BtoBマーケティングに必要な「組織設計」 自社での実践から得た気付き

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  • ⽯野 博⼀

    ⽯野博⼀プロデューサー/Marketing group マネージャー

BtoBマーケティングの実践に必要な「組織設計」

コンセントの自社マーケティングを統括している石野です。この「ひらくデザイン」シリーズが掲載されているコンセントウェブサイトの編集長も務めています。

コロナ禍以降、特にBtoB分野におけるマーケティング活動のDXに注目が集まりました。奇遇ですがコンセントではその前年、2019年度からMarketing group(以下、マーケG)が発足し、マーケティングのDXを推進しています。ぶっちゃけますとコロナ禍初年である2020年度のプロジェクト依頼数は例年より減少しましたが、2021年度は過去最多レベルまで復調し、2022年度も引き続き好調を維持しています。

この記事では、私がこの4年間に担当者として経験した「BtoB」「ソリューション提供型」「中小企業」のマーケティング活動における課題と対応策についてお伝えしたいと思います。同じような立場の方の参考になればうれしいです。

BtoBマーケティングには定石がある

「BtoBマーケティング 実践」などのワードで検索すると、たくさんの書籍や記事がヒットします。マーケGの発足当初、私も先行事例把握のためさまざま読みましたが、共通して語られる定石のような王道の施策が存在します。

BtoBマーケティングのコンセントの実践例。マーケティング方針策定、リードジェネレーション、リードナーチャリング、フィールドセールス、リテンションの5つのフェーズがあり、それぞれでメール配信などの施策を実施している。

王道の施策、のコンセント実践例

そのままコンセントに導入できるのだろうかという疑問はあったので、顧客調査などを実施して検討した結果、細かなカスタマイズ調整レベルで導入できそうだという結論が得られました。導入して大成功!めでたしめでたし。……ではない難しさが潜んでいることに、当初は気付いていませんでした。

企画、説明、調整、調整、調整……

これってマーケティング?ブランディング?

コンセントのケイパビリティーを伝えるコンテンツ制作はマーケG発足前から行っていましたが、明確にリード(見込み顧客)獲得を目的とした内容・頻度ではありませんでした。そのため、リード獲得を強く意識したコンテンツ発信へ転換しようとした段階で最初のつまずきが起こりました。それは「コンセントとしての」発信を管轄するPR・広報部門との意見の違いです。

マーケG「SNSを使ったこんな発信を行いたいのですが」
PR・広報「その表現はコンセントのブランディングにそぐわないのでは」
マーケG「でもリード獲得につながるか検証したいんですよね」
PR・広報「ブランド毀損にならないかを考えたいです」

リードを獲得したいマーケGと、ブランディングを管理するPR・広報とでは部署ミッションが異なるため、話が噛み合わないことがありました。顧客へのメール配信、SNSでの発信など「コンセント」を主語にしたコンテンツ発信にはPR・広報の承認が必要なため、企画するたびに趣旨説明と調整が発生します。

コンテンツって誰がつくるの?

また発足1年目、2019年度のマーケGはメンバーが5名。「管理部門であっても現場感覚をもつ」「収益を上げて事業部門に対してもプレゼンスを維持する」という目的から、私を含む4名はクライアントワークを兼ねており、他1名も短日勤務という業務スタイルでした。そのためリソース状況として、新規コンテンツをつくる際には他部門の力を借りる必要がありました。ここでも趣旨説明と調整が発生します。

施策の企画→実行→効果検証をスピーディーに回すことはBtoBマーケティングの肝ですが、現実では企画から実行までに発生する「説明・調整」にパワーを奪われ、徐々に発信意欲そのものが低下するという状況に陥りつつありました。私自身も非常に愚痴っぽい性格に……これではいかん。

BtoBマーケティング実践の鍵は組織設計

目的思考であるべきマーケ部門像を描く

そこでコンセントにおけるマーケティングとブランディングの役割について整理しました。成果として目指す時間軸こそ差はありますが、自社コンテンツを発信して認知・興味・関心を拡大するという目的と活動は非常に近しいです。

  • マーケティング=市場創造を担う
    コンセントが存在し続けるための手段と手法を考え、顧客獲得の施策を繰り返していく取り組み
  • ブランディング=存在意義を担う
    コンセントの存在意義を考え続け、ステークホルダーの共感と信頼を得ていく長期的な取り組み

これを下地に、マーケGとPR・広報部門の統合による活動強化を役員に提案しました。同時に、コンテンツ制作スキルをもつ事業部門メンバーの異動も提案し、マーケティング・ブランディング・コンテンツ制作を自己完結できる部署としてリスタートしました。

マーケGにPR・広報部門が統合され、コンテンツ制作スキルをもつ事業部門メンバーが異動した図。

活動2年目、2020年度のマーケG。PR・広報部門との統合により責任範囲が増したが、メンバーも増えて活動総量が向上した。

これにより、PR・広報視点でのブランディング留意事項の共通理解がマーケG内で得られ、ブランディングに則ったコンテンツ企画・制作を行えるようになりました。発信のための調整時間も、それによるストレスも大幅に削減できました。

事業部門との連携を強化する「相談窓口」の設定

次に、コンテンツのもととなるデザインプロジェクトや知見をもつ事業部門との連携も強化すべく、マーケGから各事業部門に「マーケティング担当者」を設定しました。事業部門の定例会議に参加するなどしてコミュニケーションを増やし、部門が抱えるマーケティング課題のキャッチアップと、発信すべきトピックの相談を受ける・提案する役割を担います。

正直なところ、私=社歴の長いマネージャーにいきなりラフな相談をすることに躊躇する部門もあったようです(寂しい)。そのため自部門担当者というオフィシャルな相談窓口ができたことで躊躇がなくなり、思いつきレベルの会話から具体的な施策検討につながる動きが生まれ始めました。

この取り組みに対しては、事業部門マネージャーからも「相談する際の迷いがなくなった」「自部門の課題整理に役立った」「スピーディーに施策を打てるようになった」という反応が得られました。期間限定で試してみて……という形でスタートしましたが、現在では定着しています。

各事業部門に対してマーケGの「部門担当」を配置し、部門担当を通じて事業部門とマーケGのコミュニケーションが増えたことを表す図。

活動3年目、2021年度のマーケG。組織全体に「マーケティング血管」ができて、身体中に血が巡っているような感覚を得た。

BtoBマーケの頻出問題「営業との連携」の解き方

活動4年目の2022年度には、マーケティングで得たリードとの商談機会を増やすため営業部門との連携強化を行いました。以前より営業部門にはリードナーチャリングした顧客に対してインサイドセールスを行う「役割」を務める担当者がいましたが、営業活動全体におけるインサイドセールスの優先順位が低かったこともあり、なかなか活動量が上げられない状況にありました。このことは営業部門でも課題として認識されていました。

そこで「インサイドセールスで成果を上げる」ことを活動目標に置いたメンバーを営業部門からマーケGに異動してもらい、専任でインサイドセールスを行うという連携を実施しました。当たり前ですが、異動したメンバーは営業部門メンバーと旧知の仲、かつ行動原理も十分に理解しているため、リードナーチャリング→フィールドセールスへの接続がスムーズに進むようになりました。

マーケG領域と営業部門領域をインサイドセールス担当がつないでいる図。

営業部門出身でマーケGに所属するインサイドセールス担当が、両活動の橋渡しとして機能している。

ここまででコンセントのマーケティングDXはいったんの完成を見ました。マーケティングにおける部署間の連携にはさまざまな方法が取れると思いますが、コンセントのようなデザイン経営に取り組む中小企業であれば、目的に対して組織側を変更することが最も進めやすく効果的だと考えて実行しました。これについては企業ごとの最適解があると思うので、特徴に合わせた検討が必要です。

立ち上げ期から成熟期へ進むために

コンセントは変化の速いデザイン業界に属しているソリューション提供型企業です。社会の中で価値ある存在であり続けるためには、トップダウンでの方針策定はもちろんですが、社員側にも時流の変化をキャッチして一歩先を行く提案を行う姿勢が欠かせません。

目の前のクライアントに対してビジネスを前進させるための「発見」を提供すること、また社会に対してデザインに関するノウハウを発信することが、コンセント全体で行うべきマーケティング活動の基本です。

自社のマーケティング部門に所属していると、市場からコンセントを見る視点、マーケットインで企画を考える習慣が身に付きます。そのためマーケGの活動と成果についての社内共有、またマーケGと事業部門間での人事交流を定期的に行うことが、自社マーケティングを立ち上げ期から成熟期へと進めるために必要なことなのだろうと考えています。

[ 執筆者 ]

コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

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