「つくる」から「伝える」へ デザイナーが教育現場に立って見えたもの[前編]
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「つくる」ことを越えた先で、デザインの経験で培った力にはどんな可能性があるのでしょうか。
本記事は、成女高等学校様(以下、成女高等学校)の「表現プログラム デザインクラス」で講師を務めた高石有美子と中西麻実の対談です。授業での取り組みや生徒たちの変化、自身の気付きを振り返りながら、デザインが社会に提案できる価値と、デザイナーの次の活躍の可能性について語ります。
前編では、授業づくりの背景や、生徒たちが伝える力を育んでいく過程を紹介します。後編は『ひらくデザイン|「つくる」から「伝える」へ デザイナーが教育現場に立って見えたもの[後編]』をご覧ください。
コンセントでは、成女高等学校の普通科選択授業「表現プログラム デザインクラス」において、デザインの授業づくりと講師を担当しています。
この取り組みは2022年にスタートし、現在で5年目(2026年7月時点)。年間で約20回の授業を継続して実施しています。
対談者プロフィール
高石有美子
サービスデザイナー/アートディレクター
エディトリアルデザイナーとして多様な媒体を手がけたのち、サービスデザイナーに転身。本プロジェクトには発足時から参加し、授業設計と初年度以降2年間のメイン講師を担当した。
中西麻実
コミュニケーションデザイナー/アートディレクター
印刷媒体を中心に、ディレクションとデザインに携わる。本プロジェクトには、育児休暇から復帰した2024年度から参加し、2025年度からメイン講師を務めている。
「答えのないこと」に向き合う力を育てたい
━━お二人は、どのようなきっかけでこのプロジェクトに関わることになったのでしょうか。
高石:成女高等学校から「普通科の授業の中でデザインを教えたい」というご相談をいただいたのが始まりです。コンセントとしても、普通科の年間授業としてデザインを教える機会はそれまでなかったので、「ぜひやらせていただきたい」と手を挙げ、他のメンバーと一緒に立ち上げていきました。
このプロジェクトは、現在コンセントで取り組んでいる「学びのデザイン」という活動が本格的に立ち上がる以前から始まっていたものです。
中西:私は育児休暇から復帰してすぐの頃に、社内で開かれたプロジェクト報告会に参加したのがきっかけでした。ちょうど2023年度の授業が終わり、次年度に向けて動き出すタイミングで、高石さんたちから「興味のある人がいれば参加してほしい」という話がありました。それを聞いて立候補したんです。
━━もともと教育への関心があったのですか。
高石:私は以前から教育という分野に関心がありました。2013年ごろサービスデザインチームへ異動したのですが、その頃から教育系のイベントに足を運んだり、本を読んだりしながら、自分なりに関われる機会を探していました。
当時は、社内でもまだ「デザイン教育」が今ほど盛んではありませんでした。でも、2020年ごろに学習指導要領が大きく変わり、探究や総合型学習のように「答えのないこと」に向き合う力が重視されるようになってきた。そのときに、これは普段私たちがデザインの仕事でやっていることそのものなのではないかと思ったんです。
何をどう教えられるかはまだはっきり見えていませんでしたが、7、8年ほど関心をもち続けていたところに、ちょうどチャンスがやってきたという感覚でした。
中西:私は、このプロジェクト以前に教科書の紙面デザインの仕事を担当したことがあり、それが教育に関心をもつきっかけになっていました。
さらに出産を経て母親になったことで、「やっぱりそういうことができたらいいな」という思いが強くなっていた時期でもありました。そこにこの話を聞いたので、あまり迷わず「やりたい」と思えたのだと思います。
━━中西さんは、すでに始まっていたプロジェクトに途中から参加する形だったのですね。
中西:はい。高石さんたちが2年間かけて授業をつくり、運営してきたところに、私は講師として参画する形でした。ゼロから授業を組み立てるのではなく、積み上げられてきたものを見せてもらいながら進められたので、心理的にも実際の稼働面でも負担は少なかったです。
また、このプロジェクトには、他にも同じように子育て中のメンバーがいました。授業は必ず現地に行く必要があり、簡単に別日に振り替えられるものではありません。だからこそ、チームで助け合いながらカバーできる体制があったことは、続けていく上でとても大きかったと思います。
━━授業を設計する上で、特に大切にしていたことは何ですか。
高石:実際の授業で扱っているのは、「かっこいいチラシのつくり方」のようなことではありません。私たちデザイナーが普段行っている考え方やプロセスそのものが、社会の中で役に立つのではないか。そんな思いがありました。
だから最初の授業ではいつも、「デザインは見た目を整えることだけではなく、機能させること」だと伝えています。自分がつくりたいものをつくるだけでは、自己表現で終わってしまう。誰かの伝えたいことをよりよく届け、その先の人にきちんと機能するものにすることが大事だと考えています。
中西:高校生にとって、デザインは「飾ること」や「見た目を良くすること」と捉えられがちです。でも、そうではなく「設計すること」なんだよ、という話は最初に必ずします。
このクラスで身に付けてほしいのは、相手の立場に立って考え、理解する力と、伝えたいことをわかりやすく、魅力的に表現する力です。ビジュアルと言葉を使って、自分や誰かの伝えたいことを届けられるようになる。そのためにも、「相手の立場に立つ」ことはとても重要だと思っています。
━━具体的には、どのように授業に落とし込んでいるのでしょうか。
高石:この授業では、目的を意識することをとても大事にしています。最初からアウトプットが上手かどうかは、あまり重要ではありません。つくり続けるうちに上達していくものですし、最初はうまくいかなくて当然です。
それよりも大事なのは、「自分は何をどうしたいのか」という意図をもつこと。何かをつくるときには、まずそれを決めてもらい、言葉にしてもらいます。デザインはコミュニケーションなので、意図を言語化することはかなり徹底しています。
課題ごとに用意したフォーマット。生徒に制作意図を整理してもらう際に、また発表にも活用した。出典|高校生に向けたデザイン教育 成女高等学校表現プログラムデザインクラス
中西:ポスター制作でも、「何を伝えたいのか」「どう表したいのか」を考えるところから始めます。生徒同士で擦り合わせる時間は限られていますが、その分、中間段階での講師レビューは多く設けています。
ラフを見ながら、「この先どう進めるか」「こうしたらもっと伝わるのでは」と一緒に確認していく。作品制作に入ってからも、そうしたレビューを重ねながら進めています。
高石:もちろん、つくる楽しさや、少しかっこよくできたり、かわいくできたりしたときの喜びは大切にしたいと思っています。でも、見た目だけが良ければいいわけではないことを、何より知ってほしい。
デザインは社会的な行為だと思います。自分の思いや表現を外に出すだけではなく、それが届いた先でどう機能し、どんな関係性や影響を生むのかまで考えるものです。
これから進学したり、働いたりして社会に出ていく中で、「伝えるにはどうしたらいいか」を考え、自分なりの仮説をもち、形にして、ブラッシュアップしていく。その力を身に付けてほしいと思いながら、授業を組み立てています。
「どうしたら伝わるか」へ視点が変わる瞬間
━━授業をしている中で、生徒に「デザインが届いた」と感じた瞬間があれば教えてください。
高石:印象に残っているのは、作品はとても素敵につくるのに、人前で発表することが苦手な生徒です。学校説明会で「代表として発表してくれない?」とお願いすると、泣いてしまうほど恥ずかしがるような子でした。
その生徒が3学期の自由作品でもってきたのが、お菓子のパッケージのリデザインでした。シリーズ商品の中で、ある味だけデザインのトーンが違うことに気付いて、「かわいそうだから、シリーズとして整えたい」と言ったんです。
そこから、他の商品を見ながら必要な要素を一緒に整理していきました。本人も、イラストを描いたり、写真を撮ったり、袋の形を再現する方法を考えたりして、冬休みの間にどんどん具体化していきました。
完成した作品は、「これ本物じゃないの?」と言われるくらいの仕上がりでした。何より印象的だったのは、発表の場で、自分が考えたことをすらすら話せるようになっていたことです。
ステージ発表の様子。授業での学びの成果を生かし、しっかりと自分の言葉で制作意図を発表できていた。出典|高校生に向けたデザイン教育 成女高等学校表現プログラムデザインクラス
中西:私が印象に残っているのは、美術系への進学を志望していた生徒です。普段はとても口数が少なく、自分の考えを言葉にすることはあまり得意ではない印象でした。でも、作品をつくらせると力があって、とても粘り強いんです。
最後の作品では、普段なかなか美術館に行けない人に向けて、「生活の中にアートを取り入れる」ことを伝える冊子をつくりました。その子は美術の予備校にも通っていて、そこで学んでいた平面構成の知識と、授業で伝えていた編集や構造、世界観の考え方が結びついた瞬間があったように思います。
紙面のリズムをつくるだけでなく、読む順番をどうするか、どうすれば伝わるか、どんな見出しが必要か。そういうことを、自分の中でどんどん習得していっていました。態度だけでは見えにくいけれど、この授業への熱意が制作の中に表れていました。
すぐには見えない変化を、信じて待つこと
━━そうした生徒の様子を見て、講師としてどのような気付きがありましたか。
高石:発表を頼むだけで泣いてしまっていた子が、自分で見つけたテーマをもとに人へ考えを伝え、評価を受けて自信をつけていく。その変化を目の当たりにして、「自分がやりたいこと」を媒介にすると、人はこんなふうに変わっていくのだと感じました。
もちろん、毎年必ずそういう劇的な変化が起こるわけではありません。でも、続けていく中で、どこかの段階で自分の強みが見えたり、「自分にもこういうやり方ができるんだ」と思えたりする瞬間がある。そういう変化が本当に起こり得るのだと実感できたことは、とても大きかったです。
デザインを学ぶことは、単に技術を身に付けることではなくて、自分の中にあるものをどう人に伝えるかを考えることでもあるんですよね。自分の興味や違和感を出発点にしながら、それを誰かに届く形へ変えていく。その経験が、自分自身を理解したり、自信をもったりすることにもつながっていくのだと思います。
中西:私が見ていた生徒も、最初は内向的に見えるところがありました。でも、他の生徒に比べて早い段階で、強い主観から「社会との接続」へ視点を移せていたんです。
自分がつくりたいものをつくるだけではなく、「どうしたら相手に伝わるか」を考えながら、制作を通して「自分はこう考えた」「こう伝えたい」と言えるようになっていく。デザインは、そこに視点を移さないと成立しないものだと思うので、その切り替えが見えたことが印象的でした。
ただ、それはすぐに結果が出るものではないですよね。授業の中で何かが一気に変わるというより、時間をかけて本人の中で少しずつ結びついていく。授業で伝えたことが、その場で全部見える形になるとは限らない。授業での経験を通して「教えることは、待つことなんだな」と実感しました。
高石:そう思います。私はもともと「すぐに結果を出すべき」という即時性を求めるのがあまり得意ではなくて、この授業もそういうものではないと思っています。
デザインは、例えば10年後や30年後に誰かがふと思い出してくれるかもしれない、いつか何かの役に立つかもしれない、そう考えながら続けていくことに意味があるように思います。
目の前の作品がうまくできたかどうかだけではなく、自分の中にあるものを見つめ、それを人に伝わる形にしてみる。その経験が、生徒たちの中に少しずつ残っていくことが、この授業の価値なのかもしれません。
写真/小島沙緒理
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