アクセシビリティをさまざまな角度から捉え直す

34th CSUN Assistive Technology Conference

テーマ :
  • 中村 朋子ディレクター

  • 足立 邦登ディレクター

  • 佐野 実生デザイナー/ディレクター

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(1)3月12日の夜、基調講演のスタートを待つ参加者たちの様子。中央のスクリーンの左右にあるのは、それぞれリアルタイム字幕が表示されるスクリーン

カリフォリニア州アナハイムにて、3月11日〜3月15日に「34th CSUN Assistive Technology Conference」、通称「CSUN(シーサン)」が開催されました。CSUNは、アクセシビリティに関する世界最大級の国際会議で、今年(2019年)で34回目を迎えます。コンセントでは3年前から毎年社員が参加しており、今年は、ディレクターの中村朋子、足立邦登、デザイナーの佐野実生の計3名が参加してきました。

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(2)開催地アナハイムの屋外の様子。毎日快晴で、3月中旬でも昼間は20度近くまで気温が上がり過ごしやすい陽気

「CSUN」について

デザイナーの佐野です。カンファレンスの名前にある「CSUN(シーサン)」とは、主催しているカリフォルニア州立大学ノースリッジ校(California State University, Northridge)の頭文字です。さまざまな障害を対象にした支援技術に関するセッションと企業が出展する展示ブースがあるため、アクセシビリティ業務担当者だけでなく、障害当事者の方たちが非常に多く参加されているのが特徴です。会場内には白杖を持った方をはじめ、補助犬連れの方、義足の方、補聴器を付けている方などが行き交い、当事者の方々の「自らの手で生活を豊かにしたい」という強い意思を普段よりも間近に感じることができました。
セッションでも、手話通訳やリアルタイムでの字幕提供、スピーカーによる「今、こういうスライドだったので会場から笑いが起こりました!」という説明など、さまざまな立場の参加者へのフォローがあるのもCSUNならではの光景でした。

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(3)会場ロビーでは、車椅子に乗った方や盲導犬連れの方、白杖を持った方などが行き交う。近くに困っていそうな人がいたら皆すぐに声をかけるなど、参加者同士が自然にサポートし合っている姿が印象的

多様な切り口で開かれる計385のセッション

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(4)セッション中のとある会場の様子。部屋によって広さはさまざまで、人気セッションは開演時刻を待たず満員になることも

3月11日〜15日の5日間のうち、3月11、12日は有料のワークショップが開催されており、セッションと展示は13日からスタートします。今回、コンセントから参加したメンバーは、3月13日〜15日の3日間で開催されたセッションにタイミングを合わせる形で渡米しました。セッションは大きく以下の6トピックに分類されており、3日間で合計約385セッションに及びます。各1コマ40分のセッションが19部屋で同時に進行しており、参加者は1コマごとに自分の聞きたい部屋に移動する、というスタイルです。

セッションの6つのトピック

  • Education(教育)
  • Employment & Workplace(雇用と職場)
  • Entertainment & Leisure(エンターテインメイント&レジャー)
  • Independent Living(自立した生活)
  • Law & Policy(法と政策)
  • Transportation(交通手段)

当日のセッションは、WCAG2.1の達成基準や法関連の話をはじめ、業界トレンド、最新の支援技術紹介など、さまざまな切り口でひらかれており、中には、継続的にアクセシビリティに取り組むためのチームマネジメントやプロジェクト戦略といった、担当者のマインドセットに関わるものもあったのが印象的でした。他にも、書体や地図、図表といった視覚に依存するコンテンツのアクセシビリティや、メモリ付き定規やそろばんなどのアナログなツールが登場する数学教育のセッションなど、いわゆる「Webアクセシビリティ」の範疇にとどまらない、さまざまな分野における広義のアクセシビリティを横断的に捉えることができる構成になっていました。

※WCAGとは、正式名称はWeb Content Accessibility Guidelinesといい、Web Consortium(W3C)が策定する、Webコンテンツをよりアクセシブルにするためのガイドラインのことです。

なお、AmazonやGoogle、Microsoftといった大手企業には専用の部屋が割り振られており、常にその企業の取り組みやサービスに関するセッションが行われていました。

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(5)Amazonのセッションの様子。左のスクリーンにはプレゼンテーション内容が映され、右のスクリーンにはリアルタイム字幕が表示されている

実際に触って試せる、活気に溢れた展示ブース

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(6)展示ブースの様子。製品を実際に試す当事者の方々で非常に賑わっていた

展示ブースでは、アクセシビリティに関わる製品やサービスを手がける約120の企業が出展していました。日本企業としては、近年、製品でのアクセシビリティ対応に関する情報をよく耳にするようになったSONYのほか、支援技術を出展している企業が3社ほどありました。自社のWebアクセシビリティ対応サービスや文書のアクセシブル変換サービスといった企業のサービス紹介ブースはもちろん、当事者の方が実際に製品を試せるブースが多く、会場全体が活気に溢れていたのが印象的でした。

実際に触って試せるものの例としては、点字キーボードや画面拡大ディスプレイをはじめ、点字や地図の立体印刷見本、VRのゲームコンテンツなどがありました。また、障害物を検知して振動する、白杖等に装着できるアクセサリーや、頭部のカメラで読み取った映像を舌で感知できるデバイスなど、見たことのないものも出展されていました。私たちの日常を取り巻く必需品からエンターテインメントコンテンツまで、最新のテクノロジーを駆使して開発されたさまざまな製品やサービスが並ぶ空間は、まさにカンファレンス名である「Assistive Technology(支援技術)」を体現していたと思います。

以下、3名が参加したセッションについて簡単にご紹介します。

セッションレポート

アクセシビリティを制作・運用プロセスに組み込むには

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(7)セッション冒頭で、「アメとムチ方式では、人のやる気は続かない」と語るスピーカー

ディレクターの足立です。アクセシビリティ対応については、「大事なことだとは思っているが、対応負荷を考えるとなかなか本腰を入れられない」「自分たちのWebサイトが、どのくらいアクセシブルなのかがわからない」といった声をよく耳にします。

「achieving inclusive accessibility thinking without sticks or carrots (アメとムチを使わずにインクルーシブなアクセシビリティ思考を実現するには)」というセッションでは、 組織レベルでの継続的な取り組みが紹介されていました。具体例としては、スピーカーが所属しているBBC(英国放送協会)のような公共放送局においては、 WCAGへの対応について、法的要件に対する取り組みとしては社会からの評判や収益の面で影響を与えたこともあったが、組織として長期的にアクセシビリティに向き合っていくには限界があったそうです(外部からの報酬だけでは継続的な取り組みにはならず、組織的に無理が生じた)。

セッションでは、その状況からどのようにして社内啓蒙や組織に浸透させていったかを、組織内での知識共有やお互いのサポートを生み出すきっかけとなった「複数のキーマンによる連鎖」と「モチベーション」をキーワードに展開。マズローの欲求段階説や、私自身はあまり聞いたことがありませんでしたがUdemyで講師をしているローレンス・ミラー氏の動機に関する理論、一時期TEDでも話題となっていたダニエル・ピンク氏の「やる気に関する驚きの科学」で取り上げられていたやる気の引き出し方を題材に、自らの経験談と、モチベーションとアクセシビリティを絡めた独自の理論について話がされていました。

以下に、セッションで話されていた3つのモチベーションに関する切り口と、それぞれでスピーカーが発見したと語っていたポイントを紹介します。

  • 1.Purpose(自分の利益を越えたことのために活動したいというような切なる想い)
    • 障害に対する理解を深めたり、アクセシビリティは社会的少数派のためのものではないことを理解することが大切である
  • 2.Mastery(意味のあることについて上達していく取り組み)
    • スクリーン・リーダーなどの支援技術との距離を近くする機会をつくったり、ガイドラインがチェックリストではなく、考えのベースにあることを理解することが大切である
    • チェックツールのような道具を活用して、アクセシビリティについて考える接点を開発段階など早い段階でつくることがよい
  • 3.Autonomy(自主性を生むための取り組み)
    • 同僚に対して、アクセシビリティについて考えたり、話題にあがりやすい場を自分たちでつくることが大切である

詳しくは、当日の発表スライドが公開されていますので、参照ください。
https://slides.com/emmajpr/inclusive-a11y/#/

BBCでは、今でこそアクセシビリティがプロセスの不可欠な部分となり(負担や作業には感じられていない)、また、積極的にアクセシビリティに関与する人も増えたという話でしたが、全体に受け入れられるようになるまでには5年はかかったそうです。セッションを聞いて、なかなか先が長い取り組みだという印象を受けましたが、セッションで聞いた取り組みは、今後、アクセシビリティを広めていくためには避けては通れないと道だと、もともと覚悟している部分でもあったので、日本に帰ってから再スタートを切っていくにあたっては、とても勇気づけられる内容でした。

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(8)アクセシビリティバグの発見に時間がかかればかかるほど、修正にかかるコストが増えることを、コンセプト立案からリリースまでの流れに沿って示すスライド

また、今回のCSUNでは、日本へのローカライズがまだされていないチェックツールのデモを、出展ブースで開発者と話しながら複数試すことができたのは収穫でした。

セッションでもチェックツールの「活用の方法」の話をいくつか聞きましたが、「そもそもチェックツールに期待できることは全体チェックの一部と割り切る(マニュアルチェックと併用しないと判断できないことが大半)」、「チェックツールは、Webサイトがほぼ完成した後で、対応できているかどうかをチェックするのに使うのではなく、Webサイトの特性や使う技術に合わせて、開発するタイミングや、リリース後の品質維持のために上手に使っていく」といった基本的な考え方を、先人たちの実践から再確認することができました。チェックツールに関する情報は、日本語化されているツールが多くないため、まだ日本ではあまり議論されていないのですが、今後、業務効率アップのヒントとして、今回得た情報をもとに、日本でも活用の方法を探りたいと考えています。

視覚に依存しがちなコンテンツのアクセシビリティを考える

ふたたびデザイナーの佐野です。PDFや文書のアクセシビリティは日本では「例外事項」として扱われることがほとんどで、具体的なノウハウや、そのような事業を展開している企業が少ないのが現状です。しかし、Webブラウザ上でアクセスできるものは「Webコンテンツ」に該当するため、PDFや文書もHTMLで実装されたWebページと同じようにアクセシビリティに対応し、音声読み上げなどで情報を得られることが望ましいです。欧米ではWebアクセシビリティ対応が法律で義務付けられているため、アクセシブルな文書の変換・作成サービスを商材としている企業が複数ありました。文書のアクセシブル化というもののニーズがこれだけあるという点で、日本との差を実感しました。

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(9)アクセシブル文書作成コストについてのセッションのスライド。左の棒グラフは、Wordでの文書作成時に適切な構造化機能を使用することで工数が削減できることを示している。さらに、右の棒グラフではそのような機能を用いて作成したWord文書をPDFに変換することで、そうでない場合に比べて33%の労力でアクセシブルPDFが作成可能なことが示されている

日本とのニーズの差を実感する一方で、実務での共通点は非常に多かったです。まず私を含め各セッションの参加者には業務担当者が多かったようで、登壇者への質問はかなり実務的なものが目立ちました。

「Is Document Accessibility really cost prohibitive?(アクセシブル文書の作成コストは本当に高すぎるのか?)」というセッションでは、アクセシブルな文書作成のコストを削減して継続的に取り組んでいくためのポイントが述べられており、共感する点がたくさんありました。ちなみにアクセシブルなPDF作成の方法としては、Adobe Acrobat ProでPDFを開き、htmlと同じように見出しやリストなどのタグを後付けで設定していくのが一般的です。しかし、アクセシビリティを全く考慮せずにつくられた文書や、もともとがパンフレットなどの紙媒体用にレイアウトされた文書は構造化が困難なのと、タグ付け作業自体にもかなりの工数がかかる現状があります。セッションでは、まず文書をアクセシブルにしようとする前に、「そもそもこの情報が文書である必要はあるのか。同じ内容をWebページで提供してはどうか」という観点をもつべきである、ということが述べられていました。

他にもいくつかのセッションを聞きましたが、共通して語られていたのは「何も考慮せずつくったコンテンツを後からアクセシブルにすることは難易度が高い。もととなるデータを作成する時点から、アクセシビリティを考慮するのが重要」ということでした。これは文書に限らず、Webサイトの設計やコンテンツのデザインなど、何にでも当てはまることだと思います。

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(10)地図のアクセシビリティについてのセッションのスライド。より読みやすい地図にするための推奨書体サイズや、「使わない方がいい表現」が説明されている

近年は教科書のデザインにおいても、CUD(カラーユニバーサルデザイン)やUD書体使用の推奨など、特別支援教育への配慮が求められています。具体的に考慮するポイントとしては、使用色の組み合わせや明度差、書体の種類や大きさ、各要素同士のレイアウト、グラフの表現などが挙げられます。カラーコントラストや色に依存する表現の扱いなどは、まさにアクセシビリティに配慮したWebデザインと同じだと思います。

「Map Accessibility(地図のアクセシビリティ)」いうセッションでは、それこそWeb・紙を問わず応用できる具体的なデザインの工夫について発表されていました。例えば地図画像でしか提供されていない情報は、同等の内容を示す文章や表組と併記することで、スクリーンリーダーユーザーも同じ情報を得ることができます。他にも、色だけに依存する表現はNGである、文字を河川に沿わせるなどして天地が逆になるのは避ける、アイコンなどの凡例は文字もアイコンの側に併記する…などの方法が推奨されていました。これらは日本の教科書デザインにおいても全く同じ観点であるため、Web・紙といった媒体に関係なく、アクセシブルなビジュアルデザインで考慮すべき表現方法を再認識することができました。
なお、このセッションのスライドは スピーカーが所属するMinnesota IT Services (MNIT)の公式Webサイトで公開されています。
https://mn.gov/mnit/assets/presentation-csun_map-accessibility-2019_tcm38-374414.pdf

身体以外の障害をもつ方のためのアクセシビリティ

ディレクターの中村です。
身体的な障害をもっている方が、どのようにWebサイトを使っているのかについては、スクリーンリーダーやシミュレーションツールを使ってみることで、疑似的に体験することができる場合があります。ただ、身体的な障害ではない場合、どのように考えればよいでしょうか。
アクセシビリティ、と言うと、つい身体に障害をもつ方への対応のことばかりが語られがちですが、身体以外の障害(発達障害など)をもつ方を支援するためのセッションもCSUNでは多く開催されていました。

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(11)発達障害など身体以外の障害への支援について語られたセッションのスライドの一部

多くは、障害の特徴と支援方法が語られ、身体以外の障害へと目を向けるきっかけを与えてくれました。中でも、「一時停止、停止、非表示の重要性(The Importance of Pause, Stop, Hide)」というセッションでは、発達障害当事者であるShell Littleさんが登壇され、自らの経験をもとに、デジタルコンテンツの注意点を解説してくれました。

Shell Littleさんのセッションタイトルである「Pause, Stop, Hide」は、WCAG で一つの達成基準として定義されています。
参考URL:https://waic.jp/docs/UNDERSTANDING-WCAG20/time-limits-pause.html

この達成基準は、利用者がWebページを閲覧している間、他の事に注意をそらされないようにすることについてまとめてあります。
Shell Littleさんご本人が実体験を共有してくださることで、今までは想像でしかなかった状況を、現実として知ることができました。

身体以外の障害をもった方の Webアクセシビリティ向上については、これまで日本で議論されているのをあまり見かけたことがありませんでした。身体以外の障害をもっている方への意識が薄かったことを気づかされ、きちんと知る努力を行った上で検討する必要があると、あらためて認識することができました。

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(12)発達障害当事者であるShell Littleさんのセッションでの結論の一つ。「デザインを行う前に、障害を理解してください」

来年35回目を迎えるCSUNは2020年3月10日~13日にアメリカのアナハイム(カリフォルニア州)で開催されます。ご興味のある方はぜひ来年参加し、アクセシビリティについて視野を広げ、誰もが情報を得やすい社会を一緒につくれるようにしていきましょう。

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