課題解決を起点に「刺さる」コンテンツをつくる 『人の心を動かすコンテンツメイキングの基本』
- コミュニケーションデザイン
- コンテンツデザイン
コンセント社員の人材育成を目的として開催されている社内研修制度「コンセントデザインスクール」。今回は私、クリエイティブディレクター/コンテンツディレクターの荒尾彩子が『人の心を動かすコンテンツメイキングの基本』というプログラムを実施しましたので、その内容をお届けします。
本記事は、ワークの具体例として、電車広告がSNS上で話題となり多数のメディアに掲載された
様(以下、神戸女学院大学)のブランディングプロジェクトでコンセントが社内で行った、実プロジェクトでのフローを題材にしています。※実際のプロジェクトとは異なります。神戸女学院大学の許可を得て題材としています。
デザイン会社がつくった研修制度「コンセントデザインスクール」
目次
- 1.人の心を動かすコンテンツ企画のフレームワーク
- 2.課題解決を起点にコンテンツの方針をつくる
- 3.企画の材料になる、企業の価値とターゲットのニーズをさぐる
- 4.ターゲットのニーズと企業の伝えたい情報をストーリーでつなぐ
1. 人の心を動かすコンテンツ企画のフレームワーク
今日の情報環境では、伝えたい情報を発信しても読まれずに素通りされてしまうコンテンツが膨大にあります。では、どのように情報を届ければ、ターゲットにささり心を動かすコンテンツをつくることができるのでしょうか。人の心を動かすコンテンツづくりのためには、多角的な情報をインプットして整理し、方針としてまとめあげるスキルと、方針をもとに効果的な表現に導く技術が必要です。本研修では、そのコンテンツづくりの思考過程を分解し、誰でも取り組める、シンプルな手順に落としたフレームワークに沿って、受講者それぞれが企画立案をするワークを行いました。
2. 課題解決を起点にコンテンツの方針をつくる
コンセントが行うコンテンツ開発は、課題解決を起点に行われます。
例えば、ブランドイメージを上げたい、売上を上げたい、会員数を伸ばしたい、など、
その企業のビジネスゴールの達成に寄与するコンテンツでなくては、コンテンツをつくる意味がありません。
この記事では、具体例として神戸女学院大学のブランディングプロジェクトの際の、「課題」と「コンテンツ方針」のつくり方を、研修のフレームワークにそって説明していきます。
まず、コンテンツ方針を決めていきます。上記は、コンテンツ方針をたてるために押さえておくべきポイントをシンプルに集約したワークシートです。
主に、下記の2つのポイントを検討して方針を立てていきます。
- 企業の課題を整理し、コンテンツで解決したい課題を明確にする。
- 課題解決のために「誰を」「どのように動かすか」望ましい変化を決める。
以上を決めることが重要ですが、そのままだと考えづらいかもしれません。それぞれを決める前に、検討を掘り下げるヒントシートを用意したので、それを使って検討を進めていきます。
上記は「企業の課題」を掘り下げるためのヒントシートです。
既存の媒体の課題 → 企業の部署の課題 → 企業の課題 → 業界がかかえている課題、のように、課題発見のフィールドを広げて考えることで、根深く重要度の高い課題の背景を理解しやすくします。
上記は、「ターゲットと起こしたい変化を決める」ためのヒントシートです。この段階では、ターゲットを、企業にとって理想的なターゲット、気持ちが変わりやすいターゲット、リーチしやすいターゲット、という観点で具体的に列挙します。その後、ターゲットを絞り込み、ターゲットがどのように変化することが、企業にとって望ましいかを定義します。
神戸女学院大学の例では、学内の先生方とコンセントとの対話の中で、コンテンツのゴールを、「学びに意欲的な受験生」が、「リベラルアーツ教育の意義に気づくこと」と定義しました。
以上2枚のヒントシートで、「企業の課題」「ターゲットの変化の定義」を深掘りした結果を踏まえ、上記のコンテンツの方針シートを埋めていきます。
実際のプロジェクトでは、このポイントを、企業側とクリエイティブチームでディスカッションし、共創的に整理するプロセスが非常に重要になります。一見、決めることはシンプルですが、コンテンツづくりを行う企業内部の目線やクリエイティブチームの目線が合っていないと、企画方針がぶれたり、表現が効果的なものにならないなど、本質的な課題解決に導くコンテンツがつくれません。神戸女学院大学のブランディングプロジェクトでも、最初に上記の方針シートの項目の定義をする対話から始めました。企業側とコンセントの共同チームで、分解と定義を繰り返して方針づくりに臨むことで、最後までブレないコンテンツの方針を作成することができるのです。
3. 企画の材料になる、企業の価値とターゲットのニーズを探る
次に、上記で決めた「ターゲットの望ましい変化」を起こすための、企画の材料を収集していきます。主に、「企業のどの価値を伝えるか」と「ターゲットに何が響くのか」の2点を中心に情報を収集し整理していきます。
企業の情報資産を収集し、発信すべき価値を絞り込む
企業のどの価値を伝えることが効果的か。それを探るため、企業の情報資産の棚卸しを行います。上記の情報棚卸しシートは、企業のもつ情報資産を、網羅的に棚卸ししやすいように、各項目をつくりました。
「歴史」「ビジョン」「社会的機能」「ポジション」「強み」「コンテンツの所在」「顧客からの評価」「ミッション」等、基本的な項目が中心ですが、企業がもっている情報資産を、一度見える形で1枚の紙に書き出すことで、情報を俯瞰しやすくしておきます。
ここでのポイントは、俯瞰した際に、何が企業の独自の価値なのかを認識することです。独自の価値を深く理解しないままコンテンツ開発を進めてしまうと、独自性がなく、企業の印象が残りづらいコンテンツになってしまいます。
神戸女学院大学のプロジェクトでは、情報を俯瞰した後、さらに競合の価値分析と照らし合わせ、神戸女学院大学が発信すべき価値を絞り込む議論を丁寧に行いました。その結果、競合に真似しにくい独自の価値を伝えるメッセージに結びつきました。
ターゲットのニーズを明らかにする
企業が伝えたい事実をそのまま発信しても、ターゲットの関心ごととずれていれば、読む気になってもらえないコンテンツになってしまいます。
このパートでは、ターゲットの興味関心ごとを探り、ニーズを明らかにします。上記のシートでは、ターゲットの欲求や時系列での心境の変化までを丁寧に追うためにおさえるべき観点をまとめています。実際のプロジェクトでは、ターゲットの属性に近い人へのインタビューなどの定性調査や、アンケート結果などの定量データを使い、ターゲットの気持ちを鮮明にイメージできる状態にしていきます。
4. ターゲットのニーズと企業の伝えたい情報をストーリーでつなぐ
最後に、ここまでに明らかにした材料を使って、企画立案をしていきます。
- ターゲットにとっての魅力的な「ヒキ」は何か
- 企業が伝えるべき「価値」は何か
「ヒキ」は、最初にターゲットの興味をひき、印象づける言葉や視覚表現のこと。
重要なのは、双方を結んでいくストーリーをつくることです。
「ヒキ」×「価値」の方程式を思い浮かぶまま列挙していき、企画のアイデアを出していきます。
神戸女学院大学の例では、
- 文系・理系の選択に迷う気持ち × 学際的な学び
- 女性の人生の選択肢や葛藤 × 自由として謳歌するための学び
など、ターゲットの関心ごとと大学のもっている価値の掛け合わせを行い、
広告でメッセージ展開をしています。
ここでの「ヒキ」は「女は大学に行くな」というコピーが該当します。「ヒキ」は世の常識と逆行する強い言葉ですが、これは以下の言葉に該当する「価値」に相当の強度がないと成立しないものです。伝えたい価値は、「自由として謳歌するため」の学び=リベラルアーツの価値に設定しました。
世間の人は、コンテンツを読むか読まないかの判断を、見た瞬間の0.2秒でしていると言われています。
ターゲットの興味をひく「ヒキ」の要素がなければ、読み始めてもらうことができずに、素通りされるコンテンツになってしまいます。また、「ヒキ」ばかりを追い求めて、企業側の「価値」に独自性がなかった場合、企業の価値の印象は競合と変わらず印象が薄いものになってしまいます。
双方が揃い、強固なストーリーでつながることによって、ターゲットの心を動かし、企業の課題解決に導くコンテンツがつくれるのです。
『人の心を動かすコンテンツメイキングの基本』については以上です。コンセントではこのような研修を通じて、異なる領域で活躍しているデザインプロフェッショナル同士が意見交換し、相互理解を深め、新しい視点を獲得しています。今回のレポートを通じて、デザインやコンセントの仕事に興味をもっていただければ幸いです。
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