コンセントでは、プロダクトやサービスのデザインをAIエージェントと共に推進するための仕組みである「デザインハーネス」の考えに共感し、そのあり方をともに探り育てています。
その取り組みの一環として、2026年9月15日(火)に開催された「デザインハーネス 2nd 〜デザインにおけるハーネスエンジニアリング〜」(主催:CrossRel)に、コミュニケーションデザイナー/アートディレクターの斎藤広太が登壇し、「デザイナーの判断をAIにつなぐ ── 審美眼をハーネスする試み」をテーマにお話ししました。
デザインハーネスとは
── AIに指示すれば、外形の整った画面は即座に出力されます。しかし、それがプロダクトやサービスとして成立しているかは別の問題です。今後の争点は、画面という"点"の生成精度ではなく、体験という"面"の精度——デザイン判断をどこまでAIエージェントに委ねられるかにあります。──
(より)
この課題を解くため、現在活発に議論が進んでいるのが「デザインハーネス」という仕組みです。「デザインシステム・設計知識・検証・ワークフローへの組み込みまでを束ね、プロダクトやサービスのデザインをAIエージェントと共に推進するための仕組み」として、株式会社Lumilinks 代表取締役でデザイナー・エンジニアのキャリアをもつこぎそ(小木曽槙一)氏が提起。コンセントをはじめ、さまざまな企業が賛同し、事例の共有や議論を行いながら取り組んでいます。

9名によるさまざまな実践知の共有
斎藤が登壇したイベントは、7月に開催された「デザインハーネス〜デザインにおけるハーネスエンジニアリング〜」の第2回です。前回好評だったという本イベントは、今回も告知後2日で満席となり、さまざまな業界の事業会社やデザインエージェンシーから200名近い申し込みがあるなど、開催前からデザインハーネスへの注目度の高さがうかがえました。
ライトニングトーク形式で各自の視点・経験・持論を発表するイベントとなっており、第2回では、ブランディングやデジタルプロダクト、コミュニケーションデザインといったさまざまな領域における実践が扱われました。
株式会社マネーフォワード、ソフトバンク株式会社、株式会社タイミーなど事業会社の方の登壇が多くを占める中、9名のスピーカーの一人として発表した斎藤は、デザインエージェンシーがつくるべきデザインハーネスの一つに、「コミュニケーションデザイナーの審美眼」があるのではないかと提起。
ショートセッションでは、その考えの背景や、実際にハーネスとして育てていった過程、テストしていく中でわかったことや今回の実践を通しての気づきを共有しました。
コミュニケーションデザイナーの「審美眼」をハーネスする
現在、サービスの体験やデジタルプロダクトの設計、ブランディングなどUXやUIデザイン領域を手がけるコミュニケーションデザイナーの斎藤は、キャリアのスタートであるエディトリアルデザイナーとしても長く実績を積み重ねています。
「エディトリアルデザイン(編集デザイン)」の領域は、雑誌からカタログ、広報物、ブランド、デジタルへとその活用領域を広げながら、コンセントのデザイナーが半世紀以上にわたり培ってきた実践知が込められたDNAとも言えるものです。
斎藤は、編集デザインを「情報の関係を設計する仕事」と表現し、伝わる形と惹きつける表現、ロジックと感情、目的と魅力というバランスを文脈に応じて見極める判断こそが、コミュニケーションデザイナーが有する価値、つまり「審美眼」だと考えています。
今回のイベントで発表したのは、「(斎藤自身の)判断を分解してハーネスに組み込んでいくことができれば、コミュニケーションデザイナーの審美眼を仕組み化することができるのではないか」という問いへの実践例です。
斎藤広太の発表資料より
審美眼はルールの集合ではなく、文脈の中で繰り返される「選択のパターン」
ショートセッションでは、デザインする前提となる文脈の整理や足りない情報を整理するための仕組み(デザインブリーフ)、それをもとに媒体や目的ごとに重みづけ・優先度を変えて判断する仕組み(評価軸)を用意し、実際にAIでの出力を見ながら判断するルールを追加していくといった過程を紹介していきました。
進める中で、「ルール上は改善している。でも自分の中では、まだ『良いデザインである』という判断には至らなかった」とし、そこから何を判断していたのかあらためて自分に問い直すことで気づいた「審美眼」についての考えを共有。「コミュニケーションデザインは情報の“関係”を編集する仕事なのかもしれないと整理することができた」と話しました。
「自分が見ていたのは要素単体ではなく“関係”でした。
目的・内容・前後関係・相手・表現といったこれらを総合的に判断すること。
雑誌などの編集デザインで行っていたのも、まさにこの判断でした」(斎藤)
斎藤広太の発表資料より
文脈によって変わる「関係の判断」をどうハーネスするのか?
「関係の判断」が文脈によって変わるのであれば、それはどのように仕組み化すればいいのでしょうか。
斎藤はまず、「構造を守ることが品質につながりやすい領域」と、「構造の選択そのものがデザインになる領域」があると整理。グラフィックや広告などの編集的構成が必要な「文脈で正解が変わる」コミュニケーションデザインにおいては、ルールではなく、文脈と理由を伴った選択の記録である「プレファレンス」を残すことが、ハーネスに効果的に組み込めるカギとなる考えを共有しました。
「人間が生成物を見た上で感じた違和感をもとに判断理由を解釈し、プレファレンスとして残す。それをさらに判断の構造に組み込むループを繰り返すことで、人間がデザイナーとしての引き出しが増えるように、ハーネスも幅広い選択肢を得ることができ、品質が向上していくはずです」(斎藤)
斎藤広太の発表資料より
「AIに自分の判断を教えるつもりでハーネスをつくり始めたものの、実際には、AIから返ってきたものを見ることで、自分自身が何を見て判断しているのかを問い直すことになった。その判断を、次はプレファレンスとしてどう残していけるのかを試していきたい」という言葉で、イベントでの発表を締め括りました。
デザインハーネスをベースに、AI時代の創造性を高める組織づくりを支援
「デザインハーネス」は、企業にAI技術が実装される中、ただそれをデザインに活用しようとする現実的な回答を示すのではなく、これまで社会で培われてきたデザインの哲学やデザインする思いを、そこに組み込み、人を巻き込み、うねりをつくり出すなかで、有効な着地点を見出そうとする取り組みと言えます。
コンセントはデザインエージェンシーとして、「デザインでひらく、デザインをひらく」をミッションに、企業や教育・行政機関といったクライアント組織に対して、人材育成・開発、プロダクト開発を持続的な組織の力としていくための支援を行っています。
デザインハーネスという仕組み化とそれをベースにした組織の創造性を高める実践と探求を通して、こぎそ氏、および共感している企業の皆さまとともに、AI時代における「デザインする環境と組織」の新たなスタンダードを構築したいと考えています。
斎藤の発表資料「デザイナーの判断をAIにつなぐ ── 審美眼をハーネスする試み」