「はたらく人の創造性をひらくワークショップ」実施報告 小さな創造性を育むためには何が必要か?

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    佐藤 史デザインストラテジスト

コンセントは、創造性を育むプログラムが体験できるイベント「人事部門の新しい視点:はたらく人の創造性をひらくワークショップ」を2025年12月に開催しました。本記事ではそのレポートをお届けします。

メインビジュアル。街中での散策ワークや工作の様子など、イベントの様子を切り取った写真。

“小さな創造性”を育む社員研修プログラム

「サービスデザイン」「デザイン思考」「人間中心設計」などの学習を目的にしたデザイン教育は、事業創出や業務変革に取り組む多くの企業(行政機関も含みます)で実践されています。私自身もデザインストラテジストとして数多く携わっています。

一方で、デザインを学ぶことはビジネスインパクトのある成果創出だけではなく、例えば、社内向けの資料や掲示物をわかりやすくしたり、自分の作業場所を効率よく使えるよう整頓したりなど、日々の仕事でちょっとした創意工夫を発揮することにも役立ちます。

アメリカの心理学者のジェームス・C・カフマンによると、創造性(Creativity)とは、社会に影響を与えるような創造性である「Big-C」から、特定の専門分野などにおける創造性「Pro-C」、趣味や日常生活における工夫などにあたる「little-C」、そして、個人の成長や自己発見のような個人的な創造性「mini-C」に至るまで「4つのC」に分けて説明されており、先ほど書いた“ちょっとした創意工夫”はこの「little-C」と「mini-C」にあたります。ここではいったん“小さな創造性”とでも定義しておきましょうか。

※ 経済産業省、株式会社ロフトワーク「みんなで○○創造性 ~個人と組織の創造性を育むための20の事例と12のヒント集~」より。原典は、James C. Kaufman, and Ronald A. Beghetto. “Beyond Big and Little: The Four C Model of Creativity” Review of General Psychology 13.1 (2009)

日々の仕事や生活で気になったことがあれば、まず手を動かして試し、そこに自分なりの工夫を凝らす……。いつの頃からか私はこういう“小さな創造性”の発揮は、仕事の効率化・改善だけではなく、働く個人の主体性を引き出すことにもつながるのでは?と考えるようになりました。

「小さな創造性を育むことは、働く人の動機付けを促し、自己肯定感を高めることに役立つのでは?」「そのような社内研修のプログラムを、デザインの考え方をもとにしてつくれないだろうか?」

「人事部門の新しい視点:はたらく人の創造性をひらくワークショップ」は、このような問いをきっかけに企画しました。

「一人の生活者」としての価値に気付く

このイベントでは、「代官山の街を歩く人に喜ばれる新しいあかり(照明)を考える」というテーマのワークショップを実施し、参加者の皆さんには、街中でいろいろなものを観察し、そこでの気付きをもとにアイデアを考え、試作品をつくる過程を体験してもらいました。

会の冒頭で簡単な自己紹介をしてもらい、興味と関心が近そうな人同士で数名のグループをつくります。その後グループに分かれて代官山の街を散策し、目や耳を通して感じたことを自由に言語化してもらいました。

写真。参加者が代官山の街中でいろいろなものを観察している様子。

この散策ワークの狙いは、“小さな創造性”を発露させる第一歩として「一人の生活者」としての感覚を研ぎ澄ませることです。

私たちは、普段の仕事で何かに取り組む際、「言葉にできないけど何か惹かれる!」「どこか違和感を覚える……」「本当はこうした方が使いやすい(わかりやすい)のでは?」といった素朴な生活者としての感覚が活動の動機付けや意欲の源になっていることがあると思います。その視点を意識することは、自分自身の観察力や仮説生成力に対する自信を得ることにつながります。

散策中は企業人としての自分を意識しすぎると、ビジネスとしての困りごとや解決すべき課題を探そうとしがちになるため、課題(と感じたこと)に限らず、例えば「急な坂道が多い!」「この建物は民家?それとも何かの店?」など素朴に感じたこと・気付いたことは遠慮せず言葉にすること、そして、見るだけではなく、「開店前の居酒屋からいい匂いがする」「この交差点を越えると急に静かになった」など視覚情報以外の感覚も駆使することを呼びかけました。

このような素朴な気付きはアイデアを考える際に、参加者同士の対話や発想を促すことに生かされました。「ちょっとした自分の気付きがみんなの発想を引き出す役に立った」「他の人の感想を聞くことで自分にはない着眼点に気付けた」などの声が上がり、生活者としての自身の感覚を研ぎ澄ませることの意義に気付いていただけたと思います。

きれいさや完璧さを気にせず、手を動かす

散策後は会場に戻り、グループでワーク結果を振り返りました。そこで話された内容をもとに「こういうあかりをつくると喜ばれるのでは?」という視点で新しいアイデアを考えて、パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社が開発中のIoT照明試作機「ILLUMME(イリューム)」と紙や布などの工作材料を用いた試作品をつくりました。

写真。ワークシートにアイデアを記載する様子。「〇〇な人にor〇〇な時に」、「〇〇な気持ちになる・〇〇するあかり」の「〇〇」を埋めるようにアイデアを記載する。例えば「クリスマスを祝いたい時に」、「ツリーをバックに家族と写真を撮りたくなるあかり」など。

このアイデア出しと工作ワークの狙いは、“小さな創造性”を発揮するために、手を動かして自分たちの思考を外部化することです。

“思考を外部化”とは聞き慣れない言葉かもしれませんが、皆さんは普段の会議の場で、相手の話を理解していることを示したり、自分の考えを伝えたり、議論を整理するために、思わず室内のホワイトボードに「これってこういうことですよね?」と何かを描いてみせたことはないでしょうか?

このように思考を外部化(視覚化)する行動には、議論を促したり新しいアイデアの創発につながる効用があることは、例えば「デザイン思考」などビジネスでの活用を想定した方法論でもよく語られます。ただ、自分の考えをオモテに出すためには、何かを表現することへの苦手意識や抵抗を減らす必要があります。実際、私はデザイン思考の研修を実施する際に、参加者から「自分は図工や美術が苦手だけど……」という声をいただくことがよくあります。

その際に重要なことは、頭で考えるよりもまず手を動かしたくなる環境を準備することです。頭で考え出すとどうしても上手に・きれいに・完璧にやらねばという気持ちが先行して手が動かなくなり、思考を外部化することが難しくなります。

写真。ペーパークッション・手芸用の綿・テープ・紙コップ・アルミホイルなど様々な素材と、IoT試作機

参加者がきれいさや丁寧さを気にせず能動的に手を動かせるように、会場にはペーパークッションや手芸用の綿など手に取ってみたくなる楽しげな素材や、プログラミングの知識がなくても操作できるIoT試作機を準備しました。また、ワーク中は「話し合う過程で、まとまらなくなったり迷ったりしたときは、議論はそこそこで切り上げて早めに何かつくってみること」を促しました。机上ではなく作業しながら対話することには、その人の創意工夫を引き出すと同時にメンバー同士の建設的な対話を促す効果もあります。

写真。実際にIoT試作機を触ってみながら、参加者同士で対話する様子。

普段とは異なる環境で活動してみる

“小さな創造性”を育むために、生活者としての自身の価値に気付くことと、きれいさや完璧さを気にせず思考を外部化することの重要さを述べてきました。最後にもう一つ重要なことがあります。それは、普段とは異なる人間関係や環境のもとで活動してみることです。

これは私個人の仮説ですが、創造性(創意工夫も同様)は人が本来的にもつ能力であり、発揮することでより高められるものではないかと考えます。そして、組織においては、創造性が低いことが課題なのではなく、創造性を発揮する機会がないことが課題の根本要因になっている場面も往々にしてある気がします。ですので、創造性を育むには、自分がやりたい・つくっていて楽しいと思えることに向き合うこと、そして、そうした意欲を共有できそうなメンバーと共に取り組むことが大切です。

社会人である以上、自分がやりたいことをいつでもできる状況にいることは難しいですが、たまにでもよいので、自分がやりたいと思うことに能動的に取り組む経験をすることは、普段の仕事や人間関係の中だけでは発揮できない創造性を伸ばす機会になります。そのような機会を届けることもこのワークショップの狙いの一つです。

創意工夫を促すIoT試作機

ワークの中で、IoT照明試作機「ILLUMME」を用いた意図についても説明します。

まず、生活していれば誰でも毎日使うであろう「あかり」というテーマは、生活者としての自分を意識するきっかけになります。そして照明には、暗いところを照らすだけではなく、場の雰囲気を演出するなど感性的な役割をもつ側面もあるため、アイデアを形にする際には「ちょっと惹かれる」「つくって表現してみたい」と思わせる、参加者の創意工夫を促す効果があります。

「ILLUMME」は簡単なプログラミング言語で色や動きなど多彩な表現方法を探求できるので、表現することが苦手な人でも巧拙を気にせず楽しんで取り組めます。ワークショップ後には会場の照明を落として、各グループが考えたアイデア試作品を発表していただきましたが、その際、子どもの頃に学芸会や理科実験室で自分たちが創意工夫をもって何かに取り組んだ経験を思い出された参加者も、もしかしたらいたかもしれません。これは私の勝手な推測ですが(笑)。

写真。アイデア試作品にあかりを灯す様子。ビニールの中に青系の色に灯したIoT試作機をいれることで、青白い光が乱反射して見える。
写真。参加者の1人がアイデア試作品について発表する様子。
写真。アイデア試作品のひとつ。綿の中に赤系の色に灯したIoT試作機をいれることで、暖色の光が淡く光って見える。
写真。参加者の1人がアイデア試作品について発表する様子。

イベントを終えて

今回のイベントは、従業員の育成や教育に携わる部門の方、部署やチームを変えていきたいと感じている方、社会人のための新しい協働・対話の場づくりに取り組まれている方など多種多様な方に参加いただきました。終了後のアンケートと交流会の場では、他者と対話を重ねて一つの目的に取り組んだことへの達成感を感じたという趣旨の感想をいただきました。

参加者の声

  • 業務を進める中で忘れがちな「生活者としての視点」を取り戻すことができた。事業開発といった大きなことから、他者への依頼時といった日常にも、この視点を意識することが有効であると感じた。
  • 手を動かしながら試してみることの重要性を認識した。もともと想定していた以上のアウトプットが出てきたのもとても印象的で、最初から決めていたら、こうはなっていないだろうなと感じた。
  • 「自分からやらないと何にもならない」という主体的な部分を再確認できた。
  • ワークショップでは「小さな創造性と大きな創造性」というテーマが提示されたが、自社を含め世の中全体が「大きな創造性」に偏りがちである。今回の体験を通じ、モヤモヤを抱えながらも手を動かすプロセスの価値を実感した。

最後に私自身のことについて少し書かせていただきます。現在の私はシニア世代の真っ只中で、40代後半からは体力の衰えを痛感したり、周囲の環境が変化する中で年を重ねてもモチベーションをもって働き続けることの大変さを日々実感しています。たまにニュースなどのメディアで「リスキリング疲れ」「静かな退職」といった言葉を耳にするとひとごとではないと感じます。今回企画した“小さな創造性”を育むワークショッププログラムは、幅広い社会人を想定して今後も実施していきたいと考えていますが、特に私のようなシニア世代の皆さまが日々の仕事で前向きになれることのお役に立てればと感じています。

そして、このイベントで「ILLUMME」の利用を検討し許可していただいたパナソニック株式会社 エレクトリックワークス社および関係各社の皆さまにもここであらためて感謝を申し上げます。ありがとうございました。

[ 執筆者 ]

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