として、携帯は普及してるけどスマホはまだまだで通話機能、メールのみのDamnPhone(ダメ電話)をみんな使ってるという話。農家の人の取引管理などにマルチチャンネルにIAはどう対応するか。Face to Faceの取引形態も含めてどう個人が情報を入手するか、といった話があったそうです。
50分目くらいで赤羽参加。(実はここまでのレポートは録画を見て内容を追いました)
業務が残っていたので会場でビールは飲めませんでした(泣)
後半。ビールを飲んで皆さん優しい顔になった(粕谷さん談)ところで第二部開始。
粕谷さんのスライドを元に、長谷川との半対話形式で進みます。ここから、わりとRedux参加者からのリアクションが入り始めます。
粕谷さんのEuro IA Summit参加目的:サイト構築に関する知識をアップデートすること。
有名企業サイトのウェブマスターとして、やはり常にインプット(&アウトプット)が必要なのですね。
あえて普段の仕事をまったく出来ない場所にいってひたすら勉強する事で2段階くらいアップデートされるらしい(!)すごい。
IAサミットのいいところ
・先端的手法やキーワード
キーワードとしては、レベニューという言葉が結構出てた、とのこと。収益最大化のためにクロスチャンネルで結果を出していく!などなど。経営経済視点は確かに大事ですね。
・海外動向(の情報収集?)
みんな混じってランチを食べるときなどに。知り合いは全然いないので適当に座るとみんな一人で来てるので、いろいろ「どこから来たの?」というような話が始まって、様々な話を聞ける。アイスランド、ポーランド、などいろいろな国の人がいて、立場やステータスにあまり関わらず非常に自信満々にこれからの技術の話などをするそうです。日本人には確かに足りない、苦手な部分ですな。
・プレゼンテクニック
むこうのスピーカーは「スライドを見て話さない」。そもそもスライドの役割が違う。日本ではスライドは「説明」のためにいろいろたくさん書いてしまうが、海外のスピーカーは「写真だけ」などのスライドも多く、しゃべりがメイン。これはここ数年海外のカンファレンスに参加していて感じること、とのこと。
だいぶ粕谷さんも影響を受けて、ここ数年でスライドの文字数などはかなり減ったらしいです。会場にいた(おそらく)三菱電機の方と思われる方々からも「(昔と)全然違います!」と声が。
英語についての話。長谷川曰く、「日本とそれ以外」くらいの感じで英語の壁があり、その大きな理由の一つが「映画の字幕」ではないかとのこと。裕福な国は海外映画に字幕をつけたり吹き替え版で放送することができるが、余裕のない国では外国語版の映画がそのまま放映されることになる。そのため、結果的にそうした国では外国語へのハードルが下がるといったことのようです。ほんまかいな。ここはちょっと眉唾(長谷川さんすみません)。ただ、グローバル市場/グローバル展開を前提に考えている他のアジア圏の人たちになかなか英語で太刀打ちできない、というのは同意できます。
お二方とも、海外と日本のプレゼンスキルの差には危機感があるそうです。
海外のスピーカーは、画面に書いてあることを何も読まない…と見せかけて、いつの間にか関係ある話に着地している、というようなプレゼンが多い(長谷川)
面白い人のプレゼンはいろいろと話が飛ぶ(粕谷さん)
・Pervasive IAについて
日本語訳が今のところ出てないので、今後に期待したいところ。
大まかな内容。(写真)
これからのIAはクロスチャネルが前提。モバイルファーストなどの言葉以上に「クロスチャネル」という言葉の出現頻度が高かったそうです。
スライドに事例として出ているテディベアのネット販売(ビルド・ア・ベア)。
僕もなにかの雑誌で見てサービスは知ってましたが、しっかりコンテクストを作ったクロスチャネルのケーススタディとして登場していました。
また、これからはインタラクションが大事だよ!という話が多かったそうです。
(カスタマーはブランドとInteractしている:チャンネルが何かには興味が無い→ここでいうInteractはコミュニケーション、みたいな意味で使われているいたいですね)
つまり、チャネルが「なんであれ」カスタマーに気持ちの良いインタラクションを提供すべし、ということであると僕は理解。
ディスカッションは、コカ・コーラのサイトについてのヒューリスティック。
その時に作られたシートがこちら。
一番下が「IA」。次が「タッチポイント」、一番上が「インタラクション」?
ぼやっとして見えない…。
全体を俯瞰したホリスティックなアーキテクチャを考える必要がある、ということのようです。映画などを題材に説明があり、場面や登場人物が変化しても全体としては一貫性を持ったシーケンシャル(連続的)な内容として捉えられる、ということが、ビジネスにも適用できる部分がある、という内容。つまり、個別のタッチポイントを個別のシチュエーションやユーザーに最適化させるのではなく、もっと空間・時間を含めたメタな視点からのより良い着地点を目指す、ということでしょうか。なるほど。
それと、認識の問題についても触れていました。子供は「お風呂が大きい」と思うと、絵にもとても大きな風呂を描く。ユーザーは必ずしも正しく物事を認識していないので、正しくガイダンスしてあげる必要があるとのこと。様々なタッチポイントがある中で、自分が関わるプロジェクト、自分が作るタッチポイントはユーザーをどうガイダンスしてあげる必要があるのか?常に全体のコンテクストを認識するのは難しいですが、確かにそうですね。
全体所感
UX/IA/サービスデザインなど、いろいろなカンファレンスでかなりトピックがクロスオーバーしてきているような気がしますね。ただ、注目している部分や専門領域が微妙に違うかもしれません。
長谷川曰く、個別の「ユーザー体験」から、より総合的に全体を見ての「ユーザーへの提供価値」へフォーカスがシフトしてきているとのこと。
所感1
やはりPCだけでなく全体を考えなくては!という事を強く感じられたようです。これからは(これまでもかもしれませんが)、一点豪華主義ではダメなのですね。
所感2
とはいえ、三菱電機さん(やその他の日本の大企業)くらいの規模になるとマルチチャネルといっても把握&マネジメントするのがそれだけ大変になるので、営業や店頭までという場合にはどのようなアプローチになるのだろう、と興味が湧きます。
所感3
いろいろとツールが増えました。
タスク・バイ・チャート
サイトコンテンツのメニューについて、最上位25%の主要機能/メニューは6つのみで、一方、逆に最下位25%に55の機能/メニューが。というようなバイアスの可視化。
みんなの意見を取り入れるとどんどん使われないものが増えていく、というのは良くあることですが、「入れない理由」を提示するのはなかなか難しいことなので、こういったツールで考え方をビジュアライズするのはプロジェクトマネジメント上、有効ですね。
カスタマー・ジャーニー・マップ
コンセントでも取り入れている、カスタマーの体験・心理状態・タッチポイントなどの一連の動きを一覧化する手法。ただ、このマップにかぎらずこういったビジュアルシンキングツールの「正しい作り方」は、あるようで実は無く、そのまま流用できないケースがむしろ多いので、新しいツール採用時は注意が必要です。
サービス・ブルー・プリント
タッチポイントのインタラクションやコンテンツの作られ方、コスト、プライオリティなどを可視化したもの。カスタマージャーニーマップよりも個別のタッチポイントの具体的な部分を掘り下げたもの、という事でしょうか。あまり使ったことが無いのでちょっとわからないですが、見た目はエクセル的で簡単に作れそうです。全体像の共有ツールという意味では、カスタマー・ジャーニー・マップと使われ方が似てるかもしれません。
ラダー・マップ
階層性を持って組織体制・ブランド・事業戦略・UXなどをビジュアル化したもの。それぞれの階層のバランシングツール。シンプルに大きな情報を整理するのに向きそうですね。
長谷川のコメント。これらのツールを使う際に、ともすれば「上から目線」的に捉えられがちだが、そうではなく、俯瞰的な視点を持ってアプローチする事が必要、とのこと。コンサル的なアプローチにも近く、確かに「上から目線」的になりそう、と自戒。
Euro IA Reduxはこれにて終了となりました。
Ustreamにアーカイブがありますので、良かったらそちらもご覧ください。