顧客に響くコンテンツを紡ぎ出す「メディアシンキング」とは?

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  • 鈴木 奈都子



Summary
「メディアシンキング」とは、メディア=「情報の媒介者」というスタンスに立ち、送り手の思考を咀嚼しながら、同時に受け手の心に響くコンテンツを探求する、いわば「送り手×受け手」の視点をミックスさせる思考原則である。今回は、「メディアシンキング」とは何か、それが企業コミュニケーションにどのように役立つかを紹介する。

Points
  • 「メディアシンキング」は、コンセントで開発した、顧客の心に響くコンテンツを探索し、送り手と受け手の価値観をかけあわせる思考原則。
  • ブランディングやマーケティングなどの企業コミュニケーションに適用可能で、「企業内で眠っている深層的な価値」と「顧客視点の価値」双方の接点を発見し、企業と顧客間にインタラクティブな価値が構築できる。
  • 「メディアシンキング」の実践により自社製品・サービスについて、「紋切り型・パターン化しやすい企画の刷新」、「新コンセプト・新しい顧客層を取り組む要素の発見」、「“販促力”など中長期視点で活用できる、組織の隠れたコンテンツ発見」などができる。



こんにちは、サービスデザイナーの鈴木です。この記事のテーマは「メディアシンキング」です。製品・サービスや企業そのものの価値を再発見し、顧客との継続的な関係を築くためにはどうしたらいいのか。この問いに対して、コンセントの取締役で編集者の津田広志が30年の出版メディアの経験から考案し、クリエイティブ・ディレクターの川崎紀弘と、サービスデザイナーの大崎優とで共同開発した「メディアシンキング」からお答えしたいと思います。

顧客の思いと企業の思いを1つにするコミュニケーション


「メディアシンキング」の活用は、基本的に複数の異なる部署(開発、広報、営業など)の社員・職員を集めたグループで行います。異なる視点から知見を集め、企業や組織の製品・サービスのコンテンツを構築していきます。コンテンツとは、製品のコンセプト、知られざる良さ、持続的な価値、ブランド性、CSVでのメッセージ、広報や広告のキャッチコピーの素(もと)となるものです。このコンテンツが社内に整理されないまま、また共有されないまま眠っていることが多々あります。その暗黙知を顧客に響くように深層から掘り起こし、表現する。企業の思いと顧客の思いを1つにするコミュニケーション、これをコンテンツ力によって実現します。


「メディアシンキング」は、以下の3つの思考原則で構成されています。



以下、順を追って説明します。

原則1 情報最大化


上から見るか、下から、横から見るかで同じものでも違って見えるように、複数の異なる部署(開発、広報、営業など)から多角的に1つの製品・サービスを見るとき、普段目を向けることのない新たな側面、思いもよらないコンテンツを引き出すことが可能になります。部署ごとの断片化された見方を統合し、コンテンツを編集します。また社史の振り返りや製品・サービスにまつわる歴史文化背景や現在の市場環境など「情報最大化」してコンテンツを深めます。それによって、耐久力のある、深い、持続性のあるコンテンツにしていきます。検討する際のポイントは、ビジネス視点を一旦解除することです。一見、ビジネスとは関係ない人文科学的な要素も含め、検討の俎上にあげます。時間的・空間的な広がりを持ったコンテンツの種になるものを大量に集めて、その中から顧客に響くものをピックアップし、他のアイデアと組み合わせながら、コンテンツをつくっていきます。



原則2 中間者(ミドルマン)の視点


「メディアシンキング」でいう「メディア」という言葉は、もともと「媒介」や「媒体」を意味します。送り手から受け手へと、情報を「媒介」するのがメディアの役割です。つまり、本来メディアは送り手・受け手のどちらの側にも寄らない「中間的なスタンス」を取る必要があります。この「中間者(ミドルマン)」という立ち位置が、重要なポイントです。顧客とのコミュニケーションを考える際、このスタンスを取ることで、送り手(企業)側の思惑に寄り過ぎず、一方で顧客にも媚びないメッセージを考えることができます。また客観的に送り手(企業)のコアな価値を発見し、顧客視点からも既視感のないメッセージを考えることが可能になります。企業や社員の主体性や思いの熱量を保ったまま、顧客の心を動かす重要な視点の発見になります。コンテンツをつくる際には常に持ち続けなければならない視点とも言えます。



原則3 コンテキスト変換


いままでにない驚き・意外性を持った新しいコンテンツをつくるには、コンテンツにフォーカスするだけでは足りません。いくらひとつの製品やサービスを見つめてもその中身には限界があります。そうではなく、コンテンツがどのような関係の中から生まれてきているのかを考える必要があります。そのためには、コンテンツの背景にあるコンテキスト(背景、文脈)を考えてみるのは有効です。たとえばタイプライターに始まるタイピングという行為はもともと視覚障害者用に開発されたもので、一般に向けたものではありませんでした。しかし「一般の人が使う」というコンテキストに置き換えたとき、今日のPCにいたるまで爆発的な普及をしました。私たちが当たり前に感じている多くは、暗黙のうちに限られたコンテキストを前提としていることが少なくありません。新規のユーザーを増やしたい、顧客設定がおかしいのでは、と思ったとき、コンテキストを変えてみます。そのとき、驚きや意外性、いままで想定しなかったよい意味での異質なものやターゲットが見えてきます。



以上の「メディアシンキング」の原則を踏まえて、思考の流れを例示してみます。

ある村が移住者獲得へ向けてPR活動をしたいとします。ここでは、スローガンを考えていきます。まず、その村が持つ価値に対し、様々な立場の人が多角的な視点で情報を最大化していきます(原則1:情報最大化)。名産物や観光資源・歴史・住人・動物など、多くの情報が集まりました。村の職員は観光収入になりえるものや、近年の人口減少への対応策となる要素を挙げていきました。一方で、最近移住をしてきた住人は何気ない風景の美しさを挙げ、古い住人は昔から伝わる伝承などを挙げました。
ここでは、移住者の意見である、日本らしい美しい風景が広がる村の特長を示した「美しい村」というスローガンを仮設定しました。人口減少への対応を喫緊の課題として捉え、外部視点をもった移住者の意見を採用したのです。



しかし、これでは普通の言葉ですので、受け手の心は動きません。その状況を打破するために、最大化された情報の中から「木」をピックアップし、肉付けし具体性をもたせました。「木」は古くからの住人が大事にしている1本の桜を示したもので、新しい住人は気にもとめていない存在でした。



具体性が増し、検討メンバーの共感を集める魅力的なものとなりました。しかし、これでも受け手を刺激するものになっていません。表現が送り手本意になっていて、中間者の視点になっていないのです。そこで、中間者視点として、村の立場でもなく移住者や観光客の立場でもない、ある雑誌が村を紹介したらという想定でスローガンを組み立て直しました(原則2:中間者(ミドルマン)の視点)。中間者の視点を意識し、さらに最大化された情報の中から、村の歴史性や、そこに住まう人々の情報を加え、言葉を洗練させました。情報が一度最大化されているからこそ、発想の広がりが生まれたのです。



魅力的なスローガンになりました。悠久の時間軸やそこに住まう人の動きや表情まで感じられるものとなっています。これで完成としても良いですが、ここではさらにひねりを加えます。「超高齢社会」というコンテキストを入れて変換を加えます(原則3:コンテキスト変換)。移住者のターゲットをリタイア世代と仮定し、表現のブラッシュアップを試みました。



現代で課題となっている「平穏死」などと重なりながら、禁句である「死」という異質な言葉とつながってきています。ドキっとするスローガンではありますが、これは奇をてらってつくられた言葉ではなく、時代のコンテキストに合わせて生まれてきたものです。以上、これらのスローガンの良し悪しはともかく、原則1から3を繰り返すことで、質的な変化を促し、顧客の心を動かすスローガンに近づいた様子は見て取れると思います。


コンテンツに深さ、バランス、驚きを


以上、メディアシンキングの3思考原則の意義とポイントをご紹介しました。「情報最大化」によってコンテンツの統合性のある「深さ」を、「中間者(ミドルマン)の視点」によってコンテンツの「バランス」をとり、最後に「コンテキスト変換」によって「驚き」をあたえます。
メディアシンキングには、コンテンツに深さ、バランス、驚きをあたえ、企業コミュニケーションを促進するコンテンツ力をあげる働きがあります。その結果、既視感のあるコンセプトで顧客に響かない、社員も自社製品・サービスの魅力に気づかずモチベーションが上がらない、製品・サービスの未来へ向けた持続的価値がわからない、などのモヤモヤ感を解決する思考原則です。

次回は、クライアントとともに企業のブランディング方針を考えたワークショップの模様を通して、メディアシンキングの実践方法をご紹介します。


本記事は、コンセントが運営するオウンドメディア「Service Design Park」にも掲載しています。
http://sd-park.tumblr.com/post/165848992406/media-thinkin


[ 「メディアシンキング」開発者プロフィール ]

津田広志(Hiroshi Tsuda)

株式会社コンセント取締役/コンテンツディレクター、編集者

出版社フィルムアート社編集長をへて、株式会社コンセントへ。ワークショップを起点にして、企業、行政、教育機関のメディア化支援。「メディア×デザイン×テクノロジー」研究のため、東京工業大学研究員(融合理工学)を務める。青山学院大学客員教授(社会情報学)。著書『リ・クリエイティブ表現術』(新水社)。

川崎紀弘(Norihiro Kawasaki)

株式会社コンセント クリエイティブディレクター

雑誌をはじめ、企業、学校の広報誌のアートディレクターを担当し、2011年『実例で学ぶ「伝わる」デザイン』(グラフィック社)を執筆。以来、デザインセミナーや講師、デザインコンサルティング、プロデュースといった総合ディレクションを担当する。東京工業大学非常勤講師、青山学院大学客員准教授(社会情報学)、淑徳大学非常勤講師(人文学)も担当。

大崎 優(Yu Osaki)

株式会社コンセント 取締役/サービスデザイナー

武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒。
ユーザーがさまざまなステップや接点を経て体験する一連のプロセスを「サービス」であると捉え、顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)を基点として事業全体を再構築するサービスデザインを実践。コンセント Service Design division 担当役員、サービスデザイナーとして、大手企業をクライアントとした新規事業開発支援、製品・サービスのデザイン、開発フロー構築支援などを行う。また、武蔵野美術大学 デザイン・ラウンジとの共同プロジェクトや、生活者・行政・企業・クリエイターが参画する共創型のプロジェクト「子育てママ*リビングラボ」をはじめ、講演やワークショップ、寄稿を通じ、サービスデザインの普及・啓蒙活動、デザインによる社会的問題の解決に取り組んでいる。

[ 執筆者 ]

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事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

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