DX成功のための3つの観点 DXにおけるデザインのアプローチ(2)

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    加川⼤志郎プロデューサー∕プロジェクトマネージャー

本記事では、DXプロジェクトを推進する上で、どのようにデザインの考え方やサービスデザインの⼿法を取り⼊れていくか。またそうすることで、企業・組織へどのような効果をもたらすことができるのか、期待できることをお話ししたいと思います。

メインビジュアル。株式会社コンセントのブランドカラーであるイエローと、グレーのグラデーションを背景に、「DX×Design_vol.2」の文字が記載されている。

2018年12⽉に経済産業省より『DX推進ガイドライン』が発⾏されてから、組織におけるデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)の重要性は広く認識されつつあります。事実、今ではあらゆる企業・組織が成功も失敗も含め、それぞれにDXに取り組んでいます。

コンセントではこれまで、さまざまな企業・組織のプロジェクトを⽀援してきました。その過程や成果から、DXをデザインのアプローチで捉えることに対して⼤きな可能性を感じています。

※経済産業省(2018)「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)Ver.1.0)
「デジタルガバナンス・コード」と統合され、2022年9⽉に「デジタルガバナンス・コード2.0」として公表されている(閲覧⽇:2022年9⽉14⽇)

DXは「サービスデザインの導⼊」である

DXは本来「ビジネスの変⾰」であるはずです。しかしながら、ITシステム導⼊やデータ収集・利活⽤といったテクノロジー⾯の取り組みに意識が向きすぎると、既存業務の単純な置き換えや既存のソリューションパッケージの導⼊にとどまる可能性が⾼くなります。それでは「ビジネスの変⾰」に⾄らず、⽚⼿落ちの状態といえるでしょう。

そこで提案したいのは、DXを「サービスデザインの導⼊」と捉えた上で、本質である「ビジネスの変⾰」という⽬的を⾒失わずに実践していくことです。

さらに認識の解像度を⾼めていきましょう。『DX推進ガイドライン』に登場するDXの定義の⼀部は、次のように⾔い換えることができると考えています。

顧客や社会のニーズに基づく製品、サービス、ビジネスモデルの変⾰
=フロントステージのデザイン

業務そのもの、組織、プロセスの変⾰
=バックステージのデザイン

これを具体的にサービスデザインの⼿法に当てはめるなら、フロントステージのデザインはカスタマージャーニーマップに代表されるものですし、バックステージのデザインは、サービスブループリントに代表されるものといえます。このような着眼点で捉えると、DXとサービスデザインはますます距離が近づき、密接な関係にあるということに納得できるのではないでしょうか?

この認識をもつことができたら、次のステップへ進みます。それは、製品やサービス、ビジネスモデルなどの単位で細分化されているDXプロジェクトを組織横断的に束ねていくことです。

これに取り組む理由は、DXを組織横断で推進することで、将来的に組織⽂化や⾵⼟の変⾰につながると考えているためです。さらにはその変⾰をもって、組織・企業が社会における優位性を確⽴することにつながるとも考えています。そしてこれこそが、単なるITシステム導⼊にとどまらない、本当の意味でのDXの成功だといえると思います。

では、DXを成功へ導くためにプロジェクトとして取り組むべきことは何でしょうか?観点を3つ挙げて解説します。

1. 課題解決を定常化する

昨今、ビジネス環境は常に激しく変化し続ける状況にあります。その状況に対応できる組織となるために「サービスデザインの導⼊」をする。そのためにはまず、ITシステム導⼊プロジェクトの在り⽅そのものを⾒直す必要があると思います。
従来は、ITシステム導⼊のために有期のプロジェクトを発⾜、プロジェクト終了とともに運⽤へと引き継がれ、導⼊に携わったプロジェクトチームは解散するというスタイルでした。しかしそれでは、システム運⽤の中で⽣じるさまざまな問題や新たな可能性への対応が困難です。

プロジェクトのマイルストンと体制変化についての、従来型の図。導入時にコスト・期間・人員を最大限投資して、2年かけてシステム導入を行っている。3年目以降は運用フェーズとして導入時のチームを解散し、最低限のインフラ・システム保守を行っていく。

従来のプロジェクト設計

そこで試みてほしいのが、運⽤フェーズで発⽣する課題に定常的に向き合って解消・改善のタスクを担うチーム体制を構築することです。定常運⽤と並⾛する形で、⼩規模プロジェクトとして創出するイメージです。この体制によって、ITシステム導⼊後も運⽤を進める過程での陳腐化を防ぎ、時流や実情に合わせて、DXを発展させ続けることができると考えています。

プロジェクトのマイルストンと体制変化について、DXを発展させ続けられる体制で著した図。1年の期間の中で、予算も時間もミニマムにシステムを導入。2年目以降はインフラ・システム保守を行いながら、運用チームからのフィードバックを元に、中・小規規模の改修・DX推進体制の維持を並走させていく。

理想的なプロジェクト設計

2. 体制を適正化する

DXプロジェクトにおいては、複数の専⾨性を組み合わせてチーム編成をすることになると思います。1社のベンダーに全ての領域や業務を任せるのは、1ベンダーが網羅する範囲としても費⽤対効果の観点でも⾮常に困難です。必然的にマルチベンダーでの体制づくりが必要でしょう。

その体制の中で、各ベンダーやメンバーが専⾨性を遺憾なく発揮できるように、それぞれの役割を明確化し、ベンダー各社を束ねるコミュニケーションをデザインしていくことが有効になります。

ベンダー(従来型)の体制例。組織内の事業部門からIT部門へ、その後協力会社A社のPMを通じてシステム開発とサーバ・インフラ、またPMと並行する形で保守運用といった体制になっている。

従来の体制

マルチベンダー(理想)の体制例。組織内のIT部門と事業部門から、推進支援を通じて、システム開発を担当するA社の構築・改修とサーバ・インフラを担当するB社がDX推進チームとして編成。A社B社共に構築・改修を通じて保守・運用へ進行する。

理想の体制

具体的には、チーム内での上下関係や情報格差を設けずフラットな関係を構築することで、外部メンバーのコミットメントを上げることが可能です。しかし⼀⽅で、責任や情報が多すぎることがメンバー個々⼈の業務に注⼒することを阻害するケースもあります。

このバランスを⾒極め、各ベンダーのインセンティブに配慮し、シナジーが発揮できるように⽴て付け、利益や実績を⽣む環境にアレンジしていきます。これがまさに、チームのデザインといえます。これによってチームの持続性が増し、各ベンダー・各メンバーが主体的にプロジェクトへコミットしていくことを促すことができます。

3. 資産を共通化する

製品やサービス単位のプロジェクトでDXを推進し、データ収集・蓄積が進むと必然的に同種のデジタル資産を部⾨や関連会社が個別で導⼊・運⽤する状態が⽣まれると思います。

デジタル資産を部門ごとに導入・運用している状態を表した図。縦軸に事業部門A~D、横軸に「業務」「データ」「ツール」「インフラ」が並んでおり、それぞれの部門が個別に管理している状態。

資産を個別管理している状態

これは単純な多重投資となるだけでなく、組織を横断したデータ利活⽤を阻害しかねないリスクになります。しかし⼀⽅で、最初から組織全体を網羅するITシステムやデータ基盤の導⼊を計画すると、プロジェクト⾃体の進⾏速度が落ち、社会変容のスピード感に追いつくことが難しくなります。

そこで最後に、重要な観点を挙げたいと思います。それは、資産をITシステムやデータ基盤そのものだけと捉えるのではなく、ルールやガイドライン・管理体制を整備することで⼈的資産を組織の共通リソースにすることです。

資産を、部門を横断した共通リソースにした状態を表す図。部門を跨ぐことで、「業務」は共通の業務を類型化、「データ」は共通フォーマットの整備、「ツール」は許攸業務の推奨ツール提供、「インフラ」は標準的な共通インフラが可能になることがわかる。

資産を共通リソースにした状態

⽅法としては、組織・事業単位で並⾛するITシステム導⼊・運⽤を網羅的に把握することから始め、共有化できるIT資産は他の組織・事業への展開を促していきます。その上で、組織全体でのルールや⼿続きを整備していくという流れです。

この資産の共通化に取り組むことで、個別の組織・事業のDX推進がはかどり、さらには組織全体でのコスト削減やリスク低減、品質の維持・向上を両⽴することにつながります。

組織⽂化の変⾰に向けて

ここまで述べた、「課題解決の定常化」「体制の適正化」「資産の共通化」の3つの観点でDXを推進することが、結果として組織⽂化や⾵⼟変⾰をもたらすと考えています。

これらの観点をもって具体的にプロジェクトとして推進していくためには、個別のDXを束ねるチーム体制が必要です。そしてそのチームの最⼤のミッションは、組織としてのデザインとデジタルに関するリテラシーを向上させることです。

実情として、取り扱う製品・サービスや顧客属性によって、部⾨ごとのサービスデザインやITシステムの活⽤に関するリテラシーにはギャップがあるケースがほとんどだと思います。そこで、先進的に取り組む部⾨のナレッジを他部⾨に共有するとともに、理解を促すための教育・啓蒙活動を実施していきます。

この活動が将来的に、組織全体を横断したデータとデジタル技術の活⽤につながり、DXを通じた経営の新しい在り⽅を組織に定着させる結果となるでしょう。

[ 執筆者 ]

コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

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