【レポート】サンフランシスコUXコンサル事情

コラム

2013.09.30

こんにちは。UXアーキテクトの坂田です。

7月21日〜24日まで、HCD-Net(人間中心設計推進機構)が主催するツアーに参加し、サンフランシスコの教育機関や研究機関、UX(ユーザーエクスペリエンスデザイン)コンサルティング会社を訪問する機会を得ました。

そのなかでもAdaptive Path社とLUXr社で見聞きしたことが大変興味深かったので、こちらを紹介しようと思います。

《Adaptive Path》
Adaptive Pathはご存知の方も多いかと思いますが、サンフランシスコを拠点とする、世界初のUXを専門とするコンサルティング会社です。Ajaxの父でありVisual Vocabularyを作った人でもあるJesse James Garrett(JJG)が率いていることでも知られています。

僕たちがAdaptive Path社を訪問した時にはJJGに加え、デザインディレクターのPatrick Quattlebaum氏が迎えてくれ、彼らの事業やその中でも特に注力している点について話してくれました。

彼らは自分たちの事業領域を、以下の4つで捉えていました。

1. Experience Strategy(戦略策定、戦略構築)
2. Product Design(プロダクトデザイン)
3. Service Design(サービスデザイン)
4. Training(教育、育成)

1と4については特に疑問に思うところはありませんが、2と3のような括りにしているところは大変興味深いと思いました。

なぜなら、これまで彼らはUXに重点を置いた活動をしていたこともあり、また最近ではSX(Service Experience、サービスエクスペリエンス)という言葉も使い始めていたため、事業を説明する際にはこれら(UXとSX)を軸にするのではないかと推測していたからです。

さらに、「プロダクトデザイン」「サービスデザイン」に対して「UX」「SX」がそれぞれ対になるのだろうかという疑問も湧いてきます。

しかし、UXの対象はプロダクトだけではないはずです。そのことについてJJGは、「Service Experienceの対になるのはProduct Experienceである」と説明していました。

チェコのプラハにて先週開催された WebExpo Prague 2013 Conference (http://webexpo.net/prague2013/)でもJJGは本件について触れています。

ちなみに彼らの「プロダクトデザイン」には、デジタルデバイスはもちろん、アプリ、ウェブサイトが含まれます。

広義に、また本質的に考えれば、UXD(ユーザーエクスペリエンスデザイン)は提供価値の実現に向けてユーザー中心の組織マネジメントをも対象範囲に含んで考えるべきです。しかしやはりUXの「U」の部分がどうしてもユーザー「のみ」に寄った見方になってしまう恐れがあり、それゆえ、UXと言う場合には、サービス提供者側の当事者意識がサービスデザインほどには強くないという傾向があります。

そこで注目したいのが、「フロントステージ」「バックステージ」というメタファーです。このメタファーはサービスデザインの話でよく取り上げられます。

劇に例えて考えると、「フロントステージ」が劇そのもので、観客を楽しませる「体験(UX)」の部分。一方「バックステージ」がステージを盛り上げるためのセットや備品あるいはその運搬といった、バックエンドの仕組みやプロセス管理にあたる部分です。そしてこのバックステージの部分こそ、よりエンタープライズ領域(サービス提供者の当事者意識)といえるわけです。

UXがプロダクトだけに限定されてしまっては利用体験にはほど遠いでしょう。Adaptive Pathが事業領域としてあえてUXという言葉に触れていないのは、対象が何であってもUXは実現されるべきもので、それゆえUXやSXという区別ではなく、今後は対象がプロダクトなのかサービスなのかで語られるのが自然であるとの思想ゆえだと考えられます。

一方で「SX」という言葉を使っているあたりに、彼らのプロモーションのうまさ、つまり新しいコンセプトを打ち出すことで注目を集め、結果的に当たり前のものとなるように浸透させるという戦略、がうかがえます。

彼らが(そしてこれはコンセントを含め大きな流れとしても)サービスデザインに特に力を入れる背景として、そもそも世界的に、サービス提供事業者(サービスプロバイダー)が急増しているということが挙げられます。世界のGDPの64%はこうしたサービスプロバイダーによって生み出されているそうです。にも関わらず、アメリカの市場では、400億ドルもの資金が広告費として投じられる一方、サービスデザインへの活動資金は20億ドルにとどまっているという現状があります。実際にはこうした莫大な広告費に加え、新規顧客獲得やロイヤリティ顧客の創出のための投資がのしかかります。このままでは中長期的に顧客の期待値を満たす、あるいはそれを上回るサービスのポテンシャルは失われていく一方です。そこでサービスデザインにもっと注力すべきだと考えているのです。

Adaptive Pathの活動からも感じられる「ユーザーエクスペリエンスデザイン」から「サービスデザイン」へのシフトは、「情報アーキテクチャ(IA)」から「エンタープライズ情報アーキテクチャ(EIA)」へのパラダイムシフトにも似ているように感じました。

Adaptive Path
http://www.adaptivepath.com/

 

《LUXr》
Adaptive Pathのほかには、同じくサンフランシスコを拠点とし、スタートアップ向けのUXコンサルティング業務を得意としているLUXrという会社を訪問しました。

Co-FounderのJanice Fraserさんは、初代Adaptive PathのFounder/CEOでもあります。彼女が2年ほど前に来日した際に知り合いになり、僕が主宰するShibuyaUXでもLeanUXの発起人の一人として登壇していただいたことがあります。

社名のLUXrは、Lean UX Residenceの略で、彼らははもともと、サンフランシスコ在住のスタートアップに(資金面での投資はせずに)オフィス内Residency(住居)を提供しながら、密着したUXコンサルティングを実施してきた会社です。

しかし、利益上スケーラブルではないことから、スタートアップ向けのUXスタートアップキット「LUXr Bento Box」の提供を2年前から徐々に開始し、現在では「LUXr Core Curriculum」という、Bento Boxを電子化したパッケージをオンライン販売することで、eラーニング事業へと移行しつつああるようです。それに加え、ベンチャーキャピタリストを対象としたBtoBのワークショップも開催しています。
※Bento Boxの名称は、まさに日本の弁当箱から着想を得たとのこと。

ところで、さきほどから登場している「LeanUX」という言葉ですが、これはリーンスタートアップのコンセプトを人間中心設計に取り入れ、アジャイルなチームマネジメントをも可能にする手法体系です。詳しく述べると長くなってしまうので、興味がある方はぜひ僕のスライドシェアをご覧ください。
http://www.slideshare.net/kazumichisakata/leanux-hcd

Janiceさんがスタートアップにこだわる理由として、

・UXは組織の、会社のDNAに深く根付いていなければならないという想いが非常に強いこと
・数あるスタートアップがUXについて真剣に向きあっていないことに危機感を覚えたからということ

があるようです。

Adaptive Path訪問の部分でも触れた通り、ユーザーエクスペリエンスデザインとサービスデザインは密接な関係がありますし、サービスデザイン領域はもはやビジネスアーキテクチャの設計やリフレーミングに等しい活動でもあります。そしてJaniceさんが行っている業務はまさにそういう活動だと感じます。そういう意味で、僕も全く彼女に同感ですし、むしろサービスデザインはLeanUXから学べることが多いのではないかとも思います。

LUXr
http://luxr.co/

 

《2社を訪問してみて》
Adaptive Pathは、2012年のIA Summitを皮切りに2年間で300箇所を回って、Customer Experience Mappingのワークショップを実施してきたそうです。

2012年のIA SummitでのスライドOrchestrate Against Atomism, Patrick Quattlebaum

Adaptive Pathのエクスペリエンス・マッピング・ガイド

彼らのこうした活動の甲斐もあり、カスタマーエクスペリエンスマップ、カスタマージャーニーマップについてはずいぶん浸透してきたようにも思いますし、実際にこうしたツールを用いることで、よりビジネスの核心にせまる領域にも踏み込んでいけるようになったと言えます。

しかし一方では、カスタマージャーニーマップがひとり歩きしてしまい、それを作ることに過剰にフォーカスされることで、相対的に本来の情報設計や機能設計、コンテンツ設計といった部分の大切さがやや鮮明さを失っているようにも感じます。当然のことながら、こうした構造設計やコンテンツ戦略といった基礎的な考え方や、最終的な作り込みの力がなければ目指すべきサービスの実現には至らず、サービスデザインは成立しません。彼らの話を聞きながら、なんとなくそんなことも考えました。

また、今回の訪問ではコミュニケーションは英語であったわけですが、やはり英語ができるに越したことはないと感じます。僕の場合は生まれや育ちの関係上、幸運なことに英語を自由に使うことができるのでコミュニケーション上困ることはありませんが、先端で活動している彼らのような会社から発信される情報で、僕らに役立つものは大変たくさんありますがその多くは英語によるものです。情報入手に手間取るばかりか、英語での発信がボトルネックとなって日本からの発信量自体が少なく見えてしまうのも残念なことです。直接彼らから話を聞く機会を得ると、やはり英語でコミュニケーションできることには価値があると感じましたし、現状でのギャップを埋めるために、翻訳や日本の活動についての英語での発信など、精力的におこなっていきたいと思いました。

さて、最後に、サービスデザインについて、もしもっと知りたいという方がいたら、僕は次の書籍をオススメします。

『THIS IS SERVICE DESIGN THINKING. Basics – Tools – Cases 領域横断的アプローチによるビジネスモデルの設計』
コンセントのグループ会社であるBNN新社から日本語版として刊行されていますが、原書に触れてみるのもいいでしょう。

また、Web IAの古典とも言える白クマ本の著者であるLouis Rosenfeldが立ち上げたローゼンフェルドメディアという出版社からは、『Service Design -From Insight to Implementation-』という本も出ています。

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坂田一倫プロフィール
坂田が講師を務めたイベントのレポート|【レポート】July Tech Festa 2013
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