アクセシビリティ向上の取り組みはだれもが使えるサービス開発の基本 「プロジェクト管理freee」サービス改善スプリント

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  • 顔写真:堀口 真人

    堀口真人プロデューサー

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    辻勝利アクセシビリティエンジニア

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    秋山豊志アクセシビリティエンジニア

こんにちは。インクルーシブデザインチームの堀口です。私たちのチームは企業のアクセシビリティへの取り組み支援や、インクルーシブデザインプロセスの活用による事業・サービスの開発支援を行うことを目的として、2019年7月に組織されました。

今回、freee株式会社様(以下、freee)が2020年4月にリリースしたサービス「プロジェクト管理freee」の外部レビュアーとして、改善スプリントを行いました。

当記事では、アクセシビリティ向上がサービス・プロダクトに及ぼす影響や、アクセシビリティのこれからの可能性について、プロジェクトを通して両社が得た気づきを、freeeのプロジェクトメンバーの皆さまご協力のもとお届けします。

freee、コンセント双方の会社ロゴとインタビュー参加メンバーの顔写真

この座談会はオンラインで行われました

freee株式会社

篁玄太(Genta Takamura)

UXデザイナー
プロジェクト管理freeeのメインデザイナーとして、UXリサーチ、UIデザインなどを担当。

熊倉洋介(Yosuke Kumakura)

エンジニア
「プロジェクト管理freee」開発の方針検討から実装までを担当。開発メンバーへアクセシビリティー対応の支援や情報共有も役割として兼ねる。

中根雅文(Masafumi Nakane)

アドバイザー
freee社内でアクセシビリティーの取り組みを加速していく一環として「プロジェクト管理freee」開発において、アクセシビリティーレビューおよび問題の改善に関する方法の検討と提案、スクリーン・リーダー・ユーザーとしてのレビューを行う。

水野詩穂(Siho Mizuno)

QA
「プロジェクト管理freee」の品質が保証されているか、アクセシビリティーの観点を含めたテストの実行を担当。

株式会社コンセント

堀口真人(Masato Horiguchi)

プロデューサー
インクルーシブデザインチームリーダー。「プロジェクト管理freee」サービス改善スプリントにおいてアカウントディレクション、プロジェクト責任者を務める。


freee株式会社について

2012年7月創業。中小企業や個人事業主を中心に、バックオフィス業務を改善し最適化するクラウドサービスを主に提供している。クラウド会計ソフト、人事労務ソフトでは業界シェアNo.1。東証マザーズ上場

公式サイト

今回のプロジェクトの概要

2020年4月にfreeeが新たにリリースした「プロジェクト管理freee」。プロジェクトの進捗・タスク管理だけではなく、工数・経費管理を簡素化し、リアルタイムでの収支管理を可能にしたサービスです。開発段階から積極的にアクセシビリティ向上に取り組み、その操作性や使い勝手について、客観的な立場から専門家の評価を得る目的でコンセントにアクセシビリティテストとレビューを依頼。2020年7月にレビュー結果の報告会を行い、そのフィードバックをもとにしたfreee社内での改善スプリントを経て、10月に再度、両社による共有会を実施しました。

「プロジェクト管理freee」の1画面

「プロジェクト管理freee」の1画面

「だれでもビジネスの主役になれる」サービスを目指して

堀口freeeはアクセシビリティ専門のエンジニアが在籍していたり、自社プロダクト開発用のアクセシビリティガイドラインを一般公開されていたりと、アクセシビリティ向上に対し非常に積極的に取り組んでいらっしゃいます。何かきっかけがあったのでしょうか。

中根freeeは「スモールビジネスを、世界の主役に。」というミッションのもと、「アイデアやパッションやスキルがあればだれでも、ビジネスを強くスマートに育てられるプラットフォーム」の構築を目指しています。ビジョンで「だれでも」と言っているのに、サービスの対象から除外されてしまう人がいるのは問題ですよね、というのがまず第1の理由です。

それから、全盲の僕が入社したことが少なからず影響していると思います。入社前からfreeeのサービスユーザーだった僕の意見を直に聞くことで、さまざまな背景をもつユーザーの存在を社員たちが意識するようになりました。僕は普段から社内に向けて「障害者だけを対象にしたマーケットは大したことがないかもしれないけれど、障害者を取り巻く環境変化がマーケットに及ぼす影響は意外と大きい」という話をしています。そういった活動の結果、アクセシビリティの重要性に対する社内の理解が深まってきたなと感じています。

堀口アクセシビリティに対応しないということは大きな機会損失となり得るということですよね。組織の中に1人でも使えない人がいれば、組織はそのサービス導入を見送るかもしれない。つまりは、組織にひもづいた他の何十、何百、何千という顧客まで失う可能性がある。

御社では、もともとそういった事態に対して課題感をもっていて、顕在化している問題に対し、啓発活動や体制・方針の整備など、実際に解決に向けた取り組みを行っていらっしゃるのですね。

中根はい。ミッションやビジョンに掲げている通り「だれもが使えるプラットフォームがつくれたら、ビジネスの主役になれる人が増えてすごくいいよね」という思いをもって、少しずつ自社のアクセシビリティガイドラインを整備して、社内の知識やスキルの底上げを図っている感じです。

ユーザー観点の指摘で終わらない改善施策の提案

堀口今回のプロジェクトではコンセントからマネージャーの中村朋子、スクリーンリーダーユーザー(視覚障害者)であり、チームリーダーの経験もある辻勝利、アクセシビリティエンジニア兼マークアップエンジニアの秋山豊志の3人がユーザーテストを行い、レビューしました。サービスの対象に近いマネジメントする立場の人間、アクセシビリティ機能を活用する立場の人間、そしてアクセシビリティの知識をもったエンジニア。三者三様の視点が反映されたレビューになったのではと感じています。率直に今回のレビューはいかがでしたか。

「プロジェクト管理freee」は、これまでfreeeが主にターゲットとしてきたバックオフィスが対象ではなく、プロデューサーやマネージャーといったプロジェクトの表に立つ方にアプローチするプロダクトです。今までにない業界や職種が対象になるので、例えばSIerですとか、受託形式でウェブ制作をされている企業にリーチする方法を探りたいというのが1点目。それと同時に、アクセシビリティの観点で専門家からの評価を受けたいというのが2点目。その2つの要件をクリアできそうだということでコンセントに依頼しました。
実際の利用者に近い立場の方から、専門家としての観点も踏まえて客観的な評価を得られたことは大きなメリットでしたね。

中根開発メンバーは制作の経緯も、仕様も全て知り尽くしています。だからこそ、いざチェックをしようとするとどうしても漏れてしまう観点があると思っています。「こうだろう」という固定観念のない客観的な評価を受けることでの気づきは多く、やはり開発段階において外部の視点を入れることは重要だなということをあらためて認識しました。

堀口社内では見逃されがちな「普通」を、先入観のない視点で見て「本当にそうか?」と疑問を呈する機能があるといいよね、ということですね。

中根そうですね。特にアクセシビリティに関しては、課題点がより明確になると思います。

水野コンセントにレビューを依頼する前に、当然社内でも「プロジェクト管理freee」のアクセシビリティテストを行っています。ですが、やはり仕様を知っているがために、「仕様は大丈夫」とどうしても見た目に問題がないかという観点に寄りがちで……。
実際にサービス画面を見たことのない方、操作経験のない方に、前知識ゼロの状態で試してもらい、問題点や気づきを指摘いただけたのは、実際のユーザーの声にとても近しい意見としてすごく勉強になりましたね。

堀口レビューでは予想通りのものもありつつ、予想外だったものもありましたか?

水野そうですね。ソースコードは、アクセシビリティの基準をクリアしていても、読み上げ時の順番が不自然になっていたりして。ユーザーに届くところまでをしっかり見ていかないといけないなと、あらためて感じました。

中根今回コンセントに頼んでよかったなと思ったのは、スクリーンリーダーを使う辻さんの行動を、秋山さんがエンジニアの観点でチェックしてくれたというところです。スクリーンリーダーユーザーの当事者目線だと「使えているからOK」みたいな結論になりがちです。でも本来なら、少しでもつまずきがあれば「どうしてそうなるのか」を検証して、仕様の是非や効率まで含めて突き詰めて考えることが大事ですよね。

今回はマークアップエンジニアとして経験知のある秋山さんが、その部分まで言及してくれました。ユーザーの辻さんが課題を発見し、テクニカルな仕様を理解している秋山さんにその課題の改善方法を提示してもらい、それを受けて我々開発側が製品をより良くするためにチューニングしていく。非常に良い改善サイクルにつながるレビューをいただけたと感じています。

堀口ありがとうございます。コンセントとしても、ユーザー側のレビューだけでなく、改善が必要な点について裏付けと改善方針までご提案することで、よりレビューの質が高まったと感じています。

freeeとしても、「プロジェクト管理freee」だけでなく、品質管理チェックにおける項目強化やプロセス改善につながったという、思わぬ好影響がありました。

中根freee社内のアクセシビリティー・チェックリストもまだまだブラッシュアップしている段階にあって、現在品質管理部署のメンバーに協力してもらいながら整理しているところです。今回のフィードバックを盛り込むことで、とても使いやすくなったと思います。

水野はい。より細やかなところまでフォローができるようになりました。

堀口レビュー結果は、「プロジェクト管理freee」だけでなく、他のプロダクトや新規開発の際にも生かしてもらえる内容にしたいね、とメンバー間で話していたので、とてもうれしいです。

今回のレビューは、スクリーンリーダーユーザー(主に視覚障害者)の使い勝手に重きを置きましたが、アクセシビリティ改善を意識することで、実は一般ユーザーの使い勝手も向上したという点はありましたか?

そうですね。視覚障害がある方に配慮した設計にすると、よりスムーズに次の動作に移れる、アラートに気づきやすいといった点が改善されます。健常者であっても疲れて集中力が散漫になることはよくあることだと思うので、アクセシビリティの行き届いた仕様であれば、操作する人のミスやストレスの軽減につながりますよね。つまり、アクセシビリティ改善というのは、結果的にさまざまな人のユーザビリティ向上につながるのではないかと思っています。

堀口なるほど。確かに、「だれもが等しく情報を取得できる」というアクセシビリティの考え方は、ユーザービリティの向上と切り離せない関係にありそうですね。今回、コンセントのレビュー結果をレポート形式で納品しました。レポートの内容について、ご要望やご意見があればぜひお聞かせください。

熊倉レポートでは結論部分のみをまとめていただいたのですが、スクリーンリーダーユーザーである辻さんが実際にどういう手順で操作しているのか、どこでつまずくのか、つまずいた場合どう対処するのかといった経緯がわかる行動のログがあると、より改善点が明らかになるように思いましたね。

中根結果としては実行できていても、実はマークアップや情報構造の問題で、思っている以上に完了までに時間がかかっている場合もあると思います。そこを拾えるとより利便性の高いプロダクトになるかなと。

確かにそうですね。ユーザビリティ評価的な方法で行動自体を把握することによって、マイナスをゼロにではなく、プラスにできるような気づきが得られそうですよね。

堀口その際、行動の再現手順は、テキストではなく動画を使うというのも1つの方法としてありますね。他のプロジェクトで、Zoomを介して辻の行動をライブ中継しながらクライアントと議論するということがあったのですが、思いもよらない気づきが得られたりして、喜んでいただきました。

コンセント内部で簡易的にレビュー内容・結果をまとめた資料。

コンセント内部で簡易的にレビュー内容・結果をまとめた資料。当プロジェクトではアクセシビリティチェック結果は報告会・ディスカッションに重点を置いたため、資料は社内認識を揃えるために利用。最終結果はオンラインで共有できるようスプレッドシートで作成した。

本質的な「使いやすさ」を極める

堀口「プロジェクト管理freee」は、改善を重ねてどんどんバージョンアップされていくと思いますが、今後どのような展開を考えていらっしゃいますか。

プロダクトの利便性を高めるのはもちろんなのですが、それ以前に「必要か不必要かをまず見極めて、不必要なものはなくしていこう」というのがfreeeの思想の根底にあります。例えば、工数入力の作業にしても、入力作業をしやすくするのではなく、究極的にはさまざまなソースから集めてきたデータで自動計算されて、入力しなくてもOKにするのが最善という考え方です。

その思想を大切にしながら、今までの常識やフローを大きく変えられるようなプロダクトに育てていければと考えています。そのためには、機能を追加する際に、「ユーザーにとっての最善になっているか」を自分たちでしっかりチェックできる体制をつくることが重要だと考えています。品質管理チェックの項目強化、プロセス改善は引き続きしっかり行っていきたいですね。

中根「プロジェクト管理freee」は、開発初期からアクセシビリティの観点を踏まえた仕様を組み込んだり、初めて外部の方にレビューをお願いしたりと、チャレンジングなプロダクトになりました。今回の取り組みで得た知見を他のプロダクトにどう生かしていくか。これが今後の課題でもありますし、とてもやりがいのある仕事だと思っています。

freeeでは、アクセシビリティへの取り組みとして、ガイドラインの整備のほか、全てのプロダクトに共通するデザインシステムにもアクセシビリティの観点を組み込んでいます。デザイナーやエンジニア向けのコンポーネントライブラリや、画面設計上必要なルールを定めたデザイナー向けのドキュメントなど、それを典拠とすることでアクセシビリティを担保できるようになっています。

堀口そういうデザインシステムをもつことは、 1つのブランドで複数のソリューションを展開するfreeeのような企業では一般的なことなのでしょうか。

中根海外ではアクセシビリティも踏まえたデザインシステムを構築している企業もありますが、日本ではまだ珍しいと思います。

堀口ユーザビリティと同じくアクセシビリティに関しても、プロダクト単体ではなく全体で統一した基準をもつことで、ユーザーの体験を良い意味で均一化するということですね。とても大切ですね。

中根こちらが改善を加えたり新しく開発したりするものが、既存のユーザーの予測に反する挙動をしてしまったら、すごく使いづらいですよね。一貫したユーザー体験を担保しながら、だれもがより使いやすく、ビジネスの主役になれる人を増やすプロダクトを開発していきたいです。

今回の対談を終えて

今回の対談を終えて、「だれもが使える」ということに真摯に向き合い、プロダクトを開発されているfreeeの姿勢にあらためて刺激を受けるとともに、アクセシビリティは全てのユーザーに対する満足度やユーザビリティ向上の土台となるものであり、ビジネス機会を拡大する可能性が大いにあることが実感できました。コンセントはユーザーとスペシャリスト双方の観点から、さまざまなサービスや事業に活用していただけるアクセシビリティテストとレビューを提供していきます。



[コンセントのウェブアクセシビリティ取り組み支援について]

コンセントでは、ウェブアクセシビリティ研修、ウェブサービス等のレビュー、ウェブサイトのアクセシビリティ対応を通し、企業や行政等のウェブアクセシビリティの取り組みを支援しています。こうした支援を通し、多様なすべての人が等しく情報を受け取れる社会の実現を目指していきたいと考えています。

[ 執筆者 ]

コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

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