利用者視点を行政に根づかせるために
デジタル庁は、行政職員が「利用者視点」に立ったサービスづくりを実践できるよう支援するため、「行政サービスにおける利用者視点ガイドブック」を公開しました。
本ガイドブックは、行政サービスのあらゆるプロセスに「利用者中心の視点」を組み込むための、実践的な手引きとして位置づけられています。
コンセントはこのプロジェクトにおいて、ガイドブックの編集・デザインを担当しました。
- ドキュメント・スライド
- メディア・コンテンツ開発
- クリエイティブ開発
[ プロジェクトのポイント ]
- 読者像を具体化するワークショップ設計と実施
- プロトタイプ検証を重ねることでコンテンツを改善
- 丁寧な取材で現場の実践知を記事化
プロジェクトの背景
本プロジェクトの背景は、ガイドブックの『はじめに』で次のように示されています。
(前略)行政サービスにおける従来の IT 導入では、「提供者」である行政側の視点を重視したものが多く、必ずしも「利用者」となる住民や事業者にとって利便性が高いサービスにはなっていませんでした。その結果、(中略)利用者数や利用満足度の低迷など、行政側が想定していた効果や成果を十分に実現していないサービスも存在していました。
このような課題を解決するために、デジタル庁では、設立当初から、「提供者視点」だけでなく、「利用者視点」に基づく法制度の見直し、業務改革、システム開発を通じて、「利用者視点」の行政サービスづくりに取り組んできました。行政サービスにおける「利用者視点」とは、サービスの企画、設計、開発、提供、運用のあらゆる段階において、サービスの利用者(住民、事業者、行政職員など、サービスを使う人)にとっての利便性や使いやすさなど、利用時やその前後の体験を最優先し、実際の利用者の声や行動を起点として改善や改革を進めていく考え方やアプローチです。
(中略)
本ガイドブックは、行政機関において行政サービスの企画、設計、提供、運用を行う方々を読者として想定し、「利用者視点」が必要な理由、事例や成果、具体的な手法やツール、デジタル社会推進標準ガイドライン群の各文書を紹介するものです。
(出典:デジタル庁「行政サービスにおける利用者視点導入ガイドブック」はじめに)
2018年頃から、行政分野におけるサービスデザインの推進に向けて、調査研究やデザイン人材の育成、実践ガイドラインの作成などに取り組んできたコンセントが、デジタル庁より一般競争入札として募集された「令和6年度行政におけるサービスデザインプロセスの調査研究」の委託事業者に採択され、株式会社Rockakuと協働して編集およびデザインを担当しました。
問題解決までのアプローチ
本プロジェクトは、利用者視点に基づいたプロセスで進行し、特に以下の3つの観点を重視して取り組みました。
1. 読者像をより具体的にする
ガイドブックの内容を実践的かつ読者に届くものにするためには、行政職員である読者のイメージをより具体的に描くことが重要です。コンセントはこの観点から、読者像をより具体的にするワークショップの設計とファシリテーションを担当しました。
このプロセスでは、いくつかの工夫を施しています。参加者が記入しやすく、直感的に人物像を把握できるよう、似顔絵や課題を記入できるペルソナカードを用意しました。
また、参加者が「今すぐできること」と「将来的な理想像」の両方をイメージしやすくするために、中長期的な変化と短期的な変化を分けて整理し、得票数などの定量的な視点も交えて可視化していきました。読者の「知りたいこと」や「困りごと」を丁寧に拾い上げ、議論が具体的かつ実践的になるようなワークショップの設計を心掛けています。
参加者が記入した膨大なペルソナカードをホワイトボード一面に張り出して、読者になるユーザーやステークホルダーを洗い出し、分類する様子。
ホワイトボードに貼られた付箋を整理しながら、読者にどのような変化を生み出したいかをブレストしながら議論する様。
2. 丁寧な取材に基づいたリアルな実践知の可視化
読者が「利用者視点」の実践を具体的にイメージできるようにするため、事例紹介記事の制作において、デジタル庁と協議しつつ、担当者へのインタビュー記事の構成検討、質問設計、インタビュー後の編集、ライティングを行いました。
特にインタビューの質問設計において、本人の言葉を引き出し、役割を柔軟に聞けるように設計。課題と成果に関する質問では、変化や実感を伴うエピソードを聞き、「利用者視点」を取り入れた取り組みの意義を明確にしました。さらに、今後利用者視点に取り組む行政職員へのメッセージを求めることで、記事の実用性と価値を高めるなどの工夫を施しています。
実践知をまとめた事例紹介ページの構成。サービスの全体像から直面した課題、それに対する解決のポイント、そして現場の声へと段階的に構成することで、読者が内容を理解しやすく、納得感を持って読み進められるようにしている。
3. 試作による検証とブラッシュアップ
構成案は、オンラインホワイトボードを活用して試作を迅速に作成し、それをたたき台にデジタル庁担当者と対話し改善を繰り返すことで、コンテンツの精度を高めるようにしました。
また作成したガイドブックのプロトタイプは、実際の行政職員の方にも試読していただき、寄せられたフィードバックをもとに、内容や表現をブラッシュアップしました。こうした現場の声に基づく改善を重ねることで、より実務に根ざした構成・内容へと磨き上げています。
構成の検討にはオンラインホワイトボード(FigJam)を活用。章ごとにガイドブックのすべてのページを貼り、ガイドブック全体の構成を俯瞰しながら検討を進めた。
行政職員に試読を依頼したプロトタイプの全ページの様子。
クリエイティブのポイント
本ガイドブックでは、利用者視点を誰もが理解し、実践できるようにするためのクリエイティブを心がけました。以下の観点を軸に、納得と実践を促す工夫を取り入れています。
第1章ではなぜ今あらためて利用者視点が必要なのかを、リスクや課題も交えながら、ストーリーとして納得感を持って伝える構成と内容へとブラッシュアップを重ねました。
またインタビュー記事から行政職員のコメントを抜粋し、利用者視点を端的に実践するためのヒントを把握できるページを提案しました。コメントを読むことで、職員が利用者の立場に立って考えるきっかけとなり、改善の方向性を具体的に描きやすくなることを意図しています。
第一章の構成。利用者視点でないサービスのリスクについても掲載し、利用者視点の導入について読者の共感を得られるような流れにしている。
インタビュー記事から行政職員のコメントを抜粋した利用者視点を実践するためのヒントのページ。
複数の媒体(冊子・PDF・ウェブサイト)で展開
このガイドブックが、行政職員の利用者視点への理解と実践につながることを願っています。
[ プロジェクト概要 ]
| クライアント名 | デジタル庁 様 |
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