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Funka Accessibility Days 2019参加レポート

  • 千田 汐香ディレクター

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Funka Accessibility Days 会場入口

こんにちは、インクルーシブデザイングループ ディレクターの千田です。2019年4月にスウェーデンはストックホルムで開催されたFunka Accessibility Days(フンカ アクセシビリティデイズ) 2019に参加してきました。今まで、アクセシビリティ関係の海外カンファレンスに参加したのはアメリカ開催のCSUN(シーサン)(詳しくはこちら:アクセシビリティをさまざまな角度から捉え直す)だけだったのですが、企業のグローバルサイトプロジェクトを任せていただくこともあるコンセントとしては、ヨーロッパの事情もしっかり把握しておく必要があると思っての参加です。

結果的には、ヨーロッパのトレンドを追えたこともよかったのですが、アクセシビリティ従事者としてこれから何をどうやって推進していくべきなのかをしっかりと考え、議論できたことが一番の収穫でした。当記事では、Funka Accessibility Daysの概要、主なセッションやトピックを紹介しながら、参加者との議論から得た、これから私たちが取り組んでいくべきと考えたことをお伝えします。

Funka Accessibility Daysとは

障害者の支援を目的としたスウェーデンの非営利団体「Funka」による北欧で最大のアニュアルカンファレンスです。FunkaはIAAP(世界的なアクセシビリティ資格とその機構の名前)の共同創立団体でもあります。毎年、このカンファレンスでは世界中のアクセシビリティエキスパートが集結し、知識や意見の交換を行います。

ICTアクセシビリティをテーマに2011年から計9回、ストックホルムで開催されており、2019年は、セッション数22、登壇者には世界の名だたるアクセシビリティリーダーが名を連ねました。また、スペシャルゲストでIBMフェローの浅川智恵子氏も登壇されました。

  • 開催地:ストックホルム(スウェーデン)
  • 開催期間:2019年4月9日〜4月10日
  • 言語:英語またはスウェーデン語。常時スウェーデン語の手話と同時キャプショニングが用意され、スウェーデン語で話されるセッションは英語の同時通訳(ヘッドフォン)が提供されました。

セッション紹介

主要テーマは「WAD」、「認知」、「トレーニング」

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カンファレンス会場の様子(画像のスライドはSusanna Laurin氏による「Vad Innebär det att fölla lagen?」の表紙)

2018年9月にEUで施行されたアクセシビリティに関する法律「European Web Accessibility Directive」の影響もあり、その説明や、どう準拠するかのケーススタディのセッションが多数ありました。その他、Webアクセシビリティの国際規格・WCAG 2.1の達成基準で重視されている「認知(Cognitive)」についてのセッションが目立っていました。

メインテーマではなかったものの、多くのセッションの中で「アクセシビリティに本当に必要なのは持続可能性。一度直すだけではなく、継続的にアクセシブルなコンテンツをつくれるような社内外ステークホルダーの教育やトレーニングが最も重要」と語られていたのが非常に印象的でした。

European Web Accessibility Directiveとは

図:WCAGの4原則「知覚可能」「操作可能」「理解可能」「堅牢性」

European Web Accessibility Directive(以下、WAD)は、平たく言うと、「公共機関の情報をデジタル化する専門のエージェントが WCAG 2.1の基準でWebサイトをモニタリングするフレームワーク」です。

WADの目的は、大きく2つあります。

  • 公共部門団体のWebサイトやモバイルアプリケーションが、ユーザー(特に障害者)にとってアクセスしやすいようにすることで、一人ひとりが社会や組織に参加できる機会を増やす。
  • 共通のアクセシビリティ要件を確立することによって、より効率的・包括的に国内市場の機能を向上させる。

適用範囲は、公共機関のWebサイトやモバイルアプリケーションです(公共放送局、NGO、学校・保育園・幼稚園を除く)。民間企業は、今のところ努力義務レベルでよいとのこと。ただし、付随して2019年3月に発効されたEuropean Accessibility Act(EAA)は、日本を本社におく企業のヨーロッパ支社の調達にも関わるのでチェックが必要です。

WADのフレームワーク

各公共機関のWebサイトに対して、どれほどアクセシブルかを政府機関/エージェンシーがモニタリング(目視および機械チェック)し、担当者にフィードバックを行います。そのフィードバックを各機関がEC(European Commission)に申告し、アクセシビリティの向上を目指し、改修やステークホルダーの教育を進めていきます。それを再度エージェンシーがチェックをする、という流れになります。申告に対するECからのフィードバックはありません。

図:WADのフレームワーク

WADのロードマップ

WADは2016年12月22日に発効されており、2018年9月23日以降に各機関が公開したコンテンツはすべて、2019年9月に向けて、WCAG 2.1に準拠する必要があります。また、その一方で2020年9月まで、既存のコンテンツもすべてWCAG 2.1を満たせるよう改修を進めます。モバイルアプリは2021年6月までが目処です。そして、2020年1月からEU加盟国の公共機関のWebサイトを対象としたモニタリングが開始されます。翌2021年の12月には、各機関はECにレポート提出をし、2022年6月に2度目のレビュー(モニタリング)が行われる予定です。

図:WADのロードマップ

FunkaメンバーによるWADの説明、スウェーデンやノルウェーの政府と協力して公共機関のWebサイトのアクセシビリティを改善し続けるエージェントによる対応方法の説明などのセッションが多数あり、一番議論が活発なトピックでした。

「認知」の制限に関わる障害とは

今まで、 Webアクセシビリティは、視覚障害に対応が寄りがちだったのですが、WCAG 2.1では認知についての達成基準が多く追加されました。では認知の障害とはどういったものでしょうか。

自閉症スペクトラム(ASD)の方は、感覚刺激への反応に偏りがあることが多く、聴覚、視覚、味覚、臭覚、触覚、痛覚、体内感覚などすべての感覚領域で鈍感さや敏感さが生じます。当事者の方がお話をされたセッションで、Webサイトの閲覧時に困ることをたくさん挙げてくださいましたのでいくつかご紹介します。

  • 認知障害は個人差が大きく、人によって情報をどう受け取るのかが異なるので、何か警告や重要な情報がある場合は視覚的な強調もわかりやすくしてほしいが、それだけではなく文字で「重要」などと示してほしい
  • Webサイト上でアクションが必要な場合(申込や購入など)は、何を決めればいいかの時間を十分に提供してほしい。また、そのアクションを完遂するために、これからどんなことをしなければならないか(数量を決める → カートに入れる → 決済方法を決める → 発送先を決める → 最後に内容を確認する → 完了、など)をあらかじめ示してほしい
  • いきなりカラフルになったり、オブジェクトが大胆に動くと驚いてしまうので、やめてほしい

一般的に、ASDの方々は、次に起こることを想像することが難しく、見通しをもつのが苦手と言われているようです。ユーザーが次のアクションを定めやすくなるよう同じパターンを繰り返し行うようなサイト設計にすることで、よりよいユーザー体験を提供できそうだと思いました。

ステークホルダーの教育とトレーニング

スピーカーの多くが、企業のアクセシビリティ専門家であったり、企業をサポートするアクセシビリティコンサルタントでした。明示的に教育とトレーニングのセッションはありませんでしたが、全員が教育とトレーニングについて課題をもっていました。リーガルリスクがあったとしても、Webアクセシビリティ方針を掲げていたのだとしても、現場では「難しいし工期も予算も足りない。そんな余裕はない!」との声がしばしば上がるのだそうです。

確かに、Webアクセシビリティの導入は最初はハードルが非常に高く見えます。私自身もその壁に日々ぶつかりながら、Webアクセシビリティを知って3年半、ようやく身近に感じられるようになりました。そして、日々の業務の中で、ほんの少しだけ気にするだけで、見違えるほどアクセシブルなWebサイトがつくれることを知りました。そして、アクセシブルではないWebサイトをアクセシブルに改修する仕事は、はじめからアクセシブルなWebサイトをつくるよりもはるかにコストがかかることも身をもって知りました。

セッション・スライド一覧はこちら

参加者との議論から感じたこと

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ランチタイムの様子。初対面の参加者が自由に議論を交わす

このカンファレンスの大きな特徴の一つでしたが、2日間缶詰で、食事も共にしながら議論をするという経験をしました。その中では、セッションでは聞けない、コンサルタントやアクセシビリティ専門家の本音も多くあり、「では、それを改善するためにどうすればいいのか」という話をたくさん聞けたし、たくさんのアイディアを議論できたと思います。

特に私の印象に強く残ったのは、「市場の活性化」と「教育」という二つの観点でした。

一社が頑張っても市場は拡がらない。人を巻き込み、共に育んでいく

日本には、Webアクセシビリティに関してのリーガルリスクがありません。だからこそ、私たち一人ひとりが、少しずつでも認知を広げ、トレンドをつくっていく必要があります。そうすれば、自ずと業界全体・一般の方の理解も深まっていくのではないでしょうか。私個人は、まずこんなところから取り組み始めています。

  • アクセシビリティに関する国内カンファレンスを規模に関わらず開催し、アクセシビリティ従事者を増やす
  • たくさんのアクセシビリティに関わっている方々と知り合い、Funkaでやったように積極的にアイディアを交換・議論しながらモチベーションを保つ
  • 「完璧な正解」は求めず、いろんなことを試して、よかったこととあまり効果的でなかったことをアクセシビリティ従事者同士で共有する
  • そして何より大切なことが、障害当事者や高齢者の生の声を聞き、「自分ごと化」を促進する

教育は長い目で、無理せず、できることから

このカンファレンスに行く前に、コンセント社内でアクセシビリティ勉強会を1年ほど実施していましたが、「難しそう」というイメージをなかなか剥がせず、途方に暮れていました。しかし、焦って「早く!できるようになって!」と急き立てることは、逆効果でした。

カンファレンスで出会ったアメリカ人コンサルタントも言っていましたが、「こちらが焦って押し付けると、相手は怖がって逃げていく」のです。教える側は無理せず、できることから教えればいいし、教えられる側もできることからできるようになっていけばいい。そうやって少しずつ全員が成長するだけでいずれは大きな変化になるのです。付け焼き刃ではなく、少しずつ文化として浸透させていくのは焦れったいかもしれませんが、結果を見ればその差は一目瞭然だろうなと思います。

最後になりますが、どの分野でも、新しい取り組みの意義や影響を誰かに理解してもらうことは簡単なことではないと思います。プロフェッショナルとして活動できるようになってもらうのは、それよりもさらに難しい。アクセシビリティ先進地域であるアメリカにもヨーロッパにもこの課題に対する絶対解をもっている人はいません。

しかし、その課題と向き合っていくことこそ、アクセシビリティエキスパートとして私たちが続けていくべき挑戦であり、その結果、世界中のインターネットユーザーが少しずつ幸福になっていけるのだと信じています。

[ 執筆者 ]

コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

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