企業サイトのウェブアクセシビリティの今とこれから

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    堀口真人プロデューサー/ディレクター

はじめに

企業のマーケティング、ブランディングの現場では、Webサイトをはじめとするデジタル活用が今やあたりまえとなっている。解析ツールを用いてユーザーの行動を探索し、マーケティングオートメーションの導入によって見込み顧客の裾野を広げ、大規模なコンテンツマネジメントシステムによって日々膨大なコンテンツを量産している。
Webサイトの最大の特性は、距離や量の制限を受けずに、いつでも、どこにでも、誰にでも、情報やサービスを届けることができる点にある。しかし、その情報やサービスがユーザーにとっていかに有益であったとしても、ユーザーがその情報にアクセスできなければ、その情報は存在していないに等しい。単にWebページを作成し、インターネット上に公開しただけでは、ユーザーが情報に十分にアクセス可能な状態になるとは言えず、発信者側が情報やサービスをアクセス可能な状態にしなければならない。
「情報にアクセスできること」を一般にアクセシビリティという。近年、企業のWebサイトの活用にあたって、Webサイトのアクセシビリティについての取り組みが重要視されている。
本稿では企業がデジタルマーケティング時代にWebアクセシビリティに取り組む意義や有用性について、確認していきたい。

Webアクセシビリティとは

前述の通り、WebアクセシビリティとはWebサイトの「情報にアクセスできること」であるが、ここで言葉の意味について改めて確認をしておこう。
まず「アクセシビリティ」という言葉は、国際規格の ISO 9241-20 で「様々な能力を持つ幅広い人々に対する、製品、サービス、環境または施設のユーザビリティ」と定義されている。ユーザビリティはアクセシビリティと混同されがちだが、ISO 9241-11では「ユーザビリティ」を「特定の目的を達成するために、特定の利用者が特定の利用状況で、有効性、効率性、そして満足とともにある製品を利用することができる度合い」と定義している。
つまり、アクセシビリティは「ある特定の利用者の満足を伴った利便性を、幅広い層の人々に対して提供すること」と言え、ユーザビリティを含むすべての情報価値の前提となる(図1)。
そして「Webアクセシビリティ」 は、アクセシビリティの中でも「Web」で提供されている情報に対して使われる言葉である。

図1:アクセシビリティとは…ユーザビリティを含むすべての情報価値の前提

出典:bookslope blog - Evaluation method of UX “The User Experience Honeycomb”
http://www.bookslope.jp/blog/2012/07/evaluationuxhoneycomb.html

ヒューマンリーダビリティとマシンリーダビリティ

Webアクセシビリティは2つの側面をもつ。それはヒューマンリーダビリティとマシンリーダビリティである。

ヒューマンリーダビリティは「人が身体的感覚で情報を読み取れること」を指し、情報が知覚可能であり、操作が可能であり、理解ができることが求められる。具体的には、「コンテンツが利用者にとって見やすく、聞きやすいこと」、「色や形で背景と、その上に載る文字や写真などの区別ができること」、「利用者が操作してコンテンツを探したり、現在位置を確認したりできること」、「使用するのに十分な時間が提供されていること」、さらには「テキストやコンテンツが読みやすく、理解可能であること」、「表示や挙動が予測可能であること」などが求められ、ユーザーが情報にアクセスした際に、人の感覚で情報を読み取ることができる状態を用意することが、ヒューマンリーダビリティの確保になる。

一方のマシンリーダビリティは、文字通り「機械が情報を読み取れること」を指す。
そもそもWebサイトの情報は、PCやスマートフォン、そこで利用されるブラウザといったハードウェアやソフトウェアを介さないと、ユーザーである人間に届けることができない。そのため情報には、「マシン(機械)」が解釈でき、さまざまな形に変換されて幅広く利用できるようにプログラムされることが求められるのである。
Webサイトは基本、HTMLというマークアップ言語で構成されている。これにテキストやイメージ画像、写真、動画、PDFなどのさまざまな形式の情報が埋め込まれるが、この内、もっとも多くの人に情報を伝える形式はテキストである。テキスト情報はHTMLでマークアップされることで、ブラウザやアプリなどのユーザーエージェント(UA)で共通して利用できるようになる他、画像や写真、動画の代替として情報を伝えることもできる。これがマシンリーダビリティだ。
マシンリーダブルにすることで、機械が情報をさまざまな状況に適した形に変え、幅広いユーザーに届けることができ、また年々進化するデバイスへの適応もより容易に行うことができるようになる。

つまり、「ヒューマンリーダビリティの確保」は情報そのものをユーザーに対し適切な表現形にして情報を正確に伝えることであり、「マシンリーダビリティの確保」は伝えたい情報を機械が理解・認識できる形に変えることで、より多くのユーザーに届ける仕組みをもつことである。

アクセシビリティ対応=障害者対応という誤解

2016年4月、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律、いわゆる「障害者差別解消法」が制定された。障害者の日常生活、社会生活における医療、教育、交通、施設、防災、司法手続き、情報バリアフリーなどさまざまな分野において、不当な差別の排除や合理的配慮の義務化が求められ、障害の有無に関わらずすべての国民が共生できる社会の実現を目的としている。
Webアクセシビリティにおいても、利用者から障壁となる問題の改善を求められた場合には、その改善に向けて、国の行政機関には法的義務が発生し、民間事業者にも合理的配慮の実施が努力義務として定められており、企業がWebアクセシビリティに取り組む理由の1つに挙げられることも多い。
これらのことからアクセシビリティ対応=障害者対応と語られることが多いが、障害者対応はあくまでアクセシビリティの一部であり、すべてではない。年齢や身体状況といった条件に関わらず、すべての人を対象に、どのような利用環境であっても情報にアクセスしやすくすることが、アクセシビリティなのである。

いくつかの利用シーンを考えてみよう。例えば製品の導入を検討しているプロジェクトリーダーは、オフィス内のデスクトップでマウスを片手に製品の選定をしているかもしれないし、現場の炎天下でタブレットを片手に製品の選定をしているかもしれない。また、普段は問題なくスマートフォンで買い物をしているユーザーが、何かの事故で右手を怪我して一時的に左手しか使えなかったり、メガネを忘れていつもより見えづらかったりした場合はどうか。
つまり、高齢者・障害者に限らず、同じ操作でも利用環境が異なったり、一時的に情報にアクセスできなかったりという状況は誰にでもある。蛍光灯下のデスクトップでも炎天下のスマートフォンでも、左手だけでもメガネを忘れても、同じように情報にアクセスできること、利用状況が異なっても常にアクセシブルであることは、高齢者・障害者対応の文脈だけではおさまらない(図2)。

Webの特性を考え、どんな人でも、どんな状況でも、どんな環境でも情報にアクセスできるようにすること、つまりWebアクセシビリティ対応に取り組むことは、企業にとってあらゆる機会の創出につながる重要な施策と言える。

図2:Webアクセシビリティとは

図は筆者作成

Webアクセシビリティのビジネス活用

これまでのWebアクセシビリティは、機会創出を目的とするものではなく、高齢者・障害者対応、法規制の対応、CSR(Corporate Social Responsibility)・CSV(Creating Shared Value)などの社会的活動の一環として、どちらかと言えば「守り」の手段として見られることが多かった。しかし近年では、企業PRや企業認知の裾野を広げ、新たな顧客との接点を生む機会創出につながるような、企業のブランディング・マーケティングの「攻め」の活動の一環として取り組まれるケースも増えてきている。

まず前述のとおり、Webアクセシビリティへの対応はより多くの人へのリーチを可能にする。高齢者・障害者へのリーチはもとより、健常者のイレギュラーな状況に対しても機会損失を防ぎ、情報にアクセスできる状況が最大化され、ユーザー層が広がるというビジネスメリットが生まれる。
加えて、Webアクセシビリティ対応はWebサイト内でのよりよいユーザー体験を創出し、直接のコンバージョンに大きな影響を与える。WebアクセシビリティはWebサイト上でのユーザビリティの集合体であり、達成基準としてリンクテキストのわかりやすさや、問い合わせフォームの使い勝手などが盛り込まれているため、サイト全体の利便性が向上し、ユーザーにスムーズな目的達成を促す。

高齢者・障害者もマーケットの対象として無視できない。
65歳以上のシニア層は2016年に3,400万人に達し、総人口の27%を占める(出典:総務省統計局 2018年1月22日公表 人口推移)。また、このうちインターネット利用者は1,600万人を超えることとなり、利用人口全体の16%を占める(※1)。年代別にみても「1年に1回以上インターネットを利用したことがあるか」という調査に対して、60歳〜69歳で75.7%、70歳〜79歳で53.6%の人々が「ある」と回答しており、高齢者もインターネットを日常的に利用していることがわかる(グラフ1)。

(※1)総務省統計局の年代別人口と年齢階層別インターネットの利用状況の割合から筆者が独自に算出。

グラフ1:年齢階層別インターネットの利用状況の推移

出典:総務省 平成28年通信利用動向調査の結果(グラフは筆者にて作成)
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01tsushin02_02000112.html

また眼科医療分野における調査研究では、日本人男性の5%は色覚異常をもつ(女性は全体の0.2%)とも言われている。およそ300万人強だが、これは日本国内の佐藤姓と田中姓を足した数とほぼ同じ数である。さらに総務省統計局の人口調査によれば、老眼鏡が必要となる可能性のある40代以上の対象人口は、約7,000万人とも推計されている。

こうした「高齢者のインターネット利用人口」「色覚異常をもつ人口」「老眼鏡が必要となる対象人口」をみていくと、文字の大きさ、色の不明瞭さ1つでそれらのマーケットリーチを阻んでいる可能性があり、前述したように高齢者・障害者対応がアクセシビリティのすべてではないが、企業がWebアクセシビリティに取り組む意義は大きい。

また、視覚障害者に限らず、障害者の多くがインターネットを利用している。利用実態としては視覚障害者の91.3%、聴覚障害者の93.4%、肢体不自由者の82.7%がインターネットを利用している(表1)。
障害等によって日常生活での活動制限を受けるユーザーの中には、アクセシブルなもの以外は利用できない人も多い。企業の機会創出という観点で言い変えれば、他でできなかったことが特定の場所でできることでロイヤリティが高まり、指名買いやリピーターとなりやすい。
また、コミュニティ内での情報交換は活発であり、よりよい利用体験は推奨意向の高まりにつながると考えられる。

表1:障害のある方々のインターネット利用率(平成24年)

出典:総務省 「障がいのある方々のインターネット等の利用に関する調査研究[結果概要]」(平成24年1月~3月実施)
http://barrierfree.nict.go.jp/relate/statistics/hc_internet.html

さらに、運用効率・コスト効率の観点からもWebアクセシビリティは有効である。Webアクセシビリティへの対応はW3Cが勧告するガイドラインやJISの規格に則るなど一定のルールに沿うことが必要となり、結果的にWebサイトの方針・戦略・構造をしっかりと定義することになる。品質を保ち運用するためのテンプレートやルールが策定されるため、サイト全体が一貫性を保ちながら、品質が担保され、運用が容易になる。規模感のあるCMSとの親和性も高い。さらにルールや仕様が明文化されるため、メンテナンスコストが削減でき、再利用性が高まり、運用コストや引き継ぎコストが削減される効果も期待できる。

それ以外にもWebアクセシビリティ対応ではHTMLの構文記述の際、Googleのウェブマスター向けガイドラインに準拠することになるため、検索エンジンへの最適化の施策としても有効と言えるし、さまざまなデバイスとの親和性が高く、レスポンシブデザインと言われるスマートフォン対応にも取り組みやすくなる。

このように、Webアクセシビリティに対応することは、企業にとって守りの姿勢ではなく、攻めの一手として活用する時代になってきたと言える。実際にWeb広告研究会が実施したWebアクセシビリティに取り組む企業のWeb担当者へのアンケートでは、Webアクセシビリティが必要だと思う理由として「マーケティングにも効果的だから」「Webサイトの品質向上に役立つから」「グローバルスタンダードだから」といった意見も少なくない(図3)。

図3:Webアクセシビリティが必要だと思う理由

出典:Web広告研究会「Webアクセシビリティ 取組み状況 調査」(上記質問回答は複数選択を可としたもの)
https://www.wab.ne.jp/wab_sites/general-browse/view/2335

Webアクセシビリティに取り組む意義

上記のようなビジネス活用の他、アクセシビリティに取り組む意義の1つに企業のグローバル進出が挙げられる。
日本企業が海外に進出する際に考慮しなければいけないのは、海外各国の法規制だ。先進国にWebサイトを開設する際には現地の法規制に則る必要があるが、実は日本のWebアクセシビリティにおける法規制は、他の先進国に対して比較的緩く、海外進出の際には注意が必要である。
例えばアメリカではSection508、ADA、ACAAといった障害者やアクセシビリティに関わる法規制が複数存在し、Webアクセシビリティに関連する提訴事案が頻発している。Amazon、Netflix、バンク・オブ・アメリカ、McDonald、ヒルトンホテルなど大手企業が提訴を受けており、小売りチェーン大手のTarget社にいたっては2008年に損害賠償金600万ドルの支払いが命じられている。
アメリカでの提訴件数は年々増えており、企業サイトがWebアクセシビリティの基準を満たしていないという理由で2015年に提起された訴訟件数は57件、2016年には5倍の262件に、2017年は8月15日までに432件に増加している(参照元:アゴラ「米国でウェブアクセシビリティ訴訟は増加の一途」http://agora-web.jp/archives/2028130-2.html)。このような状況下から、アメリカの企業はWebアクセシビリティ対応に活発に取り組んでいる。
他の先進国もWebアクセシビリティの対応に意欲的だ。カナダのオンタリオ州ではAODAという州の法規により従業員50人以上の事業者のWebサイトには、WCAG 2.0 レベルA (後述の項「アクセシビリティへの対応方法」で解説)への準拠を要求している。韓国では「障害者差別禁止法」制定に伴い、対象となる全法人が韓国独自の基準であるKWCAG 2.1への準拠を求められることとなった(図4)。
オーストラリアでは2000年にシドニー五輪で世界初のWebアクセシビリティ訴訟事例が起きたことをきっかけに、国内の特定地域に属する組織に対して高水準のアクセシビリティ準拠レベルを求めている。同様にニュージーランドでも2013年7月から2017年7月までに、国内のすべてのサイトのアクセシビリティの基準を段階的に引上げ、国内全体で高水準のWebアクセシビリティ準拠を図っている。
日本企業が海外現地法人のWebサイトを開設する際に、こうした現地の法規制をふまえず、日本国内のWebサイトの単純なコピーで展開した場合には、リーガルリスクを孕むことになるので注意が必要である。

図4:海外のWebアクセシビリティ対応の例

出典: 株式会社インフォアクシア 植木真氏作成資料より引用
https://waic.jp/seminar/201502/media/201502_ueki.pdf

ビジネス活用のメリットはグローバルでも同じである。グローバルをマーケットにした場合、多様なユーザーや閲覧環境でも情報が届くことは世界に裾野を広げることと言え、近年のアメリカをはじめとする企業は率先してWebアクセシビリティに取り組んでおり、Webアクセシビリティ専任チームを組織している企業もある。企業サイトのアクセシビリティ対応は、もはやグローバルスタンダードと言っていいだろう。

アクセシビリティに取り組むもう1つの意義に、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催が挙げられる。
近年のインバウンド施策による海外からの旅行者の増加に伴い、障害をもつ旅行客やパラリンピック関係者からのWebサイトへのアクセス、また海外からのアクセス自体も増加する。
開催にあたり、特にスポンサーをはじめとする五輪関連の企業や交通機関、公的施設のWebサイトは世界中から注目され、サービスや使い勝手は厳しい目に晒される。
公共施設や競技施設、交通機関等のバリアフリーやユニバーサルデザインへの取り組みは顕著だが、Webサイトは現状あまり意識されておらず、五輪関連の施設サイトでさえ、アクセシビリティに対応しているケースは多くはない。
厳しい目に晒されているということは裏を返せば絶好の機会創出となるため、Webアクセシビリティへの対応はグローバルにアピールする有効な手段と言える。ぜひ取り組みを検討してほしい。

アクセシビリティへの対応方法

ここまでWebアクセシビリティ対応への取り組みの意義を述べてきた。では実際に取り組むにあたり、どこから着手すべきかについて紹介していく。
アクセシビリティ対応を進める拠り所としては、以下のようなWebアクセシビリティのガイドラインが存在する。

  • Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.0
  • ISO/IEC 40500:2012
  • JIS X 8341-3:2016

WCAG 2.0とISOは国際規格、JISは日本工業規格だが、JIS X 8341-3 が2016年に改定され、いずれのガイドラインもほぼ同じ内容となり、国内企業サイトは JIS X 8341-3:2016 に対応することがWCAG 2.0に対応することとイコールになった。このJISのガイドラインに従うことで、最低限満たしておくべき品質の確保が可能だ。
JIS X 8341-3:2016 では61の達成基準と3つのレベル(レベルA、レベルAA、レベルAAA)があり、総務省の「みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)」では、公的機関に対してレベルAA対応を推奨しており、企業サイトではA、もしくはAAの一部に準拠することが一般的となっている。
達成基準の例としては、「Webコンテンツの文字色と背景色のコントラストは、4.5:1以上のコントラスト比を確保する」、「リンクテキストはリンク先の内容を判断できる内容にする」、「エラーメッセージの表示内容のわかりやすさや、エラーの対処方法の明示をする」などがあり細かく規定されているが、これらの達成基準を満たせばWebサイトは格段に使いやすくなる。
JIS対応に沿ったWebアクセシビリティの基本的な進め方として、大まかに以下のようなステップをとる。

  1. 1.方針の策定(対象範囲や目標を決める)と公開
  2. 2.対象範囲での対応実施
  3. 3.試験実施
  4. 4.試験結果公開
  5. 5.運用と改善

進め方の詳細は、総務省のWebサイトにある「みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)」に詳しく掲載されているので、参考にしていただきたい。

総務省のウェブサイトの外面イメージと、みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)の表紙

出典:総務省 みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/b_free/guideline.html

上記のステップのうち重要なのが1の「方針の策定と公開」だ。Webアクセシビリティに対応する範囲と、いつまでに、どのレベルを目標に進めるのかを決め、その目標を公開する。Webアクセシビリティに対する企業の姿勢を示す宣言と言える。
企業によっては企業サイト単体でも数万ページをもつケースも珍しくない。せっかくWebアクセシビリティに取り組むのであれば、できるだけ多くのページを対象に、と理想を掲げたくなるが、そうなると現実的に対応自体が厳しくなり、企業の中で方針が定まらず、取り組み自体が進まないことも多い。
確かに、より多くのページを対応させることは望ましいことではあるが、Webアクセシビリティは ALL or NOTHING ではなく、できるところから着手すればよい。

例えば Yahoo! JAPANでは、ウェブアクセシビリティ方針ページで「課題解決エンジンであり続けたい」「合言葉は『ユーザーファースト』」など、アクセシビリティに取り組む企業姿勢を打ち出している。対応範囲は決して広くなく、基準もレベルAとしているが、定期的に試験を実施して結果を公開し、方針ページも更新しながら継続的に取り組んでおり、企業としての対応方針は明快である。

Yahoo! JAPANのウェブアクセシビリティ方針の画面イメージ

出典:Yahoo! JAPANのウェブアクセシビリティ方針ページ
https://about.yahoo.co.jp/info/accessibility/

このように、サイト全体の対応は現実的ではなくとも、例えばトップページや企業情報などユーザーのアクセスが多いページや、問い合わせフォームといったユーザーの利用頻度が高い箇所などを中心に部分的に対応し、範囲を定めた方針を掲げることで、企業姿勢としてWebアクセシビリティに十分配慮していると言える。

多くの企業が方針ページを公開しており、以下のウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)のサイトでは、アクセシビリティ対応をしている企業を参照できる。
・一般企業におけるウェブアクセシビリティ方針策定と試験結果表示の実態調査(2017年2月)
https://waic.jp/docs/survey/corporations/201702.html

また、JISに基づく試験の実施においては、WAICの試験実施ガイドラインが参考になる。
・JIS X 8341-3:2010 試験実施ガイドライン 2012年11月版
http://waic.jp/docs/jis2010/test-guidelines/201211/index.html

まとめ

以上のように、本稿では企業がWebアクセシビリティに取り組む意義や有用性について確認した。Webアクセシビリティは守りの施策ではなく、デジタルマーケティング時代における事業推進の一環として取り組むべき攻めの重要施策となってきている。アクセシビリティを活用することは、企業が提供するサービスのユーザー体験を向上させ、これまで以上に裾野を広げた情報発信ができ、企業の情報資産を効果的・効率的に運営維持することに対し非常に有効である。
また、繰り返しになるが、Webアクセシビリティ対応は ALL or NOTHING ではなく、最初から大規模に取り組む必要もない。できるところから少しずつやれることも良い点である。

日本企業がWebアクセシビリティへの対応を強化することで、より多くの情報サービスと、より多くの企業、そしてユーザーがつながることを願ってやまない。


※本記事の一部は、伊原力也氏の下記参考資料をベースに構成・執筆しています。
「なぜ企業はWebアクセシビリティに取り組むのか?」 https://www.slideshare.net/waic_jp/web-72165033
「あなたの価値を高めるWebアクセシビリティ(JAC Special Ver.)」 https://www.slideshare.net/rikiha/webjac-special-ver
「あなたの価値を高めるWebアクセシビリティ(!importantバージョン)」 https://www.slideshare.net/rikiha/webimportant
「アクセシビリティとこれからのWebデザイン」 https://www.slideshare.net/rikiha/sinap-accessibility
※本記事は、一般社団法人 日本BtoB広告協会発行の月刊誌『BtoB コミュニケーション』2018年2月号への寄稿原文です。
※2020年1月15日追記:文中でWebアクセシビリティのガイドライン「ISO/IEC 405000:2012」としていましたが、正しくは「ISO/IEC 40500:2012」でした。お詫びして訂正いたします。




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[ 執筆者 ]

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