カスタマージャーニーマップのパターン

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UXデザイン・サービスデザインの代表的手法であるカスタマージャーニーマップについて、コンセント代表/インフォメーションアーキテクトの長谷川のコラムを掲載します。




最近、「カスタマージャーニーマップ」という言葉があちこちで聞かれるようになった。
カスタマージャーニーマップは体験や感覚の可視化をするもので、企業が組織として顧客視点に立てるよう助けるツールとしてサービスデザイン(※1)の手法の一つとしても注目されている。

カスタマージャーニーマップ(CJM)を活用するためには、その役目の定義が最も重要となる。
ここでは、CJMを大別する2つの軸を紹介しよう。

図1:カスタマージャーニーマップの4象限

図1:カスタマージャーニーマップの4象限


一つ目の軸は、Inside-out/Outside-inの視点。
Inside/Outsideとは事業者からの視点として、「自社事業の観点から=Inside-out」と、「自社事業の外側の観点=Outside-in」となる。ここではサービス事業者の観点となるから、Outside-inは、サービス利用者の観点となる。

自社事業観点のCJMとは、「サービスがどのように利用されるか」を示したものとなる。
CJMの特徴として、顧客の体験や感情などが記されることがあるが、Inside-out型のCJMでは、そのサービスでも顧客はどう感じているのかを把握することができる。

例えば、病院のCJMであれば、病院に訪れ、受付を済ませ、待合室で呼び出しを待ち、という流れになる。
その流れの中で、どこで顧客がストレスを感じるのか、満足を感じるのか、を記して行く。

逆にOutside-in型のCJMでは、自社サービスにかかわらず、顧客がどのような振る舞いを示すのかを記載する。サービス利用の前から、日常でどういうふるまいが行われ、そこでどういった導入からサービスに接点が生まれるか、までが扱われる。

病院で例えれば、まず日常において病院に行こうと考えるタイミングはいつなのか、から考えることができる。

日常においては、病気かと考えても病院に行く暇がなくて行かないなんてことも起こる。
病院の視点ではなく、あくまで顧客の視点での体験を扱うため、テーマとしても「病院」といった特定のサービスではなく、「病気」であったり「健康」といった、より広範囲の題材を扱うことになる。

二つ目の軸としては、現状(As-is)と将来(To-be)の視点がある。
将来については、起こりうる(Possible)と計画する(Plan)の二つの視点がさらに考えられるが、重要なのは現状なのか将来なのかの観点だ。

現状のCJMでは、調査や観察から得られた「わかっている事実」を表現する。
これに対して、将来のCJMでは、状況に対しての問題解決案としての計画が記されることになる。

この二つの軸でマトリクスを描くと図のような4象限が得られることになる。

As-is x Inside-outのCJMは、サービス現状分析と言えるだろう。
現在のサービスが顧客にどのように感じられているのか、ネガティブに感じられているのか、を明らかにする。ウェブサービスであれば、ログ分析やユーザビリティテストなどが用いられる。

これに対して、As-is x Outside-inのCJMは、顧客というより生活者の観察からと言えるだろう。
サービスに直接関係するかどうかは結果であるため、まずはそこは気にせずに、生活者の日常を広い観点から調査を行い、モデル化する。

いわゆるエスノグラフィ調査(※2)やコンテクスチュアル・インクワイアリー(※3)などを用いることが効果的である。

To-be x Inside-out型のCJMは、サービスの改善計画となる。
事業者観点からの、あるべきサービス像を描き、そこでは顧客の課題は解決され、解決案が示されるであろう。

ここでは、顧客の問題を解決することを主眼にするため、主に改善案では、事業体の縦割り構造(サイロ)を横断して、また、顧客の接するチャネルをまたがって(Cross Channel)、体験を記述することになる。

これに対して、To-be x Outside-in型のCJMは新しい体験を描くと、サービス企画となる。
あくまで事業者観点ではなく、顧客観点であるため、既存の事業体の事業領域にとらわれず、サービスをまたがった(Cross Service)体験となる。

例えるなら、健康に関わるサービスであれば、病院という一つのサービスに限定されず、日常の接点である、身近な薬局、かかっているすべての病院、調剤薬局、健康保険、その他の保険などを横断して、自分の健康管理を行うサービスなどを考えることになる。

CJMを描く際には、この4種類のどれを描いているのかを意識する必要がある。

事業者のサービス改善プロジェクトにおいて、最も効果的なのは、As-is x Outside-in型のCJMを描き、顧客観点での示唆を得、そこからTo-be x Inside-out型のプランを描く進め方となる(図2)。

図2:As-is x Outside-in型のCJM分析に基づき、To-be x Inside-out型のCJMでプランを行う

図2:As-is x Outside-in型のCJM分析に基づき、To-be x Inside-out型のCJMでプランを行う


新規のサービス企画であれば、事業構想を検討するためにも、As-is x Outside-in型のCJMから、To-be x Outside-in型のプランを複数立てて検討する方法が考えられる。

CJMは、効果的に描くことができれば、コラボレーション型のプラニングに対して大変有効な手法といえる。
また、プラニングの効果測定のためにもよい指標となる。

適切なCJMを選んで有効に活用していただきたい。




(※1)サービスデザインについては以下も参考にしてください。
デザイン能力はサービスビジネスの不可欠要素に
[書籍]『THIS IS SERVICE DESIGN THINKING. Basics – Tools – Cases 領域横断的アプローチによるビジネスモデルの設計』
[サストコ] コンセント世界行脚:Service Design Global Conference in Paris 〜”Cultural Change by Design”
[サストコ] コンセント世界行脚:Service Design Global Conference in San Francisco 〜”海を越えてサンフランシスコへ”
[レポート] Service Design Global Conference in サンフランシスコ(2012年)参加報告
[ニュース|パブリシティ] HRI『科学技術と自律社会』掲載のお知らせ

(※2)エスノグラフィ調査については以下も参考にしてください。
【IA100Tube】20 ユーザー分析の意義と全体像
【IA100Tube】21 さまざまなユーザー調査
【IA100Tube】22 コンテクスチュアル・デザイン
【IA100Tube】41 ユーザーへの提供価値定義

(※3)コンテクスチュアル・インクワイアリーについては以下も参考にしてください。
【IA100Tube】22 コンテクスチュアル・デザイン
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