デザイン思考・デザイン経営レポート2023

デザインとビジネスの
距離感を探る

経済産業省と特許庁による「『デザイン経営』宣言」から5年が経ち、大手企業をはじめデザインを経営に生かす取り組みが行われています。しかしながら何らかの課題に直面し思うように進んでいなかったり、そもそも導入に踏みきれない企業も多いのが現状です。

その背景の一つには、デザイナー以外のビジネスパーソンの間で「デザイン思考」や「デザイン経営」に関する理解が正しく浸透していないことがあるのではないかと考えました。

そこでコンセントでは意識調査を行い、イノベーションやDXの推進に関連する非デザイナーのビジネスパーソンを中心とした500名の方から得られた、「デザイン思考」や「デザイン経営」に関する認識や活用についての質問の回答と洞察をまとめました。

イノベーションに関わる多くのビジネスパーソンのデザイン思考の習得と活用を促すこと、またビジネスパーソンのデザイン思考の習得の後押しやデザイン経営の導入により、多くの企業がイノベーションを推進しVUCAの時代を生き抜けられるように、本調査で得られた知見が資することを期待します。

調査概要

調査手法: インターネット調査
調査時期: 2023年1月
調査対象: 従業員100名以上の企業の従業員500名
分析対象: イノベーションやDXの現場を担う非デザイナーのビジネスパーソン
(以下、「イノベーション関連職種」)410名
比較用: その他の職種のビジネスパーソン 90名

調査結果からわかること

認知度と活用度に
ギャップが見られる
「デザイン思考」

今回の調査対象者であるイノベーション関連職種のビジネスパーソンにおいて、「デザイン思考」という単語の認知度は高い。また、デザイン思考が自分の業務に関係があるという漠然とした認識ももっているが、内容についての理解が十分でないため活用には至っていないことがわかった。

「デザイン思考」と他の思考法の理解度・認知度の比較

デザイン思考の他、ビジネスに役立つといわれているロジカルシンキング、クリティカルシンキング、ラテラルシンキング、アート思考について、それぞれの認知度と理解度を比較。

デザイン思考の認知率は、ロジカルシンキングやクリティカルシンキングに比べればやや低いものの、92.2%に達している。

ビジネスに役立つ思考法それぞれの、
認知度と活用度のギャップ

イノベーション関連職種のビジネスパーソンは、いずれの思考法においてもおしなべて認知率が高い傾向にあるが、活用率とのギャップで見ると3つのグループに分類できる。

デザイン思考は認知度と活用度のギャップが最も大きい(認知率は高いが活用率は低い)。

ビジネスの距離と活用度

65.6%の人が、デザイン思考が自分の業務やビジネスに関係があると思っているが、実際にデザイン思考をビジネスの現場で活用している、もしくは取り入れようとしている人は24.4%にとどまっている。

次の必須ビジネススキル「デザイン思考」

イノベーション関連職種のビジネスパーソンの多くが、「デザイナーではないビジネスパーソンがデザイン思考を身につけることはできない」という誤解をもっていることがわかった。

一方で、経済産業省や特許庁なども企業のイノベーション創出における「デザイン思考」の有用性をまとめていること、国内大手企業やデジタル庁でも「デザイン思考」を取り入れていることを説明したところ、回答者の多くが自身の問題解決能力の向上やスキルアップのためのデザイン思考の習得や、ビジネス現場での実践に高い意欲を示した。

先行きが不透明で将来の予測が困難なVUCAの時代である今、特にイノベーションを推進するビジネスパーソンには、真の問題を発見して課題解決につながるアイデアを導出する「デザイン思考」を身につける重要性が増していると考えられる。

非デザイナーでもデザイン思考を身につけられるという認識が広まれば、デザイン思考の習得に取り組むビジネスパーソンが増え、ビジネス現場における活用が進むことが期待される。

非デザイナー職の「デザイン思考」の習得に対する理解

半数以上の55.9%の人が、「非デザイナー職でもデザイン思考を身につけられること」をあまり知らなかった、もしくは全く知らなかったと回答。

「デザイン思考」の
習得や実践への関心

デザイン思考についての説明を提示後に、デザイン思考の習得やビジネス現場での実践に関心があると回答した人は75.4%にのぼる。

「デザイン思考」習得に
関心をもつ理由

「デザイン思考習得にある程度以上の関心がある人」(n=309)がそう思う理由の1位は「新しい問題に取り組むときに役立ちそうだから」2位は「自分のスキルアップにつながりそうだから」

生き残れると感じられる企業では、
成果を実感するDXを実践

ビジネス環境が激しく変化する中、所属企業の生き残りのために最も必要な施策は「DXの促進」だとイノベーション関連職種のビジネスパーソンの多くが考えている。

DXに未着手の企業よりも着手済みの企業で働くビジネスパーソンの方が「自社は生き残れる」と感じている。中でもDXの取り組みの成果を実感している企業で働くビジネスパーソンは、「自社は生き残れる」と感じる割合が、成果を実感できない企業で働くビジネスパーソンに比べて極めて高い。

所属企業の生き残りに
必要だと思うこと

1位は「DXの促進」。僅差で「現場の人材育成・スキルアップ」「新規事業・サービスの創出」が2位と3位に続く。

「経営層の意識改革」を挙げる人も27.6%と比較的多くみられた。

DXへの取り組みと
所属企業の生き残り

DXへの取り組み状況別に所属企業が生き残れると思うかを集計したところ、DXへの取り組みの成果を感じている層では「十分生き残れる」が35.2%と際立って高い。「何とか生き残れる」まで含めると98.1%が自社は生き残れると感じている。

DXへの取り組みが進んでいると感じている人ほど「生き残れる」と感じる割合は高くなっている。

成果を実感できる
DX推進の鍵は、
「デザイン思考」を
習得した人材

「DX白書2023」(※1)では、前回公表された「DX白書2021」から引き続きDXの実現に必要な開発手法の一つに「デザイン思考」を挙げている。今回の調査対象のイノベーション関連職種のビジネスパーソンはDX推進に深く関わっており、DX推進とデザイン思考の関わりについても認識していると想定していた。しかし調査結果からは、DX推進とデザイン思考を結びつけて認識している人は少数派であることがわかった。

一方で、所属企業においてDXの取り組みによる成果を実感していると回答した人の方が、実感できていない人に比べて、デザイン思考を習得した人材が所属企業のDX推進に活用されていると感じている割合が高かった。

企業において人材育成の研修プログラムのテーマとしてデザイン思考を取り入れたり、デザイン思考を習得した人材を採用したりすることは、DX推進に効果があると考えられる。

※1 独立行政法人 情報処理推進機構「DX白書2023」(公表日:2023年2月9日)
https://www.ipa.go.jp/files/000108041.pdf

DXと「デザイン思考」の距離

DXの推進にデザイン思考が欠かせないといわれていることを知っていたのは38.8%。6割以上の人があまり、もしくは全く知らなかった

DX推進における、「デザイン思考」を習得した人材の活用状況

所属企業がDXに取り組んでいる層(n=227)のうち、DXへの取り組みに対して、デザイン思考を習得した人材を非常によく活用できていると思う割合は12.3%。

だが、DXの取り組みに対する成果を実感しているかどうかで、大きな差が見られた。

「DXにすでに取り組んでおり、成果を実感している」層(n=54)では、デザイン思考を習得した人材を非常によく活用できていると回答した割合は44.5%だが、「すでに取り組んでいるが、まだ成果は実感していない」層(n=173)では、わずか2.3%にとどまった。

DXと比べて遅れる、
「デザイン経営」の
取り組み

イノベーション関連職種のビジネスパーソンには「デザイン経営」という単語はそれなりに認知されているが、実際の活用や習得は進んでいないことがわかった。

経済産業省や特許庁によるデザイン経営の推進についても大半が認識していない。その理由として、経済産業省や特許庁の「『デザイン経営』宣言」が経営者のための宣言であり、それゆえ今回の調査対象であるイノベーション関連職種のビジネスパーソンの認知度が低い可能性が考えられる。

さらに、所属企業での「デザイン経営」への取り組みもDXに比べて遅れていることがわかった。

「デザイン経営」の企業への浸透はまだこれからであり、促進のためには経営者ではない層に向けたデザイン経営の説明が有効であると考えられる。

「デザイン経営」の認知度

「デザイン経営」という言葉は80.0%が知っているが、実際に経営に活用したり、取り入れようとしていたり、学んでいる人は38.3%にとどまる。

職種別に見ると、「DX推進室・DX支援関連」職では実際に経営に活用したり、取り入れようとしていたり、学んでいる人の割合が52.9%となっており、イノベーション関連職種全体の割合よりも高くなっている。

経済産業省、特許庁による「デザイン経営」の推進の認知度

経済産業省、特許庁によるデザイン経営の推進については、67.3%が認識していなかった。

DXと比較した「デザイン経営」への取り組み状況

所属企業ですでにDXに取り組んでいると回答した割合は55.4%。一方、デザイン経営に取り組んでいると回答した割合は10.0%にとどまっている。

デザイン経営への取り組みは、DXへの取り組みに比べて遅れていることがうかがえる。

「デザイン経営」の
導入には
専門家の支援が有効

デザイン経営についての説明文を提示したところ、イノベーション関連職種のビジネスパーソンの多くは、デザイン経営に魅力を感じることがわかった。しかしその多くは、所属企業で取り入れることは難しいとも感じている。

所属企業へのデザイン経営導入のハードルだと考えられているのは、上位から「効果が不明」「上層部の意識が変わらない」「適任者の選定が困難」「導入プロセスが不明」「専門家・パートナーがわからない」などである。

これらは多くの企業において、デザイン経営の事例や専門的な知見が共有されていないことから生じていると考えられる。そのため、これらを解決し、デザイン経営推進に向けた有効なアプローチとして、外部の専門家による事例共有や知見のレクチャー、導入支援などが考えられる。

説明提示後の「デザイン経営」に対する意識

デザイン経営についての説明文を掲示後に、所属企業にデザイン経営の考え方やアプローチを取り入れてほしいと回答した人は89.5%と高い数値がみられた。

しかしながら、「取り入れてほしい」と回答した層のうち、6割近くの人は「取り入れてほしいと思うが、実際は難しい」と考えている

「デザイン経営」導入の
ハードル

デザインを経営に取り入れるにあたり、大きなハードルとして挙げられたのは「効果がわからない」「上層部の意識が変わらなそう」が最も多かった次に「社内のどのようなメンバーが適任者かわからない」「何から始めたらいいかわからない」が続く

デザイン経営を推進している企業において近年課題となっている「人材育成や評価制度」「自社人材のスキル・知識不足」といった人材に関する課題は本調査において低い結果となっており、取り組みが進んでいる企業との間にギャップが見られることとなった。

レポート全文では、調査の集計結果の詳細をご紹介しています。イノベーション関連職種のビジネスパーソンが考えるイノベーション人材の要件やキャリアに対する意識についてのアンケート結果も掲載しています。


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