IA CAMP 2015 イベントレポート

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IAをとりまく現状、未来でのテクノロジーとの関わり方、複雑化するユーザー環境、ビジネスにおけるデジタルコミュニケーションの重要性の向上、シェアードエコノミーや集合知などのあたらしい価値観の台頭……IAを取り巻く多岐にわたるトピックに対して、私たちは今後どう関わっていけばいいのでしょうか。こういった課題を考える場として、IAの合宿と銘打った「IA CAMP 2015」が、7月17日(金)にパレスサイドビル マイナビルームで開催されました。


ソシオメディア、コンセント、マイナビの3社による共同開催となった「IA CAMP 2015」。プログラムは日中の第1部、第2部、夜間の第3部に分かれ、9:00から21:15まで丸1日かけて行われました。登壇者と参加者はセミナールームに集い、IAにまつわるさまざまなセッションを受けるというスタイル。コンセントの長谷川をはじめとする日本のIA業界のスピーカーに加え、今回はIA界の「開拓者」たちも海をわたって登壇してくださいました。“シロクマ本”を著したPeter Morville氏をはじめ、Dan Klyn氏、Jason Hobbs氏の議論は、日本の、特にWebの文脈で語られるIAとは異なる視点に立脚したもので、IAを客観的に捉え直すきっかけとなる素晴らしいセッションでした。

以下、コンセントから参加したディレクターの中垣、デザイナーの石井、ディレクターの中筋、デザイナーの関根の4名が、各セッションについてレポートします。

日本のIA、弱いIA/長谷川敦士(株式会社コンセント 代表取締役/インフォメーションアーキテクト)



オープニングキーノートにあたるコンセントの長谷川のセッションは「日本のIA、弱いIA」というテーマで、日本のデザインの特性と情報社会全体で求められている「弱いIA」の可能性についての講演でした。

さまざまな事例を紹介しながら、日本のデザインには
  • 情報量が多くなりがち(受け手が多すぎる情報も処理できてしまうという側面、「情報量の多さ=選択肢の多さ」としてポジティブに捉える側面がある)
  • 検証と改善を重ねた細かい配慮が得意
  • 一貫性をつくるのが苦手
  • 共感を生む仕組みづくりが得意(「設計者=利用者」であることが多い、文脈性の共有度が高い)
などといった特性があると言及していました。

そして、そういったデザインを生み出す背景には、トップダウンの戦略型ではなく、ボトムアップの現場最適型という日本の組織文化があるということが述べられていました。もともと日本人が狩猟型ではなく農耕型の民族であったこと、島国という大きな集合体の中で日本語(漢字、ひらがな、カタカナ)という単一言語を用いてきたこと、といった歴史的要因が、現場のオペレーションでの検証改善・最適化を図っていくことを得意とする、日本の組織文化を築き上げてきたのではないかとのことでした。


本セッションのテーマにある「弱いIA」とは、今年2月開催のWorld IA Day 2015 Japanで紹介された「弱いロボット」にインスピレーションを得た概念(※1)で、自律的に人間の行動を代替し目的を完遂する(=強いIA)のではなく、人間に依存し、人間の共感性にアプローチすることで目的完遂までの意思決定をサポートするというアーキテクチャです。切り出されたシステムの一部を自己完遂するのが「強いIA」であるとすれば、「弱いIA」とは、対象との交流を通じて文脈を参照し、対象を取り巻くシステムを構築しながら、対象そのものが目的を達成することを促します。

※1 World IA Day 2015 Japanのなかで紹介された「弱いロボット」については、World IA Day 2015 Japanのレポートをご参照ください。


セッションの中で紹介があったAirbnbの「従業員経験モデル」のように、「共感を生む仕組みづくり」は、今後その重要性がますます高まることが予想されます。私も、日本人としての文化特性を活かしつつ、専門家として、特定の文脈によらず利用者の共感を引き出す構造とUIによって利用者の意思決定を促す「弱いIA」の可能性を広げていきたいと思います。[執筆:中垣]



The Architecture of Understanding/Peter Morville 氏



オープニングキーノートの2つ目のセッションは、“シロクマ本”の著者としても著名なPeter Morville氏による講演でした。本セッションは、「情報を体系化することで世界をより良い場所にできるのか?」「“すべてが深く錯綜している(※2)”社会をどう理解し、何を担っていくのか?」といった課題に対し、彼の最新刊である『Intertwingled: 錯綜する世界/情報がすべてを変える』を紐解きながら、Nature/Category/Link/Culture/Limitsという5つのキーワードを切り口に議論を展開していました。ここでは、その5つのキーワードのそれぞれの要点をご紹介します。

※2 Theodor H. Nelson(1974)Dream Machines


Nature(自然)
多くの有機体がつながり、急速な変化を遂げる情報化社会の実態を理解するための手掛かりとして、自分たちのいる組織を1つの生態系と見なし、あらゆる生態系は相互性をもつという「システム思考」が重要。また、複雑さや変化のスピードに応じる方法論としてのアジャイルやリーンについて、その価値は理解しつつも、「計画」というステップをないがしろにしてしまう落とし穴がある。「Playing Practice」の精神で失敗を通じた経験学習も大事である一方、取り返しのつかない失敗をしては元も子もないので、より実りある実践をするための情報取集、計画が必要。

Category(カテゴリー)
複雑さの理解の手掛かりとしてのカテゴリー(分類)は、悪いことではないが危険なことでもあるため、そのリスクに気づくことが重要。カテゴリーは認知と文化が土台になっていて、実際のところ、それぞれの境界線は「見たらわかる」程度にぼやけていることがほとんど。例えば宗教や信条など、平面的なx軸とy軸による位置づけだけではその本質をほとんど理解できないように、位置や場所ではなく、ベクトルや方向性に目を向けた分類が大切。

Link(つながり)
デジタル/リアルの境界を越えて、時間的/空間的な「つながり」が複雑さを増している今、コンテキストへのより深いレベルでの理解が重要になってきている。ハイパーテキストは「つながり」を考える上での出発点にはなるものの、より次元を高め意識を拡張し、時間と空間の見えない「つながり」を見つけ出して使いこなすことが重要。言い換えると、その「つながり」を前向きな変化を起こす「てこ」にしていく、ということ。

Culture(文化)
前述したコンテキストの理解にあたっては、顧客文化の理解のための手法論や実践現場はある程度成熟してきているが、顧客文化の理解と同様に、企業文化への理解も重要。企業と顧客の双方の文化に対応できる適合性を見出すことこそが、正しいデザインであると言える。また、文化という目に見えないものを理解するには、Artifacts(人工物)、Espoused Values(価値観)、Underlying Association(基本的仮定)という3段階の文化レベルで捉えること、Culture Mapという手法で可視化することなどが手掛かりとなる。

Limits(限界)
私たちの視点と視野には限界があり、すべての情報・事実を取り込むことはできない。複雑さとともに暮らす私たちは、情報や事実を「無視」することが得意である。つまり、大量の正確な情報ではなく、人々の行動により良い変化をもたらす情報と、それが流れるシステムについて考えていくことが大切。変化の鍵になるものとして、Keystone Habit(習慣を成り立たせているもの)による波及効果、またストーリーとして語られる情報などが、今後より重要になる。


最後にまとめとして、Peter Morville氏は、情報アーキテクチャに携わる私たちには全体を見渡す望遠鏡、ディティールに気づく顕微鏡、そしてものの見方を変える万華鏡という、3つのレンズが必要であると述べていました。

私たちの暮らす世界、理解しようとしているシステムは途方もなく複雑です。複雑にもつれたシステムを紐解いていくこと、そして単にソフトウェアやWebサイト、エクスペリエンスをデザインすることに留まらず、システムの中でより良い変化をもたらすことこそが、錯綜する世界の中で私たちが担うべき役割なのだと、氏の講演をお聞きして感じました。[執筆:中垣]

You're Screwing Up The World: Profound Opposite Truths In Architecture/Dan Klyn 氏



情報アーキテクチャ分野で18年の実践経験があり、The Understanding Group (TUG) の共同創設者であるDan Klyn氏による講演。
(なお、講演内容は、事前に告知していた内容から、本原稿で後述する当日の盈進学園東野高等学校の見学に合わせた内容に急遽変更になっています。)

講演では、パターン・ランゲージ(※3)を提唱したクリストファー・アレグザンダーを中心とする建築家たちの思想をもとに、建築物における空間秩序の構築プロセスが紹介されていました。
建築家は、大前提として機能的なものを作らなければなりませんが、一方で装飾(美的理性)も作りたいという欲にも駆られます。ただ、自分自身の頭の中に「絵」として浮かび上がっていないと、2つの理性を統一するのは難しい。機能を優先させてしまうと、世界は自動販売機のような、機能を全面に押し出したものになってしまう。そのような状態を回避するために、建築物を作る上では「空間秩序」(もしくは「宇宙的な秩序」)を機能以前の問題として設計しなければならないと言及していました。

※3 「パターン・ランゲージ」とは、クリストファー・アレグザンダーが提唱した建築・都市計画にかかわる理論です。建物やコミュニティを形成するための手法としてパターン・ランゲージは用いられます。


上記で述べたような「空間秩序」を構築するための手法のひとつとしてパターン・ランゲージがあり、構築例として、アレグザンダーがデザインした埼玉入間市にある盈進学園東野高等学校が紹介されました。この高校の建築プロセスは大きく以下の8つに分かれています。

  1. 1.教員をはじめとするステークホルダー82名に「夢や希望」をインタビュー
  2. 2.知的言語(パターン・ランゲージ)での感情表現をラフなスケッチでまとめ、一貫性を与える
    →言葉だけで表現するのは十分ではない。身体から出てくる言葉に「かたち」を与えねばならない
  3. 3.統一感をもたせるために、物理世界に旗を立て絵から現実に置き換える
  4. 4.議論を通してランゲージを洗練する
  5. 5.82名のステークホルダーにパターン・ランゲージの確認・承認を得る
  6. 6.予算の範囲内で、現場とお金のバランスを見ながらパターン・ランゲージを再調整する
  7. 7.中心になる2つの「システム」を探し、統一する
  8.  1)パワフルな言語のパターンの中心
  9.  2)現場のなかの最も意味のある中心
  10. 8.パターンの中心(構造で最もおもしろい部分)になるランゲージをスケッチで起こす
    →具体的なモデル図(図面)ではなく、あくまで要素(マテリアル)であることが大事


上記のプロセスの中で個人的に興味深かったのは、空間秩序の構築のために、構想(絵)を実地にて検証する(現実に置き換える)ということ。まさに空間のプロトタイピングと言えます。
IAはデジタル世界での情報構築に馴染みがありますが、特に業務におけるIAではどうしてもそこに閉じてしまいがちになります。実世界の秩序を構築する東野高等学校のプロセスを垣間見られたことは、参加者の方々にとってもIAの概念を拡張するきっかけになる良い機会だったのではないでしょうか。[執筆:石井]

タイトル未定/佐藤伸哉 氏(株式会社シークレットラボ 代表取締役・AKQA)



「タイトル未定」と銘打った佐藤氏による、「IoT時代におけるIAの思考と役割について」の講演でした。
氏はIAの理解のためにはUXの理解が不可欠であると述べ、講演は、UXと定義されるものが何であるか、また、UXを設計するにあたりどのような手法が世の中で取り入れられているかの紹介から始まりました。UXを理解するためには、ビジネス目的と顧客ニーズの観点から物事を捉えられるようにすること。そのためには、いろいろなフィールド・ドメインをバランス良くつないでデザインできるカバー領域の広さと広くもとうとする思考が大切だそうです。

佐藤氏は、IAの業務スコープは、「ワイヤーフレームを書く」といった表面上の情報設計作業ではないとしています。氏によれば、ユーザージャーニーマップやHCDメソッド、ワークショップやプロトタイピングなど、UXをデザインするうえで必要なプロセスや得られたインサイトなどを成果物として可視化することがIAの作業になります。もちろん、作業の中には「ワイヤーフレームを書く」ことも含まれるが、それはUXを設計するための「手段」であり、書くことを「目的」にしてはいけない。IAは「ユーザー体験のシステムを構築すること」であり、インフォメーションアーキテクト は「UXを機能させるための設計・構築に携わるデザイナー」を指すとのことでした。


IAがもつべき思考と役割が明らかになったところで、「IoTにおけるIAの役割が何か」という本題が始まりました。今後IAの業務を拡張するのは、オンデマンドだったWebやモバイルに代わり、常にネットワークに繋がっているIoTだと氏は考えているそうです。IoTは既存のプロダクトとは違い、ユーザーからプロダクトに働きかけるインタラクションではなく、プロダクト側からユーザーに働きかけるインタラクションを発生させます。つまり、「プロダクトのストラテジーや企画」も含めた設計(「生み出すこと」と「そのプロダクトにまつわる、今は存在しないUXのシステム構築」)も、今後のIAに求められるスキルとして考えていかなければならないとのことでした。

佐藤氏の講演から、IAの業務範囲は現在だけでも非常に多岐にわたることがうかがい知れます。今後も、IoTをはじめとする技術の進歩とともにユーザーの生活が変化することで、その業務範囲は拡張し続けることでしょう。

締めくくりの「What is your title?(あなたのタイトルは何?)」という問いが総括する、今一度自分は何者であるか、何者になっていきたいかを考えさせてくれる講演でした。[執筆:石井]

シロクマ本に学ぶエクスペリエンスのための手技法/篠原稔和 氏(ソシオメディア株式会社)



こちらはIAに携わる人なら一度は目にしたり耳にしたことのある『Information Architecture for the World Wide Web』(オライリー・刊)、通称“シロクマ本”に関するセッションでした。日本語版は第2版までしか出ていませんが、英語版では第4版(『Information Architecture for the Web and Beyond』)の刊行が予定されています。そこでこのセッションでは、今、改めて “シロクマ本”を読み解いていくために、各版でどのような変更点があり、それらにどのような意味があるのかについて、これまでの日本語版の監訳者である篠原氏が解説してくださいました。

時代の変化などを受けて何度か改訂が行われている部分もあるものの、一方では変わらずに掲載されているものもあります。例えば、

  1. 1.情報アーキテクチャの基本原則(組織化、ラベリング、ナビゲーション、検索、メタデータ)
  2. 2.「調査→戦略→設計と文書化」のプロセス

です。これらは“シロクマ本”におけるIAの基盤となっています。

また、篠原氏は今後インフォメーションアーキテクトが身につけていくべき手法として以下を挙げています。
  • トップダウン/ボトムアップ:組織の中の情報を引き出すアプローチ
  • シソーラス、制限語彙、メタデータ:情報をデータとしてシステム化していくアプローチ
  • 各種ユーザー調査:ユーザー理解の前提となるアプローチ


著者の一人であるPeter Moville氏を迎えた今回のIA CAMPだからこそ、参加者が一堂に会して改めて本書の内容を反芻し各々の血肉としていくことに、より強い意味があったのだと思いました。[執筆:中筋]

顧客から引き出す技術 -インタビューとグラフィックファシリテーションの共通点/三澤直加 氏(株式会社グラグリッド)



このセッションでは、役割を超えて人と人とが交わり考えるために、インフォメーションアーキテクトに必要なことを、三澤氏が実際に関わった事例から紐解き解説してくださるセッションでした。
ここで最も重要とされていたのは以下の2つです。

  1. 1.相手の立場になって聞く
    インタビューをプロジェクトに取り入れるときは、事前にインタビューの目的を明らかにし、話を聞きたい人の属性の設定や聞くポイント、流れを整理することで、段取り良く進めることができる。また、スムーズな進行のためだけでなく、インタビューの中で本音を探るためには、フラットな関係性の中で耳を澄ませることや、共同体験を通して考え方を探ること、発言の背景(コンテキスト/価値観)を常に意識することなどが重要なファクターとなってくる。

  2. 2.考えを可視化する
    考える土台をつくるために必要なアクションである。可視化することでイメージがわき、概念を共有できる、などの効果が期待できる。当事者が共通認識をもち、より発展的な議論、活動の活発化へ繋げることも可能。考えを可視化する場において、ファシリテーターの思考はまさにIAを行っている状態にあり、個々の考えなどをしっかり聞き、内容を把握しながら構造化している。


この講演から、IAは特定の役割の人だけが担うものではなく、上記を意識しながら、その周囲にいる異なる役割の人々とともに実践していくものであると再確認することができました。[執筆:中筋]

デザインの裏のデザインの裏のデザイン/Jason Hobbs 氏



情報アーキテクチャと人間中心設計にフォーカスしながらデザインを実践してきた、Jason Hobbs氏による講演。IAを視覚的に表現するためのビジュアル言語と、そのアウトプットの形に関する内容でした。

Hobbs氏の言うIAには2つの考え方が含有されています。1つは「人類学的空間」。これは深さや高さを超えた「スペース」という概念であり、インフォメーションアーキテクトが1つの境界を超えて新たな意味を構築していることに対するメタファーでもあります。もう1つは「ハビトゥス」であり、これは社会学者のピエール・ブルデューが提唱した、人々の日常的な経験の中で蓄積されて生み出される無自覚的な知覚、思考、行為のことです。
デザインにはハビトゥスの情報アーキテクチャが隠れていると、講演では言及されていました。


現在、IA的アプローチは専門分野だけではなく、ビジネス一般の世界にも広がっており、コミュニティの中でたくさんの人々が定説としてきたIAの枠組みの外側で、新たにIAを構築する動きが出ているとのことです。それに伴いプロセスやアウトプットの形も多様化していることを受け、私たちも柔軟にIAを捉え実践していく必要があると感じました。[執筆:中筋]

第3部「IA CAMP振り返り~学びのまとめと深堀り」



第1部、2部での講義型スタイルとはうって変わって、第3部の会場はリラックスした雰囲気。軽食が出され、登壇者のトークを背景に、お酒を飲みつつゲスト同士が楽しく交流していました。

篠原氏の「IA CAMPの振り返りとまとめ」に続いて行われた、全登壇者によるパネルディスカッションでは、東野高校の話で盛り上がりました。Klyn氏のセッションにもあったように、この高校はクリストファー・アレグザンダーのパターン・ランゲージの手法による建築物。実はIA CAMP当日の午後、講演を終えたPeter Morville氏やDan Klyn氏、佐藤氏の一行は実際にこの高校を訪問していたのです。彼らは、30年前にアレグザンダーがデザインした建築物が今もこうして残り、そこで生徒たちが学んでいるという事実に感銘を受けたそうです。ちなみに、Morville氏のお気に入りが「橋」。理由は「IAの役割も、まさに“橋渡し”のようなものだと思うから」だそうです。「私たちIAは、ユーザーをコンテンツやサービスにつなげる仕事を生業としていますよね」。彼の言葉に会場からは拍手が起こっていました。

Peter Morville氏がお気に入りだとお話しされていた、東野高校にある太鼓橋。
撮影:ソシオメディア高橋真理氏。


最後に、長谷川が「これからの社会の中でIAが担っていく役割はどのようなものだと思いますか?」とKlyn氏とMorville氏に質問を投げかけました。

Klyn氏「責任の問題はきちんと議論しなければいけないですね。建築物に関する最古の法規が記されている『ハンムラビ法典』には、自分が建てた建築物が倒壊してその住人の子供が死んでしまった場合、建築家の子供も殺されなければならない、という法がありますが、私は正直そこまでしたくない(笑)。ただし、もしIAが自分の仕事の価値を世の中の人に認めて欲しいなら、説明責任を負わなければなりません。IAというのは、世の中に非常に大きな影響を及ぼします。私たちIAには構造を変化させ、人々の行動や習慣などを変えることができる力があります。ですから、みなさんもIAの仕事をする際、自分たちが人々の生活する“場所”をつくっているということと、彼らにとって“good”なものをつくるのだという意識を強くもちましょう。そのために善悪の判断基準をもち、“真実”について知らなければいけません。正直、私自身も“真実”というトピックに向き合うのは難しいですが、自分の問題としても、今後避けて通れないと思います」


Morville氏「今日はさまざまな観点 ― 弱いIAから、UXのコンテキストにおけるIA、伝統的な建築物に絡めたIAなど― からIAを見ていきました。アメリカでは、IAに1つの定義がないことに不満を覚える人が多いですが、日本は柔軟に多くの意見を受け入れてくれる土壌があるように思います。そして私は、IAが多義的であることにむしろ可能性を感じます。ですから、こうしてIAを巡るさまざまなメソッドや定義があることがとても嬉しいです。これからも、多くの方にさまざまなアプローチをしていただけたらと思います」



大盛況のうちに終わったIA CAMP 2015。
クロージングとして、長谷川が「IAを取り巻く状況がこれだけ多様化している中で、IAはいわゆる専門家だけのものではなくなっています。IAについて考える人々が増えることはとても重要です。肩書きや業種にとらわれず、さまざまな視点からIAについて考えていただきたい」と言っていたのが印象的でした。

セッションからいただいたアイデアをもとに、デザイナーである私も自分なりのIAへのアプローチを模索してみたいと思います。[執筆:関根]

[ 執筆者 ]

コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

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