「違いを生む」大学広報のための4つのポイント

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  • 井手口 亮プロデューサー

近年、大学における学生獲得競争は激化の一途を辿っています。18歳以下の人口減少と相次ぐ大学増加に伴ういわゆる「2018年問題」が現実のものとなり淘汰が進む中で、入試広報では、大学独自のポジションをつくり魅力的にアピールすることがますます重要になってきています。
しかし、実際のコミュニケーションツール制作において、大学案内や入試広報ツールは、特性上どうしてもコンテンツや情報が似通ってしまい、差別化がなかなか難しいのが現状です。また、大学広報の制作業務は、学内での情報収集から関係者への説明、制作会社の手配など、複雑な業務が多岐にわたり、そんな状況の中でデザイン性の高いものや趣向を凝らしたコンテンツをつくるのは至難のわざです。
そこで今回は、大学広報におけるコミュニケーションツールの制作にあたって、他大学との差別化をはかり、「違いを生む」情報発信をするための4つのポイントをご紹介します。

コンセントは、大学のブランディングやツールのデザインなど、大学の情報発信に関する仕事を多く手がけています。エディトリアルデザインとサービスデザインのスキルをもつコンセントでは、共創的なアプローチで大学の価値を探索すること、そして、大学の価値と学生のニーズをつなぐ体験のデザインをしていくこと、この2点を大事にしてプロジェクトを進めていきます。その中でも、大学広報においては特に下記4つのポイントが重要になります。

  1. 1.学びの価値を整理・言語化する
  2. 2.受験生視点を取り入れる
  3. 3.誰がどう使うのかを意識する
  4. 4.学びの価値に即した「世界観」をつくる

それぞれのポイントについて、コンセントでの実際の実践事例やプロジェクトにおけるちょっとしたコツも交えながら説明します。

1. 学びの価値を整理・言語化する

大学が提案する価値は何であるか。この価値を言語化することは簡単なようで難しいことです。大学が発信する情報に関わるのは、大きく分けて、教員と職員がいますが、当然それぞれの観点や立場は異なります。
その観点や立場の差を乗り越え、活発な議論の結果、学生に響く価値を言語化できるチームをつくること。それがまず前提として必要になります。
日ごろさまざまな受験生と会う機会のある職員の意見は、教員の意見同様に重要なものです。双方の意見を相反するものとするのではなく、本質的な学びの価値と受験生の潜在的なニーズを結ぶことで、学生獲得に効果のある表現に導くことが必要です。
コンセントで行っているのは、フラットなチームの中で価値を言語化するアプローチ。コンセントがファシリテーターとなって、ワークショップの形で検討します。

上記は神戸女学院大学のブランディング検討で用いた検討用の図。教員、職員、コンセントの三者で、今後獲得していきたい人材像と、大学の押し出すべき価値についてのディスカッションを行い作成したものです。受験生に顕在化できていない、学びの価値を体系的に整理しました。
それによって、つくられたのが「私はまだ、私を知らない」というキーワード。学生の主体的な学びを支援する大学と、それによって意欲的に成長する意志のある学生を想起させる言葉です。図で登場する「学部・学科を横断した幅広い学びの機会」「目先の実利にとらわれない人としての教養を高める学び」というワードから導き出しました。

神戸女学院大学のオープンキャンパスのポスター

「私はまだ、私を知らない」を浸透させるために作成した学生配布用の冊子

2. 受験生視点を取り入れる

情報の受け手である受験生の視点が重要なことは言うまでもないですが、実際に受験生がどういうニーズをもっているかを理解するのはなかなか難しいものです。専攻分野、カリキュラム、進路、立地、雰囲気、留学制度などさまざま情報がある中で、受験生が何を重視するかは大学の特性によって異なり、さらには受験生が検討する時期によっても変動するため、受験生の視点に立った適切な情報設計をすることがとても重要です。そのために、少し前まで受験生だった在学生に話を聞いてみるのは、シンプルですがとても有効です。どういうコンテンツを見ていて、何を見ていなかったのか、何が決め手になったのかなどを聞いて、情報設計のためのインサイト(気づき)を導き出します。アンケート形式でもいいですが、可能であればインタビューの方が望ましいです。対面で深掘りができるインタビューであれば、在学生は受験生当時のことを思い出しながら語ることが容易になりますし、受験生自身が意識しない潜在ニーズを掘り出すことができます。

これは、東京理科大学の大学案内の学部紹介ページです。在学生の意見を参考に「受験生に響くビジュアル」を模索したものです。在学生のインタビューから、授業風景などの写真よりも、理系の専門性を意識させるビジュアルの方が、知的好奇心が刺激され魅力的だという気づきを得て、デザインに落とし込みました。

これも東京理科大学の事例ですが、理系の学生へのインタビューを実施し、「進路選択時に、受験生がどのような理解のしかたをするか」をもとに情報を整理したもの。漠然とした分野選択から詳細な研究分野にわかれる情報構造にしています。受験生視点での編集で、進路選択中の学生のニーズに結びつけ、情報の魅力度を大幅に増すことが可能になります。

3. 誰がどう使うのかを意識する

コミュニケーションデザインでは、掲載するコンテンツだけではなく、「誰がどう使うのか」という利用シーンに目を向けることも重要です。特に、入試広報におけるコミュニケーションは、資料請求やオープンキャンパス、受験、保護者への説明など、さまざまな利用シーンが組み合わさって構成されており、受験生の体験全体の中で、ツールの位置付けと役割を決める必要があります。
例えば、大学案内の利用形態は大きく分けて、「読む」「説明する」です。職歴の長い入学センターの職員は大学案内などのツールがなくてもより魅力的に大学の紹介ができるかもしれません。逆にオープンキャンパスの運営を手伝ってくれている学生が他学部の説明をどこまでできるかは不安なところがあります。このように、考えられる利用シーンを洗い出していくと、そこで必要となるコンテンツのプライオリティを判断しやすくなります。プライオリティを定義した上で企画・デザインを進めれば、判断の拠り所ができるので建設的な議論ができるでしょう。

これは、早稲田大学文化構想学部・文学部の学部案内の表紙です。受験生は入試情報サイトや大学合同説明会などで、他大学と一緒に表紙を一覧で見るという前提に着目し、その中でも「学部名」が目立つように、他の要素は省き白い空間をつくり表現しました。

こちらは、立教大学の大学案内と一緒に配布をするサブツールです。合同説明会のときやオープンキャンパスのときに受験生に配布するもので、大学案内と並べて平置きしたときに大きくて目を引くビジュアルで興味を喚起します。表紙は上空からキャンパスを撮影したもの、次の見開きはもっと寄った位置でキャンパスを撮影したもの、全部を開くとさまざまなことに夢中になっている学生を紹介するコンテンツが広がります。最初は見た目で気軽に手に取ってもらいつつ、立教大学の多様性に触れてもらえるような仕掛けにしました。

4. 学びの価値に即した「世界観」をつくる

コンテンツや情報の設計と同様に、「どのような印象をもたせるか」という感性的な訴求も重要です。ただかっこいい、かわいいビジュアルにするということではなく、与える印象が「大学独自の価値」に即したトーン&マナーになっていなければ効果はありません。しかし、残念ながら、大学のコミュニケーション戦略と実際のトーン&マナーに乖離があるケースは多く見受けられます。この要因のひとつは、コミュニケーション戦略の策定と企画・デザインにおける情報の断絶です。戦略の背景にある課題や状況は膨大かつ複雑なので、戦略が決まった後にトーン&マナーを設計すると、意図を十分に汲み取るのが難しく、せっかくの価値が受験生の印象には反映されません。そのようなことにならないように、「大学が提案する価値は何か」を検討するテーブルにデザイナーを同席させ、戦略から表現の検討に一貫性をもたせるフローが効果的です。

これは神戸女学院大学の大学案内の扉ページです。コミュニケーションのコンセプトとして、「実学ではなく、人生を自由にするための学び」=「横断的な学びへの意志がある」女性像が重要であったため、写真表現も学生の真摯さを最優先にしてディレクションを行っています。

なお、写真撮影のためには「季節」が重要です。コミュニケーションツールの制作はなるべく早く開始した方が質が上がります。予算取りの時期を基準として始動すると、撮影が冬の時期になってしまうことが多く、キャンパス風景を撮影しても寂しい画にしかならないということが往々にしてあります。細かい点ですが非常に重要です。

津田塾大学の大学案内、教育の特色を紹介した扉ページ

早稲田大学文化構想学部・文学部の学部案内の中面。早稲田大学のもつ知的だけどいい意味でカオス、といった個性を誌面上でも表現できないかと考えたコンテンツ。

いくつか、コンセントの実績を並べましたが、ひとつひとつイメージは異なります。それぞれがコンセプトに基づき、精緻にイメージを設計しています。
大学も一般企業と同様に差別化が重要です。競合となるであろう大学のイメージを把握し、自身の大学をどうポジショニングするかを慎重に検討します。受験生に響きつつ、かつ競合大学に優位なイメージを保てるか。そのデザインが成否を分けます。

大事なのは「学びの本質」に向き合うこと

ここまで4つのポイントについてご紹介してきましたが、「ひと味ちがう」コミュニケーションツールは、最終的な制作物のデザインだけではなく、受験生の体験に沿ったコンテンツや情報の設計、さらには大学がもっている価値の定義までさかのぼって一貫したプロセスの上に成り立っています。最も重要なことは、「学びの本質」。デザインはそれを変えることではなく、社会に響かせるものです。戦略段階から制作段階まで、プロジェクトのステークホルダーが「学びの本質」に向き合い、問い続けることが、最終的な成果につながります。

[ 執筆者 ]

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コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

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