実践的 Lean UX ワークショップ

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  • 坂田一倫

こんにちは。坂田です。

この度、オライリー・ジャパンから刊行された 『Lean UX—リーン思考によるユーザエクスペリエンス・デザイン』の監訳を担当させていただきました。

私は普段、UXデザインの専門家として一般企業の方々とプロジェクトをご一緒させていただきながら、数々のスタートアップを支援させていただいています。Movida Japan 様主催の起業家育成プログラム「Seed Acceleration Program」の一環として開催している Lean UX ワークショップもその1つです。きっかけは、Movida Japan 様からの一通のメールでした。

「1つお願いがあります。半期ごとに選抜されたスタートアップを対象に、自社のサービスないしはプロダクトの企画段階からユーザエクスペリエンスの観点で構築ないしは検証していくためのノウハウをワークショップ形式で提供していただけないでしょうか? 彼らに一番足りないのは、ユーザー視点だと思っています。」

このメールをきっかけに、過去に3回、ワークショップを開催しています。過去のワークショップで使用したスライドは私の Slideshare でご覧いただけますが、その内容は回数を重ねるごとに改善されていることがお分かりいただけるかと思います。

Lean UX ワークショップと題したものの、初回はユーザーのコンテクスト(利用文脈)への理解、そして人間中心設計の根底にある問題解決型アプローチをリーン・スタートアップのコンセプトに取り入れたワークショップを開催しました。ところが、話が非常に概念的であることから理解された方々が少なく、それこそ彼らのコンテクストに見合った話題提供ができていなかったことが分かりました。

スライド(ワークショップ1回目):

2回目は原書の内容やスピーカー兼メンターを務めさせていただいた「Lean Startup Machine Tokyo」の活動を参考に、より実践的な話題提供を試みました。初回に取り上げた、人間中心設計に特化した手法やプロセスに依存しないよう、時間や資金といった前提条件が十分ではない彼らでも実践が可能なように、 Lean UX が大切にするマインドセットや各種ツールを最小限に留めました。

また、彼らが実際に検討しているサービスやプロダクトに関する情報を取り入れたサービス設計の視点を養っていただけるよう、始めに課題ステートメントと題し、提供価値の明示化を中心としたリスクと課題に関する前提の洗い出しから行いました。

スライド(ワークショップ2回目)


結果として自身のサービスを見直す良い機会として、少しづつではありますが自社に取り入れていただけるようになりました。前回のワークショップに参加されたスタートアップの方は、いつでも取り出せるようにと Lean UX のハンドブックを自作されたほどです。

Lean UX 手順まとめ


そして先月(2014年1月)、第3回目となるワークショップを開催しました。Movida Japan 様の育成プログラムも会期ごとに見直されており、今回は初回ステップであるビジネスモデル構築の次ステップとして開催する運びとなりました。

スライド(ワークショップ3回目)


第3回目のワークショップを開催するまでに、参加されているスタートアップの方々はまだ解決したい課題設定の確度が低く、または同時に複数の課題を解決しようと試みてしまい、ユーザーターゲットが曖昧になっているという課題に直面していることが分かりました。

そこで第3回目のワークショップではスライドでも言及されているCPS(Customer-Problem-Solution)仮説検証モデルを採用し、次にMVP(最小限実用可能なプロダクト)をどうするか? プロトタイプはどんな形式で行うべきか? 実験をできていないチームの取っ掛かりになればなと、 CPS の3つの軸で自社のサービスないしはプロダクトの前提を先ずは各人で洗い出していただきました。次に社内のメンバーで前提を共有し合うことで、前提のズレや解決したい課題の不一致、ないしはターゲットユーザーに差異が生まれ、改めて自社が向き合うべき課題とその課題を抱えているユーザーは誰か?を定めてもらいました。

たったの3時間で、彼らは自社サービスないしはプロダクトを「正しく」するためのきっかけを得ることができました。Lean UX では、「正しくモノをつくること」よりも、「正しいモノをつくること」を大事にしています。

本ワークショップで生まれた前提の差異は、ユーザーへのインタビューなどを通じて検証が重ねられ、メンバーそしてユーザーからの学びを得ることができるでしょう。一部、参加者からの声をご紹介します。

「私含めチームのもう一名のメンバーで参加させていただきました。とても良い学びだったと感じております、本当にありがとうございました!」

「本日は、長時間ありがとうございました。チームメンバーとの認識に齟齬がないか、また互いに感じているサービスの課題が共有できました。」

「本ワークショップを通じて、俯瞰的かつ具体的に自分のビジネスを捉えることが出来て、よりサービス内容を精緻化していくことが出来ました。自分の場合、これからサービスを作っていく人間ですので、大変、参考になりました!」

まとめ


Lean UX は、チームの「学びのエンジン」です。部門や領域横断のコラボレーションが実現されることで、特定のプロセスや手法に依存せずとも、CPS の3つの軸設定を維持することで自走しながらサービスないしはプロダクトを改善することができます。これが、品質を担保しながらプロセスの無駄を省くことを提唱しているリーン・スタートアップがルーツとなっている由来でもあります。

より良いサービスないしはユーザエクスペリエンスを提供したいという姿勢は、企業規模を問わず、変わらないと思っています。現在、邦訳版が出版されてから1ヶ月が経過しようとしていますが、本ワークショップを始め、スタートアップ主催の『Lean UX—リーン思考によるユーザエクスペリエンス・デザイン』読書会への参加、開発者向け Lean UX セッションの開催、某IT企業の中途新人向け Lean UX研修の実施、某IT企業の新規事業開発のファシリテーションなど様々な企業様、団体様とお仕事をご一緒する機会が増えてきました。

Lean UX は、企業が抱えている潜在的な課題を明らかにし、本来のモノづくり・コトづくりのあるべき姿に気づかせてくれます。優れたユーザエクスペリエンスはどこから生まれるのでしょうか? 個人の優れたデザイナーでもなく、腕に自身のある個人のエンジニアでもなく、チームとの協働的なプロセスの中で創発的に生まれるものだと、私は考えます。

[ 執筆者 ]

コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

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