デザイン組織化に向けた成長のループ

実践から見えてきた機能的な組織変革

  • 大崎 優取締役/シニアサービスデザイナー

中央に「DESIGN MANAGEMENT」のタイトルがある。黄色を基調とした背景には、円柱が不規則に並ぶ3Dグラフィックス。

こんにちは、コンセント シニアサービスデザイナーの大崎です。

経済産業省・特許庁による「『デザイン経営』宣言」が発表され4年目になろうとしています。デザインを戦略的に活用し競争力を高める必要性は周知のものとなり、その導入事例も多く目にするようになりました。

私たちコンセントは、デザイン経営を支援する「Design Leadership」の活動において、さまざまな企業に伴走し、その実行支援に当たっています。デザイン組織化の要請が成長期に差し掛かるなか、社内にデザインニーズはあるものの、技術や人材が追い付かないという声をたびたび聞くようになりました。

大学をはじめとした教育機関は、ここ数年で必要人材の育成カリキュラムを整備し、社会への供給を進めています。しかし、企業間競争では待ったなしの状況にあり、外部のデザインプロフェッショナルの手を借りつつも、今いる人材や今ある技術でいかに効率的にデザイン経営を実現できるかが論点となっています。

デザイン導入は企業の固有の状況において、さまざまなパターンが存在します。今回は、多くの業界や状況に共通した機能的なデザイン経営導入方法について、企業を支援してきたコンセントの視点からお話しします。

※この記事は、社会人のための“未来の学校体験”「Xデザイン学校(X DESIGN ACADEMY)」2020年度リーダーコース「デザインマネジメント」講座(2020年11月開催)において筆者が行った授業のごく一部を抜粋し、紹介しています。

デザイン責任者の業務や責任

「『デザイン経営』宣言」では、「デザイン経営」と呼ぶための必要条件は「経営チームにデザイン責任者がいること」と定めています。デザイン責任者・CDO(チーフ・デザイン・オフィサー)やその代行の実務者が受けもつ業務は、コンセントの支援実績からおおむね下記のようにまとめることができます。

業務を一覧化した図。<br>
経営戦略の立案・実行:経営への提言や、経営課題のデザインによる解決。<br>
デザインプロジェクト運用:プロジェクト実行指揮/品質管理。<br>
文化・認知のデザイン:インナーブランディングの推進・支援/アウターブランディング・PRの戦略策定・実行。<br>
組織変革:横断的顧客視点を重視する組織への変革推進/内部連携・調整、意思決定のデザイン。<br>
体制構築・資源管理:社内外のデザインチームの資源管理/デザイン人材の育成・評価・採用/デザインシステム等のしくみ・ツールの開発・運用。

デザイン責任者・実務者は、デザインプロジェクトの実行指揮に当たることはもちろん、デザインシステムに代表されるような、デザイン資産に一貫性や運用効率性をもたらすしくみの開発・推進も視野に入れた活動が求められます。さらに自社ビジネスを横断的に改善する組織変革の旗振りや、デザイン人材のマネジメントも責任範囲に入ることもあり、業務が非常に広範囲にわたることも珍しくありません。

業務が広範であるがゆえに、どこを優先的に着手すべきか判断しづらかったり、それぞれを個別最適的に別チームにて実行することで、施策の一貫性が保たれず効果が薄れたりすることもあるようです。

そういった状況から、業務のそれぞれの因果関係を整理し、無駄なく一貫性をもって推進するためにまとめたフレームワークが下記の図です。

成長のループを回し、早期にデザイン経営を実現する

成長のループを表した図。反時計回りに「デザインプロジェクト運用」「文化・認知のデザイン」「組織改革」「体制構築/資源管理」が円状に並び、ループするように矢印で繋がっている。

順を追って説明します。

まずは、業務の基本軸として位置付けられる「デザインプロジェクト運用」(図下)から。目的は、既存サービスの顧客体験を高めるためであったり、新しい事業ドメインを創造するためであったりします。サービスデザイナーやUXデザイナー、UIデザイナー、コミュニケーションデザイナーらが活躍し、事業の体験価値を高める有形・無形のデザインを実現します。

その活動は同時に、デザイン人材・技術の育成機会でもあります。一部のケースでは、明示的にOJTの人材教育も視野に入れ育成成果を定めて業務を行います。コンセントのような外部のデザインエージェンシーがデザインプロジェクトに参画し、人材・技術育成も含めて支援に当たることもあります。例えば「ライブトレーニング」の手法を活用し、必要人材がデザインプロジェクトを運用できるように伴走支援します。これによって、企業の「体制構築・資源管理」(図左)にも好影響を両得することができます。

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「ライブトレーニング」を実行した「神戸市 生活保護業務のサービスデザイン支援」の事例

「体制構築・資源管理」を二次目的とした「デザインプロジェクト運用」は、将来的な品質向上を期待するものであると同時に、巻き込むメンバーを工夫することで、「組織変革」(図上)の土台づくりとして機能させることもできます。プロジェクトの実行過程で、対応する各部署を巻き込み、実現に向けた組織横断での施策を共創的に検討していくのです。

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組織横断的なビジョンと実現施策の具体化を行った「西日本旅客鉄道(JR西日本)鉄道利用体験におけるサービスデザイン」の事例

デザインプロジェクトを通じて体制構築や組織変革を目指していく動きは、効果的であるものの欠点もあります。それは組織規模の大きさや複雑さに比例して実現スピードが遅くなること。つまり人的な関わりを通じたものであるため、大規模な組織を早期に変化させることには対応できないのです。

そこで必要になるのが「文化・認知のデザイン」(図右)です。いわゆるブランディングの観点から、内向きにはデザインのビジネス貢献の認知を形成し、外向きにはデザインに強い自社像を立体的に示していきます。

そのときに、双方から重視されるのはデザインの「わかりやすい成果」。社員が自分の家族に「すごいでしょ」と紹介できるレベルでのわかりやすさ。テレビ等のマスメディアでデザインプロジェクトの成果が紹介されたり、国内外のデザインに関する賞を受賞するなど、企業がデザインに強いという認知を、PR視点で意図的に仕掛け、社内外のステークホルダーを活気づけることが肝要です。

ブランディングの効果は採用や他企業との協業、外部人材の調達にも好影響を与えます。とりわけ採用においては、デザイン人材の供給が不足している昨今では極めて重要であり、早期に成功事例をつくって弾み車を回すことが重要になります。

ループを回すための成果指標

このような結果として、組織変革が進めば、社員全員が「デザインの目」で事業課題を発見し、解決のプロトタイピングを進められるようになります。企業や事業・サービスの現況を観察し、あるべき姿とのギャップの中から問題を定義し、デザイン責任者へ合理的な協力要請が入るようになるわけです。

企業が置かれる環境から、何に最初に着手すべきかに正解はありません。重要なことはそれぞれの施策の影響範囲を見極め、因果関係がつながるよう、活動を有機的に設計することです。そのために必要なのは、個々の活動に成果指標を設定し、何を達成したら他の活動にどう影響するかを定性・定量的に定めていくこと。指標を置くことで、その振り返りの中から成功要因を発見し、横展開していくことで組織化の回転を早めることも可能になります。

デザイン責任者・実務者は、企業のデザイン能力を高く保つだけでなく組織体を変革することも求められます。それは成り行きの活動だけでは達成できず、活動の因果関係を整理し、年単位のロードマップをもとに組織を推進することで、早期にデザイン経営を実現できるようになるのです。

[ 執筆者 ]

コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

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