新たなビジュアル言語「全天球動画」による情報体験

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  • 渡邊徹

デザイナーの渡邊です。
今回は、全天球コンテンツづくりを通して見えてきた「全天球動画の価値」についてご紹介したいと思います。

最近、企業広告や企画展のイベント会場でよく見かけるようになってきた「全天球動画」。明治エッセル スーパーカップの販促イベントや、レッドブルのモトクロスVR体験イベントで全天球動画コンテンツが使われていたり、また上野の森美術館での企画展『進撃の巨人展』(http://www.kyojinten.jp/ 2014年11月~2015年1月開催予定)でも、Oculus Rift(ヘッドマウントディスプレイ)を使った全天球体験ができるようなコンテンツが見られるようになってきました。

僕自身は会社では主に紙もののデザインをしています。とは言え紙以外をやらないというわけではなく、コミュニケーションを生むものであれば何でもデザインできる、というスタンスでデザインをしています。
たとえば、3Dプリンターなど一般の人にとっては新しい技術や、新しいビジュアル表現言語(全天球動画、3Dなど)と向き合うときには、その技術に触れたことがない人の視点から「このガジェットや技術を楽しむにはどうしたらいいんだろう」と考えたり、「どうしたらユーザーにこの表現の魅力を伝えられるだろうか、ユーザーに楽しんで使ってもらえるだろうか」といったことを常に考えています。

考え始めるきっかけになったのは、理化学研究所の藤井直敬先生のSRシステム(Substitutional Reality System:代替現実システム)(http://srlab.jp/about)の立ち上げプロジェクトに関わったことです。そこで「全天球動画」に出会い、これまでにない新たな情報体験としての魅力や可能性に夢中になり、その魅力や価値をコンセントラボやサストコで記事を書いていたのがきっかけで、さまざまな業界の方から声をかけていただき、いくつかのプロジェクトでコンテンツづくりにも携わるようになりました。

全天球動画の何が新しいのか?


渋谷 スクランブル交差点


全天球動画をまだ見たことがない方は、こちらのWebサイトでサンプルを見ることができます。
http://www.kolor.com/360-video/coupe-icare-2013(KOLOR 360-DEGREE VIDEO SOLUTIONS)

ご覧いただけるとわかるのですが、全天球動画は、360度、天地前後左右のパノラマ動画の中に入って見回すことができるという、「新しいビジュアル言語」です。どのあたりが新しいのかというと、「見る場所=視点」を自分で決めることができるところです。

技術的な側面では、これまではステッチ(つなげる作業)して全天球で見ることができる状態にするまで、一苦労どころではなく専門知識がないとできないことでした。それがソフトウェアで比較的簡単に360度の動画がつくれるようになったんです。つまり、技術が一般の人のところにおりてきたということです。もちろん、映像表現として踏み込むには技術が必要です。
近い将来、Instagram(画像共有アプリ)やYouTube(動画共有サービス)のようにシェアすることも簡単で、お手軽にどこでも全天球動画を楽しむことができるようになってくると思います。

「フィジカル」であることが、体験の意味を変える


全天球動画の体験自体はパソコンでもできます。ただ、それはあくまで画面と向き合っているものとしての「従来の映像体験の延長」です。

全天球動画の真価を発揮するのは、頭につけて使用するHMD(ヘッドマウントディスプレイ)の『Oculus Rift』や『ハコスコ』といったデバイスを使っての映像体験です。自分の頭を動かして「フィジカルに体験」することによって映像体験の意味が変わってきます。

普通の映像体験では一側面的にしか見えなかったものが、映像の「中に入る」ことによってそこに自分自身が存在し、前後左右や裏側を含め、映像が構造化して見えてきます。3D空間でキャラクター操作を行う箱庭ゲーム空間体験の習熟(空間内でのモノの配置を身体感覚に結びつけて考えられる)のように映像体験をすることができるんです。

実際にその場にいた人と同じくらいの、状況を理解させる力が、全天球動画にはあります。そして、一部始終を目の当たりにすることによって情報と主観的に向かい合うことができ、自分自身で物事を見比べて判断することができます。複数のニュースを眺めて物事を多角的に考察するのに似ていると思います。

『ハコスコ』はカジュアルHMDです。全天球動画による仮想現実空間を、手軽に体験できるVR(仮想現実)プラットフォームです。『ハコスコ』本体とお手持ちのスマートフォンで体験できます。「ハコスコでの映像体験はどんな感じだろう?」と思われた方は、YouTubeに体験動画を公開していますのでそちらもぜひ見てみてください。『ハコスコ』公式サイト(http://hacosco.com/)にも掲載されているこの体験動画は、コンセントのメンバーにも撮影協力してもらい作成しました。

ハコスコ体験動画
https://www.youtube.com/watch?v=sTrrc4TX3ww#t=12

全天球動画でできる体験


前述しましたが、全天球動画は視点を自分で決める=見ている人それぞれに視点が委ねられるため、「共通の体験になりにくい」という側面もあります。でもそれは「みんな違う体験ができる」とも言えます。

たとえば、ブルータルオーケストラ Vampillia(www.vampillia.com/)のライブのコンテンツをつくらせていただいたのですが、楽器をやっている人だったら自分の好きなパートの部分だけを見ることも可能です。ドラマーだったらドラムだけを、ギターリストならギターのパートだけをずっと見続けるというように。
撮影者の視点をたどるのではなく、どこを見るのかを見る人自身で視点をコントロールできるわけです。

Vampillia - Endress Summer @渋谷WWW いいにおいのする夏の無料の大感謝祭 【ハコスコアプリ収録】


また花火大会を撮影したコンテンツでは、フィジカルな体験を伴った気持ちのいい動画体験ができます。この花火大会は海沿いで行われたため、打ち上げ場所の横幅も広く、花火の動きを頭を動かして追わないと見れないくらい広い視野角の動画になりました。花火を追って見ることで、スケール感も感じながら花火大会を体験することができるんです。

ぎおん柏崎まつり 海の大花火大会 2014年7/26(土)新潟県柏崎市 中央海岸一帯 【ハコスコアプリ収録】


全天球動画と情報体験


「何はともあれモノは試しながらつくらねば」というスタンスで、全天球動画を初めて体験して以来、さまざまな場所で撮影をしてきた中で見えてきた体験の価値についてご紹介させていただきました。あらためてまとめると、

全天球動画の体験価値
  • 同じ映像なのに毎回違うところを見るという楽しみ方ができる。
  • 「共通の体験になりにくい」を言い換えると「みんな違う体験ができる」。
  • フィジカルを伴った気持ちのいい動画体験ができる。

の3つが実感していることです。

特に3つ目に挙げた「フィジカルを伴った気持ちのいい動画体験」は、ウェアラブルの文脈での情報体験を考える上で、非常に重要なポイントになってくるでしょう。

今後ますます、情報は世の中に溢れてきます。その大量の情報と出会うポイントがフィジカルな動作と合ってくると、腑に落ちるのではと考えています。たとえば目の動き、顔の動き、腕の動作などに合わせた自然な情報の出し方や在り方。そういうことを考えてつくっていくことが必要です。



9月に開催された世界最大級のマーケティングカンファレンス「ad:tech Tokyo 2014」やミュージックフェスティバル「THE BIG PARADE」でも、制作した全天球動画コンテンツのVR体験会を実施したり、『日経産業新聞』や『月刊MdN』に取材協力させていただいたりと、全天球動画への関心が高まりつつあることを日増しに実感しています。

今後も、いろいろな方とコラボレーションしながら、全天球動画の体験価値について探っていきます。

[ 執筆者 ]

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