個人の暗黙知を組織の強みに変える社内研修プログラム コンセントデザインスクール10年の歩み(前編)
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コンセントには、コンセントデザインスクール(以下、CDS)という人材育成を目的とした研修プログラムがあります。個人の中にとどまり、属人化しがちなナレッジを発掘・編集し、これまで100以上のプログラムとして社内に提供してきました*。
2017年から運営を開始し、当初はオフライン開催を基本としていましたが、コロナ禍をきっかけにオンラインプログラム中心に移行。社会状況やニーズの変化に合わせて多様なプログラムを開発し、途切れることなく開催を続けて10年目を迎えました。
*2021年より社外に対してもプログラムの提供を開始。
今回はCDS運営部に所属する4人の座談会を通して、前編で社内のナレッジ発掘・開発のコツ、後編で研修プログラム運営のポイントについてひも解いていきます。
座談会参加者プロフィール
石井 真奈
プロデューサー、デジタルプロダクトディレクター
デジタルプロダクトや業務デザインのプロジェクト・ディレクションを得意とし、最近では顧客企業のデザイン組織支援にも活動範囲を拡大。顧客企業の特性に合わせたチームビルディングとマネジメントを行う。コンセント内ではマネジメント層・社員層の人材育成、心理的安全性の高いチームビルディング、業務プロセスのリデザインに取り組み、組織・社員のパフォーマンス向上に貢献。社内研修制度であるコンセントデザインスクールの責任者も務める。
工藤 好華
コミュニケーションデザイナー
東洋美術学校 クリエイティブデザイン学科卒。2015年に株式会社コンセントに入社し、大学案内や雑誌『オレンジページ』等のエディトリアルデザインに多く携わる。現在はコミュニケーションデザイナーとして紙メディア・ウェブ等のビジュアルデザインや、社内研修等のコンテンツ開発など、媒体問わずさまざまな課題に対応できるデザイナーとして従事している。
斎藤 広太
コミュニケーションデザイナー、アートディレクター
東洋美術学校卒業後、デザイン事務所を経てコンセントに入社。入社後は雑誌のエディトリアルデザインに携わり、その後、カタログや企業の広報ツール、サービスロゴ、営業ツール、大学の学部案内など、幅広い媒体のアートディレクションを担当。近年はUX/UIデザイン領域に活動の幅を広げ、サービスの体験設計やユーザー調査、アプリをはじめとするデジタルプロダクトの設計、サービスブランディングにも従事している。
佐野 実生
サービスデザイナー、インクルーシブデザイナー
2015年入社。ウェブサイトや紙媒体のデザイン・ディレクション・進行管理、自社の事業マネジメントに従事。現在はインクルーシブデザインアプローチを推進し、ウェブサイト・冊子・動画・ワークショップ・イベント・資料など、幅広い媒体のアクセシビリティ向上を実践している。また、それらの運用方針やガイドラインの策定を担当。
ナレッジは、課題や興味に隠れている
———これまで数多くのプログラムを開発してきたCDS運営部ですが、そもそも社内に埋もれているナレッジはどうやって見つけているのですか?
石井:ナレッジの起点になるのはコンセントメンバーが抱える課題や興味が中心なので、運営部は常にアンテナを立てて情報収集していますね。
斎藤:年に1回、社内に向けて業務の困りごとや知りたいことを募るアンケートを取ることもあります。
工藤:運営部自身が業務をする中で課題に感じたことも、ナレッジの起点になったりしていますね。
石井:課題だけではなく運営部がやりたい、やるべきと思った内発的な動機も大事にしています。また、運営部以外のコンセントメンバーが自ら「このナレッジを社内に広げたい」とアイデアを持ち込んでくれることも歓迎しています。
佐野:各自で見つけてきた課題やアイデアは、年始の会議で企画書のフォーマットに落とし込んで持ち寄ります。課題、興味関心、自身がやりたいもの、「この人に登壇してほしい」といった「人」を起点にしたものなど、毎年さまざまな角度から企画が集まっています。
企画書のフォーマット
年に1度の企画会議で運営メンバー各自が持ち寄った企画書をオンラインホワイトボードで見せ合っている様子。会議では似た内容のアイデアの集約や、採用・不採用などを検討する。
綿密な開発プロセスでプログラムを磨く
———年間で開催するプログラムの企画が決定した後、プログラムの中身はどのように開発していくのでしょうか?
石井:基本的には各企画を考えた運営部の担当者にプログラム開発のリードを任せています。
工藤:登壇者は企画のテーマに明るそうなコンセントメンバーに、開催の約2カ月前に打診します。発表用のスライドなど中身をつくるのは登壇者にお任せしていますが、プログラムのキックオフの際に企画で設定したプログラムの目的、ゴールをしっかり説明し、企画の軸がぶれないように依頼していますね。
佐野:進め方は人それぞれですが、まずは登壇者にスライドのもとになる骨子を制作してもらい、プログラムの大まかな内容を決めてから、本番用のスライド制作に移ってもらいます。基本は開発をリードする運営部がスライドの内容に対してフィードバックを行いますが、限られたメンバーでつくっていると客観視が難しくなってくるんですよね。
斎藤:そうそう。なので運営部全体で定期的に開催している朝会などでプログラム開発の進捗を共有して、客観的なフィードバックをもらうようにしています。
工藤:スライドが完成したら、そのプログラムのターゲットに近い属性のメンバーを招いてリハーサルを実施しています。そこで得た感想なども踏まえた上で内容を最終調整し、開催に臨みます。
聞き手だけでなく、話し手も成長する
———プログラム開発に当たって、CDS運営部として大切にしている姿勢などはありますか?
石井:CDSのコンテンツとして提供する以上、ネットで検索したり、書籍を読んだりして解決できるような一般論はプログラムとして出さないようにしています。というのもCDSの運営は会社の予算で実施しているので、一般論だったとしても、コンセントメンバーの実務に当てはめられるようにローカライズすることがこの研修制度の意義だと思っているからです。
佐野:そういう意味では、ただナレッジをまとめて紹介するプログラムにならないよう、「どんなターゲットに、何を伝えるのか」に何度も立ち返って内容を詰めていきますよね。
工藤:プログラム開発に集中すればするほど、細かい内容ばかりに目が行きがちですもんね。
佐野:最初につくった企画書はアイデアベースで粗い状態なので、さらに解像度を上げてプログラム化していくための企画書フォーマットがあるんです。そこで登壇者のゴールや参加者のゴールも言語化しています。
斎藤:僕はプログラムを聞いている人が飽きない工夫を心がけています。いくら学びになる内容だとしても、プログラム自体が単調だったり、聞いていて面白くなかったりするともったいない。だからプログラムの中にリズムをつくるようにしていて、視聴者に問いかける時間をつくったり、チャット機能を使ってコミュニケーションを促したり、どうしたら楽しく学んでもらえるかを考えています。
佐野:専門的なテーマのプログラムのときは、視聴者と同じ目線で登壇者と会話ができる、初心者代表的な聞き手に登場してもらうこともあります。
工藤:自分ごと化してもらえるような仕掛けは大事ですよね。


聞き手を招いて開催したプログラム
石井:前提として、コンテンツ発信に慣れていないメンバーがプログラムをつくることはとても大変なんです。なのでその苦労には報いたいんですよね。一生懸命つくったプログラムがよりたくさんの社員に届くように、踏み込んでフィードバックをしたり、楽しんでもらうための工夫を凝らしたりするのは、運営部として自然なことだと思います。
———プログラムへ登壇する社員にはどのようなメリットがあると思いますか?
石井:やはりその人の頭の中にしかなかったナレッジを、他のコンセントメンバーも再利用できる形で形式知にできることが一番大きいと思います。プログラムを通してナレッジを言語化した結果、それを共通の言語として部下や若手に業務を教えられたり、コミュニケーションを取ることができたり。
佐野:業務で困りごとが出てきたときにわざわざ有識者に声をかけなくても、プログラムのアーカイブを確認すれば解決できるようになるのは教える側、教わる側の双方にとってもありがたいことですよね。
石井:あとはやはり、登壇を通して「あの人ってこれが得意なんだ」といった気付きが社内に広まるので、本人の強みを周りにアピールできるのもメリットかなと思います。
ニーズに応える学びと、前のめりで届ける学び
———これまでに開催したプログラムの中で、特に印象深かったものを教えてください。
石井:「今日から始める働き方デザイン」は、コンセントメンバーの1人がワーク・ライフバランスコンサルタントの資格を取ったことがきっかけで始動したプログラムです。当時は働き方を見直す社会的な機運も今ほど高まっておらず、社内のルールや運用も現在ほど整っていない時期でした。勤怠管理は行っていたものの、業務負荷や時間配分の把握は十分ではなく、長時間働いてしまう社員も少なくない状況だったんです。そんな中、資格を取ったメンバーがトライアル的に社内の一部で働き方の改善を実践していて、より多くのメンバーに学びを還元するためにCDSでプログラム化することにしました。
資格を取得したメンバーが外部で学んできた内容は、そのままでは一般論に寄りやすいため、参加者が自分ごととして受け取れる形にすることを重視しました。運営部が編集の方針を示し、登壇者と一緒に内容を詰めながら、実際の業務や働き方に引き寄せた内容へと整え、トライアル参加者の声も盛り込んでいきました。


結果、このプログラムで紹介した業務の設計方法は、今のコンセント社内で定番化しているんです。
佐野:みんなやっていますよね。
石井:グループ会社からも再演の依頼が来たりと、CDSのプログラムをつくったことをきっかけに、それが社内外に広く波及してたくさんの人の業務改善に生かされていったのは、うれしい体験でしたね。
———これまでに100を超えるプログラムを開催していますが、テーマの多様性はどのように保っているのでしょうか。
工藤:社内の課題を解決するだけではなく、自分たちが面白い、価値があると思ったものをやっていくべきという話が運営部内で出てきたことがありましたよね。
斎藤:ベーシックなオンラインプログラムは、ある程度基本のナレッジがそろってきていましたからね。
佐野:話の発端としては、コロナ禍に入って弊社がフルリモート環境になったことです。開催にリアルな場所が不要になったことで、コンセントメンバー個人で開催する勉強会が急激に増えたんです。コロナ禍以前の社内勉強会はCDSくらいしかなかったので、存在意義が曖昧になりつつありました。
石井:加えて、オンラインプログラムは何か別の作業中に「ながら聞き」されることが多いので、しっかり学びに結びついているのかといった課題がありました。そこで、CDSではプログラム内でしっかり集中して学びを得て、業務の活力になるような体験を考えることになりました。
工藤:その中で私は「デザインの舞台裏」というプログラムを企画しました。オフラインで1つの会場に集まり、テーマに沿って選出された4名のプレイヤー(コンセントメンバー)が、運営側が出すお題に対して60分間デザインを行います。観客側はその間プレイヤーの思考・手腕を直接のぞき見ることができる、贅沢な企画です。初回のお題は「ロゴデザイン」でした。実演後は思考過程とアウトプットの発表と、質疑応答が行われます。
企画のきっかけは、コロナ禍が落ち着いてきた時に、リモートワークの影響で社員間のコミュニケーションが不足している課題があったことです。石井さんが言っていたようにプログラム内でしっかり集中して学びを得てもらうためには、オンラインプログラムありきだった学びの体験自体を変える必要がありました。
私はコミュニケーションデザイナーということもあり、クリエイティブに寄った企画をつくりたかったんです。なぜこの企画をやるのか、聞き手にどう感じてほしいかなどの軸を検討することに悩みましたが、最終的に聞き手が「デザインをしたくなったか」どうかを指標に設定しました。自分の中に火がついたり、焦りを感じたり、どのようなきっかけでもデザインに対するモチベーションが上がるプログラムになるよう、内容を詰めていきました。結果、開催後のアンケートも好評で、「ウェブデザイン」「企画」などさまざまなテーマで続編も開催しています。
佐野:私は「初訪RPG」を企画しました。コンセントではお仕事に関するお問い合わせが来た際、クライアントから直接オリエテーションを受けたり、コンセントから与件のヒアリングを行ったりする初動対応を「初訪」と呼んでいます。初訪は年次を問わず皆で対応するのが方針なので、若手も議事録担当として参加することが多いんです。でも初訪は一発本番なので、ある程度回数を重ねてその場の雰囲気に慣れてきたとしても、いきなり発言したり、リードを担当したりするのは難しいのが現実でした。
そこで、ロールプレイング形式で練習できる場をCDSでつくることにしました。初訪メンバー役だけでなく、クライアント役も募るので、実践に近い形で練習することができます。運営部で設定したお問い合わせのテーマに沿って、2チームに分かれて同時に初訪のロールプレイを実施し、終了後にお互いの手法を共有することでより学びを深められるようにしています。開催後は直後だけでなく3カ月後にも参加者にアンケートを取るようにしていて、「初訪RPGで必要だと学んだ事前準備を、本番の初訪でも生かすことができた」といった声をもらったときは、うれしかったですね。


初訪RPGの様子はでも紹介している。
斎藤:オフラインではありませんが、運営部の内発的な動機から生まれた企画として、「CDS X WORD(クロスワード)」というプログラムがあります。プログラム化のきっかけは運営部の若手が「ラジオのようなコンテンツをつくりたい」と言ってくれたことでした。もちろんCDSとして意義のあるプログラムに磨く必要があったので、当人にコンセプトや開催形式、クリエイティブなどを考えてもらい、僕が壁打ちする形で内容を詰めていきました。
最終的にたどり着いたコンセプトは、「社会人になってからもらった、忘れられない一言」です。企画内容を詰めるに当たって社内でアンケートを募ったところ、「自分の中で、あの人のこの言葉が刺さった」みたいなエピソードが30〜40個くらい集まったんです。そこで、それらの言葉を言った人、言われた人のペアでエピソードを話してもらうラジオコンテンツを、月に2回程度、30分で開催することになりました。刺さった言葉が他のコンセントメンバーにも広がることで業務の活力になりますし、メンバー同士の会話を聞くことで、一緒に働いている人のことをより知れる機会にもなる。リスナーにはチャット機能でコメントや感想を自由に書き込んでもらっているのですが、毎回すごく盛り上がっていて、楽しんでもらえているのを感じています。
形式知が個人を、組織を強くする
———CDSはコンセント社内にどのような効果をもたらしていると思いますか?
石井:CDSは、コンセントの公式な研修制度として、コンセントメンバーが押さえておくべき知見を共有し、発表者と参加者が互いに学び合える仕組みです。現場の暗黙知を形式知化し、後から参照・再利用できる形で蓄積していけるので、業務効率の向上にもつながっています。
また、初訪RPGのように、実際の現場に入る前に実践に近い形で学べるのも大きな特徴です。実務や座学だけでは得づらい学びを補える環境になっていると思います。
佐野:部署配属されたばかりの新入社員が、手が空いたときにアーカイブを学習用コンテンツとして使ってくれているのも良いですよね。
工藤:近頃は世の中や社内の状況がどんどん変化していて、学ばなきゃいけないこともどんどん増えていると思います。そんな中でも、CDSを見れば取り残されずに追いつける。その助けになっている感覚はありますね。
斎藤:社内のタレント発掘にもつながっていますよね。「このケーパビリティを話せる人がいる」ということがCDSを通してわかると、クライアントワークでの抜擢につながり、最終的にメンバー個人が組織に貢献する機会をつくることもできていると思います。
組織からの評価
CDSは、社内に偏在していたさまざまなナレッジを収集し、再編集・展開する、いわばコンセントが独自に生み出したTEDカンファレンス*のような「知の共有システム」と言える。ここで可視化された知は、紛れもなくコンセントの貴重な財産となっている。
さらに、まだ自身の経験やナレッジについて語ったことのない社員にとっては、それらを棚卸しし、発表する機会にもなる。同時に、こうした場を運営するノウハウも社内に蓄積されていく。一石何鳥もの効果をもたらす、実に優れた仕組みである。情報のデザインに長年取り組んできたコンセントだからこそ生み出せたものだと、手前味噌ながら誇らしく思っている。
CDSは、もともとトップダウンで計画されたものではなく、社内におけるゲリラ的な活動から生まれた仕組みだった。その成り立ちゆえに、そこで扱われるのは網羅的に設計された「社内研修」ではなく、CDS運営部が選び取った「いま熱い知」である。CDSには、そうしたブリコラージュ的な息吹が今も根付いている。そして、この「勝手にやる文化」こそが、実はコンセントにとって真に重要な価値観なのだと思っている。
(代表取締役社長 長谷川 敦士)
*TEDカンファレンス:「Ideas worth spreading(広める価値のあるアイデア)」を掲げ、アイデアを共有・展開する知のシステム(情報アーキテクチャ)として、インフォメーションアーキテクトの先駆者であるRichard Saul Wurmanが創設した世界的なカンファレンス。現在では、独立した地域コミュニティによって企画・運営される「TEDx」も世界各地で開催されている。