AI時代に求められる創造性をどう育て、どう評価するか 「人と組織の『創造性』を育む実践と効果測定」セミナーレポート
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2026年6月11日、コンセントでセミナー「AI時代に求められる人材とは──人と組織の『創造性』を育む実践と効果測定」を開催しました。
生成AIの活用が急速に広がる中で、AIをどのように使いこなすかだけでなく、人がどのような力を発揮していくのかが、あらためて問われるようになっています。今回のセミナーでは、その力の中でも「創造性」に焦点を合わせ、その具体的な姿や育み方、さらに成長をどのように捉えるかが示されました。
私はコンセントにデザイナーとして入社し、コミュニケーションデザイン支援や新規事業開発支援を経て、現在は人材開発や組織開発の支援に携わっています。自らが発揮することを求められていた創造性について、現在はそれをどのように組織として育み、発揮できる状態をつくっていくかを考える立場となり、あらためて創造性を捉える視点の多様さや複雑さを感じています。
- 創造性は、個人の内側にある力だけで説明できるものなのか。
- 創造性を育むためには、どのような経験や環境が必要なのか。
- 創造性を客観的に評価することはできるのか。
私自身が人材開発の現場で感じてきたこうした問いに対して、本セミナーで紹介された内容は、創造性を人と組織の両面から捉え直す手掛かりになるものでした。
この記事では、セミナーで紹介された内容をもとに、創造性とは何か、そして人材育成や効果測定にどのようにつなげていけるのかを、コンセントで人材育成支援の現場に関わる私の視点から紹介します。
1. 創造性は、一部の人だけの特別な才能なのか
セミナー冒頭では、クリエイティブディレクター/コンテンツストラテジストである荒尾彩子が登壇し、AI時代に求められる創造性について話しました。
荒尾彩子(クリエイティブディレクター/コンテンツストラテジスト)
「創造性」という言葉からは、社会を大きく変える発明や、歴史に残る芸術作品のような、特別な成果が想起されやすいかもしれません。しかし、それは「創造性」の一部でしかありません。
心理学者のジェームズ・C・カウフマンとロナルド・A・ベゲットは、創造性を4つのレベルで捉える「4Cモデル」を提唱しています。歴史的・社会的に大きな影響を持つ創造性を「Big-C」、専門家が特定の領域で発揮する創造性を「Pro-c」、日常の中で生まれる小さな工夫や改善を「little-c」、本人にとって新しい気付きや意味付けを「mini-c」と整理しています*。
創造性の4タイプ(荒尾のセミナー資料より)
*James C. Kaufman and Ronald A. Beghetto, “Beyond Big and Little: The Four C Model of Creativity,” Review of General Psychology, 13(1), 1–12, 2009.
荒尾は、先行研究における創造性の定義として、「その文脈の中で、新しくて意味のある何かを生み出すこと」という考え方を紹介し、創造性は特別な才能をもつ一部の人だけに関係するものではないと説明しました。日々の業務の中で感じる違和感や、まだ言葉になっていない気付きも、問いを立て、試し、他者と共有しながら形にしていくことで、組織や事業における意味ある変化につながっていきます。
AIの活用が広がることで、情報収集や選択肢の提示、一定の答えを生成することは、これまで以上に速く、容易になっています。だからこそ、人間や組織の側には、何を問い、何を選び、どのような価値を実現したいのかを考える力が求められます。
荒尾は、変化が大きく正解が見えにくい環境で、「新しくて意味のある何かを生み出す」創造性を発揮するために必要な構えとして、「創造的姿勢」を提示しました。
2. 創造的姿勢を支える、3つの行動特性
その「創造的姿勢」とは具体的にどのようなものなのでしょうか。また、どのような経験を通じて育まれるのでしょうか。荒尾はその手掛かりとして、創造的姿勢を支える3つの行動特性と、それらを育むケーススタディを紹介しました。
(荒尾のセミナー資料より)
1つ目は、「問い続ける」です。
AIが情報を整理し、答えらしきものを提示してくれるようになればなるほど、人間には、立ち止まり、リアリティをもって「何を問いにするか」を決めることが求められます。そのためには、目の前の状況を当たり前として受け取らず、違和感をもち、別の視点で見直し、固定化された見方を疑うことが必要になります。
ケーススタディとして紹介された小学校での探究学習の事例では、子どもたちが学校の中を歩き、自分自身が「ビミョー」だと感じる場所や状況を探すところから活動を始めました。見慣れた場所への小さな違和感を出発点にすることで、自分の感覚を問いに変えてよいという実感が育まれていったそうです。
(荒尾のセミナー資料より)
2つ目は、「試しながら考える」です。
生成AIの活用が広がり、アイデアや情報を素早く得られるようになった現在では、それらをそのまま受け取るのではなく、実際に試し、現実に照らしながら更新していくことがより求められます。そのためには、考え込んでから動くのではなく、未完成でも共有し、ラフに表現し、考えていることを表に出すことが必要になります。
具体例として、コンセントが企業研修で実施した、まだ世の中にない商品のアイデアを短時間で形にするプロトタイピングのワークが紹介されました。参加者は、最初から完成度の高い答えを目指すのではなく、手を動かしながら考え、ラフな状態でも共有してみることに取り組みました。自分の考えを可視化し、他者との対話を通じて更新していく経験が、「つくることは考えることでもある」という実感につながっていったと、荒尾は話しました。
(荒尾のセミナー資料より)
3つ目は、「意思をもってやり抜く」です。
AIが“最適”に見える選択肢を提示してくれる場面が増えれば増えるほど、人間の側には、「自分は何を選びたいのか」「何を実現したいのか」を確かめることが求められます。だからこそ、自分の意思をもち、不確実な状況でも進み続けることが重要になります。
ここで紹介された組織ビジョン策定のプロジェクトでは、若手社員を中心に、数年後の組織はどうあるべきかを考え、役員に向けて提案する取り組みが行われました。自分たちはどのような未来をつくりたいのか、何を実現したいのかを言葉にしていく経験が、不確実な状況でも意思をもってやり抜く行動につながっていくという事例でした。
このように、問い続ける、試しながら考える、意思をもってやり抜くという3つの行動特性は、抽象的な心構えだけではありません。違和感をもつ、ラフに表現する、自分の意思を言葉にするなど、日々の振る舞いとして育てていくことができます。そうした経験の積み重ねが、創造性を発揮するための姿勢を育むことにつながっていくと、荒尾は話しました。
最後に、創造的姿勢は個人の中だけで完結するものではないとも述べました。違和感を口にする、未完成の考えを出す、不確実な状況でも一歩踏み出す。そうした行動は、安心して試せる文化があってこそ生まれます。創造的姿勢を育てるには、個人に行動変容を求めるだけでなく、その行動を受け止め、支えるチームや組織の環境を整えることが必要になると締めくくりました。
3. 日々の違和感に気付き、問いに変える
ワーク中の様子。グループに分かれて議論し、最後はグループごとに話された「問い」を参加者全員で共有。
荒尾の講演を受けて、セミナー中盤では「問いを立てる」ワークが行われました。参加者は、普段の仕事の中で「ビミョーだ」と感じている小さな違和感を出し合い、それをどのような問いとして捉え直せるかを考えました。
私がファシリテーターを担当したグループでは、「有休を取るときにすみませんと謝ってしまうこと」「フリーアドレスになったのに、座る席がなんとなく決まってしまうこと」など、日常のちょっとした違和感が参加者から共有され、共感を呼んでいました。
さらに、そうした違和感をそのまま解決策に結びつけるのではなく、「どうすれば◯◯できるだろうか?」という形で、適切な「問い」として言い換えていきました。
前述のフリーアドレスの例では、単に「席を固定しないようにするにはどうすればよいか」とするのではなく、「どうすればゲーム感覚で席替えができるだろうか」「どうすれば席を固定しなくても安心できる雰囲気をつくれるだろうか」といった問いが挙がりました。同じ違和感でも、どの角度から問いを立てるかによって、見えてくる解決の方向性は広がっていきます。
ワークの最後には、ワークショップの司会を担当したコンセントのデザインストラテジストである佐藤史から、新しい着眼点を生むために大切なこととして、「言葉にならない直感や感覚をないがしろにしないこと」「『取り組んでみたい』という自分の意思を恐れないこと」が伝えられました。日常の中で感じるちょっとした違和感を、少し視点を変えて見つめ直すこと。私自身もファシリテーションを担当する中で、参加者同士のやりとりから、問いを立てることが創造的姿勢を育む入り口になり得ることを実感しました。
4. 創造的姿勢の変化を捉える、13の観点
では、このような創造的姿勢を育む過程の変化は、可視化できるのでしょうか。
ワークに続いて、佐藤が創造的姿勢の変化と組織や働き方への影響を測定するための取り組みを紹介しました。
佐藤 史(デザインストラテジスト/サービスデザイナー)
研修やワークショップを実施する際には、「本当に効果があるのか」「組織にどのような変化が生まれたのか」を検証する視点が欠かせません。創造性や主体性のように見えにくいテーマであれば、なおさらです。
佐藤は、創造性を抽象的なスローガンのまま扱うのではなく、前半の講義で荒尾が話していた創造的姿勢を支える3つの行動特性が、組織とそこで働く人たちにどのような影響を与えたのかを指標として示し確認していくことが重要だと話しました。そのための試験的な指標として設定したのが、創造的姿勢とその影響を捉える13の観点です。
この13の観点は、大きく2つに分けられます。一つは、「創造的姿勢を支える3つの行動特性」に対応した10項目。もう一つは、「その姿勢が本人の実感や、行動を支える環境にどのようにつながっているか」を見る3項目です。
「創造的姿勢とその影響」を測る13の観点
「創造的姿勢を支える3つの行動特性」を見る10項目
「問い続ける」には、「好奇心・探究心」「バイアスの自覚」「他者への理解」が含まれます。問いは、知りたいという意欲だけで生まれるものではありません。自分の前提や思い込みに気付き、他者の見方を取り入れることで、目の前の状況を別の角度から捉え直すことができます。
「試しながら考える」には、「思考の外部化」「感性の言語化」「瞬発力」「建設的な対話」が含まれます。考えや感覚を頭の中にとどめず、言葉や図、プロトタイプとして外に出すことで、他者との対話やフィードバックが生まれます。正解が見えない段階でも仮説を出し、対話を通じて更新していく力が、この行動特性につながります。
「意思を持ってやり抜く」には、「意思・こだわり」「混沌への耐性」「他者の巻き込み」が含まれます。不確実な状況でも実現したいことを手放さず、答えの見えない状況に耐えながら、周囲を巻き込んで前に進めていく力です。
この10項目によって、「問い続ける」「試しながら考える」「意思を持ってやり抜く」という行動特性がどれだけ育まれたか、育成していく上での課題などが捉えやすくなります。
「本人の実感、行動を支える環境へのつながり」を見る3項目
さらに佐藤は、創造的な行動が一時的な変化にとどまらず、本人の実感や組織の状態にどのようにつながっているかを見る観点として、「成長実感」「心理的安全」「自己効力感」の3項目を設定していると説明しました。
日々学び、行動できている実感があるか。困難な状況でも必要以上に萎縮せずにいられるか。自分の意思で動ける感覚を持てているか。こうした観点を見ることで、創造的な行動が個人の中で持続しやすくなっているか、また組織の中で発揮されやすい状態にあるかを捉えることに役立つ、ということです。
5. 効果測定を、育成と組織づくりの手掛かりにする
後半では、この13の観点で効果検証を試みたIT企業の若手社員向け研修の事例も紹介されました。
この企業では、若手社員の積極性が薄いように感じられることや、職能を超えて協働するチーム文化へ変えていく必要があることが、人事・育成担当者の課題意識としてありました。そこで研修前に、受講者自身に13の観点に沿って自己評価を行ってもらい、現在の意識や行動の傾向を確認しました。
事前アンケートからは、「好奇心」や「意思・こだわり」は低くない一方で、「感性の言語化」や「瞬発力」、「建設的な対話」や「心理的安全」に課題がありそうだという傾向が見えてきました。そこから佐藤は、積極性が薄いように感じられる背景には、本人の意欲の低さではなく、積極的に踏み込むことへのためらいや、間違うことへの恐れ、周囲の雰囲気に配慮して発言や行動を控えてしまう傾向があるのではないか、という仮説を立てたといいます。
この見立てをもとに、研修では、個人単位ではなくチームで取り組むことや、短時間で荒削りでも形にすることを重視したプログラムが実施されました。その結果、研修後のアンケートでは、特に「瞬発力」や「感性の言語化」などに変化が見られました。
13の観点は、研修後の変化を確認するためだけのものではなく、事前アンケートを取ることで、受講者が創造的姿勢を発揮する上でどこに課題を感じているのかを読み解く材料にもなります。さらに、心理的安全や建設的な対話といった観点を含めて見ることで、その課題を個人の能力や意欲だけに閉じず、組織の文化や風土との関係から捉えることもできます。
自己評価である以上、創造的姿勢の変化を完全に測れるわけではありませんが、人材開発・組織開発を行うに当たって、研修の成果を振り返るだけでなく、次にどのような育成機会や環境への働きかけが必要なのかを考える起点になるといえます。
おわりに
セミナーの最後に問題意識について話す佐藤
佐藤は最後に、13の観点に「好奇心・探究心」や「感性の言語化」「意思・こだわり」といった項目を含めた背景について、近年のビジネスの場における組織・人材開発では、人が本来もっているつくる喜びや探求する楽しさ、自分なりの意思やこだわりが見落とされがちだと感じる、という問題意識を示しました。
これは、私自身が人材育成や組織開発の支援に関わる中でも感じていることです。組織の風土や環境によって、個人が自由に考えたり、自分の違和感や感覚を起点に考えを組み立てたりすることを恐れ、自身の創造性を十分に発揮できていないように見える場面を目にすることがあります。
仕事の場では、正解を探すことが優先されるあまり、自分が何に違和感をもち、何に面白さを感じ、何を大切にしたいのかを確かめる機会は失われがちです。生成AIの活用が広がることで、もっともらしい答えや選択肢をすぐに得られるようになった今、その傾向はさらに強まる可能性があります。だからこそ、自分の感性を出発点としながらも、それを絶対視するのではなく、言葉にし、他者や現実とのやりとりの中で確かめ、更新していくことが、創造性を育む上で欠かせません。
創造性を発揮しようという意識と姿勢がつくれているか。発揮してもよい環境が個人と組織の両方にあるか。その関係を見つめることが重要だと感じました。
セミナー後のアンケートでは「AI時代に本質的に求められることを、普段立ち止まって考えないので、良い機会となりました」という声も寄せられました。この言葉にも表れているように、本セミナーは、AI時代における個人の創造性と組織のあり方との関係を、参加者と共にあらためて見つめ直す機会になったように思います。