デジタルクリエイティブ業界は今、ウェブアクセシビリティとどう向き合っているか
- コミュニケーションデザイン
- インクルーシブデザイン
2025年現在、インターネットユーザーの多様性に対する理解が広がり、ウェブアクセシビリティへの関心が高まるとともに、その対応に積極的に取り組む動きも活発化しています。この動きは、大企業や公的機関だけでなく、中小企業やさまざまな業界にも広がっています。
こうした状況の中で、コンセントはクリエイターや制作会社を含むさまざまな企業や組織に対して、ウェブアクセシビリティの理解と普及を推進する活動を行っています。
この記事では、コンセントが加盟する
(以下、I.C.E.)のビジネス委員会で行ったウェブアクセシビリティに関する取り組みを紹介します。
1. I.C.E.とは?
I.C.E.は、デジタル領域における先進的なコミュニケーション設計を担うプロダクションやエージェンシーによる業界団体です。「デジタルクリエイティブ業界の今を見すえ、魅力的な未来をつくる」というビジョンのもと、人材育成、ナレッジ共有、業界ルールの整備などに取り組んでいます。
コンセントが加盟するI.C.E.のビジネス委員会は、デジタルクリエイティブ業界のベースアップを図ることを目的に活動しています。
ビジネス委員会での活動では「契約」や「プロジェクト管理」など、毎年テーマを掲げて取り組みを行っています。2024年度はウェブアクセシビリティがテーマに選ばれ、関連する実績や経験が豊富なコンセントが中心となり活動を推進していきました。
2. I.C.E.でのコンセントの取り組み
ウェブアクセシビリティの勉強会の実施
まずは、ビジネス委員会のメンバーである約15社の代表や営業主幹の方々へ向けて、ウェブアクセシビリティの勉強会と情報共有を実施しました。



勉強会で使用した資料
ウェブアクセシビリティの重要性と具体的な取り組み方法について詳しく解説し、実務に直結するアドバイスを共有しました。各社からは、「意外と知らなかった」「勘違いしていた実務の内容を知ることができ、学びを実感できた」との声が寄せられ、基礎知識のアップデートに貢献できました。
I.C.E.公式サイトを題材にしたウェブアクセシビリティ改善
この勉強会をきっかけにビジネス委員会の枠を超えて、I.C.E.全体での学びと理解をさらに深めるため、I.C.E.の公式サイトを題材に、実際にウェブアクセシビリティ改善に取り組むことにしました。

取り組みのプロセス
現状のウェブサイトが、ウェブアクセシビリティの国際的なガイドラインである「WCAG 2.1」において、標準的な達成基準とされている適合レベル「AA」にどの程度準拠しているか、どの程度の改修が必要かの把握からスタート。ウェブサイト全体のうち、トップページをはじめとする代表的なコンテンツページと一部の記事ページを含む20ページ程度を対象に、コンセントのエンジニアが調査・評価を実施しました。
調査結果をもとに、I.C.E.加盟社全体に告知し、ウェブアクセシビリティの概要説明と評価結果のオンライン報告会を開催しました。約20社の100名以上に対して、ウェブアクセシビリティに関する調査・評価の実施方法、具体的なエラーや改善についてのポイントなどの説明を行い、I.C.E.全体での理解を深める機会を設けました。

ウェブアクセシビリティの概要説明資料

評価結果
その後、評価結果をもとにI.C.E.に加盟する制作会社がウェブサイト改修を行い、完了後に試験結果とウェブアクセシビリティ方針をウェブサイトに掲載しました。

有志によるウェブアクセシビリティチェックワークショップ開催
他にも、I.C.E.の加盟各社から有志を募り、コンセントが実施した調査・評価方法を応用して実際にウェブサイトのアクセシビリティチェックをするワークショップを開催しました。約15名が参加し、どのような観点やプロセスでチェックするのかを体験してもらいました。
チェック結果はコンセントがレビューし、フィードバックを返すことで、参加者の理解を深める助けとなりました。

チェック結果とフィードバック
今回の取り組みを通して得た成果
この1年間の活動を通じて、「アクセシビリティはデザインやクリエイティブの制約ではなく、設計段階から考慮すべき基本要素であり、品質の基盤である」という認識が、I.C.E.ビジネス委員会の中で共通理解として定着しました。
当初は「色使いや表現に制限がかかる」といった懸念も一部にありましたが、継続的な議論により、その考え方が転換されたことは、大きな成果の一つです。なお、今回の取り組みの詳細や、各プロセスで作成・利用した資料や中間成果物の一部はI.C.E.公式サイト上で公開しています。
3. 業界におけるウェブアクセシビリティの展望
近年、ウェブアクセシビリティへの対応は社会的な要請として急速に高まっています。
そもそもウェブは、「あらゆる環境にある人が情報へアクセスできる」ことを前提に設計されたメディアです。その原点に立ち返れば、アクセシビリティはウェブサイトにおける標準品質であり、社会の変化や技術の進化に応じて継続的に取り組むべき領域であることがわかります。
今後は、エージェント技術の進化やAIの一般化といった新たな潮流への対応に加え、UX向上やSEOなどマーケティングの観点からも、アクセシビリティはますます重要な要素となります。こうした複合的な価値が再評価される中で、アクセシビリティ未対応のコンテンツは競争力を失うリスクもはらんでいます。だからこそ、アクセシビリティは「ルールに縛られるもの」ではなく、情報設計やUI/UX設計の品質を底上げするための不可欠な要件として捉えるべきです。
私たちは、こうした視点に立脚した企業の取り組みが広く浸透し、すべてのユーザーに価値ある体験が届けられることを目指して、今後も活動を続けていきます。
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