World IA Day 2015 Japan イベントレポート

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    金子まやコンテント ストラテジスト

情報アーキテクチャを通じて世界をつなぐコミュニティイベント、World IA Day(WIAD)が今年も2月に開催されました。2012年にスタートし、年に一度世界各都市で情報アーキテクチャについてのイベントが同時開催されるこのWIADは今年で開催4回目となります(日本では昨年、大雪に見舞われ中止となりましたが…)。

今回のコーディネーターの一人、UX Tokyoの山本郁也氏によるイントロダクションでスタート


さて、World IA Day 2015ですが、「Architecting Happiness(幸福の構築)」を今年の世界共通のテーマとして開催されました。さらに日本ではローカルテーマを「身体性」として、IAとは一見関係がないように見える分野の方々が登壇し、それぞれが考える、人びとを幸福にするIAの身体性に関して語られました。

私は、ふだんの業務でIAとは切っても切れないContent Strategyに携わる身として、また以前社内イベントにお越しいただいたこともある『WIRED』の編集長の若林さんのファンとして、さらに数年前に『弱いロボット』を読んで以来、岡田美智雄さんにお会いしてみたいと思っていた身として、今回のWorld IA Day 2015に参加しました。

私自身も感銘をうけた『弱いロボット』の著者の岡田美智雄教授は、弱いロボットの研究を通して「”IA”とはなにか?」という根本的なことをわかりやすく語ってくれました。また、独立行政法人産業技術総合研究所主任研究員でニコニコ学会β実行委員長でもあるメディアアーティストの江渡浩一郎氏は、「身体を通しての“IA”」についてご自身の体験をもとに紹介してくださいました。また、ディスカッションに登壇した『WIRED』日本版の編集長の若林恵氏は、お二方の講演の話をふまえて、日本人の文化や性格などの話を織り交ぜながら、それまでのIAの話を拡散してさらに発展させてくれました。

それぞれ異なる業種の方々がIAに関して話すという、とても興味深くさまざまな気づきを与えてくれる一日でした。是非、当日の録画(https://www.youtube.com/playlist?list=PLUuTo1X6FU-RLE9EQLeVko-CPLVMpdVer)を視聴いただきたいのですが、5時間という長丁場でもあるため、私の視点からおもしろかった点、興味深かった点を中心に、当日の内容を少しご紹介します。

“IA"とはなにか?(岡田教授の「“弱いIA”の可能性」から)



「ロボットの中に不完結さをつくることで、コミュニケーションのヒントが見つかるのでは」と、「弱いロボット」を研究している岡田教授。今回の登壇にあたり、「IAとはなにか」について考えた際、「わかりやすく情報を伝えることである」というシンプルな解答に至ったそうです。

伝わった相手も、情報を伝えることができた自分自身も嬉しくなる、というのが岡田教授による“Architecting Happiness”の解釈。
——では、その幸福を構築するために“完璧なIA”というものは必要なのだろうか? これまでの研究の中での「どこか不完結さをもったものの方が、相手は手を差しのべたくなるのではないか?」という仮説は、IAにとっても言えるのではないか。“完璧なIA”では、“一方的な発信者”と、“与えられて当たり前と考えてしまう受信者”という関係性を生み出してしまう。そこにはコミュニケーションは生まれず、結果、幸福は構築されないという構図になるかもしれない。——

IAとは、Webや紙をはじめとしたメディアに対して考えることではなく、もっと根本的に、そして原初的に人と人とのコミュニケーションを考えることだということ。Webや紙やロボットといったツールは、人間同士のコミュニケーションを考えるためのツールでしかないということを再認識させてくれる講演でした。

身体を通して“IA"を考える(江渡氏の講演「ニコニコ学会β、wiki、パターンランゲージ…そして身体性へ」より)



岡田教授のわかりやすい"IA"の定義に続き、江渡氏の講演では、「相手にわかりやすく情報を伝えるにはどうすればよいか?」ということを、ニコニコ学会βの立ち上げを例にとり具体的に紹介してくださいました。結論から言うと「相手に伝わるようにストーリーをつくること」ということなのですが、ニコニコ学会βは、「学会という一般の人には馴染みがないものに対していかに興味をもってもらい、研究の内容を知ってもらうこと。そしてそれをキッカケに研究が認められ発展していくこと」を一つのストーリーとして立ち上げられたそうです。

また、スティーブ・ジョブズがあるスピーチの中で、リード大学でカリグラフィーの授業を受けたこと、そして、カリグラフィー教育においてリード大学は当時国内最高水準だったと称えている映像を紹介した上で、江渡氏自身が最近リード大学を訪れた際にお聞きしたお話に。そのカリグラフィーの授業は英文学の教授がつくったものであること。つくった背景には、「生活そのものに美があふれるべき」という想いがあること。授業をとった学生にはAdobeのディレクターもいることから、その教授の遺伝子が現在のIT産業に受け継がれ、AdobeやMacの根底となり結実しているという流れがあるのだと、江渡氏は感じとったそうです。

江渡氏の講演をお聴きして、「相手の視点に立つこと」と「ときには相手が予想もしないようなことをする」ということに、「わかりやすく情報を伝える」ためのヒントがありそうだと思いました。

拡散する“IA"(パネルディスカッション、オープンディスカッションから)



岡田教授、江渡氏の講演を受けて、大林寛氏(株式会社OVERKAST代表)と若林恵氏(『WIRED』日本版 編集長)も交えてのパネルディスカッション、オープンディスカッションでは
  • 「弱さ」を分析することはできるのか
  • 「弱さ」を出すことによって、地位を築いていく。実は「弱さ」は「強さ」と紙一重なのか
  • 『ハフィントンポスト』と『WIRED』に見る、それぞれのコミュニケーションの違い(井戸端会議と木彫りのクマの話)
  • 日本ではTumblrと俳句は同じもの? 価値が生まれるコミュニケーションと価値が生まれないコミュニケーション
  • 「伝わる」の中にある誤解とそこから生まれる感情
など、さまざまな話題が展開されました。

このようにディスカッションで多くの話題が生まれたということは、情報が伝わったことにより、立場の違う登壇者・視聴者それぞれが、岡田教授が講演の中でおっしゃられていた「グラウンディング」(※)を起こした結果なのだと思いました。


以上、長くなりましたが、今回このレポートを書くにあたって何度も読み返すたびに新しい気づきが多く、登壇されたみなさんが語りたかったことを上手くこのレポートで伝えられたという自信は正直ありません。見当違いの解釈をしてしまっているところがあるかもしれません。
ただ、講演を聴き、自分がどう受け取ってどう考えたのかということ自体を整理し書けたことが、私の中でグラウンディングが起きたということなのではないかと嬉しさも感じています。

※グラウンディング:グラウンディングとはアフォーダンスにも近い言葉ですが、投機するものとそれをそっと支えるものがペアになるような状況。例えばなにげなく地面に自分を委ねる時、それは自分が地面に横たわっているだけでなく、地面側がそれを支えているとも考えられるというような考え方です。

[ 執筆者 ]

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