行政、地域事業者と連携し、市民協働による
地域課題解決の仕組みをデザイン
東京都府中市では、地域課題をさまざまなステークホルダーと解決する市民協働を、重点政策の一つとしています。このプロジェクトは、その活動体(プラットフォーム)を立ち上げ、3年間の計画で、地域で自律的に運営できる状況をつくることを目指しました。コンセントはその2年目から参画し、市民協働を推進する仕組みの企画構想とその実現を支援しました。
- デザイン経営支援
- トレーニング・研修
- 事業開発支援
- デザイン思考組織化支援
- クリエイティブ開発
[ プロジェクトのポイント ]
- 関係者とディスカッションを繰り返し、解決策を模索しながら市民協働の実現を支援
- 関係者の思いをくみ取り、モノを含むコト=サービスとして課題解決を具現化
- 課題解決のプロセスにデザインを活用し、ソーシャルビジネスの創出を支援
プロジェクトの背景
府中市は、人口約26万人を擁する都内市町村の中で3番目に大きい自治体です。同市は2014年の市民協働都市宣言を皮切りに、「誰もが市民協働をより身近に感じ、協働のまちづくりに参画する府中市の実現を目指し、協働関係を築く※1」ことを目指しています。この状況を受け、市民協働をさらに推進するためにスタートしたのが、「みんぷら」です。
このプロジェクト発足の背景には、府中市だけでなく日本社会全体が直面している複雑な問題があります。例えば、生活者の価値観が多様化したことや、デジタルテクノロジーが発展したことにより、生活者ニーズとソリューションは細分化され、それに呼応した民間サービスへの期待値や、求められる品質基準も高まっている状況にあります。しかし、公共サービスは限られた税収や人員で最大多数へサービスを提供しなければならず、全ての課題にきめ細かく対応することは困難です。こうした状況は、住民の少子高齢化、市の財政状況、市民の価値観、テクノロジーの発展など、多くの要因が複雑に絡み合っています。そのため、市民生活の質を維持するためには、行政だけでなく市民や企業などさまざまなステークホルダーとの協働が不可欠です。
※1 出典:新たな「府中市市民協働の推進に関する基本方針」を策定しました 東京都府中市ホームページ
(2023年11月14日 アクセス)
問題解決までのアプローチ
コンセントでは、3年間のプロジェクトの2年目から企画構想の支援を開始しました。関係者とオンラインミーティングを繰り返し、ユーザーリサーチやプロトタイピングの中でどのようなアプローチが可能なのかを模索しながら活動を構築していきました。
その結果、以下に示すようなさまざまなアクションを組み合わせた地域課題解決プラットフォームの構想を具体化しました。
2022年度時点の活動全体像。中心の活動体と周辺のアクションに区分してプラットフォームの構想を描いた。
活動体の中心は、「
」と地域事業者「 」です。これらは、さまざまな活動を推進する際、有志メンバーが集まった「メンター」と「府中市市民活動センター プラッツ」と柔軟に連携しています。以下、3つの役割に分けてアクションを実施しています。1つ目の役割:コミュニティー構築
市民との連携を実現するため、SNSを中心としたオンラインコミュニティーと、アン ファミーユの拠点を中心としたオフラインコミュニティーの2つを設定しました。これらのコミュニティーに地域の市民や周辺自治体の市民が参加することで、みんぷらへの接点をもつことが容易になりました。
2つ目の役割:地域課題解決に向けた市民主体のソーシャルビジネスの立ち上げ支援
市民向けにサービスデザインの方法論を伝える「みんぷらスクール」と、その検討成果を発表するピッチプレゼンの場「みんぷら祭り」を実施しました。
3つ目の役割:ソーシャルビジネスの実際の創業支援
市民活動を持続可能にするために、公的創業支援施設である「府中市市民活動センター プラッツ ソーシャルビジネスラボ」や、コレクティブインパクト※2の創出を目的とした活動「みんぷらコレクティブ」と連携し、市民の継続的な活動を支援しました。
コンセントは、プラットフォーム構築・運営やブランディング、プロモーションをデザインアプローチを通して支援しました。具体的には以下のようなものです。
※2 特定の社会課題について、行政・企業・市民などのさまざまなステークホルダーが協力し、解決に向けて取り組むこと
クリエイティブのポイント
プラットフォーム構築・運営支援
このプロジェクトがスタートした当初、まずはどのような活動を進めるかの計画が必要でした。まずコンセントが支援する前年、1年目の参加者の状況を整理するために、ステークホルダーマップやペルソナを作成し、事業の目的と照らし合わせ、何が市民との協働のために必要かを関係者間で継続的に議論しました。そしてプラットフォームのあるべき姿を構想し、一つひとつの活動を具体的に検討していきました。その結果、前述の活動全体像にある6つのアクションを4つの活動体で連携して運営する地域課題解決プラットフォームを具体化しました。
ステークホルダーマップ。1年目の参加者と市民の属性ごとのニーズを整理し、どのような活動体があれば市民の課題解決活動への意欲を協働に結び付けられるかを検討した。
市民協働活動の推進のために連携すべき市民や関係者像を整理したペルソナ
地域課題解決プラットフォームの全体構想のα版。一つひとつの活動を具体化しながら、活動体相互の役割などを最適化していった。
地域課題解決のエンジンとなるソーシャルビジネス立ち上げを支援する「みんぷらスクール」のプログラムは、大企業の若手中堅社員の実践コミュニティー「ONE JAPAN」の山本将裕氏に参画いただき、ディスカッションを経て決定しました。その結果、課題感を強くもつ市民に参加を呼びかけるために、動画でのプレゼンテーションによる参加者選考や、府中市長も含めた20数名に上るメンター陣によるメンタリングといったプログラムの詳細が構築されました。
コンセントは「みんぷらスクール」で、地域課題解決に携わりたい市民の方に向けてサービスデザインの考え方や方法論をレクチャーした。
ブランディング支援
活動を具体化していくために、「みんぷら」の象徴となるロゴをサービスデザイナーが作成しました。「みんぷら」というネーミングには、府中市の市民活動支援センター「プラッツ」の最初の2文字と、「みんなのプラットフォーム」という意味が込められています。このうち「プラットフォーム」という要素に注目し、多様な人々がつながるための橋のような構築物(プラットフォーム)のイメージとアクティブな形態のロゴタイプを組み合わせました。無形の活動をデザインしていくに当たり、さまざまなシーンでこのロゴを使用し活動の一貫性を保つ助けとしました。
「みんぷら」のロゴ。当初ロゴはグリーンを基調にしていたが、後述するウェブサイトや告知ツールのデザインと合わせてオレンジを基調としたデザインにリニューアルした。
ロゴの使用規定を定めたレギュレーション資料
プロモーション支援
このプロジェクトは3年間の活動ののち、以降は運営主体を行政からアン ファミーユへ移し持続的な活動を行うことを目標としていました。その目標に向け、活動の最終年度である3年目に、活動を周知するための市民との接点としてウェブサイトを構築しました。
最終的にウェブサイト運営もアン ファミーユへと引き継ぐため、活動の基盤として低コストで専門知識が少なくても運営しやすいノーコードのウェブ制作ツールであるSTUDIOとnoteを連携させ作成しました。ウェブサイトの制作に当たっては、関係者の意見をヒアリングし、メッセージやコンテンツを検討しました。ユーザーにポジティブな印象を与えられるクリエイティブを目指し、ロゴのリニューアルも行っています。
また、ウェブサイトで、多くの人がアクセス可能なわかりやすい情報発信を行えるよう「アクセシブルなコンテンツ作成ガイドライン」を取りまとめ、アン ファミーユへレクチャーして引き継ぎを行いました。
関係者との複数回のディスカッションを経て策定したキャッチコピーは「1人のチカラを、無限大に」。他者との連携、協働によって開かれる可能性の大きさを表現した。
アクセシブルなコンテンツ作成ガイドライン。アクセシビリティについての取り組みを伝え、継続的にアクセシブルな情報発信を行いやすくするためのもの。
また、ウェブサイトだけではなく紙媒体の告知ツールも制作しました。さまざまな行政拠点に配置したり、広報物として配布したりといったプロモーション活動も支援しました。
「みんぷらスクール」の告知ツール。どういった位置付けの活動なのか、何をするのかなど多くの情報を整理し、理解しやすい情報設計とグラフィックデザインを行った。
「みんぷら祭り」の告知ツール。「祭り」のイメージは踏襲しながら、いわゆる地域のお祭りそのものではなく、さまざまな人が協働した結果をプレゼンテーションするハレの場として表現。
活動の成果と今後の展望
「みんぷら」の活動を通して、市民の参加者は延べ451人になり、支援を行った課題解決プロジェクトは年平均15件となりました。また、「みんぷら」参加後に法人化されたプロジェクトは5件となりました(みんぷら公式ウェブサイトより)。この活動の運営を通じて、市民協働を推進し、行政サービスや民間サービスでは手が届きにくい課題を共同で解決するきっかけをつくることができました。
また、このプロジェクトを通して、客観的な視点で全体を俯瞰し最適解を探るというデザインアプローチは「自分の熱意を抑え込む邪魔者」として映ることがある、という気付きを得ることができました。多額の私財を投じたり、無給のボランティアとして活動を続けたりする強い問題解決意欲をもつ方は、俯瞰的な視点で冷静に検討する「鳥の目」にレンズを切り替えることが難しい場合があることも考慮に入れる必要があるでしょう。
複雑化した答えのない問題を解決するためには、モノゴトを捉える範囲を切り替えながら探索的に活動し続ける意欲が求められます。そのためには「迷いなくゴールを目指せる環境」ではなく、生き生きと探索ができる「ポジティブに迷いながらゴールを目指せる環境」づくりが必要です。サービスデザインの手法を用いてこういった環境からデザインすることが、今後重要性を増すのではないでしょうか。
3年間のプロジェクトは終了しましたが、現在は事業の運営主体を行政からアン ファミーユに引き継ぎ、民間主導の新しい活動として2024年4月現在もプロジェクトは進行中です。活動の詳細に興味がある方は、公式ウェブサイトをご覧ください。
[ プロジェクト概要 ]
クライアント名 | アン ファミーユ 様 |
---|
[ 関連リンク ]
お仕事のご相談やお見積もり、ご不明な点など、お気軽にお問い合わせください。
お問い合わせ