気持ちと情熱の向かう先を合わせる ──体質・意味付け・違和感で読み解くマネジメントの思想【鼎談前編】

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    岩楯ユカPRディレクター/PRSJ認定PRプランナー

組織規模の拡大、役割や事業フェーズの変化、デジタル化の加速や急速に進むAIの社会実装──。組織を取り巻く社内外の環境が変わる中で顧客体験価値を創造し続けるために、組織のマネージャーに必要な考えとは?

価値創出に取り組む組織の成長を担う3名のマネジメント実践者の考えや経験からヒントを探っていきます。本稿はその鼎談企画の前編です。

アウトプットの品質を管理するために整備する仕組みや制度が定着したときに表れた課題と、「機能しなくなるとき」の組織の状態を解き明かすことで見えてきた、マネージャーが取り組むべき「気持ちや情熱の向かう先を合わせていく」こと。そのために大切にしている考えを、「感覚と体質」「問いと意味付け」「余白と違和感」という3つの観点で整理していきます。

鼎談メンバーは、SMBCコンシューマーファイナンスIT戦略部長の武井俊一郎さん、インフォバーンのクリエイティブ・フェローの木継則幸さん、コンセントの取締役/デザインストラテジストの大﨑優です。

記事のメインビジュアル。鼎談メンバーが椅子に座り話している様子。

プロフィール

※所属・肩書は2026年2月取材時点のものです。

[鼎談メンバー]

武井俊一郎さんの顔写真

武井俊一郎(TAKEI Shunichiro)

SMBCコンシューマーファイナンス株式会社 IT戦略部長

銀行入行後、営業店2カ店での勤務を経て、インターネット専業銀行(編注:2000年9月設立のジャパンネット銀行で現・PayPay銀行)の立ち上げやビジネス基盤の確立に従事。その後、銀行本部の経営企画やインターネットバンキング・アプリ等の所管部署での勤務、銀行のデザイナー採用やデザイン組織の立ち上げの実務全般の推進を行う。アメリカでのデジタルバンクプロジェクトに参加後、2023年4月より、「プロミス」を展開するSMBCコンシューマーファイナンス株式会社で、新設されたIT戦略部の部長として、デジタルを活用した顧客体験の向上とUX企画、UI設計、要件定義等を所管。
日本初のインターネット専業銀行の立ち上げ、銀行本部におけるデザイナー採用・デザイン組織の構想といった前例がない分野において開拓者的に取り組む。IT戦略部ではデザインチームを置かず、UXの最大化を目指し持続的に成長させ続けるための「UX体質の組織化」を図る。

木継則幸さんの顔写真

木継則幸(KITSUGI Noriyuki)

株式会社インフォバーン クリエイティブ・フェロー

雑誌『WIRED』日本版などでアートディレクターとして活動後、現在は事業開発におけるビジョンメイクからエクスペリエンスデザイン、サービスデザインまで一貫したプロセスデザインによる価値創出プロジェクトを推進。企業・組織のクリエイティブ人材育成にも注力。
社内外のナレッジを交換しながら新しい事業領域やネットワークをつくりデザインを再定義しつつ、組織における新しい知見を拡張させながら、他社や社会に展開していく役割を担う。

大﨑 優さんの顔写真

大﨑 優(OSAKI Yu)

株式会社コンセント取締役 デザインストラテジスト、サービスデザイナー

デザイン経営支援、事業開発支援、ブランディング支援などを行う。2012年にサービスデザイン事業部を立ち上げ主幹事業に拡大。2024年より、デザインによる人材育成や組織開発に関する事業部「Organization Design group」を管掌。
5名ほどの部署のマネジメントから全事業部のマネジメント、新事業開発に向けた専門部署の立ち上げ・運営、クライアント企業のデザイン組織の支援まで、状況や目的に合わせさまざまなマネジメントスタイルを実践している。

成瀬有莉さんの顔写真

[モデレーター]

成瀬有莉(NARUSE Yuri)

株式会社コンセント サービスデザイナー/デザインストラテジスト

デザイン人材育成支援業務(ワークショップ・研修等)から、組織活動改善のための問題分析、デザイン活動・共創を推進するためのワークショップデザインやファシリテーションまで、サービスデザイナーとして幅広く担当。「Organization Design group」サブマネージャー。

仕組みや制度が機能しなくなるときに、組織に起きていることとは?

成瀬:組織の規模や業態の変化に応じた組織の在り方を考える中で、マネジメントの課題として、組織風土づくりやアウトプットのクオリティ管理などが出てきます。

私もコンセントで、大﨑と同じOrganization Design groupのサブマネージャーを担当しているのですが、マネージャーの立場としてやるべきことは大きく分けて2つあると思っています。一つはモチベーションも含めた「人」の管理、もう一つは「仕組みや制度」の整備で、マネージャーの役割は、その両者をもっていかに組織を成長させるかだと捉えています。

後者の「仕組みや制度」を整備する施策の一つに、皆が活躍できるようにするためのルールやガイドラインづくりがあります。ただ、品質を担保していくためには必要なものの、過度に整備してしまうと、皆がルールやガイドラインに正解を求めがちになったりして、人や組織の成長につながらないのが課題です。

多くのマネジメント層の方に共通する課題感だと思うんですが、皆さんのご意見やご経験について教えてください。

成瀬が鼎談メンバーに話しかけている様子

デザイン業界全体への課題感からつくった「生産性指標」と「スキルマップ」

大﨑:仕組みや制度はいろいろつくってきました。例えば「生産性指標」というものです。デザイン業界の一般的な傾向として、デザイン品質の追求のために必要以上に時間をかけてしまうことがあります。ですが、それでは当然、経営は成り立ちません。過剰コストの回避のために、売上と投じている工数を掛け合わせたプロジェクトごとの利益率を出し、品質とのバランスを図っていくためこの指標を考えました。

また同じくデザイン業界全体に言えることですが、この10年ほどでデザインの領域が広がる中、どういうことに取り組めばいいのか、キャリアをどう築けばいいのかがわかりづらいという状態が続いています。そのため、組織としても個人としても成長に向けた道筋を描きやすくなるようにスキルマップをつくり、毎年見直しながら運用しています。マネージャーやメンバーとの間で活動の振り返りや評価、目標を立てる際の軸に生かしたりと活用範囲も広がっています。

その他、若手の育成制度や、デザイン制作からコンサルティング領域に越境するためのロジカルシンキングなど基礎素養面を育成するような仕組みもつくってきました。

3年たつと現れる「過剰適応」や「えぐみ」

大﨑:ただ、例えば生産性指標は定着するのに3年ほどかかりましたが、定着した後は、逆にそれを意識しすぎてしまう現象が起きたんです。「このプロジェクトは生産性がオーバーしそうだからこれ以上工数はかけられない」という会話が当たり前になされるようになってしまった。いわゆる仕組みに過剰適応する状態ですが、それではいけない。

またAIが急速に進化している中で、デザイン業界では過去につくってきた仕組みの資産が負の作用を及ぼすような局面も出てきているので、そこをいかにマネジメントするのかも課題だと思っています。

武井:3年が限界というのは、仕組みや制度に限らず組織に対しても言えますよね。私は「3年たつと、人も組織も“えぐみ”が出るから」と言っているんですが。別の言い方をすると、3年たつと人も組織も慣れてしまう、ということです。

過去の成功体験の一般化では、変化に対応できない

大﨑:そうなんですよね。「こういう課題があったからこの仕組みができた」という背景を理解していられるのがおそらく3年ぐらい。それ以上たつとその背景を忘れ始め、新しいメンバーも増えているので、無意識に過剰適応したり、「なぜこの仕組みをつくったのか?」という不信感が生まれてしまう。さらには、仕組みをハックする暗黙的なノウハウも流通し始める。武井さんのおっしゃる「えぐみ」の正体はそれじゃないかと。

木継:そもそも仕組みや制度は、過去の成功体験の一般化ですよね。だからこそ、現在進行中の動きやこれからの変化には対応できずに硬直化してしまう。それが過剰適応やえぐみの背景にある根本的な構造ではないでしょうか。

木継氏が話す様子

「OS」のようにアップデートしていく感覚を養う

大﨑:過剰適応のような現象が出てくる中で、「仕組みが機能するとはどういうことか?」と考えたことがあります。

「リスクやマイナス面も含めてその仕組みの意味をみんなが理解し、手なずけている状態」が、仕組みが機能していることだと思うんです。その状態になるように3年、5年かけて微調整していく。例えば先ほどのスキルマップでも、それに応じた育成制度を運用しているだけだと、人の能力を矮小化してしまい近視眼的になってしまう。マネージャーはバランスを取らないといけないんですよね。

当然、メンバーに応じても考える必要があります。例えば若手ならまずは「守破離」の「守」を守れるようにする。ある程度の経験がある人は、自分がそこからどう抜け出すかも含めて考えていけるようにする。マネージャーはこうした世界観に立脚することが大事かなと思うんです。

木継:仕組みや制度を固定化されたものではなく、OS的に捉えていかにアップデートし続けるかという視点で考えていく。そのためのマインドセットや共通認識をどうつくり出していくのかが重要ですよね。

大﨑:確かにOSの比喩で捉えるとわかりやすいですね。「この取り組みはアプリケーションとして運用しているけれども、当然アップデートもある。OSのアップデートはもう少し変化が遅いけれど、大規模に物事が動く」というようなレイヤー構造として捉えていくことが大事だと思いました。

木継:アプリケーションはOSに載るものなので、アプリケーションの変化の速度に対してどう先んじてOSを緩やかに変えていくか。その時間軸の異なるチューニング力がこれからのマネジメントではより問われていきます。

気持ちや情熱の向かう先を合わせていく

武井:同じ話かもしれないですが、私は何より「気持ちや意思、考えや情熱みたいなものの向かう先を合わせていくこと」が大事だと思っています。これは、成瀬さんが挙げた人の管理と仕組み・制度の整備以上に、マネージャーがやるべきことだと考えていることです。

1つ目の人の管理については、今の部署をたまたま私がゼロからつくれたから、かつオーダーメイドのような形で他の誰よりも自分が第一人者だと思ってやってきているからというのもあるかもしれませんが、あまりしなくてもいいなと。もちろん組織として最低限の管理はしますが。「管理職は人を管理するのではなくて、プロセスを管理して」ということをずっと言っています。

また2つ目の仕組みや制度の整備も緩くていいと思っています。なぜならやり方を固めてしまうと、大﨑さんがおっしゃった過剰適応につながり、発展がなく先細りになってしまいますから。

武井氏、木継氏、大﨑が笑顔で話す様子

「戸板」で寄せることで、増幅の余白を残す

武井:そこで、私が3つ目に挙げた「気持ちや意思、考えや情熱みたいなものの向かう先を合わせていく」というのは、放っておくとビシャーッとなってしまうのを、こちらとあちらから「戸板」をグーッと寄せていき、「こっちの方向にこんな感じでやっていって」と緩やかに方向性を感じさせるイメージです。

そのために仕組みや制度が存在するとも言えますが、ガチガチに固めた内容だったりつくりっ放しにしてしまっては、もともと向かっていた方向ではなく、制度の方に意識が向いてしまい、方向性と制度とで主従が逆になってしまう。きっちりした仕組みじゃないと迷う人も出てきますが、「ここでの仕事はこういうことだから、人に言われたからではなくて、こっちの方向を向いて自分の気持ちを出して」と伝えていく。部員が「自分自身の気持ち」を大事にできるようにしたいんです。

成瀬:「戸板」で緩やかに寄せていくことで、正解を求めるのではなく、自分の意思をもって進んでいくことを大切にされているんですね。

武井:金融業界は、デザインやクリエイティブ的なものを自分たちでやるということがとても遅れていて、銀行にいたときもなんとか状況を逆転させようといろいろ取り組みました。SMBCコンシューマーファイナンス(以下、CF)は、かつて消費者金融業界に対する一時的な厳しい視線も向けられる中で慎重になりつつも、収益はしっかり確保してきたというところがありました。でも今後さらに成長していくためには、まずその考えを変えていく必要があります。だから押さえ込むのではなく、戸板を寄せることで増幅していく余白を残しながら、「顔を上げて、こっちの方向を見て、こういう発想をしていこう」と穏やかに方向性を感じてもらう。これが私の基本姿勢です。

武井氏が身振り手振りで話す様子

木継:「戸板」はすごく共感する例えです。人がもつさまざまな嗜好性や方向性をあるビジョンに向けて増幅させていくためには、抑え込む壁ではなく、戸板というイメージの方がぴたりと当てはまる。

私自身は「足場」的なものと捉えています。人それぞれのアイデンティティを組織のアイデンティティにはめようとすると、いわゆるオーバーアイデンティケーション(過剰同一化)になり制度的になってしまう。個人のアイデンティティを実現するためには、前に進むことと、進むだけではなく時にはとどまって蓄積することも不可欠です。組織を「戸板」や「足場」のような目に見えない支援ツールとして捉える視点は、これからの組織の在り方を考える上で重要だと思います。

気持ちや情熱の向かう先を合わせていくために必要なこと

1. 感覚と体質

「点」ではない、ユーザー「感覚」とは?

成瀬:気持ちや考え、情熱の向かう先を合わせていくというのは、仕組みや制度を機能させていく上でも、人の管理の上でもキーになりますね。

武井さんが部長を務められるIT戦略部は、サービス企画部門として要件定義等とともにユーザー体験の設計をされており、2025年11月に開催したイベントでは、武井さんから「体験の最大化を持続的に実現していくために“UX体質の組織化”に取り組んでいる」というお話がありました。そして、そのためのアプローチとしてインハウスのデザインチームを組成するのではなく、現場社員の方がUX企画を考え主体的に動けるようにする、という方法を取られています。

デザイナーではない職種の方がほとんどという中で、UX体質を組織化するというのは、先ほどの気持ちや考え、情熱のお話とも関連するのではと思っています。また「体質」という表現にされているのもとても興味深いです。

コンセントも支援させていただいていますが、あらためて武井さんが取り組みの中で大事にされていることをご紹介いただけますでしょうか。

成瀬が話す様子

武井:とにかくいろんな場面で「ユーザー感覚を大事にしてね」と部員に伝えています。ユーザーにどんな体験をしてもらうのがいいか、それをウェブやアプリでどう伝えていくかを考えられるようになるには、一人のユーザーとしての感覚を大事にして、その感覚を自分の仕事にいかに落とし込めるか、ですから。

このときの「感覚」というのは、よくいわれる「ユーザー起点」や「ユーザー観点」「顧客目線」といったものではありません。なぜならそれらは全部「点」なので。擬態語になりますが、生身の人間の「うにゅうにゅ」としたうねり動いている気持ちや行動の源泉を揺さぶっていきたいというときに、高いところから串刺しするような「点」は違う。自分の体や心全体からしみ出るもので触れていくから、ユーザーも動くわけです。そのしみ出るぐらいにユーザー感覚が当たり前になっている状態を「UX体質」と言っています。

体質は人から仕向けられてなるのではなく、地層から水がしみ出してくるかのようにすごく長い年月をかけて自分の中につくられていくもの。ゆえに自分がその組織を見ている間に結果は出ないかもしれませんが。

感覚が「しみ出る」状態を目指して

成瀬:意識しなくてもユーザー感覚がしみ出るイメージですね。部の皆さんがそうなるように、どんなことを大切にされていますか?

武井:ユーザー感覚を自分の中で育てていくためには、いろんなところに行って、人がどうしているかを感じて自分でもやってみることが大事です。いろいろ体験することで、自分の中に湧き起こる、あるいは湧き下がるものが出てくるので、それを仕事の中で出していく。そうしたことをいろんな例え話をしながら部員に言い続けています。その考え方と関係するかもしれませんが、仕事場では私は自分の感情を出すようにしています。おや?というときにはガッといくし、いいときにはわぁっと楽しむ。たまに私自身の評価のときに「注意してください」と書かれたりもしますが(笑)。

また担当者に「考えていることが“生煮え”でもいいからシェアして」と伝えて、スモールな打ち合わせを頻繁にやるようにしています。部長や部付部長、次長・グループ長や先輩も含めて皆で話すことで、それぞれからしみ出るものを浴びてもらう。また、毎週月曜日に行っている朝会では、私自身のいろんな話をするようにしています。

熱意やパッションを感じながら理解してもらいその人の中に落とし込んでもらう。たとえウザがられても(笑)、こうしたコミュニケーションを繰り返しています。方向が合っているのか100%の自信はありませんが、少なくとも私がIT戦略部でやるのはこの方向だから、それを体現してほしいなと。

意思を尊重することで、組織に無形の資産ができていく

武井:また、例えば部員から「これとこれ、どっちがいいでしょうか?」と判断を委ねられても、「編集長は誰?」と聞き返して、編集長、つまりそのプロジェクトの担当者として自分自身の考えを話してもらいます。よっぽど見当違いの方向に行ってしまった場合は別ですが、周辺くらいなら全然構わないので、ユーザー感覚をもって考え抜いた本人の意思を尊重するようにしています。先ほどの「管理職は人を管理するのではなくて、プロセスを管理する」という話につながるものです。

こうしたことをやり続けていくことで、組織の中にそれぞれの意思という無形の資産ができていき、トータルで見たときにアウトプットがそろっていきます。この状態を目指して3年間やり続けてきましたが、今、いい感じで来ているなと思っています。

武井氏が話している内容を周りのメンバーが聞いている様子

2. 問いと意味付け

複雑性の中に身を置き「モヤモヤ」をもち続ける

木継:ユーザー感覚のお話は非常に本質的ですね。体験を通した知覚や反応、感情、記憶というものは主観的な事象で、全て使う人の「内側」で起きています。そこに向き合うにはやはりロジックではなくて、身体的に理解していくことが不可欠です。身体的に理解するというのは、武井さんがおっしゃったように上から見た「点」で刺すのではなくて、混沌や複雑性の中に身を置いて、そこで捉えた自分自身の感覚がさらにその混沌や複雑性と混ざり合うことで理解していくイメージです。だからこそユーザーに提供すべきものが見えてくる。

インフォバーンではこれに近い活動としてリビングラボ(編注:生活空間を実験室に見立てて、市民・企業・行政が新たな価値を共創していく手法)を実践しています。メンバーを現地に連れて行きリビングラボを体験させると、武井さんの言う「UX体質」が徐々に出来上がってくるのがわかります。自分たちの活動の場を地域に根差して、もたれ合いやしがらみといったものも含めてその地域の多種多様なステークホルダーの関係性をつぶさに観察する。混沌としていたり複雑だったりしますが、単純化して理解するのではなく、複雑なものを複雑なまま抱えてモヤモヤする。専門用語ではネガティブケーパビリティといわれますが、このモヤモヤをずっともっておくことが重要なんですよね。なぜなら、もち続けることで自分の中に葛藤が起き、それがあるとき転化して「新たな問い」が生まれるので。

こうした新たな問いが生まれる余地を残すために、仕組みや制度づくりでも「グレーゾーン」や「余白」をもたせることを重視しています。

部が、自分たちが目指す方向に行っていい、と思えるように

大﨑:結論から話す・構造的に話す・相手にわかるように話すというのが一般的なビジネスプロトコルですが、武井さんの言う「うにゅうにゅ」は明確に言語化されない感覚なので、そういったプロトコルを踏めないですよね。マネージャーとして、むしろそのような姿勢を許容したり歓迎したりするスタンスを取ってらっしゃるのでしょうか?

武井:もうウェルカムですね、自分自身がそうですし。ただ、組織としては会社のやり方に適合させてないといけないので、私と部員の間にいるグループ長や他の管理職の皆さんは大変だと思いますが(笑)。パッションの共有は結構できてきているので、さらに部全体に広く共有していけるといいなと思っています。

そのために、というわけでもないのですが、例えば他部門やマネジメント層から自分たちが目指す方向(=会社にとって良いものであるという自信があるもの)と明らかに異なる意見を投げかけられた場合には、「それは違う、それはできない」ということを部員がいる前で相手の方に伝えるようにしています。自分の身が危うくなるリスクはありますが、それでも部の本質と独立性は守りたいですから。

それを見ている部員たちは「自分たちで“こうしよう”と思ったら、その方向にちゃんと行くんだ。行っていいんだ」と思える。思いやパッションを同じくしていれば、私もその思いを強く出せますし、仮に部員のところに直接意見が届いても、皆一生懸命自分の思いを伝えるようになる。そうすると相手にも「この部は皆同じ思想をもって団結してやっているんだな」ということが伝わります。

許容範囲のラインを引き、手綱をコントロールする

成瀬:大﨑さんは、気持ちや考え、情熱の向かう先を合わせていくために、どんなことに取り組んでいますか?

大﨑:積極策と消極策の2つの取り組みがあります。「積極策」というのは、ミッション・ビジョン・バリューや行動指針をつくったりその普及をしたりという能動的な活動です。もう一方の「消極策」は「どこまでよしとするか、許容範囲のラインを引く」もので、積極策とともにマネジメントにおいて重要です。なぜなら、マネージャーの無意識な行動や判断が組織全体のクオリティや価値創出の力を決めることになるからです。

許容範囲のラインは、顧客視点や外部視点、外向きの思考、品質意識をもった上で「このレベル以上ならお客さまに提供できるという境界線」です。マネージャーはこのラインを見定めて、メンバーに意見したり判断したり方向付けをすることが不可欠です。

ラインを引くときには、「組織の時間軸によって、ラインの緩め方・強め方をコントロールする」ことも重要です。例えば単年で見ると厳しくとも、3年ぐらいの時間軸で見て「この状況は微差だからいいだろう」「すぐ復旧できるものだし、組織のレジリエンスを考慮したら見守っておけばいい」という判断ができるように、時間軸で組織の状態や成長を捉えモードを切り替えていくイメージ。これが組織の体質や文化にもつながっていくと考えています。

大﨑が話す様子

意味付けにおける「思い込み」の重要性

大﨑:品質管理は特にデザイン会社のマネジメントにおいて大事だと思っていますが、クリエイティブフェローという木継さんのお立場から見てどうでしょうか?

木継:大事ですね、クリエイティブにはどうしてもボラティリティ(品質の振れ幅)は日々生じるので。

たとえ一時的に停滞しているように見えても、大きな視点で見れば目指すべき方向に進んでいることもある。そうであれば、その揺らぎは大崎さんがおっしゃるように許容していい。フェローやマネージャーとしては、その現在地を示して現場に安心感を与え、さらに高みを目指すための提案をすること。そこで重要になるのが「どう意味付けをするか」です。

その観点からも、先ほどの武井さんの「思いやパッションを同じくしていれば、強く踏み出せる」というお話は、センスメイキング*1の重要性を説いているのだと感じました。

*1:「センスメイキング」は組織心理学者のカール・ワイク氏が提唱した概念。不確実や曖昧な状況の中で、人が出来事を振り返りながら意味付けを行い、その理解をもとに次の行動を方向付けていくプロセス。

武井:まさにそんな感じです!

木継:センスメイキングのきっかけは、一人ひとりの「思い込み」にあると思うんです。正解かどうかは二の次で、「これがやりたい」「これをやらなくちゃいけない」という強い思い込みがあるかどうかが起点になる。

思い込みが腹落ちをするとセンスメイクされて、組織がセンスメイクすると動き出す。たとえ仕組みや制度が間違っていたとしてもアップデートさせながら前に進むことができるようになる。まさに武井さんは、上位層の意思決定といったことも含めてそれを実践されていると思いました。

身振り手振り話す武井氏と、話を聞く木継氏

3. 余白と違和感

幾重にも線を重ねることで「形」が見えてくる──デッサンに近い、組織のフィールドの形づくり

武井:大﨑さんのラインのお話や木継さんのセンスメイキングのお話を聞いて、明確な国境ではないですが「まあ、この辺だよね」という「縁(ふち)」のような共通認識が、それぞれ会社の中にあるように感じてすごくうらやましいなと思いました。

私の場合は社外からやって来て部を立ち上げたこともあり、そうした「縁」がなかったんですよね。とにかく経験知や集合知を積み重ねていく中で徐々にいろんなものが見えてきて、ようやく「この辺かな?」と当たりをつけて土塁*2をつくることができる。初めに縁がない分、「もっと行けるのではないか」という余白を自由にもたせられるのかもしれませんが。起伏のない平野のどこにラインがあるのか、最初はもう本当に手探りでした。

*2:土を盛りあげ土手状にした防御施設。『山川 日本史小辞典 改訂新版』〔コトバンクより〕

木継:何もないフラットな空間に、自分たちのフィールドを形づくっていく──。「デッサン」に近いお話ですね。

デッサンでは初めからビシッと決めてラインを引くのではなく、頭だけでなく身体的な五感を使い、対象を観察し、時に違和感を覚えながらいろんな線を引いていく。そうして線が重なっていくことで輪郭が浮き上がり、形が実体化していきます。

五感を使うのはUX体質のお話とつながりますし、武井さんはまさにこのデッサンをフィールド(現場)でやられているのだなと思いました。

人間しか感じることのできない「違和感」が重要

木継:ここで欠かせないのが「違和感を覚える」という感覚です。いったん描いてみて「何か違う」「存在感がない」「光を感じない」といった違和感を覚えるセンサーをいかに研ぎ澄ませるか。

人間しか感じることができない異常値はまだデータ化されていないので、この違和感を覚えるということはAIの時代にも必要です。違和感から新しい問いを立てて仮説をつくるというアブダクション思考*3が、ますます求められるようになってくると思います。

*3:アブダクション思考とはアメリカの哲学者のチャールズ・サンダース・パース氏が提唱したもので、観察された驚くべき事実から、それを説明し得る仮説を発想的に導き出す推論のこと。

「リードタイム」を推奨する感覚をもつ

大﨑:デッサンの場合、この「違和感」はその場、そのときにはわからなくても、キャンバスを遠くから眺めたり時間を置いたりすることで感じられるようになります。組織にも同じ構造があると思っています。活動の良しあしはリアルタイムではわからず、1カ月後、1年後に「これが良かったんだな」とわかることがある。

マネジメントにはその「リードタイムを許す」感覚も大事だと思います。当事者がいいか悪いかはまだわかってなくても、その活動を組織的に許す。いや、許すよりは推奨するぐらいの方がいいかもしれません。時間が経過するうちに違和感のセンサーを磨き自分なりの判断基準をつくっていく。

大﨑が話している様子

仕組みや制度が機能するために必要な3つのステップ

木継:ここまでの話で、「仕組みや制度が機能するために必要なこと」について3つのステップに集約できると思いました。

1つ目のステップは組織構造や骨格といった「形をつくる」こと。2つ目は、業務フローや行動指針を定めるなど、具体的な「動きを決める」こと。そして3つ目が、そうしてできたものに分析や評価といった「フィードバックをする」こと。そのフィードバックを受けて「チューニングやアップデート」を繰り返し、組織との間にインタラクション(相互作用)が生まれる。

仕組みや制度はインタラクティブなものだと思っているので、こうしたサイクルがないと組織の状況に合わせて生きた形でアップデートしていくことができません。それが先ほどの「グレーゾーン」に関わってくると思いますし、リードタイムを推奨するという共通認識がないと仕組みや制度は形骸化してしまいますから。

笑顔で話す四人の様子

写真/牧野智晃


後編では、ユーザー感覚を「体質化」したり新たな問いや意味を生み出す風土を組織に根付かせていくため、3者が取り組んでいる実践内容を掘り下げていきます。

[ 執筆者 ]

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