思想を実践へ ──「体質」を組織に根付かせるマネジメント【鼎談後編】

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    岩楯ユカPRディレクター/PRSJ認定PRプランナー

「体質」を組織に根付かせるにはどうしたらいいのか?

3名の実践者の経験から、デザイン組織をはじめとした顧客体験価値の向上を担う組織のマネジメントの在り方を考察する鼎談企画の後編です。

仕組みや制度が機能しなくなるときに組織に起きていることを解き明かすことで見えてきた、「気持ちや考え、情熱の向かう先を、“緩やかに”そろえていく」ことの重要性。そのために3者が大切にしている考えを見てきた前編に続き、後編では、ユーザー感覚を「体質化」したり新たな問いや意味を生み出す風土を組織に根付かせていくための実践内容に迫ります。またAIとの向き合い方や、マネージャーと組織の成長に向けたヒントを探っていきます。

記事のメインビジュアル。鼎談の様子を、上から撮影したイメージ。

プロフィール

※所属・肩書は2026年2月取材時点のものです。

[鼎談メンバー]

武井俊一郎さんの顔写真

武井俊一郎(TAKEI Shunichiro)

SMBCコンシューマーファイナンス株式会社 IT戦略部長

銀行入行後、営業店2カ店での勤務を経て、インターネット専業銀行(編注:2000年9月設立のジャパンネット銀行で現・PayPay銀行)の立ち上げやビジネス基盤の確立に従事。その後、銀行本部の経営企画やインターネットバンキング・アプリ等の所管部署での勤務、銀行のデザイナー採用やデザイン組織の立ち上げの実務全般の推進を行う。アメリカでのデジタルバンクプロジェクトに参加後、2023年4月より、「プロミス」を展開するSMBCコンシューマーファイナンス株式会社で、新設されたIT戦略部の部長として、デジタルを活用した顧客体験の向上とUX企画、UI設計、要件定義等を所管。
日本初のインターネット専業銀行の立ち上げ、銀行本部におけるデザイナー採用・デザイン組織の構想といった前例がない分野において開拓者的に取り組む。IT戦略部ではデザインチームを置かず、UXの最大化を目指し持続的に成長させ続けるための「UX体質の組織化」を図る。

木継則幸さんの顔写真

木継則幸(KITSUGI Noriyuki)

株式会社インフォバーン クリエイティブ・フェロー

雑誌『WIRED』日本版などでアートディレクターとして活動後、現在は事業開発におけるビジョンメイクからエクスペリエンスデザイン、サービスデザインまで一貫したプロセスデザインによる価値創出プロジェクトを推進。企業・組織のクリエイティブ人材育成にも注力。
社内外のナレッジを交換しながら新しい事業領域やネットワークをつくりデザインを再定義しつつ、組織における新しい知見を拡張させながら、他社や社会に展開していく役割を担う。

大﨑 優さんの顔写真

大﨑 優(OSAKI Yu)

株式会社コンセント取締役 デザインストラテジスト、サービスデザイナー

デザイン経営支援、事業開発支援、ブランディング支援などを行う。2012年にサービスデザイン事業部を立ち上げ主幹事業に拡大。2024年より、デザインによる人材育成や組織開発に関する事業部「Organization Design group」を管掌。
5名ほどの部署のマネジメントから全事業部のマネジメント、新事業開発に向けた専門部署の立ち上げ・運営、クライアント企業のデザイン組織の支援まで、状況や目的に合わせさまざまなマネジメントスタイルを実践している。

成瀬有莉さんの顔写真

[モデレーター]

成瀬有莉(NARUSE Yuri)

株式会社コンセント サービスデザイナー/デザインストラテジスト

デザイン人材育成支援業務(ワークショップ・研修等)から、組織活動改善のための問題分析、デザイン活動・共創を推進するためのワークショップデザインやファシリテーションまで、サービスデザイナーとして幅広く担当。「Organization Design group」サブマネージャー。

体質を組織的に根付かせるための実践

世代の近い部員同士でユーザー感覚を醸成し合う

成瀬:SMBCコンシューマーファイナンス(以下、CF)のIT戦略部は2023年の設立時は27名だったのが2026年3月時点では70名見込みとお聞きしています。この3年間で組織を成長させていく上で大変だったことや、それを乗り越えるために工夫してきたことはありますか?

成瀬が話している様子。

武井:人数が増えれば増えるほど、度合いが累乗で上がっていくくらい大変です。年齢でいうと自分の子供ぐらいの人たちがどんどん増えている状況です。社会人になりたてですとUX企画のベースになる知見や経験、意識といったものはあまりないですが、デジタルネイティブ世代のど真ん中なので、デジタル環境に身を置く中でユーザー感覚が染み付いて本人も知らない間に「体質化」されている、ユーザーに近い存在です。その体質化されている部分を引き出して意識化させられたら、一気にユーザー感覚を大事にして動くことができるようになるなと。

他の部員もその人たちをある種モデルのように捉えれば、「ユーザーってこういう感じかも」とイメージしやすくなります。親子ほど年の離れた私が「こうだ」と言うよりも、同世代で似たような感覚や環境の中で過ごしてきた人たちの言葉や行動の方が、当たり前ですが刺さりやすい。だから「なんでもいいからちょっとおしゃべりして雰囲気をつかんでみて」と言ったりして、どんどん話してもらうようにしています。

「ポリフォニック」な方法で組織に伝え残す

木継:武井さんが実践されているのは「ポリフォニック」な状態をつくっていることだなと思いました。「ポリフォニック(Polyphonic)」は、音楽用語で「多声の」を意味する言葉。一つひとつの音は違って独立しているけれども、全体として調和している状態、なんらかの方向性を感じるような状態を指します。

自分のメッセージを直接言わずに、他者に代弁してもらいながら組織に伝え残していく。それはつまり武井さんという1つの声だけじゃなくて、武井さんの言葉の翻訳者や代弁者がそれぞれの声で伝え、さらに多様なメンバーが自分たちの解釈も含めて発話していくプロセスです。そうした連鎖を生み、響き合って一つの空間をつくり、共通認識やビジョンにつながっていくのでとても本質的で面白いなと思いました。

武井:私がそう仕向けている感じにかっこよく言っていただきましたが(笑)、私の言葉を拾ってくれる、部付部長の浮田さんという人がいたのでうまくいっているということかもしれません。

最初、彼も私が何を言っているのかよくわからないと思っていたのではないかと。でもあるとき、「この年にして、インプットがめちゃくちゃたくさんありました」と言ってくれたんです。それ以降はまさに木継さんがおっしゃった通りで、彼が私の言ったことを代弁してくれるようになったんですよね。みんながポカンとしていると「武井さんが今話したことは、こういうことだよ」と解釈を入れてわかりやすく伝えてくれる。

私がしつこく長くたくさん話したことに、意味を感じてくれたということだと思うんです。かなりの熟練層である彼に通じたのは、部長就任からの3年間で一番うれしかったことですね。

武井氏の話を、木継氏 が聞いている様子。

理解しやすい意味を与える「批評家」の存在

大﨑:失礼な例えかもしれないのですが、武井さん自身が解釈を要する芸術作品のようで、その意味を切り取り提示する批評家の存在が不可欠ということかなと思いました。重要かつ普遍的である一方で、言語化が難しいイシューをマネージャーが引き受け、そこに誰でも理解しやすい現在的な「意味」を与える批評家が隣にいる図式をいかにつくれるか、そのポジションをいかに生むのかが大事なんじゃないかと。

誰もがわかりやすいように伝えるべきというのが現代マネジメントの基本だとは思うんです。ただ他方で、メタファーたっぷりに伝えて、「なんとなく肌感覚でわかる」状態を留保させておくことも、体質を組織に形成していくために必要なアクションなのかもしれません。

木継:確かに。現代アートがジャンルとして成立しているのは、批評家の存在があるからですよね。批評がなければ、よくわからないものとして埋もれてしまいますが、批評家が解釈して批評することで議論が巻き起こる。賛否両論が起きた方がいいですからね。

大﨑:おっしゃる通りです。批評家は正解を出しているわけではなくて、その人の解釈を伝えているんですよね。そしてそれをまた解釈する人が別に出てくるといった図式をつくれるといいなと。「正解はない」という前提をちゃんとつくることも大切です。アートには正解がないですし。

自然な思考やピュアな行動を殺さないように

木継:アートと批評家で解釈するとかっこよく聞こえますが、相当泥くさい動きが求められますよね。

武井:そうです、もう体当たりです。出たとこ勝負でやっていくような(一同、笑)。

でももともとは出たとこ勝負は大嫌いなんですよ。予想できないことが起きるのが小さいときから本当に嫌いで、8割以上確実じゃなかったら前には進まないという。ただ自分も弾け飛ぶような領域に対しては、「出たとこ勝負でやってみて、そこにちょっと違う世界があったらそれはそれで面白い」と思えるようになったんですよね。おそらくアメリカに行ってからです。

なぜなら超ウルトラスーパーマイノリティだったので、何が起きるかわからないし、何かが起きてもそれが何かわからない。その代わり、小さいときから見てきたいろんなものの本物や、気持ちをかき立てるようなものが周りにたくさんある。そうした環境で過ごす中で、偶然の何かがあってもいいというふうに捉え方が変わる瞬間があったんだと思うんですよね。

成瀬:武井さんのパーソナリティがめちゃめちゃ出ているのを見て、部の皆さんも「自分のカラーを出していい」と受け取って動けているのかもしれませんね。

武井:「自然な思考やピュアな行動を殺さないように」というのはすごく思っています。各自にそうした思考・行動が湧き起こって出せる環境が整っていればいるほど、めちゃくちゃバラエティに富んだ文化ができていく。それらが化学反応を起こして会社のアウトプットとして世の中に出せたら、いいことがきっとたくさんあるだろうなと。

武井氏が話している様子。

標準化されたデザインに対するオルタナティブ──「HALO」という活動

成瀬:コンセントには「HALO(ハロ)」という、個人の中の「問い」を大切にした活動があります。武井さんの「自分の中からしみ出てくる感情を大事にしている」(編注:前編参考)というお話とも近しいなと思ったのですが、推進している大﨑さんはいかがでしょうか?

大﨑:HALOというのは、現業とは離れたところで、自分の問いや課題意識、これまで歩んできた文脈性を踏まえた上で、新しい価値をつくっていく実践的な活動を組織の中で支援していくものです。始めたきっかけは、デザイン業界全体への危機感をもったことでした。

私や木継さんの世代では、デザイナーのパーソナルな視点やクリティカルな視点をデザインに織り込むのが当たり前というデザイン観がありました。それは決して独善的な姿勢ではなく、デザインの利他性や実用性を前提に置いた上での考え方です。

ところがこの5〜10年で、ガイドラインやデザインシステムといった指針形成や標準化されたスキルの習得、その標準化スキルをもとにした集団的なデザインというものが、業界全体で強まっています。それはテクノロジーの要請に応じたもので決して悪いものではありません。しかし、こうした「標準化されたデザイン」から入ってきた人は、それこそがデザインの全てだと思ってしまったり、「自分を出していい」スタンスが自明ではなくなったことに危機感を覚えたんです。

「標準化されたデザイン」の対立軸を組織内に並行してもたないと、仕組み化されたデザインや姿勢が会社としての正解になってしまう。衝突がないと文化は生まれない。そこで両極端のものとしてHALOを据え、意図的な対立構造をつくったんです。まだ試験段階なので結果が出るのはこれからですが。

木継:いい活動ですね。

大﨑:ありがとうございます。HALO(ハロ)というのは軍事用語でパラシュートの降下方法の一つなんですが(編注:軍事用語での読み方は「ヘイロー」。高高度で降下して低高度で開傘する自由落下方式)、自らの視点で降下地点を決めて降り立ち、独自に活動していく世界観を表すものです。拠点は地理的なものでも、目指したい領域でも、自分なりのものならなんでもいい。

仕組み化されたデザインは分業されがちですが、HALOの世界観は「自分1人でなんとかする」というもの。武井さんのスーパーマイノリティのお話に近いと思うんですが、その拠点におけるマイノリティになり、デザインとは言い切れない活動も含めて、必要な活動は自分で実践してみる。起こったこと全てを自分の責任として引き受ける経験をしてほしいなと思っています。

大﨑の話を、鼎談メンバーが聞いている様子。

新たな選択肢、意味を創造できる組織を目指す

木継:大﨑さんがおっしゃった通り、今のデザイン現場はシステムなどのインフラやフレームワークが整っていて、それらに則ってつくったアウトプットは正しいもの、それでOKとしてしまう風潮が強くなっています。しかし、AIが既存の選択肢を瞬時に提示する現代において、単に正解を選び取るだけでは不十分です。

本来、デザインとは「いかに新しい選択肢をつくるか」です。アナリシス(分析)ではなくシンセシス(統合)。新しい要素をいかに統合して再構築するか、その結果、新しい選択肢をつくるというのが非常に重要ですよね。

先ほどの武井さんの、複雑性の中に身を投じて見えないコンテクストを自分で見つけ出し、メイクセンスする姿勢や、インフォバーンのリビングラボの活動(編注:前編参考)とも共通する。繰り返しになりますがフィールドに出て複雑なものを単純化させるのではなく、複雑なまま抱えて新しい意味を生み出していくスタンスです。

そのためには誰に、なんのために、どこに向かってデザインするのかという動機づくりが不可欠で、体質が重要であることの一つの根拠になると思っています。立命館大学の八重樫教授が提唱する「複雑性から意味を創出する」というデザイン態度の重要性を踏まえても、HALOのような経験は極めて有用です。これはデザイン領域に留まらず、これからのビジネスの在り方を示す一つの指針になるのではないでしょうか。

デザイン態度について説明している資料。「1. 不確実性・曖昧性を受け入れる、2. 深い共感に従事することで、人々の理解のしかたを理解する、3. 五感をフル活用する、4. 遊び心を持ってものごとに足を踏み込む、5. 複雑性から新たな意味を創出する」の五つの項目で書かれている。

デザインマネジメント研究の第一人者である立命館大学の八重樫文教授が調査・研究を重ねている「デザイン態度」。2025年11月に開催したセミナーの資料より。

AIとマネジメント

絶対に使われないように

成瀬:話が変わりますが、ここまでのお話の中で何度か出ていて、今後のマネジメントを考える上でも外せないAIについて、課題感や向き合い方を教えてください。

武井:AIは便利なツールみたいなもの。部員にはしつこく、「使うのはいいけど、絶対に使われるなよ」と言っています。

例えば反復作業などのような、自分でもできるけど効率化できる作業に使うのはいいと思っています。でも考えるところをAIに任せてしまうと、物事を結び付けて構想して展開する思考力が弱まってしまう。検索していろいろ考えながら導き出した答えと、AIに質問して出てくる答えは結果的に同じであることも多いですが、考えながらやることをしない人の脳は退化してしまい、創造力がどんどん落ちてしまうのではと思うんです。

武井氏が話している様子。

リバースエンジニアリングの文化づくり──Active Working

木継:課題意識は武井さんと同様です。AIが出すアウトプットを選んで終わりでは新しい選択肢をつくることはできません。そこで重視しているのが「リバースエンジニアリングの文化」を根付かせることです。

アウトプットを構成する要素は何か、どういった要素がどのような組み合わせにより、結果的にそのアウトプットに至ったのかを徹底的に紐解き理解する訓練を組織的に行っています。

リサーチの分析もAIに任せれば結果がきれいに出ますが、人間が介在することで、AIには捉えきれていなかった見えない文脈が浮かび上がります。課題意識や向かいたい方向を意思として決めるのは人間です。その意思をもった人間が読み解く文脈をAIが捉えることは現時点ではまだまだ難しいですし、そうした肌感覚や感性はリバースエンジニアリングをしないとなかなか身に付かない。まさに体質として内面化しないんですよね。

インフォバーンではそれを、リビングラボや「Active Working」という活動の他、日々のプロジェクトを通して実践しています。Active WorkingはコンセントさんのHALOに近いですが、さまざまなステークホルダーが集まるフィールドに自分たちが出て、文脈を探り価値や課題を見いだし、それを起点に仮説を構築する取り組みです。

木継氏の話を、武井氏が聞く様子。

より強化すべき「認知的徒弟制度」

木継:またAIの時代により強化していくべきだと思っていることに、「認知的徒弟制度」があります。単なる思考の結果ではなく、認知や思考のプロセスを一緒に体験しながら習得していくという、教育心理学の概念です。2025年11月のイベントで武井さんからあった「アウトプットではなくプロセスを見るようにしている」というお話とも通じます。

あえて時間と認知的な負荷をかけながら、思考の構造もリバースエンジニアリングし、なぜそのような思考になったのかも一緒に議論するといったことを地道にやっていくことが大切だなと。

大﨑:偶然ですが、私も徒弟制度は復活の兆しがあるとみて育成に組み入れ始めています。暗黙知を共有し合うことも必要だと思いますし、これまでは排除されがちだった属人性についても、その人なりの見方や価値観、エラーも含めた言説や世界の切り取り方に価値が出てくると思っています。

そしてそこにデザインの価値の源泉がある。1周、2周回って戻ってきた感じです。

あえて失敗するために活用

木継:さらに、新しい選択肢をつくるというところでは、失敗を回避するツールであるAIをあえて失敗するために使う、というアプローチも取り入れています。現象を観察して仮説を導き出すアブダクティブな思考をするためには、自身で観察した特異点から仮説をつくることが必要ですが、その初期仮説をAIにつくらせる。その仮説は単に一般化されたものなので、そこに対して反証していく。初期段階で膨大な失敗をあえてすることによって、人間自身の態度をもって洞察し新しい選択肢をつくるということを、具体的なプロセスの中に組み込んでいます。

木継氏が話している様子。

「入り口」と「出口」が大事

大﨑:二次情報の分析や可視化といった仕事の中間工程をAIに代替させて合理化することは、お二人と同じでポジティブに捉えています。

大事なのは入り口と出口です。「入り口」は自分で問いをつくったり一次情報を取るといったこと、「出口」は判断したり意思決定したりすることですが、そこはデザイナーとして責任をもって取り組まなければならない。

入り口の部分は解決すべき問題に向けた原理・原則を知ることや、自分で一次情報を取るバイタリティや行動力、文脈を読みきる力を含めて人と関わっていくことが必要です。出口は「責任を取る」姿勢が大切。なぜなら、意思決定は何かを決めるだけではなく、コミットメントを周囲に示し、自分が選択したものを自らの手で正解にするんだという意思を表明することだからです。そうしたスタンスが大事で、社内の人材育成においても重視しています。

マネージャー自身と組織の成長に向けて

「自分」への感度を上げる

成瀬:最後の質問です。より良い未来のためには、ご自身も含めて、組織を率いていくマネージャーがどうアップデートしていけるとよいでしょうか?

大﨑:まずは自分自身を更新し続ける意志が大事です。以前、武井さんと話した折にいただいた「“自分をアップデートさせるにはどうするのがいいか”と思考転換するといいよ」というアドバイスが自分の中で響いたんですよね。

マネジメントをしているとどうしても「他者」に対する意識が強くなってしまう。職位や年齢が上がると自分の感情に対する解像度が粗くなっていく感覚があります。自己犠牲の美学もある。マネジメントをする中での自分の変化に対してもっと自覚的になって、その変化を感知する技術や感度を上げなきゃいけないなと。これは自分がどう変わっているのかを確かめるのと同時に、自分が偏った見方をしていないか、過度に建前的になってしまっていないかといった自己点検にもなると思っています。

大﨑が話している様子。

考え方を、一度全部壊す

武井:私自身に対してという観点では、アップデートというよりも、今の考え方やこれだと思っているものを1回全部壊す感じかなと思っています。昔からなんですが、否定されたり文句を言われたりするのがとにかく嫌いで、振り返るということをあまりしないんですよね。例えばテストを受けた後に次はできるようにと復習したりせず、それよりも前を向いて走るんだというタイプです。

3年たつと人も組織も慣れてしまうことで出てくる「えぐみ」(編注:前編参照)を感じることが最近増えてきて、それは自分にとっても組織にとっても良くないなと。周りから反発も受けやすくなりますし、アウトプットの質も落ちてきたりしていいことがありません。

そこで1回自分をバラバラにする。アップデートだと今いるここからですが、1回失くした上で再開する「アンインストール」という感覚です。マネジメントをする上で「前例にこだわらない」といった言い方がされますが、それと同じだと思っています。今、その時点で最適なこと、これから先に対して意味のあることは何かを第一に考えて積み上げていく方が、そうしないよりもいいことがきっと多いはずです。

マネジメントを創造的なデザイン活動として

木継:難しい問いですね。私はクリエイティブ・フェローとして、さまざまなアクターの関係性をつくって、その相互関係によって新しい価値やそれが循環する仕組みづくりにトライしています。そのためトップダウンのマネージャーというよりは、サービスデザインやシステム思考的な観点からの話になりますが、自分自身を振り返ると、大﨑さんが話された武井さんの「自分自身が変化する、そしてそれを楽しむ」という姿勢と共通する部分があると思っています。

マネジメントを実施する自分自身もシステムの一部と考えて、状況の変化によって自分を含めたアクターや自社、制度を変えていくという相互フィードバックをもとに変容し合える関係性をいかにつくるか。そのためには、マネージャーが何かを教え授けるのではなく、自らが現場に身を置き現場から学ぶ。メンバーや環境の変化自体が自分をアップデートする源泉になるので、極力そういう場に身を投じて現場に居続けることが、一つのアプローチだと思います。

またマネジメントはしんどい作業だと思われがちですが、本来はクリエイティブな活動です。現場に出て、さまざまなアクターのストーリーを理解し、相互関係によってチーム化する。その現場に根差すストーリーをある方向性に向かってどう束ねて、一人ひとりのエネルギーを増幅するのか。ともすると、そうした現場のエネルギーやストーリーは、上層部に行くほど組織の文脈から離れてしまい定量的な評価という形でフィードバックされてしまいます。でもアンオフィシャルとオフィシャル、もしくは現場と経営という文脈の中にうまく組み込んで重要なエッセンスを定量的に評価する形が描ければ、メンバーのモチベーションは向上します。そうすることでエネルギーをさらに増幅して価値循環につなげていくことは、創造的なデザイン活動に通じることですし、楽しいことでもあります。

近年、若年層においてはマネジメント層になりたくないという傾向が強いですが、そういったクリエイティビティをこれからの世代における一つのモチベーションにどう転換できるか。自分自身でもチャレンジしていきたいですし、マネジメントをされている方にもぜひ取り組んでいってほしいと思っています。

4名の鼎談メンバーがこちらを向いている様子。

写真/牧野智晃


前編では、「仕組みや制度が機能しなくなるときに、組織に何が起きているのか」を解き明かすことで見えてきた、マネジメントにおける3者の考えをご紹介。「感覚と体質」「問いと意味付け」「余白と違和感」の3軸で整理しています。


今回の鼎談メンバーが登壇したセミナー「成果を出すチームの行動習慣〜これからの働き方を『デザイン態度』から学ぶ」(2025年11月7日開催)のレポートが、木継さんの所属するインフォバーン社のサイトで公開されています。併せてご覧いただけると幸いです。

[ 執筆者 ]

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コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

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