デザイン組織の立ち上げから成長期まで 4人のマネージャーが語る、デザイン組織の作り方(1)

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    岩楯ユカ広報/役員アシスタント

ここ数年、さまざまな業界においてデザイン組織を立ち上げたり、強化に取り組む企業や行政、各種機関が増えています。デザイン組織づくりにはどのような課題があり、それをどのように解決していけばいいのでしょうか?

本記事では、デザイン組織の「立ち上げ期」と「成長期」におけるマネジメントのポイントをご紹介します。

写真:対話に参加したメンバー5名の集合写真

これまでコンセントでデザイン組織の立ち上げや強化を支援してきた中での気付きとして、企業などが直面している問題は、コンセントが2012年にサービスデザイン事業部を立ち上げてから2022年に至る10年間で経験してきた問題に似ている、ということがあります。

当初7人で立ち上げたサービスデザイン事業部は、現在45人ほど(2022年3月時点)が所属する部署となりました。今回、デザイン組織づくりやマネジメントに生かせる考え方や視点を共有すべく、コンセントでサービスデザイン事業部を立ち上げ成長させてきた4人のマネージャーの対話を実施しました。サービスデザイナーの成瀬が聞き手となり、4回に分けてお届けします。本記事は第1回です。

対話シリーズ第2回(本記事後編)「デザイン組織はどうつくる?【後編:成熟期〜変革期】」を読む

コンセントのサービスデザイン事業部の変遷図。2012年から2015年を立ち上げ期、2015年から2019年を成長期、2019年から2020年を成熟期、2020年から2022年を変革期としている。

サービスデザイン市場の背景と、コンセントのサービスデザイン事業部の変遷図。

「強い」リーダーシップ[組織立ち上げ期]

組織全体をトランスフォーメーション

− 海外を中心に新しいサービスが次々と生まれ、国内では焦りを伴って新規事業創出が叫ばれていた2010年代初期。サービスデザインのアプローチがそのニーズにフィットすると考え、コンセントではサービスデザイン事業部を新設しました。Service Design Global Conference(編注:サービスデザインの国際組織Service Design Network<以下、SDN>が定期開催している、サービスデザインに関する世界最大のカンファレンス。以下、SDGC)に初参加した翌年の2012年のことです。

今では企業や行政などでもサービスデザインの認知は浸透していますが、部署を立ち上げた当時は「サービスデザインを知らない方の方が多く“サービスデザインとは何か”というところからお客さまに説明していました。サービスデザイナーという職種自体が違和感のある職種として見られていたような時代」(大崎)と言います。

市場における認知度が低かったサービスデザインを広め、事業として成長させていくために、組織にはどういったマネジメントが必要になるのでしょうか?(成瀬)

写真:対話中の成瀬

成瀬有莉(株式会社コンセント サービスデザイナー)
上智大学経済学部卒。組織におけるデザイン導入、組織支援に興味をもち、2019年にコンセントへ入社。入社後は2020年よりサービスデザイン事業部に所属。サービスデザインのプロジェクトにおいては、最終的なユーザーへの価値提案を主眼としつつ、クライアントである事業者側の事情とのバランスを取る役回りとして機能することを目指して取り組んでいる。

大崎:2012年当時、コンセントにとってサービスデザインという領域は、新規事業の枠組みでした。

当時も、もちろんデザイン制作という側面だけではなく、デザイン戦略面も意識して事業を行っていましたが、サービスデザインという新規事業を開発しながら、「コンセントという組織全体をトランスフォーメーションしていこう」ということを、新たに立ち上げたこの部署の重要なミッションに位置付けていたのです。そのため、お客さまに対してはサービスデザインの概要や有効性を伝え市場を広げていくと同時に、社内啓発にも力を入れていました。

私自身、アートディレクターからサービスデザイナーに転身したという、当時の社内でも象徴的な人材と言えました。同じように営業から転身した赤羽さんと一緒に、サービスデザインプロジェクトを自分たちで実践しながら、社内メンバーに「こういうデザイナーの可能性もあるよね」「こういったデザインプロジェクトの可能性もあるよね」ということを社内で伝え続けました。

立ち上げ時のメンバーは7人で、私が赤羽さんにマネージャーを引き継いだ2015年には十数名の部署になっていましたが、人によって意識レベルもさまざまでした。ほんの数名の属人的スキルに頼るような組織ではスケールアップは見込めません。個々が成長し続ける文化を組織として根付かせたいと考えていたので、立ち上げ時から、学習することをすごく重視し、メンバーが自分自身の成長に対してどうコミットするかをしっかり認識できるような動機付けを大切にしていました。

写真:対話中の大崎

大崎 優(株式会社コンセント 取締役/デザインマネージャー/サービスデザイナー)
2012年にサービスデザイン事業部を立ち上げ2015年までマネージャーを務める。以後は取締役として管掌。現在、Design Leadership部署にも所属。
組織づくりで大切にしていること:メッセージをシンプルにすることと、成長のアクセル・ブレーキに常に気を配ること。ぶれない方針をつくりつつ、ぶれてもよい部分は創発性に委ねる。また、わずかな風向きの変化にも敏感になり、アクセルを踏むべきタイミングでちゃんと踏むこと。

社内摩擦を恐れない組織運営

−新しい部署は、時に社内からも少し距離を置いて見られることもあると思いますが、サービスデザイン事業部はどうでしたか?(成瀬)

大崎:当時、プロジェクトリードを担当できるのは私と赤羽さんしかいませんでしたので、最初はとにかく「2人で属人的にやってきたことを、いかに人を巻き込んでやっていくか」がテーマでした。そのため、「“できない人”ではなく、“できる人”に合わせる」「成長しなきゃ駄目」といった感じのドライブのかけ方をしていたので、今では想像がつかないほどマッチョな組織だったと思います(笑)。

当時、他部署のメンバーからは「つらそう」「サービスデザイン事業部に関わると大変そう」と見られていたと思います。ただ、そうやって立ち上げ当時は社内からはネガティブに見られることもあったものの、時が経過するにつれて良い仕事や良い人材が集まるようになりました。上も下も横も、全方向からコミュニケーションしながら進めていたことが効いたのではと思っています。

写真

立ち上げ初期の事業部ミーティング「サービスデザインブートキャンプ」。写真は有志による就業後の特別回の様子

組織の立ち上げ期として、「新しいことをやる」マインドと成長へのストレッチをかけるためには、戦略的孤立とも言える他部署との意図的な文化的断裂をつくったり、「これまでの自分たちじゃいけない」というある種の自己否定も含んだチームマネジメントが必要だと思っています。

立ち上げ期において、マネージャーは摩擦を恐れない覚悟が必要です。事業の立ち上げには、なんとしても成果を上げるというマインドを全員がもつことが大事ですが、マネージャーが「恐れたり」「避けたり」すると組織全体にそうした雰囲気が伝播し、必要なマインドセットが醸成されません。

議論よりも、まずはやってみる[成長期]

「答えはマーケットにある」方式

−サービスデザイン事業部の立ち上げから2年ほど経た2014年頃には、新しい事業部がいくつかできたと聞いていますが、サービスデザイン事業部だけが2012年の新設から現在(2022年3月時点)に至るまで10年ほど続いています。組織が継続できる要因は何かありますか?(成瀬)

大崎:組織の継続には、仕事の引き合いがあり成果を出し続けることが一番ですが、マネジメント観点から言えば、市場ニーズの拡大を見据えてサービスデザインという価値提案ができたこと、そしてその価値を高め続けようとするマインドセットと変容し続けられる組織づくりができていることが要因だと思っています。

先ほども話したように、私と赤羽さんだけが仕事をしても他のメンバーが付いてこなければ、拡大の可能性がない組織になってしまいます。若手を入れるだけではなく、若手に主体性をもたせるためのサブチームをつくって組織のサスティナビリティを上げたことは、気を付けていたポイントです。

赤羽:少し言いにくい話ではありますけど、他の新規事業部では「そもそも〇〇(その事業)とは何か?」を議論している印象があったんですが、サービスデザイン事業部では、「このサービスデザインが正しい」といった議論をあまりしなかったことが一つあるのではと思っています。

写真:対話中の赤羽

赤羽 太郎(株式会社コンセント サービスデザイナー)
2015年から2019年までサービスデザイン事業部のマネージャーを務める。現在はDesign Leadership部署に所属。
組織づくりで大切にしていること:マネージャーの示す方針はメンバーの働き方や考え方に大きな影響を与え得るので、自分も相手も納得できる言葉やストーリーに落とし込めるよう、よく考えるということ。あとは思ったように狙った変化が起きなくても、それも前進と考えてへこたれないこと。

お客さまは別に「サービスデザイン」を必ずしも求めているわけではありません。その企業の課題解決ができるなら、組織デザインだろうが新規事業開発だろうがエスノグラフィー調査だろうがプロトタイピングだろうが、何だってやっていました。

そもそもの議論よりも、「何がサービスデザインのバリューかがわからないから、まずはやりながら探そう」という感じで進めたんですよね。「クライアント」と「実績」をつくっていきながら、本質的にどういうところをやるべきかを探っていったり、実績をもとに営業をがんばったり、外部セミナーに登壇したり、自社セミナーを開催したり、サービスデザイン関連書籍の翻訳をしたり、メディアの取材を受けたり。そうしたことを積極的にやっていった結果、仕事をいただき、それを実績にして発信するというサイクルが、比較的回りやすい部署になっていったのではないかと思います。

写真

毎回、サービスデザインに関連するテーマを設定し、2019年まで40回近く定期的に開催していた「Service Design Seminar」の様子。

写真:監修や監訳、翻訳、編集協力した書籍の集合写真

研究・普及活動の一環として、サービスデザイン関連書籍の監修や監訳、翻訳、編集協力も継続的に行っている(各書籍の出版社である株式会社ビー・エヌ・エヌ、株式会社サウザンブックス社、丸善出版株式会社より許可を得て撮影。各書籍情報は本記事の最後にあります)。

大崎:「答えはマーケットにある」という価値観があったからですね。新しく組織をつくると、「私たちは何者か、何者であるべきか」といった議論に時間を割いてしまい、しばらく活動が進捗しない状況が起こりがちですが、「そうした議論をやらない」という決断をしたわけです。

課題感をもって市場動向と対峙することで、組織のバリューが明確に

−立ち上げから3年経った2015年、部署内に営業担当を入れ10人前後となったサービスデザイン事業部。まだ模索期から抜けきれていない段階だったといいます。そこにはどんな市場変化があったのでしょうか?(成瀬)

赤羽:僕がマネージャーになって間もない2015年当時、サービスデザイン領域では、組織のデザインに関わる仕事もありましたが、まだまだ新規事業開発をして、ビジネスの実装システムの開発に関わるようなプロジェクトが主でした。ただそうしたプロジェクトは、仕事としては利益が出せる一方で、ビジネスコンサルタントやシステムコンサルタント寄りの関わり方とも言え、僕たちの「デザイン」ならではのバリューを十分に発揮できるわけではない、というところに悩んでいました。サービスデザインエージェンシーとして、どの範囲にどう関わるのかというスタンスをきちんと考えていかなきゃいけないなと。

背景には、サービスデザインに求められる企業ニーズの変化があります。大崎さんがマネージャーだった部署立ち上げ期は、事業開発のインサイトを探るというニーズが多かったのですが、3年経ち、市場にリリースするところまで支援することを、多く求められるようになりました。

それまではマーケットイン型でしたが、「組織の課題に対してこういう関わり方をすることが、僕たちサービスデザイナーのバリューを一番出せることになります」ということを提示する必要があると思い始めたのはこの頃です。

−具体的にどのように組織としてのバリューを見いだしていったのでしょうか?(成瀬)

赤羽:世界のサービスデザイン活用に関する調査・分析レポート『Service Design Impact Report : Public Sector』(編注:SDNが2016年に発行。コンセントの有志が翻訳した日本語版もあるや、SDGC(Service Design Global Conference)で語られていることなどをより意識するようになって、「新しい事業やサービスを持続的に運用していくのはクライアントなので、クライアント組織の中にデザインケイパビリティや考え方を移植していかなければいけない。それができることに、僕たちサービスデザインエージェンシーの一番のバリューがある」と思うようになりました。

写真:カンファレンスに参加したメンバーの集合写真(写真左)と、報告会の様子(写真右)

世界最大のサービスデザインのカンファレンス「SDGC」。コンセントでは2011年より参加し、世界の最新動向をキャッチアップしている。帰国後は毎回、国内の実践者に向けて報告会を開催。

2014年や2015年のSDGCでも語られていたんですが、あまりピンときていなかったんですね。それが、マーケットにどういうバリューを提案できるかという自分たちの課題感をもって、過去の海外の事例とかをあらためて見ていくことで、「すごい! そうか、サービスデザインってこういうふうに関わるのが一番いいし、そうすべきなんだ」ということがわかってきました。

2017年末に日本語版も発行された書籍『デザイン組織のつくりかた』(ビー・エヌ・エヌ刊)や2018年の経済産業省・特許庁の「デザイン経営」宣言を受けて、僕らもですが企業側も組織や文化をより意識する風潮が出てきました。事業開発だけを支援するのではなく、それが組織や社会の中でどう見られるのかといった観点で組織デザインにコミットしていくという、サービスデザインの本領が発揮できる市場の土壌が、部署立ち上げから5〜6年経ってやっとできてきました。

対話シリーズ第1回(デザイン組織はどうつくる?【前編】)のまとめ

デザイン組織づくり、マネジメントのポイント

立ち上げ期

  • 強いリーダーシップと摩擦を恐れない組織運営
  • 組織のスケールアップ、継続のための施策

成長期

  • 「組織の価値の答えはマーケットにある」をベースとした組織活動
  • 実績づくりと認知度拡大のサイクルをうまく回す仕組みの構築と実行力

※本記事中の写真で紹介した書籍の一覧

  • This is Service Design Doing:サービスデザインの実践(2020年 ビー・エヌ・エヌ)

  • これからのマーケティングに役立つ、サービス・デザイン入門-商品開発・サービスに革新を巻き起こす、顧客目線のビジネス戦略(2015年 ビー・エヌ・エヌ)

  • デザイン組織のつくりかた:デザイン思考を駆動させるインハウスチームの構築&運用ガイド(2017年 ビー・エヌ・エヌ)

  • THIS IS SERVICE DESIGN THINKING. Basics - Tools - Casesー領域横断的アプローチによるビジネスモデルの設計(2013年 ビー・エヌ・エヌ)

  • Good Service:DX時代における“本当に使いやすい”サービス作りの原則15(2020年 ビー・エヌ・エヌ)

  • Design a Better Business:ビジネスイノベーション実践のためのツール、スキル、マインドセット(2020年 ビー・エヌ・エヌ)

  • デザイニング・フォー・サービス:“デザイン行為”を再定義する16の課題と未来への提言(2019年 サウザンブックス社)

  • サービスデザイン:ユーザーエクスペリエンスから事業戦略をデザインする(2014年 丸善出版)

対話シリーズ第2回では、本記事の後編として、成長期に続き、「成熟期」と「変革期」におけるマネジメントのポイントをご紹介しています。

[ 執筆者 ]

コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

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