社会性ある組織、そのためのデザイン 「事業性と社会性を両立させるUXデザイン」イベントレポート

2021年9月16日(木)、オンラインセミナー「事業性と社会性を両立させるUXデザイン」を開催しました。本セミナーでは、企業に求められ始めた「社会性」をデザインを通じてどのように実現していくのか、サービスデザイナーの小山田・UXデザイナーの黒坂の2名が話題を提起しました。
この記事では、セミナーで語った内容をダイジェスト・一部アップデートの上でご紹介します。

イラスト:近隣に住む多種多様な人々が助け合いながら暮らしている様子。

1.デザインの組織導入

登壇者:小山田 那由他

デザインが組織に必要となる背景

この提案をするにあたり、まず社会背景の視点から、組織にとってデザイン視点が必要となる理由を説明します。本セミナーおよび記事での「デザイン視点」とは、組織の課題解決や価値創出を行うために、顧客や従業員など立場の異なる人の視点をもつことを指しています。
近年、SDGs(持続可能な開発目標)をはじめとする国際的目標が掲げられたことも背景となり、組織が事業活動を進める上では環境価値・社会価値・経済価値の3つのバランスを取ることが前提となりつつあります。

例えば、演算処理負荷が高いウェブサイトデザインの環境負荷を問う声が上がった例や※1、個人情報保護法整備、アクセシビリティ担保の取り組みが進む状況からも、環境価値・社会価値の変容が見て取れます。そしてそれらに対する組織の対応は、顧客からの組織評価・購買・投資における意思決定に影響を与え、結果として組織の経済価値に寄与します。
このような背景から、組織は今、人間の在り方を中心としたデザイン視点をもち、事業活動に取り組むことが求められています。

※1 参考リンク:WIRED「これからのウェブサイトは『地球に優しい』ことも重要に? 見直されるシンプルなデザインの価値」(閲覧日2022年6月27日)

デザイン視点が欠けることによる悪影響

短期的な経済価値(利益)の優先やユーザーに対する考慮不足が要因となり、世の中に悪影響を及ぼすケースがあります。

一例として「ダークパターン」というものが知られています。ダークパターンとは「ユーザーを騙すインターフェイス」の総称で、ECサイトの商品選択画面にタイマーを表示してユーザーを急かすなど、サービス提供側の利益になるようにユーザー側の行動を誘導するのが特徴です。

一見すると利益向上のための有効な手法のように思えますが、短期的な利益向上はあっても、長期的に見ると顧客離れを引き起こす要因となり、顧客生涯価値(LTV:Life Time Value)の低下を招きます。さらにダークパターンは、UXデザインを通して顧客心理のコントロールを行っているケースが多くあります。これは、ユーザーに選択の自由を残しながらも設計者の望ましい方向に行動を導く「リバタリアン・パターナリズム」※2の観点から慎重な検討や判断が求められます。

※2 リバタリアン・パターナリズムとは、個人の行動や選択の自由を担保しつつ、個人を“よりよい”方向へ誘導すること。“よりよい”の定義には恣意性が伴うために慎重な検討が必要。

また、ユーザーに対する考慮不足によって悪意なくユーザーに重大な不利益をもたらす例もあります。2005年にロンドンの地下鉄で同時爆破テロ事件が起きた際には、緊急事態計画が職員向けにしかつくられておらず、ユーザー(乗客)の存在が考慮されていませんでした※3。そのため、爆発があったことを乗客から運転手に知らせる手段がなかったり、電車のドアを乗客が開けられる仕様ではなかったりしました。
このようにユーザーの存在が検討から外れている状況は、時に生命の危険につながる制度不備をも生じさせることがあるのです。

※3 参考文献:アマンダ・リプリー 『生き残る判断生き残れない行動』 筑摩書房, 2019年

サービスデザインが発揮する価値

長期的・包括的視点をもち、ユーザーと社会に価値をもたらすサービスや体験を生み出すためには、サービスデザインの組織導入が有効であると考えます。サービスデザインとは、あえて端的に言うと「誰かにとって価値あるサービスをつくること、そしてそのサービスが続く仕組み・運用方法を考えること」です。

サービスデザインは、実践するための「サービスデザイン思考の6原則」が提唱されていますが、明確な定義は存在しません。明確な定義をせず、原則に基づいて柔軟に対応することが強みでもあるためです。しかし、それは逆にサービスデザインを理解しづらくしている要因でもあります。
そのため、ここでは登壇者・小山田の視点から、サービスデザインの構成要素を下記のように整理しました。

資料:サービスデザインの主な4つの構成要素を説明している。反復的プロセスを示す「Human Centerd Design Prosess」、汎用的な思考法と組織導入視点を示す「デザイン思考」、包括的な視点を示す「システム思考」、モノorコトからサービスへ/価値共創を示す「サービスドミナントロジック」。

主な構成要素を、次の4つに定義しています。

  • 人間中心設計プロセス(Human Centered Design Process)

    ISOやJISで定義されている、利用しやすいインタラクティブシステムを開発するためのプロセス。

  • デザイン思考

    ユーザーを中心として、そもそもの課題を定義し、反復的に試作・テストを繰り返しながら製品・サービスを実現するための考え方。イギリスのデザイン・カウンシルやスタンフォード大学 d.schoolのフレームワークが広く知られている。図にはイギリスのデザイン・カウンシルのダブルダイヤモンドプロセスを転載。

  • システム思考

    物事を俯瞰的・体系的に捉えるアプローチであり、氷山の一角のように表面に現れている事象の裏側にどういったパターン・構造があるのかを考えることで、複雑な問題に対しても根本から解決を図れるようになる。

  • サービスドミナントロジック

    企業が提供する製品だけではなくその前後の体験など無形のサービスも含めて価値であり、さらにその価値は企業と顧客が共に創造するものであるという考え方。

これを踏まえ、サービスデザインの有効性を以下の通りに考えます。

  • 人間中心設計(HCD)の反復的プロセスやデザイン思考のダブルダイヤモンド(拡散と収束思考)は、不確実性の高い状況の中で解を求めるときに汎用的に活用できる
  • システム思考的で包括的にサービスを捉えるため、環境問題や多様性を踏まえた検討を促進できる
  • 人間中心設計(HCD)やデザイン思考を大原則としているため、ユーザーの不利益になるような体験設計を避けられる可能性が上がる
  • デザイン思考のフレームワークの一つであるダブルダイヤモンドプロセスは2019年の改訂を機に組織導入の視点も含まれたため、デザインの組織化を進める際には重要な考え方になる

デザインを組織に導入するために必要なこと

サービスデザインの組織導入は、リーダーシップの発揮やトップダウンでの意思決定のもと行われることが理想だと考えています。なぜなら、長期的・包括的なスコープでは利益などわかりやすい成果として表れにくいため、推進にあたっては評価指標などの整備が必要になるためです。

一方で、現場で実践しながら身に付けるボトムアップのアプローチも同時に必要だと指摘します。
なぜなら、ユーザー中心かつシステム思考の観点で価値を生み出すためには、これまでビジネスで求められることが多かった「ロジカルに解決策を導き出し最短で実行する」こととは正反対の思考で、実際に取り組みながら納得していく必要があるからです。
このように、デザインの組織導入を推進するためには、トップダウンとボトムアップの両方で活動の全体像を捉えることが重要※4です。

※4 参考:ミドルアップダウンでつくる「デザインする組織

また、組織にデザインの考え方を定着させるための重要な取り組みとして「デザインオプス」が挙げられます。デザインオプスは、組織でデザインの考え方を継続的に運用するものとして導入するためのアプローチの総称です。具体例としては、サービスの企画や改善のためにカスタマージャーニーマップを継続的に運用する「ジャーニーマップオプス」※5などです。

※5 参考:Journey Map Ops とは何か

デザイン活用事例とデザイナーの在り方

デザイン活用の事例を2つ紹介します。
1つ目は、米国のスタートアップ保険企業であるLemonadeです。Lemonadeは、若者に向けてスマートフォンで完結する現代的なサービスを提供しています。保険加入者は保険料をプールし、未請求分の一部は加入者が選択した慈善団体に寄付されます。「保険料が徴収された」という損失感をなくし加入者増を狙いつつ、未請求分の保険料を慈善団体に還元することで事業性と社会性を両立させています。

資料:アメリカのスタートアップ保険企業 Lemonadeにおけるデザイン活用事例。ミレニアム世代からの支持に加えて、複雑なサービス設計による利益構造隠しから脱却するアプローチに取り組む。それにより、時代と顧客にあわせてユーザー体験とシステムを変えた。

米国のスタートアップ保険企業 Lemonadeにおけるデザイン活用事例

また、2つ目は、JR西日本のホームベンチの事例です。ホームから線路への転落事故を防ぐため、顧客観察から得られた洞察をもとに、ベンチの向きを変更する対策を取り、事故の発生件数を減らすことに成功した取り組みです。この例のように、トップダウンでデザインの考え方を組織導入することが理想的ですが、ユーザー中心の視点を業務に取り入れて少しずつ成果を広げていくことも、社会性と事業性の両立には重要なアプローチです。

資料:JR西日本におけるデザイン活用事例。映像データをもとに転落する人の行動パターンを把握し、分析結果からポスターによる啓発・警備員の配置・遠隔セキュリティーカメラの開発などとおもにベンチの施策を実施した。またJR西日本では、約4年間で全駅の約1/3の駅がベンチを変更した(2019年3月末)。

JR西日本におけるデザイン活用事例

最後に

デザイナーは企業活動の中で“人間らしさを事業に持ち込む最後の砦”になり得ます。組織で活動するデザイナーは、ユーザー視点に立った提案が組織に受け入れられないという悩みをしばしば抱えることがあります。しかし、組織的にデザインの導入が難しい状況においても、デザイナーはユーザー視点をもち、活動し続けることが重要です。小さく活動を始めどのように展開していくかという、活動をデザインすることもまた、デザイナーがチャレンジしていくべきことの一つです。

2.デザインシステムの活用

登壇者:黒坂 晋

デザインシステムは人間中心を駆動するエンジンとなり得るのか?

コンセントでは、デザインシステム※6を「よいデザインを一貫性をもって提供するための仕組み」と定義しています。世の中の企業や行政などが公開しているデザインシステムを見てみると、つくる目的によって、当然その内容が異なっていることがわかります。

※6 参考:デザインシステムとは何か

資料:デザインシステム古今東西。デザインシステムのタイプを大きく2種類に分類している。1つ目「私企業×総合型」タイプの例として、欧米ではAtlassian・Google・Uber・Adobe、日本ではメルカリ・SmartHRを上げている。2つ目「政府系×ウェブサイト型」タイプの例として、イギリス・アメリカ合衆国・デンマーク・カナダ・シンガポールを上げている。

例えば私企業×総合型は、ブランドがもつ思想からあらゆるタッチポイントにおけるコミュニケーションに関する内容まで、網羅的な点が特徴です。一方、政府系×ウェブサイト型は、基本的にウェブサイトというタッチポイントにおける設計思想・パターン・UIコンポーネントに対する内容が記載されているのが特徴です。

含まれるコンテンツに差異はあれ、いずれにも共通していることがあります。それは「何をよいデザインとするか」という指針や基準と、それを「どのように実行するのか」という手段がセットになっていることです。そのため、デザインシステムは発信主体(企業・行政)が、社会やユーザーに対して効果的に価値を届ける仕組みであると捉えることができるのです。

デザインシステムの価値を高める2つのポイント

デザインシステムの価値を高めるには、「内容」と「ツール」の2つをポイントとして意識することが重要です。
まず「内容」では、前述の指針や基準「何をよいデザインとするか」と、手段「どのように実行するか」の2つが定義されていることが不可欠です。

  1. 1.内容としての価値

    指針や基準「何をよいデザインとするか」

    • 記載する内容
      • 事業が社会やユーザーに提案したい価値やアウトプットにおける原則等
    • 期待できる効果
      • 一時的・属人的な感情や社内の政治判断に左右されにくくなる
      • 客観的な評価基準・第三の目となるため、ダークパターンの抑止にもつながる

    手段「どのように実行するか」

    • 記載する内容
      • 色・形・言葉遣いのルールやパターン、資料のひな型など
    • 期待できる効果
      • さまざまなステークホルダーがブランド価値の維持に貢献できる。ブランド価値の維持は、ユーザーのサービスへのロイヤリティ向上に寄与する点であり、長期的に見て費用対効果が大きい
      • ユーザビリティ維持に貢献できる。特にデジタルタッチポイントにおけるUIパターンやコンポーネントの整備は、ユーザーの学習効率が上がるため貢献度が高い

次に、「ツール」としての価値についてです。以下の例のように、新しいデザインツールが導入されて普及するたびに、世の中のデザインに対する考え方やプロセスも徐々に変化(進化)しています。

資料:使うコミュニケーションツールが変われば考え方やプロセスも変わることを、3段階に分けて説明している。1:プロトタイピングツールの普及:ProttやInVisionなどの普及により、デザイン承認までに「触ってみる」という工程が自然と入ることでUX向上への取り組みが増えた。2:プロトタイピングの高速化。SketchやAdobe XDなどの登場により制作ツールとプロトタイピングツールの垣根がなくなり、ユーザーテストのスピードが早まった。3:コラボレーションツールの台頭。Figmaやmiroの登場により職種を超えたコラボレーションが加速、経営層などとの共創によりUX向上に取り組めるようになった。

このことを踏まえると、デザインシステムを新たなツールの一つとして導入することにより、組織全体の考え方やプロセスに一石を投じる形となります。これが、よい意味での変化をもたらす影響を与え、徐々に新しい形として定着していくことが期待できると考えています。

デザインシステム導入に際しての助言

デザインシステムの導入にあたっては、小さく始めることが重要です。小さな成功体験をつくりながら、組織全体の成功体験へと昇華させるように段階を踏むのがよいでしょう。なぜなら、大々的に始めても使われない状況が続くと失敗体験として捉えられてしまい、リスタートのハードルが高くなる可能性があるからです。

具体的には、次のようなステップを踏みながら導入することを提案します。

  1. 1.目的を整理する
  2. 2.試しにつくって、使ってみる
    • 最初からウェブサイト上に構築するのではなく、FigmaやMiroなどスピーディーに共有しやすいツールに情報をまとめていく
    • 画面の切り貼りを集めるところからでよいので、どういったところに統一性がないのかを見つけることから始める
    • 集めたものから法則やルールをまとめる
    • まとめたものを、企画会議やデザイン提案などで実際に使うことで定着させる
  3. 3.ファンを増やす
    • さまざまなステークホルダー(営業や広報など)を巻き込み、中身の拡張・改善を繰り返していく
    • プレゼンや意思決定の場で粘り強く使い、議論の場で欠かせないツールへと育てる
    • 共有資産(=デザインシステム)を求める人たちのコミュニティを育てるイメージで働きかけ続ける
    • 責任者(“デザインシステムコミュニティ”のマネージャーのようなイメージ)を立てる。オープンなツールにありがちな主体が曖昧になる状態を防ぐ

最後に

デザインシステム導入で最も重要なのは「つくって終わりにしない」ことです。プロセスやコミュニケーションを変えるためには、新しいデザインシステムが利用するユーザー(従業員)にとって使いやすく、使いたくなるものであることが何よりも大切です。そのため、内容もさることながら上述の3ステップ目のように「ファンを増やす」行動を取ることで、最終的には「あると便利」から「ないと困る」という状態までもっていくことが理想です。

社会性を備えた事業を継続し、長く愛されるサービスを提供するためのデザインの組織化については、まだまだ議論が山積みです。デザインシステムは、それを一歩先へ進めるためのツールの一つにすぎませんが、そういう小さなところから踏み出すことも重要だと考えています。

コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

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